日本臨床外科医学会雑誌
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58 巻, 3 号
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  • 近藤 晴彦
    1997 年 58 巻 3 号 p. 495-501
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1965年のThomfordらの報告以降各種癌の肺転移に対して積極的な外科治療が試みられてきたが,近年は症例の蓄積とともに,原発癌ごとに成績・適応を検討すべき時期にきている.国立がんセンター中央病院での経験では,大腸癌の単発の肺転移では肺転移切除後10年生存率が47%にも達するなど,治癒あるいは予後改善の意義が明らかなものもある.しかし,今まで殆どの報告がretrospectiveな検討であり,いまだ肺転移切除の意義が不明確な癌も少なくない.今後は多施設での共同研究も含めprospectiveな検討がなされるべきである.
  • 杉野 圭三, 沖政 盛治, 岡本 英樹, 片岡 健, 杉 桂二, 武市 宣雄, 丸林 誠二, 八幡 浩, 浅原 利正, 土肥 雪彦
    1997 年 58 巻 3 号 p. 502-506
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去22年間に10例の若年者甲状腺癌を経験した.これは当科で手術を施行した甲状腺悪性腫瘍610例の1.6%である.年齢は9歳から19歳まで, 9歳の男児を除く9例は女性であった. 2例が濾胞癌, 8例が乳頭癌, T2以上の臨床癌が8例,偶発癌は2例であった.リンパ節転移は4例で, 2例がN1a, 2例がN1b, 6例はN0であった.劇症肝炎で死亡した1例を除き健存中である.
  • p53蛋白発現との比較
    吉田 明, 大澤 やすよ, 麻賀 太郎, 河原 悟, 中村 圭靖, 清水 昭男, 原田 昌興
    1997 年 58 巻 3 号 p. 507-512
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳癌組織におけるbcl-2蛋白発現の臨床的意義を明らかにするため,乳癌130例を対象に免疫組織化学的にbcl-2の発現を調べ, p53蛋白発現,臨床病理学的因子,臨床経過との比較を行った. bcl-2の発現は130例中81例にみられ, ER陽性例に有意に多く認められたが(p<0.0001), その他の因子とは有意な関連を認めなかった.術後平均観察期間は38カ月と短いが, bcl-2陽性例の健存率,生存率は陰性例に比べ有意に高いものとなっていた(p=0.0001, p=0.0006). 多変量解析では, bcl-2はp53と共にn因子に次いで有意に健存期間,生存期間と関連しており,独立した予後因子となり得るものと考えられた.またbcl-2とp53を組み合わせることによりn(-)例における再発をより的確に予測することが可能と考えられた.
  • 臨床像と経時的変遷
    松田 実, 岩瀬 拓士, 吉本 賢隆, 霞 富士雄, 秋山 太, 坂元 吾偉
    1997 年 58 巻 3 号 p. 513-518
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1946年から1994年12月までに経験した男性乳癌39例40病変に対し臨床病理学的検討を加え,その臨床像の解明に努めた.また年代ごとの変遷についても検討した.それらにより以下のような結果が得られた.年代ごとにみると,診断能の向上・知識の普及から,早期例が多くなり,女性例と同様主として胸筋温存乳房切除術が行われるようになってきた.しかし,健存率・生存率を低下させていない.臨床像としては,発生頻度が低率で(乳癌全体の0.34%), 高齢者に多く(平均年齢63.4歳),腫瘤占拠部位は乳頭乳輪近傍で,比較的早期例が多かった.組織型では乳頭腺管癌,充実腺管癌の頻度が硬癌よりも高かった.また組織学的リンパ節転移陰性例の割合が高く,ホルモンレセプターの陽性率が極めて高いこと,そのため内分泌治療が有用と思われた.予後は,全体例でみるかぎり不良とは思われなかった. 1981年以降の統計では,女性例と比べて良好であった.高齢男性の乳房腫瘤,乳頭分泌等の乳房の症状がある時は,癌を念頭におき注意深い検査が必要である.
  • 門倉 光隆, 片岡 大輔, 山本 滋, 野中 誠, 西川 岳男, 村田 升, 谷尾 昇, 井上 恒一
    1997 年 58 巻 3 号 p. 519-523
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    過去15年間に当科で入院治療を行った巨大気腫性肺嚢胞症(以下,巨大プラ)38例のうち,巨大ブラ占有側あるいはその対側に気胸を発症して治療の機会を得た症例は19例(50%)で,このうち巨大ブラ占有側の気胸は14例,対側気胸は5例であった.気胸発症は非気胸例に比べ高齢者にやや多い傾向を示したが,喫煙歴ならびに併存疾患と共に,気胸発症との関連性は認められなかった.また,巨大ブラの占有側についても,その左右別と気胸発症との関連性は認めなかったが,肺葉別では中下葉に発生した巨大ブラ9例中6例と高率に気胸を発症した.治療は,対側気胸の5例中4例では,まずこの気胸に対する手術を施行した上で巨大ブラに対する治療を計画した.巨大ブラに対する手術時に,ブラ壁の穿孔が確認できた症例の病理組織学的検索では弾性線維の増生や断裂,さらに炎症細胞浸潤を認め,肺胞構造だけでなく臓側胸膜の脆弱化が気胸を誘発したものと考えられた.
