臨床血液
Online ISSN : 1882-0824
Print ISSN : 0485-1439
ISSN-L : 0485-1439
58 巻, 10 号
選択された号の論文の46件中1~46を表示しています
第79回日本血液学会学術集会 教育講演特集号
造血システム/造血幹細胞
1 (SEL1-9)
  • 指田 吾郎
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1809-1817
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    がんはジェネティック変異とエピジェネティック変異が重なり蓄積した分子病態である。骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞から発生するクローン性造血器腫瘍であり,分化障害による造血不全を来たし,その一部が急性骨髄性白血病(MDS/AML)へ移行する治療困難な疾患群である。近年の詳細なゲノムワイドの遺伝子解析によって,TET2DNMT3AEZH2などのエピジェネティック制御遺伝子の変異がMDSで次々と同定された。また,健常高齢者におけるMDS同様のエピジェネティック制御遺伝子の変異を伴ったクローナル造血の存在が注目され,こうしたエピゲノム異常を来した前がん状態から造血器腫瘍への進展メカニズムの解明が求められている。本稿では,DNA修飾酵素であるDNMT3AとTET2およびポリコーム複合体2の構成因子であるEZH2によるMDSを中心とした造血器腫瘍の発症機構を解説する。

2 (SEL1-10)
  • 仲 一仁
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1818-1827
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    白血病幹細胞は治療後の再発原因となる細胞であり,生体内において発症母細胞,および原因遺伝子変異に起因する自己複製,未分化性(stemness)維持,並びに抗がん剤抵抗性の能力を獲得している。白血病幹細胞における代謝調節や栄養吸収はこのような生存維持の制御メカニズムとも密接に関係する。近年の遺伝子改変マウスを用いた遺伝学的アプローチや微量の代謝産物を測定するメタボロミクス技術の発展によって,白血病幹細胞の維持に必須な代謝制御メカニズムの扉が少しずつ開かれようとしている。本稿では,白血病幹細胞に特異的な代謝制御やこの代謝経路をターゲットとする新しい白血病幹細胞の治療法の研究について,糖代謝,脂質酸化,アミノ酸・ペプチド供給の視点から最新の知見を概説したい。

3 (SEL1-11)
  • 牧島 秀樹
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1828-1837
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    シーケンス技術の進歩により,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS)において高頻度に変異する遺伝子が多数発見されてきた。それらMDSのドライバー遺伝子は,それぞれ固有のタイミングで段階的に獲得されることが明らかとなった。たとえば,DDX41などの変異は,MDSの発症するはるか以前に胚細胞に既に認められる。さらに,高齢者の非血液疾患の血液中にはDNMT3A/TET2などの体細胞変異を持つクローン性造血が認められ,変異は将来の血液疾患の危険因子となる。ひとたびMDSを発症した場合,最も予後と関係するのが二次性白血病への進行である。2,000例以上のMDS症例の変異情報を解析すると,白血病への進展と関連するNRAS/FLT3などのタイプ1変異と,低リスクから高リスクMDSへの進展に関連するRUNX1/TP53などのタイプ2変異が獲得されることが明らかとなった。このように,MDSのドライバー変異は,ヒトの一生に渡ってそれぞれのタイミングで胚細胞,正常造血細胞,MDS細胞に段階的に獲得され,発症・進行に関与する。

4 (SEL2-17)
  • 菊繁 吉謙, 宮本 敏浩, 赤司 浩一
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1838-1843
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病においては,極少数の白血病幹細胞が自己複製能と限定された分化能を有し,白血病幹細胞を頂点とした階層構造を形成していることが免疫不全マウスを用いた近年の研究で明らかになってきた。急性骨随性白血病は化学療法により,一時的に寛解を得られても残存した白血病幹細胞が化学療法抵抗性となり,再増殖して再発に至る。したがって,白血病幹細胞の根絶こそが治癒のために必要である。現在までに白血病幹細胞の生物学的特徴について多くの研究がなされ,白血病幹細胞特異的な治療標的分子がこれまでに多数同定されてきている。本稿では,白血病幹細胞研究のこれまでの進捗を紹介し,同時に白血病幹細胞を標的とした治療戦略について議論を行いたい。

5 (SEL2-18)
  • 田久保 圭誉, 森川 隆之, 小林 央
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1844-1850
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    定常状態の造血幹細胞は骨髄で細胞周期が静止状態に留められている。その一方,感染や炎症などの様々なストレスが負荷されると活発に増殖して前駆細胞を経由して分化血液細胞を供給する。こうしたストレス負荷時の造血(ストレス造血)では,造血幹細胞とその近傍の骨髄微小環境(造血幹細胞ニッチ)が形態や特性を変えて状況ごとの血液細胞産生に最適化されると考えられている。一方,ニッチはストレスによって受動的に変化するだけでなく,ニッチに生じた異常の結果,白血病を含む造血異常が生じることも明らかになった。本稿では,これらの研究の進展から得られた各種の状況における造血幹細胞とニッチの働きと分子メカニズムについて,最新の知見も含めて概説したい。

赤血球系疾患
6 (EL2-13)
  • 小原 直
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1851-1859
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    再生不良性貧血は,造血幹細胞が減少して,骨髄の低形成と汎血球減少を呈する症候群であり,T細胞を介した自己免疫疾患の可能性が有力である。近年,再生不良性貧血患者の約1/3にクローン性造血を示唆する遺伝子変異が検出されることが報告された。造血幹細胞移植以外の治療ではATG+シクロスポリンによる免疫抑制療法が基本であるが,トロンボポエチン受容体作動薬のエルトロンボパグが有効であり,一部の症例では3系統の造血の回復がみられることが明らかになった。ATGの至適投与量に関しては検討が進められている。再生不良貧血に対する造血幹細胞移植では心毒性の軽減を期待して,前処置のシクロフォスファミドを減量し,代わりにフルダラビンを併用するレジメンが行われつつある。HLA半合致移植が開発され,ドナーが見つからない症例を対象に報告が増えつつあり,従来は移植を断念していた症例に適応が広がる可能性がある。

