日本臨床外科医学会雑誌
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58 巻, 1 号
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  • 神谷 憲太郎, 志賀 俊行, 沢田 晃暢, 橋本 行弘, 川内 章裕, 草野 満夫
    1997 年 58 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    原発乳癌患者60例を対象に,細胞増殖期に出現する核抗原に対するモノクローナル抗体Ki-67を用いて腫瘍組織の免疫組織学的染色を行い, Ki-67値を算出し,臨床病理学的諸因子および予後との関係について検討した.乳癌腫瘍組織のKi-67値は, 3%~62%に分布し,その平均は26.6%であった. Ki-67値と乳癌取扱い規約による臨床病理学的諸因子(病期, T, n因子,組織型)との間に相関はみられなかったものの, ER陽性群のKi-67値は22.8%, ER陰性群では31.3%と統計学的有意差を認めた(p<0.05).
    さらにstage IVを除く原発乳癌57例中,術後に再発を確認した10例の手術時測定のKi-67値(40.2%)は,非再発群の測定値(23.1%)に比し明らかに高値を示し(p<0.01),また癌関連遺伝子の一つであるp53(mutant型)の組織染色陽性例でのKi-67値(39.1%)は, p53陰性例(22.1%)と比較しやはり統計学的有意差を認めた(p<0.01).
    乳癌組織のKi-67値は,乳癌の進行度とは有意な相関はみられなかったものの, ER陰性群, p53陽性群,再発群において各々明らかな上昇傾向を示し,従来の予後規定因子とは異なる独立した腫瘍悪性度の評価としての有用性が示唆された.
  • 前田 好章, 荻田 征美, 池田 雄祐, 菊地 一公, 山口 達郎
    1997 年 58 巻 1 号 p. 8-11
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    128例の乳癌切除標本より得た組織抽出液中のErbB-2蛋白をEIA法により測定し,従来からの予後因子と比較検討を試みた.初発症例でのErbB-2蛋白陽性率は12.3% (15/122),再発症例でのErbB-2蛋白陽性率は66.7% (4/6)であった(カットオフ値は18.0ng/mg protとした). ErbB-2蛋白は,リンパ管侵襲と相関し(p=0.0158), estrogen receptorと逆相関した(p=0.0127).またErbB-2蛋白陽性例では腫瘍径が大きい傾向がみられたが有意差はなかった.一方, ErbB-2蛋白はリンパ節転移,年齢とは相関しなかった.今回の結果は, ErbB-2蛋白測定は従来からの予後因子と併用することにより予後の判定に有効であり,術後の化学療法,ホルモン療法の指標として寄与しうる可能性を示唆している.
  • 佐藤 浩一, 前川 武男, 巾 尊宣, 矢吹 清隆, 津村 秀憲, 渡部 洋三
    1997 年 58 巻 1 号 p. 12-15
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道癌切除術後の胸腔内吻合の有用性を,他の再建術式と比較検討した.食道癌切除例118例を再建術式により,胸腔内吻合13例,胸骨後76例,胸骨前4例,食道抜去術25例に分け検討した.胸腔内吻合では手術時間が354分と有意に短く,術中出血量も536gと有意に少なかった.縫合不全の発生率は,胸骨後,胸骨前,抜去ではそれぞれ32.9, 100, 36%と極めて高率であったのに対して,胸腔内吻合では0%と良好な成績で,肝機能障害,嚥下障害の発生率もそれぞれ7.7, 23.1%と有意に低率であった.また手術から経口摂取開始,退院までの期間は,それぞれ11.2, 31.3日と他の3群と比較し有意に短かった.さらに食事摂取量は,良好が76.9%,中等度が23.1%と,良好と中等度で全例を占めていた.術後経過も全例軽快し,在院死亡が1例も認められなかった.以上のように,胸腔内吻合は手術侵襲が少なく術後成績も良好で,中下部食道癌に対して有用な術式となり得ると考えられた.
  • 山岡 博之, 若杉 純一, 秋山 浩利, 田中 邦哉, 亀田 久仁郎, 国崎 主税, 高橋 正純, 嶋田 紘
    1997 年 58 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    漿膜露出胃癌に対する大動脈周囲リンパ節郭清(D4)と持続温熱腹膜灌流療法(CHPP)を併用する意義につき検討した. H0P0SE以深のCHPP併用群29例とD4単独群35例の術後成績,腹膜再発率を比較検討した.また,腹膜播種陽性7例につき腹膜播種巣のCHPP前後の死細胞率(apoptosis index)を算定した. CHPP併用群,単独群の3年生存率はそれぞれ42.6%, 46.4%で, n4(-)例ではそれぞれ72.5%, 48.1%であった.腹膜再発率は,併用群31.0%, 単独群34.3%で, n4(-)例ではそれぞれ16.7%, 30.8%であった. n4(-)で平均腹腔内温が42°C以上であった症例では,腹膜再発を認めていない. CHPP前後の死細胞率は前が3.5±2.3%, 後が51.5±7.5%であった. CHPPは腹膜播種巣に対する局所療法として有効であり,漿膜露出胃癌に対するD4とCHPPの併用はn4(-)で腹腔内温42°C以上を維持されれば腹膜再発率も低く,生存率も良好であった.
  • 長田 真二, 種村 廣巳, 大下 裕夫
    1997 年 58 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1985年から手術した大腸癌症例中,低分化型癌(低分化腺癌,印環細胞癌)34例を,分化型癌(中・高分化腺癌)471例と比較した.なお,低分化型は壁深達度において有意(p<0.01)に進行症例が多かったので,壁深達度ss(a1)以上に限定した症例につき検討を追加した.低分化型の腫瘍占居部位は有意に右側結腸に多かった.低分化型は肝転移陽性率は26.5%, 腹膜播種陽性率は17.6%と高く(p<0.05),リンパ節転移程度も進行例が多く(p<0.01),組織学的には静脈侵襲陽性率94.1%で,リンパ節転移程度も有意に(p<0.05)高く,壁深達度を限定してもほぼ同様であった.また,低分化型は浸潤型の肉眼型が多く,腫瘍径も大きかった(p<0.01).低分化型の根治度Aの割合は低く, 5生率は38.5%と不良で,壁深達度を限定しても同様であったが,根治手術例では分化型と差はなく,根治性をめざした手術が重要であると考えられた.
