日本臨床外科医学会雑誌
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54 巻, 7 号
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  • 北村 裕, 石川 直文, 河野 通一, 岩淵 裕, 杉野 公則, 尾崎 修武, 三村 孝, 伊藤 國彦
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1701-1705
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    悪性腫瘍に伴う高カルシウム血症(高Ca血症)は malignancy associated hypercal-cemia (MAH) として知られている.甲状腺癌における MAH の頻度,病態について死亡症例127例(未分化癌71例,乳頭癌44例,濾胞癌12例)について臨床的に検討した. 11.0mg/dl 以上の高Ca血症は全症例中8例 (6.3%) に,未分化癌では5例 (7.0%) に認められた. MAH の病態は, humoral hypercalcemia of malignancy (HHM) と localosteolytic hypercalcemia (LOH) に大別されるが,甲状腺癌の MAH8症例のうち,骨転移を認めない3例と骨転移が軽度な3例は HHM の病態が考えられ,1例では血中 parathyroid homone-related protein (PTHrP) が高値 (11.1pmol/l (<2)) であることを確認した.著明な骨転移を認めた2例では, LOH の関与も考えられた.また未分化癌の4.2%に高Ca血症と白血球増多症が合併し,複数の液性因子の産生が示唆された.
  • 片岡 健, 岡本 太郎, 後藤 孝彦, 貞本 誠治, 西亀 正之, 土肥 雪彦
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1706-1711
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1990年より開始した乳房温存療法施行例のうち,術前サーモグラフィを行った25症例に対し,サーモグラフィによる温存手術の適応決定の可否について検討した.その優位なサーモグラフィ所見から局所高温型,熱血管像型,乳頭高温型の3型に分類した.温存手術後の病理組織診断で,切除端に癌遺残 (+) 2例,術中迅速病理で断端 (+) のため追加切除を行った症例が3例見られた.これら5例と温存25症例以外に,術中乳房全切除術に変更した2例の計7例では,組織学的に乳管内進展や石灰化巣が著明で,サーモグラフィ上では熱血管像型または乳頭高温型を呈していた.従って,特に異常熱血管像および乳頭高温の著しい症例に対しては,本療法は慎重に施行されるべきと考えられた.
  • 小川 秀彰, 荻田 征美, 生田 圭司, 安藤 修敏, 川俣 孝, 藤田 昌宏, 山城 勝重, 内野 純一
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1712-1715
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    最近24年間における国立札幌病院の乳腺小葉癌29例について臨床病理学的に検討した.小葉癌は本邦では比較的稀な乳癌とされているが,当科における小葉癌の全乳癌に占める割合は近年増加傾向がみられる.病期別予後では,病期I, II症例は10年生存率が100%であった.両側例が2例 (6.9%), 多発例が3例 (10.3%) にみられ,両側性,多中心性に発生する傾向があった.病理組織学的には,間質線維増生反応の優勢なものはリンパ節転移率が高かった.
  • 伊藤 末喜
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1716-1719
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1984年5月から1992年6月までに原発性乳癌に quadrantectomy を行った61例の手術成績を検討した.年齢は平均48.6歳,腫瘤径は2.0cm以下83.6%であり, Tis 4.9%,I期75.4%, II期19.7%であった.組織型別では硬癌が34,4%と多く,リンパ節陰性例は75.4%であった.切除標本の病理組織学的検索では,限局型59.0%, 腫瘤外縁から3.0cm以内の中間型27.9%, 3.1cm以上の管内進展型13.1%であった.断端陽性3例に再手術を行った.合併療法としては,手術直後 MMC 30mg,リンパ節陽性例に5FU800~1,200mgを1年間追加した.
    平均追跡期間は3年10ヵ月で,再発のみられたのは肺転移の1例(1.7%)のみであった.
  • 辻本 優, 横川 雅康, 高野 徹, 山本 雅巳, 山本 恵一, 明元 克司, 上山 武史
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1720-1726
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    当科で経験した腹部大動脈瘤と消化器悪性腫瘍との合併症例21例について検討した,平均年齢は71歳,全例男性. 21例中5例に閉塞性動脈硬化症の合併を認めた.悪性腫瘍は胃癌が14例と最も多かった.
    両疾患が異時性に発見された7例では手術適応が問題となることは特になかったが,術前,術中に両疾患が診断された14例では治療方針,特に手術時期の決定に慎重な検討を要した.このうち両疾患に対して手術を行ったのは9例で,胃癌を合併した7例中5例には一期的手術が,残り2例と大腸癌とを合併した2例には悪性腫瘍切除後,二期的に血管手術が行われた.両疾患が同時期に発見された症例では,その治療方針は各疾患単独の予後を検討したうえで,各症例ごとに決定すべきであると思われた.また,一期的手術を行う場合は,人工血管感染に十分留意することが重要と考えられた.
  • 木暮 道彦
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1727-1731
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    担癌患者血清中に増加するとされる免疫抑制酸性蛋白 (IAP) の胃癌患者診療への応用を目的として,胃癌切除患者143例の術前血清 IAP 値を測定し,病理組織学的所見および遠隔成績との関係を検討した. IAP値の有意の高値は stage Iと stage IV間, n (-) とn (+)間, v0, v1 と v2 以上間, lyo, ly1とly3 間, pmとss間に認められた.治癒切除例の遠隔成績では IAP 高値群 (580μg/dl 以上) の5生率は IAP 低値群の5生率に比して有意に不良であった.非治癒切除例の遠隔成績は治癒切除例に比して著しく不良であり, IAP 高値群,低値群間に差は認められなかった.治癒切除例についてさらに背景因子を揃えて検討したところ, stage I+II, ps (-), n (-), v (-), ly (-) などのいわゆる早期と思われる症例でもIAP高値群の遠隔成績は低値群に比して不良であった.以上から,術前 IAP 値は胃癌手術術式選択時の有力な情報となりうると考えられた.