7 (EL2-15)
  • 南学 正臣
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1860-1863
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    慢性腎臓病では腎臓のエリスロポエチン産生細胞は機能不全となり,赤血球の産生低下を引き起こす。貧血による臓器への酸素供給の低下は,患者のQOLを低下させるのみならず,予後とも相関する。治療には,遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤あるいは半減期を長くした改良型の赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis-stimulating agent, ESA)が有効であるが,一部の患者はESA療法に低反応性を示す。低反応性には,炎症,尿毒症物質などが関与しているとされ,予後不良と関連する。腎臓のエリスロポエチン産生は,転写調節因子hypoxia-inducible factor(HIF)によって調節を受けており,HIFの活性はPHDという酵素によって調節されている。近年開発されたPHD阻害薬はHIFを活性化することによりエリスロポエチン産生を促す新しい腎性貧血治療薬であり,期待が集まっている。

8 (EL2-16)
  • 川端 浩
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1864-1871
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    鉄は生命にとって諸刃の剣であり,その体内における量は,主として肝臓から分泌されるヘプシジンによって制御されている。鉄の負荷は,HFE,トランスフェリン受容体2,ヘモジュベリンなどからなる鉄のセンサーを介してヘプシジンの発現を増加させる。炎症性サイトカインのインターロイキン6もヘプシジンの発現を増加させる。一方,赤血球造血系は,エリスロフェロンなどの液性因子を分泌してヘプシジンの発現を抑制する。ヘプシジンは細胞から鉄を排出するフェロポルチンの発現を低下させて,腸管およびマクロファージから造血系への鉄の供給を抑制する。鉄の検知にかかわる遺伝子の変異は遺伝性ヘモクロマトーシスを引き起こし,マトリプターゼ2をコードするTMPRSS6の遺伝子変異はヘプシジンの発現を増加させて鉄剤不応性鉄欠乏性貧血を引き起こす。低リスクの骨髄異形成症候群などの鉄過剰症を伴う慢性の貧血疾患においては,鉄キレート療法が予後を改善する。

骨髄系腫瘍:AML
9 (EL1-6)
  • 恵美 宣彦
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1872-1877
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    急性前骨髄球性白血病(APL)は,多くの場合は特異的な染色体転座であるt(15;17)(q22;q12)を持つ。その結果,PML-RARA融合遺伝子が形成され,顆粒球系細胞の分化抑制が起こることがAPL発症機序であると考えられている。APLの治療法は,1990年代初めに登場したレチノイン酸(all trans retinoic acid, ATRA)による分化誘導療法の導入により大きく治療戦略がかわり,ATRAと抗がん療法の併用により高い寛解率と長期生存が得られるようになった。2004年からは,再発APLに対して亜ヒ酸(arsenic trioxide, ATO)が臨床の場に登場した。最近では,ATRAとATOの併用により,より早くAPLクローンを感度以下に押さえ込むことができるようになってきた。最新の臨床研究のデータなどをまとめて紹介したい。

10 (EL1-12)
  • 平林 真介, 真部 淳
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1878-1883
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    WHOによる造血・リンパ系の腫瘍分類(WHO Classification of Tumours of Haematopoietic and Lymphoid Tissues)の第4版が2008年に刊行された。その序文には「分類は医学の共通言語である。病気は記述されることによって初めて認識される。定義され,病名が与えられなければ,疾患は存在し得ない。」とある。昨今の分子遺伝学の進歩が疾患の解明に大きく寄与しており,造血器腫瘍にのみ生じる体細胞系列の変異のみならず,造血器腫瘍発症の素因となる胚細胞系列の変異の存在が明らかにされてきた。WHO分類第4版2016改訂を通して家族性造血器腫瘍を概説する。

11 (EL2-1)
  • 宮本 敏浩, 菊繁 吉謙, 吉本 五一
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1884-1894
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病(AML)の臨床および基礎研究は,今日まで腫瘍学研究を牽引してきたが,AML治療はここ40年間大きな治療進歩が認められていない。初回寛解導入療法ではAML全症例に画一的‘7+3'療法が標準である。寛解後療法は,染色体分析と極少数の遺伝子変異解析の結果に基づき,予後良好・中間・不良群に分類し,化学療法または同種移植を選択している。近年,多数のAML症例で臨床データに紐付けされたAMLサンプルを用いて膨大な遺伝子解析が進み,AML発症原因となる分子標的治療が開発されている。さらに初診時に迅速かつ網羅的に遺伝子解析を行い,遺伝子変異機能種類別に層別化して,寛解導入療法から各々の分子標的薬を加えるアンブレラ試験が開始された。AMLにおいても“one-size-fits-all therapy”から,“personalized therapy”への転換期を迎えつつある。

12 (EL2-2)
  • 小林 光
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1895-1904
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    一部の急性骨髄性白血病症例は化学療法のみで治癒可能であるが,寛解導入後の再発例や寛解導入できない難治例で移植可能な場合は,造血幹細胞移植療法のみが治癒可能な治療法である。再発難治例に対する造血幹細胞移植後の予後因子としては,移植前の芽球のコントロール状態が重要との報告が多く,寛解率の高い化学療法の施行が重要となる。しかし,移植前の全身状態悪化は移植後の合併症や移植適応そのものにも影響するため,化学療法の選択にあたっては全身状態を悪化させない「橋渡し」的な側面も重要である。また,最近は非寛解期での優れた移植成績の報告や,再寛解導入率が低いと予想される場合は再寛解導入療法を施行せずに移植,あるいは化学療法直後に移植することで一定の成績が得られるとの報告もあり,特に難治例の場合では移植予定施設と連携しながら,移植のタイミングや治療選択を検討することが望まれる。

