日本臨床外科医学会雑誌
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53 巻, 2 号
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  • 鎗山 秀人, 長山 正義, 奥野 匡宥, 池原 照幸, 梅山 馨
    1992 年 53 巻 2 号 p. 277-286
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    食道静脈瘤に対する直達手術の術後にTPNを施行した肝障害患者20例をChild A (10例, A群), Child B (10例, B群)に分け, TPNの輸液組成とともに脂肪投与の影響と栄養学的効果について検討した.術前両群とも経口糖負荷試験(OGTT)で糖尿病型を示したが,術後TPN期間中の血糖値はB群ではA群に比べて高値で経過し,脂肪併用例では非併用例に比べて血糖値は低値で維持される傾向にあった.肝障害患者の術後TPNでの脂肪併用が肝に及ぼす影響については,肝機能検査上両群とも脂肪併用および非併用間に差は認められず, Child A, B程度の肝障害例での脂肪併用は肝への影響は少ないことが示唆された.術前から両群とも肝障害程度に応じて血清必須脂肪酸の低下が認められ,術後ではさらに低下したが,両群とも脂肪併用例では減少が抑制された.また術後では両群とも負荷脂肪の血漿消失率K2値は上昇した.以上より糖尿病型を示すような耐糖能の低下した肝障害患者術後TPNでの脂肪併用は意義あるものと考えられた.
  • 呉 吉煥, 杉野 公則, 岩崎 博幸, 富山 泉, 吉川 貴己, 松本 昭彦, 伊藤 國彦
    1992 年 53 巻 2 号 p. 287-291
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    甲状腺分化癌の骨転移31例に対して,その臨床的検討を行った.その結果, 1) 骨転移診断時の年齢は40歳~82歳(平均57.6)と高齢者に多く認められた. 2) 骨転移診断までの期間は10年以内がほとんどで,特に5年以内が重要である. 3) 転移部位では60%が脊椎に関連し,孤立性骨転移15例であった. 4) 転移部位を組織別に比較すると,乳頭癌では,胸椎,頸椎,胸骨に多く,濾胞癌では全身骨に拡がる傾向であった. 5) 骨転移例の臨床症状および死因として,脊椎転移が関与していた.
    以上の結果より,甲状腺分化癌の骨転移例では脊椎転移が最も重要な転移部位であることが分かった.
  • 前村 道生, 石田 常博, 飯野 佑一, 小川 徹男, 横江 隆夫, 黒住 昌史, 石北 敏一, 山田 勲, 青柳 秀忠
    1992 年 53 巻 2 号 p. 292-299
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    教室において根治手術を施行しえた両側例を除く35歳以下の若年者乳癌患者108例の背景因子および治療成績を臨床病理学的に非若年者群と比較検討した.若年者乳癌は,妊娠授乳期例が多く,腫瘤が大きく,生検率やリンパ節転移陽性率が高いことが特徴的であった.全体として若年者乳癌の累積生存率は非若年者に比べやや不良であるが,有意差はみられなかった.また,手術時期別には, 1980年以降の早期乳癌手術例の治療成績の向上がみられた.組織別頻度に差はみられなかったが,若年者の硬癌の予後は非若年者に比べ有意に不良であった.以上より,若年者乳癌に対しても非若年者と同様病期や進行度に応じた術式や補助療法の選択が必要であり,特に硬癌に対しては術後も強力な補助療法や,きめ細かな経過観察が必要であると思われた.
  • 足達 明, 林 明宏, 服部 隆一, 永松 佳憲, 岩永 大, 掛川 暉夫
    1992 年 53 巻 2 号 p. 300-303
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    原発性肺癌切除症例53症例に,開胸時に胸腔内を50mlの生理食塩水にて洗浄しその洗浄水の細胞診を施行した.癌細胞陽性は13例24.5%であった.組織型では腺癌が多く,病理病期ではstage Iが6例, stage IIが1例, stage IIIAが4例, stage IVが2例であった. p因子別ではp2例が多かったが, p0は2例にみられた.また, ly因子陽性, v因子陽性の症例が多かったが,洗浄細胞診陰性例にもly因子陽性, v因子陽性が多く,両者間に有意差は認めなかった.洗浄細胞診陽性例の13例中9例は2年以内に死亡し,死因は遠隔転移によるもの5例,胸腔内再発例2例,他病死2例であった. Kaplan-Meier法により生存率を検討すると,陽性例の予後は不良であり,現在まで3年生存例はいない.開胸時に胸腔内に潜在的に癌細胞が存在する場合は根治手術を行っても術後再発し,予後不良の一指標となる可能性がある.
  • 上田 和光, 梅北 信孝, 松峯 敬夫
    1992 年 53 巻 2 号 p. 304-308
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    食道・胃静脈瘤に対し, Hassab手術変法(下部食道・胃上部血行遮断,脾摘,幽門形成術)を施行し,術後硬化療法を追加するcombination therapyを検討した.
    1985年~1989年の5年間に食道・胃静脈瘤に対し, Hassab変法を施行したのは16例であり,原疾患は肝硬変症が14例,特発性門脈圧亢進症は2例であった. 11例に吐血歴を認め,緊急手術を3例,待期手術を8例,予防手術を5例に施行した. Hassab変法のみで食道静脈瘤の45.5%が軽快・消失させえた.胃静脈瘤は全例が手術のみで消失した.手術死亡は緊急手術の1例であり,静脈瘤の遠隔再出血はなかった.
