日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
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57 巻, 5 号
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  • 元木 良一
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1019-1028
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
  • 周術期管理と術前PTCAの有効性
    弓場 健義, 中尾 量保, 仲原 正明, 前田 庄平, 松江 一, 前田 克昭, 荻野 信夫, 宮崎 知, 江本 節, 黒住 和史
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1029-1033
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    冠動脈疾患(CAD)を併存した消化器外科手術症例70例において心機能評価,周術期管理,高度の冠動脈狭窄に対する治療法について検討した.心筋梗塞の既往を有するものは44例で,左心機能は大半の症例で保たれていた.硬膜外麻酔を併用したGO-NLA麻酔に加えニトログリセリンの持続静注などの周術期管理を行った.冠動脈造影を施行した36例中9例に高度の冠動脈狭窄を認め, 8例に経皮的冠動脈形成術(PTCA)を術前に施行し狭窄の改善を図り,左主幹部病変の1例に冠動脈バイパス術(CABG)との同時手術を施行した. PTCA施行後手術までの期間は3~57日であった.冠血行再建例を含め全例において重篤な心合併症の発生を認めなかった. PTCAは冠血行再建を必要とする消化器外科手術例の術前処置として有用であると考えられた.
  • 沖津 宏, 田中 克浩, 梶川 愛一郎, 井上 洋行, 三木 仁司, 梅本 淳, 宇山 正, 門田 康正, 長野 貴
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1034-1042
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    遊離空腸移植による食道再建症例の治療成績向上を目的に,切除再建術式を中心として,術後合併症,予後を検討した. 17例の遊離空腸移植症例のうち,下咽頭頸部食道癌8例に対する咽喉頭頸部食道切除後の再建を定型的術式とし,他の下咽頭と胸部食道の重複癌,甲状腺癌および胸部食道癌などの再発癌等9例に対する切除再建を非定型的術式とした.移植血管床には原則的に総頸動脈と内頸静脈を用いた.術後合併症は定型的術式症例ではなく,非定型的術式症例では9例中5例と有意に多く発生し,空腸壊死1例,縫合不全3例,嚥下性肺炎2例であった.全例の中間生存期間は18カ月で,定型的と非定型的術式症例間には有意差はなかった.非定型的術式症例は有茎胃管,腸管との併用や気管形成術,縦隔気管瘻など気道再建との併用術式症例であり,より確実な消化管吻合,気道再建における補助手段の必要性,喉頭温存の有無など症例毎の適切な術式の選択が望まれる.
  • 山村 義孝, 小寺 泰弘, 鳥井 彰人, 上坂 克彦, 平井 孝, 安井 健三, 森本 剛史, 加藤 知行, 紀藤 毅
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1043-1048
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    噴門側胃切除後の食道と残胃の吻合方法(端側,端々)と幽門形成付加の是非について, A群:幽門形成(+)端側吻合(16例), B群:幽門形成(-)端側吻合(14例), C群:幽門形成(-)端々吻合(6例)を対象とし,術後短期(退院時,カルテ参照)と長期(各群とも中央値は術後5年,アンケート調査)の臨床症状を比較した.手術時の背景要因(年齢,性,食道浸潤の有無,組織型,深達度,リンパ節転移程度,郭清度,根治度)に差はなかった.退院時の症状に有意差はなかったが, A群で嘔吐や胸やけが少なく入院期間も短めであった.アンケートの結果では, 1回および1日食事量ともに術前の半分未満の症例はB群に多く,体重が術前以上になった例がA群に25%あった. A群では胸やけの頻度も程度も軽かったが, C群では全例が強い胸やけとそれによる不満を訴えた.以上より,噴切後の再建には幽門形成(+)端側吻合が良く,端々吻合は良くないと思われた.
  • 宮下 知治, 西村 元一, 八木 治雄, 藤村 隆, 米村 豊, 泉 良平, 三輪 晃一, 宮崎 逸夫, 山口 明夫
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1049-1053
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸癌卵巣転移症例の臨床病理学的特徴とその治療法について検討を行った. 1980年から1993年までに経験した女性大腸癌切除症例は172例で,うち11例に大腸癌卵巣転移を認め,平均年齢は52.9歳であった. 11例中8例は同時性であり,残りの3例は異時性であった.原発腫瘍の占居部位は直腸4例, S状結腸3例,盲腸3例,上行結腸1例であった.腹膜播種は同時性では全例に,異時性では3例中2例に認めた.治療法としては,全例に切除を行うとともに4例に対して,持続温熱腹膜灌流療法(continuous hyperthermic peritoneal perfusion;以下, CHPPと略記)を施行しており,特に子宮・卵巣合併切除に加えてCHPPを併用した2例は再燃なく現在生存中である.以上より大腸癌卵巣転移症例に対しては,積極的な根治手術に加えCHPPを施行することは有用であると考えられた.
  • 伴登 宏行, 亀水 忠, 宇野 雄祐, 土田 敬, 龍澤 泰彦, 八木 真悟, 山田 哲司, 北川 晋, 中川 正昭
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1054-1059
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸癌術後144例に対し,内視鏡的経過観察を行い,腫瘍性病変の発見状況を調べ,適切なfollow-upのプログラムを検討した. 50~69歳の男性,腺腫併存例,腺癌の家族歴を有する症例で有意に発見率が高く,これらは高危険群と思われた.また左側結腸で発見率が高い傾向があった.術後2年以内の早期に腫瘍が発見されたのは高危険群で多かった.また直腸癌の局所再発は全例2年以内であった.
    これより以下のようなプロトコールを考案した.術前に全大腸の検索が不十分であった症例は術後6カ月以内に1回目の内視鏡検査を行う.高危険群と直腸癌切除症例は1年目と2年目に,低危険群は2年目に初回検査を行う.その後は両群とも4年目, 6年目に検査を行い,その間6カ月に1回の便潜血検査を挿む.さらに高危険群では8年目, 10年目に低危険群では10年目に,検査する.その間1年に1回の便潜血検査を挿む. 10年目以降は大腸癌検診を受けるように指導する.