13 (EL2-3)
  • 仲里 朝周
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1905-1912
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病(AML)患者の多くが60歳以上の高齢者であり,高齢者AMLに対する最適な治療戦略は確立していないのが現状である。高齢者AMLでは若年者と比して治療関連毒性が多く予後も不良である。暦年齢は高齢者の多様性に富む生物学的特徴や機能を必ずしも反映していない。高齢者AMLの治療選択にあたり,疾患側因子(disease-related factors;染色体異常,遺伝子変異,二次性AMLなど)と患者側因子(patient-related factors;年齢,PS,併存合併症,ADL,身体機能,認知機能,栄養状態,社会的環境など)の両者を評価することが極めて重要である。高齢者機能評価(geriatric assessment, GA)はがん治療における治療関連毒性や予後の予測に有用であることが報告されている。高齢者AMLにおける最適な治療選択および治療成績向上のためには,多岐にわたる患者側因子を検出できる効率的なGAスクリーニングツールの確立が必要である。

14 (SEL2-4)
  • 東條 有伸
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1913-1917
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    臨床シークエンスとは,“がんや遺伝病などの患者ゲノム情報を網羅的に解析し,そのデータを臨床的に翻訳・解釈して診断や治療方針の決定に役立てる”ことであり,臨床腫瘍学の領域においてはプレシジョンメディスンと同義語化している。実際,次世代シークエンサーによる腫瘍組織のゲノム解析はプレシジョンメディスンに必要不可欠となっている。筆者ら東大医科研臨床シークエンス・チームは,がんゲノム解読データのメディカル・インフォマティクスに人工知能Watsonの解析パイプラインを導入した探索的臨床研究を行っている。このWatson for Genomics(WfG)との共同研究では,独自の解析パイプラインとWatsonを併用することで相互の結果を検証し合い,より正確で臨床的に有用な情報の提供をめざしている。本稿では,現在までに得られた成果の一部を示し,臨床シークエンスにおける人工知能の可能性と課題にも言及する。

15 (SEL3-7)
骨髄系腫瘍:CML/MPN/MDS
16 (EL1-5)
  • 木村 晋也
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1920-1930
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    ABLチロシンキナーゼ阻害剤(TKI)メシル酸イマチニブが登場し,慢性骨髄性白血病(CML)の治療は劇的な進歩を遂げた。第2(ニロチニブ,ダサチニブ,ボスチニブ)および第3世代(ポナチニブ)のTKIsも臨床で使用できるようになり,さらに治療成績は向上してきた。そして慢性期CMLは10年生存率が90%を超え,ほぼ死なない病気となった。さらにSTIMやDADIなどの臨床試験によって,ある一定数のCML患者は,安全にTKIを中止できることも分かってきた。しかしいまだ全てのCML患者,特に移行期や急性期の患者を全て救命できるわけではなく,造血幹細胞移植の必要性も残されている。次世代シークエンス技術などによって,CML発症原因や,移行期・急性期への進展の分子病態もより詳細に検討できるようになってきた。病態解明に伴い,より多くの新規薬剤も開発されるようになり,CMLは今後さらなる予後の改善が期待できる。

17 (EL2-9)
  • 桐戸 敬太
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1931-1940
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    骨髄増殖性腫瘍の病態において,遺伝子変異は中心的な役割を果たす。遺伝子変異のうち,JAK/STAT経路を直接的に活性化するJAK2V617F変異,MPL変異およびCALR変異はドライバー変異とも呼ばれ,直接的に骨髄増殖性腫瘍の発症に関わることが想定されている。一方,DNAのメチル化,クロマチン機能制御およびRNAスプライスに関わる分子についても比較的高頻度に遺伝子変異を伴う。これらの遺伝子変異は,非ドライバー変異とも呼ばれ,骨髄増殖性腫瘍の形質の決定や病勢進行に関与すると考えらえている。遺伝子変異情報は骨髄増殖性腫瘍の臨床においても重要な意義をもつ。すなわち,遺伝子変異解析の結果は診断,リスク分類,予後予測,治療法の選択さらには治療のモニタリングなどに活用されつつある。今後,遺伝子解析情報をさらに臨床に還元していくにあたっては,遺伝子解析方法や解析結果の報告などの標準化・統一が課題であると考えられる。

18 (EL2-10)
  • 原田 浩徳
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1941-1950
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(MDS)は,網羅的な遺伝子異常の解析によってその全貌が見えてきた。しかし,5q−症候群以外に遺伝子異常と病態が密接に関連付けられた病型が規定されておらず,最新のWHO分類でもいまだに細胞形態や芽球比率による分類にとどまっている。MDSにみられる遺伝子異常は発症および進展に関与しており,それぞれがどのような臨床的意義を持つのか,大規模な症例の解析によって病型による遺伝子異常頻度の違いや相互関係,遺伝子異常に基づく予後やメチル化阻害剤への反応性予測などが示された。また,MDSを含めた家族性骨髄系腫瘍が責任遺伝子によって分類されるようになった。一方,一部の変異は健常人でも加齢とともに出現し,クローン性造血がみられる。遺伝子異常の蓄積がMDS発症までにどのような分子病態を呈するのか,生物学的解明が期待される。

