臨床血液
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59 巻, 10 号
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第80回日本血液学会学術集会 教育講演特集号
基礎医学領域における進歩
1 (EL1-4E)
  • —ヒト造血幹細胞の純化と階層制の解明—
    薗田 精昭
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1861-1871
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    造血幹細胞(HSC)の生物学は,造血幹細胞移植や基礎研究において重要なトピックである。哺乳類(マウスおよびヒトを含む)において最も未分化なHSCは,長い間CD34抗原陽性と信じられてきた。しかしながら,Nakauchiらによりマウスの長期造血再構築能を持つHSCが,CD34抗原陰性(CD34)KSL細胞であることが示された。我々は,骨髄内直接移植法を用いて,ヒト臍帯血(CB)中に非常に未分化なCD34HSCが存在することを明らかにした。一連の研究により,CD34HSCがヒトHSCの階層制上で頂点に位置する未分化なHSCであることを提唱してきた。最近,独自に同定した2つの陽性/濃縮マーカーであるCD133抗原とGPI-80抗原に対する抗体を同時に用いることにより,CD34+/−HSCsを単一細胞レベルまで純化可能な超高度純化法を開発した。本法を用いる単一細胞レベルでの解析結果に基づいて,CD34HSCの新たな分化モデルを提唱している。本総説では,ヒトCB由来の未分化CD34+/−HSCsの幹細胞特性について最新の知見を紹介する。

2 (EL1-4G)
  • 加藤 浩貴, 五十嵐 和彦
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1872-1879
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    造血系は造血幹細胞が徐々に多分化能を失いつつ各成熟細胞へと分化することで構築されると理解されてきた。しかし最新の解析から,造血幹細胞分画が既に分化偏向の起きている不均一な細胞集団である可能性が指摘され,既存の階層的な血液細胞の分化モデルに再検討の必要性が提起されている。そもそも,同一のゲノム情報をもつ細胞が異なる成熟細胞へと分化するには,エピゲノム修飾も含めた転写制御で必要な遺伝子群を適切な時点で発現する必要がある。そこには,赤血球系細胞でのGATA1やミエロイド系細胞でのPU.1等の転写因子が分化の初期段階から重要な機能を有していると考えられてきた。しかし,それら転写因子自体の発現はどの様に調節されているのか,特定の成熟細胞へと分化方向が決定されるlineage commitmentは造血幹細胞からのどの時点でなされ,そこに転写因子の遺伝子発現やエピゲノム修飾がどう関わるのかという課題については未だ不明な点が多い。本稿では最新の研究成果を踏まえこれらの問題について考察する。

3 (EL3-3E)
  • 田原 栄俊
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1880-1885
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    超高齢化社会における健康長寿達成のためには,疾患に罹患しない身体作りと病気の超早期の発見と治療が重要である。疾患に罹患するかどうかを事前に認知することは極めて困難である。何らかの症状が出たときには病気を発症していることが多く,症状が出る前に病気の罹患リスクを検知できる技術が必要である。さらに,病気を超早期に治療するためには,病気の発症を超早期に発見できる技術が必須になる。前者の疾患に罹患するリスクを検知する検査としてテロメアGテール長を測定する検査技術が注目されている。また後者の,病気を超早期に発見できる検査として,血液などの体液中のマイクロRNAを測定する技術が注目されている。本稿では,テロメアとマイクロRNAの疾患リスク検査としての可能性について述べたい。

4 (EL1-4H)
  • 橋本 大吾
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1886-1894
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    近年まで,組織常在マクロファージ(tissue-resident macrophage, TRM)は,末梢血単球から分化し,末梢血単球によって維持されると考えられてきたが,近年の研究により多くのTRMは胎生期の前駆細胞から分化して,出生後も末梢血単球とは独立して局所で維持されていることが判明している。また胎生期の造血に関する理解が進み,卵黄嚢マクロファージ,卵黄嚢のlate EMPに由来する胎仔単球が,TRMの前駆細胞であることが示されている。また,各TRMには独自のTRMニッチが存在し,胎生期も出生後も異なった由来のTRMが各TRMニッチを競合している。各TRMニッチからのシグナルにより,TRMは各臓器で独自の分化を遂げ,それぞれの臓器でのホメオスタシスの維持に適した機能を獲得する。本稿では,TRMニッチによるTRMの分化・維持の制御について述べることとする。

