日本臨床外科医学会雑誌
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57 巻, 9 号
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  • 1996 年 57 巻 9 号 p. 2069-2083
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
  • 橋口 尚幸, 山崎 恵司, 前野 良人, 清水 潤三, 河合 稔, 今本 治彦, 植田 俊夫, 立岡 寿比古, 大島 進
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2084-2087
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去11年間に頸部リンパ節腫脹を主訴に当科を受診し,それが転移性と診断されたが当初は原発部位が不明であった25例を対象に臨床的検討を行った. 25例中21例に原発部位が判明した.この21例の転移部位およびその組織型と原発部位との関係を検討し,さらに文献的考察を加え原発部位不明症例に対する治療方針について考察を行った.
    転移部位別では上頸部転移1例,中頸部転移5例とも全例原発部位が頭頸部に存在した.逆に鎖骨上窩転移9例中8例は頭頸部以外に原発部位を認めた.一方下頸部転移6例中3例は頭頸部に,残り3例は頭頸部以外に原発部位が存在した.生検は21例中19例に施行し,扁平上皮癌8例,腺癌11例であった.原発部位については扁平上皮癌は頭頸部に,逆に腺癌は頭頸部以外に存在する傾向を認めた.
    以上より原発部位不明時は組織型も考慮しつつ転移部位が上中頸部の場合は積極的に手術療法を含めた治療を,鎖骨上窩の場合は化学療法を主体とし,下頸部の場合は他に転移を認めないときのみ手術療法を併用すべきと考えられた.
  • 迫 裕孝, 阿部 元, 小玉 正智, 沖野 功次, 中根 佳宏
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2088-2093
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去16.5年間に初回手術を施行した腫瘍径1.0cm以下の微小甲状腺乳頭癌50例,すなわち単発腫瘍例37例,多発例13例,腫瘍数75個を検討した.年齢は26~74歳,平均49.8歳で,性別は男性1名,女性49名であった.
    病理組織型は被膜の有無,間質の量により,非被包型非硬化癌(12個),非被包性硬化癌(24個),被包性非硬化癌(8個),被包性硬化癌(7個)およびそれ以外の通常型(24個)の5型に分類できた.腫瘍径は0.1~1.0cm,平均0.67±0.26cmで,非被包性非硬化癌,非被包性硬化癌,被包性非硬化癌が被包性硬化癌,通常型より有意に腫瘍径が小さかった.
    石灰化は36.0% (27/75)にみられた.組織型では,石灰化は非被包性硬化癌37.5%,被包性硬化癌85.7%,通常型50.0%にみられた.
    癌周囲の甲状腺組織に見られた合併病変は54.0% (27/50)にみられ,腺腫様甲状腺腫が最も多かった.リンパ節転移は63.3% (31/49)にみられた.
  • 今村 洋, 芳賀 駿介, 清水 忠夫, 渡辺 修, 小林 浩司, 木下 淳, 南雲 浩, 歌田 貴仁, 梶原 哲郎
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2094-2098
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    浸潤性乳管癌の浸潤巣内における乳管内非浸潤癌巣(IC)について浸潤巣外の乳管内非浸潤癌巣(乳管内進展巣: DS)や他の臨床病理学的事項との関係を検討した.浸潤性乳管癌74例をIC量が10%以下のIC (-), 11~20%のIC (+), 21%以上のIC (++)の3群に, DS距離により0mmのDS(-), 10mm以下のDS(+), 11mm以上のDS(++)の3群に, DS方向により放射,直交の一方のみの単方向群と両方の両方向群に分類した. (1) IC 3群間で臨床病理学的事項との関係に差はなかった. (2) ICとDS距離との関係はIC(-)でDS(-), (+), (++)が38.7, 32.3, 29.0%, IC (+)で37.5, 41.7, 20.8%, IC (++)で0, 31.6, 68.4%でありICが多くなるほどDS距離が大きくなった(p<0.01). (3) ICとDS方向との関係はIC (-)では単方向,両方向群が47.4, 52.6%, IC(+)では33.3, 66.7%, IC(++)では10.5, 89.5%であり, ICが多くなるほどDS方向は多彩であった(p<0.05).浸潤巣内の乳管内非浸潤癌巣は高度な乳管内進展を示唆する所見と考えられる.
  • 西原 一善, 玉江 景好, 光山 昌珠, 阿部 祐治, 岩下 俊光, 井原 隆昭, 中原 昌作, 勝本 富士夫, 黒川 喜勝, 武田 成彰, ...
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2099-2105
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    目的:乳癌胸骨傍リンパ節転移(PS転移)の予後,予測因子,郭清,治療法を検討した.
    方法:乳癌手術症例2,244例中,胸骨傍リンパ節郭清例379例を臨床病理学的に検討した.
    結果: PS転移陽性群(71例)の予後は転移陰性群(308例)よりも不良であった(p<0.01). PS陽性例では陰性例と比較して,平均年齢が低い,皮膚の発赤や乳頭陥凹が多い,腫瘍径が大きい,腋窩リンパ節転移が多い,内側・中央領域(ABE)に多いなどの特徴が見られた.腫瘍発生部位とPS転移部位との間には相関関係は認められなかった. T2・N1b以上では,拡大乳房切除症例63例の予後が定型乳房切除症例77例よりも良好であった(p<0.05).
    結論:特定の肋間でのサンプリングではPS転移の判定は難しく, PS転移疑われる症例に対しては超音波ガイド下細胞診か術中の生検でPS転移を確認し,術後に化学療法を中心とした集学的治療が必要である.
  • 桧垣 健二, 岡本 貴大, 浅井 友浩, 森山 裕煕, 小野田 正, 塩崎 滋弘, 大野 聡, 二宮 基樹, 池田 俊行, 小林 直広, 岡 ...
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2106-2111
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳癌の孤立性の胸壁再発に対しては胸壁切除・再建術がもっとも有効な治療法とされており,放射線治療が第一に選択されることは少ない.そこで,放射線療法の効果をみる目的で手術適応がありながら放射線療法のみで経過をみてきた6例を,同期間に胸壁切除のみを行った10例の予後と比較することにした.