    食道・胃静脈瘤に対してHassab変法の併施により,硬化療法が容易になり,また胃静脈瘤の対処も可能であった.
  • 分化型癌と対比して
    三澤 一仁, 佐藤 裕二, 佐治 裕, 中山 雅人, 内野 純一, 矢吹 英彦, 飯田 博, 藤沢 純爾
    1992 年 53 巻 2 号 p. 309-312
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1985年1月より1990年8月までに旭川厚生病院外科で経験した大腸癌切除例のうち低分化型癌(低分化腺癌,印環細胞癌,未分化癌) 9例(3.1%),粘液癌10例(3.4%)を分化型癌(高分化腺癌,中分化腺癌) 275例と臨床病理学的に比較検討した.前二者は後者に比べ平均年齢が低く,腫瘍占居部位は右側大腸に高率で,また組織学的壁深達度は全例ss(a1)以上であった.また低分化型癌はリンパ節転移n(+) 89%,リンパ管侵襲ly(+) 77%,静脈侵襲v(+) 56%,肝転移33%と分化型癌より高率であった.一方粘液癌は肝転移を認めないが,腹膜播種が40%と高く転移様式に差がみられた.予後では低分化型癌が最も悪く, 4年生存率33%であった.
    従って低分化型癌では浸潤傾向が強く,遠隔転移も高率に起こすことを念頭にいれ治療をすることが肝要と思われた.
  • 田中 千凱, 大下 裕夫, 深田 代造
    1992 年 53 巻 2 号 p. 313-317
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    大腸癌切除例569例の中で低分化腺癌33例を大腸癌取扱い規約にのっとり,最も多い高分化腺癌355例と対比しつつ,臨床病理学的検討を加えた.低分化腺癌は全体の5.8%と低率であった.占居部位は,高分化腺癌にくらべ結腸に多く,しかも右側結腸の頻度が高く,肉眼的形態は浸潤潰瘍型が多かった.肝転移は21.2%,リンパ節転移は66.7%で,しかも転移陽性例の27.2%が3群リンパ節転移であった.壁深達度がs (a2)とsi (a1)の症例は81.8%,リンパ管侵襲は97%,静脈侵襲は87.9%に陽性であった.以上,高分化腺癌と比較して,すべてが有意に高率であり,したがってstage IV・Vの高度進行例が多かった.治癒切除率は54.5%と低く,全体の5年生存率は, 38.4%と低率であった.しかし,治癒切除例のそれは59.6%であり,高分化腺癌の75.1%と比較して,有意差はなかったものの,部位別に検討すると,右側結腸の低分化癌の予後は不良であった.
    予後の改善には,特に右側結腸癌の早期発見と3群までの十分なリンパ節郭清が重要と考えられた.
  • 神野 正博, 洲崎 雄計, 坂本 浩也, 黒阪 慶幸, 高野 靖, 小坂 健夫, 山口 明夫, 米村 豊, 三輪 晃一, 宮崎 逸夫
    1992 年 53 巻 2 号 p. 318-321
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    大腸早期癌57例を臨床病理学的に検討すると有茎性早期癌に比べて無茎性早期癌の方が腫瘍径は大きく,腺腫合併率は低かった.また右側早期癌で無茎性sm癌の頻度が高く,腺腫非合併無茎性sm癌の腫瘍径はより大きい傾向が認められた. m癌では脈管侵襲を伴ったものは認めなかったが, sm癌では無茎性で,腫瘍径が2cm以上で,深達度sm 3で,生検で腺腫成分を認めず, DNA ploidy patternでaneuploidの症例はリンパ管侵襲の可能性が高く,転移,再発危険群として根治手術の適応となると思われ,これ以外の症例では内視鏡的あるいは局所切除で十分であると思われた.
  • 宮崎 要, 安部 龍一, 河 一京, 釘宮 睦博, 宮川 隆平, 亀岡 信悟, 浜野 恭一
    1992 年 53 巻 2 号 p. 322-328
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    S状結腸癌患者7例および直腸癌患者7例の計14例に対してDouble Stapling Technique (以下DST)による前方切除術を施行した. DSTは1980年, Knightらにより開発された二重器械吻合法である.われわれはこれに若干の工夫を加えて本法を施行し,吻合に関する合併症(縫合不全,狭窄,出血)を1例も認めず良好な成績を得た.したがってDSTの利点(従来法より吻合が低位で可能,容易,安全,迅速確実で,合併症が少ない)を考慮し, DSTは直腸癌に対する低位前方切除術はもちろんのこと, S状結腸癌に対する高位前方切除術にも同様の方法で積極的に施行可能であると考えられた.また術後sigmoid scopeを挿入して吻合部の内視鏡的観察を行い,狭窄及びポケット形成の有無を検討した.その結果,狭窄は1例も認められず,ポケット形成は12例中3例に認められた.
