日本臨床外科医学会雑誌
Online ISSN : 2189-2075
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58 巻, 2 号
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  • 長嶋 健, 鈴木 正人, 押田 正規, 橋本 秀行, 矢形 寛, 幸田 圭史, 中島 伸之
    1997 年 58 巻 2 号 p. 275-279
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    術前細胞診検体を用いて甲状腺濾胞性腫瘍の核異型度を客観的に評価し,濾胞癌の鑑別診断の可能性につき検討した.対象は1987年11月から1994年12月までの初発甲状腺腫瘍手術症例のうち,十分な組織学的検索のなされた濾胞癌18例,濾胞腺腫13例,腺腫様甲状腺腫17例である.術前穿刺吸引細胞診にて採取された標本を用いて1症例あたり100個以上の細胞核を画像解析し,平均核面積・周囲長・円形度・針状比,および大小不同性の客観的指標として核面積変異係数(NACV)を算出した.このうち円形度,針状比, NACVにおいて有意差が見られ,特にNACVでは濾胞癌と濾胞腺腫間(p<0.001)をはじめ, 3群間すべてに統計学的有意差を認めた.細胞診検体を用いた術前客観的核異型度計測は,甲状腺濾胞癌の鑑別診断において有用な一指標になると思われた.
  • 保谷 芳行, 又井 一雄, 平林 剛, 織田 豊, 正岡 直子, 河野 修三, 山崎 洋次, 田中 知行, 池上 雅博
    1997 年 58 巻 2 号 p. 280-283
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1986年から1993年に胃切除術または胃全摘術を施行した早期胃癌症例184例, 232病巣を対象とし,臨床病理学的特徴から多発早期胃癌の治療法を検討した.対象症例184例中,多発症例は37例(20.1%)であった.高齢者で主病巣がC領域またはA領域の分化型隆起性病巣であるとき,副病巣が存在する可能性が高かった.副病巣の組織型は89.2%が主病巣と同様であり,肉眼型も主病巣に類似していることが多かった. 5mm以下の平坦および陥凹型の副病巣は,術前に見逃す可能性が高かった.多発病巣は同じ背景粘膜から発生することが推察され,外科的手術を行う際は,背景粘膜を考慮して切除範囲を決定することが副病巣を取り残さないための要諦である. Surgical riskが高い症例に対してEMRを実施する場合は,多発早期胃癌の臨床病理学的特徴を考慮し,術前の検索と治療後のfollow upを確実に行うことが重要である.
  • 谷 雅夫, 竹下 公矢, 佐伯 伊知郎, 林 政澤, 本田 徹, 斎藤 直也, 遠藤 光夫
    1997 年 58 巻 2 号 p. 284-290
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    多発早期胃癌の治療法を,最近の15年間に当科で切除された初発多発早期胃癌61例(早期胃癌総切除例の11.7%,副病巣数82)を対象として,その臨床病理学的特徴から検討した.男性48例(平均年齢64.2歳),女性13例(平均年齢60.9歳)で,占居部位は副病巣82病巣中41病巣(50%)が主病巣と同領域であった.主・副病巣の組み合わせは,陥凹型・陥凹型が28例と最も多く,主病巣は61例中39例(64%)が高分化型で,うち37例は副病巣も高分化型であった.副病巣82病巣中28病巣(34%)は術前見逃された病巣で,多くはM領域に認められ,陥凹型16病巣,平坦型10病巣で,多くは1cm以下であった.高齢,男性,同肉眼型,高分化型が多発早期胃癌の特徴で,脈管侵襲やリンパ節転移の頻度は単発早期胃癌に比して同等あるいはそれ以下であった.多発早期胃癌の治療は,切除術式では術式の拡大の必要性はなく,内視鏡治療では個々の病巣が適応範囲内であれば後の厳重な経過観察を条件として施行して良いと考えられた.
  • 三谷 眞己, 桑原 義之, 川村 弘之, 佐藤 篤司, 服部 浩次, 片岡 誠, 篠田 憲幸
    1997 年 58 巻 2 号 p. 291-294
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1992年から1995年5月までの間に胃全摘術後に横行結腸間置した症例は13例であり,そのうち10例(79%)に吻合部狭窄を発症した.これは,同時期の他の胃全摘後再建法であるRoux-Y法とdouble tract法の狭窄発生率13/69例(19%)および1987年より1992年にかけて行った空腸間置法の狭窄発生率3/11例(27%)と比べ有意に高率であった(p<0.01).また,問置結腸の長さは食道結腸吻合部狭窄例が21.4±3.5cmであり,非狭窄例の14.8±1.5cmより長い結果となった(p<0.05).現在では間置結腸長を15cmとし,吻合部狭窄発生率は減少している.狭窄例に対してはリジフレックスーバルンダイレイターを用い, 20PSIの圧で約5分間拡張した.その結果,全例2回以内の拡張術で解除されており,その後再狭窄はみられないことから適切な治療法であったと考えている.
  • 須原 貴志, 森田 敏弘, 加藤 浩樹, 熊沢 伊和生, 鷲見 靖彦, 上杉 治, 佐治 重豊
    1997 年 58 巻 2 号 p. 295-300
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    ヘリカルCTは従来のCTに比べ体軸方向のデータの連続性に優れ,盲腸,回腸末端そして腫大虫垂の同定が容易である.そこで,術前に確定診断困難と思われる急性虫垂炎あるいはその疑診例を対象にヘリカルCTの有用性を検討した.対象は右下腹部痛を主訴として来院し,触診所見で急性虫垂炎が疑われた16例で,虫垂はヘリカルCT画像上盲腸から突出し盲端に終わる構造物として同定した.造影剤は使用しなかった.結果, 16例中9例に腫大虫垂が観察でき, 3例で糞石あるいは腹腔内膿瘍の存在が示唆されいずれも虫垂炎と診断した.他の4例では画像上いずれの所見も陰性で虫垂炎除外例と判断した.開腹所見あるいは臨床経過による検討で,正診率は100%であった.ヘリカルCTは従来のCTに比べ画像は鮮明で,体軸方向の連続性に優れるため虫垂の同定率は飛躍的に向上し,手術適応の有無の決定と術中の虫垂位置確認にも有用であった.