    結果は,胸壁再発例のうち遠隔転移がなく, 3年以上のDFIがあり,浸潤が胸膜に達していない症例は胸壁切除により80%の5年生存率がえられることより胸壁切除が第一選択であると考えられた.しかし,放射線療法施行例にも有効例がみられた.さらに上記の3条件を満たさない症例に対しては各治療法間の有効率に差がみられないことより,胸壁再発に対する放射線療法の適応はさらに拡大しうると考えられた.
  • 大田 準二, 孝冨士 喜久生, 児玉 一成, 青柳 慶史朗, 水谷 和毅, 高宮 博樹, 武田 仁良, 白水 和雄
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2112-2118
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    H0, P0でD2以上が行われた根治度AまたはBの進行胃癌症例中, n1, n2例を対象に,拡大リンパ節郭清が予後に反映されるか否かを検討した.
    D2群とD3以上の拡大郭清(EX)群でn因子別の5生率は, n1D2群: 63%, n1EX群: 73%, n2D2群: 33%, n2EX群: 52%で, n2例でEX群が有意に良好であった. n2例では占居部位がA, C, 肉眼型が浸潤型(EX群: 48%, D2群: 28%), 組織型が未分化型(EX群: 37%, D2群: 16%)でD2群に比しEX群が有意に5生率が良好であったが, 4型胃癌は両群とも予後不良であった.以上より, D2で良好な治療成績が期待できるのはAまたはC領域,限局型,深達度mp~ssの限られたn1症例であり, n2例,特にAまたはC領域,浸潤型,未分化型癌では, D2群に比しEX群が有意に良好な予後が得られることが判明した.一方, 4型胃癌は拡大郭清の効果は少なく,今後免疫化学療法を駆使した集学的治療の必要性があると思われた.
  • 岩下 俊光, 西原 一善, 阿部 祐治, 井原 隆昭, 中原 昌作, 勝本 富士夫, 黒川 喜勝, 玉江 景好, 光山 昌珠, 武田 成彰, ...
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2119-2123
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    初発単発胃粘膜内癌464例を対象に,リンパ節転移と再発の危険性につき検討した.リンパ節転移は6例(1.3%, n1 2例, n2 4例)にみられ,腫瘍最大径は1~10cm(平均5.6cm),肉眼型はIIc 3例, IIc+III 1例, 3型1例, 5型1例と全て潰瘍合併の陥凹型で,組織型はpor 3例, sig 2例, tub2 1例でtub2にも一部に低分化腺癌の像があり,全てに低分化腺癌の部分が見られた.リンパ節転移陽性例は陰性例に比して有意に腫瘍最大径が大きく潰瘍合併頻度が高く, 6例中3例が再発死している.生存例399例と比較すると癌死例4例は腫瘍最大径が全て4cm以上であり,潰瘍合併とリンパ節転移陽性の割合が有意に高かった.潰瘍を伴う陥凹型の低分化腺癌では粘膜内癌でもリンパ節転移の可能性がありD2のリンパ節郭清が不可欠で,転移があれば術後補助化学療法が必要である.
  • 曳野 肇, 藤谷 茂樹, 山代 昇, 三上 学, 中川 正久
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2124-2130
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1990年2月から1995年3月の5年1カ月間に治療した腸閉塞症27例を対象として絞扼性腸閉塞症の術前診断におけるCTの役割について検討した.絞扼性腸閉塞症は2カ所での腸管の閉塞と腸間膜の血行不全を伴うrotation typeおよびclosed loop typeの2種類とし,単純性腸閉塞症は腸間膜の血行不全を伴わないものと定義した.各々14例と13例について,手術結果などよりretrospectiveにCT所見の比較を行った.その結果,絞扼性腸閉塞症に特徴的と思われる所見として(1) Kerckring皺襞の消失, (2)腸管壁の不鮮明なenhancement, (3)拡張し内容液に満ちた腸係蹄の車軸状配列(閉塞部位に向かう腸間膜血管の集束像を伴う), (4)肥厚しdensityの高い腸間膜, (5) rotation typeにおけるWhirl sign, (6)腹水,などが挙げられた. CTは絞扼性腸閉塞症の診断に有用であり,腸閉塞症の手術適応を決定する際,積極的に行うべきであると思われた.
  • 右側大腸癌イレウス症例との比較検討および術中腸洗浄法の有用性
    長田 真二, 種村 廣巳, 大下 裕夫
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2131-2137
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸癌イレウス78例を対象に,左側大腸癌イレウス例の特徴を右側大腸癌イレウス例と比較した.また,術中腸内容洗浄法,結腸亜全摘の有用性について検索した.‹結果› 1) 肝転移は左側例に多かった(p<0.05)が,他の背景因子では差異はなかった. 2) 切除率では左側例が若干低かったが,治癒切除率は差がなかった. 3) 術後合併症は,左側例に多かったが,手術死亡に差を認めなかった. 4) 左側例の5年生存率は右側例に比べ不良であったが,治癒切除例では差はなかった. 5) 左側例の術後合併症は,術中に腸内容を吸引排除あるいは洗浄した群や結腸亜全摘群で有意に低かった(p<0.05). 6) 術後縫合不全は,洗浄あるいは排除群,結腸亜全摘群に発生率は低かった. 7) 術式別5生率では,腸内容排除により,特に治癒切除例で良好となった.したがって,手術方法の工夫により術後合併症予防および遠隔成績の向上が期待されるものと考えられた.
  • 窪田 覚, 辻田 和紀, 小池 淳一, 鈴木 康司, 山下 茂一, 戸倉 夏木, 船橋 公彦, 安土 達夫, 永澤 康滋, 小林 一雄, 柳 ...
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2138-2145
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去19年間で当教室で手術を施行した肛門癌を除く大腸癌症例は822例で,このうち大腸癌取扱い規約に基づいて大腸粘液癌と判断された症例は31例(3.8%)であった.大腸粘液癌の特性を明らかにする目的で,同時期に手術を施行した高・中分化腺癌(730例)を対照に臨床病理学的所見と予後について比較検討した. 1) 粘液癌の性別はほぼ1:1で,平均年齢は55.5歳で,右側結腸(盲腸,上行結腸,横行結腸)に有意に(p<0.05)多く認められた. 2) 全例進行癌で環周率が大きく(p<0.05), リンパ節転移率(p<0.05) および高度リンパ節転移率が有意に(p<0.01)多かった. 3) 腹膜転移は粘液癌の22.6%に認められ,対照と比較して有意に(p<0.05)多く認められた. 4) 粘液癌の根治度判定では根治度A症例が有意に(p<0.05)低率であった.予後では,対照と比較して不良であったが,結腸粘液癌と直腸粘液癌とでは差は認めなかった.