19 (EL2-11)
  • 後藤 明彦
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1951-1959
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞のクローナルな疾患であり,根治療法は造血幹細胞移植(hematopoietic stem cell transplantation, HSCT)しかない。したがって,白血病化のリスクが高く生存期間の短い高リスク群にはHSCTを中心とした治療戦略が取られ,HSCT非適応群においては現在唯一生存期間を延長しうることが証明されたDNAメチル化阻害薬が用いられる。しかしながら,MDSは高齢者が多く,移植関連死亡率も高いため,長期生存が期待できる低リスク群には主としてHSCT以外の治療戦略がとられる。以前は輸血を主体とした支持療法のみであったが,近年いくつか治療オプションが加わり,支持療法にも進歩がみられ,良好なQOLを保ち,かつ生存にも寄与しうる治療法の選択が求められる。本稿では低リスク群に対する治療戦略を中心にMDSの治療を概説する。

リンパ系腫瘍:ALL/悪性リンパ腫
20 (EL1-1)
  • 矢野 尊啓
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1960-1972
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    慢性リンパ性白血病chronic lymphocytic leukemia(CLL)は,成熟Bリンパ球が,末梢血,骨髄,リンパ節,脾臓に浸潤,増加する疾患である。欧米では白血病の中で最も頻度が高いが,本邦ではその約10分の1で,人種的な背景が罹患率の差に寄与している可能性が高い。高齢者に多く診断時年齢の中央値は約70歳であるが,家族内集積が濃厚である。最近のゲノム解析によりCLL発症と関連する遺伝子座が発見され,その遺伝子多型(SNP)がCLL発症にかかわる危険因子ではないかと推察されている1)。CLLでは,腫瘍細胞と微小環境の相互作用が病態の形成と進展に強く関係している2)。分子標的薬の開発に伴い,CLL細胞を標的にした薬剤と,CLL細胞が生存増殖する微小環境を標的にした薬剤が登場し,その診療内容は大きく変化している。本稿ではCLLの病態の理解の進歩と最新の治療を結びつけて概説する。

21 (EL1-7)
  • 吉田 功
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1973-1982
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    限局期ホジキンリンパ腫(HL)は化学療法と放射線治療を組み合わせたcombined modality therapyによって80%超える患者に治癒が得られるようになった。その一方で,二次発がん,心肺毒性などの晩期合併症が問題となっている。進行期HLにおいてはFDG-PETを用いたresponse adapted therapyが行われ,interim PET陰性症例に毒性軽減を目的とした治療の減弱,interim PET陽性症例に治療の強化が検討されている。自家移植後の再発症例に対してはCD30を標的とした抗体薬物複合体:brentuximab vedotinや免疫チェックポイント阻害剤:抗PD-1抗体の有効性が報告されている。本稿ではこれら治療開発のEBMをたどりながら限局期予後良好群,限局期予後不良群,進行期,再発・治療抵抗症例における包括的治療戦略を紹介する。

22 (EL3-1)
  • 藤澤 信
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1983-1994
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    急性リンパ性白血病(ALL)は小児領域では治療成績の劇的な改善が認められ化学療法による治癒も期待されているが,成人領域においては改善が乏しく治癒には同種移植によるところが大きい。しかし,最近は若年成人に対する小児用レジメンにより良好な成績が報告されており,その上で成人ALLに対する小児用レジメンが予後の改善をもたらすことが期待されている。成人領域におけるT細胞性ALLは極めて稀少疾患であり,T-ALLに限定された大規模な前向き臨床成績は報告されていない。しかし本邦においてはネララビン併用化学療法の前向き試験が進行中である。また,フィラデルフィア染色体陽性ALLは以前は予後不良とされていたが,チロシンキナーゼ阻害剤の登場により殆どの症例が完全寛解に導入されるようになった。再発・難治ALLについても新規薬剤が開発され予後が改善されつつある。本稿においては現在までの成人ALL治療の進歩と今後について概説する。

23 (EL3-2)
  • 今井 陽俊
    2017 年 58 巻 10 号 p. 1995-2003
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    成人ALLは寛解が得られても多くが再発する。再発・治療抵抗性ALLの再寛解率は従来の化学療法では18~44%で寛解持続期間が短い。再発・治療抵抗性ALLに対するサルベージ療法の目標は,同種移植が可能となるように十分な寛解持続期間を得ることである。従来の薬剤の組み合わせでは治療成績の改善に限界があるため,新規薬剤が開発されてきた。期待される薬剤にclofarabineとnelarabineがある。Ph陽性ALLは,チロシンキナーゼ阻害薬が登場してから,血液学的完全寛解が高率に得られ同種移植可能な症例が増えて,長期生存が可能な疾患となってきている。T315I遺伝子変異を認める症例に対しても効果が期待されるponatinibが使用可能となった。Ph陰性ALLでは白血病細胞を特異的に攻撃する新規分子標的薬・抗体薬の開発が行われている。Inotuzumab ozogamicin,blinatumomabおよびCAR-T療法が期待されている。治療効果だけではなく有害事象にも注意が必要である。治療法が確立していないため現在多くの臨床試験が行われている。

24 (EL3-3)
  • 石塚 賢治
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2004-2011
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)はヒトTリンパ球向性ウイルスI型(HTLV-1)によって引き起こされる末梢性T細胞腫瘍である。HTLV-1感染リンパ球は,TaxやHTLV-1 bZIP factorなどによって不死化され,やがてクローナルな増殖を始める。ATLの分子病態の特徴は,ATL細胞が多くのゲノム異常を持ち,しかもそれらのほとんどがいくつかの標的経路に収束すること,ヒストンH3リジン27のトリメチル化に特徴づけられるゲノム全域にわたるエピジェネティックな異常によって機能的microRNAや腫瘍抑制因子の発現が抑制され,腫瘍の発生と維持に関わっていることである。これらATLに特徴的な分子病態のなかで,CCR4を標的とする治療は既に抗体薬として日常診療に導入されたほか,Taxを標的とする免疫療法,免疫チェックポイント阻害薬による治療,EZH1/2を標的とする治療の開発が進んでいる。