  • 勝又 健次, 山本 啓一郎, 大野 正臣, 柴田 和成, 村野 明彦, 森脇 良太, 永川 裕一, 尾形 高士, 小柳 泰久, 中島 厚
    1997 年 58 巻 2 号 p. 301-308
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸腺腫,癌においてDNA ploidy, p53遺伝子異常の発現と臨床病理学的因子との関連を検討した.大腸癌81例のDNA ploidyはdiploid 39例(48.1%), aneuploid 42例(51.9%)で臨床病理学的因子とはaneuploidを示す症例に壁深達度の深いもの,リンパ節転移陽性, stageの進行したものが有意に多かった. DNA index(以下DI)とは相関関係は認めなかった. p53遺伝子異常は大腸腺腫の軽度,中等度異型腺腫では認めず,高度異型で1例(14.3%)に認めた.大腸癌では粘膜内癌で2例(40.0%),全体で81例中46例(56.8%)に認めたが,臨床病理学的因子とは相関関係はなく, p53遺伝子異常は発癌の機転に関与していることが推測された. p53遺伝子異常はDNA ploidyとの関係はdiploid症例中17例(43.6%), aneuploidy症例中29例(67.7%)に出現し, DNA異常を引き起こしていることが推測された.また再発症例10例中9例にp53遺伝子異常を認め,再発因子としても重要であることが示唆された.
  • 小森 義之, 鳥居 和之, 長谷川 潔, 木村 彰良, 江崎 哲史, 杉岡 篤, 菅谷 宏, 丸田 守人, 蓮見 昭武, 青木 春夫, 島津 ...
    1997 年 58 巻 2 号 p. 309-315
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移切除後の残肝再発の機序を解明する目的で,切除肝の病理組織学的検討を行った.検討項目は主に転移巣の周辺部もしくは先進部における類洞内への浸潤,門脈内腫瘍栓,胆道内腫瘍栓および(傍)神経浸潤などの浸潤増殖とし,肝転移の時期・個数・転移程度などの病態別にみた所見陽性率,および肝転移切除後の予後との関連を検討した.その結果,所見陽性率は類洞内浸潤は約82%,門脈腫瘍栓は約29%,胆道内腫瘍栓は約9%, (傍)神経浸潤は約5%で,肝転移の時期別陽性率に差を認めず,肝転移巣からの微小再転移の可能性が高いと推察され,また微小転移陽性別の予後は陰性例に比して不良であった.従ってこれらの微小転移は肝転移切除後の残肝再発の要因の一つとして重要であり,肝転移切除に際しては,これらの病理組織学的所見を考慮した切除術式ならびに補助化学療法を選択すべきと考えられた.
  • 木村 仁, 伝野 隆一, 浦 英樹, 磯部 将人, 小出 真二, 湯山 友一, 平田 公一, 朝倉 光司
    1997 年 58 巻 2 号 p. 316-320
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は62歳男性で,主訴は左眼流涙.平成6年1月頃より症状が出現したため近医受診. CTで左副鼻腔を中心に腫瘍性病変が認められ,当院耳鼻咽喉科へ入院となる.節骨洞開放生検でMFHの診断に至る.術前化学療法としてFEMP療法施行中,胃部不快感の出現を見たため上部消化管内視鏡施行.胃体部大彎に径40×40mmの隆起性病変を認めた. Biopsyの結果, malignant fibrous histiocytoma(MFH)と診断. 67Ga scintigraphyでは左副鼻腔と左上腹部(胃)に異常集積像を認めた.同脳神経外科で原発巣摘出術施行後,当科転科となり幽門側胃切除術を施行.副鼻腔原発MFHの胃転移と診断された.このような転移を示した症例は極めて稀であり,文献的考察を加えて報告する.
  • 館花 明彦, 福間 英祐, 宇井 義典, 山川 達郎
    1997 年 58 巻 2 号 p. 321-324
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺管状腺腫は,比較的若年者に発症する稀な良性腫瘍といわれている.今回われわれは,乳腺線維腺腫のごく近傍に併存していた乳腺管状腺腫の1例を経験した.
    症例は37歳,女性.左乳房腫瘤を主訴とし,当院外科乳腺外来を受診した.左乳房AB領域に30×25mm大の腫瘤を触知し,乳腺エコー検査にて直径約20mm大の併存する, 2つの悪性所見のみられない腫瘤を認めた.穿刺吸引細胞診では細胞像から線維腺腫と診断されたが,切除生検を施行したところ腫瘤の1つは線維腺腫,他方は管状腺腫と組織診断された.乳腺管状腺腫は,本邦報告23例と稀な疾患で,特に本症例は,線維腺腫と管状腺腫という異なる組織像を持つ2つの腫瘍が存在する,極めて稀な疾患であり,文献的考察を加えて報告した.
    乳腺管状腺腫は,本邦報告23例と稀な疾患で,特に本症例は,線維腺腫と管状腺腫という異なる組織像を持つ2つの腫瘍が存在する,極めて稀な疾患であり,文献的考察を加えて報告した.
