日本臨床外科医学会雑誌
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56 巻, 4 号
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  • 柄松 章司, 安藤 重満, 榊原 堅式, 浦上 年彦, 辻 秀樹, 小林 徹, 岡平 樹洋, 牧野 直樹
    1995 年 56 巻 4 号 p. 679-687
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    近年,MRIが甲状腺腫瘤の診断に用いられる様になったが,その評価は定まったとはいえない.今回,当科で手術を施行し,病理診断の確定した腫瘤性病変のMRI画像を検討したので報告する.対象は甲状腺腫瘍149病変,その内訳は腺腫39病変,腺腫様甲状腺腫44病変,嚢胞13病変,乳頭癌46病変,濾胞癌7病変である. MRIはT1, T2およびプロトン強調像を撮影し,病巣の信号強度,腫瘍内容の性情,被膜の描出能および辺縁の性情の4項目を検討した.その結果,以下の結論を得た. 1. 嚢胞は病巣の信号強度および被膜の無いことより,腺腫は内容が均一で被膜が有ることより診断が可能であった. 2. 1cm以下の乳頭癌は過半数が描出されなかった. 1cmを超える乳頭癌は内容が不均一で部分的で不整な被膜を持つものが多かった. 3. 濾胞癌は腺腫と同条件に描出された. 4. 充実性腫瘍は大半がT1強調像iso, T2強調像highとなり,信号強度による良・悪性の鑑別は困難であった.
  • 今村 洋, 芳賀 駿介, 清水 忠夫, 渡辺 修, 小林 浩司, 木下 淳, 南雲 浩, 梶原 哲郎
    1995 年 56 巻 4 号 p. 688-692
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    乳房温存療法における乳腺部分切除の適切な切除範囲を知る目的で,浸潤性乳管癌に認められる乳管内進展巣(DS)のひろがりを検討した.浸潤性乳管癌50例を対象とし,癌巣の浸潤部とDSとを区別し腫瘍構築図を作成, DSのひろがりにより,DSを認めない(-)群, 1~10mmまでの範囲で認める(+)群, 11mm以上までおよぶ(++)群に分け臨床病理学的事項との関係をみた.さらにDS (+), (++)各群で浸潤部周囲のDS量を評価し, DSのひろがりとの関係について検討した. (1) DS (-)群は16例, DS (+)群は20例, DS (++)群は14例であった. (2)各群と年齢,組織型,脂肪浸潤,リンパ管侵襲などの臨床病理学的事項との間には特に関係はなかった. (3) DS (+)群では35.0% (7/20例), DS (++)群では64.3% (9/14例)に浸潤部周囲の豊富なDSの存在を認めた.以上の結果より浸潤部周囲の乳管内進展巣が豊富なものは癌の広範囲な進展が示唆され,乳房温存療法に対しては慎重に対処すべきと考えられる.
  • 桧垣 健二, 塩崎 滋弘, 花岡 奉憲, 井上 秀樹, 森山 裕煕, 小野田 正, 大野 聡, 二宮 基樹, 池田 俊行, 小林 直広, 岡 ...
    1995 年 56 巻 4 号 p. 693-698
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    t3乳癌は, t2乳癌に比べその予後は不良である.その原因を調べる目的で, 1980年1月より1992年12月までに当科で手術が施行されたt3乳癌89例を対象とし,予後不良因子について検討した.予後因子としては,閉経状態,腫瘤径,遠隔転移の有無, n-number, 病理組織型,組織波及度,腫瘍および真皮のリンパ管侵襲度,静脈侵襲度,皮膚への浸潤の深さ,皮膚への浸潤の拡がり,炎症細胞の発現,リンパ節転移数,手術術式,リンパ節郭清度, ER, PgR, 術後治療の18因子を選択した.
    これらの因子の解析はCoxの比例ハザードモデルをSAS (Statistical Analysis System) を使用して,変数後退法により行った.その結果,腫瘤径,遠隔転移の有無,リンパ節転移数,組織型,腫瘍の静脈侵襲度の順に予後因子としての重みを認めた.以上より, t3乳癌の予後が不良な原因は,癌が皮膚や筋肉に浸潤していること自体によるものではなく,t3乳癌はt2乳癌がさらに進行した形としてとらえるのが妥当であると考えられた.