  • 三方 律治, 今尾 貞夫, 中村 陽
    1997 年 58 巻 3 号 p. 524-528
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1986年から1995年の10年間に当科で入院治療した未治療腎癌77例を5年間ずつに前半と後半に分けると,後半では前半に比べ15例増加していたが,臨床症状を示さない偶然発見癌は13例増加していた.偶然発見群の予後が症状群や潜在群に比べて良好であるのは早期癌の症例が多いためであった.
    画像診断法の発達によって,臨床症状を示さない腎癌が早期に発見治療される頻度はますます増えると思われる.早期癌患者における術後の再発転移の予防策を講じることで,腎癌の予後を更に改善しうる.
  • 今村 和弘, 森田 一郎, 正木 久男, 福廣 吉晃, 田淵 篤, 石田 敦久, 菊川 大樹, 遠藤 浩一, 藤原 巍
    1997 年 58 巻 3 号 p. 529-533
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    頸動脈小体腫瘍は,わが国では,約70例の報告をみるにすぎない稀な疾患である.
    今回,われわれは無痛性頸部腫瘤を主訴に来院した頸動脈小体腫瘍の患者に対し外科的摘出術を施行,良好な成績をえることができた.
    術前のCT, 血管造影等による確定診断と局所所見に応じた術式の選択が望ましいと考えられた.
  • 鈴木 るり子, 岩瀬 弘敬, 岩田 広治, 遠山 竜也, 原 泰夫, 小林 俊三
    1997 年 58 巻 3 号 p. 534-536
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    右乳房巨大脂肪腫の1例を報告する.患者は, 27歳女性, 10年前に右乳房の腫瘤に気づいていた.腫瘍は緩徐に増大し,小児頭大となり来院した.右乳房は腰部の高さまで下垂し,直径25cmの軟らかく,可動性があり,境界明瞭な腫瘤を触知した.臨床所見だけでなく,マンモグラフィー, CT, MRIにて乳房巨大脂肪腫と術前診断し,腫瘍摘出術を施行した.摘出腫瘍は27×24×4.5cmで被膜に被われ,割面は分葉状,淡黄色,脂肪様で,病理組織学的にも脂肪腫と診断された.脂肪肉腫,腺脂肪腫(adenolipoma)との臨床病理学的な違いについて検討して報告する.
  • 長澤 圭一, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 村田 透, 谷合 央, 永井 英雅
    1997 年 58 巻 3 号 p. 537-542
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は64歳,女性.左乳房の腫瘤を主訴に受診した.腫瘤は2×2cm, 弾性軟,可動性良好で, US上は境界明瞭,辺縁滑らかで縦横比は小さかった.マンモグラフィーで腫瘤に一致したスリガラス状陰影を認めた.念のため生検を施行したところ,乳腺血管肉腫と診断された.全身検索にて転移のないことを確認した後,初診時から約2カ月後に単純乳房切断術を施行した.補助療法として術後3日目より3週間IL-2を点滴静注し,第26病日に退院した.術後10カ月の現在,再発の徴候はなく健在である.
    本疾患は非常に稀で予後が悪く,本邦報告22例中, 5年生存例は見られない.転移形式は血行性が主でリンパ行性はほとんど認められない.長期生存を望める条件は,現段階では早期発見,外科的切除のみである.今回,偶然に発見され,長期生存が期待できる条件を備えた症例を経験したので,報告する.
  • 岩田 広治, 岩瀬 弘敬, 遠山 竜也, 原 泰夫, 大本 陽子, 小林 俊三
    1997 年 58 巻 3 号 p. 543-546
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は66歳女性, 1年前から急速に増大する右乳房腫瘤にて当科を受診した.腫瘤は右乳房全体を占め,大きさ14cmであり, [D]領域には出血を伴う潰瘍を認めた. 4日後,腫瘤と潰瘍はさらに増大し,潰瘍部より出血を伴う腫瘍が露出して,高度の貧血も認めた.急速に増大する葉状腫瘍と診断し緊急手術を行った.術後経過は良好で術後17日目には貧血も改善した.病理組織学的診断は境界型の葉状腫瘍であった.現在まで再発は見られていない.
  • 町田 恵美, 新宮 聖士, 浜 善久, 藤森 実, 麻沼 和彦, 春日 好雄, 小林 信や, 天野 純, 松山 郁生, 土屋 眞一
    1997 年 58 巻 3 号 p. 547-553
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺葉状腫瘍の発生頻度は原発性乳腺腫瘍の1%前後と報告されており,また,その悪性例は比較的稀である.今回われわれは成人頭大に発育し,各種腫瘍マーカーが高値を示した悪性葉状腫瘍の1例を経験した.
    症例は44歳の女性.左乳房全体を占める腫瘤を主訴に当科を受診した.左乳房全体を占める最大径20cm, 周囲径57cmの巨大な腫瘤を認め, CA15-3, CEA, BCA225の3種類の腫瘍マーカーが高値を示していた.しかし,それ以外には乳癌を示唆する所見は認めず,葉状腫瘍と診断し,単純乳房切断術を施行した.
    病理組織学的には腫瘍の大部分は良性葉状腫瘍と診断されたが,一部に悪性葉状腫瘍および低乳頭型の異型腺管を伴っていた.