  • 余喜多 史郎, 福田 洋, 大西 隆仁, 三瀬 光太郎, 三宅 秀則, 石川 正志, 原田 雅光, 和田 大助, 田代 征記
    1997 年 58 巻 1 号 p. 28-33
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝細胞癌切除術後再発例37例を対象として,再発様式と再発後の経過について検討した.再発様式は肝内再発のみ31例(83.8%), リンパ節再発3例(8.1%), 遠隔転移再発3例(8.1%)で,肝内再発例中,単発再発19例(61.3%), 少数再発8例(25.8%), 多発再発4例(12.9%)であった.肝内再発群では再発時の治療方法によらず,その再発様式で手術後ならびに再発後の生存率に有意差(p<0.01)を認め,再発後の病態をきめる要因は再発時の再発様式が重要と考えられた.また,再発様式は初回手術時の腫瘍径, Vp因子, Vv因子, im因子, AFP値と関連を認めた.さらに,肝内再発群では異時性多中心性再発を単発例の36.8%に認め,腫瘍側因子に加えて肝炎ウイルスが再発様式に関連していた.従って,再発後の病態は治療方法よりもむしろ初回治療時の腫瘍進展度ならびに肝炎ウイルスにより左右されていることが示唆された.
  • T-tubeドレナージとの比較
    金井 歳雄, 石川 廣記, 小野 崇典, 会澤 健一郎, 才川 義朗, 原田 裕久, 白水 泰昌, 儀賀 理暁
    1997 年 58 巻 1 号 p. 34-40
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    開腹総胆管切開後のT-tubeに代わる総肝胆管ドレナージ法(TH-tube法)を施行し,その安定性を明らかにした. TH-tube群28例と同時期のT-tube群56例を比較した.手術時間,出血量共, TH-tube群で少なかった.チューブに関連した合併症はT-tube群で約45%で, TH-tube群では約21%と有意に低率であった.このうち,チューブの完全逸脱,総胆管縫合部の縫合不全,チューブの回転や総胆管の屈曲,術後黄疸はT-tube群で8.9%, 12.5%, 26.4%, 3.8%, TH-tube群では3.6%, 3.6%, 0%, 0%であった.胆汁排泄量は両群で同等であった.術後の肝機能データはTH-tube群の方が良好で安定していた. T-tube群に1例の術後在院死亡が認められた.これらのことから, TH-tube法は手技も簡便,安全で,ドレナージも効果も十分であり,チューブの安定性でT-tubeを凌ぎ,生体の負担もより軽微であることが明らかになった.
  • 上田 順彦, 小西 一朗, 広野 禎介
    1997 年 58 巻 1 号 p. 41-47
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    総胆管結石症のうち胆管1次閉鎖(以下, 1次閉鎖群)29例とTチューブドレナージ(以下, Tチューブ群)70例について比較し,胆管1次閉鎖の有用性と問題点につき検討した.術後合併症のうち1次閉鎖群では胆汁漏出を24.1%に認めた. Tチューブ群では瘻孔形成不全によるTチューブ抜去後の限局性腹膜炎を8.6%に認めた.術後肝機能障害は1次閉鎖群7.1%, Tチューブ群14.3%であった.術後入院期間は1次閉鎖群20.1日であり, Tチューブ群の37.8日に比べ有意に短かった.結石再発は両群とも1例ずつであった. 1次閉鎖群は高齢者に多く施行されたにもかかわらず, Tチューブ群に比較して重篤な合併症が少なく,術後入院期間の短縮およびTチューブ群と変わらない予後が得られた.総胆管結石症に対して適応を守れば胆管1次閉鎖はTチューブドレナージに比べ有用な術式であると考えられた.
  • 鈴木 博雅, 城間 賢二, 田村 進, 横室 仁志, 亀崎 昌道, 大槻 実, 内田 真, 村岡 麻樹
    1997 年 58 巻 1 号 p. 48-52
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    慢性透析患者におけるblood access (BA)作製部位としてanatomical snuffbox(以下,タバコ窩)に作製するタバチュエール内シャントが一般化しつつある.われわれは,初回BA手術症例83例の追跡調査から,タバコ窩とこれまでの標準的方法との血流量,開存性について検討した.さらに,タバコ窩においては,吻合法,基礎疾患ならびに合併症に関しても比較を行い以下の結論を得た. 1)タバコ窩における初回BA作製術は,その血流量,開存性において優れており,特にこれまでの標準的術式と比較しても遜色はなかった. 2)糖尿病性腎症でも動脈拍動が良好であれば,血流量,開存性は満足のいくものであった. 3)透析中の最大血流量は,女性,高齢者において有意に低下していた. 4)吻合法による差は1カ月以内の早期閉塞の確率が側側吻合において高いことから端側吻合法が好ましいと考えられた. 5)シャント閉塞は,最大血流量の少ない症例で有意に多く発生した.
  • 石原 寛治, 山田 正, 鈴木 範男, 永来 正隆, 西村 良彦, 藤井 弘一
    1997 年 58 巻 1 号 p. 53-58
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    中心静脈カテーテル(central venous catheter, 以下CVC)は,近年様々な用途に幅広く使用されるようになったが,血栓形成と感染は依然として問題となっている.患者は51歳の男性で,繰り返す吐・下血と極度の貧血を主訴に当院へ紹介された.出血性十二指腸潰瘍に対し,幽門側胃切除・十二指腸瘻併設術を行い右大腿静脈より留置したCVCを,術後の栄養管理に使用した.術後18病日突然39.5°Cの発熱があり,腹部CT検査で下大静脈内に多数の空気塞栓を含む血栓を確認し, CVCによる敗血症性下大静脈血栓症(以下本症)と診断し,保存的に治癒し得た.本症の治療は,カテーテルの早期抜去・抗生剤投与および抗凝固療法などの保存的療法が,第1選択であると考えられた.