  • 金沢 成雄, 村上 泰治, 正木 久男, 森田 一郎, 田淵 篤, 石田 敦久, 藤原 巍, 広川 満良
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2146-2149
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    冠動脈バイパス術後MRSA感染による縦隔洞炎により静脈グラフトの破綻をきたした1例を経験したので報告する.
    症例は74歳,男性.主訴は胸痛.
    冠動脈造影で,右冠状動脈(segment 1)に90%, 左冠状動脈前下行枝(segment 7)に, 80%の狭窄を,また,左回旋枝の完全閉塞を認めた.大伏在静脈を用いて右冠状動脈(segment 2)と左冠状動脈前下行枝(segment 8)に冠状動脈バイパス術を施行した.経過良好であったが, 7日後よりMRSAによる縦隔洞炎により静脈グラフトの破綻をきたし,蘇生の効なく死亡した.剖検では,出血源は左前下行枝グラフトで,病理学的にはグラフト破綻部に細菌の存在を認め, MRSAがグラフトに感染し,壊死を起こしグラフト破綻をきたしたものと考えられた.開心術後に発生した縦隔洞炎による心,血管の破綻は稀であるが一度発症すると,難治性で死亡率も高い.今後MRSA等,病院感染の予防には,感染防御を専門とする医師,看護婦を中心としたシステムが必要である.
  • 清水 公裕, 勅使河原 修, 高野 晃寧, 大和田 進, 森下 靖雄
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2150-2154
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    壊死性筋膜炎は比較的稀な筋膜,皮膚軟部組織の感染症で,主に重症外傷の合併症として発症することが多い,開腹術後の合併症としての報告もあるが,本疾患に対する認識が乏しく,予後不良である.今回,腹部外傷患者に発生した本疾患の1例を経験し,かつ,救命し得たので報告する.症例は60歳の男性外傷による腸管損傷にて開腹術を施行した.術後2週より,創部とは無関係の左上腹部に発赤,水庖を形成し, 6日後には皮膚壊死に陥った.皮膚症状の進行と共に全身状態も悪化し,発赤より6日後にはショック状態となった.発症10日後,壊死性筋膜炎の診断をもとにdebridementを行った.その後,全身状態は激的に改善し,病変部も治癒に向かった.抗生物質の発達した現在でも本疾患の死亡率は高く,早期診断と外科的治療が治療経過の改善につながる.
  • 渡邊 常太, 岩川 和秀, 小野 芳人, 松本 康志, 井上 賢二, 小林 展章
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2155-2159
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    一般にWernicke脳症は慢性アルコール中毒症の患者に多発するといわれている.今回われわれは飲酒歴がないにもかかわらず,胃全摘術後にWernicke脳症を発症した1例を経験したので報告する.症例は46歳,女性.心窩部不快感を主訴に来院,諸検査にて胃癌と診断され胃全摘術を施行した.術後食事摂取進まず,術後約100日目より眼球運動障害,小脳性失調,意識障害を認めた.頭部MRIのT2強調像にて第3脳室から中脳水道周囲にかけて左右対称的な高信号域を認め, Wernicke脳症と診断した.治療としてビタミンB1持続点滴投与を行い約40日でほぼ軽快した.胃全摘術後は栄養学的観点から,ビタミンB1欠乏を起こしやすく,本症にも留意する必要がある.また, Wemicke脳症の診断には頭部MRIが有用であった.
  • 尾花 正裕, 根岸 七雄, 石井 良幸, 新野 成隆, 前田 英明, 瀬在 幸安, 沢田 達男
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2160-2164
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    極めて稀な疾患である乳腺間質肉腫の1例を経験したので報告する.症例は29歳の女性で,左乳房C領域に2.0cm×2.0cmの腫瘤を自覚し,吸引細胞診ではclass IIであったが,超音波上悪性所見疑われ,生検で乳腺間質肉腫の診断を得たため,手術目的で入院となった.左乳房部分切除術+腋窩,鎖骨下リンパ節郭清術を施行し,術後8カ月現在,経過観察中であるが再発や遠隔転移等の所見は認められず患者は社会復帰をしている.
    乳腺原発間質肉腫の本邦報告例は自験例を含めても28例と稀で,診断・治療に統一的なものは未だに定まっていない.今回,われわれは自験例を報告するとともに本邦報告例について集計し検討したので報告した.
  • 岩田 広治, 小林 俊三, 岩瀬 弘敬, 遠山 竜也, 原 泰夫, 正岡 昭
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2165-2169
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳癌の脳転移は他臓器転移を伴うことが多く,軟部組織や骨の初再発に較べ長期生存例は少ない.症例は52歳,女性, 43歳時に右乳癌にて定型的乳房切除術を施行され,術後5年7カ月経過時,脳に初再発を来したため,転移性脳腫瘍摘出術を施行した.術後は全身の化学内分泌療法[CAF (cyclophosphamide, epirubicin, 5-Fluorouraciol)+TAM (Tamoxifen)]を施行した.脳転移巣摘出後約2年間の無病期間の後,多発肝転移,鎖骨上リンパ節転移,脳再転移を認めたため, 5-Fluorouracil (5-FU)+Medroxyprogesterone acetate (MPA)の化学内分泌療法に変更して,現在脳転移巣はCRを,肝転移巣もPRが得られ,元気に外来通院中である.
    脳転移に対しては放射線療法を第一選択とする報告が多いが,自験例のように化学内分泌療法が著効を示す症例が存在することもあり,今後は手術療法,放射線療法を含めた集学的治療が必要である.