  • 浦山 博, 川上 健吾, 笠島 史成, 小杉 郁子, 田畑 茂喜, 渡辺 洋宇
    1995 年 56 巻 4 号 p. 699-701
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹部大動脈瘤術後の虚血性大腸炎の予防としての下腸間膜動脈の再建は常に施行されるべきか否かの比較検討を行った.過去5年間に手術を施行した非破裂性腹部大動脈瘤50例のうち下腸間膜動脈の閉塞していた4例を除く46例にて比較した.前半の27例では人工血管による再建が終了した時点で下腸間膜動脈の断端圧測定とドプラー血流計によるS状結腸間膜の血流測定を行い,9例に下腸間膜動脈を再建した.後半の19例では全例において下腸間膜動脈の再建を行った.選択的と恒常的再建群において手術侵襲や術後の経過を比較した.選択的と恒常的下腸間膜動脈再建群の背景において年齢,性別,開腹手術の既往,内腸骨動脈の血流温存に有意な差は認めなかった.選択的再建群と恒常的再建群において術中出血量,手術時間に有意な差異は認めなかった.虚血性大腸炎はいずれの群においても認めなかった.術後合併症例を除いた選択的再建群と恒常的再建群において経口摂取や退院までの日数に有意な差異は認めなかった.恒常的下腸間膜動脈再建の有用性の立証には更なる検討が必要であった.
  • 鈴木 弘治, 宮崎 卓哉, 笠原 彰夫, 奥川 保, 森永 聡一郎, 蓮尾 公篤, 小野寺 誠悟, 野口 芳一, 山本 裕司, 今田 敏夫, ...
    1995 年 56 巻 4 号 p. 702-707
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1980年から1992年までに当科で経験した術後急性胆嚢炎22例を重症例と軽症例に分類し,重症度の差による術後急性胆嚢炎の臨床的特徴について検討した.
    術後急性胆嚢炎の重症例は11例認められ,これら重症胆嚢炎症例は原疾患手術後に胆嚢炎以外の重篤な合併症を伴ったものが多く,高齢者に高率に見られた.また原疾患別では消化器癌より心血管疾患に重症胆嚢炎が多かった.重症胆嚢炎11例中死亡例は5例であり,胆嚢摘出術,胆嚢外瘻,保存的治療とも死亡率50%であった.PTGBDは1例のみであったが治癒し,軽症胆嚢炎はほとんど保存的治療で治癒した.重症の術後急性胆嚢炎は原疾患手術後に重篤な合併症を伴ったものや高齢者など抵抗力の弱った状態に多く発症するため,早急に重症度を判定し,重症胆嚢炎にはPTGBDなどのより侵襲の少ない治療法を選択することが重要である.
  • 大石 均, 岡村 教生, 山崎 猛, 依光 好一郎, 東野 廣也, 高橋 知秀, 中村 陽一, 高野 靖悟, 岩井 重富, 田中 隆, 早川 ...
    1995 年 56 巻 4 号 p. 708-712
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は64歳女性,肛門癌のためMiles手術をうけ,その際に施行された輸血(保存血400ml)により,輸血後移植片対宿主病(TA-GVHD)に罹患した.輸血後10日目より高熱が持続し,紅皮症となり汎血球減少を併発し輸血後21日目に死亡した.本患者には免疫不全症はなく,輸血量も少量である極めて稀な症例と考えられる.確定診断はHayakawaらの方法により未梢血中のキメラ現象を, Y染色体陽性のリンパ球より確認した.この方法は検査時間が短く正確であり,患者が女性の場合には極めて有効である.
  • 三好 和也, 松井 武志, 雁木 淳一, 和久 利彦
    1995 年 56 巻 4 号 p. 713-717
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は68歳女性.右前胸部の硬い腫瘤を主訴に来院し精査目的にて入院となった.胸部CT検査では第5肋骨に接して胸壁の内外に膨張性に増殖した腫瘍を認めた.Gascintigraphyでは腫瘤に一致して明らかな集積を認めた.術前の切開生検では確定診断をえられず,腫瘍縁から十分に離して,腫瘍を含んだ胸壁全層切除を行った.切除した標本の病理組織学的検索によりstriform-pleomorphic patternを示す悪性線維性組織球腫(Malignant Fibrous Histiocytoma, 以下MFHと略記)と診断された.MFHの好発部位は四肢とされ,胸壁軟部組織に原発するのは比較的まれである.本症例をふくめた22例の本邦報告例の集計とともに報告する.
  • 中島 清一, 宗田 滋夫, 吉川 幸伸, 奥野 慎一郎, 森 匡, 栗原 陽次郎
    1995 年 56 巻 4 号 p. 718-722
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝硬変に伴う食道静脈瘤に対し内視鏡的硬化療法(以下EIS)の既往を持つ65歳の男性で中部食道の早期癌に対し手術を施行した.組織学的には腫瘍は粘膜内に限局していた.原発部位については粘膜筋板はよく保たれていたが下部食道ではEISのためにほぼ消失していた.従って本症例においてはEISと発癌との因果関係はないと判断した.
    自験例を含めたわが国での同様の15の報告例は全例男性で平均年齢は58.4歳,硬化剤の種類や量,注入法,発癌までの期間やstageに特定の傾向はなかった.早期の5例はEIS後3~6カ月毎にfollowされており予後良好であった.
    EISと発癌との関連を完全に否定する事は依然困難であるが, EISを施行されている患者に対しては食道癌の見逃しのないよう厳重な経過観察が重要であると思われた.
