日本臨床外科医学会雑誌
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57 巻, 3 号
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  • 饗場 庄一
    1996 年 57 巻 3 号 p. 495-508
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
  • 浅田 康行, 森田 克哉, 三浦 将司, 宗本 義則, 笠原 善郎, 齊藤 英夫, 三井 毅, 飯田 善郎, 藤沢 正清
    1996 年 57 巻 3 号 p. 509-516
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    進行胃癌術後のOK-432による免疫化学療法の効果を遠隔成績を用いてretrospectiveに検討した. 70歳以下の根治度A, Bの進行胃癌術後にOK-432を投与した例を投与群(67例),経口剤のみを投与した例を対照群(74例)とし両群の術後生存率を臨床病理学的各因子別に比較検討した.根治度別では根治度Bで投与群が対照群に比べて有意に(p<0.05)生存率が高かった.進行程度別ではstage IIIa, bで投与群が対照群に比べて有意に(p<0.01)生存率が高かった.病理組織学的因子別では深達度でse, 組織型で未分化型,肉眼型で2型およびリンパ節転移n2にて投与群が対照群に比べて有意(p<0.05)に生存率が高かった.以上の結果をふまえ,根治度Bを中心にOK-432投与の適応を考慮すべきと思われた.
  • 予後因子からみた治療法の検討
    西原 一善, 岩下 俊光, 阿部 祐治, 井原 隆昭, 中原 昌作, 勝本 富士夫, 黒川 喜勝, 玉江 景好, 光山 昌珠, 武田 成彰, ...
    1996 年 57 巻 3 号 p. 517-522
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1971年から1994年までに経験した胃悪性リンパ腫手術例32例の予後因子,治療法,リンパ節郭清の必要性につき検討した.平均年齢は56.4歳で, Naqvi病期分類のStage I; 11例, Stage II; 11例, Stage III; 8例, Stage IV; 2例であった.予後因子では,病期分類,リンパ節転移,組織亜型(LSG分類),組織異型度, T細胞性かB細胞性かの5項目で有意差が見られた.リンパ節転移は,全体の50%に認められ, sm症例でも1例(17%)に見られた.リンパ節転移の無いStage I症例の予後は良好であり,リンパ節転移例では化学療法施行例の予後(平均生存期間; 16.2年)が非施行例よりも(2.4年)良い傾向が見られた(p=0.1615). Stage I症例には外科手術単独で予後が期待できるが, Stage II以上の症例では外科手術に加えて術後補助化学療法が有効であった.リンパ節の郭清は,治癒切除と予後因子の評価のために必要である.
  • 縮小手術の可能性について
    小林 理, 利野 靖, 奥川 保, 円谷 彰, 西連寺 意勲, 本橋 久彦
    1996 年 57 巻 3 号 p. 523-527
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    現在までに520例の単発胃粘膜内癌(m癌)にD2郭清による根治手術を行った.その結果再発死亡例は認めなかった. m癌はリンパ節転移が少ないので縮小手術が導入されている.そこで520例のリンパ節転移からみた縮小手術,特に内視鏡的粘膜切除術(EMR)適応例について検討した.リンパ節転移例は12例,転移率は2.1%であった.リンパ節転移例は女性(p<0.05),リンパ管侵襲陽性例(p<0.01),癌巣内潰瘍合併例(p<0.05)に有意に高率であった.組織型は差を認めなかった.病変の大きさはIIaの20mm未満とIIcの15mm未満に転移例を認めなかった.占居部位Cおよび肉眼型のIIbとIIa+IIcに転移例はなかった.一般的にEMRの適応は2cm以下の隆起型, 1cm以下の潰瘍形成のない陥凹型で分化型のm癌とされている.われわれの成績はEMRの適応基準と一致していた.
  • 中川 英刀, 吉川 宣輝, 三嶋 秀行, 柳生 俊夫, 福田 和弘, 辛 栄成, 東野 健, 小林 研二, 吉川 守
    1996 年 57 巻 3 号 p. 528-532
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸癌において若年者を何歳以下で取り扱うかは,議論の多いところである.われわれはまず,年齢別による生存率の検討を行い, 30歳未満が有意にその予後が不良であったことから, 30歳未満を若年者大腸癌と定義し,その臨床病理像を30歳以上と比較検討した.癌の部位,家族歴,組織型などは両群間には差はなかったが,若年者は病悩期間が有意に長く,その40%はDukes Dであり, 48%は非切除に終わっている.しかし治癒切除できた症例は予後良好であった.若年者大腸癌の予後が不良なのは,粘液癌などが多くその生物学的悪性度が高い傾向にあるが,むしろ診断が遅れ,手術時点で既に高度進行癌であるためではないかと考えられる.
  • 長尾 二郎, 炭山 嘉伸, 原 砂織, 斉田 芳久
    1996 年 57 巻 3 号 p. 533-537
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近15年間に教室において施行された腹壁瘢痕ヘルニア手術症例70例について,背景因子,前回手術の原疾患,ヘルニア発生部位,自覚症状,ヘルニア発症までの時間,術式について検討し,さらに前回手術が当科で施行された24症例の前回手術時の術前合併症(治癒遅延因子),術後経過について検討した.女性の良性疾患緊急手術症例の術後に多く,術後1年以内の発症が64.3%を占めていた.ヘルニアの要因となった前回手術時の術前合併症として75.0%に腹腔内感染,高齢者,糖尿病などの創傷治癒遅延因子の合併が見られた.また前回手術後の術後合併症として創感染が58.3%, 創離開が50.0%に見られ本症との関連が示唆された.単純層々閉鎖術が40例に施行され10%にヘルニアの再発が見られた.代用筋膜補綴術を施行した33例では再発は3.0%で,ヘルニア門の大きな症例や再発症例に対しては有効な手術術式と考えられた.
  • 西井 宏有, 平井 利幸, 小原 弘嗣
    1996 年 57 巻 3 号 p. 538-541
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは気腹を用いず自家製吊り上げ鈎を用いた腹腔鏡下胆嚢摘出術を100例に施行し良好な結果を得たので報告する.従来型吊り上げ鈎は直径5mmのステンレス棒を曲げたもので,臍下縁の小開腹創より右季肋部に挿入し牽引する.一般的にはこの吊り上げ鈎で胆摘術は十分に施行可能であるが,肥満症例やCalot三角部の炎症の強い症例に対して,改良型吊り上げ鈎を作製した.改良型吊り上げ鈎は腹壁をより«面»として挙上できるために,腹壁のtentingが生じにくく気腹法での術野に近づく.われわれの吊り上げ法は気腹法と比較して術野に遜色がなく,ツッペル,ガーゼ,長い柄の電気メス等,一般開腹術と同様な手術器具の使用も可能で,吸引,洗浄も好都合である.気腹の合併症の心配もなく,心肺疾患を有する患者や,全身状態の悪い患者にも安心して手術が行えるという利点がある.