  • 浦山 博, 竹村 博文, 大竹 由美子, 加藤 明之, 土田 敬, 渡辺 洋宇, 岩 喬
    1992 年 53 巻 2 号 p. 329-332
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    1973~1990年までに当科にて外科治療を施行した22例の軟部組織の先天性動静脈瘻・血管腫症例を検討した.年齢は2カ月~46歳,平均18.9歳で男性8例,女性14例であった.経過観察期間は1~17年,平均10.4年であった.主症状は全例で腫脹, 3例で出血, 3例で疼痛であった.単発16例,多発6例であり,境界明瞭なもの15例,不明瞭なもの7例であった.発生部位は頭頸部8例,体幹8例,四肢8例であった.動静脈瘻による心不全症例はなく, Kasabach-Merritt症候群を呈した症例はなかった.外科治療の内訳は摘出術17例,結紮術のあと摘出術1例,結紮術と塞栓術4例であった.摘出術を行った17例のうち16例では直接縫合閉鎖が可能であったが1例は動静脈茎付き遊離筋皮弁を移植した.退院時は16例で血管腫の遺残はなく, 6例で縮小をみた.顔面頸部の巨大血管腫の1例が3回目の手術の後死亡した.残りの21例は生存し12例で再発を見ていない.軟部組織の先天性動静脈瘻・血管腫に対して限局したものには摘出術を施行し良好な結果を得た.また,広範囲で摘出後の再建が困難なものには結紮・塞栓術が有効であった.
  • 早川 正宣, 中岡 和哉, 水谷 伸, 高尾 哲人
    1992 年 53 巻 2 号 p. 333-337
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は, 16歳,女性.頸部腫瘤を主訴に来院.理学的所見上,左鎖骨上窩と左前胸壁に腫瘤を触知した.生検では,確定診断が得られず,手術を施行した.手術は,胸壁腫瘤と鎖骨上窩腫瘤は摘出可能であったが,胸腺腫瘤は胸膜,心膜と強固に癒着しており,部分切除に終わった.摘出病理組織標本にて結節硬化型Hodgkin病と診断された.術後, COPP+ABVDによる交代療法を施行中である.
    最近, Hodgkin病は,化学療法と放射線療法により完全寛解可能な腫瘍とされている.しかし,縦隔に巨大な腫瘤を有する症例では,化学療法と放射線療法を併用しても局所再発率が高いとされている.又,結節硬化型Hodgkin病の診断が困難な場合も少なくない.以上より,胸壁への浸潤を伴った前縦隔腫瘍においては,診断的意味と集学的治療の一環として切除術を行う価値があると思われる.
  • 多田 隆士, 石田 薫, 寺島 雅典, 渡辺 正敏, 村上 弘治, 旭 博史, 島田 裕, 前沢 千早, 斎藤 和好, 村上 晶彦, 伊藤 ...
    1992 年 53 巻 2 号 p. 338-344
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は52歳の女性.主訴,嚥下困難.既往歴,精神発育遅帯,痙攣発作がみられ通院加療中.自殺を目的にトイレ洗浄剤(4%NaOH, pH 13.5)を茶わん約一杯分の量を嚥下し,受傷後5日目より広範囲の食道狭窄と胃幽門前庭部狭窄が認められ,保存的に経過観察していたが食道狭窄の改善なく,受傷後16週目に有茎結腸による食道再建術と幽門形成術を施行した.摘出した食道は食道入口部とE-C junctionより下部食道の生理的狭窄部を中心とする食道筋層に及ぶ高度な線維性肥厚と食道粘膜の著明な萎縮が認められた.術後,経口摂取物の誤嚥と術後4週目から胃幽門前庭部狭窄の症状も加わってきたため,一時経口摂取中止し,保存的治療にて経過観察を試みたが胃幽門前庭部狭窄の症状は改善せず,食道再建術6カ月後胃切除術を施行した.その後,胃幽門前庭部狭窄症状は改善し,また全身状態の改善もみられ,全治退院した.
  • 片井 均, 才川 義朗, 小坂 昭夫
    1992 年 53 巻 2 号 p. 345-347
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    高位胃潰瘍にて胃亜全摘術を施行され, 11年目に残胃にカルチノイドが発生した1例を経験したので報告する.
    症例は66歳男性.タール便を認めたため当院外来を受診した.残胃透視で吻合部の壁の硬化像,胃内視鏡検査で食道・胃接合部から胃体部にかけての良性潰瘍と吻合部に不整な隆起を伴う狭窄が観察された.生検で低分化型腺癌と診断された.残胃全摘・膵脾合併切除を施行した.病理組織学的検索の結果,カルチノイドと診断された.深達度ssで,幽門下リンパ節に転移を認めた.
    悪性貧血などの際の胃に発生する多発性のカルチノイドの原因の一つとして高ガストリン血症が考えられており幽門洞を切除された残胃は胃癌の発生母地と成り難いと考えられる.本症例は比較的稀な1例と思われた.
  • 勝山 新弥, 石澤 伸, 小泉 富美朝, 藤巻 雅夫
    1992 年 53 巻 2 号 p. 348-353
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    きわめてまれな胃小細胞癌の1例を経験したので報告する.症例は73歳男性で腹部腫瘤を主訴に来院した.胃内視鏡で幽門部にBorrmann 3型の胃癌を認め,胃生検では低分化腺癌の診断であった.胃部分切除,胃空腸吻合術を施行し, P0H0N4 (+) S3, Stage IV,絶対非治癒切除で,組織学的には胃小細胞癌, intermed, INF-γ, sei, ly3, v1, ow-, aw+, n4 (+)であった.免疫化学療法にもかかわらず,術後2カ月で,十二指腸断端に遺残した腫瘍の急速な増大による腹壁浸潤,閉塞性黄疸,肝転移を認めた.胃小細胞癌は自験例を含め本邦報告例は20例であるが(胃癌の0.2%),異所性ホルモン産生腫瘍の範疇にはいり,転移浸潤傾向が強く極めて予後不良な疾患である.