  • 道上 慎也, 藤田 昌英, 阪本 康夫, 楠山 剛紹, 国頭 悟
    1997 年 58 巻 2 号 p. 325-329
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは乳腺原発の血管肉腫で,アジュバント療法としてインターロイキン-2 (IL-2)を投与した1例を経験したので報告する.症例は24歳女性で, 1994年12月に左乳房の腫瘤に気付いた. 1995年3月頃から,顕著な増大傾向を認め5月に当科受診した.腫瘍長径は10cm大,卵円形,弾性硬であり,触診,補助診断より,葉状腫瘍を疑い,腫瘍摘出術を施行した.組織診にて,血管肉腫と判明し, adjuvant療法としてIL-2を4週間投与したが,局所再発と対側乳房への転移が疑われ, 8月に左乳房単純切除術および右乳房四半切除術を施行した.その後, 1996年2月に頭皮,右乳房,左乳房摘出部に局所再発を認め,腫瘤摘出術を施行した.そして,各手術毎にadjuvant療法としてIL-2を投与した.術後経過は良好で,現在のところ,再発は認めていない.以上,乳腺原発血管肉腫の1例を経験したので若干の文献的考察とともに報告する.
  • 小林 祐子, 高橋 剛, 野島 真治, 守田 信義, 江里 健輔
    1997 年 58 巻 2 号 p. 330-333
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺分泌癌は乳癌全体の0.1%と極めて稀な癌である.今回われわれは画像診断で,悪性の診断が困難であった分泌癌の1例を経験したので報告する.症例は68歳女性.左乳房A領域の1.0×1.0cm大の無痛性腫瘤を主訴に来院した.触診, MMG,超音波検査上,乳腺嚢胞もしくは線維腺腫を疑ったが,確定診断を得るために局麻下に腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は大小不規則な腺管を形成し, PAS染色およびAl-b染色陽性の高度の分泌像を示しており,病理組織診断は分泌癌であった.非定型的乳房切除術を施行し,組織学的リンパ節転移は認められなかった.術後約2年経過した現在,再発の兆候はない.従来分泌癌は一般の乳癌に比し予後良好であることより腫瘍径の小さいものに対しては縮小手術が行われる傾向にあったが, T1症例のリンパ節転移の頻度は両者に有意差なく分泌癌の治療として乳房温存術を行う際にも十分な腋窩リンパ節郭清を行う必要がある.
  • 矢野 達哉, 佐川 庸, 窪園 隆, 坂東 康生
    1997 年 58 巻 2 号 p. 334-337
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは非常に稀有な組織型からなる一側乳腺内多中心発生型乳癌に対し,乳房温存療法を施行したので報告する.
    症例は44歳の女性,左乳房腫瘤を主訴に来院.生検にて髄様癌と診断,乳房温存術を施行したが,術中,切除断端に分泌癌を認め,追加切除した.組織所見では髄様癌,分泌癌といういずれも非常に稀な2つの組織型からなる一側乳腺内多中心性発生型多発乳癌という稀有な症例であった.乳房温存療法の適応に付いても若干の文献的考察を加え報告する.
  • 加藤 克己, 山本 茂樹, 羽藤 誠記, 伊藤 昭敏
    1997 年 58 巻 2 号 p. 338-340
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺原発扁平上皮癌の1例を経験した.患者は74歳,女性.右乳房C領域に径3cmの腫瘤を認め,摘出生検を行った. Squamous cell carcinoma of the breast assosiated with spindle cell metaplasia and keratinous cystと診断されたため,乳房温存手術(Brp+Ax)を行った.術後照射,ホルモン療法は併用しなかった.術後2年経過したが再発は認めていない.扁平上皮癌の治療は通常乳癌に準ずればよいと思われ,乳房温存療法も選択肢の一つと思われる.
  • 辻 和宏, 堀 堅造, 木村 聡, 高垣 昌巳, 河本 知二, 安藤 隆史
    1997 年 58 巻 2 号 p. 341-345
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,女性. 1976年9月に左乳癌(T2n0M0, stage I,浸潤性乳頭腺管癌)にて定型的乳房切断術を受けている. 1994年12月頃左前胸部の腫瘤に気づいたが放置していた.徐々に腫瘤が増大するため1995年8月当科を受診し,穿刺細胞診にてclass Vであり,乳癌の胸壁再発と診断した. ADM, 5-FUの左内胸動脈からの動注および50Gyの放射線照射を行った後に,胸壁全層切除術を施行した.再建は,骨性胸郭はMarlex meshとレンジ板を用い,軟部組織は対側の大胸筋弁を補填した.術後経過は良好であった.乳癌の胸壁局所再発例に対して,積極的に考慮すべき治療法と考えられた.
  • 尾浦 正二, 櫻井 武雄, 吉村 吾郎, 玉置 剛司, 梅村 定司, 粉川 庸三
    1997 年 58 巻 2 号 p. 346-349
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は,乳癌術後に胸骨傍リンパ節再発をきたし,種々の化学内分泌療法や放射線照射の前治療歴を有する57歳女性で,高度の前胸部痛に対して経口モルヒネ剤によ疼痛管理が施行されていた.しかしながら疼痛制御が不十分なため, pamidronateによる疼痛制御を試みたところ良好な疼痛制御が得られ,疼痛制御に必要な経口モルヒネ剤も半量に減量し得た.胸骨傍部以外にも新たな病変が急速に出現したため,比較的短期間で麻薬の再増量を必要としたが,死亡する直前まで胸骨傍部疼痛の再増悪は訴えなかった.以上よりPamidronate療法は,胸骨傍リンパ節再発に起因する胸痛に対して有用な治療選択肢の一つになり得る可能性が示唆された.
