日本臨床外科医学会雑誌
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52 巻, 4 号
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  • 田辺 博, 今井 直基, 渡辺 進
    1991 年 52 巻 4 号 p. 707-712
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    消化器癌患者102名(胃癌70名,大腸癌32名)対象とし,そのnatural killer (NK)細胞について検討した.
    対象症例のNK細胞活性(NK)活性を測定し,さらにモノクローナル抗体(Leu7, Leu11)を用いてtwo color flow cytometryによりそのサブセットを分析し以下の結論を得た.
    NK活性は癌の進行により低下を示した.
    Leu7-×Leu11+細胞は癌の進行により低下を示したが, Leu7+×Leu11-細胞, Leu7+× Leu11-細胞は癌の進行した状態でも一定の傾向を示さなかった.
    NK活性とLeu7-×Leu11+細胞は正の相関関係を示した.
    以上よりNK活性は消化器癌患者の状態をよく反映し,またLeu7-×Leu11+はNK細胞を標識する有用なモノクローナル抗体であると考えられた.
  • 野口 昌邦, 小矢崎 直博, 太田 長義, 谷屋 隆雄, 宮崎 逸夫, 水上 勇治
    1991 年 52 巻 4 号 p. 713-717
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1973年より1985年までに初回手術を行った乳癌症例223例を対象として,腋窩リンパ節の触診所見,腋窩リンパ節転移の有無,転移個数,転移部位,更に胸骨傍リンパ節転移の有無のいずれが予後と密接に関係しているかを単変量および多変量解析を用いて検討した.その結果,腋窩リンパ節転移の有無,特に下位の腋窩リンパ節転移の有無が予後と密接に関係していた.しかし,腋窩リンパ節の転移個数と転移部位のいずれが重要かは判明しなかった.一方,胸骨傍リンパ節転移の有無も密接に予後と関係していた.従って,下位の腋窩リンパ節郭清と胸骨傍リンパ節の生検が乳癌のリンパ節転移の有無,すなわち予後を知るのに有用であると考えられた.
  • 片山 幸治, 梶谷 隆, 西原 雅浩, 岡本 有三, 漆原 貴, 板本 敏行, 田村 裕幸, 河石 浩, 梶原 博毅
    1991 年 52 巻 4 号 p. 718-724
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    吐・下血を主訴として入院した出血性胃十二指腸潰瘍症例287例について臨床病理学的に検討した.手術施行例は155例(54.0%)を占め,出血率はUL-II 78.0%, UL-III 44.0%, UL-IV 47.0%,緊急手術施行率はUL-II 76.5%, UL-III 42.9%, UL-IV 46.6%といずれもUL-II症例において高率であった.血管断端陽性例の露出血管径の検討においては,内膜外径比がUL-II 0.074 UL-IV 0.125とUL-IIに有意に内膜肥厚が少なく,血管が破綻した場合血栓形成が起こりにくく,より止血しにくいと考えられた.
  • 甲斐 敏弘, 宮崎 俊明, 豊田 清一, 前田 守孝
    1991 年 52 巻 4 号 p. 725-731
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胃癌による胃切除経験者数の増加に伴い,「残胃の癌」症例も増加していくものと推定され,過去5年間に当科で経験した11症例について発生部位,周位胃粘膜の腸上皮化生の程度,予後等について検討した.
    (1)同時期の胃癌手術症例数の2.7%の頻度であった. (2)初回手術から10年以上経過例は5例であった. (3)初回BII法再建例では空腸脚腸間膜リンパ節を含めた切除が必要である. (4)癌巣周囲粘膜の腸上皮化生について,組織型別では管状腺癌で腸上皮化生の強い例が多かった.占拠部位別では,非断端部例で腸上皮化生が著明であった. (5)初回胃癌で切除された症例では,初回の組織型よりもより低分化の癌が発生する傾向があった. (6)予後に関して治癒切除症例8例の4年生存率は80%で,治癒切除が可能であれば長期生存も期待される.「残胃の癌」についても早期の発見と治癒切除手術が重要であると思われた.
  • 山崎 洋次, 吉田 二教, 水野 良児, 安川 繁博, 祐野 彰治, 桜井 健司
    1991 年 52 巻 4 号 p. 732-736
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    当科において1968年から1988年の間に54例の先天性腸閉鎖・狭窄症を治療した.閉塞部位は十二指腸22例,空腸16例,回腸14例,結腸1例,十二指腸+結腸1例であった. 1968~74年を前期, 1975~81年を中期, 1982~88年を後期とすると,前期17例,中期17例,後期20例であった. Waterstonのrisk分類を改変して新生児例を分類すると,前期では17%,中期では6%,後期では76%がhigh risk群に属していた.後期におけるhigh risk群の頻度は有意に高かった(p<0.01).また死亡率は前期29%,中期35%,後期5%であり, high riskの新生児例が増加したにもかかわらず後期において死亡率が有意に減少した(p<0.05).このような治療成績の改善は周手術期の新生児管理の向上と中心静脈高カロリー輸液法の導入によるものと考えられる.現在では合併奇形の存在や未熟児であることが直接の死因とはならない.