  • 出血壊死例の統計学的検討
    中口 和則, 北原 健志, 尾上 謙三, 中野 陽典
    1992 年 53 巻 2 号 p. 354-358
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は心窩部痛を主訴とする43歳の男性.胃粘膜下腫瘍の診断で幽門側胃切除術, R2リンパ節郭清術を施行した.切除標本は胃体部から前庭部大弯側後壁寄りに存在する潰瘍を伴う大きさ15.0×8.5×5.5cmの胃内外に発育する平滑筋芽細胞腫で,巨大な出血壊死巣を伴い嚢胞状で760mlの暗赤色の液体を有していた.術後3年10カ月経過するが再発の兆候無く通院している.
    1982年,小野らが143例集計しているが,今回それ以降の124例を集計し, A群(出血壊死巣を伴う例)とB群(それ以外の例)に分けて検討を加えた. A群:B群=26:98であり, A群の4例に腹腔内出血を認めた.λ2検定において危険率5%で,両者の年齢分布,性差,腫瘍の占居部位に有意差は無かったが,発育型と大きさに有意差を認めた.つまり,胃外発育型で大きいものほど出血壊死巣の合併率が高いと考えられた.
  • 才川 義朗, 馬場 恵, 片井 均, 綿引 洋一, 丸尾 啓敏, 北條 正久, 小坂 昭夫
    1992 年 53 巻 2 号 p. 359-363
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胃平滑筋肉腫のうち最大径が15cm以上のものを文献上,巨大胃平滑筋肉腫とされている.文献検索した限りでは,巨大平滑筋肉腫の本邦報告例は本例を含めて100例に満たない比較的珍しい疾患である.今回われわれは巨大胃平滑筋肉腫の1例を経験したので文献的考察を加えて報告する.
    症例は81歳男性で,主訴は左側腹部腫瘤であった.入院時現症として左側腹部より上腹部にかけ小児頭大の弾性軟の腫瘤を触知した.腹部CT,腹部超音波検査を施行し上腹部より左側腹部にかけての巨大腫瘤を認めた.更に胃内視鏡検査,注腸検査,腹部血管造影を施行したが術前の確定診断は困難であった.開腹所見では胃体中部とのみ連続した巨大腫瘤を認め,胃粘膜下腫瘍の診断にて胃亜全摘術を施行した.摘出標本は重量3,100g,大きさ18×19×19cmであり,病理組織学的には胃平滑筋肉腫と診断された.術後11カ月現在再発の徴なく生存中である.
  • 久貝 忠男, 川畑 勉, 砂川 恵伸
    1992 年 53 巻 2 号 p. 364-368
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    貧血を伴う胃潰瘍で治療中の56歳の男性に,胃透視検査と胃内視鏡検査を行ったところ,胃体部後壁に胃粘膜下腫瘍を認めた.腹部超音波と腹部CTスキャンによる検査では腫瘍は膵前面に位置し,長径約7cm,充実性で胃外性発育を呈していた.平滑筋肉腫を疑い手術を施行した.肝転移や腹膜播種の所見は認められず,広範囲胃切除術とリンパ節郭清を行った.腫瘍は7.5×6.2×4.2cmの大きさで,一部に嚢胞形成がみられ,胃体部後壁から1.0×2.5cmの茎を有して壁外性に発育していた.
    胃腫瘍の有茎性胃外性発育は他の発育形態には見られない臨床上の特徴を有するので,症例を呈示するとともに本症の臨床的特徴及び外科治療の問題点について考察した.
  • 中江 史朗, 裏川 公章, 原之村 博, 神垣 隆, 佐古 辰夫, 川口 勝徳, 西尾 幸男, 五百蔵 昭夫, 植松 清, 岩越 一彦
    1992 年 53 巻 2 号 p. 369-373
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は58歳男性,右上腹部痛を主訴に当院を受診した.胃透視で胃前庭部から十二指腸球部にかけ巨大な腫瘤による外方への圧排がみられたが,潰瘍形成は明らかでなかった. CTでは腫瘤は膵と連続性を有し,腹腔動脈造影では膵アーケードの右方に新生血管と不均一な腫瘍濃染を認め,腫瘍は上膵十二指腸動脈に栄養されていた.膵腫瘍を疑い,手術を施行した.腫瘍は十二指腸球部から下行脚内側にかけて管外性に発育し,径8×5 cmで,一部膵に浸潤しており,胃十二指腸切除術が施行された.組織学的には,腫瘍は十二指腸原発の平滑筋肉腫と診断された.
  • 長田 真二, 山田 誠, 宮 喜一, 東 修次, 古田 智彦, 佐治 重豊
    1992 年 53 巻 2 号 p. 374-380
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    Meckel憩室のmesodiverticular vascular bandにより発症したイレウスを経験したので報告する.症例は3歳男児で腹痛,嘔吐を主訴として当科に紹介入院した.腹部単純X線にて鏡面像を,また超音波検査にて腹水の貯留と特に右下腹部の蠕動の弱い小腸を認めた.緊急手術を施行したところ,イレウスの原因は回腸末端より約40cm口側のMeckel憩室先端より腸管膜前壁にのびた約2cmの索状物により同憩室より約3cm口側の小腸の壁が一部絞扼され,さらに同部より口側50cmの長さにわたり時計方向に180度回転したことによって起こった血行障害であることが判明した.手術はこの解放と憩室切除にて終了した.われわれはこのband内に静脈の存在を組織学的に証明しこれまで一定の見解をみることがなかった卵黄静脈の発生について検討し,かつまた本邦報告24例を集計し年齢,性,主訴,術前診断,手術法, BAND内容,腸管膜付着側,憩室内異所性組織を比較した.