  • 溝江 昭彦, 田中 公朗, 浦 一秀, 井沢 邦英, 角田 司, 兼松 隆之
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1732-1737
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1975年1月から1987年12月までに教室で経験した胃癌切除症例493例を対象として,組織型別に臨床病理学的特徴及び予後を検討した.組織型は胃癌取扱い規約に基づき分化型癌と未分化型癌に分類した.症例の内訳は分化型癌が246例,未分化型癌が247例であった.性比及び平均年齢は分化型癌が2.2:1, 63.6±10.6歳,未分化型癌が1.3:1, 56.5±13.5歳と,分化型癌が有意に高齢 (p<0.001) で,男性に多かった (p<0.005). 占居部位では分化型癌はA領域に,未分化型癌は C・M 領域に有意に多かった (p<0.05). 深達度,脈管侵襲においても未分化型癌が有意に高度であった.組織学的stage別の累積生存率は,各stageとも両組織型間で有意差を認めず, stageが進むにつれ生存率は低下したが, stage Iでは5および10年生存率は分化型癌が82%, 74%で未分化型癌が91%,81%とむしろ未分化型癌が予後良好の傾向にあった.しかし,全症例の組織型別5および10年生存率では分化型癌が各々63%, 54%,未分化型癌が各々54%, 43%であり,累積生存曲線上有意に分化型癌の予後が良好であった (p<0.01). この予後の差は分化型癌の半数がstage Iに属し,未分化型癌に深達度の深い進行癌が多いことに由来すると考えられた.
  • 山本 宏, 浅野 武秀, 木下 弘寿, 菊池 俊之, 榎本 和夫, 小林 進, 長島 通, 磯野 可一
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1738-1741
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    無黄疸で発見された十二指腸乳頭部癌切除症例15例について術前黄疸を伴った症例40例と臨床病理学的に比較検討した.無黄疸例では無症状は6例あり,最初に異常を指摘された検査法は超音波検査 (以下US) が10例で最も多かった.黄疸の有無と肉眼形態,主腫瘍の大きさとの間には関連性を認めなかった.無黄疸例は黄疸例に比べ,病理学的に Oddi 筋を越える症例,十二指腸浸潤,膵浸潤,リンパ節転移を認める症例の頻度は低かった,無黄疸例の予後は黄疸例に比べ,術後1年から9年にかけて良好であった.無黄疸乳頭部癌の発見に努めることは切除例の一層の予後の改善に寄与するものと考えられる.
  • 太田 博俊, 上野 雅資, 関 誠, 土屋 繁裕, 木下 雅雄, 山田 博文, 照井 幸雄, 千葉 泰彦, 丸山 雅一, 坂谷 新, 小泉 ...
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1742-1746
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    近年の内視鏡的切除 (ERと略) の手技の向上は,多くの大腸早期癌を発見し,根治治療が行われるようになった.その中にあってER後sm浸潤が判明した症例に対しては,リンパ節転移もある事から開腹手術が必要であり,ER後のsm癌再手術例について検討した.(1)大腸 sm 癌症例中,腫瘍長径と,肉眼型別に見ると,20mm以上のIIa+IIcやI型はリンパ節転移率が高いのでERの適応外である.(2)sm癌を3つに亜分類すると, sm1はリンパ節転移はなく, sm2, sm3のリンパ節転移率は16~17%に見られた.(3)ER後再手術例のリンパ節転移陽性率は10.3%に認められた.(4)ERを施行してsm2以深と判明したときには,1ヵ月以内に搬痕を含め,リンパ節郭清をともなった治癒手術を行えば,リンパ節転移率は低かった.(5)内視鏡的切除の根治的治療の条件は長径20mm以下で一期的に取れるもの,断端陰性として取れること,高分化腺癌,sm1迄の深達度であること.
  • 西山 雷祐, 中村 達, 横井 佳博, 芹沢 淳, 西脇 由朗, 今野 弘之, 馬場 正三
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1747-1751
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    PIVKA-II (P-II) は肝細胞癌 (HCC) の腫瘍マーカーとして注目されている.P-II測定の臨床的意義をHCC70例について検討した.治療前の陽性率はP-IIが42.9%, α-fetoprotein (AFP) が65.7%であった.併用による診断率は81.4%で,両者間に相関はなかった (R=-0.014). P-IIの陽性率は腫瘍径および肝癌取扱い規約による肉眼的進行度と有意の相関を示した (p<0.05). 細胞分化度,予後規定因子である被膜浸潤,脈管侵襲および肝内転移の陽性率はP-II陽性例が陰性例より高率であったが有意ではなかった.しかし腫瘍径2cm以下の HCC でP-II陰性例の予後規定因子の陽性率は50% (7/14) であったが,P-II陽性例では全例 (2/2) に肝内転移が陽性であった.術後無病期間はP-II陽性例が陰性例より有意に短かった (p<0.05).
    これらのことからP-IIは HCC 診断に有用な腫瘍マーカーであり,腫瘍の進行程度と相関する. P-II陽性例は予後不良である.
  • 岩崎 武, 具 英成, 斉藤 洋一
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1752-1757
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    教室で経験した40歳以下若年者肝細胞癌15例の臨床的特徴について検討した.背景因子ではHBs抗原陽性例が78.6%と高率であったが肝硬変合併率は20%と低く,肝機能も比較的良好例が多かった.既往歴で8例に肝障害を認めたが経過観察を受けていたのは3例のみであった.初発症状では80%に腹痛を認めうち3例は肝癌破裂による急性腹症が診断の契機となった.腫瘍の臨床的進行度については腫瘍径10cm以上が53.3%, 多発例が80%に認められ診断時に大半がすでに高度進行例であった.予後は著しく不良で1年以上生存は3例のみであった.しかし一方で,その中には拡大肝葉切除により1年以上の長期生存が得られた症例も2例認められた.以上より若年者では肝障害が比較的軽微で受診機会が少ないこと,HBs抗原陽性率が高く肝細胞癌の発症が若齢化することを念頭においた継続的な経過観察が早期診断に重要と考えられた.