25 (SEL3-4)
  • 渡邉 俊樹
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2012-2019
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    ATLの治療は,新規薬剤の参入や血液幹細胞移植の積極的導入などの動きを受けて,様々な治療研究が進められて活性化している。しかしながら,患者の生命予後の改善はいまだに限界がある。この現状を踏まえて,ATLの治療戦略に関する枠組みの見直しを検討する時期であると考える。新たな戦略構築には,ウイルスの感染から感染Tリンパ球のクローン性増殖,ゲノムおよびエピゲノムの異常の蓄積を経て腫瘍性増殖に至るin vivoの現象に関する知見に基づいて,感染予防・発症予防・個別化治療の全体を有機的に連携した枠組みを考えるべきである。その実現を可能にする必須の基盤の一つとして,ATL発症高危険群を「慢性活動性HTLV-1感染症」という新たな疾患概念として捉え直すことを提唱し,新規の知見を基盤とした新たな診断と発症予防・治療への展開につながる研究の現状を紹介する。

26 (EL3-8)
  • 福原 規子
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2020-2025
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma, FL)はrituximabの臨床導入により治療成績は向上したが,依然治癒は困難とされている。FLの治療方針は,限局期,低腫瘍量・進行期,高腫瘍量・進行期に分けて検討される。低腫瘍量では,無治療経過観察が標準療法と考えられていたが,rituximab単剤の有用性が示唆されている。高腫瘍量では,化学療法にrituximabを併用することで全生存割合の改善を認められており,導入化学療法としてR-CHOP療法やR-bendamustine療法は有効性が高い。導入化学療法に奏効した場合は,rituximab維持療法を追加することで無病生存期間の改善が認められている。近年,初回化学療法から24ヶ月以内の再発症例では,5年生存割合が50%と予後不良であることが明らかになり,このようなハイリスク群への対応が治療成績向上に重要と思われる。

27 (EL3-9)
  • 伊豆津 宏二
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2026-2032
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    マントル細胞リンパ腫(MCL)は,CD5陽性,CCND1陽性,CCND1-IGH転座で特徴づけられるアグレッシブB細胞リンパ腫である。化学療法により一時的な奏効が期待できるが,再発を繰り返し難治性となることが多い。未治療MCLではリツキシマブ併用化学療法が行われるが,自家移植適応の場合,高用量シタラビンを含む寛解導入療法と地固め療法として自家移植を行うことが勧められる。自家移植非適応の場合,R-CHOP療法,ボルテゾミブ併用化学療法,ベンダムスチン・リツキシマブ併用療法,奏効後のリツキシマブ維持療法等が選択肢となる。再発・難治性MCLではフルダラビン,ベンダムスチン,イブリツモマブチウキセタンや各種の殺細胞性の抗腫瘍薬が用いられていたが,ブルトン型チロシンキナーゼ阻害薬イブルチニブが最近承認され治療選択肢に加わった。最近の治療の進歩により今後の予後改善が期待される。

28 (EL3-10)
  • 島田 和之
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2033-2042
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)は,最も高頻度に生じる非ホジキンリンパ腫の一病型であり,全悪性リンパ腫のおよそ30~40%を占める疾患群である。2000年に提唱された網羅的遺伝子発現解析による胚中心型と活性化B細胞型の腫瘍細胞起源による分類に始まり,2010年以降,網羅的遺伝子変異解析により,その変異プロファイルが明らかにされ,胚中心型ではepigenetic modifier関連遺伝子,活性化B細胞型ではB細胞受容体からその下流にあるNFκB経路関連遺伝子に変異が集積していることが明らかになってきた。治療面においては,既存のR-CHOP療法がいわば完成された治療であることが再認識され,明らかにされてきた分子病態に基づく標的薬の開発と免疫微小環境を利用した治療薬開発が精力的に行われている。既存の治療に難治性の病態の克服のためには,病態に基づいたブレークスルーが必要とされる。

29 (SEL3-11)
  • 錦織 桃子, 高折 晃史
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2043-2049
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    Programmed cell death-1(PD-1)シグナル経路はT細胞免疫を負の方向へ制御する調節機構である。PD-1は生理的および病的なT細胞の機能調節に関与し,腫瘍の免疫逃避機構にも関わることが知られる。PD-1やPD-1リガンドの阻害薬は様々な悪性腫瘍の治療において有望であることがこれまでに多くの臨床試験で示されている。その中でも古典的ホジキンリンパ腫に対する治療効果は顕著であり,国内では2016年末にニボルマブが同疾患に対し適応承認された。また,他のいくつかのリンパ腫病型に対してもPD-1阻害薬の有効性を示唆する報告が出始めている。PD-1阻害薬は安全性の高い薬剤であるが,皮膚・肺・甲状腺・腸管など様々な臓器を標的とする免疫関連副作用を生じうることが知られており,これらは稀ながら命に関わる病態にも進展しうることから,治療中は慎重に観察を行うことが推奨されている。

リンパ系腫瘍:多発性骨髄腫
30 (EL1-2)
  • 八木 秀男
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2050-2057
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    初発多発性骨髄腫に対する導入療法は,ボルテゾミブ,レナリドミド,サリドマイドなどの新規薬剤を含めた多剤併用療法が現在の主流である。65歳以下の若年者と70歳未満で重篤な合併症がなく,心肺機能正常であれば自家末梢血幹細胞移植併用大量メルファラン療法を行うことが推奨されるため,導入療法としては造血幹細胞に毒性のある薬剤が除外される。そのため本邦ではPAD療法,VTD療法,VCD療法,RVD療法などが推奨されているが,レブラミドについては長期使用すると採取困難となる可能性が指摘されており,注意を要する。一方,65~70歳以上の高齢者,重篤な合併症や心肺機能異常を伴う若年者,移植拒否の患者に対しては新規薬剤を含めた2剤または3剤併用療法が有効であり,一般的にVMP療法,MPT療法,Rd療法などが推奨されている。さらに75歳以上の高齢者においては患者因子としての脆弱性を評価し,各薬剤を適切に減量することが重要である。