  • 柴田 信博, 野口 貞夫
    1991 年 52 巻 4 号 p. 737-740
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    切除方針を設定して行われた高齢者(80歳以上)進行大腸癌症例の治療成績を検討した.対象は10年間(1979年~1988年)に経験した34例である.まず,生活度指数分類に基づいて切除可否の選択を行い,待期手術では生指分類IV度,緊急手術では生指分類III度とIV度を切除手術適応外とした. 8.8%が適応外となり,いずれも1年以内に他病死した. 31例のうち29例に切除(切除率93.5%), 25例(80.6%)が治癒切除であった.高齢を意識しての操作は,リンパ節郭清の縮少化,低位前方切除での吻合の回避,硬膜外麻酔法の頻用,であった. 32.4%に手術合併症の発生をみ,直接死亡率は5.9%であった.治癒切除例の累積生存率は, 3生61.7%, 5生54.8%であった.長期の経過観察中,癌の再発と脳血管障害の発生が生指分類を下げる重要な因子であった.
  • 山村 卓也, 瀬尾 圭亮, 足立 幸博, 千田 俊哉, 赤石 治, 吉田 紘一, 片山 憲恃, 山口 晋, 片場 嘉明, 渡辺 弘
    1991 年 52 巻 4 号 p. 741-747
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    治癒切除後肝転移再発をおこした27例の大腸癌症例について治療成績やその臨床病理学的特徴を検討した.肝転移再発をおこした症例は進行度が高く,高度リンパ節転移例,組織学的に静脈侵襲陽性が多かった.血清CEAは再発発見時91%が陽性であったが,陽性化した時点で肝転移再発が発見された症例は60%であった.再発が発見された時期は術後半年以上1年末満が44%で最も多く, 2年未満が70%を占めていた.肝転移再発例全体の5年生存率は18%, 50%生存期間は17カ月であった.転移の程度別予後はH1が最も良く, 5年生存率が35%, 50%生存期間が21カ月であった.治療法別では肝切除の予後が良好で60%の5年生存率であった.再発時期別では1年未満の再発が50%生存期間8.5カ月で最も不良であった.肝転移再発の危険因子は静脈侵襲陽性であることを念頭におき,再発を早期に発見し,積極的に肝切除を行うことが治療成績の向上につながる.
  • 高木 啓介, 村林 紘二, 冨川 一郎, 林 仁庸, 冨田 隆, 長沼 達史, 高橋 宏明, 桜井 洋至, 矢花 正, 中野 洋
    1991 年 52 巻 4 号 p. 748-754
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1982年3月から1989年9月までに当科で経験した大腸癌手術症例276例のうち肝転移症例37例について特に肝切除を施行した14例を中心に治療成績や臨床病理学的な検討を行った. 1) 異時性肝転移切除例では全例生存中であり予後良好であった. 2) 同時性肝転移切除例では異時性例に比べその予後は不良であった. 3) 初回肝転移巣が1葉に限局する症例には残肝機能の許す限り肝葉切除あるいは腫瘍から肝切離面までの距離を十分とる切除術式を選択すべきである. 4) 大腸癌肝転移の早期発見のためにはCEA, US, CTなどによる定期的なフォローアップが重要である. 5) 原発巣病理所見では中分化型腺癌,リンパ節転移陽性例,脈管侵襲陽性例で肝転移が有意に高率であった.
  • 桐山 正人, 泉 良平, 伊与部 尊和, 桝谷 博孝, 浦出 雅昭, 谷 卓, 堀地 肇, 北林 一男, 橋本 哲夫, 清水 康一, 八木 ...
    1991 年 52 巻 4 号 p. 755-759
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    肝癌取扱い規約1)によるStage IV肝細胞癌症例39例を対象として,腫瘍切除例(17例,非治癒切除)と非切除例(22例)とに大別し,治療法と予後との関係について比較検討した.切除例では遺残腫瘍に対して術中にエタノール注入(ethanol injection, EI)を,術後に動脈塞栓療法(transcatheter arterial embolization, TAE),動注化学療法(hepatic arterial infusion, HAI)を施行し,非切除例ではTAE, HAI,局所温熱療法(hyperthermia, HT), EI,放射線照射等の集学的治療がなされた.
    結果: 1) Vp0およびVp1症例では切除例が非切除例に比べて予後は良好であった(p<0.05). 2) Vp2およびVp3症例では切除例,非切除例との間に予後に差は認めなかった. 3) 切除例では,区域切除例よりも主病巣切除のみの部分切除例の方が予後は良好であった.
    以上より, Stage IV肝細胞癌症例であっても, Vp0, Vp1症例では過大侵襲を避けた主腫瘍切除後に, EI, TAE, HAIを併施することによって予後の改善が得られるものと考えられた.
  • 菅野 範英, 中嶋 昭, 長浜 雄志, 石躍 謙, 大多和 哲
    1991 年 52 巻 4 号 p. 760-764
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    ヘルニオグラフィーは,腹腔造影によってヘルニア嚢を描出する安全かつ簡便な検査法であり,従来理学所見のみで診断されていた鼠径部ヘルニアを客観的に診断することができる.われわれは,なんらかの鼠径部愁訴がある患者57症例に対して本法を施行し,以下の結果を得た.
    理学的にヘルニアと診断された症例においては,全例で病型診断が可能であった.理学所見のはっきりしない鼠径部愁訴がある症例の54%にヘルニアを認めた.臨床的には一側性のヘルニアであっても高頻度に対側ヘルニアを認め,全体として85%の症例が両側性であった.一側において,複数のヘルニアの重複発生が27%に認められた.
