臨床血液
Online ISSN : 1882-0824
Print ISSN : 0485-1439
ISSN-L : 0485-1439
56 巻, 10 号
選択された号の論文の47件中1~47を表示しています
第77回日本血液学会学術集会 教育講演特集号
造血システム/造血幹細胞
1 (EL-42)
  • 田村 智彦, 小泉 真一, 黒滝 大翼
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1861-1870
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    造血幹細胞が前駆細胞を経て,同一のゲノム配列を持ちながらも機能の異なる様々な血液細胞に分化するには,転写因子による細胞種特異的な遺伝子発現パターンの確立が重要である。そして遺伝子転座や変異による造血系転写因子の異常は白血病や免疫不全等の疾患を引き起こす。転写研究は,全ゲノムクロマチン免疫沈降シーケンシング(ChIP-seq)やRNA-seq等の網羅的分析技術が集結し,新たな時代に入っている。本総説ではミエロイド系特に単核貪食細胞系(単球・マクロファージや樹状細胞)への分化に焦点をあて,転写因子の働きをクロマチンの観点を含めて概説する。転写因子が協調あるいは拮抗しながらネットワークを構成し,プロモーター遠位のエンハンサー形成や活性化を調節することで遺伝子発現を調節し細胞の個性を決定することがはっきりして来た。
2 (EL-6)
  • ―白血病幹細胞を中心として―
    江口 真理子, 石前 峰斉, 石井 榮一
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1871-1881
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    白血病発症機構の理解は白血病幹細胞の概念により大きく進展した。白血病幹細胞は全ての白血病細胞が派生しうる幹細胞としての能力を有する一群の細胞で,免疫不全マウスに白血病を再現できる細胞群(leukemia-initiating cell)として表現される。急性骨髄性白血病(AML)では白血病幹細胞は白血病細胞集団内にごく少数存在し,CD34+CD38-という正常造血幹細胞に類似した細胞形質を示す。一方小児の急性リンパ性白血病(ALL)を用いた研究ではCD19陽性のより分化した細胞群が白血病幹細胞としての活性を有しており,病型により白血病幹細胞にも多様性が認められることが報告されている。白血病幹細胞を頂点とした階層性(hierarchy)を形成するAMLとは対照的に,ALLではCD19陽性の白血病幹細胞が,自己複製能を同様に有する下流の白血病幹細胞を形成すると考えられ,その進展様式は確率論モデル(stochastic model)に従うと考えられている。白血病の再発予防や予後改善のために,白血病幹細胞に関する研究の今後の進展が待たれる。
3 (EL-5)
  • 田久保 圭誉
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1882-1887
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    幹細胞は自己複製能と多分化能を発揮するために代謝プログラムを起動し,必要に応じてエネルギー通貨ATPや代謝産物の産生を行う。近年ニッチにいる各種の臓器幹細胞や,ES細胞やiPS細胞といった多能性幹細胞では,分化細胞とは異なった代謝プログラムを保持していることが見出された。そして,代謝プログラム自体が未分化性維持や自己複製能,細胞周期制御などに必須の働きを果たしていることが知られつつある。こうした幹細胞固有の代謝プログラムの統合的な理解は,幹細胞の人為的な増幅法の開発や,分化細胞の効率の良い産生といった技術開発やがん幹細胞を標的とした治療法の策定にも貢献しうる重要な視点である。
4 (EL-43)
  • 國崎 祐哉
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1888-1893
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    造血幹細胞の多くは,定常状態において,細胞周期静止期にあるが,必要に応じて自己増殖または,すべての血球系統に分化する機能を持つ造血器特異的幹細胞である。このような造血幹細胞の運命決定は,「造血幹細胞ニッチ」と呼ばれる機能的に特殊な骨髄微小環境によって厳格な制御を受けていると考えられている。これまでの多くの研究により,様々な非血液細胞がニッチを構成していることが明らかとなっているが,骨髄内における静止状態の造血幹細胞の局在は,議論の的であった。我々は,レーザースピニングディスク共焦点顕微鏡を用いた骨髄ホールマウントイメージング技術を開発し,静止状態にある造血幹細胞は,骨髄中の骨内膜下に多く存在する細動脈周囲に存在していること(細動脈性ニッチ)を明らかにした。この新しいイメージング技術を用いて得られた知見とこれまでの報告をふまえ,造血幹細胞ニッチの新たなモデルについて議論する。
赤血球系疾患
5 (EL-46)
  • 亀崎 豊実
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1894-1902
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    溶血性貧血とは,赤血球がなんらかの原因で約120日の寿命に達する前に壊れること(溶血)により貧血を来した状態である。貧血と黄疸を認め,溶血を疑った担当医の次の一手は何か? 溶血性貧血の病態に基づいた診断アルゴリズムによるスムーズな鑑別診断と必要に応じて専門家へのコンサルトが期待される。溶血性貧血の治療としては,輸血以外には病態や基礎疾患によりさまざまであり,包括的な治療法は存在しないことから,診断の確定が治療法選択や予後の推定に重要となる。溶血をきたす各病態・疾患について,その診断法と治療法を概説した。
6 (EL-13)
  • 生田 克哉
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1903-1913
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    通常,生体内での鉄の動きは厳密に制御されているが,鉄の全体量が減ってしまうと鉄欠乏性貧血が生じるし,鉄代謝調節因子ヘプシジンが炎症などで過剰産生されると鉄の造血への利用が障害され慢性疾患に伴う貧血が生じる。逆に,背景に貧血が存在することで鉄過剰症という問題が生じる場合があり,例として遺伝性難治性貧血であるサラセミアが挙げられ,重度の貧血に対して行う赤血球輸血が長期間にわたることでさらに大量の鉄が体に負荷され鉄過剰となり,臓器障害を起こし予後にも関与してくる。一方,鉄過剰という状態そのものが造血を抑制して貧血をもたらしている可能性がある。例として,輸血依存性であった骨髄異形成症候群や再生不良性貧血が輸血後鉄過剰症となった場合に鉄キレートを行うことで,背景に存在していた輸血依存性が回復する現象が注目されている。このように,各種貧血において鉄代謝は非常に密接に結びついている。