  • 泰川 恵吾, 中西 明子, 曽我 幸弘, 藤井 昭芳, 木村 恒人, 浜野 恭一
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1758-1762
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    各種手術患者97例に対して,硬膜外持続注入法による術後疼痛管理を施行した.持続注入には DIB カテーテル(ディブインターナショナル社製)を用い,ブプレノルフィン (0.6mg/day)を0.25%ブピパカインで希釈した薬液を術後約5日間持続注入した.このうち疼痛が自制内で,他の鎮痛処置を必要としなかった症例を有効例とした.この方法の有効率は92.8%と高率であった.
    また,術前術後の血液ガス分析結果を,硬膜外持続注入を施行しなかったコントロール群28例と比較したところ,ブプレノルフィンの副作用とされる呼吸抑制はほとんどみられなかった.その他の副作用も軽度で,頻度も少なかった.
  • 小松 誠, 小林 信や, 清水 忠博, 藤森 実, 金子 源吾, 菅谷 昭, 飯田 太
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1763-1765
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    超音波検査を契機とし診断し得た放射線甲状腺炎の1例を経験した.患者は56歳,9性.27年前に頸部悪性リンパ腫に対して放射線照射が行われた.同疾患のフォロー中,頸部ケロイド様皮膚癩痕により,悪性リンパ腫再発が疑われた.頸部ケロイド様皮膚痢痕は理学的所見,超音波検査, CT, 穿刺吸引細胞診により,再発ではなくケロイドと詫断した.甲状腺は触知不能であったが,頸部ケロイド様皮膚搬痕部の超音波検査中,作然甲状腺部を観察したところ,放射線甲状腺炎が疑われた.さらに血中甲状腺ホルモン検査により甲状腺機能低下症が判明した.稠漫性甲状腺疾患についても,特に甲状腺力触知不能な場合はなおさらに,超音波上特徴的な所見をとらえ,診断の一助とすることは臨床上有意義であると思われる.
  • 上野 貴史, 馬場 紀行, 川端 英孝, 杉谷 巌, 小池 道子, 山崎 善弥, 比田井 耕, 出月 康夫, 田山 二郎, 橋都 浩平
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1766-1770
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    成人後に発症した下咽頭梨状窩瘻による急性化膿性甲状腺炎の1例を経験したので報告する.症例は31歳男性.頸部の腫脹と発熱が出現し近医受診.亜急性甲状腺炎と診断されステロイド投与されたが症状悪化し当科受診した.臨床症状より化膿性甲状腺炎と診断し,ドレナージと抗生剤投与を施行したところ症状軽快した.炎症鎮静後の咽頭食道造影にて左咽頭梨状窩瘻が証明され根治術を施行した.手術にさいしては,瘻管とともに梨状窩底部も合併切除した.硬性咽頭鏡の使用が瘻管の同定に有用であった.
  • 井上 洋行, 三木 仁司, 大下 和司, 河野 宗夫, 駒木 幹正, 宇山 正, 門田 康正, 山本 洋介, 三木 啓司
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1771-1774
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は,53歳女性,慢性腎不全で約10年前より血液透析をうけていた.ここ2~3年,腎性骨異栄養症の症状が強くなってきたため,上皮小体全摘および自家移植術が施行された.腫大した1腺は,病理組織検査にて腺腫と診断された.他腺は,正常上皮小体組織であった.この症例は,三次性上皮小体機能充進症の範ちゅうにはいると思われた.
    Flowcytometryを用い,この腺腫のS期細胞分画を測定すると, 56%であった.これは他の続発性上皮小体機能充進症6例, 15腺(病理学的には全て過形成)のS期細胞分画の平均14.6%よりはるかに高い値であった.
  • 花上 仁, 奥村 輝, 向井 正哉, 久保 博嗣, 飛田 浩輔, 中崎 久雄, 田島 知郎, 三富 利夫
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1775-1778
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    内頸静脈拡張症は稀な疾患である.われわれは嚥下時の頸部不快感を主訴として来院した46歳の女性に頸部の超音波断層, X線-CTおよびDigital Subtraction Angiogra-phy (DSA) を行い右内頸静脈拡張症と診断し得た1例を経験した.全身麻酔下に拡張した右内頸静脈を切除したところ症状は完全に消失した.切除標本の病理組織学的検索では静脈壁は薄く平滑筋線維や弾性線維は少なく静脈形成不全を否定できない所見が得られた.頸部不快感や嚥下困難を訴える患者の診断に際して,本症は鑑別診断の1つとして念頭におくべき疾患と考えられた.
  • 丸山 祥司, 川崎 恒雄, 林 政澤, 出江 洋介, 長瀬 慈村, 野坂 俊壽, 櫻澤 健一, 上江田 芳明, 菊池 正教
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1779-1785
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    比較的稀な乳腺結核を経験したので報告する.症例は62歳女性.右乳房に直径3cmの腫瘤を自覚.近医受診し悪性疾患を疑われ当科紹介された.初診時乳房所見は右乳房C領域に30×15mm卵円形の腫瘤を触知.表面は凹凸不整で境界明瞭,腋窩リンパ節触知せず.血算,生化学検査では賄無し.ッ反15×18mmであったが,胸部X線写真に異常所見は認められなかった.マンモグラフィ,エコーも悪性を強く疑わせる所見であったため試験切除を施行した.組織診にて類上皮細胞, Langhans 巨細胞の出現を認め乳腺結核と診断された.術後ストレプトマイシン,イソニコチン酸ヒドラジド,リファンピシンを内服にて良好な経過をみた.
    乳腺結核は癌との鑑別診断は極めて困難であり生検による組織診断,結核菌の証明が重要である.乳腺腫瘍で念頭に置くべき疾患の一つである.
  • 後藤 博久, 増田 裕行, 春日 好雄, 金子 和彦, 丸山 正幸, 清水 忠博, 小林 信や, 菅谷 昭, 飯田 太, 山上 修, 勝山 ...
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1786-1790
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    比較的まれな乳腺原発の非上皮性悪性腫瘍である間質肉腫 (stromal sarcoma) の1例を経験したので報告する.
