日本臨床外科医学会雑誌
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58 巻, 8 号
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  • 酒井 成身
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1693-1704
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳房の形態異常に悩む女性にはそれを解決する手段の一つとして形成外科的手術が重要な役割を果たす.乳房の先天的異常としては,無乳房症,多乳房症(副乳,迷入乳腺,腋窩副乳腺,異所性乳腺)などがある.迷入乳腺や腋窩副乳腺は癌化の傾向もあり切除することが望ましい.発育異常として,乳房発育不全症,乳房左右非対称症,乳房肥大症,乳房下垂症などがある.発育不全や非対称には小さい側の乳房に生理食塩水バッグを挿入し,肥大症や下垂症には乳房縮小術や乳房固定術を行って修正する.乳頭の形態異常には無乳頭症,多乳頭症,重複乳頭,乳頭肥大症・乳頭下垂症,扁平乳頭,陥没乳頭などがある.無乳頭症は新たに乳頭を作製し,多乳頭症では乳頭を1つにするように,肥大・下垂乳頭では乳頭を縮小し,陥没乳頭では陥没の修正を行い形態を整える.乳輪下膿瘍では罹患乳管とともに膿瘍を切除する.
  • 再建後再発例の検討
    金丸 仁, 横山 日出太郎, 橋本 治光, 白川 元昭, 吉野 吾朗
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1705-1711
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳癌に対する乳房切除後の一期的乳房再建術(以下一期再建)により,乳癌の局所再発の発見が遅れる恐れがあると言われていたが,実際にどうであるか再発例から検討した.また一期再建群と非再建群で予後に差があるかをKaplan-Meier法による累積生存率から検討した. 1986年から1995年までの一期再建例は61例で, 10例が再発した.局所再発は4例であるが3例は遠隔再発を伴っていた. 1例は大胸筋内再発で,局所切除可能であった.この例は再建乳房下に腫瘤があったが,発見は容易であった.他の3例の局所再発部位は2例が再建乳房外の皮膚で, 1例は腋窩リンパ節再発で,再建乳房が発見を妨げることはなかった.乳癌をhigh risk群とlow risk群にわけてそれぞれ再建群と非再建群の生存率を比較したが,いずれも有意差を認めなかった.従って一期再建が乳癌の再発治療を妨げることはないと考えられた.
  • 小寺 泰弘, 山村 義孝, 稲田 健一, 清水 泰博, 鳥井 彰人, 平井 孝, 安井 健三, 森本 剛史, 加藤 知行, 紀藤 毅
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1712-1716
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    過去30年間に切除した胃筋原性腫瘍41例を対象とし,その治療方針,術式について検討した.今回検討した範囲でリンパ節転移例は1例も認めず,術式の違いによる生存曲線の差もないことから,良悪性を問わず,胃の切除範囲は適切な局所切除で充分と思われた.ただし,腫瘍の取り残し,損傷は確実に再発につながることを念頭において切除を行うべきである.一方,切除標本をもってしてもHE染色による検討のみでは良悪性の鑑別すら困難であり, 10例において切除当時と今回検索時の病理組織学的診断が食い違った.よって,良悪性の術前診断に基づく治療方針の選択にこだわるよりも,術前には悪性のリスクのある症例を洩れなく拾い出す基準を確立すること,術後は予後因子として有用な分子生物学的パラメーターを求めることを今後の課題とすべきと考える.
  • 松尾 浩, 山村 義孝, 高橋 孝夫, 清水 泰博, 小寺 泰弘, 鳥井 彰人, 平井 孝, 安井 健三, 森本 剛史, 加藤 知行, 紀藤 ...
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1717-1722
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/20
    ジャーナル フリー
    1988~1992年に当院で噴門側胃切除(食道残胃端側吻合)または胃全摘(空腸間置)を施行され,現在無再発生存中の患者(噴切35人,胃全摘61人)を対象にアンケート調査を行い,両再建術式による術後早期と長期経過後のquality of lifeを比較検討した.回収率は噴切30人(85.7%),胃全摘51人(83.6%)であった.
    背景因子では,胃全摘群が術後経過期間中央値がやや長く(胃全摘70.8カ月,噴切55.6カ月),進行例が多かった(胃全摘68.6%,噴切30%).
    その結果次の結論を得た.(1)胃全摘群の術後入院期間が延長する傾向があった(29日以内の退院症例は胃全摘群23.5%,噴切群40.0%). (2)胸焼けは術後早期に両群に差を認めなかったが,術後長期経過後には噴切に有意に多かった(p<0,05). (3)患者の満足度は噴切にやや高い傾向が見られた(ほぼ満足以上の症例が噴切64%,胃全摘47%).
  • 腫瘍間距離および見逃し病巣からみた検討
    冨松 聡一, 市倉 隆, 望月 英隆
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1723-1727
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    初発胃癌502例中,多発胃癌は45例(9.0%)にみられ,以下の特徴を有していた. 1. 多発群では単発群に比べ,手術時年齢が高く,主病巣の肉眼型は,表在型では隆起型,進行型では1, 2型が多く,深達度t1, 組織型分化型が多くみられた. 2. 多発群において,主病巣-副病巣間距離の平均は4.2±2.8cmで, 6.0cm以上の症例も20.0%にみられた. 3. 主病巣が早期癌の場合,副病巣の肉眼型は主病巣と類似していた.副病巣の組織型は主病巣に関係なく分化型が多かったが,病巣問距離が大きい症例では主病巣と副病巣の組織型の一致率が低かった. 4. 術前に見逃されていた副病巣は正診されたものに比べ,腫瘍径が小さく深達度m癌が高頻度だったが,主病巣との距離には差がなかった.術前検査および術後follow upに際しては,以上の特徴をふまえた入念な観察が必要と考えられた.