  • 木下 敬弘, 佐藤 博文, 山脇 優, 神林 清作, 小島 路久
    1997 年 58 巻 2 号 p. 350-353
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹腔鏡下胆嚢摘出術術後に発症し,気腹が原因と思われる肺塞栓症の1例を経験した.症例は46歳の女性で腹腔鏡下胆嚢摘出術術後最初のトイレ歩行時に呼吸困難で発症した.動脈血ガス分析でPaO2が47.6mmHgと著明な低酸素血症を示した.肺塞栓症を疑いヘパリン1万単位/日による抗凝固療法を行った.発症直後の肺シンチグラムでは左S8,右S10に区域性の血流欠損を認めた.治療開始後,症状は軽快し8日後には退院となった.
    気腹が下肢静脈血栓を誘発し,肺塞栓症をきたし得ると言う懸念は以前より持たれていた.肺塞栓症は術後早期発見,早期治療が予後を左右するため,腹腔鏡下手術の術後合併症の1つとして常に念頭に置くことと, high risk症例に対する十分な予防対策が重要である.
  • 味村 俊樹, 山口 浩和, 酒井 滋, 倉本 秋, 上西 紀夫, 山川 満, 大原 毅
    1997 年 58 巻 2 号 p. 354-358
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肺塞栓症は,消化器外科領域において,稀ではあるが,一旦発症すると死に至ることの多い重大な術後合併症である.今回われわれは,短期間に2例の術後肺塞栓症を経験したので報告する.
    症例1: 60歳男性.進行胃癌に対し幽門側胃切除術施行.第2病日の歩行時に腹痛,呼吸困難を訴えた後,心肺停止となった.蘇生術により蘇生し,諸検査より肺塞栓症と診断し,抗血栓療法を行ったが,多臓器不全となり,第23病日に永眠した.
    症例2: 59歳男性.早期胃癌に対し幽門側胃切除術施行.第1病日の歩行時,突然腹痛を訴え,ショック状態となった.諸検査より肺塞栓症を疑い,肺血流シンチグラムで診断を確定した後,抗血栓療法を行い,回復した.
    2例の苦い経験より,現在当科では,波動型末梢循環促進装置を術中に用いて,術後肺塞栓症の予防に努めている.
  • 山田 俊介, 森 紀久郎, 綿引 洋一, 北条 正久, 小坂 昭夫
    1997 年 58 巻 2 号 p. 359-362
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は34歳男性, 2カ月前に交通事故による胸部打撲の既往あり.前日より続く胸痛および呼吸困難が急激に増悪したため緊急入院となる.胸部X線写真(臥位)で右胸水貯留を認め,胸腔ドレナージを行うと,血性排液が8時間で1,200ml認められた.診断および止血目的で胸腔鏡ガイド下手術を行った.右肺尖部壁側胸膜部の索状物より拍動性の出血を認め電気メス,クリップを用いて止血した.肺尖部に気腫性嚢胞の存在は認めていないが, retrospectiveにみた入院時の胸部X線写真での少量の空気像の存在より特発性血気胸と診断した.
  • 愛甲 聡, 山藤 和夫, 高橋 哲也, 朝見 淳規, 藤井 俊史, 服部 裕昭, 戸倉 康之, 田嶋 信男
    1997 年 58 巻 2 号 p. 363-368
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    悪性疾患の関与しない後天性食道気管支瘻の発生は比較的まれといわれているが,われわれは呼吸器感染症が原因と思われる後天性食道気管支瘻の1例を経験した.症例は60歳の男性で, 47歳時より気道感染のため頻回に入院を必要とし, 60歳で近医にて上部消化管造影を行い,食道気管支瘻の診断で当院を紹介された.食道内視鏡にて胸部中部食道左壁に瘻孔を認め,気管支鏡では,左肺下葉区域枝の発赤,腫脹,内腔の狭窄を認めた.手術所見では,肺と胸膜および中部食道周囲に高度な炎症性癒着がみられ, S6後方と食道との間にみられた線維性の瘻管を含め左肺下葉切除を行った.本症例の発症機序と治療法の選択につき考察を加えた.
  • 佐藤 治夫, 神津 照雄
    1997 年 58 巻 2 号 p. 369-372
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    先天性多形皮膚萎縮症は幼少期より種々の皮膚形成異常をきたす極めて稀な疾患である.われわれは先天性多形皮膚萎縮症に合併した食道狭窄の1例を経験した.症例は39歳女性.主訴は小児期からの嚥下困難.既往歴は腟口狭窄と特発性門脈圧亢進症があった.上部消化管造影で食道入口部,上部食道に膜様狭窄を認め,内視鏡検査では披裂後部は膜様となり,食道入口部は狭くscopeの挿入不可能であった.これに対し2回の拡張術で狭窄は改善し, scopeの挿入が可能となり,自覚症状も改善し,経口摂取も良好で外来通院中である.
  • 君野 孝二, 仲宗根 朝紀, 中崎 隆行, 山下 秀樹, 武富 勝郎, 飛永 晃二, 岸川 正大
    1997 年 58 巻 2 号 p. 373-377
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は69歳,女性.嚥下困難を主訴として精査を施行,食道造影でIm領域に隆起病変の多発を,食道内視鏡で同部に4個の黒色隆起と粘膜の黒色地図状の色素沈着を認めた.生検で悪性黒色腫と診断.胸部食道全摘,リンパ節郭清を施行した.切除標本で4個の限局した隆起病変を認め, 1個は有茎性,他の1個は粘膜の黒色色素沈着部に一致して存在した. 107,左104リンパ節は黒色の色素沈着を伴う腫大を示した.組織学的に光顕で多量のメラニン色素を有する腫瘍細胞の増生, Junction activityを,電顕で成熟したメラノゾームを多数認め,組織学的にはsm, n3(+)で進行度はIV度であった.原発巣,リンパ節共に核DNA patternはAneuploidを示した.術後放射線療法を施行, 2年11カ月後肺転移で死亡した.