    症例は16歳,女性.右乳房D領域に3.2×3.0cm の表面平滑,境界明瞭で可動性良好な硬い腫瘤を触知した.穿刺吸引細胞診でClass IIIbであったので,確定診断のため局所麻酔下で腫瘤の摘出術を行った.組織学的診断では乳腺原発の間質肉腫と診断されたが, 16歳という年齢を考慮して乳腺のquadrantectomyを施行し,補助療法として化学療法を追加した.外来にて経過観察中であるが,術後2年6カ月の現在,局所再発や遠隔転移は認めていない.
  • 堀口 淳, 飯野 佑一, 石田 常博, 田子 俊彦, 高井 良樹, 竹尾 健, 小川 徹男, 横江 隆夫, 菅又 徳孝, 石北 敏一, 森下 ...
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1791-1794
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    乳腺分泌癌は稀な疾患で,若年者に多いとされている.著者らは,50歳と48歳の本症成人の手術症例を経験した.
    本症の本邦報告例は,自験例を含め18例であった.リンパ節転移を15例中5例 (33,3%) に認め,2例は再発死亡している.欧米での分泌癌の予後は良好と考えられているが,本邦の症例は必ずしも予後良好とは言えず,通常の乳癌に準じた術式の選択及びその後の補助化学療法が必要と考える.
  • 平田 恵三, 遠近 裕宣, 中尾 丞, 石井 俊世, 栄田 和行, 高原 耕
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1795-1798
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Recklinghausen病は,皮膚に多発する神経線維腫とCafé au lait spotsと呼ばれる色素斑を特徴とする遺伝性疾患であり,非上皮性悪性腫瘍の合併はしばしば見られるが,上皮性悪性腫瘍の合併は比較的少ない.乳癌の合併は本邦では18例の報告があるが粘液癌の報告は1例しかない.今回われわれはRecklinghausen病に合併した乳腺粘液癌の1例を経験したので報告する.症例は50歳女性.右乳房腫瘤で来院し,シュアカット針による生検で粘液癌と診断され,非定型的乳房切除術が施行された. t3n0M0のstage IIで, ER (+), PgR (+) であった. Recklinghausen病と合併した乳癌は, Stage II以上の進行癌であることがほとんどで,これは皮膚に多発した神経線維腫によって発見が遅れるのが原因と考えられる.また,粘液癌ではリンパ節転移陰性例が多いが,本症例でも腫瘍径が11cmと大きいにもかかわらずリンパ節転移は陰性であった.
  • 山下 裕也, 長尾 和治, 松田 正和, 馬場 憲一郎, 西村 令喜, 松岡 由紀夫, 上野 洋一, 樋口 章浩, 宮本 大典, 岩根 英治 ...
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1799-1803
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    筋肉内血管腫は,横紋筋肉内を浸潤するように発育し,皮膚や皮下に好発する通常の血管腫と異なり発生頻度が少ない.また多くが小児期に発症し,四肢が好発部位であることから小児外科や整形外科領域で論じられることが多い.われわれは,16歳女性の右広背筋,および28歳女性の左乳房下の大胸筋筋肉内に発生した本症の2例を経験したので報告する.理学所見では,広基性で可動性不良の腫瘤を触知し,ときに血管雑音が聴取される.画像診断上はCTが有用で,単純CT写真では筋肉とisodensityの腫瘍が胸壁に広く接し enhance すると不均一に強く造影され,診断的価値が高いと思われた.血管造影では不均一にモザイク状に造影され,流入血管が認められた.若い女性の乳房付近に発症すると乳腺腫瘍との鑑別を要するが,触診上乳腺腫瘍に比し広基性で可動性が不良で,エコー所見で腫瘍が乳腺外の乳腺後脂肪織下の筋肉内に位置する点が鑑別のポイントである.治療は外科的切除が原則で,再発を防ぐ意味から完全摘出が最も望ましい.
  • 国府 育央, 黒川 英司, 水本 正剛, 岸渕 正典, 森 浩志
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1804-1808
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Desmoid腫瘍は,通常,筋・腱膜構造より発生する線維性腫瘍であるが,骨組織に:生するものはdesmoplastic fibromaとして区別されている.今回,胸壁血腫を契機に見いだされた肋骨desmoplastic fibromaを経験したので報告する.症例は, 42歳女性,:傷歴は特になし.右胸痛にて近医受診. X線写真, CT検査にて右胸壁血腫を指摘され当科紹介となった.来院時,右第2肋骨部に陥凹が認められた.ドレナージ術を施行し,血腫はほぼ消失したが, X線写真, CT検査にて右第2肋骨に腫瘍像が認められた.同部のopen biopsyを行ったところ, desmoplastic fibromaと診断された.そこで,第1助骨下縁,第2肋骨を含めて腫瘍を切除し,胸壁欠損部は, Marlex meshで再建した.切除腫瘍は,非常に硬く,一部に嚢胞を認め,組織学的に肋骨原発のdesmoplastic fibromaであった.現在,術後32カ月で再発は認あられていないが,今後,厳重な経過観察を行う予定である.
  • 山口 広之, 太田 勇司, 井手 誠一郎, 白藤 智之, 吉田 一也, 仲野 祐輔, 足立 晃, 綾部 公懿
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1809-1815
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胸骨に原発した孤立性骨髄腫の1切除例を経験したので報告する.症例は68歳男性.主訴は前胸壁腫瘤.CTでは胸骨柄を中心に両鎖骨,両第一肋骨に及ぶsoft tissue densityのmassが存在,骨成分の侵餌像を認めた.
    骨シンチ, 67Ga. シンチ,全身骨X線からは他部の骨に異常を認めなかった.Ig-A, x鎖のM蛋白血症を認めたが,尿中Bence-Jones蛋白は陰性であった.胸骨体部,腸骨より行った骨髄生検では異常細胞を認めず,腫瘤の穿刺生検でplasmacytomaの診断を得たため,胸骨柄に限局した孤立性骨髄腫と診断し手術を行った.両鎖骨,両側第一,第二肋骨,胸骨体を一部含めて切除し, Marlexmesh, 大胸筋弁で胸壁再建を行った.腫瘤の大きさは,10.5×5.8×4.2cmであった.術後,M蛋白血症は消失し, 7カ月を経て現在,再発の徴候なく外来通院中である.