  • 稲吉 厚, 高森 啓史, 澤田 俊彦, 村本 一浩, 藤田 学, 有田 哲正, 八木 秦志, 池田 恒紀
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1060-1064
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは,最近の3年間に,非寄生虫性肝嚢胞15例に対して,エコーガイド下穿刺による炭酸ガスおよび塩酸ミノサイクリン注入療法を施行した.炭酸ガスのみ注入した肝嚢胞の3例中2例は50%以上の縮小率が得られたが,嚢胞径が18cm以上あった1例には無効であった.塩酸ミノサイクリンのみ注入した肝嚢胞の4例中3例は50%以上の縮小率が得られたが,嚢胞径が10cm以上あった1例のみ50%未満の縮小率であった.また,炭酸ガスと塩酸ミノサイクリンの両者を注入した肝嚢胞8例のうち嚢胞径が10cm以上の2例を含む7例で50%以上の縮小率が得られた.また本法において,重篤な合併症はなく,安全な治療法であると考えられた.以上の結果から,エコーガイド下の炭酸ガスおよび塩酸ミノサイクリン注入療法は,肝嚢胞の治療に対し,エタノール注入療法と同様に有効であり,特に両者の併用療法は,両者の効果が期待できる事からより有効であると考えられた.
  • 伊藤 豊, 高野 靖悟, 佐藤 一雄, 高橋 知秀, 森口 正倫, 大石 均, 田中 隆, 岩井 重富
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1065-1071
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    自験例の良性胆道狭窄(以下,本症)の105例の病体と治療について検討した.本症は全良性胆道疾患の6.0%を占めており,その占居部位の74.5%は中下部胆道であった.原因は非手術性が81.5%,術後性が18.5%であった.非手術性は,乳頭部狭窄,先天性が頻度が高かった.術後性は術中損傷8例,術後瘢痕性が10例で胆道再建後は吻合部狭窄4例が発生した.術後性狭窄例はTチューブ挿入例236例中の4例(1.66%)にみられ,開腹胆嚢摘出1,256例中の2例(0.16%)にみられ,胆道再建術374例の中,胆道再建吻合部狭窄が4例(1.38%)にみられた.術後性は,手術後平均2.12年間に発生をみた.治療は観血的治療が98例,非観血的治療6例で観血的治療は91例(92.9%),非観血的治療は5例(83%)に有効であった.本症の治療は狭窄部位,胆管のダメージの程度を適切に把握し術式の選択が望まれる.また非観血的治療の対象例は少数ながら現在満足する成績を得た.
  • 草野 敏臣, 宮里 浩, 伊佐 勉, 白石 祐之, 山田 護, 松本 光之, 武藤 良弘, 伊藤 俊哉
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1072-1078
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    慢性膵炎に伴う難治性腹痛のコントロールに胸腔鏡下胸部大内臓神経切除術(TTS)を施行し,その有用性を報告した. ‹対象・方法›過去2年間に慢性膵炎の7症例(膵管造影で拡張型2例,非拡張型5例)にTTSを施行した.手術手技は,腹痛が顕著な側の第5から9番の交感神経神経幹を切離し電気凝固した.除痛効果が不十分であれば,対側のTTSを追加した. ‹結果›全例除痛効果が認められ,術後早期の重篤な合併症はなかった.しかし, 3名の患者に肋間神経痛が, 2名に腹痛の再発を認めたが,術前と比較して痛みの強度範囲とも縮小し6名は社会復帰した.現在まで最高23カ月の観察期間を経ているが,経過良好である.またTTSによる術後の膵内外分泌機能の悪化は認めなかった. ‹結語› TTSは,慢性膵炎に随伴する腹痛のコントロールにおいて安全で信頼される術式である.また他の外科療法と比較して,低侵襲の手術手技である点で優れている.
  • 上原 伸一, 末永 昌宏, 杉浦 勇人, 国場 良和, 久留宮 隆, 初野 剛
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1079-1084
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1988年7月から1993年7月までに当科で施行された慢性腎不全患者に対する全身麻酔下の手術症例(minor surgeryおよび腎移植を除く)は22例であり,その内訳は消化管11例,肝胆道4例,血管4例,肺癌1例,その他2例であった.死亡は22.7%(22例中5例)で,緊急手術例が33%(6例中2例)に対し待機手術例は19%(16例中3例)であった.術後合併症は縫合不全,腹腔内膿瘍,虚血性腸炎,創感染など14例24件と高頻度に認められた.以上より透析患者に対する手術はその適応,術前,術後管理を考慮することが重要と考えられた.
  • 谷若 弘一, 平松 毅幸, 内田 宏昭, 金沢 孝満, 高林 直記, 小林 亮, 位田 保之, 原 宏介, 富山 次郎
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1085-1089
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    外科領域でToxic shock syndrome(以下TSS)を惹起するブドウ球菌の大部分はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(Methicillin resistant Staphylococcus aureus,以下MRSA)であり,術後MRSA感染症はTSS発症の重要な因子である.従来術後MRSA感染症の原因として第3世代セフェムの濫用によりMRSAが誘導され,日和見感染的に大きな手術侵襲後や全身状態が不良な合併症患者に発症するとされてきた.しかし最近ではこれらの要因がなくても病毒性の強いMRSAの暴露により発症する可能性が指摘されている.今回われわれは非穿孔性急性虫垂炎の手術後にMRSA腹膜炎を発症し,急速に重症化してTSSに至った成人男性症例を経験したが,たとえ患者側に明らかな発症要因がなくともMRSA感染により状態が急変し,最悪の場合TSSにまで重症化しうることを再認識し,改めてその予防に努めることが日常の臨床において重要と思われた.