  • 徳永 信弘, 貞廣 荘太郎, 安田 聖栄, 西 隆之, 木村 富彦, 中崎 久雄, 田島 知郎, 三富 利夫
    1997 年 58 巻 1 号 p. 59-62
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Aeromonas hydrophilaは免疫能の低下した患者に敗血症を引き起こす比較的稀な原因菌として知られている.持続的外来腹膜透析(CAPD)中の患者にAeromonas hydrophila敗血症を来した1例を経験したので報告する.
    症例は多嚢胞腎による慢性腎不全のためCAPDを行っていた50歳の男性で右上腕部痛を主訴に来院した.右上腕には有痛性の紅斑の中に黒い壊死がみられる皮疹が認められた.経過と伴に皮疹は右前胸部にまで拡がり来院24時間後に死亡した.剖検所見では右上腕から前胸部,両側下肢の皮膚,軟部組織および筋肉に高度の浮腫,出血,壊死がみられ,多臓器に微小膿瘍および菌塊の形成が認められた.同様な経過の症例は本邦において5例報告されており,肝硬変,腎不全,悪性腫瘍など免疫能の低下する患者に急激に増悪する軟部組織感染症をみた場合には,本症を考慮する必要があると思われた.
  • 金 昇晋, 芝 英一, 神垣 俊二, 田口 哲也, 伊豆蔵 正明, 高井 新一郎
    1997 年 58 巻 1 号 p. 63-66
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれは早期乳癌術後に,骨転移と鑑別が困難であった頭蓋骨血管腫の1例を経験した.患者は37歳の女性で,右乳癌(T1aN0M0, I期)のために乳房温存術を受けた.術後の骨シンチで頭蓋骨に陽性像を示し, X線およびCT検査でも左頭頂骨に骨溶解像を認め,骨転移を強く疑うため局所切除術を施行した.組織学的検査では海綿状血管腫であった.骨血管腫は稀な疾患であるが(全骨腫瘍の0.39%), MRIのT1, T2強調画像で斑紋状高信号として認められ,最近では無症候性の例が,椎体骨を中心に発見される機会が増加している. MRIは乳癌骨転移の描出にも優れ,骨シンチで異常な像を認め確定診断の困難な時にはMRIを考慮すべきと考える.
  • 清水 一雄, 長浜 充二, 北川 亘, 赤須 東樹, 三村 孝, 伊藤 國彦, 田中 茂夫
    1997 年 58 巻 1 号 p. 67-71
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    再発性正中頸嚢胞に対し術前および術中嚢胞造影を施行,残存嚢胞,瘻孔を確認し根治術を容易にした2例を経験した.症例1は52歳男性で初回手術時舌骨は切除されていない.再発時に舌骨とともに嚢胞切除を行ったが再々発した.症例2は28歳男性で発熱,膿瘍形成など炎症を繰り返しその度に切開排膿を受けていた.最後の外科的処置で嚢胞切除が行われているが舌骨は切除されていない.この2症例に60%ウログラフィンによる術前造影,ピオクタニンによる術中造影を行ったところ両症例とも残存する瘻孔および嚢胞が確認でき確実な根治切除を容易に施行し得た.これらの残存嚢胞および瘻孔病変は切除標本の病理組織像でも確認された.また,当科で経験した症例の好発部位をみると,舌骨下縁~甲状軟骨上が86.9%と圧倒的に多かったが今回の2例とも好発部位とは異なりこれより舌盲孔に向かう近位側であった.
    考察:本疾患の再発は,舌骨非切除群および手術時炎症を伴ったものに多いが,舌骨切除例にも認められる.この原因として茎状管腔の残存,瘻孔の取り残しが考えられる.今回の再発2例に対する嚢胞造影は,残存嚢胞病変の広がり,残存瘻孔の確認に極めて有用であった.特に,われわれが今までに経験した本疾患69例の好発部位と今回2症例の再発部位が異なる結果であったことより,嚢胞および舌骨切除後舌盲孔へ向かう瘻孔を確認できたことは,この領域の切除範囲を確実にし再発の防止に貢献できたものと考える.
  • 長浜 充二, 清水 一雄, 北村 裕, 五十嵐 健人, 渋谷 哲男, 田中 茂夫
    1997 年 58 巻 1 号 p. 72-75
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は42歳の女性.甲状腺左葉下部に5×4cmの表面はほぼ平滑で一部陥凹を伴った,硬い可動性の乏しい腫瘤を触知した. CTでは内部が比較的均一な低吸収像を呈し,下端に充実性の高吸収像を示す部分を伴う嚢胞状腫瘤として認められた.血管造影では左上甲状腺動脈と左下甲状腺動脈の分枝に狭小化と濃染像が認められたことから悪性腫瘍を否定できず手術を施行した.摘出腫瘤は毛髪を含む内容物を有しており,病理組織学的検査では毛髪,異物巨細胞,脂肪組織を含み甲状腺組織の混在する良性甲状腺奇形腫と診断した.術後7年再発などの徴候を認めていない.
  • 豊田 洋, 今田 敏夫, 前原 孝光, 利野 靖, 森永 聡一郎, 松本 昭彦
    1997 年 58 巻 1 号 p. 76-79
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は34歳の女性.約10年前より左乳房腫瘤を自覚していたが患者の精神疾患と宗教上の理由により治療を拒否していた.腫瘤からの出血のため当院を受診した.腫瘤は左乳房内側に存在し,径30cmで一部壊死を伴いこの部位からの出血を認めた.入院治療を勧めたが拒否したため外来通院にて創処置とUFTによる化学療法を施行.しかし腫瘤は次第に増大し巨大潰瘍を形成した.患者が外科的治療に同意した1年後に手術を施行.腫瘤は左乳房全体を占め,さらに大小胸筋に浸潤が見られたが胸壁浸潤はなく定型的乳房切断術を施行し,欠損が広範となったため広背筋弁を使用して修復した.腫瘤は27×17×30cmで重さ8kgであり,病理組織学的には線維肉腫であった.長期間放置された巨大乳腺線維肉腫の1手術を経験したのでここに報告した.
