臨床血液
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57 巻, 8 号
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Picture in Clinical Hematology
臨床研究
  • 築根 豊, 八幡 悠里子, 佐々木 純, 比企 誠, 筒井 深雪, 浜埜 康晴, 伊藤 誠悟, 宮崎 哲朗, 土肥 智貴, 圓山 雅己, 後 ...
    2016 年 57 巻 8 号 p. 987-993
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    心ALアミロイドーシスは,重篤な心不全症状を呈する症例では極めて予後不良で,治療法が確立していない稀な疾患である。近年,bortezomibを含む治療法の有用性が示されてきているが,日本人におけるまとまった報告は少ない。我々は,当施設において重篤な心不全症状を呈した6名の骨髄腫に合併した未治療心ALアミロイドーシスの患者にbortezomibを含む化学療法を行った。治療後に速やかなinvolved free light chain (iFLC)の低下を認めたが,心不全症状とN-terminal pro-B-type natriuretic peptide (NT-proBNP)は治療開始後むしろ増悪し,その後,iFLCの低下に数カ月遅れて改善した。観察期間は中央値29カ月(範囲2~47カ月)と短いが1例を除き全例が生存しており,bortezomibを含む化学療法は,重篤な心ALアミロイドーシスの治療には有効な手段の一つであると考えられた。

症例報告
  • 後藤 善則, 西村 良成, 野原 淳, 馬瀬 新太郎, 藤木 俊寛, 伊良部 仁, 黒田 梨絵, 荒木 来太, 伊川 泰広, 前馬 秀昭, ...
    2016 年 57 巻 8 号 p. 994-998
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    症例は10歳女児。急性リンパ性白血病に対する化学療法中,L-asparaginase (ASP)による膵炎を発症した。蛋白分解酵素阻害剤による膵局所動注療法とソマトスタチンアナログ投与にて軽快した。ASPとステロイド投与に連動する間欠的な著しい高トリグリセリド(TG)血症を認めていたが,膵炎発症時のTGは著しい高値ではなかった。また,膵炎発症と相関する粒子径が極めて大きいカイロミクロンの増加を認めなかったことから,膵炎発症に高TG血症の関与は乏しいと考えられた。ASPによる副作用として高TG血症の評価は必要であるが,高TG血症に対する治療介入ではASPによる膵炎発症を防ぐことはできないと考えられる。

  • 森下 さくら, 萩原 真紀, 板橋 めぐみ, 石井 好美, 山本 渉, 沼田 歩, 本橋 賢治, 松本 憲二, 藤澤 信, 中島 秀明
    2016 年 57 巻 8 号 p. 999-1003
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    症例は36歳女性。慢性骨髄性白血病(CML)の診断で3年前よりdasatinibの内服を開始していた。血小板減少や胸水の出現などの有害事象が認められたが,内服開始から22か月で分子遺伝学的大奏効(MMR)に到達し,dasatinibの内服を継続していた。内服開始から34か月経過した頃より,高度な労作時息切れが出現,緊急入院となった。胸水は認めたものの明らかな増加はなく,画像所見や血液検査結果から肺炎などの感染症を疑う所見は認められなかった。心臓超音波検査で肺高血圧が疑われ,右心カテーテル検査を施行したところ,肺動脈性肺高血圧(PAH)の診断となった。入院当日よりdasatinibは休薬としたが,肺高血圧・心不全の進行が認められ,カテコラミンやPDE-5阻害薬にも反応せず,入院から4日目に心肺停止となり,1週間後に永眠された。Dasatinibによる肺高血圧症の報告はこれまでにも散見されるが,今回のように急速な転帰を辿る症例はまれであり,改めて注意が必要な有害事象と考えられた。

  • 吉弘 知恭, 牟田 毅, 青木 健一, 嶋本 聖, 田村 恭久, 小川 亮介
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1004-1010
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    慢性腎不全の維持透析中に発症した高リスク骨髄異形成症候群に対しazacitidine (5-Aza)により血液学的改善効果を認めた2症例を報告する。症例1は65歳女性,症例2は52歳男性。5-Azaを,症例1はfull doseの75 mg/m2 7日間,28日毎として開始し,症例2では肝硬変の合併もあり70%量で5日間投与とした。5-Azaは透析日には透析前に皮下注射した。それぞれ第3コース後と第2コース後で輸血非依存となり,奏効持続期間は10ヶ月と11ヶ月であった。症例1では初期に2度のfebrile neutropenia (FN)を合併したが抗生剤で速やかに軽快し,初回のみ35日間隔で減量せず治療を継続できた。症例2では第5コースにFN,第6コースに感染性腹膜炎を合併した。4ヶ月の退院・休薬期間後に再度輸血依存となったが,5-Azaの再投与にて奏効を認め,輸血非依存となった。症例1では第1コース治療後に結節性紅斑が軽快した。全コース入院で施行し,1コース当たりの平均入院期間は17.5日と23日であった。維持透析患者における5-Azaは,治療強度の調整や感染症に適切に対応することで治療を継続できると考えられる。