  • 小松 誠, 伊藤 敦子, 井上 憲昭
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1090-1093
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近,上皮小体機能亢進症と甲状腺疾患,特に甲状腺髄様癌以外の腫瘍あるいは多発性内分泌腺腫瘍症2型以外の合併について注目されている.今回われわれは,上皮小体機能亢進症自験例12例(甲状腺疾患非合併症例6例,合併症例6例)について,特に甲状腺疾患の合併が上皮小体の術前局在診断に及ぼす影響について検討した.甲状腺疾患非合併症例における上皮小体の術前局在診断については現状でも比較的満足できる成績であった.一方,甲状腺疾患合併症例における上皮小体の術前局在診断については誤診症例が約半数を占めており,不満足な成績であった.甲状腺疾患の合併は,上皮小体の術前局在診断に強く影響を与えており,従来の画像診断であるUS, CT, MRI, 201TL-99mTcサブトラクションシンチグラフィーのみでは不満足な成績であった.さらに99mTc-MIBIシンチグラフィーを参考にすることにより,その診断能の向上が期待される.
  • 谷口 雅彦, 上田 祐滋, 豊田 清一, 前田 守孝
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1094-1098
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去13年間に原発乳癌手術症例604例中, 6例 (0.99%)の男性乳癌症例を経験した.平均年齢は56.3齢で,発生部位は全例乳輪中心性であった.病悩期間は平均11.0カ月で内3例は1週間以内であった. Stage分類は, Stage I 3例, Stage II 1例, Stage III 2例であり,病悩期間と乳癌進行度とは必ずしも相関しなかった. 6例全例に定型的乳房切除術を施行した.全例に術後補助化学療法を行い,さらに2例には内分泌療法, 1例には照射療法も加えた. 6例中4例が現在,無再発,生存中であり, 2例は他病死であった.これまで男性乳癌は予後不良とされてきたが,各Stageに応じた根治手術と内分泌療法を含めた補助療法を行うことにより良好な予後が期待できるものと思われた.また,早期乳癌症例が増えた現在,その進展様式を明らかにしたうえで,積極的に縮小手術を取り入れるべきであると思われた.
  • 山根 正隆, 中川 準平, 塩田 邦彦, 多胡 護, 平井 俊一, 鈴鹿 伊智雄
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1099-1102
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1989年1月から1995年3月までに施行した腹部大動脈瘤手術は74例であった. 80歳以上の手術例を検討するために, 80歳以上腹部大動脈瘤手術10例(I群)と同期間に行った69歳以下27例(II群)を対照として,術前状態,術前検査成績,手術時間,術中出血量,術中輸血量,術後合併症および手術成績について検討した.
    I群の術前合併症はII群とくらべて糖尿病以外は差がなかったが,術前検査成績で呼吸機能,腎機能低下例の症例が多い傾向がみられた.手術時間,術中出血量には差がなかったが,輸血量はI群に多かった.
    術後合併症はI群に多い傾向がみられた.手術成績は, I群の破裂例の1例のみ死亡し,待期例では全例生存した.
    80歳以上の症例でも,術前状態が良好で,術前検査で異常がなければ,積極的に手術すべきである.
  • 青木 洋, 古川 良幸, 足利 建, 羽生 信義, 青木 照明
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1103-1106
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    特発性食道破裂は,下部食道を好発部位として発生する重篤な急性疾患である.縦隔や胸腔内が汚染されるため,治療にはドレナージ術が必要とされる.われわれは,過去7年間に特発性食道破裂の4手術例を経験した.最近の2例は,術後CT検査にて壁側胸膜外膿瘍が認められ,超音波下にドレナージ術を施行したところ,有用であった.
    特発性食道破裂症例の術後に,胸腔ドレナージが有用であるにもかかわらず,感染所見が持続または再燃する際には,壁側胸膜外膿瘍の有無の診断が重要である.壁側胸膜外膿瘍は,臥床により縦隔内の汚染が椎体の両側面から流入し形成したと考えられた.
  • 赤岩 順, 大久保 哲行
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1107-1111
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は75歳,女性,心窩部痛を主訴とし来院した.上部消化管造影を行ったところ傍食道型裂孔ヘルニアがあり,ヘルニア部分に写真上約6cm径の周堤が隆起した巨大な不整型の潰瘍が認められた. CTでは胸腔内の胃壁に肥厚が認められた.内視鏡検査では逆流性食道炎は認めず,胃体上部大彎側の巨大な潰瘍限局型癌と診断された.手術は,左胸腹連続切開で胃全摘術D2を施行した.腫瘍は径7cmでヘルニアの大部分を占め,組織診断は低分化型管状腺癌で,深達度はSS,リンパ節転移は認められなかったが,術後2年で再発死亡した.食道裂孔ヘルニアと胃癌の併存例については欧米で多くの報告をみるが,そのほとんどが滑脱型,短食道型との併存であり,傍食道型については文献上,本邦3例,外国1例を数えるのみで非常に稀と考えられる.
  • 松下 努, 栗岡 英明, 秋岡 清一, 上島 康生, 塩飽 保博, 李 哲柱, 牧野 弘之, 池田 栄人, 武藤 文隆, 大内 孝雄, 伊志 ...
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1112-1115
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道重複症の1切除例を経験した.症例は63歳女性.胸痛発作を主訴として来院.食道憩室穿孔による後縦隔膿瘍と診断し手術施行した.摘出標本病理所見において術前に膿瘍腔と診断していた小腔壁に異所性膵組織および平滑筋層を認め,食道重複症と診断した.本邦において重複食道内に膵組織を認めた報告例はなく,極めて稀な症例と考えられたため若干の文献的考察を加え報告する.
  • 関 仁史, 上田 忠, 粕谷 孝光, 小棚木 均
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1116-1119
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    X線造影上5×5cm以上の食道憩室は巨大食道憩室と呼ばれているが,今回われわれは, 7×7cmにおよぶ横隔膜上部の巨大食道憩室症を経験したので報告する.