  • 三井 信介, 森 彬, 坂田 久信, 安蘓 正和, 今村 秀, 加藤 秀典
    1996 年 57 巻 3 号 p. 542-546
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    下肢急性動脈閉塞症の診断で入院した患者の救肢率,救命率と周術期の諸条件(発症から治療,血行再建術までの経過時間,来院時症状,閉塞原因,初期治療の選択,閉塞部位)との関係を検討した.発症から6時間以内に血行再建術を施行された症例の肢および生命的予後は良好であったが,それ以後は経過時間よりもむしろ来院時虚血症状の重症度が予後を左右していた.初期治療法(外科的血行再建術,内科的血栓溶解療法),閉塞原因(血栓症,塞栓症)により肢切断率,術死率には差を認めなかった.閉塞部位別では,大腿動脈の中枢側に閉塞病変がある症例の肢切断率,術死率が高い傾向にあった.術死原因として血栓症では心筋梗塞とmyonephropathic metabolic syndrome,塞栓症では脳塞栓が多かった.
  • 羽賀 將衛, 和泉 裕一, 内田 恒, 浅田 秀典, 久保田 宏
    1996 年 57 巻 3 号 p. 547-550
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    下肢静脈瘤162例233肢(大伏在静脈系190肢,小伏在静脈系43肢)に対し硬化療法を用いた治療を行った.内訳は,大腿部ストリッピングとの併用が58肢,伏在静脈高位結紮または交通枝結紮との併用が113肢,硬化療法単独が62肢であった.ストリッピングは大腿部のみに限り,伏在神経,腓腹神経傷害は1例も起こらなかった.高位結紮群とストリッピング群との比較では,前者は局麻下に施行でき手術侵襲も小さく,また手術時間,入院期間ともに後者に比べ有意に短かった.硬化療法単独では根治性に限界があり,外科手術を簡便化する補助手段として位置付けるべきと考えられた.合併症の大部分は,血栓形成,硬結,接触性皮膚炎など硬化療法に伴うものであった.なかでも血栓形成は,硬結や色素沈着を引き起こす原因にもなり,最も注意すべき合併症と考えられた.
  • 10歳未満の小児甲状腺癌本邦報告例の検討
    大嶋 清宏, 石田 常博, 草場 輝雄, 坂田 一宏, 柿沼 臣一, 津田 京一郎, 小山 徹也
    1996 年 57 巻 3 号 p. 551-555
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    9歳男児の甲状腺濾胞癌の1例を経験したので報告する.症例は9歳男児で, 8歳時母親が右前頸部腫瘤に気付いた.初診時,甲状腺腫は右葉中下部で2.0×1.8cm大,穿刺吸引細胞診はClass IIであった. 5カ月後,腫瘤の増大傾向を認め,穿刺吸引細胞診でもClass IIIであったので甲状腺癌を疑った.甲状腺右葉峡部切除・リンパ節郭清を施行した.腫瘍は2.4×1.8×1.5cmで,病理組織学的には, follicular carcinoma, widely invasiveであった.気管周囲リンパ節に2個の転移を認めた.術後12カ月の現在,再発の徴候を認めず,外来通院中である.
    10歳未満の小児甲状腺癌は非常に稀であり,自験例を含めた本邦報告の14例を文献的に集計し,その臨床病理学的特徴について分析した.
  • 館花 明彦, 福間 英祐, 宇井 義典, 加納 宣康, 山川 達郎
    1996 年 57 巻 3 号 p. 556-561
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    非常にまれで極めて予後不良と言われる乳房原発血管肉腫の1例を経験した.
    症例は24歳,独身女性で,右乳房腫瘤の急激な増大を主訴に当院受診した.右乳房に10×10cm大の境界不明瞭で弾性軟な腫瘤を触知し,腫瘤直上の皮膚色調が暗赤色を示していた.生検にて血管肉腫と病理診断され,非定型的乳房切断術を施行した.術後補助療法としてインターロイキン-2を投与し,術後10カ月を経過した現在再発の徴候は認めていない.
    乳房原発血管肉腫は,われわれが検索しえた範囲では本邦報告18例であり非常にまれな疾患と言え,病理組織学的に異型性に乏しい所見を呈していても極めて予後不良であるとされている.本疾患につき文献的考察を加え報告した.
  • 佐久本 昇, 久高 弘志, 山城 和也, 稲福 行夫, 与儀 実津夫
    1996 年 57 巻 3 号 p. 562-566
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近,右乳頭内に1.2×1.2×1.0cmの無疼痛性腫瘤を形成した44歳女性を経験した.臨床学的,細胞学的に乳腺乳頭部腺腫(adenoma of the nipple)と診断し,腫瘤摘出術を施行した. Adenoma of the nippleは稀な疾患であり臨床的にはPaget病と誤診され,また病理組織学的には乳管癌と見誤りやすい.本症例を含む本邦報告例34例を集計,検討した結果,最も多くの主訴は乳頭部糜爛であった.国外における臨床診断では, Paget病,乳頭腫が多かった.治療は腫瘍の全,部分切除又は摘出術である. Adenoma of the nippleは前癌状態ではない良性腫瘍であり腫瘤摘出のみで十分である.
  • 田中 芳幸, 高橋 将人, 大川 由美, 田口 和典, 高橋 弘昌, 佐々木 文章, 内野 純一
    1996 年 57 巻 3 号 p. 567-570
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Werner症候群は,早期老化現象,強皮症様皮膚変化,特徴的身体症状を有する常染色体劣性遺伝性疾患であり,悪性黒色腫,甲状腺癌などの悪性腫瘍を高頻度に合併するとされているが,乳癌を合併する例は少ない.今回本症候群に乳癌を合併した1例を経験した.症例は48歳女性.身長133cm,体重27.8kg.糖尿病のため内科加療中に,左乳房A領域に径1cm程度の腫瘤を自覚し,当科受診.左乳癌(T2a, No, Mo, Stage II)と診断し,非定型乳房切除術を施行した.病理診断はsolid-tubular carcinoma, f, s, noであった. DNA ploidy patternはAneuploidy, c-erbB-2遺伝子増幅を認めなかった.術後経過は特に問題なかった.本症候群に乳癌を合併する頻度は少ないが,精査を行い,早期発見に努めるべきである.