    ヘルニオグラフィーは, (1)鼠径部ヘルニアの病型診断, (2)対側や同側に合併しているヘルニアの存在診断, (3)不顕性のヘルニアの診断などが可能であり,成人鼠径ヘルニアの臨床において非常に有用である.
  • 特に悪性高熱症亜型との関連において
    岩瀬 弘敬, 柄松 章司, 呉山 泰進, 伊藤 由加志, 葛島 達也, 岩田 広治, 小林 俊三, 桑原 義之, 片岡 誠
    1991 年 52 巻 4 号 p. 765-769
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    われわれは全身麻酔下の虫垂切除術後に,軽度発熱,筋強直,ミオグロビン尿が認められた3例の悪性高熱症亜型を経験し,これらの症例には筋逸脱酵素,特に血清creatine phosphokinase (CPK)の異常高値が認められたことを確認した.そこで,虫垂炎術後のCPK値に影響を与える因子を解析し,本症の発生条件について検討を加えた.
    117例の虫垂切除術例において,術後の血清CPKを高値にする因子を多変量解析を用いて検討した.その因子を相関性が高い順に並べると, succinylcholine chloride (SCC)の投与量,年齢,性,術後の発熱順で, 1mg/kg以上のSCC大量投与群と15歳から40歳の若年者群に術後CPK高値例が多かった.麻酔時間, Halothaneの量,術前のCPK値との相関性は低かった.虫垂切除術に際し, SCCを用いる全身麻酔は本症発生の要因となり得るため,可能な限り腰椎麻酔で行うことが望ましい.
  • 内藤 弘之, 中根 佳宏, 沖野 功次, 迫 裕孝, 阿部 元, 川口 晃, 小玉 正智
    1991 年 52 巻 4 号 p. 770-775
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    亜急性甲状腺炎の診断は,典型的な症状を呈する症例では容易であるが,甲状腺部の圧痛や急性炎症症状を欠く症例では,他の甲状腺疾患との鑑別に難渋する場合も少なくない.最近,われわれは初診時,甲状腺部の圧痛や急性炎症症状を欠くため,甲状腺癌と診断した2例の亜急性甲状腺炎を経験したので報告する.これらの症例は,いずれも甲状腺に腫瘤を形成し,初診時の触診および超音波断層像からは,甲状腺癌と鑑別できなかったが,経過観察中に腫瘤の変化を認め,診断を確立しえたもので,その診断には,腫瘤の触診所見および超音波断層像における経時的変化の追跡が有用であった.
  • 浦住 幸治郎, 君島 伊造, 二瓶 光博, 畠山 優一, 高田 信, 土屋 敦雄, 阿部 力哉
    1991 年 52 巻 4 号 p. 776-780
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    乳癌患者に対して,コンタクトサーモングラフィを施行し,認められたサーモグラフィを3型(hot spot: H, irregular vascular pattern: IV, asymmetrical thermal pattern: AT)に分類し,それら所見が,臨床病期分類等にどのように反映するか検討し,以下の結果を得た. 1)比較的早期の乳癌においても,サーモングラフィ上, AT, IV所見陽性が認められた. 2) H所見は,腫瘍径が大きくなるにつれて,その陽性率が高くなりさらに,硬癌において高い陽性率を示した. 3)核DNA量との関係では, Aneuploid症例においてH所見陽性率が高かった. 4)サーモグラフィの変化は,皮膚血流の変化と正の相関が認められた.
    以上より,コンタクトサーモグラフィは,従来の検査法とは,やや性格を異にし,診断的検査としてではなくむしろ,乳癌細胞の持つ悪性度の判定に有用性が認められ,さらには乳癌発生リスクの予知の可能性が示唆された.
  • 辻 尚人, 林 克英, 田中 恒雄, 後藤 正宣, 大林 千穂
    1991 年 52 巻 4 号 p. 781-784
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    稀と考えられる異所性乳癌の1例を経験し報告した.
    症例は60歳の女性で左腋窩腫瘤を主訴に来院した.リンパ節および,左乳房に腫瘤は触知しなかった.左腋窩に境界明瞭で表面の軽度の凹凸があり皮膚への完全固定を認める約2×3cmの腫瘤を触知した.乳頭乳輪を思わせる皮膚の着色を認めなかった.生検により2.1×2.0×2.3cmの腫瘤を得たが,左乳房との間には連続性は認めなかった.腫瘤内に癌細胞を認めたため,創部周囲皮膚の広範囲切除及び左腋窩リンパ節郭清を行った.病理組織所見では異所性乳房と考えられる乳腺組織と乳管乳頭腫症を伴った粘液癌であり,リンパ節転移は認めなかった.術後5年であるが,再発はなく健在中である.
    自験例を含む本邦報告例42例を集計し検討を加えた.
  • 酒井 章次, 前田 耕太郎, 洪 淳一, 山本 修美, 橋本 光正, 細田 洋一郎, 椎名 栄一
    1991 年 52 巻 4 号 p. 785-788
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は43歳男性,職業は空調設備業,主訴は胸痛および呼吸困難であった.近医にて胸部X線写真撮影を行い,左自然気胸にて入院した. 10日間にわたる胸腔ドレナージによってもair leakの改善がなく難治性であるため当院に転院し,開胸手術を施行した.術中の所見では左S6周囲の胸膜は肥厚し,この部位からair leakが認められた.胸膜下は空洞が存在し,空洞内には茶褐色の脆い球形物質があり,術中鏡検にて真菌塊と判明した.手術は左下葉S6区域切除を施行した.術後経過は良好であり, 3年経過した現在も肺真菌症,自然気胸の再発は認められていない.