    症例は, 70歳女性で嚥下困難,嘔吐,胸やけにて発症し,胸部下部食道左壁に嚢状に突出する食道憩室を認めた.症状の増悪が認められたため手術適応とした.本患者は,重篤な心疾患を有していたため開胸せず,経腹経食道裂孔経由で憩室切除術を施行した.病理組織学的には,粘膜下層に著明な炎症性細胞浸潤を認め,固有筋層がわずかに残存する仮性憩室であり,内圧憩室と考えられた.巨大食道憩室症の本邦報告例についても併せて報告した.
  • 駒田 尚直, 川口 雄才, 中川 明彦, 小島 善詞, 神谷 智雄, 山田 斎, 平松 義文, 上山 泰男
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1120-1124
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    切除不能の食道小細胞型未分化癌に対し,化学療法と放射線治療を併用し,主病巣の消失を見た1例を経験したので報告する.症例は77歳女性.嚥下困難と食後の嘔気,嘔吐を主訴に近医を受診し,上部消化管透視にてImEiEaにわたる食道癌と診断され,当科に入院した.内視鏡下生検にて食道小細胞型未分化癌と診断され,諸検査にて左心房,大動脈,左気管支,左胸膜への浸潤を認めたため,胸部食道,縦隔への60C0照射を総計37.5 Gy, CDDP 50mgと5-FU総量10g併用による全身化学療法を行ったところ,食道透視にて食道病変の完全消失と縦隔への瘻孔形成を認めた.その後患者は,食道気管瘻孔形成による肺炎にて死亡した.食道小細胞癌は診断時すでに広範に転移し,根治切除不能なことが多いが,化学療法の発達による治療有効例の報告も多数見られ,積極的な集学的治療を試みるべきと考える.
  • 正木 裕児, 安部 俊弘, 山本 達人, 長谷川 博康, 宮下 洋, 舘林 欣一郎
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1125-1128
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Nssen's fundoplicationにて寛解が得られた逆流性食道炎に,早期食道腺癌を合併し,治癒切除しえた症例を経験したので報告する.症例は34歳の男性,胸骨後部痛を主訴に近医を受診し,食道裂孔ヘルニアによる逆流性食道炎と診断された.保存的治療にて軽快しないため, Nissen's fundoplicationを施行した.術後,一部潰瘍性病変の残存を認めたものの良好に経過していた.約1年後の内視鏡下生検にてGroup Vの診断を得たので,食道癌根治術を施行した.病理組織検査にて深達度mの早期食道癌と診断された.食道癌は逆流性食道炎,なかでもいわゆるBarrett食道の合併症であり,経過観察に際しては十分注意する必要があると考えられた.
  • 鯵坂 秀之, 藤村 隆, 湊屋 剛, 谷 卓, 橋本 哲夫, 清水 康一, 八木 雅夫, 米村 豊, 三輪 晃一, 宮崎 逸夫, 種井 政信
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1129-1133
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道の悪性黒色腫はまれであり,予後も極めて不良とされる.今回われわれは食道原発の悪性黒色腫の1例を経験したので報告する.症例は64歳女性.平成6年1月頃より心窩部不快感と嚥下困難を認め,近医にて食道と胃の黒色隆起性病変を指摘され当科紹介となった.身体所見では皮膚,眼底,口腔,肛門に異常な色素斑は認めなかった.上部消化管内視鏡検査では食道胃接合部に長径3cmの黒色隆起性病変を認めるほか,食道に3つ,胃噴門部に2つの黒色隆起性病変を認めた.生検にて食道と胃の悪性黒色腫と診断し7月19日に手術を行った.手術所見でA0N2M0P10のStage IIIで右開胸開腹による胸部食道全摘,噴門側胃部分切除(切除度I, 根治度I)を施行した.切除標本では食道胃接合部の43mm×35mmの黒色病変(0-Ip型)のほか10mm程度の黒色病変(0-I, II型)を6カ所に認めた.病理組織学的に悪性黒色腫と診断された.
  • 下村 誠, 五嶋 博道, 勝峰 康夫, 加藤 弘幸
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1134-1138
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃潰瘍を合併した柿胃石の1例に対し電気水圧衝撃波を用いて内視鏡的砕石術を施行し極めて良好な経過を得たので報告する.症例は68歳男性.入院3日前より増強する上腹部痛にて当科を受診した.上部消化管透視所見で胃内に6×5cmの移動性を有する腫瘤を認め,上部消化管内視鏡検査にて黄褐色球状で表面平滑な胃石と胃角部のA1 stage ulcerを認めた.胃潰瘍を合併した胃石の診断で電気水圧衝撃装置による内視鏡的砕石術を施行した.断片が2cm以下になるまでに破砕し一部を経口的に採取し大部分は経肛門的に排出した.採取した胃石の成分分析ではタンニン酸98%であり柿胃石と考えられた.砕石術後の経過は良好で, 1カ月後の胃内視鏡では胃石の遺残なく潰瘍は軽快していた.電気水圧衝撃波による柿胃石破砕の報告は過去2例のみであるが,胃石の内視鏡的治療においては如何なる大きさの胃石においても適応できる有効な方法と考えられた.
  • 長阪 重雄, 山崎 元, 桑田 圭司, 山崎 芳郎, 大野 喜代志, 長岡 真希夫, 橋本 純平, 山本 重孝, 鳥 正幸, 山口 高広, ...
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1139-1143
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は26歳男性,平成5年3月に上腹部痛と右背部痛を主訴に近医を受診し,胆石症と診断され手術目的で当科紹介となる.術前のDIC検査では胆嚢は造影されず,ヘリカルCTでは胆嚢頸部に造影不良部が見られた.腹部USでは胆嚢内に小結石と,頸部に腫瘍性病変によると思われる壁の肥厚および内腔の不整を認め,胆嚢癌が疑われた.以上より同年12月3日,腹腔鏡下に胆嚢を摘出し,胆嚢隆起性病変の術中迅速検査を施行した.術中迅速検査で腫瘍は過形成性ポリープの診断であったが,術後永久組織診断では病変部に腺窩上皮,胃底腺,幽門腺を認め,胆嚢異所性胃粘膜と診断された.