  • 豊島 秀浩, 佐瀬 正博, 福田 春彦, 中村 眞一
    1997 年 58 巻 2 号 p. 378-381
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は食行動異常で精神科に通院中の22歳女性で過食が原因で急性胃拡張となり来院する.胃管による減圧を行うも胃壊死に陥り胃壁内気腫を合併する.抗生剤による胃洗浄を行いながら保存的に経過を見たが胃粘膜の再生が認められず,胃全摘を行い,術後35病日に退院した.胃壁内気腫の原因としては胃拡張による局所循環不全によって胃壁の抵抗性が減弱し,ガス産生菌による胃蜂窩織炎が生じたためと考えられたが,胃液培養ではガス産生菌は同定できなかった.
  • 谷脇 聡, 片岡 誠, 田中 宏紀, 船戸 善彦, 伊藤 由加志, 春木 伸裕, 小西 昭充
    1997 年 58 巻 2 号 p. 382-386
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃原発の腺扁平上皮癌は比較的稀な腫瘍であり,一般に血中CEAの陽性例は少ないとされている.また,本腫瘍の発生機序については,まだ,種々の見解があり,確立されていない.
    今回,われわれは,血中CEAが著明な高値を示した胃の腺扁平上皮癌を経験した.症例は, 67歳男性.切除標本では,胃体中部を中心に10.5×8cmのBorrmann III型の胃癌が認められた.
    組織学的検索で腫瘍の中心部,潰瘍底に相当する部位に扁平上皮癌が,その周囲に低分化型腺癌が,幽門側に印環細胞癌が存在し,腺扁平上皮癌と診断した.
    腫瘍のCEAに対する免疫染色で,腺癌成分はほぼ陽性であったが,扁平上皮癌成分との境界部付近で一部陰性化し,扁平上皮癌成分では,大部分陰性であり,散発的にCEA陽性所見を示す癌胞巣が認められ, CEA陽性細胞は主にその癌胞巣の中心部に存在した.
    これらの所見より,本症例の発生機序として,腺癌の扁平上皮化生が推定された.
  • 小笠原 猛, 高橋 修, 下田 司, 遠藤 幸夫, 大塚 将之
    1997 年 58 巻 2 号 p. 387-392
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は43歳,男性,急激な上腹部痛を主訴に当院受診した.腹部超音波検査にて腹腔内に腫瘤と液体貯留を認め,穿刺にて血性液が吸引された.入院後,貧血の進行を認めたが輸血により軽快,精査の結果十二指腸壁外性腫瘍を疑い開腹した.腫瘍は小児頭大,胃前庭部,十二指腸,膵頭部と一塊となっていたため膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織検査結果は十二指腸原発の平滑筋肉腫であった.開腹時,腹腔内には500mlの血性液の貯留がみられたが,腫瘍被膜は保たれており,表面血管の破綻もなく,出血の原因は不詳であった.小腸平滑筋肉腫の症状には,消化管出血,腹痛,腫瘤触知などが多いが腹腔内出血を伴う例は稀であり,若干の文献的考察を加え,報告した.
  • 星野 澄人, 森谷 雅人, 今井 直人, 佐藤 茂樹, 永楽 仁, 片場 嘉明, 小柳 泰久
    1997 年 58 巻 2 号 p. 393-397
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃石イレウスは比較的稀な疾患であり,術前診断が困難なことが多い.今回われわれは,胃石による小腸イレウスの1手術例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
    症例は63歳男性,数日前より嘔気,嘔吐を繰り返し,症状の増悪を認めたため近医受診し,上部消化管造影を施行したところ十二指腸下行脚に陰影欠損を認め,十二指腸腫瘍によるイレウスの疑いで当院紹介入院となった.上部消化管内視鏡を施行したところ,十二指腸下行脚には病変は認めず,鉗子孔からのガストログラフィンによる造影で,空腸に体位にて移動する陰影欠損を2カ所確認した.以上により,異物(胃石)イレウスと診断し自然排出を期待して保存的治療を試みたが9日間経過しても排出されず,外科的療法(胃壁切開)により,計5個の胃石を摘出した.摘出した胃石の成分分析よりタンニン98%の結果を得,柿の常食の嗜好もあることから,柿胃石によるイレウスと診断した.
  • 金子 猛, 儀賀 理暁, 小原 誠, 綿引 洋一, 北條 正久, 小坂 昭夫
    1997 年 58 巻 2 号 p. 398-401
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Meckel憩室は,出血,イレウス等の急性腹症を契機に発見されることが多いが,異物による合併症は少ないとされている.今回われわれは魚骨により穿孔したMeckel憩室の1例を経験した.症例は13歳男性.突然出現した下腹部痛を主訴に来院し,下腹部広範に圧痛,筋性防御,腹膜刺激症状を認めた.白血球数は14,200/mm3, CRPは0.3mg/dl以下であった.腹部単純レントゲンでは小腸ガスを回盲部に認め,腹部CTでは浮腫性の腸管を認めた.急性腹症の診断にて同日緊急開腹術を施行した.回腸末端より約55cm口側の回腸に先端がY字型のMeckel憩室を認め,その一方(肛門側)が魚骨により穿孔しており,憩室を含め回腸部分切除を施行した.病理組織学的に胃粘膜組織の迷入を認めたが潰瘍形成の所見もなく,穿孔にはその特異的な形態が関与したものと思われた.
  • 茂原 淳, 棚橋 美文, 池谷 俊郎, 堀口 淳, 澤田 富男, 饗場 庄一, 塩崎 秀郎, 横江 隆夫, 飯野 佑一, 小川 哲史, 大和 ...