  • 免疫組織化学的方法による組織学的検索を中心として
    長見 晴彦, 田村 勝洋, 野原 隆彦, 山本 剛史, 中川 正久, 中瀬 明
    1991 年 52 巻 4 号 p. 789-793
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    今回,私達はalpha-fetoprotein (AFP)産生胃癌の4症例を経験した. 4症例とも術前高値を示した血中AFP値は,腫瘍摘除後に激減し,また免疫組織学化学的方法(PAP法)にて切除標本の胃癌細胞内にAFPの局在を証明し得た事からAFP産生胃癌と確診し得た.一般にAFP産生胃癌は進行癌が多く,組織学的には未分化癌,低分化型腺癌が多いとされているが,私達の4症例とも進行癌であり,病理組織像はそれぞれ乳頭状腺癌,髄様腺癌,低分化型腺癌,高分化型腺癌であった.またAFP産生胃癌はその経過中に肝転移を来たし,予後は極めて悪いとされているが,自験例では2例は手術時肝転移を認め, 1例は術後早期に肝転移を来たし,術後1年生存率は25%, 2年生存率は0%と予後不良であった.以上よりAFP産生胃癌症例では治癒切除後も肝転移防止のため何らかの工夫をすべきである.
  • 丁 維光, 藤村 昌樹, 平野 正満, 山本 明, 森 渥視
    1991 年 52 巻 4 号 p. 794-799
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    Alpha-fetoprotein (AFP)産生胃癌の臨床的,組織的特徴について検討した.われわれの経験した過去8年間の胃癌手術症例104例中4例(3.8%)がAFP産生胃癌であった.免疫組織学的検討によりAFP以外に腫瘍細胞内にcarcinoembryonic antigen, ferritinあるいはcarbohydrate antigen 19-9の共存がみられ, AFP産生胃癌の腫瘍細胞の多分化能を示唆した.臨床的には,腫瘍の肉眼的分類でBorrmann 2, 3型が多い.また,手術時にはすでに広範な進行を認め,肝転移を来している場合が多いため,予後不良であった. AFP産生胃癌患者では血中AFP値が臨床経過と良く相関することから,再発や肝転移などの予後の追跡に有用と考えられた.
  • 坂本 一博, 塩見 精朗, 佐藤 雅彦, 小林 滋, 前川 武男, 榊原 宣
    1991 年 52 巻 4 号 p. 800-804
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    慢性膵炎による十二指腸狭窄の本邦報告例は20例にすぎない.今回,慢性膵炎により十二指腸狭窄をきたした1例を報告するとともに,本邦報告例を集計し若干の考察を加えた.
    症例は, 45歳の男性で, 1日3~4合(約20年間)の飲酒歴がある.主訴は,嘔気・嘔吐,右季肋部痛であった.上部消化管造影検査で十二指腸下行脚に全周性の狭窄を認めた.上部消化管内視鏡検査で,十二指腸下行脚に約2/3周性の隆起性病変を認め,粘膜は浮腫状で発赤を示したが,十二指腸粘膜生検では悪性所見はなかった. ERCP,腹部CT,血管造影検査所見から,慢性膵炎による十二指腸狭窄と診断した.膵管空腸側々吻合・胃空腸吻合術を施行した.術後約2年経過しているが,経過良好で,特に悪性の所見は認められていない.
  • 富田 浩, 河原 寛人, 北條 郁生, 安田 滋, 中村 孝哉, 三島 好雄
    1991 年 52 巻 4 号 p. 805-808
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    小腸に発生する平滑筋腫は比較的稀な疾患であり,開腹して初めて診断される場合も多く見られる.今回私たちは急性腹膜炎の診断のもとに開腹したところ,回腸平滑筋腫の穿孔であった1例を経験した.
    症例は57歳男性,突然の下腹部痛にて来院.腹部症状と超音波検査により急性腹膜炎の診断で開腹術を施行.回盲弁より約2mの回腸に穿孔を来した小腸腫瘍を認め切除した.組織病理学的には回腸平滑筋腫と診断された.腫瘍には中心壊死による空洞が形成され,小腸管腔面の小潰瘍から瘻孔を通じて穿孔を生じていた.
    小腸平滑筋腫の主症状は出血・腹痛・腫瘤触知が挙げられるが,自験例は消化管出血を生じることなく穿孔に至った1例であった.
  • 石川 正志, 宮内 隆行, 小笠原 悦男
    1991 年 52 巻 4 号 p. 809-813
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    非常に稀な腸間膜原発平滑筋肉腫(以下本症)を経験したので,本邦報告例の検討を加えて報告した.症例は72歳の男性,上腹部痛を主訴として来院した.左上腹部に手拳大の腫瘤を認め, Computed Tomography (以下CT)では境界明瞭で内部が不均一の腫瘤陰影を,上腸間膜動脈造影では空腸動脈の末梢に不整な腫瘍濃染像を認めた.開腹すると腫瘍は空腸腸間膜より発生しており,小腸を損傷することなく摘出し得た.また多数の腹膜播種も認めたので可及的に摘出した.術後の病理組織学的所見より平滑筋肉腫と診断された.術後制癌剤の投与を行うも78日目に死亡した.