  • 古和田 周吾, 藤島 行輝, 鈴木 雄造, 筑紫 泰彦, 小宅 達郎, 外川 亮, 小山 耕太郎, 猪飼 秋夫, 伊藤 薫樹, 石田 陽治
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1011-1017
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    近年,手術や支持療法の進歩により,成人に達する先天性心疾患が増加している。これらの患者が造血器悪性腫瘍を合併した場合に,参照可能な治療指針は存在しない。本症例は,出生時に純型肺動脈閉鎖症と診断され,9歳時にAPC型Fontan手術を受けている。29歳で急性リンパ性白血病を発症したが,発症時は著しい心機能低下と循環不全があった。寛解導入療法は,心機能に影響の少ない抗がん化学療法のみで治療し寛解が得られた。第一寛解期に,速やかに人工血管による血行変換術および機械弁による大動脈人工弁置換術を行い,左心機能と循環動態の改善を得た。再発と再寛解を繰り返した後,最終的に第三寛解期に骨髄非破壊的前処置を用いた臍帯血移植を行い得た。生着前免疫反応症候群および移植片対宿主病の治療期間中に,心不全,循環不全を合併し集中治療室管理を要したが回復した。移植後239日に退院し,移植1年後も完全寛解を維持している。

  • 前田(阪上) 由可子, 田中 康博, 木場 悠介, 新里 偉咲, 石川 隆之
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1018-1025
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    48歳男性。2014年9月某日,突然心窩部痛と嘔気が出現したため当院へ救急搬送となった。造影computed tomography (CT)検査で著明な脾腫と腹腔内出血を認め脾破裂と診断,緊急開腹脾臓摘出術を施行した。開腹時,脾は腫大し裂傷から持続的出血を認めた。病理組織学的に異常細胞が脾内にびまん性に増生し,免疫染色や細胞遺伝学的検査よりマントル細胞リンパ腫と診断した。骨髄と回腸周囲に浸潤を認め,positron emission tomography (PET)-CT検査と合わせて病期IVAと判断した。術後,リツキシマブ併用hyper-CVAD/MA療法を開始し,2コース終了後のPET-CT検査でcomplete response (CR)と判断した。リツキシマブ併用hyper-CVAD/MA療法を計4コース施行して自家末梢血幹細胞移植併用超大量化学療法を行い,CRを維持している。特発性脾破裂で発症したマントル細胞リンパ腫は非常に稀で,本邦では初めての報告である。特発性脾破裂で発症した血液悪性疾患では時期を逸しない脾臓摘出術を行うことが重要と考える。

  • 塚本 康寛, 喜安 純一, 宇都宮 勇人, 中嶋 康博, 崔 日承, 末廣 陽子, 荒武 良総, 安部 康信
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1026-1031
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    肝ペリオーシス(peliosis hepatis, PH)は主に肝臓や脾臓に発生する易出血性の腫瘤性病変である。血液領域では蛋白同化ホルモンを用いる再生不良性貧血などの疾患に稀に合併する。通常無症候性であるが,進行性の肝不全や肝破裂などの重篤な症状で診断された例も多く早期診断が重要である。我々はdanazolで治療中の再生不良性貧血において,肝障害に対する画像検査を契機にPHと診断した症例を経験した。DICも合併していたが,骨髄異形成症候群への移行は認めたものの,骨髄芽球は少数であった。danazol誘発性PHを疑い投与中止したところ,肝障害・DIC・画像所見は改善した。PHは蛋白同化ホルモン長期投与合併症として重要である。詳細な機序は不明であるが,多発する血液貯留腔の存在により稀にPHにDICが合併すると推測され,早期診断のため,凝固系マーカーのフォローも重要である可能性が示唆された。

  • 永春 圭規, 景山 裕紀, 渡邊 拓弥, 山口 貴則, 伊藤 竜吾, 馬場 洋一郎, 桝屋 正浩, 大橋 璃子, 川上 恵基
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1032-1037
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    結晶蓄積性組織球症(crystal-storing histiocytosis, CSH)は組織球による結晶貪食を特徴とする稀な病態であり,高率に血液悪性疾患を合併すると報告されている。症例は69歳男性。左腎盂がん術後4年目のCT検査にて左肺下葉に小結節影を指摘され,2年間の画像フォローで増大傾向にあったため原発性肺がんを疑われ肺葉切除術が実施された。病理学的所見からCSHを伴う肺mucosa-associated lymphoid tissue (MALT)リンパ腫と診断され,病期はstage IAEであった。病変部切除後のMALTリンパ腫として無治療で経過観察しているが再発なく経過している。CSHは血液悪性疾患の初発症状となりうる病態であり,注意深い観察と検索が必要である。