  • 長田 真二, 種村 廣巳, 大下 裕夫
    1995 年 56 巻 4 号 p. 723-727
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    61歳女性.左上腹部腫瘤を触知し来院.消化管検索にて,中心壊死を伴った胃外発育型平滑筋肉腫を診断し, 1986年6月16日胃部分切除を行った.なお,リンパ節郭清は行わなかった.腫瘍は26×23×6cm大で1,570gであり,薄い被膜を認め,組織学的にも平滑筋肉腫と診断された.初回手術より6年6カ月の間に,まず胃近傍における再発を初めとして以降3回の腹腔内再発を来した.最初の再発に対して胃幽門側切除,膵体尾脾切除,横行結腸切除,空腸部分切除を行い,以後腫瘍切除術, S状結腸切除術,空腸部分切除術を施行した.すべての再発巣は組織学的にも平滑筋肉腫と診断された.再発の原因として手術操作による腫瘍散布が推察された.切除可能な腹腔内再発に対して積極的な外科的切除を行うことで,予後の改善が期待されると考えられた.
  • 遠藤 正人, 川村 功, 宮沢 幸正, 佐久間 洋一, 児玉 多曜, 長尾 孝一
    1995 年 56 巻 4 号 p. 728-731
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    早期胃癌に重複した原発性胃悪性リンパ腫の極めてまれな1例を経験し,術後化学療法を施行し,良好な経過をえたので報告する.患者は76歳,男性.住民検診にて胃腫瘍を指摘され,精査目的に入院となった.上部消化管内視鏡検査,生検にて前庭部前壁側中心のBorrmann 2型胃癌と診断し幽門側胃切除を施行した.病理組織学的所見にて, IIcの粘膜下組織に浸潤を示す中分化腺癌とdiffuse type, B cell typeのnon-Hodgekin悪性リンパ腫の同時性重複癌と診断された.術後化学療法として悪性リンパ腫に対してCHOP療法を1クール施行した.また胃癌に対しては, doxifluridineを経口投与をした.術後経過は良好で術後3年6カ月再発をみず健在である.良好な転帰をえるためには,癌腫とリンパ腫の進行度を十分に考慮した手術療法ならびに化学療法,放射線療法の併用による集学的治療が有用であると考えられた.
  • 板野 聡, 寺田 紀彦, 橋本 修, 松川 啓義, 吉村 平
    1995 年 56 巻 4 号 p. 732-736
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    進行胃癌と有茎性に胃外性発育した胃平滑筋肉腫が併存した稀な症例を経験したので報告する.症例は心窩部痛を主訴とする62歳の男性.胃透視と胃内視鏡検査にて,前庭部後壁の進行癌(高分化腺癌)と診断され,手術目的にて入院した.術前のCT検査で,体部大蛮の壁外に腫瘤を認めたが,リンパ節転移と診断された.手術は胃亜全摘術(D2)が行われ,術後の組織学的検討でこの腫瘤は有茎性に胃外性発育した固有筋層由来の平滑筋肉腫と診断された.胃癌と胃平滑筋肉腫が独立して併存する報告例は,本邦では28例にすぎず,また,有茎性に胃外性発育した胃平滑筋肉腫については本邦報告は8例と少なく,稀な症例と考えられた.患者は,現在術後6年を経過して再発なく健在で,外来にて経過観察中である.
  • 国原 孝, 高橋 透, 水戸 康文, 平口 悦朗, 島田 俊史, 加藤 紘之
    1995 年 56 巻 4 号 p. 737-740
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは十二指腸へ脱出した胃上皮型Cancer in adenomaの1例を経験したので報告する.
    症例は63歳女性で主訴は上腹部不快感.胃内視鏡で幽門輪より十二指腸に脱出した約4cm径の山田III型様隆起性病変を認めた.胃幽門部切開によりポリペクトミーを施行し,術中迅速標本による病理診断はAdenomaであった.しかし術後の精査ではPapillary adenocarcinoma in adenomaの診断で基底部に癌遺残の可能性を指摘されたため,幽門側胃切除術を施行した.
    胃腺腫のうち3%以下にみられるとされる胃上皮型乳頭状腺腫の癌化率は高いため,癌に準じた臨床的配慮が必要と考えられた.また,胃隆起性病変の十二指腸への脱出の報告は比較的稀であるが,本邦では最近40年間に100例の報告がある.