  • 長岡 弘, 谷口 棟一郎, 家里 裕, 井上 智博, 綿貫 啓, 横森 忠紘, 五十嵐 俊彦
    1996 年 57 巻 3 号 p. 571-574
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    糖鎖抗原腫瘍マーカーであるCarbohydrate Antigen 19-9 (CA19-9)は膵・胆道系癌と相関が高く,臨床的にも多用されている.近年,呼吸器系疾患で異常高値を認めたとの報告が散見され,著者らも血清CA19-9が異常高値を認めた, Pryce III型肺分画症を経験した.切除標本で,炎症性肥厚を伴う多房性嚢胞を認め,病理学的には慢性炎症の所見であった. CA19-9免疫組織染色では,気管支上皮にCA19-9が強く染色された.術後CA19-9値は漸減し, 4カ月目には正常値となった. CA19-9は正常気管支腺にも存在し,高値を認めた場合,呼吸器系疾患も考慮する必要がある.
  • 提嶋 淳一郎, 村上 徹, 川瀬 友則, 石井 保夫, 林 武利, 本田 宏, 大久保 裕雄, 武山 廉, 兼村 俊範, 滝沢 敬夫, 星野 ...
    1996 年 57 巻 3 号 p. 575-578
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は75歳男性.検診で胸部異常陰影を指摘され,経気管支的肺生検から右上葉(S1)の扁平上皮癌(T2N0M0stage I)と診断された.また末梢血で汎血球減少を認め,骨髄所見より骨髄異形成症候群(MDS)のrefractory anemiaと診断された.術前より赤血球濃厚液・濃厚血小板の輸注およびrhG-CSFの投与を行ったうえで,右上葉切除とリンパ節郭清術を施行した.術後肺炎の合併を認めたが軽快退院し,手術から18カ月を経過した現在再発の徴候なく外来通院中である.
    一次性MDSに肺腺扁平上皮癌を合併し,手術療法まで施行されたものは少なく,若干の文献的考察を含め報告した.このような症例に対しては,周術期の成分輸血, rhG-CSFの投与が有効であると考えられた.
  • 金森 裕, 小芝 章剛, 貝塚 広史, 玉澤 佳之, 葛西 敏史, 目黒 英二
    1996 年 57 巻 3 号 p. 579-583
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,発症後30時間経過した特発性食道破裂症例に対し, fundic patch法を施行して治癒せしめた1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告した.
    症例は64歳の女性で,朝食後に水を飲んだ後突然の嘔吐に続き心窩部痛,呼吸困難を自覚し近医を受診した.胸部X線写真にて異常を認めず入院し経過をみるも症状改善しないため当院消化器内科を紹介となった.翌日の胸部X線写真にて左胸水を認めた.食道内視鏡を施行し下部食道に穿孔部を確認し特発性食道破裂と診断した.発症30時間後に左開胸にてfundic patch法を施行し,良好な経過が得られ救命し得た.診断が遅延した食道破裂症例に対しfundic patch法は,きわめて有用であると考える.
  • 福田 直人, 春日井 尚, 大滝 修司, 宮島 伸宜, 丸野 要, 加納 宣康, 山川 達郎, 水口 國男
    1996 年 57 巻 3 号 p. 584-587
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は77歳の男性で食欲不振,嘔気を主訴に入院.胃X線検査および内視鏡検査で幽門前庭部に結節状の腫瘤とそれに伴う幽門狭窄が認められた.生検の結果はGroup V(中分化腺癌)であり,また血清AFP値が4,232ng/mlと高値であった.開腹所見では腫瘍は幽門前庭部原発のボルマン I型で,大きさ6×4.5×3cm,さらに十二指腸球部に一部浸潤していた.しかし遠隔転移は認められず,胃亜全摘術, D2郭清が施行された.組織検査ではtrabecular patternがみられ,また免疫組織染色によりAFP陽性細胞が認められたため典型的な胃hepatoid adenocarcinomaと考えられた.本例につき文献的考察を加え報告した.
  • 松岡 博光, 竹村 和郎, 戸部 直孝, 太田 智彦, 小笹 貴夫, 長嶋 隆, 山口 晋
    1996 年 57 巻 3 号 p. 588-592
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は42歳男性.下血を主訴として当科を受診した.内視鏡検査により胃体上部大彎側にbridging foldと易出血性の潰瘍を伴う巨大な粘膜下腫瘤を認めた.生検組織の組織学的所見では紡錘形の腫瘍細胞が柵状に密に配列し,分裂像も多くみられた.免疫組織化学的染色によりS-100蛋白が陽性に認められ,胃悪性神経鞘腫と診断された.左開胸開腹にて手術を施行.腫瘤は横隔膜・肝左葉に癒着しており,これらを含めて胃全摘,膵尾部脾合併切除を行った.術後10カ月で肝転移を認め,肝動注化学療法を行い,術後13カ月現在生存中である.胃悪性神経鞘腫は本邦において過去20例の報告があるが,その術前診断は困難で,組織学的な良悪性の判定基準も未だ確立されていない現状である.転移・再発はほとんどが血行性によるもので,これらを考慮に入れた手術術式の選択や術後フォローアップが必要と考えられる.
  • 大木 進司, 水沼 廣, 菊地 洋一, 吉田 典行, 土屋 敦雄, 阿部 力哉
    1996 年 57 巻 3 号 p. 593-596
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは術前VEPA療法施行後,摘出標本で完全寛解を確認し得た胃悪性リンパ腫の1例を経験したので報告する.症例は76歳女性で上腹部痛を主訴に来院.胃内視鏡では胃体上部小彎前壁に巨大潰瘍を有する不整隆起を認め,そこから連続する病変が胃体下部まで及んでいた.生検にてmalignant lymphoma, diffuse large cell typeであった.これに対しVEPA術前療法を施行した.患者が高齢であることを考慮し1/2クールで終了とし,内視鏡を施行したところ病変部の著明な縮小傾向を認めた為,胃全摘,脾摘及びD2のリンパ節郭清を施行した.病理組織学的にはP0H0n(-), ps(-), stage I(胃癌取扱い規約に準ずる)で摘出胃の全割標本及び所属リンパ節に腫瘍細胞は認められず,完全寛解と判断された.