第77回日本血液学会学術集会
Symposium 4
  • 坂田(柳元) 麻実子, 千葉 滋
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1038-1043
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    末梢性T細胞リンパ腫の分子病態はゲノム異常という点から次第に解明されつつある。さらには,ゲノム異常の分布を調べることによりリンパ腫の腫瘍細胞がどこから生じるかという“起源(オリジン)”が明らかにされつつある。我々は,末梢性T細胞リンパ腫の一つである血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(angioimmunoblastic T-cell lymphoma, AITL)において,エピゲノム調節因子の異常により造血前駆細胞が前がん細胞になり,さらにはG17V RHOA変異が加わることにより腫瘍を発症するとの多段階発がん説を提唱している。一方,AITLの腫瘍組織では,腫瘍細胞のみならず多彩な細胞が浸潤し,腫瘍の支持環境を形成していると考えられる。中でも,Epstein-Barr感染B細胞,濾胞樹状細胞,高内皮細静脈の増生はAITLの特徴的な病理組織学的所見として知られる。これらの支持環境細胞浸潤は腫瘍細胞から分泌されるサイトカイン・ケモカインによる反応性変化と考えられてきた。しかしながら,AITLにおける多段階発がん説を鑑みれば,腫瘍細胞のみならず,支持環境細胞が“前がん細胞”に由来する可能性がある。すなはち,AITLにおいて支持環境細胞が浸潤するメカニズムは従来考えられていたより複雑な可能性がある。

  • 飛内 賢正
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1044-1051
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    ATLと節外性NK/T細胞リンパ腫(ENKL)に重点を置いて,T/NK細胞リンパ腫に対する最近の臨床試験研究の現状を概説する。International T-Cell Lymphoma Projectでは,これら両疾患は最も予後不良な病型であった。JCOGは両疾患患者の不良な予後の改善をめざして複数の臨床試験を実施してきた。Aggressive ATLに対してVCAP-AMP-VECP療法後に同種造血幹細胞移植を施行する第II相試験を実施中である。限局期ENKLに対して化学放射線同時併用療法の有望かつ持続する有効性が示された。末梢T細胞リンパ腫(PTCL)とATLに対して検討されてきた新薬の中で,mogamulizumabは再発ATLに対して有望な有効性を示した。ATLに対する第II相試験と同様の用法・用量で実施された,PTCLと皮膚T細胞リンパ腫(CTCL)の再発患者に対する第II相試験においてもmogamulizumabは有望な効果を示した。未治療aggressive ATLに対する新たな標準治療確立をめざして,VCAP-AMP-VECP療法単独群とVCAP-AMP-VECP療法とmogamulizumab併用群を比較するランダム化第II相試験が実施された。52%対33%と併用群で高い完全奏効割合を認めたことより,VCAP-AMP-VECP療法とmogamulizumabの併用は未治療aggressive ATLに対する合理的な治療選択肢であることが示唆された。近年,再発ATL患者に対する第I相および第II相試験においてlenalidomideの有効性が判明した。

Symposium 5
  • 三原田 賢一
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1052-1058
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    成体では,造血幹細胞は骨髄内の微小環境(ニッチ)において休眠状態に置かれている。造血幹細胞を体外培養すると急速にその能力が失われることが知られているが,胎児肝では造血幹細胞は能力を維持したまま活発に増殖している。このように,増幅中の造血幹細胞でどのような変化が起こるかは依然不明な点が多い。我々は造血幹細胞ではタンパク質の折りたたみを制御する小胞体シャペロンの発現が低く,培養によって異常タンパク質が蓄積し小胞体ストレスが誘導されることを明らかにした。一方で,胎児肝で増殖中の造血幹細胞でも小胞体シャペロンの発現は低いが,小胞体ストレスは上昇していない。複数のマウスモデルを用いた研究の結果,胎児肝では胆汁酸がシャペロンとしてタンパク質の折りたたみを補助し,小胞体ストレスを抑制していることがわかった。これらの発見は造血幹細胞における小胞体ストレス制御の重要性とその機序を明らかにするものである。

  • 滝澤 仁
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1059-1065
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    自己複製能と多分化能をもつ造血幹細胞は骨髄において生涯造血を維持すると考えられてきたが,近年の報告により,造血幹細胞の分裂速度は予想されていたよりもはるかに遅く,血液恒常性を維持しているのは造血幹細胞ではなく,限られた自己複製能しかもたない造血前駆細胞であることが明らかになりつつある。一方,感染などの造血ストレスが生じる場合には,末梢組織での細胞消費に応じた造血産生が必要になるため,造血幹細胞も動員した組織だった造血活性化が起こることが予想される。定常状態および感染時の造血幹細胞の分裂挙動に関する最新知見を紹介し,炎症が造血幹細胞機能および造血制御に与える有益または有害な影響について議論する。