5 (EL2-4A)
  • 藤原 弘
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1895-1904
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    近年,腫瘍免疫の解析が進み,がん細胞傷害活性を付与された活性化T細胞が遊走・到達して抗腫瘍効果を発揮する場である腫瘍微小環境の重要性が注目されている。特に,固形がんの解析から腫瘍微小環境が担がん宿主の腫瘍免疫応答を抑制してがんの進展・転移を支持する特性を持つことが明らかにされた。がんに対する免疫療法に臨床的なリアリティを与えたのは宿主の腫瘍免疫応答抑制を解除する免疫チェックポイント阻害抗体と抗腫瘍性エフェクター細胞であるがん抗原受容体遺伝子導入T細胞の二つである。そしてそれらの臨床的成功ががん免疫療法に於ける腫瘍微小環境を制御することの重要性を改めて明らかにしつつある。本稿では,主として固形がん治療のbreakthroughを目指して開発が進められている新たな細胞免疫療法の紹介を含めて,がんに対する免疫療法の視点から腫瘍微小環境の重要性を考える契機としたい。

6 (EL3-6F)
  • 杉本 直志, 江藤 浩之
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1905-1913
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    iPS細胞からの血小板製剤(iPS血小板)の製造は,ドナーに依存しない供給や遺伝子改変の易操作性によって,現行の血液製剤を補完・代替することが見込まれる。血小板は止血作用に必須な無核の血球成分であり,血小板輸血は重度の血小板減少に対して確立した医療となっている。しかし献血に付随する同種免疫反応,感染症などの課題は完全には解決しておらず,社会高齢化に伴う献血ドナー不足も予測されている。そこでiPS細胞からの血小板の製造開発が進められ,高増殖性の巨核球株や乱流概念に基づく新型バイオリアクター,無フィーダー培養および品質改善を可能とする新規化合物の開発により質量ともに臨床応用レベルに達している。品質ガイドライン作りも進められているiPS血小板は,造腫瘍性の懸念が低い一方で需要は大きいことから,iPS細胞医療の広範な普及の先例となり,誰もがいつでも安全な血小板輸血を受けられる将来が期待される。

臨床血液学におけるトピックス
7 (EL3-4C)
  • 岡本 宏明
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1914-1923
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    E型肝炎ウイルス(HEV)はE型肝炎の原因ウイルスであり,わが国でもブタやイノシシなどの動物をリザーバーとして常在している。肝臓で増えたHEVは腸管のみならず,循環血液中にも放出されるため,輸血用血液製剤からの感染もありうる。HEV感染は通常一過性であるが,臓器移植患者や血液疾患患者などの免疫能が低下した患者では慢性化する場合がある。わが国でも全国調査により臓器移植患者でのHEV感染の慢性化や慢性E型肝炎発症例が見出されている。血液疾患患者,特に造血幹細胞移植患者でのHEV感染の調査はスタートしたばかりであるが,これまでに把握されているE型肝炎を発症した血液疾患患者が少なくとも13例あり,そのほとんどは輸血後のHEV感染事例である。E型慢性肝炎発症例や,複合要因の関与が示唆されるが輸血後劇症肝炎による死亡例もある。血液疾患患者における肝障害の原因として,HEVの関与を常に念頭に置く必要がある。

8 (EL2-4C)
  • 前田 高宏
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1924-1934
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    “You can match a blood transfusion to a blood type—that was an important discovery. What if matching a cancer cure to our genetic code was just as easy, just as standard?”:これはオバマ大統領がPrecision Medicineを提唱した,2015年の一般教書演説の一節である。本来,Precision Medicineは,ゲノム情報のみならず,患者の生活習慣,生理学・生化学・画像検査,各種のオミックス検査を総合的に評価し,患者に最も適した医療を提供することであるが,ゲノム情報に基づいたがん治療(いわゆる「がんゲノム医療」)がPrecision Medicineの代名詞となっている。本稿では,造血器腫瘍の臨床におけるがんゲノム医療の実践について考察する。