  • 馬場 俊明, 伊藤 卓, 鈴木 伸作, 今 充
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1728-1732
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    1986年11月から1994年10月までに当科において経験した交通外傷による消化管穿孔例13例を対象に,診断,治療および成因について検討を加えた.受傷者13例中8例が自動車事故での受傷で,うち5例がシートベルト着用例であった.初診時の腹部所見で筋性防御を認めた者は13例中9例(69.2%)で,残る4例も時間とともに全例で出現した.腹腔内遊離ガス像を認めた者は2例にすぎなかった.術式は小腸部分切除8例,単純縫合閉鎖4例,広範囲胃切除1例であった.穿孔部位は小腸10例,十二指腸2例,胃1例であった.穿孔部位の80%がトライツ靱帯から120cm以内に集中していることからトライツ靱帯を起始部とする閉鎖係蹄腸管内圧の上昇が穿孔の一因と考えられた.外傷性消化管穿孔は早期診断,早期治療が行われれば予後は良好である.受傷機転を考慮し,医師の観察下におき開腹の時期を逸しないよう注意しなくてはならない.
  • 野村 昌哉, 中尾 量保, 仲原 正明, 荻野 信夫, 弓場 健義, 宮崎 知, 江本 節, 黒住 和史, 辻本 正彦
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1733-1739
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    stage IVの進行膵癌切除24例を対象とし,核DNA量およびproliferating cell nuclear antigen(PCNA)陽性率を中心に,臨床病理学的因子および予後との関係を検討した.病理組織学的所見,総合的進行度,総合的根治度とDNA ploidy pattern, S期分画率およびPCNA陽性率との間に有意な相関を認めなかった.単因子解析の結果, 1)stage IVb群はstage IVa群に比し,根治度C群は根治度B群に比しそれぞれ予後不良であった. 2)DNA ploidy patternと予後との間に相関を認めなかったが,術後800日以上生存の3例は全例diploidであった. 3)PCNA高陽性群と低陽性群との予後に有意差を認めなかったが,術後500日以上生存の5例は全例PCNA低陽性群であった.多変量解析を行った結果, PCNA高陽性群が有意な予後不良因子であった.以上より, PCNA陽性率はstage IVの進行膵癌の生物学的悪性度を示す指標であり予後因子として有用であることが示唆された.
  • 小倉 芳人, 徳田 浩喜, 楊 宏慶, 田辺 元, 愛甲 孝
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1740-1743
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は55歳・男性. 1週間前より左咽頭痛が出現し急性扁桃炎の診断にて近医で抗生剤投与を受けていたが,頸部痛・呼吸困難が増強したため当院へ入院した.頸部X線写真・USでは前頸部にガスを伴った液貯留が認められ,頸部CTでは左扁桃から左咽頭後間隙・左副咽頭間隙・前内臓隙にガス像を伴った連続した液貯留が認められた.ガス産生性膿瘍と診断し,全身麻酔下に膿瘍の切開・排膿を行った.手術後症状は速やかに消失し救命し得た.膿瘍の細菌学的検査ではClostridium属の存在が確認できなかったため,急性扁桃炎を原因とした非Clostridium属による頸部ガス蜂巣炎と考えられた.
    頸部ガス蜂巣炎は本邦にて1980年以降自験例も含めて46例の報告が認められるのみで,その予後は不良とされている.頸部にガス像が認められたときは本疾患を念頭におき早急に外科的処置と抗生剤投与を行うことが重要と考えられた.
  • 国府 育央, 山本 正之, 秋山 洋介, 山田 克己, 平位 洋文, 北野 秀武
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1744-1747
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    悪性線維性組織球腫様の組織像を呈した再発悪性葉状腫瘍の1例を報告する.
    症例は, 53歳,女性.良性の葉状腫瘍にて,腫瘍摘出術,広背筋弁形成術を施行した.術後3カ月より腫瘍摘出部に硬結を触知し痛みが出現した.細胞診を数回施行したが血液成分のみで,超音波検査, CT検査でも血腫疑いであり経過観察していたが,細胞診穿刺部の皮膚が発赤し硬結を触知したので生検を施行した.核分裂像,細胞異型が中程度認められ境界病変の葉状腫瘍と診断し,大胸筋への浸潤を疑い乳切術を施行した.病理組織学的所見は,紡錘形の細胞がstoriform patternを形成し,多形性の腫瘍細胞が認められ,細胞密度も高く核分裂像も認められた.また異型を伴わない上皮も認められ,悪性線維性組織球腫様の組織像を呈する悪性葉状腫瘍と診断した.術後3カ月目に上腕骨の病的骨折をきたし,化学療法を施行したが,その後肺転移,肝転移をきたし, 8カ月目に原病死した.
  • 朝戸 裕, 鍋島 一仁, 亀井 秀策, 隈元 雄介, 原 彰男, 牛島 康栄, 石引 久彌
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1748-1752
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺非典型カルチノイド(内分泌細胞癌)は稀な腫瘍でありわれわれはその1例を経験したので報告する.症例は76歳の女性.左乳房内側域(ABE)に3.2×2.7cm大の腫瘤を触知した.超音波エコー検査で嚢胞内の広基性乳頭状腫瘤を認め, dynamic MRIでも早期に高信号となる嚢胞内腫瘤を認めた.穿刺吸引細胞診ではclass IVであった.迅速病理検査で嚢胞内充実腺管癌と診断され,大小胸筋温存乳房切除術を行った.腫瘍のヘマトキシリンエオジン(HE)染色でカルチノイドが疑われ,粘液染色陽性細胞も認められた.グリメリウス染色,クロモグラニンA染色で陽性,戻し電顕上dense core granuleが確認され,組織細胞形態より非典型カルチノイド(内分泌細胞癌)と診断した.腋窩リンパ節転移は認められなかった.腫瘍のestrogen receptor(ER)は陽性, progesterone receptor(PgR)は陰性であった.手術前後の全身検索で異常は認められなかったが術後9カ月で肝内多発腫瘤が認められ,術後10カ月で死亡した.カルチノイド症候群は認められなかった.
  • 恵木 浩之, 若杉 健三, 石川 哲大, 松坂 俊光, 久米 一弘
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1753-1755
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    乳腺葉状腫瘍に非浸潤性乳管癌を合併した症例を経験した.症例は62歳女性で左乳房腫瘤を触知したため当科受診.葉状腫瘍と診断し手術施行した.術中迅速病理検査にて,やはり葉状腫瘍との診断であったため単純乳房切断術を施行した.後日,永久病理検査結果に“Phyllodes Tumor, Borderline” “Intraductal Carcinoma”との診断であったため左腋窩リンパ節郭清を追加した.このように稀ではあるが,乳腺葉状腫瘍にも乳癌を合併することがあり注意が必要である.