  • 長田 啓嗣, 岡島 邦雄, 梁 壽男, 岩本 伸二, 権 五規
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2170-2174
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは稀な異所性乳癌を経験した.症例は34歳女性,左腋窩腫瘤を主訴として来院した.腋窩腫瘤は大きさ3.0×2.0cm,弾性硬で,皮膚に軽度癒着を認めた.副乳頭はなく,粉瘤の診断のもと腫瘤摘出術を施行した.摘出後の組織学的検索にて充実腺管癌の診断を得,異所性乳癌と診断した.入院後,前回の手術創部を含む広範囲切除と郭清を行った.多数のリンパ節転移を認めたにもかかわらず,術後放射線治療と内分泌化学療法を行い,術後3年経過し再発はみられない.異所性乳癌の本邦報告例27例を集計し若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 伊藤 英人, 宇都宮 勝之, 村山 道典, 藤野 啓一, 長谷 和生, 渡辺 千之, 石山 賢
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2175-2179
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,人工弁置換術後抗凝固療法中に外科手術を行った8例の経験をもとに術前,術後の抗凝固療法について検討を加えた.人工弁置換から一般外科手術までの期間は, 9カ月から8年11カ月で手術の内訳は肝亜区域切除1例,残胃全摘1例,胃全摘1例,胆摘2例,腹壁ヘルニア1例,鼠径ヘルニア2例であった.術前にワーファリンを中止し,トロンボテストが40%以上となったところでヘパリン持続点滴を開始し,トロンボテストが50%以上で手術を施行した.ヘパリン点滴量はヘモクロンにて活性凝固時間(ACT)を6~8時間おきに計測して130~160秒となるように調整した.血栓塞栓症,弁機能不全の発生はなかったが1例に術後出血を認め輸血を必要とした.今回用いた方法は抗凝固剤が中断される時間を短縮でき,人工弁置換患者の外科治療の術前術後の抗凝固療法として安全で有効と思われる.
  • 古永 晃彦, 河村 勉, 江里 健輔, 中山 富太, 藤井 康宏
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2180-2183
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    若年者の急性虫垂炎術後に発症した肺塞栓症を経験したので報告する.症例は14歳,男性,右下腹部痛および発熱を主訴として来院した.急性虫垂炎と診断し虫垂切除術を行った.術後第1病日に歩行を開始した直後に強度の胸痛を来たした.肺血流シンチグラフィーおよび肺動脈造影を直ちに施行し,肺塞栓症と診断された.血栓溶解療法を行い救命し得た.術後,先天性凝固異常を疑ったが, Protein C, Protein S活性などに異常は認められなかった.退院後約6カ月になるが再発なく健康に生活している.術後肺塞栓は,若年者で手術侵襲が小さくとも念頭に置くべきであると考えられたので報告する.
  • 半田 佳彦, 大岩 敏彦, 大岩 香苗, 半田 祐彦, 上川 康明
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2184-2187
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肺分画症に併存した先天性食道気管支瘻を経験したので報告する.
    症例は39歳の男性.発熱および咳嗽を主訴に来院.精査の結果,肺炎の診断で治療を開始,同時に貧血も認めたため上部消化管造影施行,食道気管支瘻の診断で手術を施行した.手術は瘻管を切除し食道壁を閉鎖,同時に左肺下葉切除を施行した.この際,下行大動脈よりS10に流入する動脈を認め,肺分画症合併例と診断した.
    本症例はBrunnerおよび唐沢らの診断基準を満たしたBraimbridge IV型先天性食道気管支瘻で,このような症例は非常に稀ではあるが発見された時点で肺分画症の存在も疑って,大動脈造影等の検査をすべきであった.また治療は手術的に瘻管を切除することが原則ではあるが,肺切除には賛否両論あり,慎重に術式を検討する必要がある.
  • 近藤 慎治, 露口 勝, 森本 重利, 田中 直臣, 惣中 康秀, 福本 常雄, 山崎 眞一, 井内 正裕
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2188-2192
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は71歳女性.平成7年4月12日発熱,背部痛にて当科受診した. 28歳時に肺結核にて人工気胸術を受けており,平成5年に慢性膿胸にて穿刺吸引を施行している. CT, MRI検査により膿胸に接して腫瘍が発見された.穿刺細胞診を施行したが壊死組織のみしか吸引できず1995年5月16日手術を施行した.腫瘍は8.0×7.5×6.0cmの大きさで内部が壊死になっており,膿胸壁と接し横隔膜,肝右葉(S7)に浸潤していた.病理組織検査の結果, Non-Hodgkin Malignant Lymphoma, Diffuse, large cell, B cell typeであった.
  • 香川 佳寛, 多幾山 渉, 佐伯 俊昭, 高嶋 成光
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2193-2197
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近では,食道癌切除術後の頸部食道・再建臓器吻合部の縫合不全は比較的稀な合併症となった.しかし一度発生すると,時には膿胸等を併発し治療に難渋するやっかいな術後合併症の一つである.今回われわれは,このような難治性の吻合部縫合不全に対し,人工食道を併用した保存的治療を試み,有効であったので報告する.症例は53歳男性,胸部食道癌に対し右開胸食道亜全摘(RIII), 後縦隔経路頸部食道胃管吻合術を施行した.しかし縫合不全から右膿胸を併発し,胸腔ドレナージ,絶飲食で経過観察したが治癒しなかった.瘻孔からの唾液等の胸腔への流出を防ぐため人工食道を留置したところ膿胸は改善し,縫合不全も狭窄なく治癒できた.人工食道は本来切除不能な進行食道癌患者の高度食道狭窄や食道気管(支)瘻に対し経口摂取を可能とし, QOLを改善するため開発されたものだが,今回新たに縫合不全の保存的治療への応用の有効性が示唆された.
  • 松崎 圭祐, 川野 豊一, 三浦 修, 戸田 智博, 南園 義一, 長崎 進, 八尾 隆史
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2198-2202
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは診断1カ月後の手術摘出標本の病理組織学的検索にて完全自然消失と診断した胃悪性リンパ腫の1例を経験した.
    症例は64歳,女性.平成6年11月中旬より心窩部痛出現し, 11月25日に近医にて胃カメラ検査を施行.前庭部後壁に巨大潰瘍を認め,生検にてB cell由来の悪性リンパ腫と診断された. 12月13日,手術目的で当センターに紹介入院.潰瘍治療は全く行っていないにもかかわらず潰瘍が急激に縮小し,生検では明らかなリンパ腫細胞は認められなかった.初回生検病理所見,胸・腹部CT, ガリウムシンチグラフィーなどより胃原発悪性リンパ腫と診断し, 12月28日,胃全摘術を施行した.摘出標本の連続切片による詳細な病理組織学的検索を施行した結果,リンパ腫細胞を全く認めず,完全自然消失と判定した.無治療にもかかわらず,約1カ月の短期間に急激に縮小して完全消失をきたした症例は極めてまれと考えられ,文献的考察を加え報告する.