    腸間膜平滑筋肉腫は稀な疾患であり,本邦では自験例を含め23例が報告されているに過ぎない.また本症は早期発見が困難で,手術時すでに巨大化していることが多く予後も不良である.術後の化学療法,放射線療法は有効でなく,積極的な腫瘍の切除が唯一有効な治療法と思われる.
  • 伊藤 由加志, 飯塚 昌雄, 古田 吉行, 前田 重明
    1991 年 52 巻 4 号 p. 814-818
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    虫垂粘液嚢腫(mucocele of the appendix)は虫垂内腔に粘液が貯留し嚢胞状に拡張した状態と定義される.この発生には盲腸腔との交通性の欠如が1条件とされているが,今回その交通性が術前に存在した症例を経験したので報告する.
    症例は79歳女性.下腹部痛,右下腹部腫瘤を主訴に入院となった.腹部単純X線写真で右腸骨窩に石灰化を伴う手拳大の腫瘤陰影を認め,腹部超音波, CT,注腸などの諸検査にて虫垂の粘液嚢腫を疑い手術を施行した.腫瘤は虫垂が嚢胞状に腫大したものであり,これが腸管内腔との交通性を有していた.病理組織学検査において急性および慢性炎症を伴う虫垂粘液嚢胞腺腫と診断した.
    盲腸腔との交通性のある虫垂粘液嚢腫は極めてまれである.この成因については,虫垂内腔の閉塞から嚢胞の形成の後,感染を繰り返し閉塞物の崩壊を引き起こすことにより生じるものであると考えられる.
  • 槇島 敏治, Takao ASANO, 河野 正賢
    1991 年 52 巻 4 号 p. 819-822
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    結腸の脂肪腫は良性腫瘍のなかでは腺腫様ポリープに次いで二番目に多いとされるが比較的稀な疾患である.粘膜下腫瘍の形をとることが多く,小さいものは無症状だが,大きさが2cmを越すと疼痛や出血,腸重積などの症状がでてくると言われている.
    今回,急性虫垂炎と鑑別が困難であった盲腸脂肪腫の症例を経験した.患者は85歳の女性で右下腹部痛で発症した.術中所見では虫垂には炎症所見がみられず盲腸内に腫瘤を触知したため,盲腸切開により脂肪腫の診断がつき有茎性の腫瘤を切除することができた.
    急性虫垂炎と誤診された例は3例報告されているが,術中所見によっても癌などの悪性疾患との鑑別が困難なことから,過大な手術が行なわれる事が多い.しかし大腸の脂肪腫は小腸とは異なり悪性のものはほとんどなく,術中所見を的確に判断すれば,過大な手段侵襲を防ぐ事も可能と考えられる.
  • 塩田 摂成, 西江 浩, 米川 正夫, 太田 道雄, 木村 修, 貝原 信明
    1991 年 52 巻 4 号 p. 823-827
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    直腸孤立性潰瘍症候群は,直腸に非特異性潰瘍を生ずる良性疾患の一つであるが,それほど広く知られていないことから,潰瘍型は癌と,隆起型は腺腫と誤診されやすく,本症の存在を知ることは過大手術を避けるためにも重要なことと考えられる.本疾患は過度の排便時のいきみとそれに引き続く直腸の粘膜脱による虚血性変化と関連があるとされている.われわれは若年者に発生した直腸孤立性潰瘍症候群の3例を経験したので報告する.隆起型を呈した2例は, 16歳男性, 16歳男性,混合型の1例は35歳女性で,元来,排便時間が長く強度のいきみを伴う傾向にあり,肛門出血,肛門部痛を愁訴として来院した.隆起型の症例は下部直腸に小指頭大の腫瘤を認め,経肛門的局所切除を施行した.混合型の症例は副腎皮質ホルモン配合痔疾患用坐薬の使用にて軽快した.切除標本ならびに生検標本の検索にて,これら3症例には本症に特徴的なfibromuscular obliterationが認められた.
  • 国頭 悟, 樽谷 英二, 前田 清, 林部 章, 鬼頭 秀樹, 阪本 一次, 中上 健, 柳 善佑, 竹林 淳, 田中 勲
    1991 年 52 巻 4 号 p. 828-832
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    比較的稀なS状結腸平滑筋腫の1例を経験したので報告する.
    症例は46歳女性で下血を主訴とし,注腸造影・大腸内視鏡検査で, S状結腸の亜有茎性の粘膜下腫瘍の診断で, S状結腸切除を施行した.腫瘍は4.0×3.6×2.8cmで,正常上皮に覆われ,粘膜筋板由来と思われた平滑筋腫であった.
    本邦での結腸平滑筋腫の報告54例を集計し,文献的考察を加えるとともに,その治療について考えを述べた.
  • 西森 武雄, 奥野 匡宥, 池原 照幸, 長山 正義, 東郷 杏一, 川口 貢, 曽我部 豊志, 鄭 容錫, 梅山 馨
    1991 年 52 巻 4 号 p. 833-836
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    大腸癌の卵巣転移について臨床病理学的に検討した. 1972年から1989年までの18年間に385例の女性大腸癌手術症例を経験したが,このうち6例(1.6%)に卵巣転移を認めた.原発巣は盲腸2例,上行結腸1例, S状結腸2例,直腸1例であり,癌腫の占居部位と卵巣転移との間には関連はみられなかった.平均年齢は50.2歳であり,非転移例より若年傾向を示した. 6例の癌腫は漿膜表面に達し,リンパ節転移,リンパ管侵襲は全例に,静脈侵襲は4例に,腹膜への播種性転移は3例に認められた.免疫組織学的には癌腫のERは全例とも陰性であった.