31 (EL1-3)
  • 黒田 純也
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2058-2066
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫(multiple myeloma, MM)に対してプロテアソーム阻害剤や免疫調節薬が治療薬として導入され,その治療成績,予後は大きく改善した。しかし,いまだにMMの完治は困難であり,再発・難治MM(relapsed/refractory MM, RRMM)に対する治療設計は,生命予後のみならず,QoLや生き方をも規定する重要因子となる。近年,第2世代プロテアソーム阻害剤であるカルフィルゾミブやイキサゾミブ,モノクローナル抗体治療薬であるエロツズマブやダラツムマブなどが投与可能となり,治療選択肢はますます拡大している。RRMMへの治療選択に際しては,再移植を含め,各治療戦略の効果発現における特性,疾患の細胞遺伝学的・分子生物学的プロファイル,myeloma-defining event,併存症,治療歴などを指標とした高度な判断を伴うdecision makingが必要である。

32 (SEL3-5)
  • 伊藤 拓水, 半田 宏
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2067-2073
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    IMiDs(Immunomodulatory drugs)は,サリドマイドを基に開発された新しいタイプの抗がん剤である。IMiDsはE3ユビキチンリガーゼ複合体(CRL4)の基質受容体であるセレブロン(CRBN)を共通の標的因子としている。最近の研究によりIMiDs共通の標的因子であるセレブロンにIMiDsが結合すると,その化合物の形状に応じて認識する基質が変わり,結果として多様な治療効果を引き起こすことが判明している。最新のセレブロン結合化合物(CC-122, CC-220, CC-885)はセレブロンモジュレーターと呼ばれ,その作用は多岐にわたる。また壊したい病原タンパク質に結合する薬剤とセレブロン結合化合物をリンカーで融合させることにより,その分解を果たす新たな技術(ターゲットタンパク質分解法)の開発も進んでいる。本稿では,セレブロンの関わる薬剤開発についての最新の情報を解説したい。

血栓/止血/血管
33 (EL2-5)
  • 野上 恵嗣
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2074-2080
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    血友病治療の原則は第VIII因子および第IX因子の定期補充療法であり,血友病性関節症の発症が抑制され,QOL向上に大きく貢献している。一方,製剤の頻回経静脈投与と血管アクセスの問題,製剤投与により発現するインヒビターが血友病医療の重大な課題である。これらの克服のため,半減期延長型製剤や新たな概念の血友病治療製剤が開発されている。Bispecific抗体は,抗原部位の片方に第IX因子,もう片方に第X因子が結合して活性型第VIII因子補因子機能を代替する。第1相臨床試験がわが国で実施され,血中半減期は約30日であり,週1回皮下投与により出血回数がインヒビターの有無に関係なく激減したと報告された。‘Rebalance coagulation’概念である抗アンチトロンビン製剤と抗TFPI抗体製剤も開発されている。近年,ベクター改良やコドン最適化により治療レベルまでの遺伝子発現が可能となり,遺伝子治療の臨床研究も進んでいる。新規血友病治療製剤の開発により,血友病患者の長年の課題を克服し,QOLの更なる向上が期待できよう。

34 (EL2-6)
  • 松本 雅則
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2081-2086
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)は致死的疾患であるが,適切に診断し,治療を開始すれば80%以上の生存が可能となっている。TTPは,血小板減少と溶血性貧血で疑い,ADAMTS13活性を検査し,10%未満で確定診断する。ADAMTS13に対する自己抗体(インヒビター)が陽性であれば後天性,ADAMTS13遺伝子異常があれば先天性と診断する。治療法は,先天性TTPではADAMTS13を補充するため新鮮凍結血漿(FFP)を輸注する。後天性TTPでは,ADAMTS13を補充し自己抗体を除去するなどを目的としてFFPを置換液とした血漿交換を行う。自己抗体の産生を抑制するためステロイド療法が血漿交換に併用されることが多い。2017年に我々は,「TTP診療ガイド2017」を公表したが,本稿ではそこに記載できなかった新規治療法などを紹介する。

35 (EL3-12)
  • 津田 博子
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2087-2095
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    特発性血栓症は,先天的な血液凝固亢進状態により病的血栓傾向となり,若年性に重篤な血栓症を発症する疾患群である。再発を繰り返し,重篤な機能障害を合併することから,長期の療養を要することが多い。また,その発症には不動,脱水,感染,手術,外傷,がん,妊娠,女性ホルモン剤服用などの誘発因子が深く関与する。特発性血栓症のうち先天性アンチトロンビン(AT)欠乏症,先天性プロテインC(PC)欠乏症,先天性プロテインS(PS)欠乏症は,小児慢性特定疾病として医療費助成の対象となっているが,20歳になると助成が打ち切られる。平成29年4月から,AT,PC,PSの先天的欠乏による特発性血栓症が「特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る。)」として指定難病に認定され,医療費助成が開始した。診療体制の整備や臨床調査個人票によるデータベースの構築・管理などによって,研究と診療がさら進展することが期待される。