  • 長谷川 毅, 神谷 保廣, 岩橋 順子, 北村 聡児, 村元 雅之, 浅野 實樹, 石井 利治, 佐竹 章, 竹内 寧, 大久保 憲, 宇佐 ...
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1144-1148
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは十二指腸憩室穿孔の1例を経験したので報告する.
    症例は85歳女性で右下腹部痛を主訴に来院した.腹部所見から急性虫垂炎による腹膜炎を疑い緊急手術を施行した.虫垂は正常で腹腔内を精査したところ,十二指腸下行脚外背側に壁外性に突出する憩室の穿孔を認めた.憩室を切除し縫合閉鎖し,さらに術中胆道造影により乳頭の損傷のないことを確認した.術後経過は順調で術後30日で退院した.病理組織学的には,固有筋層が萎縮消失した十二指腸憩室で壊死部分からなる穿孔部を認め,憩室穿孔による腹膜炎と診断した.
    消化管憩室の中で十二指腸の憩室は比較的多いが,穿孔を来すものは稀で本邦報告例は20例と少ない.
    本邦報告例を集計し,診断および治療について考察し,術中胆道造影の重要性を強調した.
  • 江里口 直文, 朔 元則, 野中 道泰, 矢加部 茂, 穴井 秀明, 浜尻 公二, 清松 和光, 吉田 晃治
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1149-1152
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1983年から1994年の間に男性2例,女性3例の計5例の乳頭部腫瘍に対して局所切除術を施行した.年齢は62歳から86歳で,黄疸を主訴としたのは3例であった.他の2例は特に主訴はないが腹部超音波検査にて総胆管拡張および胆嚢結石を指摘されていた.乳頭部腫瘍の診断は経皮経肝胆道造影で1例,内視鏡検査にて4例がなされた.乳頭部局所切除術は根治切除術をするにはハイリスクの症例に対して施行された.本法は高齢者や腫瘍が小さく,合併症を有する症例に対して有用で,膵頭十二指腸切除術より手術危険度が低い.この術式について文献的考察をくわえて報告する.
  • 新宮 聖士, 花崎 和弘, 清水 忠博, 袖山 治嗣, 宮崎 忠昭, 大塚 満洲雄, 小山 茂, 羽田 悟
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1153-1156
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    非特異性多発性小腸潰瘍症により機械的イレウスをきたし,手術適応となった1例を経験した.症例は55歳,女性.昭和42年小腸潰瘍にて某医で小腸切除術を受け,昭和57年5月より鉄欠乏貧血にて当院内科で治療を受けていた.平成6年3月イレウスにて内科入院した.保存的治療にて軽快したが,再びイレウスとなったため, 5月手術を行った.イレウスの原因は小腸の著明な輪状狭窄で,臨床症状,術中所見,切除標本の肉眼所見および病理組織学的所見より非特異性多発性小腸潰瘍症と診断した.本症が機械的イレウスの原因となることはまれであり,また両親がいとこ結婚であり,同胞に発症が認められることより,本症の発症に遺伝的素因が示唆される貴重な症例と思われるので報告した.
  • 井手 秀幸, 川野 勝二, 島山 俊夫, 竹智 義臣, 岩本 勲, 田中 貞夫, 瀬戸口 敏明
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1157-1160
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    26歳の男性で主訴は下血.下血により高度の貧血,低血圧をきたしたため4日間で総計2,400mlの輸血を施行し,出血源の検索を行った. 99mTc-albuminシンチグラフィによって下部回腸の出血と判断しMeckel憩室を強く疑った.上腸間膜動脈の回盲枝にプロスタグランジンF2αを持続注入して止血したのち,小腸二重造影によってMeckel憩室と診断した.手術は憩室切除術を施行した.憩室は3×7cmで粘膜にびらんを認めた.これは消化管出血という合併症で発症したMeckel憩室で,プロスタグランジンF2αが奏効したため,術前の小康時に病態を慎重に検索し,小腸造影により診断することができた症例である.
  • 船橋 公彦, 森 環樹, 河野 明彦, 瀬尾 章, 大谷 忠久, 辻本 志朗, 高月 誠, 吉雄 敏文
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1161-1165
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    消化管においては発生が比較的稀な小腸癌を2例経験したので報告する.症例1は47歳男性で,腹痛を主訴として来院し,腹部CTで腸重積と診断された.注腸にて整復を試みたが不可能と判断し,手術を施行した.回腸末端より口側約130cmに認められた上皮性腫瘤を先進部とした腸重積で,腸間膜リンパ節を含む小腸部分切除を施行した.組織学的所見は深達度ss, ly1, v0, n1(+)の高分化型腺癌であった.症例2は56歳男性で,下血を主訴として来院した.大腸ファイバーで回盲弁の浮腫と回腸末端の腫瘤を認め,生検ではgroup Iであった.上腸間膜動脈造影所見では,回盲部にhypervascularityのある腫瘤を認め,悪性リンパ腫の術前診断で手術を施行した.組織学的所見は深達度se, ly3, v2, n4(+)の低分化型腺癌であった.以上,今回経験した原発性小腸癌について若干の文献的考察を含めて報告する.
  • 芝原 一繁, 宗本 義則, 笠原 善郎, 浅田 康行, 森田 克哉, 三井 毅, 飯田 善郎, 三浦 将司, 藤沢 正清, 経田 克則, 川 ...
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1166-1169
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    慢性リンパ性白血病(以下CLL)患者で多発性小腸穿孔を合併した1例を経験したので臨床病理学的検討を加え報告する.
    症例は75歳女性. 4年前より内科にてCLL,喉頭潰瘍で入退院を繰り返していた.今回入院中, CLLは寛解していたが突然の腹痛を認め,精査の結果消化管穿孔による汎発性腹膜炎と診断し,緊急手術を施行した.開腹すると回腸末端に2カ所で穿孔を認めた.切除標本ではいわゆるpunched out ulcerが多発し,その内2個が穿孔していた.免疫染色を含めた病理組織学的検索の結果,潰瘍部にはCLL細胞の浸潤を認め,これが潰瘍形成に大きく関与していると考えられた.