    1997 年 58 巻 2 号 p. 402-405
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    イレウスの稀な原因として鈍的腹部外傷後の小腸狭窄がある.今回,受傷後約10日目に発症したイレウスに対し,手術を施行した小腸狭窄の1例を経験したので自験例を含めた本邦報告例について検討した.症例は51歳男性.左側腹部を殴打され,腹痛が続くため,当院を受診した.外傷性膵炎の疑いで入院したが,保存的治療で軽快退院した.再び嘔気,嘔吐を伴う腹痛が出現し,イレウスの診断で再入院となった.小腸造影で,外傷性小腸狭窄と診断し,手術を行った. Treitz靱帯から約170cmの小腸が肥厚し,狭くなっており,同部に口側の小腸および大網が癒着していた.狭窄部小腸を切除後端側吻合した.組織学的には,空腸の全層性の損傷による狭窄がイレウスの原因であった.鈍的腹部外傷後比較的早期にイレウス症状を呈する患者では,外傷性狭窄が発症の原因となることを念頭に置き,対処することが必要である.
  • 寺崎 正起, 長谷川 洋
    1997 年 58 巻 2 号 p. 406-409
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は29歳男性.昭和61年Behçet病と診断された.昭和63年1月13日,発熱,および腹痛を主訴とし入院.入院後筋性防御出現,腹部単純写真にて小腸のループ像認め,穿孔性腹膜炎の診断にて1月21日緊急開腹術を施行した.回腸末端より口側約150cmにわたり,腸管は浮腫状を呈し, 50cm, 80cmの部位に径約5~8mmの穿孔を認めた.約150cmにわたり回腸を切除した.切除標本にて6個の穿孔部と多数の潰瘍を認め, Behçet病による回腸穿孔と診断した.術後経過は良好で8年8カ月の現在再発を認めていない.
  • 板橋 幸弘, 森田 隆幸, 滝口 純, 野田頭 達也, 伊藤 卓, 中村 文彦, 今 充
    1997 年 58 巻 2 号 p. 410-414
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    画像診断上特徴ある所見を呈し,骨盤内発育を示した巨大な小腸原発悪性リンパ腫の2例を経験したので報告する. CTでは,腫瘍内に経口造影剤やガス像を認め,腫瘍は小腸原発と思われた. MRIでは, T2強調画像にて腫瘍内に消化管様構造を呈し, Gd-DTPA (diethylenetriaminepentaacetic acid: Magnevist)造影にて腫瘍内に消化管内容様の低信号域を呈した. 2例とも術前の確定診断は得られなかったが,小腸原発の骨盤内腫瘍として開腹術を施行した.術後の病理組織学的検索により小腸原発悪性リンパ腫と診断された.術後2例とも化学療法を施行したが症例2では術後4カ月で脳転移をきたし頭部への放射線療法,髄腔内への抗癌剤投与を施行,一時症状は軽快したがさらに肺転移をきたし初回手術から7カ月で死亡した.症例1は現在も再発の徴候なく生存中である.
  • 伊木 勝道, 小沼 英史, 久保添 忠彦, 岩本 末治, 竹尾 智行, 村上 正和, 今井 博之, 木元 正利, 山本 康久, 角田 司
    1997 年 58 巻 2 号 p. 415-418
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    鼻腔内悪性黒色腫の診断2年後に発生した孤立性小腸転移の切除例を経験したので報告する.症例は, 59歳男性.主訴は上腹部痛. 1992年に当院耳鼻科で右鼻腔内悪性黒色腫を診断.化学療法を施行され外来経過観察中であった. 1994年11月6日上腹部痛が出現し当院内科を受診した.小腸イレウスの診断で入院し精査の結果,黒色腫の小腸転移が疑われ,手術目的にて外科転科となった.手術所見では十二指腸空腸曲より約360cmの部位に3cm大の腫瘤性病変を認めた.術中,全小腸を内視鏡にて検索したが他の病変はなく,小腸部分切除を行った.病理組織像では顆粒状の褐色色素を産生する腫瘍細胞が認められた.本邦の孤立性小腸転移は肺癌が最も多く,黒色腫は比較的少ないが黒色腫経過中の腹部症状の発現例では本症の存在を考慮し,選択的小腸造影を施行する必要がある.有効な化学療法が無い以上外科的切除が第一選択となる.
  • 赤坂 義和, 花村 典子, 木田 英也, 天野 一之, 矢野 隆嗣, 藤森 健而
    1997 年 58 巻 2 号 p. 419-424
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    高CEA血症を呈した虫垂粘液嚢腫の1例を経験したので報告する.
    症例は71歳,男性.主訴は咳漱.胸部X線写真に著変なく,血清CEA値は14.0ng/mlと高値であった.理学的所見では,右下腹部に8×4cm大の表面平滑・可動性良好な腫瘤を触知した.注腸透視では盲腸に6.0×4.5cm辺縁整の陰影欠損を認め,大腸内視鏡検査では球状の粘膜下腫瘍様病変を認めた.虫垂粘液嚢腫の術前診断にて回盲部切除施行.虫垂は直径5cm, 長さ約15cmに腫大緊満し,根部は盲腸に陥入していた.病理組織学的所見では悪性所見なく虫垂粘液嚢胞腺腫と診断され, CEA染色陽性であった.術後経過良好で,血清CEA値は術後3カ月目2.5ng/mlと正常化した.
    1986年~1993年の集計しえた虫垂粘液嚢腫本邦報告32件40例中,術前CEA値の記載のあるものは19例で, CEA高値を呈したものは6例(31.6%)と比較的高率であった.