  • 黒川 敏昭, 瀬戸 泰士, 花岡 農夫, 工藤 保, 李 力行, 上野 達也
    1997 年 58 巻 3 号 p. 554-557
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺葉状腫瘍は比較的稀な疾患であり,乳癌合併例は極めて稀である.今回,境界型乳腺葉状腫瘍の近傍に乳癌を合併した2例を経験した.症例1, 42歳の女性.右乳房腫瘤を自覚し来院.葉状腫瘍の診断で腫瘍を摘出したところ,その近傍乳腺内に非浸潤性乳管癌を認めたため,非定型乳房切除術を施行した.症例2, 20歳の女性.急速に増大した右乳房腫瘤を主訴に来院.葉状腫瘍の診断で腫瘍を摘出したところ,その近傍乳腺内に浸潤性乳管癌・乳頭腺管癌の合併を認めたため,乳頭温存皮下乳腺全摘出術・広背筋弁による乳房再建術を施行した.いずれの症例も術後補助化学・内分泌療法は施行しなかった.
    乳腺葉状腫瘍では同時,異時性を含めて癌合併の可能性を考慮し,十分な組織学的検索と厳重なfollow upを行うべきである.
  • 林 俊, 河野 範男, 中山 剛之, 和田 哲成, 前川 陽子, 寒原 芳浩, 佐古田 洋子, 中谷 正史, 石川 羊男
    1997 年 58 巻 3 号 p. 558-561
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は53歳女性.昭和58年本院にて右乳房切除術(t1,n0)を受けた.平成5年10月(DFI. 10年4カ月)より腰痛悪化し,平成6年5月,他院で施行された骨シンチで多発性骨転移(骨転移単独)と診断される.以後,徐々に症状の悪化を認め, 10月には寝たきりとなった(PS-4).平成6年10月27日当院入院時において, C-PTHrP 66.6pmol/Lと高値を示し,高カルシウム血症(Ca. 15.2mg/dl)を認めた.入院後, bisphosphonateとDuxorubicin, 5-FU, CPA, MPAとの併用療法により骨転移像がosteolyticからsclerotic responseに変化し,血漿カルシウム値が正常化,骨転移巣の消退を認め,治療後約17カ月現在, PS-0にて通院加療中の1症例を経験したので,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 木村 正幸, 小澤 弘侑, 佐野 友昭, 岩崎 好太郎, 野沢 昭典
    1997 年 58 巻 3 号 p. 562-566
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は85歳女性,平成6年4月に左乳房腫瘤に気付き5月当科を受診した.マンモグラフィー,超音波検査にて悪性の所見を得,針生検にて腺癌と診断した.癌はA領域に位置し大きさは2.8×3.1cmであり,リンパ節は触知せず(T2a, N0, M0) Stage IIと診断された. 6月1日非定型的乳房切除術(Br+Ax)を施行した.病理組織学的検索にて腫瘍は軟骨組織を伴った骨,軟骨化生乳癌と診断され,腺癌の部位から軟骨組織までの間には未分化な腫瘍細胞があり腺管構造から未分化への移行型があった.未分化な細胞は上皮の性格を残しており,その中に軟骨組織が見られるので,軟骨組織は上皮細胞から化生したものと考えられた.免疫組織学的検索ではepitherial membrane antigen (EMA)が上皮生の成分と,一部の未分化細胞に陽性であった.
  • 神谷 紀之, 土井 卓子, 山崎 安信, 細井 英雄, 山口 孝治, 中島 進, 小松 孝義, 岩田 誠一郎, 西山 潔, 赤羽 久昌
    1997 年 58 巻 3 号 p. 567-573
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    術前に穿刺吸引細胞診で乳腺アポクリン癌と診断し得た1例を経験したので報告する.
    症例は63歳女性.左乳房痛と腫瘤を主訴に当科を受診した. MMG, 超音波検査および穿刺吸引細胞診で乳腺アポクリン癌が強く疑われた.非定形乳房切除術を行い,左乳癌t1n1αM0, stage Iと診断した.病理組織所見では,腫瘍は細胞質が豊富で好酸性顆粒を有するエオジン好性の腫瘍細胞からなる浸潤性乳管癌で,乳腺アポクリン癌と診断した.
    乳腺アポクリン癌は乳癌取扱い規約の中で浸潤型,特殊型に含まれているまれな疾患で,本邦では自験例を含め過去14年間に121例の報告があった.報告例のうち今回われわれは110例を集計できたので文献的考察を加え報告する.
  • 香山 茂平, 石原 浩
    1997 年 58 巻 3 号 p. 574-577
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は84歳男性.突然両下肢の脱力感,右大腿の疼痛で発症した.心電図上,洞調律で,腹部には拍動性の腫瘤を触知した. X線CT写真にて,内部densityが不均一な壁在血栓を有する,腎下部の腹部大動脈瘤を認めた.翌日,右大腿の腫脹と,腎機能の悪化を認めMyonephropatic metabolic syndrome (MNMS)と診断した.直ちに血液透析を開始した.また,大量輸液にて利尿を図り徐々に腎機能の改善を認め,入院45日目に腹部大動脈人工血管置換術を施行した.右足趾は壊死に陥ったが,全身状態は改善し軽快退院した.突然発症する下肢動脈閉塞の場合,塞栓症が疑われ,その多くは心由来であるが,時に腹部大動脈瘤が原因となることがあり,時にMNMSの様な,重篤な合併症を引き起こすことがあり注意が必要である.