7 (EL-32)
  • 矢部 みはる, 矢部 普正
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1914-1921
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    遺伝性骨髄不全症候群(inherited bone marrow failure syndrome, IBMFS)は家族歴とともに特徴的な外表奇形や内臓奇形を伴い,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome, MDS)や急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML), 固形がんを合併する稀な疾患群である。ゲノム学の発展によりそれぞれの責任遺伝子が同定され,造血不全との関与が明らかになってきており,各疾患の責任遺伝子の同定は的確な病気の診断や管理に寄与している。本稿ではIBMFSの中でも代表的なFanconi貧血,先天性角化不全症,Shwachman-Diamond症候群,Diamond Blackfan貧血を中心に,診断と治療のポイントとわが国の症例の臨床的特徴についても紹介する。
8 (EL-31)
  • 廣川 誠
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1922-1931
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    赤芽球癆は造血幹細胞の機能不全に基づく難治性貧血のひとつであり,骨髄における赤血球系造血の選択的減少とそれに起因する網赤血球の減少および正球性正色素性貧血を呈する疾患である。赤芽球癆は大まかに先天性と後天性に区分され,後天性は原因を特定できない特発性と,何らかの基礎疾患に伴う続発性がある。また,臨床経過から急性と慢性に分類される。本邦で多い後天性慢性赤芽球癆の3大病因は,特発性,胸腺腫およびリンパ系腫瘍である。急性赤芽球癆の多くは薬剤性あるいはウイルス感染症に伴うものであり,被疑薬の中止および1カ月間の経過観察に伴って貧血の改善をみることが多いが,一方,特発性赤芽球癆および基礎疾患に対する治療によって貧血が改善しない続発性慢性赤芽球癆においては免疫抑制療法が適応となる。しかも,免疫抑制療法が奏効した場合,多くは長期間の寛解維持療法が必要となるため,赤芽球癆の病因診断は極めて重要である。
骨髄系腫瘍:AML
9 (EL-26)
  • 今井 陽一
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1932-1941
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)は,FAB分類による形態・細胞組織化学的評価に加え,発症の原因となる遺伝子異常に基づき病態を評価し治療方針を立てることが可能になりつつある。まず,AMLの染色体異常について予後良好・中間・不良群の3群に分ける試みがされてきた。約半数を占める中間群のうち,約8割は染色体異常を有さない正常核型である。近年,正常核型AMLにおいて多くの遺伝子異常が見出された。そのなかでもNPM1CEBPAFLT3遺伝子異常は予後との関連性について新たな知見が得られている。AMLの治療戦略についても,染色体異常に加えこれらの遺伝子異常を評価し,化学療法に加えて同種造血幹細胞移植を施行するか判断するなどより病態に即した治療が試みられている。さらに,FLT3, IDH異常に対する分子標的治療薬が開発され新たな治療戦略につながることが期待される。
10 (EL-25)
  • 横山 明彦
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1942-1949
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    MLL遺伝子上で染色体転座などの遺伝子変異が生じる事で白血病が引き起こされる。1990年代前半にMLL遺伝子の配列が明らかになり,その後,多くの転座パートナー遺伝子の配列も明らかになった。さらに,遺伝子組換え技術やレトロウイルスを用いたマウス白血病モデルが構築されたことが,MLL遺伝子異常を持つ白血病(以下MLL白血病と呼ぶ)の解析を加速させた。その後,DNAアレイを用いた発現解析,次世代シーケンサーによるゲノム解析,shRNAライブラリーを用いた遺伝学的なアプローチ等,新しい技術が開発されるたびに,MLL白血病発症の分子基盤が次々に明らかにされてきた。近年では,分子基盤の理解に基づいた新たな創薬の試みが成されるようになり,将来的な臨床応用が期待される幾つかの低分子化合物が開発されている。本稿では,過去25年あまりの間に急速に明らかになってきたMLL白血病の分子基盤について解説する。
11 (EL-9)
  • 加藤 光次
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1950-1959
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    若年成人の急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)では,アントラサイクリン系薬剤とシタラビンを用いた初回標準療法が確立されており,極めて高い完全寛解が得られる。寛解が得られた予後中間/高リスク群AMLでは,同種造血幹細胞移植で長期予後を期待できる。予後良好/中間リスク群AMLでは,大量シタラビンを用いた化学療法で50~70%の治癒が得られる一方,再発した場合,移植により長期生存を目指す。さらに,化学療法のみでは治癒困難な高齢者AMLでも,reduced-intensity conditioningを用いた移植により近年安定した治療成績が得られはじめている。分子標的薬時代においても尚,移植がAML治療の中で果たす役割は大きい。今後は,近年の基礎研究の進歩から得られている詳細なゲノムやエピゲノム遺伝子変異などを盛り込んだ,より頑強な治療層別化による適切な移植適応の決定が求められている。
12 (EL-10)
  • 伊藤 良和
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1960-1968
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    急性骨髄性白血病(AML)患者の過半数は高齢者で予後は不良である。若年者でも再発・難治例は少なくない。予後因子は,白血病側因子,進行度の他,高齢者では宿主側因子が関与する。認知機能や身体機能を含めた評価を行い,寛解導入化学療法やそれに引き続く造血幹細胞移植の適応を判断する。Cytarabine大量/中等量化学療法やプリンヌクレオシドアナログ併用化学療法は,適応患者に一定の効果が報告されている。Gemtuzumab ozogamicinは単剤の効果が乏しい一方で,化学療法との併用試験の結果に乖離があり,用量や投与スケジュールの工夫が必要と推測される。低用量化学療法は生存率の改善は望めず,DNA脱メチル化薬は一定の効果があるが治癒を望むことはできない。新規治療薬の開発は数多く行われていて,FLT3阻害薬やIDH阻害薬の効果が期待されるが,既存治療を凌駕する治療薬の出現は現時点でみられない。