  • 森脇 義弘, 小林 俊介, 山腰 英紀, 長堀 優, 今井 信介, 城戸 泰洋, 笠岡 千孝, 栗林 宣雄
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2203-2208
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌の臍転移5例について報告する.胃癌臍転移は胃癌手術症例1,519例中5例(0.3%)に認められた.治癒切除793例の術後臍転移再発が3例,非治癒切除後の臍転移再燃が1例,初回胃切除時の同時性臍転移が1例であった.異時性転移4例の原発巣切除から臍転移までの期間は平均21カ月であった.原発巣は全例がstage 3以上の進行癌で,推測される転移経路は腹膜播種経路2例,リンパ管経路3例,臍転移発見時に臍の単独転移は2例のみであった.原発巣は全例で切除され,リンパ管経路による転移と考えられた3例では臍転移巣切除が行われ,臍転移後の予後は平均生存期間10.7カ月であった.臍転移巣切除不能例2例の予後は平均2.5カ月であった.胃癌の臍転移はまれではあるが,発見や確定診断は容易であり,他部位の転移状況や推測される転移経路によっては切除が行われるべきであり,進行胃癌ではその存在も念頭においた診療を行うことが重要と思われた.
  • 武藤 利茂, 村林 紘二, 林 仁庸, 中野 英明, 上原 伸一, 楠田 司
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2209-2213
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は44歳男性, 3年前に大量下血を来し当科入院.大腸内視鏡,上部消化管透視,胃内視鏡が施行されたが,出血部位の確認ができず経過観察となった.今回,再び大量下血を来し当院を受診した.胃および大腸内視鏡では明らかな出血点はなかったが,回盲弁より血液の流出を認め,小腸からの出血が疑われた.腹部CTでは造影にて濃染する小腸を認めた.腹部血管造影およびMRI血管造影を施行したところ,太い上腸間膜動脈と早期に還流する2本の著明に太い静脈によって形成される異常な腸管濃染像を認め,動静脈奇形と診断した.開腹するに,回腸末端より15cm口側から約20cmにわたり動静脈奇形を認め回腸部分切除術を行い治癒せしめた.消化管動静脈奇形の本邦報告例を133例集計し報告する.本症例は流入動脈,流出動脈の太さ,病変の大きさにおいて,検索しえた限りでは最大の消化管動静脈奇形であった.
  • 乳井 誠悦, 長内 宏之, 大庭 滋理, 増岡 秀次, 江端 俊彰, 吉田 幸成
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2214-2217
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    回腸のinflammatory fibroid polyp (IFP)に起因する成人腸重積症を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は49歳女性.腹痛を訴として入院した.初診時に軽度の腹部膨満を認め,血液検査で白血球増多(11,000/mm3), 腹部単純X線写真でイレウス像だけが異常所見であった.イレウス管で減圧後まもなく右下腹部に腫瘤を触知,腹部エコー, CTおよび注腸造影で腸重積を疑い緊急手術を施行した.開腹時,回腸回腸型の腸重積を認めた.腸管の循環障害があり,先進部に腫瘤を触知したので,病変部を含めて回腸切除を施行した.腫瘤は有茎性ポリープで病理診断はIFPであった.小腸IFPは本邦で40数例の報告がみられるのみで,まれな疾患である.
  • 新谷 文彦, 迫田 晃郎, 田中 貞夫
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2218-2221
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    下血を主訴としたまれな回腸海綿状血管腫の1例を経験したので報告する.症例は25歳,女性.腹痛,下血を主訴に胃カメラ,注腸透視を受けたが特に異常を指摘されなかった.婦人科にて腹部エコーで卵巣嚢腫を指摘され,嚢腫核出術を受けた.開腹所見にて小腸に腫瘤性病変を認めたため核出術のみ施行され当院紹介となった.
    小腸造影にて限局性の壁不整と,粘膜面の結節状隆起性病変を認めた.腹部造影CTにて,石灰化を伴う腸管壁肥厚を,また上腸間膜動脈造影にて,回腸動脈の血管の増生,後期相での造影剤のpoolingを認めた.以上より回腸血管腫の診断にて手術を行った.
    回腸末端部より口側約40cmの部位に漿膜面の血管怒張を伴う暗赤色の浮腫状の腫瘤が約20cmにわたり認められ,同部の切除術を施行した.組織学的には海綿状血管腫と診断された.
  • 橋本 瑞生, 秋田 幸彦, 北川 喜己, 伊藤 直人, 佐々木 英二, 芥川 篤史, 七野 滋彦, 佐藤 太一郎
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2222-2226
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は14歳男性,主訴下血.来院時ショック状態であった.上腸間膜動脈造影にて小腸に接する濃染像を認め,アンギオCTで内部に空気像を持った周囲腸管より強く濃染される腫瘤像を認めた.手術施行し,空腸の間膜側に約8cmの嚢状腫瘤を認めた.小腸部分切除術施行.腫瘤内腔は全て胃粘膜で覆われ12×13mmの穴で小腸と交通していた.壁の筋層は小腸から連続していた.開口部の小腸粘膜側に長さ15mmの白苔を伴ったUl-IIIの線状潰瘍を認め,ここが出血源と考えられた.以上より異所性胃粘膜を有した小腸重複症と診断した.異所性胃粘膜を伴った小腸病変で,血管造影の有用性が示唆された.
  • 増田 幸蔵, 山本 登司, 志田 晴彦, 坂 佳奈子, 今成 朋洋, 町田 武久
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2227-2231
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は71歳の男性で,突然の腹痛と嘔気嘔吐にて発症し入院時に急性虫垂炎を疑われたが,保存的に軽快した.しかし,経口摂取による症状の増悪をくり返したため,小腸造影を施行したところ,遠位回腸に限局性の狭窄を認め,入院後60日目に開腹手術を行った.
    手術所見で,回盲弁より約40cmの回腸に壁の肥厚を伴った約8cmにわたる狭窄を認め,小腸部分切除術を施行した.術後の病理組織学的検査では強い線維化を伴うUL-I~IIの潰瘍とヘモジデリンを貧食したマクロファージを認め虚血性小腸炎と診断された.