  • 三浦 義夫, 加藤 良隆, 清光 六郎, 小川 喜輝, 岡本 太郎, 小出 圭, 則行 敏生, 藤川 光一, 山根 浩介, 岩本 俊之
    1991 年 52 巻 4 号 p. 837-843
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    全消化管を通じて結腸は平滑筋肉腫が最も少ない部位であり,本邦では自験例の横行結腸平滑筋肉腫の1例を含め現在までに58例が報告されている.
    患者は53歳の男性で上腹部痛を主訴とし,右上腹部に腫瘤を触知された.腫瘍のCT所見は中心壊死を反映した低吸収域を示し平滑筋肉腫に特徴的な所見であったが,大腸癌と術前診断し,右半結腸切除術,リンパ節郭清(R3)を施行した.
    腫瘍は170×105×70mm,管内型の平滑筋肉腫で肝彎曲部に近い横行結腸に存在し,リンパ節転移および肝転移を認めなかった.術後化学療法を行うことなく, 4年2カ月現在,再発,転移の徴候を認めていない.
  • 山本 聡, 飛永 晃二, 武富 勝郎, 君野 孝二, 佐藤 行夫, 吉田 彰, 羽田野 和彦, 芦塚 修一, 二川 栄
    1991 年 52 巻 4 号 p. 844-848
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腹部手術後原因不明の上部消化管出血はしばしば起こる重篤な合併症である.今回われわれは膵頭十二指腸切除後空腸に穿破した仮性肝動脈瘤の症例を経験しTAEにて止血し得たので,若干の文献的考察を加え報告する.症例は67歳男性,中部胆管癌の診断で入院した.膵十二指腸切除を加えた胆管切除術を施行し胃膵吻合-Bill I法,肝管空腸端側吻合法にて再建した.術後胃膵吻合部にminor leakageを認めた以外は比較的順調な経過をとっていたが,術後111日目に突然吐血し,ショック状態となった.直ちに胃内視鏡検査を行ったが出血部を確認できず,更に翌日の開腹術でも胃膵吻合,胃空腸吻合部に著変認めず出血点を明かにできなかった.術翌日より再吐血あり腹部血管造影を行い,総肝動脈に2個の動脈瘤を認めたためスチールコイルによる塞栓術を行い止血に成功した.尚,左肝動脈は左胃動脈より分岐していたので温存できた.現在元気に社会復帰している.
  • 中村 勝隆, 河野 富雄, 楠本 長正, 安宅 啓二, 橋本 兼太郎
    1991 年 52 巻 4 号 p. 849-853
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    痔核手術後の瘢痕狭窄を示す肛門に嵌頓した胆石の摘出を契機として発見された特発性胆嚢十二指腸瘻の1例を報告する.
    患者は76歳男性.主訴は上腹部痛,嘔吐.一過性イレウス後,肛門管より直径20mmの胆石を摘出.腹部単純撮影・超音波・CTで胆道内ガス像と胆石を, ERC・上部消化管透視で胆嚢と十二指腸の交通を認め,特発性胆嚢十二指腸瘻と診断.胆石の残存と二次的な胆道感染や肝機能障害の防止の理由から手術を施行.胆嚢膨大部と十二指腸球部の間に直径15mmの瘻孔を認め,術中胆道造影では他に瘻孔を認めず,胆摘,瘻孔閉鎖,総胆管切開・T-tube drainageを施行し,根治し得た.
    特発性内胆汁瘻は手術,外傷などの外的要因によらず,胆道系と周囲臓器間に生じた異常交通路の総称であり,原因は胆石症が85~90%を占める.治療の原則は,原疾患の治療,瘻孔の切除と瘻孔開口部の閉鎖,適切な胆道ドレナージの3つである.
  • 中野 秀麿, 飯尾 里, 瀬山 厚司, 金田 好和, 小田 達郎, 藤田 直紀, 高橋 睦夫
    1991 年 52 巻 4 号 p. 854-858
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胆嚢腺筋腫症はRokitansky-Aschoff sinusの増殖により胆嚢壁の肥厚を来す良性疾患であるが,画像診断の際に胆嚢癌との鑑別が困難であり,苦慮する場合がある.
    症例は49歳の男性である.検診時の血液検査で異常を指摘され来院した.来院時の理学所見,血液検査所見に異常はなかった.腹部エコーで胆嚢底部の壁肥厚を伴った高エコー像,逆行性胆膵管造影で胆嚢底部に限局性の陰影欠損を認めたために,胆嚢底部の良性腫瘍を疑ったが,胆嚢癌も否定できず,胆嚢を含めて肝床付着部を楔状に切除した.術中所見よりN (-) SoPoHoHinfoBo, Stage Iと判断した.切除した胆嚢の底部に2.5×2cmの限局した腫瘤があり,胆嚢壁は13mmと肥厚していた.組織学的に胆嚢腺筋腫症と診断された.腹部エコー,胆嚢造影,腹部CTで胆嚢に腫瘤がみられた場合には,胆嚢腺筋腫症の存在も念頭におく必要があり,胆嚢癌との鑑別にあたっては慎重でなければならない.