  • 蒲原 行雄, 脇 慎治, 内村 正幸, 木田 栄郎, 神田 和弘, 成田 一之, 前田 茂人, 副島 英伸, 宮里 浩
    1992 年 53 巻 2 号 p. 381-385
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    CSF産生平滑筋肉腫について若干の文献的考察を加え報告する.症例は74歳男性.昭和62年6月頃より食欲不振・心窩部痛が出現し,近医受診. 8月中旬当院へ紹介入院となった.入院時現症では,胸壁静脈怒張,鼠径リンパ節腫大及び左季肋下から臍にわたる巨大腫瘤を認めた.血液生化学検査では, WBC 22.5万/mm3, LDH 825IU, ALP 24.6 KAUであった. CTでは腹腔内に巨大なmassを認め,血管造影では腸間膜に腫瘍陰影を認めたが,注腸に異常なく上部消化管に通過障害はなかった.入院後,急激に全身状態は低下し, 20日目に死亡した.剖検で回腸原発平滑筋肉腫であることが判明し,免疫染色でCSF陽性が確認された.
  • 加藤 宣誠, 小林 仁也, 中川 司
    1992 年 53 巻 2 号 p. 386-390
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    虫垂憩室はまれであり本邦では66例の報告しかみられない.今回われわれは虫垂憩室の1例を経験したので報告する.症例は23歳女性,右下腹部痛があり来院し,急性虫垂炎の疑いにて入院,手術となった.虫垂間膜に母子頭大の腫瘤を触れ虫垂切除術を施行した.虫垂粘膜の炎症はなかったが粘膜下に腫瘤を形成しておりその一部に膿瘍があり,虫垂憩室と思われる構造も認めた.病理組織検査にて虫垂間膜内に4個の憩室の腺管と憩室炎による膿瘍が認められた.憩室は仮性憩室と診断された.虫垂憩室の治療方針は憩室炎が起こった場合はもちろん手術適応となるが,無症状のまま注腸検査などで発見された場合,虫垂切除術が侵襲も少なく安全な手技であることと,虫垂憩室は結腸憩室に比べ穿孔率が高いことから虫垂切除術を施行することが望ましいと思われた.
  • 猶本 良夫, 松川 啓義, 合地 明, 日伝 晶夫, 上川 康明, 阪上 賢一, 折田 薫三
    1992 年 53 巻 2 号 p. 391-395
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    胃全摘術後早期に腹痛,下痢などを伴わず頻脈,発熱,ショックにて発症した偽膜性大腸炎を経験した.消化管手術後早期に本症を発症した場合,腹部症状に乏しいことが多いため,比較的早期に診断され,治療を開始できた本例は貴重な症例であると考えられるので報告する.
    症例は52歳,男性.原発性胃悪性リンパ腫の診断にて,胃全摘術を施行され,手術当日よりセフォタキシム(CTX)の投与を開始した.術後第3病日より著しい頻脈,発熱,ショックをきたし,対症療法を行うも全身状態は改善しなかった.また,原因の追求を行ったが,縫合不全,腹腔内出血等の合併症を認めなかった.第4病日に大量の水様性下痢をきたし,大腸内視鏡を施行し肉眼所見および生検組織診断より偽膜大腸炎と診断した.塩酸バンコマイシンの投与,大量補液を行い,大腸炎,全身状態は急速に軽快をみた.
  • 松本 光之, 日浅 厚則, 池松 禎人, 近藤 敏, 松尾 繁年, 伊藤 俊哉
    1992 年 53 巻 2 号 p. 396-400
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    多発性骨髄腫とS状結腸癌の同時性重複癌の1手術例を経験したので報告する.
    症例は64歳,男性.一般血液検査で高γグロブリン血症を指摘され,精査の上, IgG(λ)型多発性骨髄腫の診断を受けた. Melphalan内服開始直後に,左下腹部痛増強したため注腸X線検査を施行. S状結腸癌の診断にてS状結腸切除およびリンパ節郭清術を行った.術後30日目に退院したが,その後,骨髄腫に起因する汎血球減少症から呼吸器感染症を併発し, Melphalan開始後11カ月, S状結腸切除術後9カ月にして死に至った.
    大腸癌から見ると骨髄腫の合併は稀であるが,骨髄腫から見ると悪性疾患を合併しやすい傾向にあり,骨髄腫の合併症として,重複癌の可能性には十分留意すべきである.加えて,大腸癌手術を施行する際には骨髄腫特有の病態を考えて,腎不全,縫合不全に注意し手術管理を行わなければならない.
  • 日馬 幹弘, 木村 幸三郎, 小柳 泰久, 小野 充一, 伊藤 伸一, 吉松 昭彦, 土田 明彦, 長江 逸郎, 堀向 文憲, 斉藤 利彦
    1992 年 53 巻 2 号 p. 401-404
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    脾臓にのみ転移の認められた直腸癌の1例を報告した.患者は70歳の男性で, 8年前当科において早期胃癌の診断にて胃亜全摘及びリンパ節郭清(R2)を施行されている.胃術後の経過観察中,腫瘍マーカーの上昇を認め,注腸造影を施行し,上部直腸(Rs)に狭窄像を認めた.また,腹部CT像により脾臓実質の転移が疑われた.内視鏡による生検にて直腸癌が証明されたため,低位前方切除術,脾臓摘出術を施行し,摘出物の病理組織学的検査にて脾臓転移が証明された.術後は腫瘍マーカーも正常化し,術後1年半を経過し再発は認めていない.脾臓転移において手術時に他臓器への転移を認めない孤立性転移の報告は比較的少ない.また,脾臓転移ではCEAの変動が病状と相関することが多いことが示唆された.切除可能であった症例の予後は良好であり,積極的に脾臓摘出を行うべきであると考える.