  • 今井 茂, 渋谷 哲男, 内山 喜一郎, 鈴木 章一, 高橋 望, 宮入 健, 小熊 将之, 坂本 俊樹, 鈴木 成治, 加藤 秀和
    1996 年 57 巻 3 号 p. 597-603
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    切除不能であった胃癌に対し, FAM (5-Fu, Adriamycin, Mitomycin)療法が奏効を示し,その後5'-DFUR (5'-Deoxy-e-fluorouridine)使用で病床に伏することなく44カ月後の再手術で治癒切除できた症例を経験した.胃癌は3型,胃生検組織はWell to moderately differentiated adenocarcinoma, 初回手術時所見はAM, 3T4(SI), N3, P1, H0, M0, Stage IVbで切除不能であった.術後8日目より2クールのFAM療法を施行した.化学療法開始より3カ月までに腹部腫瘤の消失,通過障害や嘔吐の消失, CEA値の正常化,内視鏡所見で主病巣の著明な縮小を認め,食欲増進,体重増加等の全身状態の改善をみた.退院後, 5'-DFUR 600mg/日を経口投与した. 40カ月頃より胃病巣部からの出血による貧血症状が増強したため44カ月目に胃亜全摘術を施行した.切除標本の組織学的所見より抗癌剤の治療効果判定基準はGrade 2で,根治度Aの切除が確認された.
  • 角崎 秀文, 吉永 圭吾, 小田 行一郎, 林 哲二, 仁瓶 善郎, 平山 廉三, 三島 好雄
    1996 年 57 巻 3 号 p. 604-609
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は65歳の男性,心窩部不快感を主訴として近医で精査をうけ,胃体部前壁の早期癌の診断にて当科に入院となる.入院後さらに十二指腸球部幽門直下の隆起性病変を指摘され,幽門側胃切除術を施行した.胃病変は大きさ18×16mm, IIa+IIc,中分化型管状腺癌,深達度sm,十二指腸病変は大きさ10×10×10mm,有茎性ポリープで,高分化型腺癌,深達度mであった.患者は術後2年を経過したが再発の徴候もなく健在である.
    早期胃癌と早期十二指腸癌の合併例は本症例を含めて本邦で8例の報告がある.また本症例は既往歴,家族歴より,遺伝性非ポリポーシス性大腸癌の一家系である可能性が高い.上部消化管の精査の際には十二指腸下行脚まで十分に精査することが重要と考えられる.
  • 三井 敬盛, 佐々木 信義, 丹羽 篤朗, 柴田 和男, 大和 俊信
    1996 年 57 巻 3 号 p. 610-614
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は79歳の女性で腹痛,嘔吐,下痢を主訴に受診した.急性腸炎,サブイレウスの診断で入院し,保存的治療により軽快退院したが,その後イレウスとなり再入院.小腸造影では限局性の狭窄像が認められた.手術所見では上部小腸ループが絞扼状となり,その一部が長さ6cmの範囲で狭窄していたが,腸管,腸間膜に壊死や出血性変化は見られなかった.切除した狭窄部小腸の肉眼所見,血管造影所見,病理所見より,虚血性小腸狭窄症と診断した.虚血因子としては,不完全な腸管の絞扼による血流障害,動脈硬化,脱水,腸管の屈曲による腸管内圧の上昇などが考えられた.
    虚血性小腸狭窄症について,自験例を含む本邦報告40例を集計し,若干の検討を加え報告した.
  • 佐伯 悟三, 松田 真佐男, 藤井 公人, 上道 武, 渡辺 俊明, 井垣 啓, 石磚 秀勝
    1996 年 57 巻 3 号 p. 615-618
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    急性上腸間膜動脈塞栓症の治療においては,早期の診断と切除腸管をより少なくする努力が重要である.われわれは急性上腸間膜動脈塞栓症に対して,塞栓除去術を施行し,その約40時間後にsecond look procedureを行い小腸切除を小範囲にとどめ得た症例を経験したので報告する.症例は71歳男性,上腹部痛にて救急搬送された.腹部血管造影検査の結果,上腸間膜動脈本幹に完全閉塞を認め本症と診断した.発症約9時間後に開腹,上部小腸約25cmを除き全小腸が暗赤色に変色し蠕動もなかった.塞栓血栓除去術を行い閉腹した.約40時間後に再開腹を行った.おおむね小腸の色,蠕動とも良好であったが壊死に陥っている部分が散在する約150cmの範囲の小腸切除を行った.患者は発症66日目突然の心停止を生じ死亡した.本症の治療において,血行再建術とsecond look procedureは,腸管の切除範囲をより少なくすることが可能で,生存率, QOLの向上に貢献しうると思われた.
  • 三田 篤義, 杉山 敦, 松下 啓二, 有賀 浩子, 石田 公孝, 丸田 福門, 佐藤 敏行, 川崎 誠治, 石井 恵子, 清水 幹夫
    1996 年 57 巻 3 号 p. 619-623
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝膿瘍の破裂を契機に発見された回腸平滑筋肉腫の1例を経験したので報告する.症例は76歳女性で,発熱,腹痛を主訴に来院,その後腹部圧痛・筋性防御を認め,肝腫瘤の破裂による汎発性腹膜炎を疑われて緊急手術となった.肝膿瘍の破裂により腹膜炎を呈しており,腹腔内洗浄・ドレナージを施行した.腹水の培養ではStreptococcus intermedius, Candida albicansが検出された.また術中に骨盤腔内に充実性腫瘤が発見されたが,全身状態の回復を待って緊急手術後39日目に再開腹した.回腸末端から10cmの部位より管外性に発育した,線維性被膜に覆われた直径11cmの平滑筋肉腫の診断にて,回腸切除,直腸・右卵巣合併切除術を施行した.腫瘍内部は壊死が強く,中心部には回腸内腔と交通性を有する空洞を認めた.腫瘍内と回腸に交通を認めたこと,肝膿瘍の起炎菌が腸内細菌であることから,回腸平滑筋肉腫が感染源となり,肝膿瘍を形成したと考えられた.
  • 関 健一郎, 長谷川 保弘, 斎藤 貢, 石田 誠, 片山 寛次, 広瀬 和郎, 関 弘明, 礒部 芳彰, 山口 明夫, 中川原 儀三, 今 ...