9 (EL3-3D)
  • 三浦 康生
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1935-1941
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    間葉系幹細胞(間葉系間質細胞,mesenchymal stromal/stem cell(MSC))は免疫調節,組織再生,抗炎症,造血支持など多彩な生物学的特性を有し,それらを応用した細胞治療開発が診療科を横断して様々な疾患に対して精力的に行われている。我が国では世界に先駆けて全国の医療機関でステロイド抵抗性急性移植片対宿主病を適応症として第三者由来同種骨髄由来MSC製剤が使用可能となった。本稿では,同疾患をはじめとして多岐にわたる活用が期待されるMSCの基礎と臨床開発の現状,さらに今後の展望について筆者らが明らかにした新しい基礎的知見も交えて概説する。

10 (EL3-6E)
  • 門脇 則光
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1942-1947
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    2つの異なる抗原結合部位をもつ二重特異性抗体が造血器腫瘍を対象に精力的に開発されている。二重特異性抗体にはFc部分をもつものともたないものがあり,後者のうちbispecific T-cell engager(BiTE)と呼ばれる抗体は,B細胞腫瘍を対象としたblinatumomabを中心に開発が進んでいる。Blinatumomabは腫瘍細胞上のCD19とT細胞上のCD3に結合して腫瘍細胞とT細胞を近接させ,T細胞による殺細胞効果を誘導する。この薬剤は,第一寛解期を含む微小残存病変陽性例,および再発・難治性のB前駆細胞性急性リンパ性白血病に対しFDAで承認されている。また,骨髄腫表面抗原や主要組織適合抗原に提示される細胞内抗原を標的としたBiTEや,高いT細胞活性化能と長い血中半減期を有するFc部分をもった二重特異性抗体も開発され,対象疾患の拡大と有効性・実用性の向上が期待される。

11 (EL1-3H)
  • 平松 英文
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1948-1954
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    がん治療においては長らく抗がん剤が主流であり,いわゆる免疫療法は一部の例外を除いて効果や副作用の点で臨床応用が進まないものが多かった。近年,抗体薬を始めとして様々な免疫療法が開発され,がん治療の様相は大きな転換期を迎えている。中でもchimeric antigen receptor-TいわゆるCAR-T細胞は特にB細胞由来の造血器腫瘍に対して優れた効果を発揮することが相次いで報告され,従来の方法では治癒の見込みが極めて難しいとされる患者の多くに寛解をもたらしうる画期的な治療法である。標的抗原を選択することで他の疾患への適応拡大が模索されているが,その一方で生命を脅かす重篤な合併症を来す可能性や,莫大な医療費など解決するべき問題も多い。とはいえ,今後のがん治療を根本から変えうるこの強力な新規治療の現状とこれからについて概説する。

造血/貧血
12 (EL1-4F)
  • 滝澤 仁, 林 慶和
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1955-1961
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    生涯を通じて自己複製能と多分化能を維持する造血幹細胞は恒常的には骨髄において非常にゆっくりと細胞分裂を繰り返す。一方,感染,炎症などの造血ストレスが生じる場合には,末梢組織での細胞消費に応じた骨髄造血が必要になるため,造血幹細胞も動員した組織だった造血活性化が起こることが予想される。近年,感染に起因した炎症反応がいかにして骨髄内で造血を司る造血幹細胞や造血前駆細胞に作用し,生体防御を目指した造血制御を行うのかについて多くの知見が蓄積してきた。これらの最新知見を紹介しながら,これまで免疫特権臓器の一つと考えられた骨髄で造血細胞のみならずニッチ細胞も巻き込んだ多種多様な炎症反応が繰り広げられているかについて議論する。

13 (EL1-4A)
  • 牧島 秀樹
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1962-1968
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    再生不良性貧血(AA)は自己免疫反応に起因する骨髄不全症候群である。近年のゲノム解析技術の進歩により,AAにおける低形成骨髄は腫瘍性病変ではないものの,クローナルな細胞集団により構成されていることが明らかとなった。AAに伴うクローン性造血は,古典的なX染色体のskewingの発見に始まり,PNH血球の検出,さらにはコピー数解析によるUPD6pの発見および次世代シーケンスによる遺伝子変異の検出により証明されてきた。AAは骨髄異形成症候群(MDS)へしばしば移行するが,AAとMDSのゲノム異常は明らかに異なったランドスケープを呈する。血液疾患のない高齢者にみとめられるクローン造血(ARCH/CHIP)とも共通性はあるものの,やはり異なったゲノム異常が認められる。これらは全て,AAの原因である自己免疫反応からのエスケープがクローン性造血に関与することを示唆している。