    虚血性腸炎が小腸に発生することは少なく,また狭窄を生じることは稀とされている.狭窄型の虚血性小腸炎の1切除例を経験したので,最近の文献的考察を加えて報告する.
  • 道上 慎也, 西口 幸雄, 長山 正義, 曽和 融生, 三好 宏, 若狭 研一
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2232-2236
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは腫瘍を合併したMeckel憩室内翻による腸重積の1例を経験したので報告する.症例は, 26歳男性. 1994年8月,某医にてappendectomyを施行された. 12月頃から右下腹部痛および嘔吐が出現したため近医受診.注腸造影にて,回盲部付近に狭窄像を指摘されたため,手術目的に当院紹介入院となった.理学的所見にて,右下腹部に強い圧痛があり,骨盤部CTにて回盲部付近に腸重積を疑わせる所見が認められた.手術所見では,回腸回腸型の腸重積が認められ,整復により, Meckel憩室の内翻による腸重積と判明しこれを含めて,回腸部分切除術を施行した.切除標本の憩室内腔先端に2cm大の腫瘍を認め,病理検査の結果,脂肪腫であった.以上,内翻するMeckel憩室に腫瘍を合併した稀な1例を経験したので,若干の文献的考察とともに報告する.
  • 草別 智行, 大和田 進, 岩崎 茂, 岩波 弘太郎, 福田 利夫, 森下 靖雄
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2237-2240
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸平滑筋腫は小腸良性腫瘍中,最も多い疾患であるが,腹膜炎,穿孔で発症することは極めて稀である.
    症例は49歳男性で,腹痛を主訴として入院した.腹膜炎症状を認めたが,限局していたため抗生剤投与による保存的治療を施行した.画像上腫瘤を認め,小腸造影で,トライツ靱帯から約20cm肛門側に造影剤の流出を認めた.
    小腸良性腫瘍を疑い,腫瘤縮小確認後,最小皮膚切開で待期手術(空腸部分切除)を施行した.術後経過も良好であった.
  • 芦川 和広, 守屋 仁布, 前田 長生, 河合 敬雄, 関 暢彦, 田中 一郎, 生沢 啓芳, 金杉 和男, 山口 晋
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2241-2244
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腸回転異常症による下行結腸の後腹膜への固定不全を原因とし発症した下行結腸の軸捻転症例を経験した.症例は23歳女性.繰り返す腹痛,腹部膨満を主訴とし近医より特発性巨大結腸症の診断にて紹介された.注腸造影にて下行結腸にbrid's beak signを認め,腹部CTでは壁外性にring状異状陰影,および上腸間膜動静脈の走行異常を認めた.腸回転異常症に合併した下行結腸軸捻転症と診断し緊急開腹手術を施行すると十二指腸は全長にわたり上腸間膜動脈の右側に存在した.十二指腸空腸脚の回転は反時計方向に90度で停止し,盲腸結腸脚は反時計方向に270度回転しており位相差を認め,下行結腸の後腹膜への固定は認められなかった.下行結腸は左結腸動脈基部を中心に時計方向に捻転しており高度の血流障害を認めたため,下行結腸捻転部腸管を切除し人工肛門を造設した.腸回転異常症に伴う腸捻転の多くは,新生児期に消化管閉塞症状を呈して発症することが多く,成人に発症することは稀である.また下行結腸の軸捻転は下行結腸が後腹膜に固定されていないという条件下でしか起こり得ず,貴重な症例と考えられたので報告する.
  • 池永 雅一, 藤本 高義, 三宅 泰裕, 土居 貞幸, 博多 尚文, 直井 正紀
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2245-2249
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸の原発性悪性リンパ腫は,比較的稀な疾患である.今回,われわれは,上行結腸原発悪性リンパ腫を経験したので報告する.症例は, 41歳の男性.主訴は腹痛.注腸X線検査,大腸内視鏡検査,腹部CT (Computed Tomography)検査にて,回盲弁近傍の上行結腸に腫瘤性病変を認めた.上行結腸粘膜下腫瘍の疑いで,手術を施行した.開腹時,腫瘍は上行結腸の充実性腫瘍として認め,所属リンパ節も腫大していたため大腸癌根治術に準じて右半結腸切除術を施行した.病理組織学的には, Non-Hodgkin Lymphoma, LSG (Lymphoma Study Group)分類のdiffuse medium cell typeであった.免疫組織化学染色では,抗B-cell抗体陽性細胞がびまん性に認められ, B-cell由来であった.術後CHOP療法を6クール施行し,現在再発を認めず,外来にて経過観察中である.
  • 中村 利夫, 土屋 泰夫, 梅原 靖彦, 佐野 佳彦, 大久保 忠俊
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2250-2253
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝膿瘍の治療中に大腸癌が発見され,大腸癌が肝膿瘍の原因と考えられた1例を経験したので報告する.症例56歳,男性,平成5年5月3日,発熱と上腹部痛を主訴として入院した. CT,超音波検査により肝膿瘍と診断され,経皮経肝的にドレナージ施行することにより解熱し,画像上膿瘍も消失した.その後外来にて経過観察中, 7カ月後に再び肝膿瘍の再燃をまたため治療および精査のため再入院となり,注腸検査にてS字結腸にapple core signを認め, S字結腸癌と診断された.平成6年2月8日, S字結腸切除術を施行,手術所見はH0P0N0SS, Stage IIであり,組織学的所見はss, n0, v1, ly0であり,腫瘍近傍に微小な膿瘍の形成を認めた.術後経過は良好で現在までに大腸癌の再発および肝膿瘍の再燃は認めていない.
  • 成田 洋, 若杉 健弘, 加藤 克己, 羽藤 誠記, 伊藤 昭敏, 真辺 忠夫
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2254-2258
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    先天性胆道拡張症(以下,本症)の家族内発生は稀である.最近われわれは本症の母子発生例を経験したので報告する.症例1: 48歳女性, (昭和57年当時),症例2の母親. 33歳時,本症の診断にて嚢胞・十二指腸吻合術を受けているが根治術を目的として入院,型のごとく嚢胞切除,総肝管空腸吻合術を行った.症例2: 34歳女性,症例1の長女.腹痛を主訴に来院,精査の結果Ic (p) IIfmの本症と診断,嚢胞切除,総肝管空腸吻合術を施行した.両症例とも嚢胞壁に悪性所見は認めなかった.