  • 庄村 遊, 村林 紘二, 林 仁庸, 中野 英明, 上原 伸一, 楠田 司, 大橋 直樹, 武藤 利茂
    1995 年 56 巻 4 号 p. 741-745
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    妊娠および卵巣腫瘍経過観察中に穿孔を来した若年者胃癌の1切除例を経験した.症例は妊娠9週の29歳女性で,Meigs症候群として経過観察中に上腹部痛を主訴とし入院した.画像検査にて腹腔内free airおよび大量腹水の貯留を認め,消化性潰瘍の穿孔と診断し手術を施行した.術中,穿孔性胃癌および卵巣転移(Krukenberg腫瘍), T3, N0, P2, H0, M0, Stage IVbと診断し,胃亜全摘術(D2郭清),両側卵巣摘除術,子宮内掻爬術を施行した.摘出標本では胃角部後壁に1.5×1.5cmの穿孔部を認め,右卵巣は9×8×4cmであった.組織学的には穿孔部辺縁に腫瘍細胞が残存し(2.5×2.5cm, Signetring cell carcinoma, t2, n2, P2, H0, M0, stage IVb),両側卵巣へ転移していた.術後1カ月目に退院し,外来にて化学療法,放射線療法を施行したが,術後9カ月目に肝・肺転移,癌性腹膜炎にて死亡した.
  • 石井 康祐, 榊原 宣, 小出 真, 中島 研郎, 宮沢 龍一, 駿河 敬次郎
    1995 年 56 巻 4 号 p. 746-750
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    多発早期胃癌,上行結腸癌,腎癌との同時性三重複癌に総肝動脈より分岐する肺分画症を併存した症例を経験した.症例は73歳女性,体重減少,全身倦怠感を主訴に近医を受診,貧血を指摘され入院となった.入院後,進行度の診断のために行った腹部血管造影検査で異常血管が発見され,肺分画症と診断できたため,術前検査が術中リンパ節郭清を行うにあたり有用となった症例であった.
  • 堅野 国幸, 水澤 清昭, 吉村 禎二, 岩本 好吉, 堀江 靖, 西川 睦彦
    1995 年 56 巻 4 号 p. 751-755
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は44歳の男性,タール便を主訴に来院.X線および内視鏡検査にて十二指腸下行脚に有茎性の腫瘤が認められ,生検にて平滑筋由来の腫瘍が疑われた.腫瘍摘出術が行われ,病理組織検査にて平滑筋芽細胞腫と診断された.
    十二指腸原発平滑筋芽細胞腫は極めて稀で,その術前の正確な診断は難しい.また平滑筋腫瘍の良性,悪性を判断する指標の一つとして核DNA量を測定したところ,本例はdiploid patternを示した.十二指腸平滑筋原性腫瘍についてのDNAヒストグラム分析は今後の検討課題であると思われる.
  • 鳥 正幸, 山崎 芳郎, 桑田 圭司, 大野 喜代志, 橋本 純平, 山崎 元, 長岡 真希夫, 山本 重孝, 山口 高広, 坂口 太一, ...
    1995 年 56 巻 4 号 p. 756-761
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    幽門狭窄症状で発症した原発性十二指腸球部進行癌の1手術例を文献的考察を加え報告する.症例は65歳の女性で,主訴は上腹部膨満感であった.上部消化管造影で幽門狭窄の所見を認め,上部消化管内視鏡では十二指腸球部後壁にBorrmann 1型の隆起性病変が存在,腫瘤は幽門輪に進展騎乗していた.生検にてPapanicolaou class Vが証明された.腹部CTでは十二指腸壁の肥厚を認めたが,リンパ節の腫脹は認めなかった.以上より原発性十二指腸癌が強く疑われたために胃十二指腸球部切除術を施行,再建はBillroth II法で行った.切除標本肉眼的所見では腫瘤は6.0×6.0cm大の隆起性病変で病理組織学的にwell-differentiated pappillo-tubular adenocarcinoma and mucinous adenocarcinomaと判明した.十二指腸癌の報告例は珍しいが,自験例は幽門狭窄症状で発症した稀な球部癌であり,本症の早期発見ならびに良好な予後を得るための適切な手術術式の選択を検討する上で貴重な症例であった.
  • 北川 雄一, 大塚 光二郎, 玉内 登志雄, 川合 正行, 山村 等, 神谷 欣志, 小山 芳雄
    1995 年 56 巻 4 号 p. 762-766
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腸重積にて発症した回腸myoepithelial hamartomaの2例を経験したので報告する.(症例1)73歳,女性.1989年7月,胃癌(IIc類似進行癌, P0, H0, n3, M0)にて胃亜全摘・D2郭清施行.1990年8月14日,突然腹痛・腹満あり来院.拘絞性イレウスの診断で緊急手術を施行した.回腸末端より約40cm口側に径約3cmの粘膜下腫瘍を認め,同部を先進部とした腸重積となっていた.(症例2)1歳,女児.現病歴として2回の注腸整復を受けている.1993年2月16日,整復不能のため緊急手術を施行した.回腸末端より約30cm口側に径約1cmの粘膜下腫瘍を認め,同部を先進部とし上行結腸に至る腸重積を認めた.これら2症例の病理組織像は,腺管と平滑筋の腫瘍性増殖を認めたため, myoepitherial hamartomaと診断した.この組織型の病変は,小腸腫瘍の中でも報告例の少ないものである.