  • 長岡 弘, 竹尾 健, 末益 公人, 東 靖宏, 黒住 昌史
    1997 年 58 巻 1 号 p. 80-84
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    豊胸術後30年目に発症した乳房Paget病の1例を経験した.症例は54歳,女性. 1965年(23歳時)にシリコン系物質注入法による豊胸術を受けた. 1993年5月に左乳頭部のびらんを自覚, 95年6月よりびらんの増大を認めたため当院を受診し,擦過細胞診に乳房Paget病と診断された.手術は患者の強い希望により乳頭部病変部を含めた部分切除術のみを行った.病理組織検査では表皮内のPaget細胞の他に乳腺内に豊胸術時に注入されたシリコンによる異物性肉芽腫と非浸潤性乳管癌を認めた.乳房Paget病に対る手術は縮少の方向にあるが,豊胸術で使用された注入物の発癌性もあわせて,今後意深い経過観察が必要と考えられた.
  • 佐古田 洋子, 河野 範男, 中谷 正史, 石川 羊男, 指方 輝正
    1997 年 58 巻 1 号 p. 85-89
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は84歳女性,左乳房腫瘤を主訴に来院,左乳房DCE領域に4.3×4.3cmの球形,境界明瞭,表面平滑な弾性硬の腫瘤を認め,マンモグラフィー,エコーで乳癌が強く疑われたため手術目的で入院した.鹿児島県出生在住でHTLV-1抗体が陽性であった.
    病理検索で腫瘍はlymphoid cellの増殖よりなり, mediumからlarge cellが混在していた.分裂像も散見され核異型も著明であった.腫瘍細胞の核クロマチンは粗造不規則で,深い切れ込みを認めhyperconvoluted patternを示していた.免疫染色の結果はPan T, UCHL1が陽性であり, Pan B, L26はほとんど染まらなかった.以上よりmalignant lymphoma, diffuse, pleomorphictype, T cell typeと診断した.当症例は,抗HTLV-1抗体陽性のTリンパ腫でありATLのリンパ腫型が最も考えられた.乳腺に発生するT cell由来の悪性リンパ腫はきわめてまれであり当症例は本邦で4例目である.
  • 岩田 広治, 岩瀬 弘敬, 遠山 竜也, 原 泰夫, 小林 俊三
    1997 年 58 巻 1 号 p. 90-93
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    14歳女児に発生したphyllodes tumorを経験した.患者は左乳房腫瘤の急速な増大のため当科を受診した.来院時左乳房に5.5×5.5cmの弾性軟で境界明瞭な腫瘤を触知した. USで充実性腫瘍の内部にmultiple small cystが認められたことからphynodes tumorと診断した.摘出した腫瘍の病理組織学的検査ではfibroadenomaとの鑑別が難しかった.同時期に経験した若年女性のgiant fibroadenomaと比較してみると,臨床所見,組織学的所見,エストロゲンレセプター(ER)発現状況に違いは認められなかった.本症例ではgiant fibroadenomaと比べcyst formationの程度がより著明であり,この点が唯一の異なっている点であった.今後は両者の鑑別にclonality検査を導入する必要があろう.
  • 尾浦 正二, 櫻井 武雄, 吉村 吾郎, 玉置 剛司, 梅村 定司, 粉川 庸三, 古川 智子
    1997 年 58 巻 1 号 p. 94-97
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Histoculture drug response assay (HDRA)法に基づく化学療法と筋皮弁を用いた手術が有用であった進行乳癌の1例を経験したので報告する.症例は, 64歳女性.左乳房潰瘍と呼吸困難を主訴に来院.肝転移,肺転移をともなう進行乳癌との診断のもとに, tamoxifenとcyclophosphamide, epirubicin, 5-FUによる化学内分泌療法を施行した.本療法では,ごく僅かの抗腫瘍効果しか得られなかったため切除生検を施行し, HDRA法による抗癌剤感受性試験を施行した.本感受性試験の結果に基づき, mitomycinを加えた化学療法を施行したところ,良好な抗腫瘍効果が得られたため,筋皮弁を用いた姑息的局所切除を施行した.術後にもmitomycinを主とした化学療法を施行し, 1年以上経過した現在も良好な結果を継続している.
  • 西本 和生, 土江 健嗣, 久納 孝夫, 米山 文彦, 大島 章, 世古口 英
    1997 年 58 巻 1 号 p. 98-101
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    右乳房に発生した2つの原発癌巣(一側多発乳癌)にそれぞれ対応するリンパ節転移を認めた症例を経験したので報告する.
    症例は, 85歳女性,右乳房腫瘤を主訴に当院受診.右乳房EBD領域に径4cmの腫瘤と, C領域に径2cmの腫瘤を触知した.乳腺超音波検査では,両方の腫瘤とも低エコー,内部不均一であった. C領域の腫瘤は境界不明瞭であった.マンモグラフィー上C領域の腫瘤には棘状突起が認められた.穿刺吸引細胞診では腺癌の診断が得られた.平成6年10月18日非定型的乳房切除術を施行した.病理組織学的検査で, EBD領域の腫瘤は充実腺管癌, C領域の腫瘤は硬癌であった.リンパ節転移は, 1aと1b領域に認められ, 1a領域のリンパ節転移は,充実腺管癌の組織像を示し, 1b領域のリンパ節転移は,硬癌の組織像を示した.
  • 仲宗根 朝紀, 君野 孝二, 中崎 隆行, 山下 秀樹, 武冨 勝郎, 飛永 晃二, 岸川 正大
    1997 年 58 巻 1 号 p. 102-105
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は53歳女性.主訴は左乳房腫瘤である. 1989年11月左乳房腫瘤に気付き当科を受診した.左乳房A領域に2.5×2.0cmの硬い,可動性不良な腫瘤を触知した.腋窩リンパ節は腫大していなかった.マンモグラフィーでは,境界不明瞭,内部構造不均一でspiculaを伴う腫瘤陰影を認めた.乳腺超音波検査では,辺縁不整で内部構造不均一な陰影を認めた.穿刺吸引細胞診では扁平上皮癌の診断であった.入院後,左定型的乳房切断術を施行した.組織学的所見でも扁平上皮癌と確認された.腫瘍の一部にムチン産生を示す所見あり, ERは陽性であったことから,自験例は腺癌からの扁平上皮化生によるものと考えられた. t1n0m0でstage Iであった.術後6年6カ月現在,経過良好で再発の兆候を認めない.