  • 加藤 広行, 門倉 好之, 大沢 秀信, 真木 武志, 石崎 政利, 秋山 典夫
    1997 年 58 巻 2 号 p. 425-429
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は68歳・女性. 50歳時に虫垂切除術, 55歳時に腸閉塞で開腹術を受けている.腹痛を主訴に某医に入院し,翌日腸閉塞症の診断で血圧低下を認め,当科に転院.来院時顔面苦悶様で腹部膨満し,ショック状態.腹部単純X線検査側臥位で腹腔内遊離ガス像を認め,下部消化管穿孔と診断し,緊急手術施行.腹腔内に多量の便塊と便汁が貯留し, S状結腸癌による狭窄を認め,その口側3cmに径5cmの穿孔に伴い,この部よりトライツ靱帯50cm肛門側までの腸管が分節状に暗褐色を呈し,循環障害の状態であった.癌腫,穿孔部位を含め循環障害の腸管を切除し,空腸瘻を造設した.術後敗血症, DICを併発したが,回復し短腸症候群に対しては,在宅中心静脈栄養を行っている.このような大腸穿孔を伴った閉塞性大腸炎および広範囲の非閉塞性腸梗塞症non-occlusive mesenteric infarction (NOMI)を併発した症例は非常に稀であり,文献的考察を加え報告する.
  • 藤田 みちよ, 筒井 光広
    1997 年 58 巻 2 号 p. 430-433
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    経肛門的摘除後,局所再発をきたし切除した直腸カルチノイドの1例を報告した.症例は66歳,男性.下部直腸に径19mmの中心陥凹を有する腫瘍を認め,カルチノイドの診断で近医で経肛門的ポリープ摘除術を受けた.深達度sm,脈管侵襲陰性であったが,術後3年6カ月目に局所再発をきたした.血行性転移はなく,低位前方切除術を施行した.直腸壁外に進展した40×28mm大の腫瘍でリンパ節再発と考えられた.再発巣は原発巣では認められなかった構造異型や浸潤性のある組織所見を示し,悪性度の増強がみられた.直腸カルチノイドの再発例の報告はまれであるが,本例は組織学的に原発巣が古典的カルチノイドの所見を示したのに対し,再発巣では内分泌細胞癌に近い所見を示した点で一層興味深い.
  • 延澤 進, 松本 日洋, 大林 日出雄, 酒井 英樹, 田中 昇
    1997 年 58 巻 2 号 p. 434-438
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肝嚢胞は腹部超音波検査の発達により日常の臨床の場でよく経験されるが,まれに嚢胞性の悪性疾患が報告されている.その鑑別診断は極めて困難で切除標本の検索で初めて嚢胞腺癌と診断されることも多い.各種画像診断で肝嚢胞腺癌が疑われたものの,結果的に過誤腫であった1切除例について若干の文献的考察を加えて報告する.症例は72歳の女性で,偶然にCTで肝右葉に隔壁を伴う嚢胞性腫瘤が発見された.腹部超音波検査で8cm大の多房性嚢胞を認め,隔壁に石灰化,内腔に乳頭状結節様陰影を示し,嚢胞穿刺液のCEAが高値を示したため,肝嚢胞腺癌の診断で肝拡大右葉切除術を施行した.切除標本に悪性腫瘍の所見なく,病理学的には線維化した嚢胞壁に多数の胆管像を示し先天性形成異常を伴う過誤腫と診断された.
  • 小出 紀正, 近藤 哲, 大場 泰洋, 金 純, 矢野 孝, 岸本 秀雄
    1997 年 58 巻 2 号 p. 439-441
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は7歳男児.右下腹部痛と発熱を主訴に当院を受診した.腹部超音波検査および腹部CTで虫垂炎性膿瘍と診断し,虫垂切除術および膿瘍ドレナージ術を施行した.術後経過は良好であったが,術後13日目に高熱が出現した.術後15日目に腹部CTで肝右葉に約4cmの肝膿瘍を認め,抗生剤投与による保存的治療を開始した.しかし,術後27日目の腹部CTでは約6cmに増大したため,全身麻酔下に経皮的肝膿瘍ドレナージ術を施行した.ドレナージ術後解熱し,肝膿瘍も縮小,術後58日目に退院した.
    最近では稀な虫垂炎術後に発症した肝膿瘍を経験したので報告した.小児においても適切な時期に経皮的膿瘍ドレナージを行うべきだと考えられた.
  • 高見 実, 菊池 友允, 松本 潤, 大島 哲, 由里 樹生, 増子 宣雄, 南 智仁, 松峯 敬夫
    1997 年 58 巻 2 号 p. 442-447
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    ハンドル外傷による主膵管損傷・胆管狭窄の1例を経験したので,外傷性胆管狭窄の本邦報告例60例を集計し,合わせ報告する.症例は22歳,男性.交通事故による上腹部強打にて入院, CT検査にて腹腔内にfree airと出血を認め受傷5時間後緊急手術.肝外側区挫創,十二指腸穿孔,膵頭部にて主膵管損傷,肝十二指腸間膜下部の挫創(exposed injury)を認めた.肝切除,十二指腸穿孔部閉鎖,膵胃吻合,遊離状態の下部胆管にステントチューブ内瘻術を行った.術後下部胆管は一時的狭窄を呈するも, 4カ月後にはチューブを抜去.術後2年半経過するも元気に社会復帰している.本例は膵胃吻合および胆管チューブ内瘻術を用いることにより,臓器機能をほとんど損なうことなく救命し得た1例である.外傷性胆管狭窄例はこれまで60例の報告があり,最低2カ月間は胆道ドレナージまたはチューブ内瘻にて保存的に経過観察するのが望ましい.