  • 夏目 俊之, 望月 衛, 森田 章夫, 阿部 裕, 九里 孝雄, 新井 元順
    1995 年 56 巻 4 号 p. 767-771
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃,空腸,回腸に多発進行病変を認めた消化管原発悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.症例は62歳,男性.主訴は心窩部痛.胃内視鏡検査にて胃体中部大彎にBorrmann 3型病変を認め,胃癌の術前診断がなされた.開腹時に胃,空腸,回腸に多発進行病変を認め,胃亜全摘術と小腸部分切除術が施行された.病理組織学的検索で,病変は,非ホジキンリンパ腫びまん性大細胞型,B細胞性リンパ腫と診断した.なお,リンパ節転移は認めなかった.消化管原発悪性リンパ腫は解剖学的に異なる2臓器以上にわたり多発することは極めて稀である.自験例は,消化管原発悪性リンパ腫の進展を考える上で,興味深い.
  • 出口 雅浩, 伊藤 重彦, 岡田 代吉, 林 宗榮, 小林 誠博, 澤田 貴裕, 大江 久圀, 辻野 直之
    1995 年 56 巻 4 号 p. 772-775
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    Meckel憩室は剖検例の1~2%に見られる消化管の奇形であるが症状を呈するものは8~22%である.その大半は小児期に発症し(80~90%)成人発症例は稀である.今回われわれはMeckel憩室に起因した成人絞扼性イレウスを経験したので報告する.症例は50歳男性.イレウス症状を主訴に入院.入院時所見にて腹膜刺激症状はなく,画像診断上も小腸の拡張像のみで,腹水貯留は見られなかった.保存的治療を施行したところ,翌日腹膜刺激症状出現した為,緊急開腹手術施行.開腹所見にて,回腸末端より約50cm口側の腸管がループを形成し捻転・壊死を起こしており, Meckel憩室による絞扼が原因であった.憩室には索状物はなく,炎症を来した憩室が腸管膜に癒着し伸展した憩室の頸部が回腸のループの基部を絞扼したものと考えた.術後経過は良好で術後30日目に退院した.昭和55年以降当院におけるイレウス手術症例230例中,成人のMeckelによるイレウス症例は本例のみであった.
  • 松永 浩明, 泉 泰治, 原 裕介
    1995 年 56 巻 4 号 p. 776-779
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    虫垂癌は極めて稀な腫瘍である.今回われわれは,虫垂炎様症状を契機にして発見された虫垂癌の2例を経験した.症例1は70歳,女性.注腸検査にて虫垂の中断像,CTにて腹部全体に腹水がみられた.開腹時虫垂は先端で破裂し骨盤腔は粘液物質で充満し虫垂切除術,大網切除術,粘液除去を施行.病理組織学的には虫垂粘液嚢胞腺癌による腹膜偽粘液腫と診断された.症例2は67歳,男性.注腸検査にて虫垂は造影されず回盲部の伸展不良が見られ,CTにて回盲部に腫瘤様陰影が認められた.開腹時,回盲部~上行結腸は後腹膜に癒着し回盲部周囲に膿瘍を形成し右半結腸切除術を施行.切除標本にて虫垂開口部に絨毛状腫瘍があり,病理組織学的に高分化虫垂腺癌と診断された.虫垂腫瘍は稀な疾患であるが虫垂炎治療に際しては念頭に置く必要がある.
  • 杉下 岳夫, 高田 厚, 田中 一成, 山下 宏治
    1995 年 56 巻 4 号 p. 780-783
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    直腸カルチノイドは近年発見されることが多くなっているが,再発転移例の報告は末だ少ない.今回われわれは,再発後下大静脈腫瘍塞栓および肝転移が出現した直腸カルチノイドを経験したので報告する.
    症例は84歳女性で,下部直腸から肛門管にかけての大きさ0.6cm,潰瘍限局型の直腸カルチノイドであった.術後13カ月で骨盤内に再発し,その後下大静脈腫瘍塞栓および肝転移が出現した.
    直腸カルチノイドの小さい病変,あるいは深達度の浅い病変は内視鏡的切除や局所切除により治療することができ予後は良いが,本例のような進行例は根治手術を行っても予後がきわめて悪い.
  • 斎藤 典才, 古田 和雄, 横山 隆, 原 和人
    1995 年 56 巻 4 号 p. 784-788
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    われわれは2度にわたり大腸癌による腸重積症をきたした極めて稀な症例を経験したので報告する.症例は88歳男性,6年前にS状結腸癌による逆行性腸重積症にて当院で手術を施行,組織学的にはcancer in villous adenomaで,大きさは4.5×3.5cm,深達度はm,リンパ節転移は認められなかった.
    その後良好に経過していたが,今回下痢を主訴に当院受診,US,CT,内視鏡検査にて上行結腸癌による腸重積症を疑い手術を施行,回腸一結腸型の腸重積を伴う上行結腸癌で,組織学的にはmoderately differentiated adenocarcinomaであった.本症例が腸重積症を2度もおこした原因は,非全周性の隆起型病変であること,病変の大きさに比し壁深達度が少ないこと,病変の発生部位が移動性の大きい腸管であったことなどが考えられた.