  • 越野 督央, 原田 英之, 山本 直樹, 馬渡 徹, 上田 睦, 安倍 十三夫
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1756-1760
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    右鎖骨下動脈狭窄を伴う左subclavian steal syndromeに対する1手術例を経験したので文献的考察を加えて報告した.症例は62歳,男性.両手のしびれ感,複視,歩行時のふらつきを主訴として来院した.精査の結果,左鎖骨下動脈の完全閉塞と右鎖骨下動脈の75%狭窄所見,および左椎骨動脈の逆行性血流を認めた.手術は胸骨縦切開および両側鎖骨上切開を行い,人工血管を用いて上行大動脈-両側鎖骨下動脈バイパス術を施行した.術後経過は良好で術前に認められた症状は完全に消失した.
  • 杭ノ瀬 昌彦, 種本 和雄, 金岡 祐司
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1761-1764
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    ハイリスクを伴うI型急性大動脈解離2症例に対しリング付き人工血管を使用し良好な結果を得た.通常,上行大動脈からエントリー部までの大動脈解離部を人工血管で置換することを基本術式としているが,リング付き人工血管は吻合に時間を要せず更に止血が容易であるなど利用価値があると考えられる. 1例は年齢,呼吸機能を考慮して上行大動脈置換を24mmリング付き人工血管にて施行した.循環停止時間11分,体外循環時間98分であった.次の1例は入院時血小板数6万/μlで,術後の止血困難が予想されたため,上行大動脈のみを26mmリング付き人工血管で置換した.止血は容易で循環停止時間7分,体外循環時間107分であった.ともに術後経過は良好で軽快退院した.
    以上,リング付き人工血管は手術侵襲を軽減しハイリスクの患者を救命する手段として有効と考えられた.
  • 島谷 慎二, 高木 啓吾, 笹本 修一, 加藤 信秀, 山崎 史朗
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1765-1768
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    自然気胸に対する胸腔鏡下手術2カ月後に気胸が再発し,開胸下再手術を施行した1例を経験したので報告する.症例は25歳・男性,右前胸部痛を主訴に当院受診,右自然気胸の診断で胸腔鏡下手術を施行した.軽快退院後第64病日に右前胸部違和感を主訴に再診,気胸再発と診断され,第72病日に腋窩開胸下に再手術を施行した.再手術時,初回ブラ切除縁より2cm下方に直径1.5cm大の破裂したブラが存在していた.再発の原因として,胸部CT所見上初回手術時のブラの見落しか,肺内に潜在していたブラが次第に増大して胸腔内に突出してきたかが考えられた.今後このような症例の集積により再発の機序が明らかになるとともに,効果的な再発防止法が検討されるべきと考えられた.
  • 山本 雅由, 田村 寿康, 金谷 剛志, 松尾 恵五, 山中 研, 工藤 琢也
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1769-1772
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    右乳癌の術直後より同側の右肺に気胸が発生し,胸腔鏡下ブラ切除術にて治癒せしめた1症例を経験したので報告する.症例は62歳,女性.右乳腺腫瘤を主訴に来院した.検査にて乳癌と診断され入院し,非定型乳房切除術を施行した.術直後の胸部X線写真で,右気胸を認めた.胸腔ドレーン挿入し,経過観察するも改善しないため,創部の安静,術後リハビリを考え,胸腔鏡下ブラ切除術を施行した.一般に気胸の手術は腋窩開胸で行われるが,胸腔鏡下手術は創が小さく,創痛が少なく,術後の回復が早く,リハビリも早期に開始できるため,乳癌の手術後の同側の気胸では胸腔鏡下手術が有用であると思われた.
  • 朴 英進, 若林 巳代次, 上田 哲郎, 波多野 義典, 小出 一樹, 原 彰夫, 中村 順哉, 長谷部 行健, 徳弘 圭一, 小澤 哲郎, ...
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1773-1776
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    最近,交通事故による左外傷性横隔膜破裂の1例を経験したので報告する.症例は39歳の男性.自家用車助手席乗車中に左側面衝突にて左側胸部を強打し,当院救急外来を受診した.胸部単純X線写真上,第4~6肋骨骨折,肺挫傷,血胸,そして左胸腔内に突出する異常ガス像が認められた.そこで左横隔膜破裂による消化管の胸腔内脱出を疑い,鼻腔より胃管を挿入,ガストログラフィンを用いて上部消化管造影を施行した.胃管は前述の左胸腔異常ガス像内に入り,造影所見として胃の粘膜ヒダが描出された.以上より左外傷性横隔膜破裂および胃の胸腔内脱出と診断し緊急開腹術を施行した.左横隔膜破裂創より胃の約3分の2と脾臓の左胸腔内への脱出が認められ,破裂創を結節縫合にて修復した.
    外傷性横隔膜破裂は稀な疾患であるが,交通事故による胸部外傷が増加しつつある現在,介達外力による横隔膜破裂をも念頭において診断,治療にあたる必要がある.
  • 池永 雅一, 藤本 高義, 三宅 泰裕, 土居 貞幸, 博多 尚文, 直井 正紀
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1777-1780
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    食道憩室は,上部消化管検査の際に偶然に発見されることが多いが,何らかの症状を有し,外科的治療の対象となるものは少ない.なかでも大きさが5×5cm以上の巨大な食道憩室はまれである.今回われわれは,下部食道に発生した巨大横隔膜上食道憩室症の1例を経験したので報告する.
    症例は69歳女性.主訴は嚥下困難,嘔吐.約10年前より,食道憩室症を指摘されていたが放置していた.最近になり,症状が増強したため来院した.食道造影検査,食道内視鏡検査で,門歯より33cmの下部食道左側に大きさが7.5×7.5cmの憩室を認めた.症状を有し,最近になり増強してきたため,外科治療の適応と考え,左開胸下に憩室切除術を施行した.病理組織学的には,肥厚した粘膜筋板を認め,固有筋層は全く欠如している仮性憩室であった.憩室切除後は,術前に認めた症状は全く消失した.