  • 坪田 典之, 下間 秀晃, 田邊 秀幸, 谷口 清英
    1997 年 58 巻 3 号 p. 578-581
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は57歳男性.気管支喘息で入院した際,胸部X線上,右下肺野に結節影を指摘された.確定診断のために開胸肺生検を施行した.結節は凝固壊死した肺組織よりなり,一部に犬糸状虫と思われる虫体を認め,肺犬糸状虫症と診断した.本邦では肺寄生虫症は比較的稀な疾患とされている.しかし昨今,本症診断例が増加しており,鑑別診断として無視できないものと考えられる.本症の確診には開胸下での切除標本病理検査によるものが大部分である.免疫学的診断法や胸腔鏡検査等の低侵襲の検査法の確立が必要と考えられた.
  • 泉 純子, 田島 幸一, 島田 良昭, 原内 大作
    1997 年 58 巻 3 号 p. 582-585
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    肺ヘルニアは非常に稀な疾患で,発生部位により頸部型,肋間型,横隔膜型に分けられ,肋間型の多くは外傷後に発症すると言われている.今回われわれは遅発性外傷性肋間肺ヘルニアが疑われる症例を経験した.
    症例は70歳男性,平成5年7月に前胸部を打撲した既往があり,平成6年12月25日突然左側胸部痛が出現, 12月27日同部位に皮下出血も現れた.胸部レントゲン写真にて肺ヘルニアと診断され,疼痛およびヘルニアの増大傾向があるため平成7年3月当科紹介となった.
    ヘルニアは第8肋間にあり,ヘルニア門の大きさは18cm×3cmであった.手術は骨膜フラップによる縫着とワイヤーによる肋骨の固定を行った.術後経過は良好で現在再発はみられていない.
  • 藤森 勝, 黒島 振重郎, 関下 芳明, 塩野 恒夫, 本間 賢一, 山口 潤
    1997 年 58 巻 3 号 p. 586-590
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    Granulocyte-colony stimulating factor (G-CSF)産生食道癌肉腫の1例を経験したので報告する.患者は63歳男性で全身倦怠感を主訴に某医受診, 130,000/mm3の白血球増多を指摘され当院血液内科にて精査,血中G-CSF 286pg/mlで食道Imに0-I型腫瘍あり, G-CSF産生腫瘍の疑いで当科を紹介された.胸部食道全摘,胸壁前頸部食道胃吻合を行い,術後病理診断はいわゆる癌肉腫でsm n (-) Pl0 M0, stage 0であった.腫瘍組織中任意の2点のG-CSF濃度(pg/g wet weight)は各々1,340,000, 1,310,000で非腫瘍部は30,400であり, recombinant human G-CSFに対するモノクローナル抗体を用いた免疫組織染色で腫瘍細胞内にG-CSFの局在が証明された.術後挙上胃口側壊死のため遊離空腸間置により2次再建したが,その後白血球数,血中G-CSF共に正常化し, G-CSF産生腫瘍と診断した.
  • 林 昌俊, 仁田 豊生, 市橋 正嘉, 多羅尾 信, 後藤 明彦
    1997 年 58 巻 3 号 p. 591-594
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    小児の肥厚性幽門狭窄症は比較的多い疾患であるが成人の肥厚性幽門狭窄症は極めて稀である.最近我々は成人の肥厚性幽門狭窄症を経験したので報告する.
    症例, 55歳,男性,腹部膨満感を主訴に近医より紹介された.上部消化管造影では幽門部の狭小化,延長を認め,胃内視鏡では幽門部は子宮頸管様に肥厚し狭窄していた.肥厚性幽門狭窄を疑ったが悪性疾患を否定できず幽門側胃切除術を施行した.
    病理組織学的検査では幽門部に著明な固有筋層の肥厚を認めるのみで,潰瘍,腫瘍性病変は認めなかった.以上により成人の肥厚性幽門狭窄症と診断した
  • 池田 光慶, 鄭 容錫, 藤本 泰久, 前田 清, 奥野 匡宥, 曽和 融生
    1997 年 58 巻 3 号 p. 595-599
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    約30年前に施行された回腸側々吻合術後に形成した盲環に多発性潰瘍が生じて下血を繰り返したblind loop症候群の1例を経験したので報告する.
    症例は62歳女性.約30年前に腸閉塞にてバイパス手術をうけ,下血および下腹部痛を主訴に入院した.出血源を検索する目的で小腸造影,出血シンチ,血管造影を施行したところ,回腸からの出血が強く疑われ,手術を施行した.回腸末端から約55cmの部位にて,回腸側々吻合を認め,著明に拡張したloopを形成していた.盲環部を切除し,端々吻合を行った.切除標本の肉眼所見では盲環内に多発性の潰瘍を認め,組織学的には非特異性潰瘍であった.腸管の手術既往があり,原因不明の消化管出血がある場合にはblind loopからの出血を念頭におき出血源を検索する必要があると考えられた.
  • 伊藤 史人, 世古口 務, 高木 馨子, 松本 英一, 下村 誠, 中村 菊洋, 山本 敏雄, 稲守 重治
    1997 年 58 巻 3 号 p. 600-605
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は37歳男性で,虫垂切除の既往がある.腹痛・嘔吐をきたして来院し,虫垂切除後の癒着性腸閉塞として保存的治療を行ったが改善せず開腹手術を施行した.臍部の壁側腹膜から,回盲部より50cmの部位の回腸腸間膜対側に連続する索状物により小腸が絞扼されていた.索状物は途中に嚢状の拡張部分を有し,さらに索状となった後,憩室状に回腸に付着しており,その部より肛門側の回腸は索状物により巻絡されていた.索状物による圧痕部から憩室付着部までの小腸を,憩室や嚢状拡張部とともに切除し小腸端々吻合を行った.切除標本の組織学的検査で憩室部は小腸壁の完全な構造を有し,索状物の嚢状部にも炎症や壊死を伴う小腸粘膜が確認され,卵黄腸管嚢腫とMeckel憩室の併存例と診断された.