  • 石川 泰郎, 酒井 滋, 山川 達郎, 阿部 宏之, 賀古 真, 永井 孝三
    1991 年 52 巻 4 号 p. 859-864
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下胆嚢摘出術は開腹を行わず,腹腔鏡観察下に胆嚢を摘出する術式である.当教室では本邦第1例を含め,今日までに計5例に本術式を行った.現時点では手技的に限界があることから,その適応を結石を有する慢性胆嚢炎及び悪性を否定しえない胆嚢ポリープとし,胆管結石や胆嚢壁肥厚例及び上腹部手術歴のある症例は除外した.本法は開腹による胆嚢摘出術とは異なる良好な視野が得られ,胆嚢管,胆嚢動脈の処理を確実に行えば,出血も非常に少なく安全に行いうる術式である.未だ5例と経験症例数も少なく,手技的な面や器具類に更に改良を加えなければならない段階であり,手術時間,術後合併症,術後入院日数などの点では十分満足すべき結果を得ているとは言えないが,従来の胆嚢摘出術と比較して,手術侵襲,術後疼痛,術後回復及び美容面において大きな利点を有することから,今後も積極的に行うべき術式と思われた.
  • 木下 誠一, 林 雅郎, 椿 雅光, 久保 博彦, 大串 直太, 岩橋 寛治, 恒川 謙吾
    1991 年 52 巻 4 号 p. 865-870
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は64歳の女性,右季肋部痛にて発症した.諸検査にて,肝内結石・胆道結石を伴う胆道拡張症と診断,その成因として膵管胆道合流異常と総胆管隔壁症が示唆された.胆嚢摘出・胆道切石・総胆管嚢腫切除・肝外側区域切除・肝管空腸吻合をRoux-Yで行い,空腸盲端は腹壁に固定した.術中の胆道造影所見からは,膵管胆道合流異常はないものと判断したが,胆汁アミラーゼ値は,その診断基準案をみたしており, X線学的診断との間にdiscrepancyがみられた.総胆管の輪状狭窄部は膵外にあり,内腔はpinhole状で明らかな隔壁を認めなかった.組織学的には線維化が著しく炎症細胞がびまん性に滲出しており, chronic choledochilitisと診断された.総胆管の良性輪状狭窄により胆道拡張をきたしたものと推察した.総胆管隔壁症による胆道拡張症の報告は散見されるが,著者の検索しえた範囲では,かかる症例の報告は見当たらなかった.諸賢の御批判を仰ぎたく報告する.
  • 矢野 健次, 片岡 健, 山根 基, 弓場 通正, 神垣 郁夫, 巻幡 徹, 田中 明, 木曽 哲司
    1991 年 52 巻 4 号 p. 871-875
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    65歳男性. 1988年5月23日突然の上腹部痛,間欠的な血便を訴えて来院.入院時,上腹部に圧痛を伴う手挙大の腫瘤を触知し,貧血,血清アミラーゼ高値,便潜血強陽性.エコー, CTにて50×45mmの膵嚢胞を認め,造影CTにて嚢胞内の類円形濃染像を認めた.膵嚢胞内への出血と判断し,腹腔動脈造影を行ったところ,脾動脈中部より嚢胞内へ間欠的,ジェット状に出血している瞬間をとらえることができた.根治的手術を行い,仮性膵嚢胞に隣接した脾動脈に炎症が波及し波綻出血した後,膵嚢胞内の血液が主膵管をへて十二指腸乳頭部より十二指腸に排出されたと診断した.仮性膵嚢胞内に間欠的,ジェット状に出血している瞬間をとらえた症例は非常にまれである.
  • 磯辺 真, 堀内 彦之, 枝国 節雄, 中村 幸康, 藤政 篤志, 掛川 暉夫, 神代 正道
    1991 年 52 巻 4 号 p. 876-880
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は41歳,女性.下腹部腫瘤を主訴として当院婦人科受診.画像診断および血清CA19-9が2,200U/mlと高値を示した事より,膵体尾部の腫瘍が疑われ当科転科,膵体尾部切除を施行した.腫瘍は18×17×8cm, 1,570gr,多房性嚢胞で異型性なく病理組織学的検索にて膵粘液嚢胞腺腫の診断が得られた.また,血清と同様に嚢胞液中のCA19-9は3,800,000U/mlと異常高値を示し,酵素抗体法によりCA19-9染色を行うと嚢胞内膜細胞に陽性所見が証明された.膵嚢胞腺腫は比較的まれな腫瘍とされてきたがCTやMRIなどの画像診断の進歩により最近その報告は増加してきている.しかしCA19-9が高値を示した症例の報告は極めて少なく,本症例はわれわれが調べえた文献では本邦3例目の報告である.