    本疾患と多発性骨髄腫との関連は充分に解明されておらず,また胸骨に原発するものは極めて稀のようであるが,積極的な外科的切除の意義は大きいと考える.
  • 星 永進, 池谷 朋彦, 安西 吉行
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1816-1820
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    開心術23年後に発見された胸腔内chronic expanding hematomaを報告する.症例は38歳の女性で卵巣嚢腫の術前検査としての胸部X線写真で異常を指摘された.胸部X線写真では左下肺野に径14cmの腫瘤影を認めた.腫瘤は横隔膜上で心後縁に位置した.胸部CTおよびMRI上,腫瘤の辺縁は平滑だが内部は一部石灰化を伴い不均一であった.縦隔腫瘍と診断し手術を施行した.腫瘤は心膜に浸潤していると思われた.術中迅速病理診断を施行し,悪性所見なしとの診断を得て可及的に切除し手術を終了した.術後病理診断は線維性被膜に被われた血腫であった.開心術に起因したchronic expanding hematomaと判断した.
  • 佐藤 栄吾, 川崎 恒雄, 丸山 祥司, 出江 洋介, 青井 東呉, 野坂 俊壽, 上江田 芳明, 三井 清文, 菊池 正教
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1821-1825
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,稀な原発性肺平滑筋肉腫の2例を経験したので報告する.症例1は湿性咳歎を主訴とした54歳の女性.胸部X線写真上右中肺野に3.6×2.8cm大の腫瘤陰影を認め,右肺中葉腫瘍の診断で右中葉切除施行した.症例2は,健診にて左下肺野の腫瘤陰影を指摘された41歳の男性.左肺下葉腫瘍の診断で,左下葉切除・縦隔リンパ節郭清を施行した.両者とも病理組織像は肺平滑筋肉腫で,全身検索にて他に原発巣を認めず肺原発と診断した.原発性肺肉腫の頻度は,全肺悪性腫瘍の0.2~2%といわれている.本邦での成毛らの報告では,原発性肺肉腫のうち,平滑筋肉腫は約3割を占め最も頻度が高い.現在本邦では自験例を含め87例報告されているのみである.
  • 金川 泰一朗, 岡島 邦雄, 河合 達, 山田 眞一, 水谷 均, 石橋 孝嗣, 丸川 治, 中村 明裕, 南 俊二, 泉 信行, 馬淵 秀 ...
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1826-1831
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は76歳女性,主訴は嘔気で,胸・腹部単純X線にて右胸腔内と左横隔膜下に鏡面形成を有したガス像を認めた.消化管造影にて胃前庭部と横行結腸が右胸肋三角部より右胸腔内へ脱出し, Morgagni孔ヘルニアと診断した.さらに胃透視と内視鏡にて幽門部の陥凹性病変を診断し,低分化腺癌を確診した.上腹部正中切開にて開腹し, Morgagni孔より胃,横行結腸,大網を腹腔内へ還納し,ヘルニア嚢を切除しヘルニア門を閉鎖した後,幽門側胃切除術,リンパ節郭清術を行った.本邦において1990年までに報告され検索しえた Morgagni 孔ヘルニアの232例(自験例を含む)を集計し報告した.自験例のごとく脱出臓器に悪性腫瘍を併存した例はこれまでに報告はなかったが,成人のMorgagni孔ヘルニアには,脱出臓器の悪性腫瘍を含めた病変の検索を念頭におく必要があると思われた.
  • 湯淺 右人, 村林 紘二, 林 仁庸, 北村 純, 中野 英明, 長沼 達史, 松田 信介, 櫻井 洋至, 井戸 政佳
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1832-1836
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    食道憩室は比較的しばしば見られる疾患であるが,ほとんどが無症状で外科的適応となる症例は少ないとされる.また造影上5×5cm以上の食道憩室を巨大食道憩室と呼ぶがこれらの報告例も稀なものである.今回われわれは下部食道に発生した巨大食道憩室症の1例を経験したので報告する.
    症例は60歳男性.嚥下困難・嘔吐にて発症し,食道透視にて大きさ鶏卵大の食道憩室と診断された.症状が軽いために特に治療を受けなかったが,発症3年目に症状の増悪を認めたため当科受診し,消化管造影にて胸部下部食道左壁に基底部3.5cm,大きさ7.0×5.0cmの食道憩室を指摘された.憩室切除術を施行したが,病理組織学的には固有筋層をわずかに認める仮性憩室で,内圧性憩室であると思われた.
    巨大食道憩室症の本邦報告例20例を検討するとともに,文献的考察を加えた.
  • 藤野 啓一, 市倉 隆, 猪川 弘嗣, 冨松 聡一, 上藤 和彦, 平出 星夫, 玉熊 正悦, 松熊 晋
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1837-1841
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Barrett食道からの発生が考えられる食道腺癌2例を経験した.〔症例1〕は35歳男性で,嚥下困難を主訴に来院. ImE1領域の全周性の潰瘍限局型で,外膜に達する中分化腺癌であった.腫瘍の表面の一部には重層扁平上皮の残存がみられるものの,大部分は異型円柱上皮に覆われBarrett食道に発生した腺癌と診断した.〔症例2〕は74歳男性で,嚥下困難を主訴に来院. EI領域の全周性の隆起型で,固有筋層にとどまる乳頭状腺癌であった.腫瘍の口側には異型のない特殊円柱上皮が認められBarrett食道を基盤として発生した腺癌と診断した.なお本症例は術後仮性肝動脈瘤の肝内破裂を合併したが,TAEにより救命し得た.