36 (EL3-13)
  • 橋口 照人
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2096-2103
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    凝固・線溶データを解釈する上で大切なことは「フィブリンは血液中に溶けない分子である」ことを再認識することであろう。凝固系は可溶性から不溶性への変換であり線溶系は不溶性から可溶性への再変換というダイナミックな反応系である。フィブリンは溶けないからこそ分子としての意味をもち,FDP・Dダイマーは溶けるからこそ分子としての意味をもつ。この大きな概念の中に凝固反応はカスケード(増幅)反応であること,カルシウムイオンを必要とすること,凝固系は血小板のリン脂質膜上,線溶系はフィブリンの分子上にて効率良くプロセスされる反応が含まれる。日常臨床における凝固系検査の多くに凝固時間検査が応用されている。その一つである凝固因子活性測定法(一段法)は生体内の凝固因子は過剰に存在していることがその基本原理である。DICの病態においてはプロテアーゼの活性化により血中に無数のペプチド断片が出現している。

造血幹細胞移植
37 (EL1-16)
  • 西尾 信博, 高橋 義行, 小島 勢二
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2104-2110
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    同種造血幹細胞移植後のgraft versus host disease(GVHD)は移植関連合併症,移植関連死亡を増加させ,quality of life(QOL)を低下させる。一方,GVHDの発症を抑えるための過度な免疫抑制は移植後感染症や悪性疾患の再発を増加させるため,移植の成功のためには適切なGVHD予防が求められる。Anti-T cell globulin(ATG)はカルシニューリン阻害薬やメソトレキセートなどの免疫抑制剤との併用により,重度の感染症や悪性疾患の再発を増加させることなく,重症の急性GVHDや全身型慢性GVHDの発症を低下させる。ATGの血中動態は患者間で大きく異なり,このことは移植結果に影響を与えるため,患者ごとに必要な投与量を予測するための研究が必要である。ステロイド抵抗性GVHDの治療薬としてのATGの位置付けは限定的であり,今後の研究が待たれる。

38 (EL1-17)
  • 黒澤 彩子
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2111-2123
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    造血幹細胞移植後の急性期の予後は改善し,治療終了後晩期のヘルスケア,生活の質を支持する必要性により大きな関心が寄せられている。移植後,原病の治癒を得た長期生存者においても,移植後2~5年目以降の死亡率は一般人口と比較して高く,また慢性GVHDのほか,臓器障害や内分泌疾患の罹患率が高いことが報告されている。移植後晩期に起こり得るそのほかの問題としては,心理社会的障害,就労困難などによる経済的問題,QOLの低下など,身体面のみならず多岐にわたる。造血幹細胞移植後長期フォローアップ専門外来(long-term follow up, LTFU)の役割は,移植後の晩期合併症のマネージメントをはじめ,身体面,心理面,社会面等の多角的な支持である。本邦では2012年に「移植後患者指導管理料」が保険収載され,以降,LTFUを設立する施設が増えつつある。本邦におけるLTFUの現状と課題について解説する。

39 (EL1-18)
  • 杉田 純一
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2124-2134
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    移植後シクロホスファミド(PTCy)を用いたHLA半合致移植は急速に普及してきている。PTCyの作用機序は移植後早期に同種抗原に応答して活性化したアロ応答性T細胞が選択的に傷害されることであり,近年のPTCyを用いたHLA半合致移植とHLA一致移植を比較した報告では,いずれの報告においても移植成績は同等,GVHD,特に慢性GVHDはPTCy群で少ないという結果であった。本邦においてはJSCT研究会にて2013年より全国多施設共同第II相試験を実施してきた。2013年より開始したHaplo13ではJohns Hopkinsの原法にbusulfanを追加した強度前処置を用い,末梢血幹細胞を使用した。Haplo14 MACではBUまたは全身放射線照射からなる骨髄破壊的前処置を,Haplo16 RICではPTCyの投与量の減量を,さらにHaplo17ではMMFの減量およびTacの早期漸減中止を試みている。これらの試験結果によりPTCyを用いたHLA半合致移植の成績が向上することが期待される。

40 (SEL1-19)
  • 峯石 真
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2135-2140
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    最近の目覚しい分子標的療法の発展の中で,造血幹細胞移植の役割も変わりつつある。昔ながらの唯一無二の治療から,ほかの治療法との共同を見出していく方向へ,である。移植の前処置の強度も昔ほどでなくなってきているため,移植後の治療法と組み合わせることが可能となってきている。この総説ではそれぞれの分子標的療法,Ph+疾患におけるTKI,Flt3阻害剤,チェックポイント阻害剤,脱メチル化剤などを,移植と一緒に使う方法を検討する。また,その場合に,化学療法や移植前処置の強度は重要か,深い寛解に持っていく時期は大切かどうかも考えてみる。この場合,MRD(微小残存病変)が重要になってくる。分子標的療法の使用は血液悪性腫瘍の分野でますます盛んになってくる。それぞれの新薬がGVHD/GVLとの相互作用を持つので,これらを明らかにして,最大の治療的効果を生む方法を考えるのがこれからの臨床試験の鍵になる。

免疫・細胞・遺伝子治療/輸血
41 (EL2-7)
  • 山本 晃士
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2141-2149
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    適正輸血とは制限輸血と置き換えてもよく,実効性の挙がる最小限の輸血を目指すことが患者の利益につながると考えられる。なかでも新鮮凍結血漿(FFP)の適応と効果についてはあまり認知されておらず,止血に寄与しない不適切なFFP輸血が行われている現状がある。本来は,出血予防やPT,APTTなど凝固検査値の改善目的でのFFP輸血を回避し,出血症状に対して止血を図るためにFFP輸血を行うべきである。特に,止血目的の輸血治療が必要とされる大量出血においては,高度な低フィブリノゲン血症を主体とする凝固障害が止血不全に直結している。したがって早期から十分なFFP輸血を行い,フィブリノゲン値をすみやかに止血可能域まで上げることが重要である。急性白血病など線溶亢進を伴った出血性DICにより危機的なフィブリノゲン枯渇状態に陥っている場合には,フィブリノゲンが濃縮されているクリオプレシピテート,もしくはフィブリノゲン製剤が止血のために有効である。