    他の白血病と同様にCLL患者においても白血病細胞浸潤による消化管穿孔がおこり,致命的となりうるので,細心の注意と適切な処置が必要であると考えられた.
  • 上田 順彦, 小西 一朗, 吉光 裕, 太田 長義, 角谷 直孝, 広野 禎介
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1170-1173
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.腹部膨満感を主訴に入院.腹部単純X線所見で盲腸から上行結腸,横行結腸の腸管壁内に線状の気腫像を認めた.また右横隔膜下には遊離ガス像も認めた.腹腔内遊離ガスを伴った大腸嚢腫様気腫と診断し,気管切開後Tピースで70% 8lの酸素吸入による高濃度酸素療法を施行した.画像上治癒した状態で退院したが, 2カ月後再発した.初回時より軽症のため酸素マスクで100% 10lの酸素吸入による高濃度酸素療法を施行した.治癒退院後は再発予防として酸素マスクで90% 3lによる在宅酸素療法を施行した. 1年間再発なく良好な経過をたどっている.
  • 及川 卓一, 奥村 光治郎, 林 成興, 山形 敏之, 須田 清美, 加藤 克彦, 佐藤 博信, 岩井 重富, 田中 隆
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1174-1178
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    ガスによる嚢胞が腸壁に多発する比較的稀な腸管嚢胞様気腫症の1例を経験した.症例は45歳の女性,主訴は下血と腹痛であり,職業は塗装業でトリクロールエチレンに20数年来接していた.腹部単純X線写真で左上腹部にぶどうの房状の円形ガス像の集簇所見があり,注腸造影でS状結腸にヒイラギの葉状の所見を呈した.内視鏡検査ではS状結腸に多数の半球状隆起性病変を認めた.以上より, S状結腸の嚢胞様気腫症と診断し, 5l/分×5時間/日の酸素吸入療法を14日間施行した.酸素吸入開始後1週間で腹部単純X線写真,注腸造影および内視鏡検査等の隆起性病変の数は減少し, 21日後には消失した.本症において酸素吸入療法が著効したので報告する.
  • 西田 智樹, 國嶋 憲, 東田 武, 米山 千尋, 西植 隆, 渡辺 信介
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1179-1183
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小児の腸重積はそのほとんどが幼児期に発症する器質的疾患を有しない回腸結腸型であり,結腸結腸型腸重積はきわめて稀である.今回われわれはその1例を経験したので報告する.症例は, 13歳,男児である.腹痛,下血を主訴に当院小児科受診し精査の結果腸重積の診断にて当科に紹介された.症状発現より5日間が経過していたため高圧注腸による整復は行わずに開腹術を施行した.開腹すると左側腹部に結腸結腸型重積腸管を認めた.術中大腸内視鏡を行ったところ先進部のポリープを認めた.重積腸管を用手的に整復したところポリープは脾結腸曲に存在しており,脾結腸曲はV字状に結腸-結腸が癒着しており容易に再発することが想像されたことと内視鏡にてポリープ近くの粘膜に血流障害に陥った暗赤色部を認めたため結腸部分切除を行った.摘出標本にてポリープは組織学的には若年性ポリープであった.
  • 川西 勝, 小杉 光世, 中島 久幸, 清原 薫, 酒徳 光明, 安念 有声
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1184-1187
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は77歳男性, 69歳時に痔瘻の手術を受けた.その後も肛門周囲より排膿を認めていたが, 1年前より肛門右側に腫瘤を認め著しく腫大してきたので当科を受診した.肛門右側周囲に硬結を伴う直径12cm大の易出血性,粘液分泌を伴うカリフラワー様の腫瘤と,肛門管の著明な狭窄を認め, MRI,血管造影では右坐骨直腸窩部を占拠し管外性に発育したhypovascularな巨大腫瘤として描出された.下部消化管内視鏡検査では,肛門管の著しい狭窄を認めたが,粘膜面には異常を認めなかった.腫瘤からの生検にて粘液癌と診断され,肛囲皮膚の広範な切除を伴う腹会陰式直腸切断術(D2)と,会陰欠損部に対し両側薄筋皮弁による形成術を施行した.病理組織学的には,瘻管周囲に多数の粘液結節を認める痔瘻癌であった.上記症例を報告するとともに若干の文献的考察を行った.
  • 今村 敦, 河野 桂太, 長谷川 健司, 中川 明彦, 高井 惣一郎, 權 雅憲, 上辻 章二, 上山 泰男
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1188-1192
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝門部リンパ節炎により閉塞性黄疸を来たし,腹腔鏡下生検術にて結核性と診断しえた1例を経験したので報告する.症例は22歳男性,生来健康で既往症は特記すべきものはない.全身倦怠感,嘔気,嘔吐を認め精査目的にて入院,入院時の血液検査で閉塞性黄疸の診断を受け, ERCで総胆管の周囲からの圧迫によると考えられる狭窄像,および腹部超音波, CT検査にて肝門部のリンパ節腫脹を認めた.悪性疾患の疑いのもと,腹腔鏡下リンパ節生検術を施行,組織学的に結核性リンパ節炎と診断された.結核性リンパ節炎による胆管狭窄の報告例は非常に稀で今回の症例も含め本邦での報告は9例である.リンパ節結核による胆管狭窄は悪性疾患との鑑別診断が非常に困難で,全例開腹による組織学的検索が行われている.われわれはより侵襲の少ない腹腔鏡下にて腹腔内の観察,生検を行い結核性と診断しえた.診断困難な腹腔内リンパ節病変に対して腹腔鏡リンパ節生検術は非常に有用であると思われた.