    本邦における本症の家族内発生例は16例8家系をかぞえるにすぎず,その発生頻度より遺伝傾向は極めて薄いものと推測される.一方,一卵性双生児での本症発生例は7例みられ,うち6例はその1方児にのみに発症していた.この点からも遺伝性に関しては否定的であった.しかしその遺伝性を結論づけるには報告例数があまりに乏しく現時点では更なる症例数の集積に努力が払われるべきである.
  • 谷内田 真一, 有岡 一郎, 若林 久男, 前場 隆志, 前田 肇
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2259-2263
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腎静脈および下大静脈に腫瘍栓を伴う肺癌副腎転移の手術例を経験した.症例は65歳男性, 1992年に肺腺扁平上皮癌で右中下葉切除術を受けた. 1994年10月,下肢の浮腫が出現し,精査の結果,左副腎に約6cmの腫瘤を認め,左腎静脈は腫瘍栓で完全閉塞し,連続性に下大静脈に約6cmの腫瘍栓を認めた.手術は,部分体外循環下に下大静脈を切開し,腫瘍栓を摘出後,単純縫合閉鎖し,同時に左腎・副腎摘出術を行った.術後の病理検査で肺癌副腎転移と診断され,この転移巣の一部は免疫組織化学染色でα-fetoproteinが陽性であった.術後に肝転移巣が出現したが,この転移病巣も同様に門脈内腫瘍栓を伴っていた.本例のように原発巣と転移巣で細胞機能特性が異なることがあり,予後判定に転移巣の細胞機能の検索も重要である.
  • 三木 康彰, 田中 智之, 角村 純一, 水谷 伸, 門田 治, 桜井 照久, 上田 晋也, 田附 裕子, 永井 動
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2264-2267
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    左内腸骨静脈内に腫瘍血栓を伴った子宮原発hemangiopericytomaの1例を経験した.症例は43歳女性.主訴は下腹部腫瘤であった. 1992年2月に子宮筋腫の術前診断にて単純子宮全摘術を施行され,組織学的診断にて本腫瘍とされた.術後CDDP, CPA, 5-FUの化学治療を12回施行されたが腫瘍の再発増大を認めた. CTにて膀胱浸潤を伴う6×3cmの骨盤腔内腫瘍を認め,左尿管拡張と水腎症を認めた. 1993年11月16日下腹部正中切開にて開腹した.骨盤底に硬い暗赤色の成人手拳大の腫瘍を認め,骨盤左側壁にかけて広範囲に浸潤していた.左尿管切断,直腸切断,両側卵巣と膀胱合併切除を伴う腫瘍摘出術を施行した.左総腸骨静脈に腫瘍血栓を認め,これを摘出して血管再建術を施行した.術後2年の現在再発は認めず外来通院中である.本邦における本腫瘍の子宮発症の報告は,自験例を含め4例のみであった.腫瘍血栓を証明できたのは自験例のみであるが,早期に積極的外科治療が必要であると考えられた.
  • 佐々木 秀, 三好 信和, 平田 敏明, 丸山 泰司, 中井 隼雄, 佐々木 なおみ, 谷山 清己
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2268-2272
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は49歳女性.下血を主訴に入院.大腸内視鏡検査にて直腸に潰瘍を伴う腫瘍を認め,潰瘍底からの生検で扁平上皮癌と診断された. CT, MRIでは,腫瘍は直腸腟中隔に存在し,多発肝転移を認めた.直腸切断術および子宮両付属器摘出術が施行されたが既に腹膜播種も伴っていた.病理組織学的所見では,扁平上皮癌,漿液性腺癌,明細胞癌などの多彩な組織像が混在し,これらと直腸腟中隔内に見られた良性の子宮内膜症組織との間に移行が認められたため子宮内膜症の癌化例と診断された.本症例は癌性腹膜炎と肝転移の急激な増悪のため,術後2カ月で死亡した.卵巣外原発の子宮内膜症の癌化は稀であり,自験例はわれわれの検索し得た限りでは本邦で3例目の報告である.
  • 笠原 善郎, 芝原 一繁, 浅田 康行, 三浦 将司, 片山 啓太, 宮山 士朗
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2273-2277
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は7カ月男児で,腹部腫瘤を主訴に来院した.身体所見上,右上腹部に約10cm大の腫瘤を触知した. CT, MR上,腫瘍は腹腔内に位置し,分葉した脂肪濃度の限局性腫瘍で,造影剤により一部が軽度に増強された.ガリウムスキャンでは腫瘤部位に一致して集積を認めた.以上より脂肪肉腫を疑い手術を施行した.腫瘍は限局性で回腸腸間膜に位置しており,回腸の一部とともにこれを摘出した.病理組織上,腫瘍は被膜に包まれ,分葉した脂肪組織からなり,成熟した脂肪細胞に加え幼若な脂肪細胞や間質の毛細血管を認めた.以上より脂肪芽細胞腫と診断した.腹腔内に発生した脂肪芽細胞腫は極めて稀で,本邦にこれまで3例の報告をみるにすぎない.乳幼児期の腹部腫瘍は悪性腫瘍がほとんどであるが,稀な良性腫瘍である脂肪芽細胞腫も鑑別疾患の一端におき,過大な手術は避けねばならない.
  • 清家 和裕, 新井 竜夫, 小野 正人, 谷山 新次, 白井 芳則, 杉藤 正典, 新村 兼康
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2278-2282
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    悪性腹膜中皮腫は現在までに約200例報告されている比較的稀な疾患である.特徴的な所見に乏しいため,術前診断は困難と言われており,本症例も診断に難渋した.症例は58歳の女性で,近医にて腹膜偽粘液腫を疑われ紹介となったが,虫垂炎の既往があったこと,回盲部に腫瘤を認めたことなどから当センターでも腹膜偽粘液腫の診断で手術を施行した.開腹所見では,黄色粘性の腹水が多量に認められ,腹膜に黄白色の結節が多発していた.また,診断通り回盲部に腫瘤を認め切除した.術後の病理組織学的診断により悪性腹膜中皮腫であることが判明した.本症例の経験を参考にし,悪性腹膜中皮腫の術前診断法に関して検討し,治療法についても言及した.