    卵黄腸管の遺残ではMeckel憩室がよく知られているがそれ以外の形態での遺残は成人においては稀であり,本邦報告例の集計を含めて報告した.
  • 大瀧 義郎, 松田 昌三, 栗栖 茂, 大薮 久則, 八田 健, 小山 隆司, 喜多 泰文, 梅木 雅彦, 木花 鋭一, 宮本 勝文, 柴田 ...
    1997 年 58 巻 3 号 p. 606-611
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食物によるイレウス10例を報告するとともに,その術前診断について検討した.術前に食物によるイレウス(疑)と診断し得た症例は10例中5例を占め, 2例が問診によってなされた.また1例は超音波検査によって, 1例は超音波検査および腹部CT検査によって, 1例はイレウス管造影および腹部CT検査によって診断された.術前診断に際しては,詳細な食事歴の聴取および各種画像診断が有用であった.また,食物によるイレウスの一部には強い腹痛と炎症反応が見られ,絞扼性イレウスとの鑑別が重要であった.
  • 山中 秀高, 末永 昌宏, 杉浦 勇人, 国場 良和, 草川 雅之, 初野 剛
    1997 年 58 巻 3 号 p. 612-616
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは術前診断し得た,回腸脂肪腫による腸重積症の1例を経験したので報告する.症例は44歳,男性.腹痛を主訴に来院し,入院時の注腸造影にて上行結腸の腸重積症を認めた.その原因として2年前の注腸造影および今回入院時の腹部CTにて回腸脂肪腫と術前診断し手術を施行.術中所見では回腸腫瘍による回腸上行結腸型の腸重積症であり,回腸部分切除術を施行した.摘出標本にて脂肪腫であることが確診された.
    成人型腸重積症の場合,腸管の器質的病変,特に腫瘍を原因とするものが多い.しかし,小児型と異なり特異的症状に乏しく,イレウスの術前診断は比較的容易だが,その原因病変の確定は比較的困難で手術時所見によることが多い.今回われわれは腸管の器質的病変を術前診断し得た1例を経験し,腹部CTや注腸造影の正確な読影が重要であることを再確認した.
  • 奥 邦彦, 福島 幸男, 横山 茂和, 尾田 一之, 柴田 邦隆, 松田 泰樹, 太田 俊行, 島野 高志
    1997 年 58 巻 3 号 p. 617-621
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    稀な疾患である原発性虫垂癌の2例を経験した.症例1は69歳の女性,症例2は51歳の男性で,主訴はいずれも右下腹部腫瘤で血清CEAは高値を示し, 1)注腸透視にて虫垂が造影されず,回盲部に圧排像がある, 2)大腸内視鏡で虫垂開口部が確認できず,回盲部に管外性圧排があり,回腸に潰瘍を形成する, 3)腹部CT・超音波で嚢胞性腫瘍を認めるという共通の所見があった.症例1では生検で腫瘍組織(粘液癌)が得られ術前確定診断が可能であった.症例1, 2とも虫垂原発の腫瘍が回腸末端に浸潤し,リンパ節郭清を伴う結腸右半切除術を施行した. 2例とも肉眼的には嚢胞状で,組織学的には,症例1は粘液癌でリンパ節転移を認めず,症例2は粘液癌,中・高分化腺癌でリンパ節転移陽性であった.以上より,右下腹部腫瘤をきたす原因疾患の1つとして虫垂癌を念頭におくことが重要であり,十分な検索にて術前診断も可能である.
  • 池内 浩基, 楠 正人, 山村 武平, 宇都宮 譲二
    1997 年 58 巻 3 号 p. 622-625
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は27歳,女性.ヒルシュスプルング病にて,乳児期に根治手術を受けている.平成2年11月,右下腹部痛出現,近医にて急性虫垂炎の診断のもと開腹,回腸の腹壁への穿通と狭窄を認め,回盲部切除を施行された.病理診断で肉芽腫を認め,クローン病の診断のもと,以後ED療法が行われていたが平成7年2月初旬より,腹痛,嘔吐が出現し当院内科に入院.腸閉塞の診断で, TPNにて栄養管理を行うとともに, long tubeが挿入された.症状軽快したため, long tube抜去するも再度,腸閉塞症状出現し内科的治療抵抗性のため,当科転科となった.肛門機能検査所見などを考慮し,当科では結腸亜全摘,回腸人工肛門造設術を行った.切除標本では, S状結腸に,強度の狭窄を認め,腸閉塞の原因が同部位の狭窄に起因することが判明した.ヒルシュスプルング病とクローン病の合併は,本邦では,本症例を含めて2例の報告があるのみで,極めて稀であり報告する.