13 (EL-8)
  • 高木 正稔
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1969-1977
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    生殖細胞レベルでの遺伝子変異により様々の血液腫瘍が発症する。家族性の血液腫瘍を特徴とする疾患であったり,これまで知られていた既知の家族性腫瘍の一つのタイプとしての腫瘍であったりする。原発性免疫不全症は細胞分化障害といった視点からはリンパ系の腫瘍と表裏一体の関係にある。いくつかの骨髄不全症も骨髄系の原発性免疫不全症ととらえることができ,これら疾患もまた腫瘍発症のリスクが高いことが知られている。近年のゲノムワイド関連解析(GWAS)は白血病・リンパ腫発症の関連する多くの遺伝子多型(SNP)を同定してきている。これらSNPの一部は細胞生物学的にも白血病・リンパ腫発症に関連していることが予測され,白血病・リンパ腫発症発症の遺伝的背景が徐々に明らかにされつつある。
骨髄系腫瘍:CML/MPN/MDS
14 (EL-17)
  • ―形態,染色体,ゲノム―
    波多 智子
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1978-1984
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞に生じた遺伝子異常に基づく単クローン性疾患群である。MDSの臨床分類は,血球減少,末梢血および骨髄の芽球比率,血球異形成および染色体異常で規定され,改訂途上にある。異形成判定の精度を向上させるため,IWGM-MDSや厚生労働省の特発性造血障害に関する調査研究班は異形成の質的および量的基準を提言してきた。IWGM-MDSは,最近好中球異形成の新たな基準を発表した。すでに認められている異形成について細かな基準を設け,核クロマチン粗大化・濃縮と核突起の増加を新たに追加した。MDSの約50%に染色体異常が認められる。一部の病型決定に必要であり,5群に分けた分類は重要な予後因子としてIPSS-Rにも用いられる。一方,次世代シーケンサーを用いた解析により,80~90%の患者に何らかの遺伝子異常が認められている。病型や,予後因子としての重要度が明らかになりつつあり,さらなる理解が求められている。
15 (EL-18)
  • ―薬物療法・移植・支持療法―
    鈴木 隆浩
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1985-1995
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    骨髄異形成症候群(MDS)は未分化造血細胞に発生した変異によるクローン性疾患である。主に造血不全による諸症状が問題になる低リスク症例と,腫瘍性増殖・白血化による死亡リスクが問題となる高リスク症例に大別され,前者では主に分化・造血促進療法,後者では抗腫瘍療法が選択される。本総説では現時点で選択されるMDSの治療について,最近の知見を交えて解説する。
16 (EL-48)
  • 久冨木 庸子, 日高 智徳, 下田 和哉
    2015 年 56 巻 10 号 p. 1996-2004
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasm, MPNs)では,JAK2, MPL, CALR変異などのJAK-STATシグナル伝達系を恒常的に活性化させる変異と,TET2, DNMT3Aなどのエピゲノム制御関連遺伝子の異常が生じている。PV, ETの生命予後は比較的良好であり,血栓症予防が治療目標となる。年齢≥60歳,または血栓症の既往が血栓症のリスクファクターであり,いずれかが存在する場合,低用量アスピリン+細胞減少療法を行う。PVではこれに加えて,Ht<0.45を目標に瀉血を行う。本邦の骨髄線維症の予後は生存期間中央値3.9年と不良である。高齢,自覚症状の持続,貧血,末梢血芽球出現などがリスクファクターであり,高リスクに分類される場合,同種造血幹細胞移植を考慮する。移植適応でない場合,JAK阻害剤により脾腫や自覚症状,生命予後の改善が期待できる。
17 (EL-49)
  • 木村 晋也
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2005-2014
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    ABLチロシンキナーゼ阻害剤(TKI),メシル酸イマチニブによって,慢性骨髄性白血病(CML)の治療は劇的に改善された。しかしイマチニブ耐性や不耐容の問題が残った。耐性に関して,ABLキナーゼドメイン内の変異が最も重要な問題であり,ABL TKIのアドヒアランスも重要視されるようになった。ダサチニブ,ニロチニブ,ボスチニブ,バフェチニブの4種類の第2世代ABL TKIsが開発された。バフェチニブを除く3剤は,既に日本でも承認されている。ダサチニブおよびニロチニブは無治療慢性期CMLに対してイマチニブより有効であることが報告された。これら第2世代ABL TKIsもT315Iには無効であり,T315Iにも有効なポナチニブが開発された。このようにCMLの治療の進化は日進月歩であり,さらに一部の症例ではABL TKIを長期中止できることも明らかとなってきた。
18 (EL-34)
  • 小林 幸夫
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2015-2023
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    造血器腫瘍のゲノム異常の解析が行われ,エピゲノム変化を司る酵素異常の発見が相次いでいる。DNAのメチル化とヒストンの修飾に関連すると考えられる酵素の遺伝子異常は,白血病・骨髄異形成症候群,悪性リンパ腫,多発性骨髄腫で発見され,これらの造血器腫瘍の少なくとも一部では遺伝子の発現調節が異常となった結果,分化の異常として腫瘍化が生じていると考えられる。DNAメチル化とヒストン修飾を標的とする酵素阻害剤の開発が進んでおり,in vitroモデルだけでなく臨床試験の結果も,直接的な殺細胞効果ではなく,成熟分化を促すことにより,分化誘導療法を行っていることが示されてきている。
リンパ系腫瘍:ALL/ML
19 (EL-51)
  • 浅野 直子
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2024-2031