14 (EL1-3B)
  • 山﨑 宏人
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1969-1978
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    「再生不良性貧血診療の参照ガイド」が改訂された。従来のstage 2(中等症)は,赤血球輸血を必要としないstage 2aと月2単位未満の輸血を必要とするstage 2bに細分化され,stage 2bはstage 3以上の重症度と同じ治療方針が推奨されている。ATG+シクロスポリンによる免疫抑制療法には,エルトロンボパグ併用が加わった。また,輸血を必要としないstage 1やstage 2aであっても,診断後早期からのシクロスポリン投与が推奨されている。一方,同種骨髄移植の標準的な前処置として用いられてきた大量cyclophosphamide(CY)は,心毒性軽減のため,fludarabineを併用する減量CYレジメンに変わりつつある。代替ドナーからの移植では,移植後CYを用いた血縁ドナーからのHLA半合致移植が治療関連死亡や慢性GVHDの頻度が低いことから注目を集めている。

15 (EL1-4B)
  • 藤原 亨
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1979-1987
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    鉄芽球性貧血は,ミトコンドリアに鉄が異常に沈着した環状鉄芽球の出現を特徴とする貧血の総称で,先天性と後天性の様々な病態が含まれている。先天性鉄芽球性貧血は,ミトコンドリアにおけるヘム生合成,鉄硫黄クラスター代謝,およびミトコンドリアにおける蛋白質合成を担う遺伝子群の変異により引き起される。このうち最も高頻度なものは,赤血球型δ-アミノレブリン酸合成酵素(erythroid-specific δ-aminolevulinate synthase, ALAS2)遺伝子の変異に伴うX連鎖性鉄芽球性貧血(X-linked sideroblastic anemia, XLSA)である。一方,後天性鉄芽球性貧血はアルコール常飲や銅欠乏など明らかな原因のある二次性と,骨髄異形成症候群に代表される特発性に大別され,鉄芽球性貧血全体では先天性および二次性よりも特発性が圧倒的に多い。本稿では,鉄芽球性貧血の分子病態について概説する。

急性白血病
16 (EL1-6D)
  • 山内 高弘
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1988-1996
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病の治療は化学療法と造血細胞移植を両輪として発展してきた。しかし近年化学療法の進歩はほとんど見られなかった。ここ数年多くの新規薬剤が臨床試験において検討されている。そのような中,米国では2017年,FLT3阻害薬midostaurin,IDH2阻害薬enasidenib,リポ化製剤CPX-351,さらにgemtuzumab ozogamicinが立て続けに承認されるに至った。本邦においても現在多くの治験が進行中である。Bcl-2阻害薬venetoclax,CDK9阻害薬alvocidib(flavopiridol),smoothened(SMO)阻害薬glasdegib,新規脱メチル化薬guadecitabineとazacitidine,NEDD8阻害薬pevonedistat,そしてFLT3阻害薬quizartinibとgilteritinibが挙げられる。今後,従来の7+3への新規分子標的薬の併用,脱メチル化薬と新規分子標的薬の併用,さらには症例毎の分子病態に基づくprecision medicineへ進むことが期待される。

17 (EL1-6B)
  • 石川 裕一
    2018 年 59 巻 10 号 p. 1997-2006
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病(AML)において予後良好群に分類されるcore-binding factor AML(CBF-AML)は,臨床像,その分子生物学的基盤よりもAMLにおける一つの疾患単位を形成している。しかし,予後良好とされるCBF-AMLにおいても30%以上の症例で再発が認められているのが現状である。また,近年のシークエンス技術の革新により,CBF-AMLのうち,t(8;21)-AMLとinv(16)-AMLでは,併存する遺伝子変異においてそれぞれ特徴があることが判明し,分子生物学的に異なる白血病発症基盤,層別化因子の存在が考えられる。近年,分子標的療法による治療やMRDによるリスク層別化などが試みられているが,AML発症や治療抵抗性に関わる分子異常については十分に明らかになっておらず,今後の発症基盤の解明と予後不良例に対する層別化因子の探索,新規治療法の開発が望まれる。