Symposium 10
  • 前田 卓也, 増田 喬子, 河本 宏
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1066-1073
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    がんに対する免疫療法,特にがん抗原特異的T細胞療法は現在大変注目されている。しかし,がん抗原特異的T細胞を充分量までの増幅することは技術的に困難であるという大きな問題が残されている。筆者らはiPS細胞技術を応用してこの問題を解決しようとしている。がん抗原特異的T細胞からiPS細胞を樹立し,そのiPS細胞をT細胞に再分化させれば,同じTCRを発現するT細胞を多量に得ることができる。筆者らはこの方法を用いて,がん抗原特異的なT細胞の再生に成功した。再生T細胞は元のT細胞に匹敵する抗原特異的キラー活性を示し,白血病細胞を殺傷した。将来的には様々ながん抗原特異的T-iPS細胞をHLAハプロタイプホモドナーから樹立し,バンク化することを構想しており,臨床応用を目指している。

  • 千住 覚
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1074-1079
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    Her2やCD20等のがん細胞表面抗原,あるいは,CTLA-4やPD-1等の免疫抑制分子に対する抗体(いわゆるチェックポイントブロッカー)が抗悪性腫瘍医薬品として登場し,その有効性は,広く認められている。このような抗体療法は,がん細胞が免疫系による認識の標的となって攻撃される,あるいは,患者体内の免疫細胞を抗原非特異的に活性化することをその主な作用機序とする。一方,抗原レセプター遺伝子改変T細胞などの免疫エフェクター細胞を直接移入する免疫細胞療法の開発も進められている。免疫エフェクター細胞は,腫瘍細胞を直接認識し,あるいは,腫瘍組織特異的に浸潤し抗腫瘍効果を発揮できる。このため,より高い効果を発揮できるとも期待される。免疫細胞療法の普及には,製造コストを実用化が可能な範囲内に抑制しつつ,品質の安定した免疫細胞を製造する方法を開発する必要がある。筆者らは,ES細胞あるいはiPS細胞に由来する免疫細胞を用いたがん治療の実現を目標として研究を行ってきた。多能性幹細胞は,大量に増殖させることが可能であり,免疫細胞療法実現のための細胞ソースとして最適であると考えたからである。本稿では,筆者らがこれまでに行ってきた多能性幹細胞に由来する樹状細胞やマクロファージによるがん治療に関する研究について紹介する。

  • 高橋 淳
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1080-1086
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    パーキンソン病は中脳黒質のドパミン神経細胞が進行性に脱落することにより,手足の震えやこわばり,運動低下などを生じる疾患である。パーキンソン病に対しては1980年代の後半から胎児中脳腹側細胞の移植が行われ一定の効果がみられているが,倫理的問題に加え移植細胞の量的,質的問題があり一般的な治療にはなっていない。これらの問題を解決するために幹細胞とりわけiPS細胞を用いた移植治療に期待が寄せられている。分化誘導技術が発達し,ヒトiPS細胞から効率的に中脳ドパミン神経細胞が誘導できるようになった。さらにラットや霊長類モデルへの移植では行動改善が観察されており,臨床での効果も期待される。臨床応用に向けては,腫瘍形成を起こさないための技術や評価基準の確立が必要であるが,筆者らはセルソーティングを用いてドパミン神経前駆細胞を選別する方法を開発し,有効かつ安全な移植ができることを明らかにした。現在は臨床応用の準備を進めている。

  • 中島 秀明
    2016 年 57 巻 8 号 p. 1087-1094
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/07
    ジャーナル 認証あり

    iPS細胞(induced pluripotent stem cell, iPSC)は再生医療だけでなく,疾患モデリングや薬剤スクリーニングへの応用が期待されている。特に疾患細胞から樹立した疾患特異的iPSCは疾患がもつ遺伝子異常をそのまま保持しているため,疾患メカニズムの解明や新規治療法開発に極めて有用と考えられる。血液学の分野では白血病や骨髄異形成症候群(MDS)などの造血器腫瘍研究への応用が試みられているが,多彩なゲノム異常を有する腫瘍細胞からのiPSC樹立は通常困難である。これに対して限られた遺伝子異常で発症する遺伝性疾患はリプログラミングが容易なことが多い。我々の研究室では血球特異的転写因子に変異をもつ先天性MDS症候群の患者からiPSCを樹立し,血球分化過程やMDSの発症メカニズムの解明を行っている。最新の遺伝子編集技術と組み合わせ,今後の新たな展開が期待される。

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