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    ホジキンリンパ腫は,1832年英国のThomas Hodgkin医師により最初に報告された疾患で,当初ホジキン病と呼称されていた。近年の細胞生物学的解析により,本疾患の形態学的特徴の一つである大型腫瘍細胞―単核のホジキン細胞と多核のReed Sternberg細胞(HRS細胞)―がB細胞のクローナルな増生であり,胚中心B細胞由来であることが証明されたが,B細胞由来でありながら,B細胞遺伝子の発現の抑制や非B細胞遺伝子の異常発現を示すなど興味深い特徴を有する。またHRS細胞は,特異な表現型にもかかわらずアポトーシスから回避され,さまざまなシグナル経路の恒常的活性化を認めている。本稿では古典的ホジキンリンパ腫の分子病理に関して以下の点に着目して記述する。1) HRS細胞の由来細胞 2) 脱制御性遺伝子発現とそれに関わる 3) 遺伝子異常や 4) エピジェネティック変化,5) B細胞抗原発現低下のメカニズム,6) EBV陽性HRS細胞,7) HRS細胞周囲の微小環境に関して考察する。
20 (EL-1)
  • 早川 文彦
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2032-2038
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    ALLは小児と高齢者に発症のピークを持つ疾患で,小児科,内科それぞれの臨床研究グループにより治療法が開発されてきた。成人ALLは成人臨床研究グループにより,どちらかといえば高齢者の身体事情,腫瘍特性に合わせて治療法が開発されてきた。2000年に思春期・若年成人ALLは小児プロトコールで治療をした方が治療成績が良好である可能性が示されて以来,これを検証したり,小児プロトコールの適用をより高齢の成人にまで拡大してALL全体の治療成績をあげる研究が世界各国で行われている。そうした研究では5年生存率が40%程度であったものが70%近くにまで上昇するという劇的な改善を認めているものもある。本総説ではこのような研究の流れを概説するとともに,小児型治療を用いたALLの治療戦略について解説する。
21 (EL-27)
  • ―治療の進歩とその課題―
    石澤 賢一
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2039-2046
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    濾胞性リンパ腫の治療方針は,限局期,低腫瘍量(無症候性)進行期,高腫瘍量(症候性)進行期の三つに分けて検討される。限局期では放射線療法24 Gyが,標準治療と考えられるが,無治療経過観察(以下WW),rituximab単剤,免疫化学療法の評価が必要である。低腫瘍量(無症候性)進行期では無治療経過観察が標準治療と考えられていたが,rituximab単剤の導入療法の有用性が示唆された。高腫瘍量(症候性)進行期ではrituximab併用化学療法が全生存率を改善した。化学療法としては,CHOP療法,bendamustineが優れていた。Rituximab維持療法は,高腫瘍量(症候性)進行期での有用性が示された。非濾胞性リンパ腫では,原発性マクログロブリン血症でフルダラビンの有用性,MALTリンパ腫でアルキル化剤にrituximabを追加することの有用性が示されたが,更なるエビデンスの蓄積が必要である。新規薬剤ではlenalidomide, idelalisib, ibrutinibで,大規模な臨床試験が実施中である。
22 (EL-28)
  • ―病態の多様性に基づく治療開発―
    宮﨑 香奈
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2047-2055
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)は悪性リンパ腫の約30%を占める最大病型であり,病因論的・臨床病理学的・分子生物学的に不均一な疾患群である。DLBCLの標準治療がR-CHOP療法となり,飛躍的に予後は改善した。しかし依然として約4割の患者は難治もしくは再発することから,R-CHOP療法を超えた新たな治療戦略が求められている。腫瘍細胞の想定由来正常細胞に着目した網羅的遺伝子解析によりDLBCLはgerminal center B-cell like (GCB)とactivated B-cell like (ABC) DLBCLの2群に分別可能で,後者が有意に予後不良であった。これに加え次世代シークエンサー技術が導入され,様々な遺伝子変異や腫瘍に関わるシグナル伝達経路が同定されてきた。これらの異常に対し,新たな治療ターゲットとして治療薬が開発されている。他にもMYCやCD5を始めとした様々なバイオマーカー,予後指標が存在し,将来的には免疫組織学的,遺伝子発現解析を含めた層別化治療,個々に対応しうる治療戦略が求められる。
23 (EL-50)
  • 谷脇 雅史
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2056-2065
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    血液腫瘍の染色体異常はWHO分類の病型診断や治療効果の判定に重要な情報であり,独立した予後因子である。そのような特異的染色体異常は,切断点領域に存在する遺伝子に再構成を起こし,腫瘍化の初期変化に関与している。染色体切断点に存在する遺伝子の微小欠失やDNA切断点の正確な同定にゲノムアレイ解析は非常に有用であり,spectral karyotypingの1,000~10,000倍の解像力がある。Double-hit lymphomaで高頻度に認められる約60kbサイズのCDKN2A/2B欠失の検出も容易であり,また,8q24転座によるPVT1再構成の相手遺伝子としてNBEAWWOXを多発性骨髄腫で同定した。さらに,double minute chromosomesを有する急性骨髄性白血病で認められた8q24のゲノム増幅からPVT1-NSMCE2CCDC26-NSMCE2を同定し,その形成機構はクロモスリプシスと考えられた。PVT1CCDC26はlong intergenic non-coding RNAs (lincRNAs)であり,これらのlincRNAsキメラ遺伝子が関与する腫瘍化の新規分子メカニズムが示唆される。新世代の分子細胞遺伝学は次世代シーケンサーの開発によって大きく展開することが期待される。
リンパ系腫瘍:MM
24 (EL-4)
  • ―Up-to-Date―
    伊藤 薫樹
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2066-2073
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    プロテアソーム阻害薬や免疫調節薬の登場により,この10年の多発性骨髄腫の治療成績は格段に改善したが,未だに治癒しない疾患であり,新たな治療薬の開発が期待されている。本邦では今年,免疫調節薬ポマリドミドが再発難治性骨髄腫に適応承認となった。最近,新規プロテアソーム阻害薬のカーフィルゾミブのASPIRE試験やヒストン脱アセチル化酵素阻害薬のパノビノスタットのPANORAMA-01試験など,pivotalな試験結果が報告された。また,CS1抗体エロツズマブやCD38抗体ダラツムマブなどの各種抗体薬と既存薬剤との併用の臨床試験でも有望な結果が報告されている。その他には,シグナル伝達経路阻害薬や細胞周期キナーゼ阻害薬などの開発も進行中である。今後,骨髄腫の治癒率向上を目指して,従来の薬剤とは異なる作用機序を有する治療薬の早期承認と有効かつ忍容性の高い併用治療の確立が期待される。