    1996 年 57 巻 3 号 p. 624-628
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は46歳の男性.間欠的な下腹部痛と粘血便を主訴に近医を受診,触診上,右下腹部に超鶏卵大の腫瘤を認めた.注腸造影検査で,回腸末端部に腫瘤性陰影を認めたため,大腸内視鏡にて回盲部の観察を試みたところ,バウヒン弁より脱出,還納を繰り返し,表面に発赤したびらんを伴う腫瘤性病変を認め,びらん面からの生検にて悪性リンパ腫の診断を得た.
    一般に,回腸悪性リンパ腫は成人の腸重積の原因となりうる疾患であるが,術前の質的診断にはしばしば難渋する.大腸内視鏡による腫瘍の観察と生検組織診断はたいへん有用であるが,確定診断された報告例は今なお少ない.腸重積を伴った回腸腫瘍が疑われる症例では,積極的に大腸内視鏡検査を施行し,的確な生検を行うことが必要であり,この手技の確立によって回腸悪性リンパ腫の術前正診率の向上も期待できるものと思われた.
  • 牛谷 義秀, 長手 基義, 牛谷 宏子, 瀬下 明良, 小林 槇雄
    1996 年 57 巻 3 号 p. 629-633
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は75歳女性で右側腹部痛・腹満感およびその消退・再燃を主訴に紹介入院となった.入院後は嘔吐をともなうイレウス症状を繰り返し,注腸造影検査では回盲部,左側結腸に潰瘍瘢痕をともなう萎縮瘢痕帯と腸管の変形を認める典型的な腸結核のX線像であり,大腸内視鏡検査でも輪状,帯状潰瘍および憩室様膨隆形成を認め,生検するも腸結核の確診には至らなかった.再三のイレウス症状と小腸病変の化学療法による悪化が懸念されたため手術を断行した.開腹所見では肝彎曲部中心に手拳大の腫瘤を触知し,漿膜面には白色小結節の集蔟を認めた,右半結腸切除を施行,病理学的には潰瘍底に中心性乾酪壊死をともなう結核結節を認め, Langhans型巨細胞の分布をともなう結節は腸管壁のほか腸間膜リンパ節にも認められた.術後25病日目に退院, INH, RFPの内服とSM筋注にて1年が経過したが再発の兆候なく良好な経過をたどっている.
  • 中島 太, 平田 公一, 戸塚 守夫, 染谷 哲史
    1996 年 57 巻 3 号 p. 634-637
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は63歳,男性.主訴は粘血便,下腹部膨満.ツベルクリン反応は中等度陽性であったが,便培養にて結核菌は陰性.左肺上葉に結核浸潤影を認めた.注腸Ba検査でS状結腸にハウストラの消失,腸管の短縮,狭窄を合併していたが,潰瘍形成を認めなかった.さらに口側下行結腸にはポリープ様隆起性病変を認めた.肺病変,大腸狭窄病変,および血液検査から大腸結核を強く疑い,腸管癒着剥離術,下行結腸病変も含めてS状結腸切除術を施行した.組織所見にても憩室の底部に結核性の肉芽腫を認めた.また,口側の隆起性病変は高分化型腺癌であった.大腸憩室症に結核を合併した症例は本邦においては報告がなく,又,腸結核の発生機転として,興味ある1例と考え,文献的考察を加え報告した.
  • 萱野 公一, 北村 泰博, 竹尾 正彦, 森末 真八, 山本 満雄, 水野 裕, 目黒 文朗, 高木 章司, 小島 茂嘉
    1996 年 57 巻 3 号 p. 638-642
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    比較的稀な皮膚瘻を形成した盲腸癌を2例経験したので報告する.症例1は86歳の女性で平成元年4月右下側背部に瘻孔出現し,近医で瘻孔切除術を施行されたが,瘻孔閉鎖せず紹介された.右側背部に瘻孔が存在し,黄白色ゼリー状の粘液が排出された.症例2は63歳の男性で平成5年7月中旬頃より発熱あり右側背部痛も出現したため受診した.切開排膿後も漿液性の排液続き皮膚瘻を形成した. 2症例ともほぼ類似した所見を呈し,注腸造影で盲腸部に異常陰影を認め,胸部CTでは瘻孔より後腹膜に連続した腫瘤を認めた.瘻孔造影で上行結腸が造影され,結腸との交通を確認した.手術所見は腫瘤は盲腸部にあり,背部への壁外発育が主体で粘液物質を多量に含んでいた.右半結腸切除術+リンパ節郭清を施行し,できる限り浸潤した腫瘍部を切除したが2例とも非治癒切除術となった.症例1は術後5年3カ月の生存を,症例2は術後1年6カ月現在生存を確認した.
  • 西村 渉, 堀見 忠司, 公家 健志, 中川 仁志, 坂本 芳也
    1996 年 57 巻 3 号 p. 643-648
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は33歳女性.妊娠7カ月時点より腹痛・膨満感・便秘を認めたが,妊娠悪阻として経過観察されていた.妊娠34週6日に出産後も腹痛・腹満感が続くため当院受診し,腹部膨満,肝腫大,腹水を指摘された.入院後の諸検査でS状結腸癌による腸閉塞および多発性肝転移と診断し,分娩から10日後にS状結腸切除術を施行した.手術所見はS状結腸癌で, circ 3型3.0×3.0cm, SE, P0, H3, M(-), N2(+), Stage IV, 病理所見は高分化型腺癌で, s, INFβ, ly3, v3, n2(+), ow(-), aw(-), ew(-) であった. H3に対しreservoirを留置し術後化学療法を行ったが,術後3カ月で肝転移の増大による肝不全のため死亡した.妊娠合併大腸癌はきわめて稀で,本邦報告例は28例にすぎない.その予後は一般に不良であり,妊婦でも本症の疑いがあれば便潜血,超音波など胎児に影響のない検査を積極的に進める必要があるものと考えられた.
  • 奥 邦彦, 横山 茂和, 福島 幸男, 尾田 一之, 柴田 邦隆, 松田 泰樹, 太田 俊行, 島野 高志
    1996 年 57 巻 3 号 p. 649-652
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    稀な疾患である横行結腸憩室穿孔の1例を経験した.横行結腸憩室穿孔は腹痛が腹部のどの領域にも出現すること,特徴的な臨床所見を示さないこと,また頻度が少ないため急性腹症の1つとして臨床医の念頭にないため術前に正確に診断することが困難であるとされている.われわれが経験した症例は81歳の女性で主訴は下腹部痛と腹部膨満で腹膜刺激症状は軽微で診断に苦慮したが,ガストログラフィンによる注腸造影で左側横行結腸にて造影剤の腸管外への漏出が疑われた.腹部CTにて造影剤の腸管外への貯留を認めたため,横行結腸穿孔の診断のもと緊急手術を行った.病理組織的に仮性憩室の穿孔と診断した.