  • 笠島 浩行, 三上 泰徳, 野崎 剛, 川嶋 啓明, 三上 光博, 鈴木 英登士, 杉山 譲, 今 充
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1781-1785
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    粘膜下腫瘍の形で発症した食道結核を経験したので報告する.症例は62歳の女性で,嚥下障害,胸骨後部痛を主訴とした.近医による上部消化管透視にて食道に異常を指摘され紹介となった.食道透視にて中部食道に表面平滑な隆起性の病変を認め,内視鏡でも同様の所見が得られ,生検では悪性像は認められなかった.嚥下障害改善のため,食道粘膜下腫瘍の診断で腫瘍核出術を施行した.術中迅速組織診断で結核性肉芽腫の診断を得た.術後はINH, RPFを投与し,経過は良好である.食道粘膜下腫瘍の鑑別診断の一つとして食道結核も念頭に置くことが必要と思われた.
  • 佐藤 太一郎, 浅野 英一, 秋田 幸彦, 芥川 篤史, 橋本 瑞生, 佐々木 英二
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1786-1788
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は16歳,男.来院の数日前から,嚥下時に胸骨後面に疼痛あり.胸部,腹部には理学的に異常なく,臨床検査成績でも異常所見なし.
    食道内視鏡検査では,門歯から30cmの所に直径約1cmのやや楕円形の潰瘍A2~H1を認めた.周辺はやや隆起し,その中に境界明瞭な潰瘍を認めた.
    直ちに入院とし,絶食,中心静脈栄養を行い,制酸剤と粘膜保護剤を経口投与した.第17病日に全治退院した.その後4カ月,再発を認めていない.
    若年者の食道潰瘍は稀有であり,原因不明の急性食道潰瘍を経験し治癒せしめた.
  • 柴田 直史, 水野 勇, 毛利 紀章, 植田 拓也, 赤毛 義実, 竹山 廣光, 真辺 忠夫
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1789-1793
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回われわれは,大量吐血を来した棍棒状の特異な形態を呈した胃平滑肉腫の1切除例を経験したので報告する.症例は65歳の女性で,乳癌術後にて当科外来通院中であった. 1996年1月20日夕食後大量の吐血を認め,緊急受診し当科にて緊急内視鏡を施行したところ胃のC領域前壁に棍棒状の特異な形態を呈した胃粘膜下腫瘍を認めた.検査時はすでに出血は止まっていたが,腫瘤先端部には潰瘍を認め,周辺に発赤の強い炎症所見を伴っていたが他に出血源を認めなかったことより,この潰瘍部からの出血と思われた.
    1996年2月14日胃部分切除術を施行し腫瘤を摘出した.摘出標本は, 27×21×58mmの棍棒状の特異な形態を呈した稀な,胃内発育型の腫瘤で,病理組織診断にて,胃平滑筋肉腫と診断された.このような形態を呈する胃内型の胃平滑筋肉腫症例の報告はわれわれの調べ得た範囲においては認められず,非常に稀な症例であると思われ,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 榊原 敬, 岡田 豪, 野口 肇, 落合 匠, 安田 一彦, 森脇 稔, 杉谷 通治, 豊田 忠之
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1794-1798
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胃所属リンパ節にサルコイド反応の見られた胃癌の1例を経験した.サルコイド反応の見られたリンパ節,および胃癌組織,その周囲組織にTリンパ球の浸潤が認められた.さらに末梢血でTリンパ球を主体とした活性型リンパ球の増加が見られた.このことからTリンパ球が活性化していると考えられ,サルコイド反応を介した腫瘍免疫が成立している可能性が示唆された.
  • 吉松 和彦, 矢川 裕一, 石川 信也, 田畑 良夫, 芳賀 駿介, 梶原 哲郎
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1799-1802
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    腹部手術後の合併症の中でも術後イレウスは比較的多く遭遇する合併症であるが,その原因は癒着に起因するものがほとんどである.今回われわれは虫垂炎術後経過中に2度イレウスを発症した症例を経験した.初回は癒着が原因であり,次回は稀な空腸空腸型の腸重積症が原因となっていた.腸重積の原因は小腸漿膜同士の癒着による屈曲部が先進部となったと考えられた.
  • 長 晴彦, 塩澤 学, 深野 史靖, 田村 功, 鈴木 紳一郎
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1803-1807
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は45歳女性.悪心,右下腹部痛を主訴に来院.来院時右下腹部に手拳大の腫瘤を触知したため,腹部CT検査を施行され,脂肪腫による腸重積症が疑われた.高圧浣腸にて整復されなかったため,開腹手術を施行し,回腸末端脂肪腫による腸重積が確認された.成人腸重積症は特有症状に乏しく,長期経過をたどる例も多いが,診断にはCT検査が有用であり,早期診断が期待できる.
  • 木下 敬弘, 森田 克哉, 大村 健二, 吉羽 秀麿
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1808-1811
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は87歳女性,腸閉塞症状を訴え来院し,既に軽度の腹膜刺激症状を伴っていた.腹部CT検査にて上腸間膜動静脈を中心に小腸と腸間膜が渦巻き状に巻き込まれる像を認め小腸軸捻転症と診断,来院3時間後に緊急開腹手術を施行した.術中所見では空腸起始部から回腸末端までの小腸全体が上腸間膜動脈を中心に時計方向に360°軸捻転していた.回盲部はほぼ正常位置にあったが,十二指腸空腸移行部は上腸問膜動脈の右側にありトライツ靱帯は形成されておらず,腸回転異常を認めた.捻転解除のみを施行し手術を終え,術後経過は良好であった.
    腸回転異常症では成人後の発症は稀であり診断に難渋する場合が多い.予後の向上には早急な診断と手術が不可欠と考えられるが,本例の場合,特徴的CT所見から早期診断のうえ87歳という高齢にも関わらず救命し得ることが出来た.