  • 和泉 裕一, 浅田 秀典, 楊 宗偉, 久保田 宏
    1997 年 58 巻 1 号 p. 106-109
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    右胸腔内破裂をきたした下行大動脈瘤の1例を経験したので報告する.症例は68歳男性で,突然の背部痛が出現,近医を受診し, CT検査により下行大動脈瘤と右胸水が確認された.背部痛の増強と血圧低下を認めたことから,大動脈瘤破裂の診断で当科へ搬送され緊急手術を施行した.右胸腔ヘドレーンを挿入した後に右半側臥位に体位変換して手術を開始したが,開胸時に再破裂をきたした.右大腿動静脈から送脱血カニューレを挿入し,ヘパリンコーティング回路,遠心ポンプを使用した部分体外循環下に動脈瘤切除,人工血管置換術を施行し救命した.下行大動脈瘤の右胸腔内破裂は比較的稀であることから術前診断が遅れることがあり,胸部大動脈瘤破裂の救命率向上のためには,診断にあたって本病態も念頭に置く必要があると考えられる.
  • 尾形 敏郎, 石川 進, 佐藤 尚文, 高井 良樹, 饗場 正明, 飯島 耕作, 長谷川 紳治, 三島 敬明, 森下 靖雄
    1997 年 58 巻 1 号 p. 110-114
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は胸部絞扼感を主訴とする72歳の男性で,胸部単純X線像で異常陰影を指摘され,縦隔腫瘍の診断で手術となった.腫瘤は大血管,心膜,左肺,両横隔神経に浸潤し,腫瘤摘出および肺・心嚢部分切除術を施行した.病理組織学的に胸腺原発カルチノイドと診断された.術前に高値であった血清NSE(neuron specific enolase)が術後に低下したことより,胸腺カルチノイドの腫瘍マーカーとしての有用性が示唆された.
  • 榎本 泰三, 山田 行重, 吉村 淳, 池田 直也, 渡辺 明彦, 中野 博重
    1997 年 58 巻 1 号 p. 115-120
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道良性腫瘍の中でも,気管支性嚢胞は稀とされるが,今回嚢胞内容液のCA125, CA19-9値が上昇した食道気管支性嚢胞の1例を経験した.症例は30歳の女性,嚥下困難を主訴に当科受診. EUS, CT, MRIにて食道壁内嚢胞と診断し手術施行.嚢胞は二房性で内容物は粘稠性の緑褐色の液体であった.病理組織学的検査により,軟骨は欠くが内腔は線毛円柱上皮をもち気管支性嚢胞と診断した.術前の血中CA125, CA19-9値が150U/ml, 53.7U/ml,内容液中CA125, CA19-9値が34×104U/ml, 32×106U/mlと上昇していたが,術後血中CA125, CA19-9値は28U/ml, 26.5U/mlと下降した.食道壁内気管支性嚢胞でCA125, CA19-9が高値を示す症例は極めて報告が少なく,嚢胞内容液中のCA125, CA19-9の測定は食道嚢胞の診断上,有用なマーカーになる可能性が示唆された.
  • 西田 智樹, 國嶋 憲, 東田 武, 米山 千尋, 西植 隆, 渡辺 信介
    1997 年 58 巻 1 号 p. 121-124
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,右十二指腸傍ヘルニアによる絞扼性イレウスの1例を経験した.症例は16歳,女性で激しい腹痛にて来院,腹部右側に膨隆を認め,圧痛,反跳痛を認めた.造影CTにて造影されない小腸と多量の腹水を腹部右側のみに認め,内ヘルニアによる絞扼性イレウスの診断にて緊急開腹術を行った.開腹すると多量の黄色腹水を認め,空腸起始部から回腸末端までが上行結腸間膜と後腹膜の間,本来生理的癒合が見られる部位に入り込んでいた.またヘルニア門より小腸の一部が脱出し,門で絞扼され壊死に陥っていた.ヘルニア嚢を切開し整復すると十二指腸は固定されておらず,トライツ靭帯は形成されていなかった.小腸は空腸起始部より1mから回腸末端より50cm口側まで血流障害を認め,ところどころ壊死に陥っていたため大量小腸切除を行った.術後経過は良好で第10病日に軽快退院した.
  • 伊藤 慶則, 大久保 憲, 谷本 典隆, 加藤 幸正, 塚田 勝比古, 真辺 忠夫, 村瀬 貴幸
    1997 年 58 巻 1 号 p. 125-129
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は45歳の男性で,以前より胆石症を指摘されていた.自覚症状はなく,検診にてUGI, GIFを施行し,十二指腸乳頭部に粘膜下腫瘍を指摘された.十二指腸を切開し腫瘍の摘出術を行った.術中所見は, Vater乳頭部に大きさ2.5cmの粘膜下腫瘍があり,表面平滑で発赤びらんはなく,総胆管および膵管は圧排され,乳頭開口部は腫瘍上にみられた.病理所見では,上皮様細胞,神経節様細胞,紡錘形様細胞が認められ, gangliocytic paraganglioma (以下GPと略す)と診断された.本疾患は極めて稀であり,本邦では15例の報告を見るのみである.
  • 山田 達也, 大和田 進, 小川 哲史, 泉 勝, 森下 靖雄, 倉林 良幸, 城下 尚
    1997 年 58 巻 1 号 p. 130-134
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小腸平滑筋肉腫は稀な疾患で,正確な部位診断は困難な場合が多い.今回,直腸壁に浸潤し,直腸動脈からも著明な血流支配がみられたため,直腸原発の腫瘍と鑑別が困難であった空腸巨大平滑筋肉腫の1切除例を経験したので報告する.患者は31歳の男性で腹部腫瘤を主訴に入院した.入院時,下腹部に辺縁明瞭で弾性硬の小児頭大の可動性のない腫瘤を触知した.腹部CTおよびMRI検査で,骨盤腔を占拠し,直腸前壁との境界が不明瞭な腫瘤を認めた.血管造影検査では,上直腸動脈および中直腸動脈から栄養される腫瘍の濃染像を認めた.直腸原発の粘膜下腫瘍と診断し,手術を施行した.開腹すると,腫瘤は直腸浸潤を伴う巨大な空腸原発の平滑筋肉腫であった.病理組織学的検査ではmitotic figure 1/HPFの高分化型平滑筋肉腫であった.