  • 近森 文夫, 青柳 啓之, 土井 幹雄
    1997 年 58 巻 3 号 p. 626-629
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    MRSA腸炎を併発した電撃型潰瘍性大腸炎の1例を経験したので報告する.症例は55歳の男性.下痢を主訴として来院し,脱水,電解質異常,低蛋白血症を認め入院となった.顕性血便の認められないことから,感染性腸炎と考え,抗生剤投与,輸液を行ったが,改善はなく黄色水様便は5~8回/日に及んだ.入院時便培養では大腸菌,カンジダが検出されたが,入院9日目の便からMRSAが検出された.入院10日目より,腹部膨満が強くなり,腹部単純X線写真で小腸と横行結腸の拡張を認め入院12日目には意識障害と血圧の低下をきたした.大腸内視鏡検査を慎重に施行したところ,直腸と下行結腸に広範な潰瘍性病変を認めた.以上から, 2次的にMRSA腸炎を併発した電撃型潰瘍性大腸炎,中毒性巨大結腸症と診断した.結腸全摘,回腸瘻造設術を行い救命しえた.本症例では顕性血便は認められなかったが, MRSA腸炎の併発により症状の増悪が加速されたと思われた.
  • 寺崎 正起, 長谷川 洋, 大久保 真二, 清水 泰博, 岡本 恭和, 大久保 雅之, 小野 靖之, 李 政秀, 岡本 晃〓
    1997 年 58 巻 3 号 p. 630-634
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    患者は70歳男性.臍周囲痛を主訴とし近医受診,右下腹部の腫瘤を指摘され当院紹介受診となった.胃透視にて十二指腸球部にポリープ,注腸造影にて大腸全体にびまん性に径約5~6mmのポリープ病変を認め,横行結腸に径約2~3cmの隆起性病変を認めた.大腸内視鏡検査では,腸管全体に,びまん性に無数のポリープ病変を認め,近接像で径約5~6mm表面平滑な無茎性ポリープが密に存在していた.昭和60年6月10日手術を施行した.本症例はCornesの提唱したmultiple lymphomatous polyposis of the gastrointestinal tractの1例と診断した.
  • 岩上 栄, 清水 淳三, 川浦 幸光, 川上 和之
    1997 年 58 巻 3 号 p. 635-638
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は67歳,男性. 1週間前より胸部絞扼感出現したため近医受診し貧血を指摘され当院受診した.腹部に腫瘤および表在リンパ節は触知しなかったが,末梢血ではHb 7.3g/dlと貧血を認め,便潜血反応は陽性であった.腹部超音波検査は胆嚢内に結石を認め,腹部CT検査では上行結腸に径5cm大の偏在性の強い腫瘤を認め粘膜下腫瘍を疑った.注腸造影では上行結腸に径約5cmの境界明瞭な腫瘤陰影を認め,下部消化管内視鏡検査は同部に径5cmの浅い不整潰瘍を伴った粘膜下腫瘍様の半球状の隆起性病変を認めた,生検はGroup 1であった.以上より悪性の上行結腸粘膜下腫瘍を疑い右半結腸切除術,リンパ節郭清(D-2)を施行した.病理組織学的検査では腫瘍は固有筋層から発生した平滑筋肉腫で核分裂像も強拡大で10視野に8個みられ高悪性度の平滑筋肉腫と診断された.以上,上行結腸平滑筋肉腫の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 唐澤 幸彦, 若林 久男, 前場 隆志, 森 誠治, 前田 肇, 河本 知二
    1997 年 58 巻 3 号 p. 639-642
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    結腸平滑筋肉腫は消化管悪性腫瘍の中でも稀な疾患である.今回われわれは,手術待機中に腸重積を併発した上行結腸平滑筋肉腫の1例を経験したので報告する.症例は61歳,女性.臍右側に小児手拳大の腫瘤を触知し,同部に自発痛を認めた.注腸造影では,上行結腸に陰影欠損を認め, CT検査で不均一に造影される長径約8cmの分葉化した腫瘤を認めた.大腸内視鏡検査では内視鏡先端が病変部の腸管を通過せず, biopsyで平滑筋肉腫を疑われた.開腹根治術を目的に,手術待機中であったが,腹痛が増強し,嘔吐を認めたためイレウスの診断で緊急手術となった.腹腔内には多量の淡血性腹水を認め,腫瘤を先進部として腸重積を合併していた.右半結腸切除術, D2リンパ節郭清を施行した.
  • 長田 真二, 野々村 修, 加藤 禎洋, 竹内 賢, 佐藤 好永
    1997 年 58 巻 3 号 p. 643-646
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は72歳,女性.全身倦怠感を主訴に来院した.血液検査上の貧血と便潜血反応の強陽性を認めたため,精査治療目的で入院となった. CEAは208.0ng/mlと高値であった.注腸検査,腹部CTおよび大腸内視鏡にて周辺腸管へ浸潤した盲腸癌と診断した.手術は,浸潤回腸を含めた3群リンパ節郭清を伴う結腸右半切除術を施行した.摘出標本より,回盲部から5cmおよび70cmの回腸の2カ所に瘻孔を形成した盲腸癌と判明した.組織学的には高分化腺癌, si, n2(+), P0, H0, M(-), stage IIIbであった.
    結腸癌による消化管内瘻形成例は非常にまれである.本邦における報告例86例を検討した結果,原発部は横行結腸が最も多く,盲腸は2例目であった.また,大腸癌による内瘻形成例の特徴として,肝転移,腹膜播種およびリンパ節転移陽性例が少なく,積極的な合併切除により治癒切除が期待しうるものと考えられた.