  • 竹内 謙二, 小西 尚巳, 西脇 寛, 伊藤 佳之, 加藤 俊夫
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1193-1197
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は65歳の男性で,来院1カ月前よりの発熱,全身倦怠感を訴えて入院した. 30年前に性行為活動を伴う海外渡航歴を有していた.血液検査で白血球増多,軽度の肝障害を認め, TPHA, HCV抗体,血清赤痢アメーバ抗体が陽性を示した.腹部エコー, CT検査で,肝右葉に長径5cmの孤立性肝膿瘍を認めた.メトロニダゾール等の保存的治療で症状の改善なく,入院6日目に経皮経肝膿瘍ドレナージを行い,数日で解熱した.膿汁の検鏡では栄養型の赤痢アメーバが確認された.また大腸内視鏡検査で上行結腸に軽度の発赤,びらんを認め,この部の生検からも赤痢アメーバを認めた.
    本例では海外渡航時に性行為感染症として感染し,赤痢アメーバのcyst carrierとなり,潜在型腸アメーバ症を経て今回肝膿瘍として発病したものと思われた.
  • 丸尾 啓敏, 長谷川 茂, 小坂 昭夫, 森 一郎
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1198-1202
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝focal nodular hyperplasia (FNH)は欧米においては無症状で発見される症例が多い.今回われわれは, A型肝炎の発症を契機として発見された巨大なFNH症例を経験したので報告する.症例は22歳,男性.感冒様症状,上腹部痛,黄疸を主訴として入院した.ビリルビン値, GOT, GPT等の著明な上昇を認め, HA抗体, IgM-HA抗体陽性よりA型肝炎と診断された.腹部超音波検査において肝左葉外側区域に突出した高エコーレベルを示す腫瘍を認めた.同腫瘍は単純CTでは境界明瞭な低濃度域,造影CTでは高濃度域として描出された.血管造影では著明に拡張,蛇行した左肝動脈に供給されたhypervascularな腫瘍を認めた.肝炎軽快後,手術は肝左葉切除を施行.腫瘍は12.5×10.0×7.5cm大で,中心部に線維性の星茫状瘢痕がみられ,組織学的にFNHと診断された.
  • 荻野 隆史, 大和田 進, 森島 巌, 高橋 仁, 小川 哲史, 武井 寛幸, 森下 靖雄
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1203-1205
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は41歳の女性で,術前に左側胆嚢結石症と診断し,腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.左側胆嚢の腹腔鏡下摘出の本邦報告例は4例のみである.腹腔鏡下胆嚢摘出術では視野および手術操作がトロカールの挿入部位により制限されるので,胆嚢の位置の術前診断は重要である.特に左側胆嚢を腹腔鏡下に摘出する時は,肝円索の左側にトロカールを挿入することが大切と考える.
  • 有村 俊寛, 猪飼 英隆, 岡村 隆一郎, 福田 護, 山口 晋, 江頭 元樹, 野坂 俊介
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1206-1211
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胆嚢捻転症は比較的稀な疾患である.また本症の術前診断は困難と言われている.今回われわれは術前診断は為し得なかったが, Computed tomography(CT検査)で本症に特徴的所見が得られた症例を経験したので報告する.症例は85歳,女性.著しい腹痛と腹部腫瘤にて入院となった.急性壊疽性胆嚢炎,胆嚢周囲膿瘍の術前診断にて緊急手術を施行した.胆嚢は時計方向に約450度捻転し壊死に陥っていた.胆嚢捻転症と診断し胆嚢摘出術を施行した.術後経過良好で第15病日に退院した.本症例の術前のCT検査所見をretrospectiveに検討した結果,捻転を直接的に示し得たと考えられる,渦巻き状に組織が回転した像を認めた.本症例のCT検査所見は特徴的であり,胆嚢捻転症の診断に有用と考えられる.また本症が疑われた場合,ただちに開腹し胆嚢摘出術を施行すべきである.
  • 中村 順哉, 炭山 嘉伸, 武田 明芳, 桜井 貞夫, 柁原 宏久, 中村 光彦, 渡辺 学, 碓井 貞仁
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1212-1216
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胆嚢胃瘻は特発性内胆汁瘻の中でも比較的稀であり,全体の約4%前後と言われているが,合併症として肝脾膿瘍を併発した例はわれわれが本邦報告例を検索した限りでは見られなかった.今回われわれは術前に胃内視鏡にて瘻孔より結石分娩を確認し,根治的手術を施行し得た1例を経験した.
    症例は51歳の男性,腹痛と発熱を主訴に当科受診となり腹部超音波検査およびCTにて肝脾膿瘍が認められ,精査の結果胆嚢胃内胆汁瘻と診断された.その際胃内視鏡にて胃前庭部前壁の瘻孔よりの結石分娩を確認し根治術を施行した.術後経過は良好で肝脾膿瘍も消失し,現在外来通院観察中である.
    特発性内胆汁瘻は良性疾患であるが,放置すると重篤な胆管炎を併発したり,癌の発生助長の報告もあり早期の外科的治療が原則と考えられた.
  • 桐井 靖, 岡部 竜吾, 石橋 久夫
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1217-1219
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    典型的なdelayed rupture phenomenonを呈し, CTで確診を得て,手術的に救命した特発性脾動脈瘤破裂の1例を経験した.症例は47歳男性で上腹部痛に引き続くショック状態にて搬入された. CTにより脾動脈瘤の描出を得て,緊急開腹し,脾門部の脾動脈瘤とともに脾臓摘出を施行した.組織学的には中膜の断裂を認めるのみで,基礎疾患,外傷歴もなく特発性と診断した.脾動脈破裂は,大動脈,腎動脈を除く腹部血管領域で最も多い動脈瘤破裂であり,その致死率は39%に及ぶ.上腹部痛,ショックで発症し網嚢腔内にタンポナーデされ一時的に止血される事もある(delayed rupture phenomenon).血管造影で確診がつく事が多いが本症例のようにCTで描出される事もある.脾動脈末梢に発生する事が多く脾摘術が施行される事が多い.救命には適切な急性期の管理と時期を失さない診断と治療が必要である.