  • 力武 浩, 納富 昌徳, 平木 幹久, 田中 寿明, 白水 和雄, 大森 康弘, 荒川 正博
    1992 年 53 巻 2 号 p. 405-410
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    転移性大腸癌の2手術例を経験したので報告する.症例1: 75歳男性,主訴は下血.既往歴として3年5カ月前, Borrmann 2型胃癌にて幽門側胃切除術(R2)を施行.印環細胞癌を含む低分化腺癌で, P0, H0, n1, pmと絶対治癒切除であった.横行結腸にBorrmann 3型,下行結腸と直腸(Rb)にはBorrmann 1型の腫瘤を認め,術前に多発性大腸癌との鑑別が困難であった.症例2: 57歳女性.主訴は右側腹部腫瘤.既往歴として3年9カ月前, 5型胃癌にて胃全摘術(R2)を施行.印環細胞癌を含む低分化腺癌で, P0, H0, n1, ssγと絶対治癒切除であった.注腸造影にて上行結腸に腸管の長軸に対して横走する平行な粘膜ひだの集合像を認め,大腸内視鏡では著明な管腔の狭少化,大小不同の粗大な隆起と潰瘍を認めた.生検で粘膜固有層内に印環細胞癌を含む低分化腺癌を認め,画像診断と併せ術前診断が可能であった.大腸への転移形式は,リンパ行性転移が最も考えられた.
  • 向井 正哉, 堀江 修, 池田 正見, 安田 聖栄, 杉原 隆, 野登 隆, 佐々木 哲二, 田島 知郎, 三富 利夫
    1992 年 53 巻 2 号 p. 411-414
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    結腸カルチノイドは,比較的稀な疾患であるが,今回われわれはS状結腸カルチノイドの1穿孔例を経験したので報告する.症例は, 67歳,女性.注腸造影にてS状結腸癌穿孔による腹膜炎と診断し, S状結腸切除人工肛門造設術を施行した.腫瘤は径10cmほどで同部に約5mm大の穿孔を認めた.病理組織学的には,カルチノイド腫瘍で広範な浸潤像が見られた.術後多発肝転移を生じ,肝動注等を繰り返したが全経過8カ月で肝不全にて死去した.結腸原発カルチノイドは,過去10年間に当教室で経験した消化管カルチノノド29例のうち2例(6.9%)と比較的少なかった.またカルチノイドの穿孔例は,われわれが検索し得た限り,自験例を含めて2例しか認められず,極めて稀なものと思われた.本症例の臨床像ならびに予後を検討し,若干の文献的考察を行った.
  • 貞広 荘太郎, 大村 敏郎, 斉藤 敏明, 鈴木 智子, 中村 隆一, 関田 恒二郎, 赤塚 誠哉
    1992 年 53 巻 2 号 p. 415-418
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    肝嚢胞症4例において,血清および嚢胞液中のCA19-9値を測定し,併せて嚢胞壁におけるCA19-9の局在を免疫組織学的に検索した.
    腎不全を伴わない3例では,血清中のCA19-9値はいずれも37U/ml以下であった.嚢胞液中のCA19-9値は10,000U/ml以上が2例, 1,300U/mlが1例であり,血清中の値に比し著しい高値を示した.腎不全を伴う1例では,血清中のCA19-9値は1,300U/ml,嚢胞液中のCA19-9値は10,000U/ml以上であった.
    肝嚢胞壁の上皮細胞には, 4例いずれにおいてもCA19-9が局在しているのが認められた.
    以上の結果から,肝嚢胞壁の上皮細胞が嚢胞液中にCA19-9を分泌していることが示唆された.
  • 中島 公博, 加藤 紘之, 奥芝 俊一, 下沢 英二, 田辺 達三
    1992 年 53 巻 2 号 p. 419-423
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は43歳,男性で皮下結節性脂肪壊死および骨髄脂肪壊死を合併した慢性膵炎に対する治療として膵亜全摘術を施行した.その結果,慢性膵炎,皮下結節性脂肪壊死は改善をみたが,晩期には骨髄脂肪壊死は増悪し,手術後3年5カ月目に多臓器不全にて死亡した.
    皮下結節性脂肪壊死症が膵疾患に関係していることは1883年のChiariの報告以来,欧米ではいくつかの報告がなされている.しかし本邦での報告例は非常に少なく,自験例を含めて11例に過ぎない.このうち膵炎に関係する症例は7例であり,手術施行例は3例であった.骨髄壊死,脂肪壊死が膵炎による膵逸脱酵素の流出が主因と考えられる場合には根治手術として膵亜全摘術が望ましいと考えられ,本症例は骨髄壊死,皮下結節性脂肪壊死の成因を考える上で貴重な症例であった.