    横行結腸憩室穿孔例は文献的に検索し得た限り欧米では30例本邦では報告例がなく,その臨床的特徴・診断治療について検討した.
  • 土屋 和彦, 椋棒 正博, 前田 裕巳, 松本 陽一, 浜本 保
    1996 年 57 巻 3 号 p. 653-657
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    子宮内膜症性卵巣嚢腫と瘻孔を形成した直腸子宮内膜症の1例を経験したので報告する.症例は34歳の女性で,主訴は下血と下腹部痛である.大腸内視鏡検査で直腸に粘膜下腫瘍様病変を認め,注腸造影で直腸から腸管外への造影剤の流出と貯留がみられた. CT検査, MRIにて嚢胞状腫瘤を認め,子宮内膜症性卵巣嚢腫の直腸への瘻孔形成と診断した.下血が持続するため嚢腫,瘻孔部,子宮付属器を含めた直腸切除術を施行した.摘出標本では直腸の筋層に子宮内膜腺の浸潤がみられた.術後4年経過したが再発の徴候はみられていない.瘻孔を形成した腸管子宮内膜症に対しては積極的な外科的治療が必要であると考えた.
  • 鶴町 哲也, 斉藤 弘司, 吉川 廣和, 原田 昇
    1996 年 57 巻 3 号 p. 658-661
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は88歳男性で, 20年前から痔瘻を認めるも放置していた.最近になり,血性粘液分泌を認め,当科を受診した.多発痔瘻の診断となり,痔瘻根治術目的に入院した. 1時, 3時, 5時方向に外瘻孔と血性粘液分泌を認めた.粘液細胞診はClass Iで悪性細胞を認めなかった.痔瘻根治術施行時,痔瘻癌の可能性を考慮し,瘻孔内瘢痕組織の病理組織学的検索を行ったところ腺癌が認められ痔瘻癌の診断となる.腹会陰式直腸切断術,広範囲会陰皮膚切除,筋皮弁を用いた会陰再建を行った.病理組織学的には乳頭状発育を示す分化型腺癌で,瘻孔内に限局する痔瘻癌であった.痔瘻癌の早期診断は難しく,報告例は進行例がほとんどである.自験例の様に瘻孔内に限局した痔瘻癌は検索の範囲内では本邦3例目である.自験例の報告とともに,若干の文献的考察を行った.
  • 東島 由一郎, 高 勝義, 片山 信, 小倉 豊, 前田 敦行
    1996 年 57 巻 3 号 p. 662-666
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    副肝は肝臓の発生異常により生ずるまれな疾患であるが,文献的に検索しえた本邦報告例はわれわれの症例を含めて77例である.今回われわれは血腫を伴った副肝の1例を経験したので報告する.症例は74歳,女性.全身倦怠感を主訴に来院した.画像診断で右横隔膜下の腫瘤を指摘し,肝腫瘍あるいは副腎腫瘍を疑ったが悪性を否定できず,腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は右副腎に接し,肝実質を外から圧排する形で発育していた.術中所見と組織学的検索により,血腫を伴った副肝と,診断した.主肝との連絡は明らかに認められなかったが,副肝はほぼ正常の小葉構造を呈し,胆汁などの鬱帯所見もなかったことより,動脈・門脈・胆管枝は索状物を介して,外部と連絡があったものと推察された.血腫発生の原因は不明であった.
  • 曽川 慶同, 宮崎 勝, 海保 隆, 安蒜 聡, 外川 明, 大塚 将之, 笹田 和裕, 塩原 正之, 清水 善明, 吉岡 茂, 吉留 博之 ...
    1996 年 57 巻 3 号 p. 667-672
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    総胆管結石嵌頓により肝被膜下へ胆汁が漏出し形成されたBilomaの1例を経験したので報告する.症例は80歳女性,発熱,右側腹部痛,腹部膨満を主訴に入院.腹部CT, エコーにおいて拡張した総胆管内に径1cmの結石を認め,右肝被膜下に巨大な嚢胞性病変を認めた. USガイド下に嚢胞穿刺を行い胆汁を吸引, Bilomaと診断した. 19日間の嚢胞ドレナージでBilomaは縮小,総胆管結石は腸管内へ自然脱落し,軽快退院となった. Bilomaの内,外傷や医原性の既往なしに肝胆道系疾患に随伴してspontaneousに生じたものは,本邦では自験例を含め21例であり,総胆管結石によるものは15例であった. Bilomaの確定診断は内容液の胆汁成分の証明であり,まず,経皮的嚢胞ドレナージで症状の改善をはかることが必要である.
  • 上田 順彦, 小西 一朗, 吉光 裕, 太田 長義, 角谷 直孝, 廣澤 久史, 泉 良平, 広野 禎介
    1996 年 57 巻 3 号 p. 673-677
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は49歳,男性. 3型胃癌に対して根治的胃切除術を施行した.術後10日目より一般肝機能検査で異常を認めた.中部胆管での完全閉塞のためPTCDを施行した.炎症による胆管閉塞と診断し再開腹した.肝十二指腸靱帯周囲は一塊となっており,胆管閉塞部の硬結の術中迅速病理診断では結合組織内に腺癌細胞の浸潤を認めた.胆道再建術も不能で試験開腹となった.術後PTCDルートを利用してexpandable metallic stentを留置した.ステント留置30日目にPTCDチューブを抜去し,完全内瘻化とした.退院直前よりUFT-E 1.5gおよびPSK 3gを連日服用させた.また外来来院時にはCDDP 25mg, MMC 2mgを静脈注射し,これまでに16回施行した.ステント留置より1年6カ月たった現在,胃癌に関しては再燃の徴候はなく,元気に社会復帰している.この間胆管炎の所見もなく,画像的にも肝内胆管の拡張を認めていない.