  • 柳瀬 晃, 末松 哲, 磯辺 真, 田中 真紀, 森永 幸二, 乗富 智明, 自見 厚郎
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1220-1225
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    bronchogenic cystは胸部外科領域では散見されるが腹部の原発例は極めてまれで,本邦では過去に8例の報告をみるのみである(後腹膜5例,腹腔内3例).
    症例は26歳男性で左側腹部痛を自覚したため消化管精査,超音波, CT, MRI検査などを行い副腎腫瘍もしくは後腹膜血腫を疑ったが悪性新生物も否定できなかったため手術を施行した.腫瘍は左腎臓および左副腎前面に位置し表面平滑弾性軟で5.5×4.0×4.0cmの多房性であった.切除標本の病理組織学的検査で粘膜上皮,平滑筋組織,軟骨組織が証明され, bronchogenic cystと診断した.本症は術前に確定診断をつけることは極めて困難であるが,頻度は低いが鑑別診断のひとつとして認識しておく必要があるものと考えられる.自験例を加え本邦報告9例の検討を行ったので報告する.
  • 落合 正宏, 内村 正史, 村岡 正朗, 長谷川 茂, 松原 俊樹, 亀井 克彦, 桜井 洋一, 丸上 善久, 船曵 孝彦
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1226-1230
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹部急性炎症症状で発症し,他院にて虫垂炎として手術された後腹膜リンパ管腫を2例経験した.症例1: 22歳女性.発熱,右下腹部にて近医受診し,圧痛,筋性防御,白血球増多を認め,虫垂炎の診断にて手術施行されるも症状改善せず,その後の検査にて腹部に嚢腫認めたため当院へ転入院した.症例2: 30歳男性.右下腹部痛にて近医受診,その際左上腹部に嚢胞性疾患認められた. 8日後再び右下腹部痛出現し再受診,今回は虫垂炎の診断で手術された. 1カ月後再度腹痛,発熱出現し,白血球増多,腹膜刺激症状,麻痺性イレウスを認め転入院した.両者とも入院後後腹膜嚢腫の診断で再開腹を行ったが,嚢腫壁の炎症が高度で不完全切除となった.
    急性腹症で発症する本疾患についての文献的考察を加え報告する.
  • 松山 謙, 磯江 士朗, 露口 直彦, 高石 光二, 朝倉 啓文
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1231-1235
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    共に稀な疾患である腟結石と子宮留膿腫穿孔による汎発性腹膜炎を合併した症例を経験したので報告する.症例は82歳女性で脳梗塞後遺症で長期入院中であったが, 1994年7月29日,突然の腹痛,発熱,嘔吐,下痢で発症.腹部レントゲン検査では麻痺性イレウス状態であった. 30日,消化管穿孔による汎発性腹膜炎の診断で開腹術を施行したところ膿性腹水と子宮体部前壁に穿孔した子宮留膿腫を認めた.穿孔部を縫合閉鎖し腹腔洗浄,ドレナージと経腟的に子宮ドレナージを行った.腟検索時に6個の結石を認めた.術後経過は良好で術後行った子宮内膜組織診細胞診で悪性所見は認めず,術後24病日軽快し転科した.膿性腹水細菌検査では大腸菌およびプロテウスミラビリスを認めた.結石成分は燐酸マグネシウムアンモニウムであった.子宮留膿腫は高齢者に多いが,その穿孔例は稀であり,われわれが調べた限りでは悪性疾患を合併しない子宮留膿腫穿孔例は本症例を含め40例であった.更に腟結石に至っては16例の報告のみであった.
  • 林 忍, 松本 賢治, 白杉 望, 中川 基人, 有澤 淑人, 相浦 浩一, 石井 誠一郎, 納賀 克彦
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1236-1240
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    右下肢深部静脈血栓症に腓骨神経麻痺を合併した1例を経験したので報告する.
    症例は58歳の女性.突然右下腿の腫脹,疼痛を認め緊急入院した.既往歴として11年前に僧帽弁置換術を施行されており,ワーファリンにてコントロールされていた.また, 2年前より抗うつ薬を投与されていた.下肢静脈撮影検査では,右下腿に限局した血栓性閉塞像を認めた.抗凝固線溶療法を中心とする保存療法により,右下腿深部静脈は良好な再開通が得られた.しかし,患者は早期離床に消極的で,第19病日に至り歩行開始したところ,垂れ足,鶏状歩行を呈していた.下肢深部静脈血栓症に腓骨神経麻痺を合併した報告はこれまで見受けられないが,本症の発症機転としてcompartment syndromeの関与が示唆された.また,本症の予防には早期離床にて下肢腫脹の改善を図り,腓骨神経の圧排を避ける肢位にも留意すべき点が指摘された.
  • 加藤 哲夫
    1996 年 57 巻 5 号 p. 1241-1246
    発行日: 1996/05/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    非オピオイド性鎮痛坐薬の投与,持続硬膜外ブロック,硫酸モルヒネ徐放錠の投与,持続モルヒネ静脈内投与の他に経穴への局麻薬浸潤や鍼治療を加えて,癌末期の患者に少しでも苦痛を和らげたと思われる2症例を報告する.
    症例1は77歳の男性.診断は肝転移を伴った手術不能の膵嚢胞腺癌.主訴は腹痛,腰痛であった.肩,頸部の重苦しさには経穴への局麻薬浸潤を,又,持続硬膜外ブロック(携帯用持続注入器使用)を行い,外泊が可能となった.
    症例2は58歳男性.診断は胃癌術後左腎転移およびリンパ節転移.主訴は腰痛.持続硬膜外ブロックの効果減弱に伴い,頭重感,腹部の不快感に対しては鍼治療を行い,持続モルヒネ静脈内投与と定期的なモルヒネ徐放錠の内服により入院時のVASは8から4へと減少,一時的にせよ患者は生きる希望を見せた.
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