  • 腸間膜動脈閉塞症との鑑別
    白石 好, 金井 歳雄, 才川 義朗, 会澤 健一郎, 大芝 玄, 川野 幸夫, 夏 錦言, 石川 廣記
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1812-1816
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    抗凝固剤による腸壁内血腫は比較的まれな疾患である.今回われわれは抗凝固療法中に腸壁内血腫をきたした1例を紹介し,特に腸間膜動脈閉塞との鑑別点を中心に考察した.症例は70歳の男性で以前より閉塞性動脈硬化症と診断され,ワーファリン内服治療されていた.腹痛,嘔吐にて当院受診し,白血球増多,凝固能の低下を認め,腹膜刺激症状から腸間膜動脈閉塞による腸壊死を疑い,同日緊急開腹術を施行した.術中所見では, Treitz靱帯より5cmの部位から約60cmにわたる空腸が,部分的に腫大し赤黒く変色しており,腸壊死に類似した所見であった.腹腔内出血は鮮血性であり,術中に気道出血,血尿など著しい出血傾向も認められた.病理組織学的検査では,粘膜下層の著しい血腫形成を認め,腫壁内血腫と診断した.術前の造影CTで小腸壁は“三層ドーナツ所見”を呈しており,特徴的な所見と考えられた.
  • 白川 靖博, 成末 允勇, 金 仁洙, 大崎 俊英, 宇田 憲司, 室 雅彦, 井谷 史嗣
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1817-1821
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    虫垂憩室は比較的稀な疾患であり,急性虫垂炎として手術され,術中,術後の検索で診断されることが多い.今回われわれは,急性虫垂炎と診断された4例と,上行結腸癌に合併した1例の虫垂憩室を経験したので報告する.症例1, 2は穿孔性虫垂炎による腹膜炎の診断にて開腹,症例3, 4は急性虫垂炎の診断にて手術を施行した. 4例とも術後切除標本にて虫垂憩室症と診断された.症例5は上行結腸癌に合併したものであり,術前の注腸検査にて診断され,手術を施行した.
    虫垂憩室炎は他の結腸憩室炎,虫垂炎に比較し,穿孔率が高く,無症状で発見された虫垂憩室についても手術を考慮する必要があると考えられた.
  • 森 茂, 横尾 直樹, 北角 泰人, 山口 哲哉, 東 久弥, 米沢 圭
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1822-1825
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は82歳の女性,腹痛と嘔吐を主訴に当院を受診した.腹部理学的所見にて右季肋部に鶏卵大弾性硬の腫瘤を触知し,また,腹膜刺激症状を認めた.腹部単純X線検査では小腸ガスとニボーを,超音波検査ではmultiple concentric ring signを認め,加えて血液生化学的検査にて炎症反応と脱水所見を呈していたことより,絞扼性イレウスを伴った腸重積と診断した.即日開腹術を施行したところ,手術所見で虫垂粘液嚢胞が先進部となった結腸型腸重積と判明し,回盲部切除術を施行した.病理組織学的に虫垂粘液嚢胞腺腫と診断された.
    虫垂粘液嚢胞による腸重積を超音波検査にて診断し,即刻開腹術を施行して良好な結果を得た症例を報告した.
  • 川口 道也, 小笠原 敬三, 高三 秀成
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1826-1828
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    原発性虫垂癌にgoblet cell carcinoidを合併した1例を経験したので報告する.症例は62歳の女性.右下腹部痛を主訴に近医受診後,当科紹介となる.回盲部に圧痛およびBlumberg症候を認め,同部に腫瘤を触知した.回盲部腫瘍の診断にて,全身麻酔下に開腹手術を施行した.虫垂の発赤腫大を認め,虫垂癌を疑い回盲部切除およびリンパ節郭清を施行した.病理組織学的検査の結果,虫垂全域に高分化型腺癌が見られ,同時に虫垂先端部にgoblet cell carcinoidのsolidな増殖巣があった.
    虫垂のgoblet cell carcinoidは,稀な疾患で本邦では自験例を含め56例の報告があるが,原発性虫垂癌との合併例はなかった.
    外来にて経過観察中, 14カ月後に肝転移をきたし肝右葉切除を行った. Goblet cell carcinoidの転移であった.
  • 土屋 泰夫, 中村 利夫, 梅原 靖彦, 佐野 佳彦, 大久保 忠俊, 新井 冨生
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1829-1832
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    稀な大腸腺扁平上皮癌の1例を経験したので報告する.症例は64歳女性で,腹痛を主訴に受診した.慢性腎不全にて人工透析治療中突然腹痛出現し,急性腹症の診断にて緊急手術となった.開腹すると多量の腹水と拡張した盲腸を認めた.さらにその肛側の上行結腸にほぼ全周性の腫瘍を認めたが,腹膜播種,肝転移は無かった.右半結腸切除術により腫瘍を摘出した.切除標本では上行結腸に2型の腫瘍を認め,病理組織学的に腺扁平上皮癌と診断された.漿膜下層に達する進行癌であったが,リンパ節転移は認めなかった.大腸腺扁平上皮癌は通常の腺癌に比べ右側結腸に多く発生し,進行例が多いことから,より厳重な対応が必要と考えられた.
  • 山下 和城, 浪花 宏幸, 大塚 昭雄
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1833-1836
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    特発性門脈圧亢進症(以下, IPHと略記)の脾摘後に門脈血栓症および肝多発梗塞をきたした症例を経験したので報告する.症例は63歳,女性.食道静脈瘤の精査でIPHと診断され,脾摘術を施行された.術後7日目まで良好に経過したが, 8日目に発熱および肝機能検査で異常をきたした. CT検査,超音波検査にて門脈血栓症および肝多発梗塞と診断された.その後ジピリダモールの内服にて良好に経過した.肝は門脈,動脈の二系統支配のため梗塞はきたしにくいとされており,脾摘後門脈血栓により肝の多発梗塞をきたした報告例はほとんどない. IPHは脾摘後門脈血栓を高率にきたすため,術後早期から血小板凝集抑制剤などの予防的投与が必要と考えられた.