  • 櫻井 照久, 水谷 伸, 角村 純一, 門田 治, 上田 晋也, 田附 裕子, 永井 勲, 田中 智之
    1997 年 58 巻 3 号 p. 647-649
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は74歳,男性.腹痛の精査目的で入院中,突然急激な腹部膨満,筋性防御および著明な代謝性アシドーシスを認め,意識消失,呼吸停止を来した.蘇生後緊急手術を施行したところ大量の混濁した黒色の腹水と直腸S状部より回腸末端に至る広範な壊死を認め,その肛門側の直腸に癌性腫瘤を認めた.腸間膜の動静脈に閉塞は認めなかった.手術は,癌腫を含め全大腸切除,回腸部分切除,回腸瘻造設術を施行した.術後経過は,肺炎を併発し,術後65日目に多臓器不全で失った.大腸癌により回盲弁を越え回腸に至るような広範で重範な閉塞性壊死性腸炎は極めて稀であり文献的考察を加え報告する.
  • 谷合 央, 長谷川 洋, 小木曽 清二, 村田 透, 長澤 圭一, 永井 英雅
    1997 年 58 巻 3 号 p. 650-653
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃癌, S状結腸癌を合併した門脈瘤の1例を経験したので報告する.症例は68歳の男性で,平成4年3月に胃癌精査中に腹部US, CTにて脾静脈・上腸間膜静脈合流部に門脈瘤を認め,術中所見で門脈瘤と診断した. 2年後の平成6年10月に下血のため,下部消化管の精査を行い, S状結腸癌と診断された.この時のUS, CT, 血管造影では門脈瘤の大きさには変化はなく,ドップラーエコーでも乱流は認めなかったので,引き続き経過観察とした.報告例の検討では,門脈圧亢進症を伴わない門脈瘤の破裂・死亡例は報告されておらず,経過観察のみで十分である.
  • 春田 直樹, 浅原 利正, 丸林 誠二, 福田 康彦, 土肥 雪彦, 東 和義
    1997 年 58 巻 3 号 p. 654-658
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは膀胱癌に対する膀胱全摘術後9年目に局所再発を伴わない単発の転移性肝癌を発症し,根治的に切除できた症例を経験したので報告する.症例は71歳の男性.腹部CT上の肝異常陰影を主訴に入院.術前の肝生検の病理組織診断は移行上皮癌であり, 62歳時の膀胱癌の転移と診断された.転移性肝癌の原発病巣の多くは消化器疾患であり,このうち外科切除対象症例の多くは結腸・直腸癌が占め,膀胱癌を原発とする転移性肝癌の手術症例の頻度は極めて低い.これは膀胱癌の肝転移が稀なためではなく,肝転移を来した膀胱癌の多くは多発肝転移や他の遠隔臓器転移を合併した症例であり,転移巣切除術の適応となる症例は極めて稀なためである.しかし,本症例の経験より,膀胱癌術後長期にわたる骨盤腔および肝臓を含めた遠隔臓器の検索の重要性を再認識すると共に,早期発見により切除可能な膀胱癌原発肝転移性腫瘍の存在が確認された.
  • 島田 謙, 横田 等, 大宮 東生, 泉家 久直, 飯野 善一郎, 柿田 章
    1997 年 58 巻 3 号 p. 659-663
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は37歳女性で著明な高血圧,低K血症を呈し,原発性アルドステロン症を疑い腹部超音波検査を施行したところ左副腎腫瘍および膵頭部腫瘍を認めた.左副腎腫瘍は,腎静脈採血により原発性アルドステロン症と確定診断した.そのため多発性内分泌腫瘍症類似疾患を疑い精査を施行した.ホルモン検査ではアルドステロンが高値の他は異常は認められなかった.腹部CT検査では,腫瘍は膵頭部背側に位置し,腹腔動脈造影では膵頭部に一致して新生血管を認めたが,広狭不整や腫瘍濃染像は認めなかった. ERP像では主膵管は膵頭部領域で軽度の狭小化を認めた.以上より非機能性内分泌性膵頭部腫瘍を疑い,左副腎摘出および膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的には膵頭部腫瘍は神経鞘腫と診断された.
    膵神経鞘腫は極めて稀な疾患であり,本邦報告例11例の文献的考察を加え報告する.
  • 河原 秀次郎, 平井 勝也, 青木 照明
    1997 年 58 巻 3 号 p. 664-666
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は66歳,男性.健診で直腸の病変を指摘され,精査加療目的で当科に紹介された.大腸鏡検査では,肛門縁より約5cmに直径約20mmのIIa型隆起性病変を認め,生検組織診断では高分化腺癌であった.平成7年12月2日内視鏡的切除術を施行した.粘膜欠損部の大きさは直径約4cmあり,粘膜欠損部に筋層が露出していたが,十分止血されていた.翌日の腹部所見は術前と変わりなく,腹膜刺激症状は全く認められなかったが,血液生化学検査ではWBC 24,600/mm3, CRP 10.5mg/dlであった.腹部X線検査では両側腸腰筋の辺縁にガス像を認め,後腹膜気腫を呈していた.下部直腸の病変を内視鏡的に切除する場合,送気によって直腸内圧が上昇しているため,切除粘膜の大きさによっては術後変化のため後腹膜気腫などの合併症が生じうることを考慮し,経肛門的に粘膜欠損部を縫合するなどの処置を行うべきであると思われた.また術後,後腹膜気腫を認めたときはまず保存的治療を行い,その後緊急手術の適応を慎重に判断すべきであると考えられた.