25 (EL-3)
  • 渡部 玲子
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2074-2085
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    原発性マクログロブリン血症(WM)は,単クローン性IgM増殖を示す稀な難治性B細胞性腫瘍であり,様々な症状を呈する。患者の年齢,自家造血幹細胞移植の適応の有無,過粘稠度症候群など合併症により治療方針が異なる。リツキシマブが治療の中心であり,近年ベンダムスチン,ボルテゾミブ,カルフィルゾミブなどとの併用で高い奏効性が示された。また高齢者に対してはフルダラビンとクロラムブシルの比較試験の結果,前者の有用性が明らかとなった。一方新規治療薬としてはBTK阻害薬が注目される。欧米にて行われたゲノム解析の結果,WM患者にはMYD88L265P及びCXCR4WHIM遺伝子異常が認められ,臨床像の違いが明らかとなった。MYD88L265Pは腫瘍の増殖と生存に,CXCR4WHIMは腫瘍の進展と治療抵抗性に関与する可能性があり,今後の治療選択には,これらの遺伝子変異を考慮する必要性が示唆された。
血栓/止血/血管
26 (EL-21)
  • 宮川 義隆
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2086-2091
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    特発性血小板減少性紫斑病(ITP)は,血小板が10万/μl以下に減少する血液難病である。出産可能な女性に多く発症することから,妊娠・分娩は大きな課題である。ITPは希少疾病であるため,妊娠の医学的管理について科学的根拠の高い臨床試験の成績はないが,患者と医療者がともに安心して妊娠と分娩に臨める医学情報が必要とされている。このたび学会横断的に専門医が集まり,ITP合併妊娠診療の参照ガイドを20年ぶりに改訂した。医学の進歩により,妊娠の維持には血小板が2~3万/μl以上あれば良いこと,分娩様式は産科的適応で決定すること,経腟分娩には血小板5万/μl以上,帝王切開の場合は8万/μl以上を目安とした。なお,副腎皮質ステロイドまたは免疫グロブリン治療を受けていても授乳は可能である。本講演ではITP患者の妊娠と分娩の管理について,診療の参照ガイドを中心に解説する。
27 (EL-16)
  • 松本 雅則
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2092-2099
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    血栓性微小血管症(TMA)は,血小板減少と溶血性貧血に臓器障害を合併する症候群で,代表的な疾患として血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)と溶血性尿毒症症候群が(HUS)が存在する。最近では,TTPはADAMTS13活性著減によって診断され,ADAMTS13遺伝子異常のある先天性と自己抗体による後天性が存在する。一方,HUSは,90%以上が志賀毒素産生大腸菌感染に関連して発症し,残りの10%は非典型HUS (aHUS)と呼ばれている。aHUSは,補体第二経路の異常により補体が過剰に活性化して発症する。膠原病,移植,悪性腫瘍,妊娠,薬剤などの基礎疾患に伴って発症する二次性TMAも知られている。TMAの多くの症例において,血漿交換は第一選択の治療法であり,早期に開始することで予後が改善する。TTPにおけるリツキシマブやaHUSにおけるエクリズマブといった抗体療法が第二選択治療として使用されている。
28 (EL-22)
  • 松下 正
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2100-2109
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    血友病に対する治療は,きわめて高度に精製された凝固因子濃縮製剤による補充療法により安定化し,とくに定期補充療法の導入によってインヒビターのない患者のQOLの向上は著しい。また近年日本血栓止血学会や本学会の努力によりガイドラインが整備され,治療手段の均てん化が進んでいる。しかしながら,凝固因子製剤の半減期は短く頻回の静脈注射が必要であり,これらは依然として患者にとって苦痛を伴うものとなっている。何よりもインヒビターの発生は血友病治療における大きな障壁となっている。近年,より持続的な治療効果を発揮する長時間作用型薬剤や,より強力な止血凝固作用を示すバイパス止血薬剤に加えて,新しい治療コンセプトによる新規治療薬が登場し,血友病治療の手段の新規開発はひとつのブームを迎えている。本稿では,これら新規薬剤も含めつつ,あくまでもガイドラインを基本に標準的な血友病治療法と今後のパースペクティブについて解説することとした。
29 (EL-15)
  • ―全ての難病指定医のために―
    一瀬 白帝
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2110-2122
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    凝固第XIII/13因子(FXIII/13)は,酵素活性を持つAサブユニットとそれを安定化するBサブユニットからなる。FXIII/13は止血,創傷治癒に働くので,その先天性欠乏症は,重篤な出血症状,創傷治癒異常,女性患者では習慣性流産を呈する。その頻度は2百万人に1人と稀である。一方,後天性欠乏症は極めて多く,産生低下,消費亢進などにより二次性に減少するが,出血症状を認めることは少ない。筆者らは,特に抗FXIII/13抗体に基づく自己免疫性出血病XIII/13の全国調査活動を実施している。主に高齢者に,それまで出血傾向がなかったのに拘らず,突然皮下,筋肉内出血が多発する。症例の半数は特発性であるが,残りの半数には他の自己免疫疾患や悪性腫瘍などの基礎疾患がある。頭蓋内,胸腔内,腹腔内,後腹膜出血などは死因となりうるので要注意である。免疫抑制薬で抗体根絶を,FXIII/13濃縮製剤投与で止血を得る。厚労省指定難病の医療費助成第二次実施分の一つとなったので,症例の経済的負担軽減が期待される。なお,血液専門医は難病指定医の資格に含まれる。
30 (EL-53)
  • 家子 正裕
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2123-2133