  • 中島 信久, 知名 保, 真喜屋 実佑, 内野 純一
    1992 年 53 巻 2 号 p. 424-429
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    膵のsolid and cystic tumorの1例を経験したので報告する.症例は22歳の女性で,上腹部痛を主訴として来院し,右上腹部に手拳大の腫瘤を触知した. USおよびCTにて膵頭部の嚢胞性腫瘍が指摘され, ERPでは主膵管は上方へ著明に圧排されていた.術中所見では腫瘍は線維性被膜で覆われ,周囲とは境界明瞭であり,腫瘍のみを容易に摘出できた.膵実質への浸潤は認められなかった.摘出標本の割面では,嚢胞変性や出血壊死性変化が認められた.病理組織学的には腫瘍細胞は充実性ないし偽乳頭状に増殖し, PAS染色は陽性であった.免疫組織化学的にはα1-antitrypsinに対して陽性を示し,電顕所見では腫瘍細胞はmitochondriaに富み, zymogen様顆粒がみられた.以上よりsolid and cystic tumorと診断された.患者は術後12カ月を経た現在健在である.本邦報告例121例に自験例を加え,その病態および臨床病理学的特徴について検討を加えた.
  • 福田 宏司, 富山 浩基, 日置 図南
    1992 年 53 巻 2 号 p. 430-436
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    72歳女性にみられた腫瘤と腹痛を主訴とする上腹部の大半を占める悪性非機能性膵島細胞腫の1例を経験した.画像診断所見として,血管造影でhypervascularな腫瘍の濃染像がみられ, CT像はenhanceで不均一な早期濃染と嚢胞状変化を呈し, US検査で低エコーと高エコーの混在型や石灰化がみられ,ホルモン異常上昇による症状も無いこととあわせて非機能性膵島細胞腫を疑い外科的切除を行った.腫瘍は膵体尾部に存在し,大きさ15×13×8.0cmで肉眼的に肝に小転移巣も見られ,膵体尾部脾切除および肝部分切除を行った.本症は稀な疾患で,悪性の頻度は高いが腫瘍の発育速度は遅く,外科切除による予後は良好とされている.自験例は術後より測定していたneuron specific enolaseの高度上昇で,肝転移再発が発見され腫瘍マーカーとしての有用性が示唆できた.現在,延命を期待して動注化学療法や肝動脈塞栓術を始めとする集学的治療を考慮中である.
  • 小林 知恵, 中根 佳宏, 沖野 功次, 迫 裕孝, 仲 成幸, 都築 英之, 小玉 正智
    1992 年 53 巻 2 号 p. 437-441
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    Congenital mesoblastic nephromaは,腎過誤腫の一種で小児では腎腫瘍の7%といわれているが,成人例は極めて稀で,これまで本邦5例,欧米3例の報告がみられるのみである.本疾患は組織学的にも臨床的にも良性の腫瘍であるが,症状及び画像診断上,腎細胞癌との鑑別は困難である.
    今回著者らは,この極めて稀な,成人に発生した本症の1例を経験したので報告する.
    症例は41歳女性,左上腹部腫瘤を主訴とし,腹部超音波検査, DIP,腹部CTスキャン,腎動脈造影などより腎細胞癌を疑い,左腎摘出及び腹部大動脈周囲リンパ節郭清を施行したが,病理組織学的には, Congenital Mesoblastic Nephromaと診断された.そこで,本疾患の臨床的・病理学的特徴を,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 出口 久次, 小澤 哲郎, 北原 信三, 野崎 達夫, 継 行男, 野中 博子
    1992 年 53 巻 2 号 p. 442-446
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は43歳女性で,数年来の上腹部膨満感を主訴として某医を受診し,右上腹部腫瘤を指摘され当科を紹介された.腹部超音波検査, CTスキャン,血管造影検査などにより後腹膜嚢胞を疑い手術を施行した.摘出標本は19×16×15cmの嚢胞で壁は極めて薄く,壁の表面に副腎組織の一部がみられた.また嚢胞は単房性で,約2,500mlの漿液性内容を貯溜していた.組織学的には副腎血管腫性嚢胞であった.
    本症は比較的まれな疾患である.またほとんどが良性で,穿刺・吸引などの保存的治療も行われているが,自験例のように巨大で,圧迫症状を伴い,自然破裂の危険性がある場合は手術適応と考える.
  • 角 泰廣, 尾関 豊, 鬼束 惇義, 林 勝知, 日野 晃紹, 下川 邦泰, 渡辺 克, 広瀬 一
    1992 年 53 巻 2 号 p. 447-454
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は55歳の男性.食後の腹部膨満感を訴え来院した.腹部超音波検査およびCTで肝と胃および膵の間に位置する,多房性嚢胞性腫瘍を認めた.腫瘍は小網と思われる構造物に連続し,体位変換で形状が変化する軟らかい腫瘍であった.胃X線, ERCP,血管造影では圧排所見のみで, MRIではT1強調画像で低信号域, T2強調画像で高信号域となった.小網リンパ管腫の術前診断で手術を施行した.腫瘍は小網に覆われて存在し,胃小彎に連続していたが,肝,膵との連続性はなかった.腫瘍は大きさ8×7×5cmの多房性嚢胞性病変で,組織学的にリンパ管腫と診断した.
    小網リンパ管腫の本邦報告14例を検討するとともに,その術前診断について考察した.