  • 松崎 圭祐, 戸田 智博, 川野 豊一, 三浦 修, 南園 義一, 長崎 進
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1837-1840
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    近年,切除不能な転移性肝癌に対して動注化学塞栓療法(以下TACE療法)が積極的に施行されるようになり,有効例の報告も増加しつつある.今回われわれは乳癌術後の急速に増大する多発性肝転移症例に対して, 1度のTACE療法にて3カ月後に画像検査上完全消失した著効例を経験したので報告する.症例は47歳,女性.平成5年2月4日に他施設にて乳癌手術施行.術後ホルモン療法を受けるも局所再発し,転院.転院先で肝転移を指摘され,化学療法,免疫療法を受けるも効なく,肝転移巣の急激な増大を認め,当センター受診.肝転移巣に対して10月20日, TACE療法(MMC 10mg, ADM 10mg, CDDP 30mg, Lipiodol 20ml)を施行.転移巣の急激な縮小を認めたために,局所再発巣の切除,両側卵巣摘除術に加えて全身化学療法を施行した.肝転移巣はTACE療法3カ月後にはCT上ほぼ完全に消失し,約6カ月間コントロールし得た.乳癌の肝転移に対しても積極的なTACEが有効と考えられた.
  • 清原 薫, 小杉 光世, 笠島 史成, 家接 健一, 片田 正一, 山下 良平, 酒徳 光明, 中島 久幸
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1841-1845
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は63歳男性.主訴は上腹部痛.心窩部に弾性軟,表面平滑で圧痛を伴う腫瘤を触知.血液検査は腫瘍マーカーを含め異常なし.腹部USおよびCTで肝外側区域に辺縁が一部充実性の嚢胞性腫瘤を認めた.この充実性部分は造影CTでenhanceされ,血管造影では細血管の断裂と濃染を示した. ERCPでは胆管と嚢胞の交通はなかった.肝嚢胞腺癌と考え手術を施行.腫瘤の肝実質への浸潤はなく,外側区域切除で摘出可能であった.嚢胞内容は透明な粘液で,嚢胞内腔に向かって乳頭状の腫瘍が増殖し,その一部に出血が見られた.病理組織検査で乳頭状増殖部位の異型細胞と嚢胞壁の立方上皮との間にtransitional portionを認め,単純性肝嚢胞から癌化した肝嚢胞腺癌と考えた.
  • 小川 真平, 御子柴 幸男, 糟谷 忍, 平山 芳文, 宮崎 正二郎, 亀岡 信悟
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1846-1851
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は64歳女性.人間ドックで肝機能異常を指摘.腹部超音波, CTで肝門部に充実性成分を有する3.5cm大の多房性嚢胞性腫瘍を認めた. ERCでは右肝管は造影されず,右肝内胆管拡張と左肝管圧排伸展像を認めた.腹部血管造影では尾状葉枝の圧排伸展像を認めた.画像所見から肝門部に主座を置く嚢胞性腺癌を最も疑い,経皮経肝門脈塞栓術後,拡大右葉切除,胆管切除,左肝管空腸Roux-Y吻合術を行った.腫瘍は右肝管を巻き込み,一部右肝管腔内に突出するが,大部分は左右肝管合流部から右肝内第1次分岐部までの胆管壁外に存在し,病理組織学的に高分化型乳頭状腺癌で嚢胞内に限局していた.肝門部に主座を置く嚢胞性腺癌は自験例を含めて5例を数えるに過ぎず稀である.左右肝管は肝実質に接し肝内胆管と連続しているため,原発部位が不明瞭になることも少なくない.治療は腫瘍と十分な距離をもった肝切除,胆管切除,リンパ節郭清が必要と思われた.
  • 船戸 善彦, 片岡 誠, 田中 宏紀, 呉山 泰進, 伊藤 由加志, 春木 伸裕, 小西 昭充, 雪上 晴弘
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1852-1855
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    49歳の男性が熱帯諸国旅行時に熱帯熱マラリアに感染した.症状は重篤で高度の発熱と貧血および血小板減少をきたした.抗マラリア剤が奏功し, 18日間で末梢血にマラリア原虫は証明されなくなり,マラリアは治癒したが,その約1週間後に右季肋部痛を訴えた.腹部超音波検査では,胆嚢壁の肥厚とデブリスの充満を認めた.急性胆嚢炎と診断し,胆嚢摘出術を施行した.胆嚢周囲には炎症が強く,内腔は粘性黒色のデブリスで占められていた.大量の急性溶血により,細網内皮系で処理されたヘモグロビンの代謝産物である間接ビリルビンが肝臓で直接ビリルビンとなり,胆道へ排泄され,胆嚢内で水分を吸収されデブリスを形成して,胆嚢炎を発症させた可能性がある.
  • 亀井 英樹, 篠崎 広嗣, 柳瀬 晃, 田中 真紀, 磯辺 真, 白水 和雄
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1856-1859
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    総胆管結石を合併した先天性胆嚢欠損症の1例を経験した.症例は70歳の男性で,上腹部痛と黄疸を主訴に近医を受診.超音波検査にて総胆管結石による閉塞性黄疸と診断され当科へ紹介となった.入院後,減黄目的に直ちにPTCD施行.画像検査では,総胆管の拡張と総胆管結石を認めるも胆嚢は描出されなかった.入院時血清CA19-9値は68,920U/mlと異常高値を認めたが,減黄後は357U/mlまで低下し,胆汁細胞診では悪性細胞を認めなかった.以上より総胆管結石を伴う高度の胆嚢萎縮,または胆嚢欠損症を疑い手術を施行した.開腹所見では,肉眼的にも術中超音波検査においても胆嚢および胆嚢管は認めず,総胆管結石術を施行した.先天性胆嚢欠損症は比較的まれな胆道奇形の1つであり,本邦では自験例を加え108例の報告をみた.今後,術前画像診断で胆嚢の存在が明らかでない場合,本症も考慮に入れる必要があると思われた.
  • 和久 利彦, 上塚 大一, 渡辺 直樹, 森 隆, 椎木 滋雄, 中井 肇, 折田 洋二郎, 原藤 和泉
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1860-1863
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    胆嚢原発印環細胞癌の1例を報告する.症例は71歳の男性で,右季肋部痛を主訴に近医を受診し,胆石胆嚢炎で当科紹介入院となった.腹部CT検査,腹部超音波検査で胆嚢の壁肥厚,結石を認め,胆石胆嚢炎の術前診断で開腹術を施行した.開腹時所見では緊満した胆嚢と周囲の癒着を認め,胆嚢摘出術を施行した.切除標本では胆嚢全体の壁肥厚は著明で,結石が頸部に嵌頓していた.病理組織診断では,印環細胞が胆嚢全体の粘膜下に広がり,漿膜下層までの浸潤像を呈していた.胆嚢癌の診断を得たため,根治手術を目的とした肝床切除,胆管切除, R1郭清を施行した.胆嚢原発印環細胞癌は切除例における全国統計でも頻度が低く,報告例も少ない.生物学的悪性度が高く,予後不良と考えられている.自験例のように炎症性変化を伴った浸潤型胆嚢癌は術前診断が困難であるが,胆石胆嚢炎では癌の合併を念頭においた術中迅速病理診断が必要と思われた.