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    トロンビン阻害薬(DTI)やXa因子阻害薬(Xa-INHs)の新規経口抗凝固薬(NOAC)は,ワルファリン(WF)に代わって心原性脳塞栓症予防の主役になりつつある。DTIは,細胞性凝固反応における開始期の初期トロンビンと増幅期にフィードバックするトロンビンを抑制する。一方,Xa-INHsは増大期(プロトロンビナーゼ複合体)のXa因子を抑制する。NOACの血中半減期は短いため,血中濃度にピーク期とトラフ期が存在する。ピーク期にはNOACの薬理効果で,トラフ期には患者自身のアンチトロンビンなどの生理的凝固調節因子(PCIs)で血栓形成を抑制する。PCIsは血管内皮細胞(ECs)上で効果を発揮するため,ECsが障害された状況ではNOAC療法は難しい。NOAC臨床試験のメタ解析では,WF療法と比較し脳卒中・全身性塞栓症は19%減少し,副作用としての頭蓋内出血は52%の減少を認め有効性が示唆された。
造血幹細胞移植
31 (EL-19)
  • 一戸 辰夫
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2134-2143
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    HLAシステムは個体の免疫応答の特徴を決定するきわめて多型性に富んだ分子集団であり,その構造は第6染色体短腕に存在するHLA領域の遺伝子群によって決定されている。典型的なHLAクラスI分子・クラスII分子はT細胞への抗原提示を行うとともに,NK細胞の機能制御にも重要な役割を果たしており,造血細胞移植では,レシピエントとドナーの間におけるこれらの分子の適合性が,生着不全・移植片対宿主病などの免疫学的合併症のリスクや移植片対腫瘍効果の発現に関与する。一方,多型性の乏しいHLA関連分子群として,非典型的クラスI分子・非典型的クラスII分子が知られているが,それらの造血細胞移植における役割の解明は今後の課題である。
32 (EL-20)
  • 村田 誠
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2144-2152
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    同種造血幹細胞移植後の急性GVHDは重症化すると治療関連死亡の原因となるため適切な予防を行う必要がある。ヒト白血球抗原適合ドナーからの骨髄移植と末梢血幹細胞移植における標準的GVHD予防法はカルシニューリン阻害薬(シクロスポリンまたはタクロリムス)とメトトレキサートの組み合わせであり,それらの投与量や目標血中濃度に関する研究結果は多く報告されている。メトトレキサートに代えてミコフェノール酸モフェチルを使用した場合には粘膜障害が軽減する。抗胸腺細胞グロブリンの使用により重症急性GVHDとさらに全身型慢性GVHDの発症率が低下する。ただし生存率向上には寄与しない。臍帯血移植やハプロ移植におけるGVHD予防法はまだ標準化されていない。その他に免疫抑制作用を有する新しい薬剤,制御性T細胞,間葉系幹細胞の使用も試みられている。日本からのGVHD予防法に関する新しいエビデンスの発信が期待される。
33 (EL-30)
  • 山﨑 宏人
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2153-2159
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    同種造血幹細胞移植は,再生不良性貧血を根治させる治療法の一つである。しかし,至適な前処置や代替ドナーからの移植後の長期成績に関する十分なエビデンスがないため,主治医はしばしば移植の選択を躊躇する。HLA適合同胞ドナーを有するstage 3~5の40歳未満の患者には,初回治療としての移植適応がある。一方,非血縁ドナーや臍帯血などの代替ドナーからの移植は免疫抑制療法不応例に対して考慮される。標準的な前処置として用いられてきた大量cyclophosphamide (CY)は,心毒性軽減のため,fludarabineを加えた減量CYレジメンに変わりつつある。末梢血幹細胞移植は骨髄移植に比べて慢性GVHDの頻度が高いので避ける必要がある。代替ドナーからの移植では,移植後CYを用いた血縁ドナーからのHLA半合致移植が治療関連死亡や慢性GVHDの頻度が低いことから注目を集めている。
34 (EL-29)
  • 緒方 正男
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2160-2169
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    同種造血幹細胞移植後にhuman herpesvirus 6 (HHV-6)の再活性化は30~60%と高頻度にみられ,移植後2~6週目に集中する。再活性化のほとんどは無症状だが,時に脳炎をはじめとするHHV-6関連合併症の発症と関連する。HHV-6脳炎の典型例は移植後2~6週目に記憶障害で発症し,意識障害や痙攣を来す。頭部MRIでは辺縁系脳炎が特徴的である。予後は不良で,救命例においても記憶障害などの後遺症を高頻度に来す。臍帯血移植では8~10%の患者がHHV-6脳炎を発症することが連続して報告され,重要な合併症と認識されてきた。病態の解明と発症予防法の確立が急務である。脳炎以外のHHV-6関連合併症/病態として,肺疾患,骨髄抑制/生着不全,肝疾患,消化管疾患,GVHDなどが報告されている。HHV-6がこれらの合併症にどの程度あるいはどのようにして関与しているのか,今後明らかとする必要がある。
免疫・細胞・遺伝子治療/輸血
35 (EL-38)
  • 半田 誠
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2170-2179
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    輸血感染症に対するスクリーニング検査の進歩や保存前白血球除去といった安全技術の導入により,輸血に使用する血液製剤の安全性は格段に向上した。しかし,重症の急性輸血反応であるTRALIやTACOをはじめとする種々の未解決リスクが残存している。輸血に依存した治療を要する造血器疾患患者はハイリスクである。血液専門医は輸血のリスクとベネフィトを勘案し,エビデンスに基づく適正な処方を行って不必要な輸血を減らし,ベッドサイドでの標準手順を遵守し,過誤の起こらない安全な輸血療法を実践することが求められる。
36 (EL-35)
  • 小澤 敬也
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2180-2185
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    慢性リンパ性白血病(CLL)や急性リンパ性白血病(ALL), 悪性リンパ腫などのB細胞性腫瘍に対する新規治療法として,養子免疫遺伝子療法のアプローチが最近脚光を浴びている。すなわち,遺伝子操作T細胞療法(engineered T cell therapy)の一つで,Tリンパ球の腫瘍ターゲティング効率を高めるため,CD19抗原を認識するキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor, CAR)を発現させた患者Tリンパ球を体外増幅して輸注するという方法である。CARの構造は,抗体のFab部分を単鎖抗体の形で利用し,それと副刺激シグナル発生ユニットおよびCD3ゼータ鎖を連結したもので,HLA非拘束性に標的抗原を認識することができる。米国を中心に,難治性B細胞性腫瘍に対してCD19-CAR-T遺伝子治療の臨床試験が実施され,優れた治療成績が得られている。