  • 米山 文彦, 前田 光信, 三田 三郎, 飯田 有二, 久納 孝夫, 秋山 三郎
    1992 年 53 巻 2 号 p. 455-459
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    症例は72歳女性で,健診にて腹部腫瘤を指摘され当院受診,上腹部右寄りに小児頭大可動性腫瘤を触知した.画像診断上周囲臓器を圧排,腹部血管造影で腫瘍血管が同定でき淡い腫瘍濃染像を呈した.腸間膜腫瘍の診断にて開腹手術を施行,腫瘍は小網とのみ連続性を有し網嚢内に発育していたが,容易に摘出可能で他には腹腔内臓器の異常や腹膜播種,リンパ節腫脹等は認めなかった.摘出腫瘍は17×12×11cm, 1,110gあり,病理組織学的検索の結果平滑筋肉腫と診断された.経過は良好にて現在再発の徴候は認めず健在である.小網原発の平滑筋肉腫は稀で,本邦報告例は自験例をあわせ13例であり,報告例を集計し文献的考察を加えた.
  • 佐藤 恭介, 海老根 東雄, 田村 進, 横室 仁志, 隈部 俊次, 鈴木 博雅, Masamichi KAMEZAKI, 奥田 隆博, M ...
    1992 年 53 巻 2 号 p. 460-463
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    左上腕動脈に内シャントのある慢性透析患者の同側鎖骨下静脈閉塞症の1手術例を報告する.症例は, 50歳男性で, 15年間維持透析を施行中, 2回の内シャント閉塞の既往がある.一年前より左上肢の腫脹が出現,増強し象皮病様となったため来院,静脈造影にて左鎖骨下静脈閉塞と診断した.鎖骨下静脈への中心静脈カテーテル挿入の既往はない.閉塞部位は胸郭出口部の鎖骨下静脈で,完全に器質化していたため, E-PTFE人工血管を用いて,腋窩静脈-内頸静脈バイパス術を行った.術後の静脈造影にて,グラフトの開存は確認されたが,多数の側副血行路は残存し腫脹の軽減も極めて緩慢だった.中心静脈カテーテル挿入が深部静脈血栓の原因となった報告はあるが,本例はその既往はなく原因不明であった.本症に対する人工血管バイパス術は,その末梢の動静脈シャントの存在から開存に有利であり,よい適応と考えられた.
  • 長江 恒幸, 福島 洋行, 東 理佐子, 石丸 新, 古川 欽一, 海老原 善郎
    1992 年 53 巻 2 号 p. 464-469
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    遺残坐骨動脈の臨床報告は現在までに欧米で約75例,本邦で17例であり稀な血管系の異常である.症例は28歳の女性で約6年前に左下肢の腫脹,左下肢静脈瘤の精査目的の為,入院し,左遺残坐骨動脈と診断されたが,その時は左下肢静脈瘤に対しstripping術を行った.半年後鬱血症状が再度増強した為,左総腸骨動脈の縫縮術を行い,その後の経過は良好であった.今回,腹部拍動性腫瘤及び再度の左下肢鬱血症状を主訴として来院.腎動脈下腹部大動脈から左坐骨動脈にかけて瘤化を認め, Y字型人工血管置換,坐骨動脈結紮,グラフト左脚-膝窩動脈バイパス術を施行した.病理学的には中膜の変性性疾患と考えられた.
  • 中村 博志, 渡邊 聖, 平野 敬八郎, 吉雄 敏文, 山口 宗之, 内田 寿美子, 前田 倫子, 木下 勉, 菊池 博達
    1992 年 53 巻 2 号 p. 470-475
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    本邦における血清コリンエステラーゼ活性(ChE)異常の報告はまれである.本邦では過去20年間に30数例の報告があるが,このうち小児例は3例と少ない.今回われわれは右外鼡径ヘルニア根治術後に長時間にわたる遷延性無呼吸発作を来たした, ChEの著しく低い症例を経験したので報告する.
    症例は1歳の女児.既往歴,家族歴,入院時一般検査に異常を認めなかった.麻酔はSCC 10mgの静注で導入し,挿管後はGOFで維持を行った.手術時間は13分であったが術後自発呼吸の発現がなかなか見られず,血清ChEは1mu/ml (正常値: 173~432mu/ml)で,自発呼吸発現までに約3時間を要した.その後の経過は順調であった.本症例の診断は麻酔中の神経刺激により疑診され採血により決定されたが, Nerve Stimulatorは遷延性無呼吸のモニターとして有効であると考えられた.
  • 岡田 富朗, 金谷 欣明, 和田 豊治, 山田 定
    1992 年 53 巻 2 号 p. 476-479
    発行日: 1992/02/25
    公開日: 2009/03/31
    ジャーナル フリー
    悪性間葉腫(malignant mesenchymoma)は, 2種類以上の未熟な間葉成分を有する悪性腫瘍である.われわれは,大腿部巨大腫瘍を呈した本疾患の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.症例は83歳女性で,左大腿部腫瘍を主訴に来院した.左大腿近位内側に,直径約23cmの巨大に軟部腫瘍を認めた.各種検査の後,外科的に,腫瘍を摘出した.摘出標本は,大きさ26×23×22cm,重量2.6kg,厚い線維性被膜に被包されており,割面は,大部分は肉腫様の部分であるが,一部,脂肪織様の白色充実性の部分は認めた.組織学的所見では,肉腫様の部分は,胎児型横紋筋肉腫(rhabdomyosarcoma, embryonal type)であり,脂肪織様の部分は,高分化型脂肪肉腫((well differentiated liposarcoma, sclerosing type)であった.これらの所見を総合し,本症例を,悪性間葉腫(malignant mesenchymoma)と診断した.
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