  • 江本 健太郎, 高橋 忠照, 加藤 良隆, 呑村 孝之, 大森 一郎, 林 始, 岩本 俊之, 藤崎 成至
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1864-1868
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は56歳,男性.主訴は体重減少と心窩部痛.進行胃癌として紹介され入院したが,ネフローゼ症候群を合併しており,尿タンパク8.04g/dayであった.術前よりアルブミン, FFPの投与を行い,胃亜全摘術,腎生検を施行した.術後も引き続きアルブミン, FFPの投与を行ったが, 2週間目より尿タンパクの減少を認め, 3カ月目には3.9となった.組織学的に,胃は低分化~中分化型腺癌であり,腎は膜性腎症であった.組織学的にCEAの糸球体への沈着は明らかではなかったものの,臨床上, CEA免疫複合体と膜性腎症との関連が強く示唆された.膜性腎症を呈する症例で胃癌切除により,ネフローゼ症候が改善された症例はわれわれが調べ得た限りでは,本邦で8例目である.腎組織学的所見が膜性腎症であったものに限れば,手術が施行された全例,術後にネフローゼ症候が改善されていた.
  • 大谷 昌道, 羽生 信義, 鈴木 裕, 青木 照明
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1869-1872
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    褐色細胞腫のうち悪性例の頻度は約10%とされているが,術前に多臓器転移を伴う症例では確立された治療方法はない.われわれは巨大悪性褐色細胞腫と,そこに混在する低分化な神経内分泌腫瘍,およびその肝転移というまれな症例を経験した.症例は37歳の男性,左側腹部痛を主訴に来院した.初診時,後腹膜に径17cm大の巨大腫瘤を認めた.高血圧発作を伴い,また精査の結果褐色細胞腫と診断された.さらに,肝臓に散発する腫瘤を認めるため悪性褐色細胞腫と判断した.腫瘤摘出術を施行し,術後の病理組織学的検査にて褐色細胞腫と低分化な神経内分泌腫瘍の混在という診断を得た.肝転移巣には低分化な神経内分泌腫瘍のみが存在していた.
    褐色細胞腫の発生起源は不明であるが,その発生原因に関連のある神経内分泌腫瘍を合併する貴重な症例を経験したので報告する.
  • 吉龍 正雄, 中尾 量保, 仲原 正明, 荻野 信夫, 前田 克昭, 弓場 健義, 黒住 和史, 野村 昌哉, 成田 匡志, 辻本 正彦
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1873-1877
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    デスモイド腫瘍は大腸腺腫症の併存や腹部手術の既往を有する症例の四肢や腹壁に発生することが多い.今回われわれは,大腸腺腫症や腹部手術既往のない腸間膜デスモイド腫瘍の1例を経験したので報告する.症例は28歳,男性.主訴は腹部腫瘤.右下腹部に手拳大,弾性硬の腫瘤を触知した.腹部CT検査にて下腹部に8×6cm大の境界明瞭な腫瘤を認めた.注腸造影では異常を認めず,腸間膜由来の腫瘍の診断下に開腹術を施行した.回盲部の腸間膜に尿管の一部を巻き込むように存在する11×7×6cm大の腫瘤を認め回盲部切除術を行った.病理組織像は,異型性の乏しい紡錐細胞が膠原線維の増生を伴い錯綜して増殖していた.自験例のように大腸腺腫症の併存や腹部手術の既往を認めず単独発生した腸間膜デスモイド腫瘍の本邦報告例は11例と稀であった.
  • 長谷川 久美, 植竹 宏之, 河原 寛人, 家城 和男, 松崎 淳, 深山 泰永, 仁瓶 善郎
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1878-1882
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は39歳女性.腹部腫瘤,腹痛,熱発を主訴に来院. WBC, CRP, LDHの上昇を認め,臍上部に手拳大の硬い腫瘤を触知,腹部超音波およびCT検査にて,同部に他臓器と連続性のない径9cmの辺縁不整な腫瘤性病変を認めた.血管造影では腫瘍の部位に一致した血管圧排像と,その左側に濃染像を認めた.入院3日後に炎症症状は消退し, 15日後腫瘤は径4cmに縮小していた.開腹すると腫瘍は5×4×4cm大で腸間膜根部に存在し,周囲の小腸間膜は広範囲にわたり著明に肥厚していた.腸間膜にはこの他に散在性に小指頭大の腫瘤を認めたが,前記の最大の腫瘍のみ摘出した.病理組織学的診断は,悪性リンパ腫(diffuse, large cell type)であった.今回われわれは,自然経過において腫瘍が縮小するという,稀な経過を示した腸間膜悪性リンパ腫の1例を報告するとともに,本疾患の本邦報告51例を検討し,若干の考察を加えた.
  • 山口 和哉, 三島 秀雄, 岩橋 秀幸
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1883-1886
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は44歳,女性. 1995年10月26日夜,上腹部痛を訴え来院した.理学的所見に異常を認めなかったが,腹部超音波検査で胆嚢内結石と胃背側に存在する嚢胞状病変を認めた.一般検血,生化学的検査および腫瘍マーカー(CEA, CA19-9)はすべて正常範囲内であった. 11月22日胆嚢および嚢胞状病変摘出を目的に手術を施行した.上腹部正中切開で開腹,膵臓の頭側,腹部大動脈の左側の後腹膜に線維性に癒着した嚢胞を認めた.嚢胞の表面は平滑で,内容は淡黄色の粘調な粘液であった.組織学的検査で気管支性嚢胞(bronchogenic cyst)と判明した.