18 (EL1-6C)
  • 木口 亨
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2007-2018
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    急性前骨髄球性白血病(APL)は,PML-RARA遺伝子変異を有し,異常な前骨髄球(豊富な顆粒もしくは微細顆粒)が増勢した急性骨髄性白血病(AML)のひとつである。APLは,かつて出血等の合併により致死率が極めて高いAMLの代表格であった。しかし,all-trans retinoic acid(ATRA)が,アントラサイクリン頼みの時代から治療に導入され,APLはむしろ治る確率が高いAMLへと変貌を遂げた。さらに,この30年間,ATRAに加えて,亜ヒ酸(ATO),タミバロテン(Am80),ゲムツズマブオゾガマイシン(GO)と言ういわゆる分子標的薬が次々に開発された。近年,作用機序が異なる分子標的薬を併用する時代となり,APLの治療成績は革命的ですらある。この総説では,APL治療が変遷してきたこれまでの軌跡とその最前線について紹介する。

19 (EL2-3A)
  • 小林 幸夫
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2019-2027
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    ALL治療は変革期を迎えている。成人ALLは,小児型の治療を取り入れることにより,AYA世代を中心に,治療成績の向上が認められる。病態の理解も深化し,年齢と結びついた特有の遺伝子変化が確認されてきた。Ph-like ALLと呼ばれる一群の予後不良例,DUX4/ERG異常を伴う予後良好例の存在が確立してきており,特異的な治療法が開発されてきている。MRD(minimum residual disease)の測定は,治療反応に応じた治療法を取り入れることが可能になり,フィラデルフィア陽性ALLでは,新規TKIの導入により,移植を行わない選択肢が出てきている。CD19, 22を標的とした新薬も開発されており,今後未治療例で使用されたときに,現行の治療成績を遙かに凌ぐことは間違いない。

20 (EL2-3B)
  • 鬼塚 真仁
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2028-2035
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)はチロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor, TKI)の登場により治療成績が向上している。第二世代,第三世代のTKIの登場が治療成績をさらに底上げすると期待するが,現時点で同種造血幹細胞移植の成績を非移植症例が上回る臨床試験は報告されていない。さらにPh+ALLではBCR-ABL1をPCR法により検出するminimal residual disease(MRD)の測定が随時可能であり,治療の効果を詳細に評価することができる。また,分子遺伝学的リスクが明らかになりつつあり,発症時に疾患のリスクを正確に評価し,治療の過程ではMRDモニタリングに基づいた適切な治療法の選択が可能となってきた。抗体療法も新たな治療選択肢に加わった現在,成人Ph+ALL症例に対してどのような治療が選択可能であるか考察した。

骨髄異形成症候群
21 (EL3-3A)
  • 岩間 厚志
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2036-2041
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome, MDS)は,形態的な異形成を有する造血細胞の異常な増殖と病的なアポトーシスによる無効造血を特徴とする造血器腫瘍であり,加齢に伴いその発症頻度が有意に増加する。各血球系細胞には様々な形態異常が認められ,無効造血のために成熟血球が減少し,血球減少・貧血を呈する。赤血球造血の異常の機序に関して,様々な新しい知見が報告され,徐々にその実態が明らかになりつつある。5q−症候群では,リボソーム合成障害を起因とするp53-S100a8/S100a9-TLR4経路の活性化の関与が明らかにされた。また,鉄芽球の増加を伴うMDSにおいては,スプライシングに関わるSF3B1遺伝子の変異が高率に認められ,スプライシング異常による遺伝子の発現低下や異常蛋白の出現が病態形成に関与することが示されつつある。これらの分子機序の解明を通して,新しい治療法が開発されることが期待されている。