42 (SEL2-8)
  • 杉本 直志, 江藤 浩之
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2150-2159
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    iPS細胞からの血液製剤の製造は,ドナーに依存しない供給や遺伝子改変の易操作性によって,現行の血液製剤を補完・代替することが見込まれる。赤血球は酸素運搬,血小板は止血作用にそれぞれ必須な血球成分であり,輸血療法は重度の貧血および血小板減少に対して確立した医療となっている。しかし献血由来製剤に付随する需給不一致や同種免疫反応,感染症などの課題は完全には解決しておらず,高齢社会に伴う献血ドナー不足も予測されている。iPS細胞からの赤血球の製造は成人型形質への分化や大量製造にまだ課題を残しているが,血小板製剤は高増殖性の巨核球株や新型バイオリアクター,新規化合物の開発により質量ともに臨床応用レベルに達しつつある。臨床応用を見据えた品質ガイドライン作りも進められているiPS細胞由来血液製剤は,造腫瘍性の懸念が低い一方で需要は大きいことから,iPS細胞医療の普及の先例となることも期待される。

小児血液疾患
43 (EL1-13)
  • 富澤 大輔
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2160-2167
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    急性白血病は,青年期および若年成人期(AYA世代)の代表的な悪性腫瘍である。最近の遺伝子解析技術の進歩により,AYA世代の急性リンパ性白血病(ALL)ではPh-like ALLやDUX4ERGMEF2DZNF384などの変異の頻度が高いこと,急性骨髄性白血病(AML)では,FLT3-ITD,NPM1IDH1/2DNMT3AASXL1TET2CEBPA変異などが小児と比較して多いことが報告されている。ALLでは小児型治療がAYA世代の標準治療として確立されつつあるが,AMLにおいては小児型治療と成人型治療との優劣は明らかでない。小児血液・腫瘍医と成人血液内科医との密な連携によって,AYA世代の急性白血病治療の最適化を図ると同時に,遺伝子解析等で得られた最新の知見をもとに,新規治療の開発を行い,さらなる治療成績の改善を図る必要がある。

44 (EL1-14)
  • 三井 哲夫
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2168-2177
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    1970年代前半に長期生存が30%弱とされていた小児・若年者のリンパ腫の治療成績はこの30数年の間に,相当の改善をみた。非ホジキンリンパ腫では,stage I/IIのような限局性の病変は,その5年無病生存率は95~100%に達し,stage III/IVの進行期でも80%前後まで改善している。Hodgkinリンパ腫も本邦での10年EFSは80.2%となっている。本稿では,小児リンパ腫の主な組織型ごとに,日本小児白血病リンパ腫研究会(JPLSG)による臨床試験基盤の充実とともに得られた本邦の最近の臨床試験の成果を中心に述べる。今後は標準治療で治癒が得られない難治・再発例の成因解明とその効果的治療の確立,治療軽減が得られるかもしれない低リスク群の適確な層別化とその治療軽減,国際共同での枠組み等を通じての稀なリンパ腫の更なる病態解明と標準治療の確立が必要となる。

分類
45 (EL3-14)
  • 麻生 範雄
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2178-2187
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    WHO2016年分類における骨髄系腫瘍の基本的なカテゴリーは2008年の第4版とほとんど変わっていない。しかしながら,最近の遺伝子異常の同定により診断や予後予測に関する新しい視点がもたらされている。JAK2MPL変異に続いて同定されたCALR変異は骨髄増殖性腫瘍の診断に大きな影響を与えた。また,骨髄異形成症候群と急性骨髄性白血病における転写因子とシグナル伝達経路の遺伝子変異に加えて,網羅的遺伝子解析により同定されたDNAメチル化やヒストン修飾,コヒシン複合体あるいはRNAスプライシングなどのエピゲネティック調節分子の遺伝子変異は疾患の分子病態をより明らかにするものである。さらに健常人における骨髄系腫瘍に認める遺伝子変異の同定とその後の造血器腫瘍の発症リスクの増大は不確定の可能性を有するクローン性造血という概念を生んだ。WHO2016分類は臨床所見,形態学,細胞表面形質および遺伝子異常を統合した診断基準であり,予後予測を可能とするものである。

46 (EL3-15)
  • 田丸 淳一
    2017 年 58 巻 10 号 p. 2188-2193
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/04
    ジャーナル 認証あり

    The 2016 revision of the World Health Organization (WHO) classification of lymphoid neoplasms have been published in “Blood” as a review form. A major revision is being published that will be an update of the current fourth edition and not a truly new fifth edition. Because it is considered a part of the fourth edition, while some provisional entities will be promoted to definite entities and a small number of new provisional entities added, there will be no new definite entities. As with the 2001 and 2008 classifications, an all-important Clinical Advisory Committee meeting was held to obtain the advice and consent of clinical hematologists/oncologists and other physicians critical to the revision. The classification maintains the goals of helping to identify homogeneous groups of well-defined entities and facilitating the recognition of uncommon diseases that require further clarification. Some provisional or variant entities; EBV-positive large B-cell lymphoma, elderly and Pediatric follicular lymphoma focused on the age of onset, in situ lesions, and gray zone lymphomas, recognized in the 2008 WHO classification, were revised. This will review the major areas in mature B-cell lymphoid and mature T/NK-cell lymphoid neoplasms and Hodgkin lymphoma where changes from the 2008 WHO classification.

feedback
Top