  • 大山 司, 宗田 滋夫, 橋本 純平, 吉川 幸伸, 大嶋 正人
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2283-2287
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    後腹膜の粘液性嚢胞腺腫に対し外科治療を施行した1例を経験した.症例は20歳,女性.主訴は右腰部痛.会陰部痛.超音波, CTにて右後腹膜に嚢胞性腫瘤を認め,上行結腸の外側後腹膜に存在する嚢腫との診断の下に摘出術を施行した.嚢腫の長径は6cm,嚢胞壁内腔面は凹凸不整であった.内容は黄褐色透明でやや粘稠性を有する液体であった.組織学的には,内面がAlcian blue染色にて陽性を示す一層の高円柱上皮で被われた粘液性嚢胞腺腫であった.われわれが検索した範囲内では後腹膜に発生した粘液性嚢胞腺腫または腺癌の報告例は海外および本邦で腺腫9例,腺癌15例で,これらを総覧すると,摘出生検以外の手段での両者の鑑別は困難と考えられる.以上,思春期以降の女性で,後腹膜に他臓器と連続性のない嚢胞性疾患を認めた場合,粘液性嚢胞腺癌の可能性を考慮し,速やかに摘出するべきと考えられる.
  • 小野寺 健一
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2288-2290
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腰椎棘突起の圧迫による硬膜外カテーテル体内切断の1例を報告した.症例は86歳,男性.変形性脊椎症による腰下肢痛に対して持続硬膜外ブロックを行った.カテーテル留置から26日目に,カテーテルは体内で切断し,先端側2.5cmは体内に遺残した.体外側カテーテルの切断端は押しつぶされ扁平であった.後日撮影したX線写真では,カテーテル刺入部の棘突起間は極めて狭く,体動により上下棘突起は容易に接した.遺残カテーテルはそのまま放置とし,遺残1年後現在,感染は神経根症状はない.
    本例のような棘突起の圧迫によるカテーテル切断の報告例は,本邦では2例に過ぎない.カテーテル挿入の際には,カテーテルが圧迫を受けないよう,挿入の部位や方法の選択に注意を要する.特に高齢者では予めX線写真などで棘突起の状態をよく観察すべきである.
  • 望月 能成, 加藤 知行, 小寺 泰弘, 平井 孝, 紀藤 毅
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2291-2295
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は33歳,女性.近医産科で第2子出産時に前仙骨部のdermoid cystを診断され手術目的で当院に入院した.入院時,肛門周囲の皮下と直腸指診で下部直腸右後壁に腫瘤を触知した.骨盤CT検査と骨盤MRI検査では前仙骨部から肛門周囲の皮下にかけて3つの非連続性の嚢胞性腫瘤が描出された.前仙骨部の多発dermoid cystを疑い, 1994年10月11日,経腹的経仙骨的に腫瘤摘出術を行った.肛門周囲皮下には,これらの腫瘤とは別に小結節があり摘出した.組織学的には全てdermoid cystに矛盾しなかった.
    前仙骨部に発生するdermoid cystなどの先天性嚢胞性腫瘤はdevelopment cystとして包括される.成人の前仙骨部development cystは稀な疾患であり,今回本邦報告29例と自験例1例を併せて検討した.自験例のような多発例は30例中2例のみであった.また検討からはdevelopment cystは術前に良悪性の診断は困難であると考えられた.
  • 植松 正久, 岡田 昌義, 小川 ゆか
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2296-2299
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は22歳,女性.足背部の柔らかい腫瘤を主訴として来院した.超音波断層法および超音波Doppler法にて,左足背静脈のvenous aneurysmと診断し,局所麻酔下に外来通院で外科的切除術が施行された.
    超音波断層法および超音波Doppler法は本疾患の診断に極めて有用であり,正確な確定診断が得られれば,外来通院でも容易に外科的切除術が可能である.以上より,本疾患を念頭に置いて外来診療を行うことが肝要である.
  • 沖野 秀宣, 上田 祐滋, 豊田 清一
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2300-2304
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    陰嚢を含む会陰部に広範な重症皮膚軟部組織壊死を生じ,いわゆるFournier's gangreneと思われる極めて稀な症例を経験したので報告する.患者は59歳男性で,発熱を伴う肛門周囲の疼痛で発症した.近医にて切開排膿術を受けるも症状は軽快せず,当科に紹介入院となった.初診時,体温は38.7°Cで,肛門周囲より悪臭を伴う黄褐色の排膿が見られた.単純X線写真にて陰嚢皮下にガス像も認めた.敗血症を疑い,直ちにIVH管理下に免疫グロブリン,抗生剤投与を開始した.細菌培養ではE. coliを検出した. bed sideにて局所の切開排膿ドレナージ,デブリードマンを行うも,感染壊死巣が肛門周囲より陰茎,陰嚢,臀部におよび,両鼠径部,両背部にかけて皮膚の発赤・腫脹が進行するため,全身麻酔下で陰嚢,睾丸を含む会陰部切除,膀胱瘻造設,膿瘍広範囲切開ドレナージ術を施行した.術後の創傷治癒は良好で,術後52日目に全治退院となった.
  • 瀬戸 啓太郎, 松下 昌弘, 冨田 冨士夫, 斎藤 人志, 喜多 一郎, 高島 茂樹
    1996 年 57 巻 9 号 p. 2305-2309
    発行日: 1996/09/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    5臓器5重複癌症例を経験したので報告する.患者は69歳,女性.第1癌は37歳時の子宮頸癌.第2癌は60歳時の乳房外Paget病であった.今回,著明な貧血を主訴に来院.精査の結果,第3, 4, 5癌として盲腸癌,膀胱癌および肝細胞癌が診断された.重複癌の発生要因としては,本症例では肝癌以外の癌がいずれも子宮頸癌に対する放射線治療照射野に含まれており放射線誘発癌の可能性が推察された.がん抑制遺伝子産物の検討ではP-53遺伝子が盲腸癌でoverexpressionを示し,そのpoint mutationが発癌に関与している可能性が示唆されたが,他の癌では本遺伝子は陰性であった. RB (retinoblastoma)遺伝子は盲腸癌およびPaget病で陽性を示したが,積極的に遺伝子異常を示唆する所見は得られなかった.今後,年齢の高齢化,各種癌治療成績の向上に伴い,重複癌は増加傾向にあるとされ,重複癌の発生を念頭に置いた経過観察の重要性が示唆された.
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