  • 山城 一弘, 向谷 充宏, 平田 公一, 中村 真孝, 江副 英理, 松野 孝, 高坂 一, 臼木 俊洋, 佐々木 一晃, 伝野 隆一
    1996 年 57 巻 3 号 p. 678-683
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    外科的治療適応の高齢者肝嚢胞症例に対し,腹腔鏡下肝嚢胞開窓術を施行し良好な結果を得たので報告する.症例は85歳男性,主訴は腹部膨満感,上腹部痛.近医で肝S6の肝嚢胞を指摘され,エタノール注入療法を3回施行されたが効果を得られる確固たるものがないとの判断で当科紹介された.嚢胞の性状と占拠部位より腹腔鏡下の治療が可能と考え手術施行,腹腔鏡下に嚢胞壁を臓側面・横隔膜面にわたり6×6cm切除し,残存嚢胞内腔を可能な限り焼灼した.術後は極めて良好に経過し術後12日目に退院した.術後2年10カ月の現在経過観察中であるが症状は完全に消失している.腹腔鏡下肝嚢胞開窓術の適応決定には嚢胞の局在部位が問題となり,全ての肝嚢胞症例に施行することはできない.しかし症例を選択するならば腹腔鏡下外科手術の恩恵を受けることができ,極めて有用と思われた.
  • 馬渕 秀明, 岡島 邦雄, 梁 壽男, 千福 貞博
    1996 年 57 巻 3 号 p. 684-688
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    術前に遊走脾と診断し,脾固定術を施行した1例を経験したので報告する.症例は5歳,女児,臍周囲部痛を主訴に近医を受診し,脾臓の位置異常を指摘された.精査の結果遊走脾と診断され,手術目的にて当科に入院となった.手術所見では脾は固定間膜が欠如しており時計方向に3回捻転していたが,梗塞は認めず,脾動脈の拍動は良好で術中経脾的門脈造影にて脾静脈の開存を認めたため,脾固定術を施行した.遊走脾は稀な疾患で術前診断がつかぬまま手術を行わなければならない場合が多いが,近年,画像診断の進歩に伴い術前に診断される症例が増加しつつある.本例では腹部超音波検査が有用であった.治療は捻転による梗塞のため脾摘除術が多く施行されているが,小児では摘脾後の感染症などが注目されてきたため,早期に診断し脾温存,脾固定術を行うことが望ましいと考えられた.
  • 谷藤 公紀, 池田 史仁, 片柳 創, 原 理, 粕谷 和彦, 谷藤 和弘, 小柳 泰久
    1996 年 57 巻 3 号 p. 689-693
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    極めて稀な腎良性過誤腫であるAdult mesoblastic nephroma (AMN)を経験した.症例は44歳男性.主訴は背部右側腹部痛.右腎充実性腫瘍の画像診断にて,右腎摘出術を施行した.腫瘍の局在は右腎上極, 10.5×9.5×6.0cm大で弾性軟,周囲を圧排性に膨張性発育をしていた.割面は黄白色充実性均一,健常腎との境界は明瞭で被膜はなかった.組織学的には,非上皮性組織,紡錘・多角型核をもつFibroblast様細胞が束状に集簇増殖巣(Desmin(+), MSA(+), S100-protein(-)),平滑筋成分,血管成分HMB-45(-),脂肪成分と上皮性組織(尿細管細胞様の上皮からなる腺管・嚢胞CAM5.2(+))が腫瘍全体に混在してみられた.この所見から上皮成分は腫瘍構成成分であることを示唆され, AMNは発育速度の遅いCongenital mesoblastic nephromaの成熟型のひとつであると考えられた.またAmgiomyolipomaに関連があるとされる未熟Melanosomeはみられなかった.
  • 土田 忍, 桑田 圭司, 山崎 芳郎, 大野 喜代志, 橋本 純平, 山崎 元, 長岡 眞希夫, 山本 重孝, 鳥 正幸, 山口 高広, 李 ...
    1996 年 57 巻 3 号 p. 694-697
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌の小脳転移巣を切除後, 9年目に出現した肺転移巣をも切除し得た1例を経験したので報告する.症例は69歳男性で, 1981年に腎癌に対し右腎摘出術を受けた. 1984年10月後頭部痛が出現, CT上小脳に腫瘍性陰影を認め,翌年1月に摘出術を受けた.摘出標本の病理学的検査の結果腎癌の小脳転移と診断され,術後放射線および化学療法を受けた. 1993年10月の胸部X線写真とCTで右肺に2個の異常陰影を認め,経皮針生検にて腎癌の右肺転移と診断された.同12月に右肺部分切除術を受け,術後経過順調で現在外来通院中である.腎癌では,肺転移が最も多く,肺転移を伴わずに小脳に転移するのは稀である.しかも,小脳転移巣切除後に肺転移巣をも切除したという報告はわれわれが検索し得た限りでは見あたらない.本症例では,転移経路および臨床経過が極めて興味深く,腎癌転移巣の治療方針を考える上で有用であると思われた.
  • 雪本 清隆, 西口 幸雄, 石川 哲郎, 長山 正義, 吉川 和彦, 澤田 隆吾, 須加野 誠治, 曽和 融生
    1996 年 57 巻 3 号 p. 698-702
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Cushing症候群の多くは下垂体腺腫によるとされるが,副腎腫瘍などによる副腎性Cushing症候群の報告も多い.今回われわれは下垂体腺腫摘出術後2年10カ月後に発見された副腎腺腫によるCushing症候群の1例を経験したので報告する.症例は69歳,女性で全身倦怠感を主訴に来院し理学的所見,内分泌検査によりCushing症候群と診断された.腹部US, CT上右副腎に径20mm大の腫瘍を認めた.また,副腎シンチ上,デキサメサゾン負荷後も右副腎にRIの集積を認めた.以上の所見よりcortisol産生右副腎腫瘍と診断し,腹腔鏡下右副腎腫瘍摘出術を施行した.病理組織診断は腺腫であった.本症例は,前回の脳外科手術時の下垂体腫瘍は非機能性で嫌色素性腺腫であり,今回の病変とは明らかな因果関係はない.しかし,本症例のように異時性にいくつかの内分泌臓器に病変が発現することも考えるため,引き続き経過観察していく必要があると思われる.
  • 森 琢児, 冨田 尚裕, 門田 卓士, 岩本 伸一, 佐々木 昌也, 檜垣 直純, 辻江 正樹, 八幡 暁直, 島野 高志, 門田 守人, ...
    1996 年 57 巻 3 号 p. 703-707
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    後腹膜嚢胞性中皮腫の1例を報告する.症例は42歳の女性.感冒にて近医を受診した際,下腹部に腫瘤を指摘され,当科紹介入院となった.注腸造影,腹部CTなどの検査にて,後腹膜嚢胞性腫瘤を疑い,開腹術を施行した.手術所見では,下行結腸の後方に単房性嚢胞が存在し,結腸を内方に圧排していた.病理組織学的に,嚢胞の内腔は一層の細胞からなり,組織化学的検討では,ケラチン,コロイド鉄が陽性, CEA,ヒアルロニダーゼが陰性で嚢胞性中皮腫と診断した.