    気管支性嚢胞は縦隔および肺実質内に発生することがほとんどで,後腹膜にみられることは極めて稀である.
  • 市場 洋, 阿岸 鉄三, 奥田 比佐志, 龍治 修, 中沢 速和, 東間 紘
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1887-1891
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    von Recklinghausen病(以下VRD)は,全身にみられるcafe au lait spotsと多発性神経線維腫を主徴とし,その他中枢神経疾患など全身に多彩な随伴病変を合併することで知られている.われわれはVRDに合併した巨大後腹膜平滑筋肉腫の1例を経験したので,文献的考察を加え報告する.
    症例は30歳男性. 2年前皮膚科でVRDと診断された.成人病検診にて腹部腫瘤を指摘され当科受診した.腹部エコー, CT,血管造影より左後腹膜腫瘍と診断し,腫瘍摘出術を施行した.腫瘍は左腸腰筋を背側より持ち上げるように存在し, L2~4の神経根部との連続性が認められたため,神経を損傷しないよう途中切断した.病理所見,免疫染色の結果,平滑筋肉腫と診断した.断端の腫瘍細胞は(-)であった.
    VRDに合併した消化管平滑筋肉腫は従来より報告されているが,後腹膜平滑筋肉腫は極めてまれである.
  • 中川 英刀, 川崎 富夫, 左近 賢人, 門田 守人
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1892-1896
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    症例は80歳男性で,右足の間歇性跛行を主訴に入院した. APIは0.39と低下しており, CTにて約3cmの右腸骨動脈瘤を認めた.しかし術前の血管造影を拒否したため, 3D-Helical CTとMR Angiographyにて,その代用とした.両検査の所見は,右腸骨動脈瘤,右外腸骨動脈狭窄,右内腸骨動脈閉塞で大動脈には異常はなかった.そこで瘤切除,大動脈-総大腿動脈バイパスの計画のもと,後腹膜経路で手術を施行し,手術所見は術前検査どおりで,予定どおりの手術を行えた.血管外科の術前診断として侵襲的な血管造影は必要不可欠な検査とされてきた.しかし最近のHelical CTとMRAの進歩により,従来の血管造影と比べても遜色のない精度をもち,その数種類の画像処理方法により多くの情報が得られ,かつ低侵襲性・経済的であり,腹部大動脈,腸骨動脈瘤の術前診断において,血管造影検査の代用となり得ると考える.
  • 石田 敦久, 田淵 篤, 正木 久男, 森田 一郎, 遠藤 浩一, 藤原 巍
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1897-1901
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    交通事故による外傷性膝窩動脈損傷の3例を経験した. 1例は脛骨骨折, 2例は膝靱帯損傷を合併し, 3例ともに自家静脈で再建,救肢し得た.減張切開は2例に施行, 1例は術後MNMS (myonephropathic metabolic syndrome)を併発したが,血液濾過にて救命し得た.本疾患は,他の四肢動脈損傷に比べ,肢切断率が高いため早期診断,早期治療が重要で,積極的な筋膜切開と同時に血行再建後もMNMSの発生に十分注意を払い,予兆がみられれば,ただちに血液濾過などの対策を講じる必要がある.
  • 尾原 秀明, 松本 賢治, 林 忍, 原田 裕久, 森末 淳, 北島 政樹
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1902-1906
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    病因の明らかでないいわゆる非特異的血管炎によると思われる,まれな高位腹部大動脈閉塞症の1例を経験したので報告する.症例は46歳,男性. 38歳時より軽度の両下肢間欠性跛行を自覚し,他院にてBuerger病が疑われるも放置していた.その後,症状の増悪を認めたため精査加療目的にて当科入院となった.血管撮影検査にて腎動脈直下腹部大動脈より両側腸骨動脈全域に閉塞像を認め, CT検査では腹部大動脈壁の強い石灰化と血栓性閉塞像を認めたため,粥状硬化症が疑われた.手術は腎動脈直下腹部大動脈を血栓内膜切除した後,両側大腿動脈までのY字グラフトバイパス術を施行したが,大動脈周囲に著しい炎症所見を認めた.腹部大動脈壁の病理組織学的検査では大動脈炎症候群と診断された.しかし,臨床的には同疾患などと特定するのは困難で,いわゆる非特異的血管炎や粥状硬化症の一分症とも想定された.
  • 西森 秀明, 山城 敏行, 広瀬 邦彦, 福冨 敬, 小越 章平
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1907-1912
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    難治性皮膚潰瘍のため2年余にわたる局所処置を受けてきた閉塞性動脈硬化症例に対し,遠位部後脛骨動脈バイパス術を施行したところ速やかに潰瘍が縮小治癒した症例を経験したので報告する.症例は56歳男性. 51歳時すでに左下腿切断術を受けていた. 54歳時より右足背および趾間に潰瘍が出現し,処置を施行されるも難治性のため血行再建術を依頼された.血管造影では右膝窩動脈は膝上部で高度狭窄を呈し,膝下部で完全閉塞.側副血行によって後脛骨動脈および腓骨動脈の末梢が造影されていた. in situ大伏在静脈グラフトを用いて膝上部膝窩動脈から遠位部後脛骨動脈までのバイパスを行ったところ,皮膚潰瘍は術後36日目に治癒し患趾切断を免れた.虚血性皮膚潰瘍が難治性の場合, salvage目的での下腿動脈バイパス術は積極的に行われるべきである.
  • 倉橋 伸吾, 沢井 博純, 山中 雄二, 神谷 厚, 真辺 忠夫
    1997 年 58 巻 8 号 p. 1913-1919
    発行日: 1997/08/25
    公開日: 2009/02/10
    ジャーナル フリー
    今回,われわれは術前に胃,腎の同時性重複癌と診断し,一期的に切除した2例を経験したので報告する.症例1は胃癌と診断され,腹部CTにて偶然右腎癌が発見された.また症例2は,右腎癌と最初に診断されたが,十二指腸への浸潤を検索する目的で行った内視鏡にて,やはり偶然胃癌が発見された. 2症例とも一期的に胃切除,腎摘出術を施行した.術前より胃・腎同時性重複癌と診断され,一期的に切除された症例は自験例を含め21例にのぼる.若干の文献的考察を加え報告する.
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