  • 若林 久男, 宮内 章充, 国土 泰孝, 濱本 勲, 壺内 泰二郎, 岡田 節雄, 前場 隆志, 前田 肇
    1995 年 56 巻 4 号 p. 789-793
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌は,剖検例では高頻度にリンパ節転移を認めるが,手術例においてはその頻度はわずか2.1%ときわめて低い.したがってリンパ節転移を高頻度に認める胆管細胞癌と異なり,肝細胞癌では手術時のリンパ節転移の様相やその郭清の意義について論じた報告は少ない.今回われわれは,肝細胞癌で手術時にリンパ節転移を認めた4例と,術後リンパ節再発をきたした1例について臨床病理学的に検討した.その結果,肝原発巣はT3またはT4の進行症例で,リンパ節転移は3例において系統的近位所属リンパ節を経由しない,遠位リンパ節の孤立性の転移であった.このような症例にあっては少数のリンパ節転移であれば,局所的リンパ節郭清により根治性が高められると考えられた.また原発巣と転移巣の核DNA量の検討で,転移巣ではaneuploid型が多い傾向があった.予防的リンパ節郭清は症例ごとに慎重に考慮されねばならない.
  • 青木 洋三, 植阪 和修, 中村 昌文, 庄野 嘉治, 山出 尚久
    1995 年 56 巻 4 号 p. 794-798
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    最近の4年6カ月間に橋本市民病院外科で手術を施行した胆石症151例中3例,2.0%に副肝管を合併していた.いずれも右副肝管で,2例はこれに胆嚢管が開口し,他の1例は単独で総肝管に開口していた.3例ともこれを損傷することなく胆嚢を摘出し得たが,胆嚢管が副肝管に開口する1例では胆嚢合流部結石を合併しており,合流部結石の定型的手術で副肝管を形成しこれを温存した.
    accessory bileductのaccessoryは本来機能,構造の重複を意味するので,以上の3症例のように特定の肝区域,亜区域から胆汁をドレナージする肝管であれば,異所性を意味する“aberrant” bileductの立場から温存するのが正しいと思われる.
    腹腔鏡下胆嚢摘出術が普及している現在,このような胆道走向異常のあることを認識し,個々の症例の解剖を把握したうえで手術操作を進めることが肝要である.
  • 池田 政宣, 浅原 利正, 小野 栄治, 平岡 敬生, 八幡 浩, 福田 康彦, 土肥 雪彦
    1995 年 56 巻 4 号 p. 799-804
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    原発性硬化性胆管炎(Primary Sclerosing Cholangitis,以下PSC)による高度の総胆管狭窄に対し,胆道再建を行った症例を経験したので報告する.症例は70歳男性,黄疸を主訴として来院した.内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では総胆管に壁不整および高度の狭窄像を認め,さらに肝内胆管の嚢状,枯枝状の変化を認め,画像上PSCと診断したが,血中および胆汁中CA19-9は高値であり,胆管癌の可能性も考慮し手術を施行した.総胆管の迅速病理検査では悪性所見はなく,炎症性の所見であり胆嚢切除,総胆管切除及び総肝管空腸吻合術を行った.総胆管狭窄部の病理組織診断は慢性胆管炎,肝生検では,線維化を伴った肝硬変の所見が認められ,既往に胆道系の手術歴や結石症のない事からPSCと診断した.
  • 高松 督, 中村 宏, 遠藤 光夫, 杉原 国扶, 中村 隆
    1995 年 56 巻 4 号 p. 805-810
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    総胆管隔壁症は,本邦での報告が10数例というきわめてまれな疾患である.今回われわれは,腹部超音波検査で経時的な変化を観察することができた総胆管隔壁症を経験した.症例は,48歳男性.4年前に右季肋部痛が発現し,以後黄疸が時折出現していた.腹部超音波検査,経皮経肝胆道造影にて良性の総胆管狭窄として経過観察していたところ,1991年4月再び右季肋部痛が出現し,腹部超音波所見で狭窄が強くなっていたため手術を施行した.術中胆道鏡の所見では,総胆管内には,結石,腫瘍等はなく,総胆管壁からせりだしてきたと思われる隔壁様のものでほぼ完全に閉塞しており,術中迅速病理検査で,悪性疾患が否定されたため,総胆管切除,肝管空腸吻合術を施行した.切除標本の病理組織検査で,粘膜下の膠原線維の著明な増生を認め,病理組織学的に総胆管隔壁症と診断された.
  • 河原 正樹, 野村 幸世, 宇田川 勝, 西蔭 徹郎, 山下 博典, 山本 修, 鹿野 信吾, 片柳 照雄, 工藤 功男, 新美 範之, 大 ...