22 (EL3-3B)
  • 川端 浩
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2042-2049
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(MDS)は造血幹細胞に生じた遺伝子変異の蓄積による造血器腫瘍であり,しばしば赤血球輸血による鉄過剰症を合併する。MDSの赤芽球はヘプシジン抑制因子(エリスロフェロンなど)を分泌し,腸管からの鉄吸収を促進して鉄過剰症を悪化させると考えられている。MDSの中でも鉄過剰症をきたしやすい病型は環状鉄芽球を伴うMDS(MDS-RS)で,高頻度にSF3B1遺伝子の体細胞変異を伴う。SF3B1遺伝子の変異はミトコンドリアから細胞質への鉄硫黄クラスター輸送体ABCB7の発現を低下させる。MDSにおける鉄過剰症は肝障害,糖尿病,心不全,動脈硬化を引き起こすほか,感染症を増加させ,正常造血を抑制する可能性もある。多くの疫学研究の結果から,輸血後鉄過剰症をきたした低リスクMDS患者に鉄キレート療法を行うことは妥当と考えられる。一方,高リスク患者への適応はエビデンスに乏しく,慎重に考えるべきであろう。

23 (EL2-5A)
  • 森田 泰慶
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2050-2057
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS)は,造血幹細胞のクローナルな疾患であり,血球減少と白血病化を特徴とする。同種造血幹細胞移植が根治療法であるが,特に輸血非依存の低リスク群において第一選択治療とならない。近年,低リスク群に対する治療オプションが加わり,5番染色体欠失に伴う貧血(5q−症候群)に対してレナリドミド(LEN),それ以外の核型を有する貧血に対してはダルベポエチン(DA),その奏効を期待できないか血小板減少が併存する症例に対してはアザシチジン(AZA)が選択される。5q−症候群は欧米では頻度が高いが,我が国では稀であるため,MDSの貧血に対してDAが第一選択となる場合が多い。近年,DAを含む赤血球造血刺激薬(ESA)不応例および効果消失例の白血病移行率は高く,二次治療によって予後が改善されないことも示されている。本稿では,低リスクMDSに対する各薬剤の位置づけと今後の展望について概説する。

24 (EL2-5B)
  • 南谷 泰仁
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2058-2066
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    高リスクMDSに対する薬物治療はDNAメチル化阻害剤が第一選択薬であるが,その成績は満足のいくものではない。そのため新規薬剤の治療開発の必要性は高く,多くの治療薬の治験が進んでいる。薬物動態を安定させた新しいDNAメチル化阻害剤であるSGI-110やマルチキナーゼ阻害剤のrigosertibの開発が進んでいるが,そのほかにもDNAメチル化阻害剤とHDAC阻害剤の併用療法,免疫チェックポイント阻害剤,スプライシング因子阻害剤,BCL2阻害剤,IDH1/IDH2阻害剤など,腫瘍発症に関する分子メカニズムに基づいて設計された薬剤が開発中である。本講演では新規薬剤の薬理作用と臨床試験の結果について概説し,高リスクMDSに対する治療の未来について考察する。

骨髄異形成症候群/骨髄増殖性腫瘍/慢性骨髄性白血病
25 (EL2-14B)
  • 池田 和彦
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2067-2074
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    骨髄増殖性腫瘍(MPN)はJAK2V617F等のドライバー変異によるJAK-STAT系の恒常的な活性化を本態とするが,MPN病態の維持や病態進展には,付加的な要素が必要である。HMGA2は骨髄線維症(MF)などの進展したMPNにおいて,let-7マイクロRNA発現の低下やEZH2の変異などに伴いしばしば高発現している。HMGA2は様々な遺伝子の発現調節にかかわる非ヒストンクロマチン蛋白で,がん遺伝子として知られている。JAK2V617Fを有するマウスにおいては,Ezh2を欠失させることで起こる重篤なMFでHmga2の高発現が病態の進展に重要な役割を果たしていることが示唆されている。実際,JAK2V617FマウスにHmga2を直接発現させると貧血や巨大脾腫など,進展したMFを良く反映する。本稿においては,HMGA2発現異常の機序と治療標的としての可能性も含め概説する。