  • 宮本 康二, 山本 哲也, 清水 幸雄, 林 照恵, 池田 庸子, 牧本 和生
    1997 年 58 巻 1 号 p. 135-138
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    比較的稀とされる回腸異所性膵による乳児の腸重積症を経験したので報告する.症例は1歳6カ月の女児で主訴は嘔吐であった.腹部腫瘤を触知したため腸重積症を考え,バリウムによる高圧浣腸を施行し整復したが2日後に再発,整復困難であったため手術を施行した.開腹すると回腸-回腸の腸重積を認め整復したが腸管内にポリープを触知したため腸管を切開してこれを摘出した.摘出標本の病理組織検査ではポリープはLangerhans島を欠く異所性膵でありHeinrich II型と考えられた.乳幼児の腸重積症は一般的に特発性が多いが本症例のように原因となる病変が存在する例もあり診療にあたる際,十分に考慮すべきである.
  • 西尾 秀樹, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 村田 透, 谷合 央, 長澤 圭一
    1997 年 58 巻 1 号 p. 139-143
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    単純性小腸潰瘍は稀な疾患で,近年報告例が増加してきたとはいえ,いまだ確立した単一の疾患とは言いがたい.われわれは典型的ではないが,現時点では単純性小腸潰瘍の範疇に入るものと考えられた1例を経験したので報告する.症例は49歳の女性.下行結腸癌によるイレウスで入院精査中,突然腹痛が出現した.理学的所見,胸部X線写真, CT所見から小腸穿孔を疑い緊急手術を施行した.
    手術所見:回腸に多数の発赤と白苔を認め,そのうちの1個が穿孔していた.これらを含めて120cmの小腸を切除し,下行結腸切除,横行結腸瘻造設術も同時に施行した.切除標本で,腸管膜付着部対側に1列に並ぶ20個の境界明瞭な卵円形の潰瘍を認め,うち1カ所が穿孔していた.本症例は現時点では単純性小腸潰瘍の範疇にはいるものと考えられたが,潰瘍の数と配列が特徴的であり,症例の蓄積により将来別の疾患に分類される可能性があると思われた.
  • 中口 和則, 古川 順康, 岡島 志郎, 畠中 秀雄, 陶 文暁, 吉原 渡
    1997 年 58 巻 1 号 p. 144-148
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    悪性リンパ腫の中でも極めて稀なBurkitt型リンパ腫による腸重積の1例を経験したので報告する.症例は, 22歳の男性,腹痛を主訴として来院した.イレウス管からの腸管造影,注腸検査,腹部超音波検査,腹部CT検査にて,回腸結腸型の腸重積と診断し,重積部を含めた回盲部切除術を施行した.病理組織学的にBurkitt型リンパ腫と診断された.術後の血液検査では, EBV-VCA IgG 40倍であった.術後化学療法を施行するも術後53日目に死亡した.
    本邦において腸重積を合併したBurkitt型リンパ腫は本例を含め16例の報告があった.悪性リンパ腫の内で予後不良とされているBurkitt型リンパ腫の中で,腸重積合併例の死亡例は16例中3例であり,その予後は比較的良好であった.
  • 石川 真, 沢田 傑, 宮田 知幸, 関野 昌宏
    1997 年 58 巻 1 号 p. 149-152
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は61歳女性.主訴は上腹部痛,嘔吐で入院,右下腹部に手拳大の腫瘤を触知し,腹部超音波,腹部CT所見により腸重積症と診断した.腸重積症によるイレウス状態のため緊急手術を施行した.開腹すると重積腸管の壊死が認められ,右半結腸切除術を施行した.切除標本を検索すると,回盲部より約50cmの回腸に母指頭大の表面が脳回転状を呈するポリープが単発で存在し,それが先進部となった腸重積症であった.小腸ポリープの病理診断はPeutz-Jeghers型ポリープであった.本患者は口唇,口腔粘膜,四肢末端部の色素斑を欠き,遺伝性も認められなかったことより,不完全型Peutz-Jeghers症候群と思われた.
  • 土屋 邦之, 明石 郁, 大坂 芳夫, 迫 裕孝, 井岡 二朗, 田部 志郎, 中根 佳宏
    1997 年 58 巻 1 号 p. 153-155
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    きわめて稀な横行結腸憩室穿孔の1例を報告する.患者は65歳の女性で胃透視後に右下腹部痛と嘔吐を訴えて本院へ入院した.急性虫垂炎による限局性腹膜炎の診断のもとに緊急手術を施行した.開腹所見では虫垂はほぼ正常であり,混濁した腹水を少量認め,横行結腸間膜にバリウムのたまりがあり,そこで横行結腸が穿孔していた.穿孔部の横行結腸を切除し人工肛門を造設した.病理組織学的には穿孔を伴った仮性憩室であった.
    文献的に検索した限りでは,横行結腸憩室穿孔の報告は日本では3例のみであった.
  • 西 敏夫, 大島 聡, 川崎 勝弘, 金 柄老, 相沢 青志, 森 武貞
    1997 年 58 巻 1 号 p. 156-159
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    結腸憩室炎に起因したS状結腸子宮瘻の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は78歳女性で,左下腹部の鈍痛と便性帯下を主訴に来院した.左下腹部に軽度の圧痛を認めたが,筋性防御は認めなかった.注腸造影ではS状結腸に多発性憩室があるも,子宮への造影剤の漏出は見られなかった.子宮卵管造影にて子宮からS状結腸への造影剤の漏出を認め, S状結腸子宮瘻と診断し一期的に根治手術を行った.