    1995 年 56 巻 4 号 p. 811-815
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    経時的追跡により最終的に膵癌と鑑別できた腫瘤形成性膵炎の1例を経験したので報告する.症例は61歳男性で,黄疸を主訴に入院した.腫瘍マーカーはいずれも正常値であったが,入院時に施行したPTGBD (Percutaneous Transhepatic GB Drainage), ERCP (Endoscopic Retrograde Cholangio-pancreatography), 血管造影等の各種画像診断はいずれも膵頭部癌を示唆するものであった.しかしながら,経時的に行った胆道造影と血管造影ではいずれも異常所見の改善をみたために,腫瘤形成性膵炎(膵癌類似膵炎)と診断した.また本例にはCTでは偶然に左の腎癌の合併が発見されたため腎摘を施行した.腫瘤形成性膵炎と膵癌の鑑別法には未だ確定的なものはないが,各種腫瘍マーカーや画像診断法の総合的かつ経時的な変化を捉えることが有力な手がかりとなり得,手術侵襲をさけることができる可能性があることを本論文で示した.
  • 梅原 靖彦, 大久保 忠俊, 佐野 佳彦, 坂元 隆一, 中村 利夫, 土屋 泰夫, 長渡 裕子, 森山 龍太郎
    1995 年 56 巻 4 号 p. 816-819
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    成因が異なる脾動脈瘤を2例経験した.症例1は48歳,男性.左上腹部痛を主訴に来院した.腹部CTで膵体部背側に6×4.8cmの内腔に造影剤の貯留を伴う腫瘤を認め,腹部血管造影検査では脾動脈幹に2.2×1.9cmの動脈瘤が認められた.手術は脾動脈瘤を含む膵体尾部切除,脾摘術を施行した.病理組織所見は動脈硬化に起因し膵内に破裂した仮性動脈瘤であった.症例2は37歳,女性.他院にて嚢胞腎の精査中,腹部血管造影検査にて脾動脈幹と脾門部にそれぞれ0.8×0.7cm, 2×1.7cmの動脈瘤を認めた.手術は脾動脈切除及び脾摘術を行った.病理組織所見は動脈硬化を伴わない真性動脈瘤であった.左上腹部痛を伴う疾患の鑑別診断の際,本症も考慮すべきであり,治療方針の決定には腹部血管造影検査が有用である.
  • 浅岡 峰雄, 佐々木 通雄, 増本 弘, 関 章
    1995 年 56 巻 4 号 p. 820-823
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    患者は59歳の女性.1981年に子宮筋腫のため子宮全摘除術を受けている.1989年に胸部X線写真の異常を指摘されたが放置していた.1993年11月のCTなどの精査では右肺に4個,左肺に2個の腫瘤が認められた.この6個の腫瘤はすべて胸膜直下付近に存在していた.1994年1月に胸腔鏡下に切除術を行った.CTで診断された6個の腫瘤を容易に確認し,YAGレーザーを用いて切除できた.術後経過は良好であった.
  • 宮治 正雄, 生越 喬二, 近藤 泰理, 田島 知郎, 三富 利夫, 遠藤 正之
    1995 年 56 巻 4 号 p. 824-829
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    ループスネフローゼを伴い稀な特発性(原発性)腹膜炎を呈し,術後早期に重篤で極めて稀な急性肺胞出血をきたし集中治療にて救命しえた1例を経験した.症例は,35歳女性,平成1年12月より顔面皮疹浮腫,発熱,手指関節痛出現,活動性のSLE,ネフローゼ症候群の診断で1月19日入院,Predonisolon 40mg/日が開始された.入院時より腹痛が存在し,その後増強,汎発性腹膜炎の診断で1月21日緊急手術を施行した.開腹所見は,膿性腹水約600CCあったが明らかな消化管穿孔,虫垂炎や虚血性腸炎等の所見はみられず,特発性腹膜炎と診断した.術後2日目から気管内吸引より鮮血が引けるようになり,胸部X線上両側肺の陰影が急速に広がった.SLEに極めて稀におこり重篤な病態とされる急性肺胞出血と判断, PEEP,ステロイドのパルス療法施行,徐々に肺出血がコントロールされるようになった.急性肺胞出血に対するPEEPによる集中呼吸管理とステロイドのパルス療法の重要性が示唆された.
  • 中島 一彰, 浅野 武秀, 落合 武徳, 鈴木 孝雄, 軍司 祥雄, 榎本 和夫, 菊池 俊之, 松原 久裕, 磯野 可一
    1995 年 56 巻 4 号 p. 830-834
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    60歳男性で,腹部腫瘤・左下肢のシビレを主訴に来院.左下腹部に約20cm・境界明瞭・非可動性の腫瘤を触知し,腫瘤は鼠径靱帯を越えて左大腿前面に及んでいた.左下肢L1~L4領域の知覚異常がみられた.血液検査ではNSE値が高く,超音波検査では内部がまだらの高エコーを有する実質性腫瘤で,造影CTでは多結節性で皮膜が強く,内部は軽度にenhanceされた.第1回手術では,左L2,3,4神経根が腫瘤を貫通し大腿神経へとつながっており,神経原発と考え大腿神経合併・腫瘍全摘術を行った.術後10カ月には局所再発のため再手術を,さらに7カ月後には再々手術を行い,化学療法を追加した.組織学的には大小不同のspindle~ovalな細胞の増生で,myxomatousな変化が強く,lobulationを認め,またpalisading patternもみられた.腫瘍細胞には異型性・多型性がみられ核分裂像も散見され,悪性神経鞘腫と診断された.