37 (EL-33)
  • 河上 裕
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2186-2194
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    T細胞応答を利用するがん免疫療法として,免疫チェックポイント阻害療法と培養T細胞を用いる養子免疫療法の臨床試験では,化学療法や分子標的治療薬抵抗性の進行がんに対しても持続的な腫瘍縮小効果が認められた。前者としてT細胞上のCTLA-4とPD-1(あるいは対応分子のPD-L1)に対する阻害抗体の投与は,従来免疫療法が比較的効くとされた悪性黒色腫や腎がんだけでなく,肺がん,膀胱がん,卵巣がん,胃がん,頭頸部がん,さらにホジキンリンパ腫やB細胞性悪性リンパ腫などの造血器腫瘍にも治療効果が認められ,がん免疫療法の臨床における位置付けは一変し,がん治療開発の方向性が変わりつつある。今,免疫チェックポイント阻害療法を基軸とした複合がん免疫療法,患者の免疫状態評価に基づいた個別化がん免疫療法の開発が,世界中で進められている。
38 (EL-7)
  • 三浦 康生
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2195-2204
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    ヒト間葉系幹細胞(mesenchymal stromal/stem cell, MSC)は多彩な生物学特徴を示し,様々な疾患に対する細胞治療のセルソースとして期待されている。米国NIHが提供する臨床試験データベースClinicalTrials.govに“mesenchymal stem cells”を入力すると約400件の試験がヒットする。血液疾患を対象とした臨床試験は造血幹細胞移植後の移植片対宿主病(graft versus host disease, GVHD)に関連するものが最も多い。その他,生着不全や造血回復遅延に対する治療や予防,MSCを用いてin vitroで培養増幅したさい帯血の移植などが試みられている。本稿ではベッドサイドへの登場が期待されるヒトMSCの基礎と臨床応用の現状について概説する。また,我々の最新の研究成果をもとにしたMSC-based therapyの展望について述べる。
39 (EL-14)
  • 後藤 義幸, 倉島 洋介, 清野 宏
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2205-2212
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    腸管は食餌性抗原や腸内細菌,病原性微生物などの様々な外来抗原に恒常的に暴露される特殊な組織である。それら無数の外来抗原に対し,腸管上皮細胞は物理的,免疫学的に第一線の防御バリアを形成しており,特に上皮細胞が発現するα1,2-フコースは,代表的な腸管自然免疫細胞である3型自然リンパ球を介して誘導されて腸内細菌の恒常性を維持する上,病原性細菌感染に対する防御機能を付与している。また,3型自然リンパ球はIL-22を産生し,上皮細胞からRegIIIγなどの抗菌物質の産生を誘導することで病原性細菌の感染を制御し,腸内細菌叢の恒常性も維持している。もう一つの主要な自然免疫細胞であるマスト細胞は,宿主細胞や腸内細菌から産生されるATPにより活性化され,炎症性腸疾患の一因となる。一方,腸管マスト細胞は濾胞T細胞の分化誘導を制御することで,IgA抗体の抗原親和性の調節と腸内細菌叢の恒常性維持に寄与している。
40 (EL-37)
  • 宮本 竜之, 中内 啓光
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2213-2219
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    iPS細胞等の多能性幹細胞を用いた再生医療が21世紀の新しい医療として注目を浴びている。再生医療研究の多くが幹細胞を用いて目的とする細胞を誘導し移植して治療する細胞治療を目的としているが,臓器そのものを作り出せれば究極的な治療となりうる。そこで我々は膵臓や腎臓といった実質臓器の再生を目指し,動物個体内でiPS細胞由来の臓器作製を試みた。ニッチというコンセプト,胚盤胞補完法という技術の基,マウス個体内に異種であるラットiPS細胞由来の膵臓を作製することに成功した。さらにこの原理を大動物であるブタに応用し,膵臓欠損ブタの胚盤胞に健常ブタの胚細胞を注入することにより膵臓欠損ブタの体内に健常ブタ胚由来の膵臓を作製することにも成功した。異種固体内で目的臓器以外へのヒト細胞の分化を防ぐ方法も可能性を示すことができ,ヒトの実質臓器を再生するといった全く新しい再生医療技術開発の可能性を探っている。
小児血液疾患
41 (EL-23)
  • 足立 壮一
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2220-2229
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    本邦における小児急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)患者数は,年間約180人であり,形態,細胞表面マーカー,染色体,キメラ遺伝子,遺伝子変異解析が病型分類,治療のリスク分類に必須である。治療は,小児血液・がん学会ガイドラインに示されるように,急性前骨髄球性白血病(acute promyelocytic leukemia, APL), ダウン症候群に合併したAML (ML-DS), de novo AML(APL, AML-DS以外の初発AML)に対して,異なった治療が行われる。いずれも,全国的にJPLSG(日本小児白血病リンパ腫グループ)の臨床プロトコールで治療されており,欧米諸国と遜色のない治療成績が得られている。小児では成人AMLと異なり,晩期合併症の軽減も目指した治療法の開発が重要である。治療成績の向上,及び晩期合併症の軽減のためには,次世代シークエンサー法を用いた新規の遺伝子解析などの予後因子解析が重要である。
42 (EL-40)
  • ―診断と造血幹細胞移植―
    小林 正夫
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2230-2239