    結腸子宮瘻は,摂室炎に起因する瘻孔全体のうち0.8~5.4%とまれな疾患ではあるが,本邦でも結腸憩室炎の増加にともない,本症も増加することが考えられ,今後注意すべき疾患である.
  • 大森 幸夫, 渡辺 敏
    1997 年 58 巻 1 号 p. 160-163
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    直腸癌に併発した広汎な急性壊死型腸管虚血症の1例を報告する.症例は63歳.主訴は便秘と腹痛.これに一回の血便を伴う.精検にてRb上部に直腸癌を確認したが,口側結腸には著変なし.直腸癌根治手術前準備として下剤投与後,腹部の激痛発生,開腹によりS状結腸初部より口側の全結腸,および回腸下部に至る壊死型腸管虚血症をみとめた.直腸癌と壊死腸管を切除,回腸瘻を造設したが,残存腸管の壊死により死亡した.開腹時,主幹動脈,壊死腸管の辺縁動脈の搏動は保れていたが,組織学的に粘膜,粘膜下層の細小血管に多数の線維素血栓がみられた.腸管側因子と血管側因子との複雑な組み合わせが本症の成因に関与していると考える.
  • 笹富 輝男, 堀内 彦之, 田中 寿明, 兵藤 真, 竹内 清旦, 荒木 靖三, 磯本 浩晴, 白水 和雄
    1997 年 58 巻 1 号 p. 164-167
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Bueßらにより開発されたtransanal endoscopic microsurgery (TEM)は1993年本邦で紹介され,以後各施設で行われてきている.今回われわれはその手技を応用して直腸病変を局所切除し良好な結果を得たので文献的考察を加えて報告する. 1994年1月から7月までに当科においてTEMを4症例経験した.内訳は男性3例,女性1例で平均年齢は56.8歳であった.切除された直腸病変は早期癌3例,腺腫1例である.それぞれの切除標本の最大径は10mmから25mm,肛門縁より病変下縁までの最大距離はそれぞれ6cmから10cmまでであった.術中出血はほとんどなく平均手術時間は42分間であった.入院期間は平均9日間と短期間であった.本法は経肛門的に直腸病変をsurgical marginを保ち切除できしかも欠損部を縫合できることから,直腸腫瘍に対する局所切除の根治性を得た安全な低侵襲術式であると考えられた.
  • 荒巻 正憲, 中島 公洋, 川野 克則, 平塚 弘一, 森井 雄治, 佐々木 淳, 吉田 隆典, 北野 正剛
    1997 年 58 巻 1 号 p. 168-171
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    10年前の交通外傷が原因と考えられた左肝管狭窄の1例を経験したので報告する.
    症例は50歳,男性.症状は右季肋部痛と発熱. US, CT, PTCにて左肝内胆管の著明な拡張を認めた.10年前の交通事故による外傷性胆管狭窄を疑ったが,胆汁細胞診で異型細胞が認められたため悪性腫瘍も完全には否定できず肝左葉切除を行った.切除標本からは悪性所見は認められず,外傷性胆管狭窄と診断された.外傷性胆管狭窄は検索した範囲では本邦23例の報告があるが,その発症時期は受傷後2~4週間以内がほとんどであり,本症例が最長例と思われた.
    腹部外傷を既往にもつ胆管狭窄症例は,受傷時期に関係なく,まず外傷性胆管狭窄を疑うべきと考えられた.
  • 野村 昌哉, 中尾 量保, 仲原 正明, 荻野 信夫, 藤田 修弘, 前田 克昭, 弓場 健義, 宮崎 知, 江本 節, 黒住 和史, 成田 ...
    1997 年 58 巻 1 号 p. 172-176
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝嚢胞の治療法として,従来開腹下手術や超音波ガイド下の硬化剤注入療法が行われていたが,腹腔鏡下手術の普及とともに腹腔鏡下の開窓術が施行されるようになってきた.
    今回,腹腔鏡下肝嚢胞開窓術を施行した4例の臨床経過を他の治療法と比較した.肝嚢胞の最大径は8~18cmで,単発2例,多発2例,自覚症状を3例に認めた.胆石の併存を2例に認め腹腔鏡下胆嚢摘出術を同時に施行した.術後合併症を認めず,術後10~42カ月の現在明らかな再発を認めていない.過去に経験した超音波ガイド下エタノール注入療法3例および開腹下肝嚢胞開窓術2例の入院期間は,各々22±10日, 16±3日であり,腹腔鏡下手術例の入院期間7±2日は他の2者に比べ短かった.エタノール注入例は全例に酩酊や疼痛を認めた.
    腹腔鏡下肝嚢胞開窓術は肝嚢胞に対する優れた治療法と考えられた.
  • 小川 吾一, 南 宣行, 伊藤 哲哉
    1997 年 58 巻 1 号 p. 177-181
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は87歳,女性.発熱を主訴に来院し,諸検査を行ったところ腎孟腎炎であった.また,精査中に偶然に腹部超音波検査にて肝外門脈の拡張が認められたため,さらに造影CT, 血管造影検査を行った.画像診断では,上腸間膜静脈と脾静脈との合流部を中心に肝外門脈の紡錐状拡張が認められ,肝外門脈瘤と診断した.患者は現在のところ,無症状で手術適応もないため経過観察中である.
    門脈瘤は肝内および肝外門脈瘤に分類されるが,本邦では肝外門脈瘤の報告は少なく,稀な疾患とされている.最近では画像診断機器の進歩や診断技術の向上により,偶然に発見される症例が多くなってきている.今後も自験例のように無症状で偶然に発見される可能性もあることから,診断方法としてはより簡便で非侵襲的でしかも有用なmodalityを選択することが肝要である.