  • 建部 茂, 橘 球, 星野 和義, 川口 廣樹, 岸本 宏之
    1995 年 56 巻 4 号 p. 835-839
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    特発性大網捻転症は比較的稀な疾患で,本邦報告例は36例にすぎない.今回われわれは,本症の1例を経験したのでその概要を報告し,自験例を含め,本邦37例についての検討を行った.
    症例は63歳男性で,近医にて急性虫垂炎の診断下に開腹手術を行ったところ,血性腹水を認めたためそのまま閉腹し,救急車で当院へ搬送された.全身麻酔下に開腹したところ,大網が時計軸方向に7回捻転しており,特発性大網捻転症と診断し,大網を捻転部で切離した.
    本邦報告例37例の検討では,主訴は右下腹部痛が24人(67%)と最も多かった.また,術前診断は急性虫垂炎が28人(80%)と最も多く,術前に正診された症例はなかった.本症の術前診断は難しいと思われるが,右下腹部痛を主訴とすることが多いため,急性虫垂炎が疑われる場合,本症も鑑別診断の1つにあげる必要があると思われた.
  • 平野 聡, 加藤 紘之, 西部 俊哉, 高橋 利幸, 道家 充, 奥芝 俊一, 下沢 英二
    1995 年 56 巻 4 号 p. 840-845
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腹腔内臓器に発生した神経鞘腫の2例を経験したので若干の文献的考察を含め報告する.
    症例1は40歳,女性.9年前に頸髄腫瘍,8年前に胸部交換神経節,右腕神経叢腫瘍の腫瘍摘出術を受け,いずれも悪性神経鞘腫の診断であった.今回,CTにて肝門部および後腹膜腔に腫瘤陰影を指摘され入院.腫瘤摘出術を施行し,組織学的にS-100蛋白免疫染色陽性であり良性神経鞘腫の診断であった.
    症例2は59歳女性.右胸腔内腫瘤を指摘され入院.精査にてさらに腹腔内に胃・膵と境界不明瞭な腫瘤を認めた.手術は尾側膵切除・胃全摘,右肺部分切除を行い,それぞれの腫瘤を摘出し得たが,約6カ月後に多発肝転移をきたした.組織学的に膵原発,肺転移を伴った悪性神経鞘腫であり,S-100蛋白染色陰性であった.
  • 柚木 靖弘, 三宅 三喜男, 中川 秀和, 石塚 真示, 中郷 実雄, Miao LIU, 才野 進, 折田 薫三
    1995 年 56 巻 4 号 p. 846-850
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは興味ある経過をたどった急性虫垂炎に伴う腸腰筋膿瘍の1例を経験したので報告する.症例は61歳・男性.発熱と右側腹部痛を主訴に来院した.来院時の腹部所見は急性虫垂炎と考えるには非特異的であったため,右側結腸憩室炎として保存的に加療した.その後も計3回同様の症状にて来院し,その都度保存的に加療し軽快しえた.5回目に同様の症状を訴え来院した際の腹部所見も急性虫垂炎と考えるには非特異的であったため右側結腸憩室炎として保存的に加療した.その後自覚症状は軽快したが,炎症反応の増悪と腹部CTにて腸腰筋膿瘍が指摘されたため開腹術を施行し急性虫垂炎に伴う腸腰筋膿瘍と診断された.近年急性虫垂炎により腸腰筋膿瘍を形成する事は稀であり,最近の10年間での報告は1例に過ぎない.本症例の経過・治療につき若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 篠田 憲幸, 片岡 誠, 呉山 泰進, 桑原 義之, 川村 弘之, 加島 健利, 佐藤 篤司, 服部 浩次, 正岡 昭, 新居 均
    1995 年 56 巻 4 号 p. 851-855
    発行日: 1995/04/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    開腹術後6年目に膵膿胞を指摘され来院,膵膿胞性疾患との鑑別のため諸検査を施行し,術後の遺残ガーゼによるいわゆる異物性肉芽腫と診断し手術を施行した1例を報告する.腹部単純写真では楕円型の均一な腫瘤を認めたが,ERCPでは膵管に異常は認めなかった.血管造影で,腫瘤の原発臓器が同定できなかったこと,また超音波検査で特徴的な高輝度線状エコーが認められたことが特に診断に有用であった.開腹手術の既往のある場合には,本症も念頭にいれ鑑別することにより診断可能であると考えられた.
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