    孤立性単房性の後腹膜嚢胞性中皮腫は非常に稀な疾患であるが,腹部嚢胞性腫瘤を認めた場合,嚢胞性中皮腫も鑑別診断のひとつにいれておくべきであると考えられた.
  • 水上 健治, 堀井 勝彦, 大谷 博, 高 勉, 池添 実華, 福長 洋介, 谷村 慎哉, 李 光春, 山崎 修, 藤本 泰久, 平田 早苗 ...
    1996 年 57 巻 3 号 p. 708-713
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    患者は71歳男性, 10年前胃前庭部IIc型胃癌にて術前精査中,右後腹膜に腫瘍が発見された.腫瘍は門脈と下大静脈との間に位置する9×7×4cm大,弾性軟,一部嚢胞形成を伴う限局性腫瘤であった.術中,腫瘍周囲の剥離操作時高血圧発作が出現したため褐色細胞腫と診断した.腫瘍摘出と胃亜全摘術を施行した. 7年後,残胃IIa型胃癌のため残胃全摘術を施行した.更に3年後,肝S8に径2cm, S4に径1cm, 上腸間膜動脈根部上縁に径2cm, 右腎門部に径1cmの腫瘍が発見された.カテコールアミン過剰症状は認めなかったが,血中,尿中カテコールアミン値の軽度上昇と131I-MIBGシンチで肝S8への集積が見られたため褐色細胞腫の再発と診断した.再切除を施行し2個の肝転移巣と2個の局所再発巣を切除し得た.術後131I-MIBGシンチによる集積は見られず,尿中VMAは正常化している.
  • 宇都宮 成洋, 壬生 隆一, 田中 雅夫
    1996 年 57 巻 3 号 p. 714-717
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    総腸間膜症を伴った上腹壁ヘルニアの1例を経験したので報告する.症例は71歳女性. 50歳頃に上腹部に鶏卵大の腫瘤を生じ,徐々に増大してきた.時々腹痛を自覚するようになったため当科を受診した.上腹部に小児頭大の柔軟な腫瘤を認め,経口腸管造影にて腫瘤内に空腸からS状結腸までが造影された.上腹壁ヘルニアの診断にて1991年3月6日手術を施行した.白線部に4×4cmのヘルニア門を認め,ヘルニア嚢内に結腸の一部が癒着していた.腹腔内を検索したところ小腸および大腸は共通の腸間膜を持つ総腸間膜症の所見であった.上腹壁ヘルニアは本邦では現在までに32例の報告があるが総腸間膜症を合併したものは報告がなく,極めてまれな症例と考えられた.
  • 岩上 栄, 川上 和之, 川浦 幸光
    1996 年 57 巻 3 号 p. 718-721
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    閉鎖孔ヘルニアは稀な疾患でそのほとんどが小腸の嵌頓であるが,われわれは小腸と卵巣の右側同時嵌頓の症例を経験したので報告する.症例は88歳の女性で夕食後より腹痛,嘔吐出現しその後徐々に右大腿部痛出現してきたため当院救急外来受診した.来院時の腹部単純X線写真にて亜腸閉塞と診断され入院となった. Howship-Romberg徴候を認めたため,鼠径部超音波検査,骨盤部CT検査施行し右閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断し緊急手術を施行した.術中所見では回盲部より約20cmの回腸および右卵巣が右閉鎖孔に嵌頓しているのが確認された.回腸の嵌頓はRichter型であり,整復すると一部壊死に陥った回腸を認めたため回腸部分切除術を施行し,右卵巣を環納した.本症の診断において鼠径部超音波,骨盤部CT検査が小腸の閉鎖孔ヘルニアの確定診断に有用であった.また, Retrospectiveに卵巣の嵌頓は超音波検査で確認することが可能であった.自験例は症状が発現してから手術までに24時間しか要していないにもかかわらず嵌頓腸管は壊死に陥っていたことより,本疾患はできるだけ早期に診断して手術方法は腸全体が観察できるよう開腹することが重要であると思われた.
  • 杉山 悟, 清水 康廣, 因来 泰彦, 松森 秀之, 岡野 和雄
    1996 年 57 巻 3 号 p. 722-726
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Fontaine分類III・IV度の重度虚血肢で浅大腿動脈が閉塞し,大腿深動脈の起始部も閉塞している場合,大腿深動脈を末梢部分まで追求して形成するextended profundoplastyは救肢に劇的な治療効果を生む場合がある. 1987年から1994年までに本術式を施行した6例を総括し治療成績を報告する.年齢は67歳から92歳まで平均79歳で,病因はすべて閉塞性動脈硬化症,術前のFontaine分類はいずれもIII・IV度の重症虚血肢であった.術前のankle pressure index(API)は4例が測定可能で,測定可能だった2例では0.27, 0.46といずれも低値であった.大腿深動脈の流入路の形成術として,腋窩-大腿深動脈バイパスを3例,大腿-大腿深動脈バイパスを2例に行った.術後APIは平均0.6と全例で上昇し,救肢,安静時疼痛の改善などの良好な臨床効果が得られた.
  • 下村 誠, 五嶋 博道, 勝峰 康夫, 宮原 成樹, 臼井 正信
    1996 年 57 巻 3 号 p. 727-731
    発行日: 1996/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は54歳の女性.仙骨前面の腫瘤の精査目的にて当科紹介された.直腸診では後壁に表面平滑で軟らかい鶏卵大の腫瘤をふれ, CTにて仙骨前部に径8cmの表面平滑で境界明瞭な二胞性の腫瘤が認められた.注腸透視では直腸は後方より圧排され,経直腸的超音波検査では直腸後方に一部hypoechoicな部分を含むhyperechoic massを認めた.直腸壁は全層確認でき腫瘍は被膜を有し,直腸との境界は明瞭であった.仙骨前部嚢胞性腫瘤の診断にて経仙骨的腫瘤摘出術を施行した.腫瘤は大きさ9×6×5cm,二胞性の嚢胞で,内部に灰白色の粥状の内容物が含まれていた.組織学的に嚢胞内壁は重層扁平上皮で構築され皮膚付属器は認めずepidermoid cystと診断された.仙骨前部に発生するdevelopmental cystの本邦報告例は17例で,うちepidermoid cystは7例のみであった.本症では悪性腫瘍や感染を合併する可能性もあり,完全な腫瘍の切除が肝要と考えられた.
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