  • 向井 正哉, 花上 仁, 石川 健二, 飛田 浩輔, 久保 博嗣, 水谷 郷一, 田島 知郎, 三富 利夫
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1842-1846
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は58歳,男性. 38年前より血友病Aと診断され他院通院中であった.今回は多量のタール便と動悸を主訴に来院した.来院時Hgb4.4g/dlと高度の貧血を認め,緊急胃内視鏡検査を施行した.胃幽門部前壁大弩側にAlstageの出血性潰瘍を認めたため,無水アルコールで止血した.潰瘍は周堤様隆起を伴い癌性潰瘍も否定できず,後日生検を施行した結果中分化腺癌と診断された.また術前の精査で胆石症も指摘された.輸血にて貧血は改善したが,血液凝固系は,PTT71秒(<47秒),第VIII因子活性14% (70%〓)と著明な出血傾向を認めた.このため術前から第皿因子製剤の大量補充療法を開始しところ,手術当日はPTT 45秒,第VIII因子活性90%と著明な改善を認めた.手術は胃亜全摘術リンパ節郭清R2および胆嚢摘出術を施行し,術後合併症なく第28病日目に軽快退院した.
  • 山下 好人, 冬廣 雄一, 竹内 一浩, 繁澤 晃, 国頭 悟, 西口 幸雄, 馬場 満, 小川 佳成, 奥野 匡宥, 曽和 融生
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1847-1851
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    単純性小腸潰瘍はCrokm病,Behget病などを除いた,発生原因不明の小腸潰瘍とされる.潰瘍数は単発または少数個とされ,穿孔を伴う多発例の報告は非常に少ない.今回多発性の穿孔をきたした単純性小腸潰瘍の1例を経験したので若干の文献的考察を加タ報告する.
    症例は75歳男性.下腹部痛を主訴として来院した.腹部単純X線検査にて腹腔内遊萬ガス像を認め,消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断にて緊急手術を施行した.手術戸見では回腸終末部より口側約30cmにわたる回腸に合計9個の小潰瘍が多発し,そのうち2ヵ所が穿孔していたため,回腸部分切除術を行った.臨床像ならびに病理組織学的精査から, Crohn病, Behget病,腸結核などは否定され,単純性小腸潰瘍と診断された.単純性小腸潰瘍は単一の疾患ではなく,今後,この中から新しい疾患単位が生まれる可能性があると考えられる.
  • 切除標本パラフィン包埋ブロックからのpolymerase chain reaction (PCR)法による起炎菌の検出
    小林 正直, 小林 淳一, 水垣 伸, 渡辺 一三, 葉山 幸泰
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1852-1856
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Yersinia pseudotuberculosis (Y. ptbc)による急性回腸末端炎の1切除例を報告する.症例は18歳男性で,下腹部痛,発熱を主訴に入院した.急性虫垂炎を疑い,第1病日に手術を行った,虫垂は正常で,多数の腸間膜リンパ節腫大がみられ,回腸末端部は腫瘤様に腫大していたため,回盲部切除術を行った.回腸末端部粘膜は浮腫状,著明に発赤,腫大し,不整形の廉燗を形成,これに連続し,回腸粘膜には大脳回様に連なる結節性隆起を認めた.病理組織像では回腸粘膜のリンパ濾胞の著明な腫大があり,表層部には魔燗や潰瘍形成が見られた.組織球,類上皮細胞が壊死,微小膿瘍を取り囲んで肉芽腫を形成しており, Yersinia腸炎の所見を呈していた.摘出標本パラフィン包埋組織プロックから, PCR (polymerase chain reaction) 法にて, Y.ptbcを検出した.血清抗体価検索ではY. ptbcに1,280倍まで凝集した.以上よりY. ptbcによる急性回腸末端炎と診断した.
  • 小松 正伸, 高田 知明, 川村 昌, 宮嵜 直樹, 三宅 毅, 加藤 紘之, 田邊 達三
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1857-1861
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肛門脱出を繰り返したS状結腸多発癌の1例を経験した.症例は80歳女性で,腫瘤の肛門脱出を主訴に来院した.諸検査にてS状結腸に存在する2個の腫瘍が,腸重積を来して肛門外に脱出したものと診断し,S状結腸切除術を施行した.病理組織検査では共にIp,大きさ3.4×3.7×2.2cmと3.2×3.0×2.0cm,粘膜内に留まる高分化腺癌であった.近傍に腺管腺腫と化生性ポリープを伴っていた.
    本邦における腫瘍の肛門脱出の報告26例を検討したが,多発癌の肛門脱出は自験例が初めてであった.
  • 浅井 晶子, 安藤 道夫, 櫛田 俊明, 三宮 建治, 山崎 眞一, 松山 和男, 佐木川 光, 山本 洋介
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1862-1866
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は69歳の男性.下血を主訴として来院.直腸に隆起性病変が認められ,生検にてカルチノイドと診断された.血中セロトニンは軽度上昇,尿中5-HIAAは正常で,カルチノイド症候群の発現は認められなかった.腹部CT及び超音波検査では肝両葉に径5×4cm大の腫瘤を最大に数個の腫瘤が認められ,腹腔動脈造影では hyper-vascular lesion は認められなかった.手術は直腸切断術,肝動脈結紮・挿管術を施行した.直腸腫瘍は, RbRa 1型, 3.0×3.5cm, A2P0H2N3(+)であった.術後リザーパーから5-FU, MMC, FARを投与し,術後1カ月半で肝右葉の径5cm大の腫瘍は著明に縮小した.直腸カルチノイド肝転移巣は一般に多血性であることが多いため阻血療法が効果的であるとされている.今回われわれが経験した肝転移巣は非多血性腫瘍であったが,本症例においても肝動脈結紮術・動注化学療法が効果的であった.