  • 内山 和久, 小林 康人, 児玉 悦男, 寺下 史朗, 道浦 準, 一宮 源太, 鷹野 ゆかり
    1991 年 52 巻 4 号 p. 881-886
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は慢性膵炎で経過観察されていた71歳の男性で, CT,超音波検査にて膵頭部の嚢腫,主膵管の拡張を指摘され精査目的のため入院となった. ERP像では主膵管はび漫性に拡張し,頭部で嚢胞状となり,一部陰影欠損像を認めた.腫大した十二指腸乳頭は広く開大し,粘稠な粘液の流出を認めた.細胞診にてGroup IVを得たため,粘液産生膵癌の術前診断のもとに膵頭十二指腸切除術を施行した.その際,病変の確定のため術中膵管鏡が有効であった.切除膵を病理組織学的に検討すると,頭部主膵管内から発生した高分化型乳頭腺癌であった.本邦報告91例の検討とともに若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 渋谷 哲男, 馬越 正通, 大場 英己, 猪口 正孝, 長浜 充二, 渋谷 純一, 庄司 佑, 山田 宣孝
    1991 年 52 巻 4 号 p. 887-891
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    重複癌は比較的稀な疾患とされてきたが,近年,診断および治療法の進歩にともない,その報告は増加傾向にある.しかしながらその組み合わせによっては極めて稀な症例もある.今回われわれは右季肋部痛を主訴として精査中に,腹部超音波, CT検査にて膵頭部腫瘍,右腎腫瘍を指摘され,膵全摘,右腎摘出により切除し得た同時性重複癌を経験した.術後約10カ月,膵癌より小腸,横行結腸,肝,肺への多数の転移で死亡した.膵癌に合併する重複癌は比較的頻度が高いという報告もあり,膵癌と診断した場合,重複癌の存在を考慮すべきと考えた.
  • 井口 智雄, 成田 洋, 吉富 裕久, 羽藤 誠記, 河辺 章夫, Yoshitaro SUZUKI, 伊藤 昭敏, 栗木 潤介, 由良 二 ...
    1991 年 52 巻 4 号 p. 892-896
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    脾原発悪性リンパ腫の1例を経験した.症例は72歳男性,食思不振を主訴とし,腹部スクリーニングCTにて脾腫瘍を認めた.種々の画像診断によっても確定診断が得られず,開腹術施行,術中所見より悪性腫瘍を強く疑い,脾門部及び脾動脈周囲リンパ節の郭清を含む脾摘膵尾部合併切除術を行った.病理組織学的所見では,悪性リンパ腫でLSG分類のDiffuse large cell typeと確定診断され,脾門部リンパ節にも同様の腫瘍細胞が認められた.進行度はAhmann分類のstage 2にあたると考えられた.脾原発悪性リンパ腫の本邦報告例は,検索し得た限りでは103例であったが,いかなる基準で脾原発と診断したか明記していない報告が多く,今回われわれはSpierらの診断基準を満たす61例につき統計学的検討を加えた.
  • 成田 洋, 吉富 裕久, 井口 智雄, 保里 恵一, 羽藤 誠記, 伊藤 昭敏, 由良 二郎
    1991 年 52 巻 4 号 p. 897-902
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    小腸狭窄を合併した先天性小腸腸間膜裂孔ヘルニアの1例を経験したので報告するとともに,本邦報告144例を集計し文献的考察を加えた.
    症例は54歳男性,腹痛,嘔吐を主訴に来院.イレウスの診断にて開腹術を施行した.術中所見では,回腸末端部から約10cm口側の腸間膜に6cm×5cm,辺縁平滑な欠損孔が存在し,その孔内に回腸約60cmが嵌入した腸間膜裂孔ヘルニアであった.更に,その腸間膜欠損部に一致した回腸に狭窄が認められた.よって欠損孔閉鎖,狭窄部腸管切除術を行ったが,狭窄部の病理組織像は,固有筋層がsegmentalに完全に欠損し,先天性小腸閉鎖症の閉鎖部に類似した所見であった.
  • 花上 仁, 木村 富彦, Takao FUJIMOTO, 奥村 輝, 菅野 公司, 田島 知郎, 三富 利夫
    1991 年 52 巻 4 号 p. 903-907
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    慢性腎不全で血液透析を受けていた患者に合併した両側総腸骨・大腿動脈瘤の1例を経験したので報告した.症例は69歳男性で3カ月前から血液透析を受けていたが両側そけい部の拍動性腫瘤に気づき外科転科となった.理学的所見および画像診断(X線CTスキャン,超音波断層,動脈造影)により両側性に発生した総腸骨・大腿動脈瘤と診断された.全身麻酔下に腸骨動脈瘤は空置,大腿動脈瘤を切除した後,腹部大動脈・両側浅大腿動脈間Y字型人工血管移植術を行った.腹部大動脈および腸骨動脈の切離操作に切除断端自動縫合器TAを用いたところ手術侵襲の軽減に有効であった.術後経過は順調で術後28病日に退院した.
  • 秋丸 琥甫, 浦田 謙二, 斎藤 節, 清水 一雄, 山田 宣孝, 庄司 佑
    1991 年 52 巻 4 号 p. 908-914
    発行日: 1991/04/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    最近,縦隔と後腹膜にそれぞれ発生した, Castlemanリンパ腫の2例を経験したので報告する. 1例目は39歳男性,無症状に経過し血液生化学検査上異常なく中縦隔腫瘤が切除された.組織学的診断はhyaline vascular (HV)型のCastlemanリンパ腫であった.術後6年半,健在である. 2例目は, 70歳男性, 1カ月間の胸痛を訴え,血液生化学検査上異常なかったが左右の肺と後腹膜に腫瘤を認め,これらが摘除された.組織学的診断には,両肺の腫瘤が腺扁平上皮癌で,後腹膜腫瘤はHV型のCastlemanリンパ腫であった.術後1年で肺癌が脳,肺,大腿骨へ転移し,病的骨折を併発,誤嚥性肺炎により失った.以上,単発性で限局性のHV型ではあるが,臨床像の全く異なるCastlemanリンパ腫の2例を本疾患の成因,発生部位,合併症,治療法,予後,免疫組織学的検討についての考察を加え,報告した.
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