  • 中崎 隆行, 飛永 晃二, 武冨 勝郎, 君野 孝二, 仲宗根 朝紀, 山下 秀樹, 岸川 正大
    1997 年 58 巻 2 号 p. 448-452
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは極めて稀とされている膵悪性リンパ腫の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は68歳男性で閉塞性黄疸にて入院した.腹部CTと超音波検査にて膵頭部の充実性の腫瘤と胆嚢の腫大と肝内胆管の拡張を認めた.経皮経肝ドレナージを行い,造影にて下部胆管の全周性の狭窄がみられた.膵癌の診断にて手術を施行した.腫瘍は膵頭体部に存在し膵全摘術を行った.腫瘍は6.0×4.0×2.5cmで病理所見および免疫組織学的検索にてdiffuse large cell type (T cell), Ki-1リンパ腫と診断した.
  • 杉野 圭三, 浅原 利正, 片岡 健, 丸林 誠二, 八幡 浩, 土肥 雪彦
    1997 年 58 巻 2 号 p. 453-456
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    副腎悪性褐色細胞腫の血行性転移に対して2度の再手術を行った症例を経験した.患者は41歳,女性で,左副腎腫瘍摘出を行い良性褐色細胞腫と考えられていたが,初回手術より10カ月目に第1腰椎転移をおこし椎弓切除術を施行した.初回手術より1年7カ月目に肝尾状葉に転移し腫瘍切除を行った.しかし,多発性骨転移,肝転移のため初回手術より2年3カ月目に死亡した.
  • 佐藤 美信, 丸田 守人, 黒水 丈次, 前田 耕太郎, 内海 俊明, 佐藤 昭二, 黒田 誠
    1997 年 58 巻 2 号 p. 457-460
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    原発性回腸癌術後に両側卵巣転移した稀な1例を経験したので報告する.症例は54歳,女性で腹痛,嘔吐を主訴に来院した.腹部単純X線写真でイレウス像を認めたため,癒着性イレウスの診断で緊急入院した.保存的に治療したが腸閉塞を繰り返し,注腸造影で回腸腫瘍と診断,手術を施行し,回腸癌と診断された.術後14カ月目に腹水で入院し,卵巣腫瘍の診断で手術を施行した.術後の病理,免疫組織学的検討で回腸癌の卵巣転移と診断した.卵巣への転移経路は,初回手術の術中および病理学的所見から,リンパ行性,血行性転移が示唆された.原発性空・回腸癌の卵巣転移の報告は調べ得た限りでは現在まで4例で, 1989年から5年間における空回腸癌の本邦報告216例中, 0.9%と稀であった.卵巣転移は全空・回腸癌の平均年齢に比べ,より若年者の空・回腸癌例に発生しており,若年齢者では卵巣転移も念頭に入れて経過観察を行うことが必要と考えられた.
  • 南木 浩二, 森田 隆幸, 早川 一博, 鳴海 俊治, 十束 英志, 鈴木 純, 今 充
    1997 年 58 巻 2 号 p. 461-465
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    若年者に発症した,結核性腹膜炎の2手術例を経験したので報告する.症例1は17歳男性,腹水,発熱を主訴に来院し,大腸内視鏡で回盲部悪性リンパ腫が疑われたが,喀痰,胃液,便より結核菌が検出された.化学療法により排菌は陰性化したが,小腸狭窄のため手術適応と判断された.回盲部は一塊の炎症性腫瘤を形成し,狭窄部を含む回盲部切除術を行った.症例2は20歳男性.原因不明のイレウス症状で近医受診,開腹術が行われた.開腹時,腸管の強い炎症性癒着を認め, Crohn病などが疑われたが癒着高度のためtube enterostomyが造設された.術後, tube enterostomy造設部の創感染と直接小腸瘻を形成したため,精査,加療を目的に当科紹介となった.再開腹術を施行,癒着を剥離し,直接瘻の閉鎖術を行った.両症例とも腹腔内には結核性肉芽腫を無数に認めた.
  • 高桑 一喜, 小田 幸夫, 渡辺 直純, 捧 彰
    1997 年 58 巻 2 号 p. 466-470
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    骨盤部CTで閉鎖孔ヘルニアと診断されたイレウス症例を2例経験したので報告する.
    症例1は93歳の女性.腹痛,嘔吐で発症し,イレウスと診断されて入院.骨盤部CTで左閉鎖孔ヘルニア嵌頓と診断されたので手術を施行.回盲部より約30cmの回腸壁の一部が左閉鎖孔に入り込んでいたが,壊死や穿孔は認められなかった.症例2は73歳の女性.強い右大腿痛と右下肢のしびれ,悪心,嘔吐で発症.イレウスの診断で絶飲食と輸液を施行.イレウス症状は消失し,原因検索のために施行した骨盤部CTで右閉鎖孔ヘルニアを指摘されたが,腸管の嵌頓がなかったため手術を施行しなかった.約3カ月後に再びイレウス状態となり,骨盤部CTで右閉鎖孔ヘルニア嵌頓が確認され手術を施行した.回盲部より約40cmの回腸壁が右閉鎖孔に入り込んでおり,壁の一部が壊死に陥っていたため腸管切除が必要であった.骨盤部CT検査は閉鎖孔ヘルニアの診断に非常に有用である.
  • 原田 昇, 斎藤 弘司, 吉川 廣和
    1997 年 58 巻 2 号 p. 471-473
    発行日: 1997/02/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌を合併した全内臓逆位症の稀な1例を経験した.症例は56歳,男性.就学時検診にて逆位を指摘されていた.右利き,右睾丸強下垂.次兄が全内臓逆位症. 1994年5月,心窩部痛出現.精査にて,全内臓逆位症および胃体下部大彎の隆起性病変を指摘され,生検にて低分化型腺癌を認めた. Borrmann 3型胃癌の診断のもと, 6月20日幽門側胃切除術兼横行結腸合併切除術施行した.病理診断は,深達度seのBorrmann 3型胃癌,組織型は中分化型管状腺癌であった.本症の診断治療上,病変の局在部位や臓器の位置関係,合併する奇形の有無の把握が重要であると考えられた.
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