  • 川俣 光, 佐藤 徹, 堀内 誠, 牧田 俊宣, 上田 和光, 福島 元彦, 井上 恒一, 小池 正
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1867-1870
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は46歳,男性.平成2年8月に肝細胞癌破裂にて開腹止血術,術後TAEを施行した既往があった.平成3年8月10日下腹部痛を主訴に当院受診.初診時血圧60/40mmHg, 脈拍130回/分, Hb8.1mg/dlで,腹部は軽度膨満し,波動を認め,下腹部全体に圧痛, Blumberg徴候を認めた.また,右下腹部には直径約10cm大の可動性の腫瘤を触知した.腹部CT検査等より,転移性小腸腫瘍破裂による腹腔内出血を疑い緊急手術施行.腹腔内には, 1,300mlの血液が貯留し,大網に直径約12×10cmの腫瘍を認めた.肝癌大網転移の破裂による腹腔内出血と診断し,腫瘍摘出術を施行した.術後経過は良好で,病理組織学的にも肝癌の大網転移破裂と診断された.肝細胞癌の腹膜播種性転移は2~6%と比較的稀であり,その転移性大網腫瘍の破裂を来たした報告例は本邦にはなく,また本症例は2度にわたり腹腔内出血を来たしたものであり,極めて稀な1例と思われたので報告する.
  • 白鳥 隆, 渡辺 泰博
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1871-1875
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆嚢穿孔には時々遭遇するが,その多くは胆石・胆嚢炎が先行し,病態の進行・悪化と共に穿孔する事が多く,胆石・胆嚢炎を認めないいわゆる原因不明の特発性胆嚢穿孔は今まで本邦では16例報告されているに過ぎない.症例は75歳男性.突然の心窩部痛出現し,増強する為,当院へ緊急入院となった.腹膜炎を疑い, Echo. CT施行したところ,腹水貯留が認められ,腹腔穿刺にて胆汁様腹水が吸引された.緊急開腹術施行し150mlの胆汁様腹水貯留と共に,胆嚢体部腹腔側に穿孔を認め胆摘術にて救命し得た.しかし胆汁細菌培養陰性,胆石・胆嚢炎合併なく,術中胆造道影では,総胆管結石,膵胆管合流異常なく,周囲臓器の異常もなく原因不明であった.胆石・胆嚢炎を認めない特発性胆嚢穿孔は診断困難であり,放置されれば致死的となる為,その診断と治療について文献的考察を加え報告する.
  • 小暮 公孝, 石崎 政利, 根本 雅明, 村谷 貢, 小川 晃男, 内田 聡
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1876-1880
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    61歳,男性の胆嚢腺扁平上皮癌症例に対し肝中央2区域切除を含む胆嚢摘出術,リンパ節郭清 (R2), 右半結腸切除を行った症例を報告した.
    患者は右季肋部に手拳大の腫瘤を指摘され超音波ならびにCT診断により胆嚢悪性腫瘍と診断された.切除標本では充実性の黄白色の腫瘍が胆嚢内に充満し直接,肝臓と横行結腸に浸潤していた.リンパ節は12aと8aに小指頭大の腫脹を認めた.組織学的には腺癌細胞の中に角化傾向,癌真珠の形成を伴った扁平上皮癌細胞の癌胞巣が混在し中分化型腺扁平上皮癌と診断された.術後経過は良好で10カ月後の現在,社会復帰している.
    臨床病理学的に独特な特徴を持つ本症に対し主に扁平上皮癌の組織発生を中心に文献的考察を加え報告した.
  • 藤川 亨, 吉田 和彦, 片山 隆市, 串田 則章, 岡部 紀正, 桜井 健司
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1881-1884
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    われわれは比較的稀な孤立性脾膿瘍の1例を経験したので報告する.症例は老年痴呆をもつ73歳男性で, 1990年7月24日より,脳梗塞,心房細動のため近医にて入院加療を受け, 10月2日軽快退院した.退院後,微熱,腹痛が持続していたが, 10月8日になり高熱が出現したため,精査目的にて当院へ入院した.入院後,腹部CTにて大きさ11×10×13cm大の孤立性脾膿瘍が認められた.本症例の手術危険度は高いと判断し,種々の抗生剤療法を行ったが,膿瘍の縮小は緩徐で,腹痛消失せず,保存的治療では限界のため,11月13日手術を施行した.脾臓が左結腸曲と高度の炎症性癒着を起こし一塊となっていたため,癒着を剥離し脾摘術を施行した.摘出標本では,脾実質内に6×4×11cmの膿瘍とその周囲の搬痕巣,さらに脾動脈内に新旧の多発性血栓を認めたことより,脾梗塞に続発した膿瘍と推察された.
  • 本邦報告例74例についての検討
    藤井 輝彦, 梅谷 博史, 大森 康弘, 橋本 峰一, 野明 俊裕, 檜垣 賢作, 八塚 宏太, 板野 哲, 掛川 暉夫
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1885-1891
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    副腎骨髄脂肪腫は非機能性の良性腫瘍で,比較的稀な疾患であるが,本疾患を2例経験したので報告した.症例1は36歳男性で,腹部腫瘤を主訴とし,両側副腎の良性腫瘍金と診断し,腫瘍摘出術を行った.症例2は高血圧,糖尿病のある48歳の男性で,腹部超音波検査で偶然,右副腎の腫瘤を指摘された.右副腎脂肪腫の診断で,腫瘍摘出術を施行した.2例とも,摘出標本の病理組織学的検査で副腎骨髄脂肪腫と診断された.本疾患の本邦報告例は自験例を含めて74例であった.平均年齢は51.8歳,やや男性に多く発生部位は右側に多く,平均重量は405.6gで,症例1は本邦報告例中最大で2.560gであった.診断には,CTscan,超音波検査,MRIなどが有効である.治療は,疼痛などの症状のあるものや腫瘍が大きく出血の危険のあるものを切除の対象とし,腫瘍が小さく症状を伴わないものは厳重に経過を観察するべきだろう.