  • 高橋 節, 豊田 暢彦, 金子 徹也, 水澤 清昭, 貝原 信明, 栗栖 泰郎, 浜副 隆一
    1997 年 58 巻 3 号 p. 667-671
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    特発性後腹膜線維症は後腹膜にびまん性の線維化をきたす比較的稀な疾患である.臨床的には両側の尿管閉塞による症状を主訴とすることが多く,稀に腸管閉塞を来すことがある.腸管にまで病変が波及した場合には,外科的処置を必要とすることが多い.今回われわれは病変が下部消化管にまで及んだ特発性後腹膜線維症の1例を経験した.この症例に対して,数回にわたる手術を行ったが,病巣の増大によって腸管が圧迫され腸閉塞を繰り返し,栄養障害も認められるようになったため,中心静脈栄養を行った.中心静脈栄養開始後,腸閉塞症状は軽減し栄養状態も改善した.さらに在院栄養管理から在宅栄養管理に移行したことによりquality of lifeの向上がはかられ,現在患者は社会復帰可能となった.
  • 国枝 克行, 竹村 茂之, 加藤 元久, 杉山 保幸, 村瀬 全彦, 下川 邦泰, 佐治 重豊
    1997 年 58 巻 3 号 p. 672-676
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    重症筋無力症を伴う後腹膜原発Castlemanリンパ腫の1例を経験した.症例は57歳男性で主訴は嚥下障害と構音障害である. 1986年6月頃より上記症状が出現し当院第1内科を受診し,重症筋無力症と診断された.入院後の腹部CT検査,超音波検査にて後腹膜腫瘍を指摘され,手術目的で1987年1月6日に当科へ転科した.開腹すると左腎内側の後腹膜腔に58×48×30mm大の,可動性良好で血管に富む腫瘍が認められた.また腹部大動脈からの流入動脈と,左精巣静脈に流入する流出静脈を認めた.他に肝血管腫,右腎血管脂肪筋腫,左腎嚢胞が併存していた.病理所見では硝子化を伴う大小のgerminal centerと毛細血管の増殖を伴うリンパ節様組織でありhyaline-vascular typeのCastlemanリンパ腫と診断した.重症筋無力症を伴った本症の報告は極めて稀で,調べた限り自験例は4例目である.術後自覚症状は若干改善したが,他覚的所見の改善は認められず,両疾患の因果関係は不明であった.
  • 佐藤 達郎, 中井 尭雄, 松浦 豊, 河野 弘, 北川 喜己, 吉原 秀明, 西垣 美保, 小森 康司, 伊藤 直人, 濱野 浩一, 石川 ...
    1997 年 58 巻 3 号 p. 677-680
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    われわれはTranscatheter arterial embolization(以下TAE)で止血した第2腰動脈瘤破裂の1例を経験したので報告する.症例は64歳,男性. 1985年僧帽弁膜症で弁置換術をうけている. 1995年12月腰痛で当院に入院.貧血,腰部,右下腹部の出血斑のためCT検査を行い,後腹膜大量出血を疑われ,血管造影検査で3×3mmの動脈瘤を認め,ただちにスポンゼルを用いて止血した.経過は良好で第39病日に退院となった.
    あわせて本例を含む報告例7例を検討した.
  • 澤田 傑, 石川 真, 関野 昌宏
    1997 年 58 巻 3 号 p. 681-684
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は87歳女性.左腰部の有痛性腫瘤を主訴に1996年5月25日当科を受診,精査治療のため入院した.来院時左腰部に15×10cmの腫瘤を認めた.腹部超音波検査および造影CT検査では左後腹膜腔に内部は造影されず,被膜のみが造影される腫瘤影を認め,腰部皮下に達していた.検査結果より原発性腸腰筋膿瘍と診断し1996年5月27日経皮的ドレナージ術を施行した.腫瘤からは約600mlの無臭性膿汁が流出した.膿汁の培養では細菌は検出されなかった.腸腰筋膿瘍は画像検査の発達で近年報告例は増えてきている.過去10年間本邦で報告された腸腰筋膿瘍54例で皮下に達し膿瘍を形成した症例はなく,本症例は稀と思われる.
    患者は87歳と高齢であり,低栄養で易感染性のため発症したと思われた.また,腸腰筋膿瘍の診断,治療,術後経過観察にはCTが有用であると思われた.
  • 岸 健太郎, 左近 賢人, 西嶌 準一, 後藤 満一, 塩崎 均, 門田 守人
    1997 年 58 巻 3 号 p. 685-689
    発行日: 1997/03/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    口蓋垂癌術後に,肝癌,食道癌を発症した同時性重複癌の1例を経験し,一期的に治癒切除しえたので報告する.症例は58歳男性,平成5年11月,他院で口蓋垂癌にて口蓋垂全摘術を受けた.約1カ月後AFPが高値となり,腹部CT, 血管造影にて肝S2に径3cmの肝癌が診断された.また口蓋垂癌の既往は食道癌の危険因子であることから,内視鏡を施行したところ食道癌が診断された.肝癌に対して肝S2の部分切除術を,食道癌に対しては食道抜去術を一期的に施行した.侵襲の大きい食道癌,肝癌の同時性重複癌に対する手術では,各々の癌の進行度を適切に評価し,予後との関係から必要最少限の術式を選択することが大切であると考えられる.
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