  • 安藤 秀明, 井上 茂章, 神 雅彦, 北島 修哉, 菊池 彬夫
    1997 年 58 巻 1 号 p. 182-187
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1994年10月から1995年10月の1年間に切除不能悪性胆道閉塞症例5例に対してexpandable metallic stent (EMS)による胆管拡張,維持術を施行した.施行途中合併症は認められなかった.すべての症例でEMSによる胆道閉塞の解除が可能であった.また,左右肝管閉塞症例に対してはdouble stentとして再開通させ,再閉塞症例にはEMSの再挿入(stent in stent)施行し再開通させた. EMSによる平均胆道開存期間は4カ月と従来行われてきた内瘻化チューブによるものより短期間であり,さらなる工夫が必要と考えられた.これに対して当科では,マイクロ波照射後のEMS挿入を試みており,再開通および開存期間延長に有用であった.
  • 辻 信彦, 広橋 一裕, 久保 正二, 岩佐 隆太郎, 藤尾 長久, 久保田 太輔, 首藤 太一, 池辺 孝, 木下 博明, 櫻井 幹己
    1997 年 58 巻 1 号 p. 188-191
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は55歳,女性.胆嚢結石症の術前診断で開腹したところ,胆嚢管を占拠する腫瘤があり,迅速病理組織検査で原発性胆嚢管癌と診断した.原発性胆嚢管癌は稀な疾患であり,本邦報告15例のうち,術前に診断しえたのは4例にすぎない.そこで本邦報告例をもとにその診断法を中心に検討したので報告する.
  • 石村 健, 谷内田 真一, 岡野 圭一, 岡田 節雄, 若林 久男, 前場 隆志, 前田 肇
    1997 年 58 巻 1 号 p. 192-195
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    インスリノーマは比較的稀な疾患であるが,今回われわれは,術前および術中に腫瘍の局在を明らかにし,外科的に切除しえたインスリノーマの1例を経験したので報告する.症例は20歳男性で,意識消失発作を主訴に当科を受診した.腹部MR検査および超音波内視鏡検査で膵尾部に約2cmの腫瘤が確認された.また,経皮経肝門脈カテーテル法および選択的カルシウム動注門脈血採血法で,腫瘍近傍でのインスリン値の上昇を認め,インスリノーマと診断され,脾温存膵尾部切除術を施行した.術後に低血糖発作等の症状を認めていない.
    インスリノーマの治療法は外科的切除が第一選択とされているため,膵切除範囲の決定には,術前および術中の腫瘍の正確な局在診断が必要である.その中で,経皮経肝門脈カテーテル法および選択的カルシウム動注法による門脈血採血での血中インスリン値測定は有用な検査法であると考えられた.
  • 沖野 秀宣, 上田 祐滋, 豊田 清一
    1997 年 58 巻 1 号 p. 196-201
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    solid and cystic tumor (以下, SCTと略記)の1例を経験したので報告する.症例は27歳の女性.左季肋部の腹部腫瘤を主訴に来院した.各種画像所見から膵体部から発生するSCTと診断し,膵体尾部切除術を施行した.切除標本では7.5cm×7.1cm×5.5cmの線維性被膜に包まれ,表面平滑なtumorを認めた.
    SCTは若年女性に好発する比較的稀な予後良好な腫瘍であるとされ,最近では既存の膵腫瘍なかに占める位置に関して徐々に明らかになりつつあるが,いまだ見解の一致をみないのが現状である.
    1995年1月までに検索しえた本邦におけるSCTと考えられる173例に関して,臨床・病理学的特徴,悪性度などについてデータを集計・分析した.
  • 近藤 匡, 轟 健, 小池 直人, 仁藤 学, 物井 久, 文 由美, 深尾 立
    1997 年 58 巻 1 号 p. 202-208
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    31歳男性で下腹部腫瘤を主訴に来院した症例で,腫瘤は無痛性で弾性硬,可動性不良であった.エコー, CT, MRI,血管造影検査にて仙骨腹側原発のhemangiopericytomaの疑診で摘出した.摘出標本では円形ないし類円形の細胞が毛細血管周囲に増生しており,分裂像や核異型に乏しいhemangiopericytomaであった.術後4年4カ月を経た現在,再発,転移を認めない.本疾患は比較的稀で,良悪性の鑑別が困難である.骨盤内原発のhemangiopericytomaの本邦報告例は20例のみである.自験例を含めて報告例の画像診断の特徴について検討した.
  • 森田 章夫, 花房 徹児, 大江 正士郎, 新宅 雅幸, 粟根 弘治
    1997 年 58 巻 1 号 p. 209-213
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    侵襲性血管粘液腫の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は32歳,女性.右外陰部腫瘤を主訴として他院で生検施行され侵襲性血管粘液腫と診断された.超音波検査, CTおよびMRIにて右外陰部より骨盤腔内に連続した腫瘤と診断し,腹会陰式腫瘤摘出術を施行した.侵襲性血管粘液腫は極めて稀な疾患で欧米で45例,本邦で11例が報告されているにすぎない.若い女性の骨盤や会陰に好発し,血管新生,局所浸潤,再発性を特徴としている.骨盤腔内の術前精査後,腫瘤を含めた周囲の正常組織を広範に切除することが重要で,さらに,術後の長期の経過観察が必要と思われた.
  • 日馬 幹弘, 海瀬 博史, 若菜 洋一, 三室 晶弘, 河崎 幹雄, 青木 達哉, 小柳 泰久, 平田 雅子, 大井 綱郎, 古賀 道之, ...
    1997 年 58 巻 1 号 p. 214-218
    発行日: 1997/01/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    悪性黒色腫と乳癌の同時性重複癌の1例を報告する.症例は33歳の独身女性で左足底部の黒色色素斑を主訴に皮膚科受診し,悪性黒色腫疑いで入院となった.この頃から左乳房痛および血性乳汁分泌を認めていた.しかし,乳房に腫瘤は触知されなかった.足底部の広範囲腫瘍切除が施行され,組織学的に悪性黒色腫と診断された.前記愁訴に対し当初,乳腺症と診断されたが,細胞診にて癌の存在が確認された.マンモグラフィーにて微細悪性石灰化像,超音波にて乳管内進展を認めたため非浸潤性乳管癌を疑い,腋窩郭清は施行せず乳腺広範部分切除を行い,放射線照射を行った.術後約1年の現在,再発は認めていない.本邦における悪性黒色腫と乳癌の重複癌は稀であり,癌患者においては二次癌の発生に留意が必要である.
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