  • 岸 清志, 森脇 誠司, 古本 豊和, 河村 良寛, 水本 清, 加藤 一吉, 田中 孝幸, 松田 公志
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1892-1896
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下副腎摘除術は泌尿器科領域で少数例が報告されているが,外科領域での報告は未だない.今回Cushing症候群の1例に本法を施行し,極めて良好な経過が得られたので症例の概要を報告する.症例は23歳,独身女性,右副腎の直径2.7cmの腺腫によるCushing症候群で, 1992年11月4日腹腔鏡下に手術を行った.体位は左約60度の側臥位で,トロッカーは11mmを4本,5mmを1本挿入した.大網および結腸の癒着はほとんどなく,肝右葉を持上げると副腎腫瘍が容易に膨隆して見えた.後腹膜を切開し,副腎を周囲より剥離,副腎動静脈をクリッピングし, endopouchに納めてこれを取りだした.手術時間2時間41分,出血量20グラム.術後経過良好にて8日目に退院した.本法は従来の経腹式あるいは経腰式到達法に比較し,術後の回復はきわめて早く,創も小さいなど利点は多く,今後副腎外科に積極的に導入すぺきと考えられた.
  • 森脇 義弘, 鬼頭 文彦, 秋山 浩利, 岡田 賢三, 福澤 邦康, 岡田 卓子, 今田 敏夫, 須田 嵩, 竹村 浩, 中村 宣子
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1897-1900
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    きわめてまれな腎由来の腫瘍を経験したので報告する.症例は30歳,女性.妊娠第7ヵ月の定期検診で左上腹部腫瘤を指摘され,当科を紹介された.受診時左肋骨から贋にいたる表面平滑,辺縁整,境界明瞭,可動性のない弾性軟の腫瘤を触知した.腹部computed tomography (CT), 左腎動脈造影検査などから左腎の血管筋脂肪腫を疑い,手術を行った.腫瘤は後腹膜に存在し,左腎から生じたものと思われたが,他の臓器,大血管への浸潤はなく,腎と共に摘出した.摘出標本は1,760g, 22×5×7cmのよく境界された天白色,均一な充実性腫瘤で,組織学的には,細胞成分に乏しくほとんどがピアリン化した基質であった.まれに尿細管に似た管腔構造も認められたが,脂肪成分や血管成分,平滑筋成分は少なく,悪性所見は認められなかった.病理組織学的に既存のどの疾患にも該当しないが,腫瘍の性格としてnephrogenesisの過程でおきた過誤腫の一種と考えられた.
  • 千野 修, 水谷 郷一, 徳田 裕, 向井 正哉, 花上 仁, 三神 美和, 杉原 隆, 佐々木 哲二, 田島 知郎, 三富 利夫
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1901-1904
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    われわれは分娩を契機に発症した先天性下肢動静脈瘻の1例を経験したので報告する.症例は55歳女性,左膝部拍動性腫瘤および熱感を主訴に来院した. 31歳時第1児出産を無痛分娩にて行っているが,下肢への外傷の既往はない.血管造影の結果,左深大腿動脈,浅大腿動脈および膝窩動脈に多発性動静脈瘻を認め,左膝関節上部には血管腫を認めた.治療は交通血管に対しては手術的に結紮切除術を,血管腫に対しては経動脈的コイル塞栓術を施行した.術後,症状は消失し血管腫は縮小した.第38病日に軽快退院し現在も再発の徴候はない.
  • 梅林 雄介, 山田 和彦, 福元 祥浩, 石崎 直樹, 森山 由紀則, 福田 茂, 石部 良平, 西元寺 秀明, 下川 新二, 豊平 均, ...
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1905-1907
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    僧帽弁置換術を行った49歳男性に発症したアレルギー性紫斑病を経験した.初発症状は出血斑と関節痛であったが,一時消退した後腹痛を伴って再燃した.腹部超音波検査 (US) で腸管壁の肥厚を認め,絶食で保存的に治療していたところ回盲部に腫瘤を触知するようになり, US上multiple concentric signが認められ腸重積症と診断した.直ちにステロイド投与を開始したところ腸重積は解除され,腸管壁肥厚が軽減していく様子が観察された.経過中IgA, IgGが高値を示し, speckled型抗核抗体が陽性であった.皮膚生検で毛細血管にIgAの沈着が証明された.
    本症の消化管病変の診断および治療効果を判定する上で腹部超音波検査が有用であった.
  • 中口 和則, 川西 賢秀, 菰池 佳史, 伊沢 光, 西部 俊三, 岡島 志郎, 畠中 秀雄, 陶 文暁, 赤木 愛彦
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1908-1910
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は12歳の女性,腹痛を主訴として来院した.術前検査では白血球数の増加と腹部単純レントゲン検査で腸管ガスの圧排像を認めた.急性腹症の診断で手術を施行した.詰腸脾蛮曲周囲の結合織より発生した巨大な嚢胞性腫瘤が大網を巻き込み180度捻転していた.周囲組織より剥離し腫瘤を摘出した.病理組織診で嚢胞性リンパ管腫と診断された.内容物は多数の白血球と赤血球および炎症性滲出物であった.
  • 島貫 公義, 宮田 道夫, 佐竹 賢仰, 早田 邦康, 佐藤 敏昭, 羽田 原之, 清崎 浩一, 山田 茂樹, 柏井 昭良
    1993 年 54 巻 7 号 p. 1911-1916
    発行日: 1993/07/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    悪性腫瘍の筋肉転移は稀であり,リンパ腫,肺癌,乳癌,腎癌,大腸癌,膵臓癌,胃癌,胆嚢癌,子宮頸癌などを原発とする報告がみられるが,食道扁平上皮癌による単発性の筋肉転移は極めて稀であり,食道癌根治術後1年目に発症した症例を経験したので報告する.
    症例は60歳,男性,左大腿部の有痛性腫瘤を主訴とし,超音波検査にて嚢胞性の腫瘤を認め,吸引細胞診にて悪性細胞を認めず,経過観察をしていたが,腫瘤の増大傾向を認め,精査・腫瘤切除目的に入院となった.大腿四頭筋中間広筋内に,CT検査にてlowdensity, MRI検査,T1強調にてlowintensity,T2強調でhighintensityの腫瘤を,血管造影では血管新生像,腫瘍濃染像を認めた.大腿部原発の悪性病変を疑い腫瘤切除を施行し,病理所見にて食道癌筋肉転移と診断された.癌根治術後に発症した単発性筋内腫瘤に対しては常に筋肉転移を考慮する必要があるものと思われた.
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