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    好中球異常症は好中球の質的,量的異常に分類され,それぞれに原発性と後天性がある。原発性免疫不全症の国際分類では,先天性好中球機能異常症は運動能異常と活性酸素産生障害に大別され14疾患が,先天性好中球減少症は重症先天性好中球減少症とその他症候群の15疾患があげられている。これらの疾患ではすべて責任遺伝子が同定され,蛋白異常が分子レベルで検討されているが,その病因・病態の詳細が不明な疾患もある。本講演では代表的疾患(慢性肉芽腫症,重症先天性好中球減少症,免疫性好中球減少症)の病因・病態解析の最近の知見と,慢性肉芽腫症,重症先天性好中球減少症の根治療法としての造血幹細胞移植についての現状と広島大学小児科での取組について概説する。
43 (EL-24)
  • 青木 洋子
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2240-2247
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    次世代シークエンサーを用いたゲノム解析テクノロジーは,単一遺伝病のみならず多因子性疾患,がんの研究などに大きな変革をもたらした。先天異常症においても,数々の原因が同定され,ヒト発生のパスウェイとがんに関与する分子が共通していることが明らかになってきたが,その病態メカニズムはいまだ明らかになっていないところが多い。私達の研究室では2005年に,がん原遺伝子HRASの生殖細胞系列の変異が希少疾患であるCostello症候群の原因であることを世界で初めて報告した。その後,RASシグナル伝達経路のざまざまな分子に変異を持つ疾患が同定されRASopathiesという概念が確立した。各々の疾患は血液腫瘍や固形腫瘍のリスクを持つが,合併する腫瘍の種類がどのように決定されるのかは未だ明らかでない。近年はMosaic RASopathiesという概念もでてきており,germline, somaticという概念を超えてpathogenesisをとらえていく必要がでてきている。本講演では広がりゆくRASopathiesの疾患概念と腫瘍合併のメカニズム,動物モデル,治療法探索について概説する。
44 (EL-41)
  • 八角 高裕, 柴田 洋史, 下寺 佐栄子, 平家 俊男
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2248-2257
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    血球貪食性リンパ組織球症(hemophagocytic lymphohistiocytosis, HLH)はマクロファージの増殖と血球貪食像を組織学的特徴とする症候群であり,原因や発症の誘因より単一遺伝子異常による原発性HLHと他疾患に続発する二次性HLHとに大別される。臨床現場ではHLH-2004の基準によって診断される事が多いが,免疫系の活性化と炎症性サイトカインの過剰産生を背景として共有するものの実際には多様で幅広い病態が包括される。多くの症例がHLH-2004プロトコールにより治療されるものの,画一的治療による成績の向上には限界があり疾患病態に応じた戦略が必要と思われる。まだまだ不十分ではあるもののHLHの病態解明が進みつつあり,複雑な病態に応じた治療戦略の確立が期待される。
その他
45 (EL-2)
  • 神田 善伸
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2258-2266
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    既存の論文の妥当性を解釈する上でも自ら臨床研究を遂行する上でも統計学の知識は不可欠であり,統計ソフトを自ら活用しなければならない機会は必然的に生じる。市販の統計ソフトはいずれも個人で購入するには高価であったり,解析の命令方法がわかりにくかったりという難点がある。一方,Rは無料で用いることができるが,スクリプトの入力による解析は臨床医にとっては容易ではない。Rコマンダーを組み込めばマウス操作だけで簡単に解析を行うことができるようになるが,標準で組み込まれている統計解析の機能は限定されている。そこで,Rコマンダーのカスタマイズ機能を利用して,数多くの統計解析機能を組み込んだ統計ソフトEZR (Easy R)を作成し,公開(http://www.jichi.ac.jp/saitama-sct/)している。EZRは無料で使用できるのでグループで共通のソフトウェアとして用いることができること,マウス操作だけで競合リスク解析や時間依存性変数の解析を含む高度な統計解析も実施できることなどがあげられる。また,学会発表,論文発表を意識して作成されているので,患者背景表や解析結果を発表形式に自動整形して出力するという機能も備えられている。さらに,マウス操作によって自動的に生成されるRのスクリプトを保存しておけば,Rのスクリプトの学習や,統計解析の過程の記録,そして指導者によるチェックが可能となる。
46 (EL-39)
  • 薄井 紀子
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2267-2276
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    造血器腫瘍治療におけるG-CSFは,造血細胞移植および化学療法の支持療法で大きな役割を果たす。造血細胞移植では,末梢血への造血幹細胞/前駆細胞の動員と移植後の好中球回復促進し感染症を制御する役割がある。白血病・リンパ腫などの治療においては,化学療法で発症する発熱性好中球減少症(FN)を抑制・予防し,化学療法の治療強度を保ち抗腫瘍効果を高める役割がある。これまで蓄積された臨床的エビデンスを踏まえ,国内外で作成された適正使用ガイドラインに基づき,化学療法のFN発症リスクに応じて,一次予防的あるいは二次予防的にG-CSFは投与される。FN発症リスクが非常に高い急性白血病治療においては,急性リンパ芽球性白血病はG-CSFの予防的投与の有用性が高い。リンパ腫治療においては,FN発症リスクが20%を越えるレジメンでは積極的に,10~20%のレジメンでは,FN・感染症重症化リスク因子を有する患者で一次予防的投与が推奨される。
47 (EL-36)
  • 前川 平
    2015 年 56 巻 10 号 p. 2277-2284
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/10
    ジャーナル 認証あり
    研究成果を患者さんのもとに届けるためには,多くの基礎および臨床研究者や臨床医が,臨床開発に関して製薬企業と一致協力することが不可欠である。しかし同時に,製薬企業は基本的に営利団体である。製薬企業が医師と患者の関係に協力して関係を深めれば深める程,医師個人や団体の利益が患者の利益と相反する状態が必然的に発生する。産学連携活動の推進には,研究の質と倫理性の担保,すなわち国民に対する信頼性の確保が何よりも重要であり,研究の科学性と倫理性が守らなければならない。すなわち,医師や研究者に対しては,「研究の質と信頼性の担保」,「透明性の確保」,それに「説明責任」が強く要求され,そのため各個人は確固としたプロフェッショナリズムを持たねばならない。利益相反の問題に対する個々の医師や研究者の確固とした見識と高邁な倫理的判断が,医学研究の公正さと透明性を守る唯一の砦であることをわれわれは肝に銘じなければならない。
feedback
Top