26 (EL3-3F)
  • 幣 光太郎
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2075-2083
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    JAK2V617F変異,CALRexon9変異が高頻度にみられることは骨髄増殖性腫瘍の大きな特徴である。これらの変異を導入したマウスモデルにより,JAK2変異,CALR変異が骨髄増殖性腫瘍の直接の原因であること,変異遺伝子の発現量が病型を規定すること,骨髄増殖性腫瘍のinitiating cellの特性などが解明されてきた。また,マウスモデルは骨髄増殖性腫瘍に対するJAK2阻害薬やインターフェロンαといった治療薬の効果や作用機序を調べる疾患モデルとしても重要な役割を担っている。次世代シークエンス技術により血液腫瘍のもつ遺伝子異常の全体像がすでに明らかとなり,マウスモデルを用いた変異遺伝子の機能解析の重要性は今後さらに増していくと考えられる。個体レベルでの迅速な遺伝子改変を可能とするゲノム編集技術によって,マウスモデルの開発と使用はさらに加速していくであろう。

27 (EL2-14C)
  • 茅野 秀一
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2084-2088
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    Myelodysplastic/myeloproliferative neoplasm(MDS/MPN)は,臨床的には血球減少を呈する系統と血球増加を呈する系統とが共存し,形態学的には血球の異形成と無効造血がみられる造血系統と増殖の顕著な造血系統とが骨髄に共存する腫瘍である。MDS/MPNの診断には多様な造血器腫瘍および反応性病態の否定が前提となり,臨床所見,形態学,分子学的な多角的なアプローチが必要になる。分子レベルでは類縁疾患とオーバーラップする様々な異常が知られている。ここではMDS/MPNの病理像を紹介し,分子異常と形態的特徴との関連を紹介する。

28 (EL2-3E)
  • 田内 哲三
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2089-2093
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    ABLチロシンキナーゼ阻害剤を含めた多くの分子標的薬の長期毒性に関してはいまだに不明な点が多い。高速SNPタイピング技術や次世代シークエンサー技術開発に伴い,生殖細胞系列(germline)および体細胞系列(somatic)における網羅的ヒトゲノム情報が短時間で安価に入手可能となった現在,ゲノム情報を利用した研究が急速に進歩し,ファーマコゲノミックス研究基盤が世界的に整備されつつある。ゲノム網羅的な遺伝子多型タイピングや全ゲノムシークエンス技術の急速な進歩により,薬剤の作用とゲノム情報を結びつけ特定の患者における薬剤反応性に関連する要因を見出し,個別化医療をめざす研究が推進されている。わが国においても,抗がん剤を「より安全に,より有効に」という患者にとっての当然の願いを早く実現させるためには,国家的な情報収集のためのさらなる体制整備が必要である。

29 (EL2-3F)
  • —その現状と展望—
    熊谷 隆志
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2094-2103
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    Tyrosine kinase inhibitor(TKI)はCML治療を劇的に改善し多くの慢性期患者にdeep molecular response(DMR)をもたらした。現在まで多くの臨床試験が行われ,長期DMRを維持した患者の約40~60%でTKI中止後のtreatment-free remission(TFR)が得られている。臨床的には,中止前のより深い寛解,より長いDMR維持,TKI抵抗性経験なし,中止時の高いNK細胞などが中止成功因子として提案された。しかしTFRを得るのは慢性期患者の20~30%に過ぎない。最近の研究では,DMR獲得時のimmune effectorの回復などの患者の免疫状態や腫瘍細胞のTKI抵抗性遺伝子の有無などがTFRに重要と考えられている。TFRをより成功させるため,TKI感受性がないstem cellをターゲットにした治療の研究が進んでいる。

悪性リンパ腫
30 (EL2-6A)
  • —最近の動向—
    安藤 潔
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2104-2108
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    濾胞性リンパ腫はB細胞性リンパ腫の中でびまん性大細胞型リンパ腫に次いで頻度の高い疾患である。自然経過は緩徐であるが,従来の化学療法に対する感受性は低く再発を繰り返すため,疾患特異的治療戦略を要する。腫瘍量判定規準が提唱されており,化学療法を開始する目安となる「高腫瘍量」に至るまでの期間を先延ばしすることが初発例の目標となる。再発時の治療では,現病のコントロールに加えて造血抑制や免疫不全が予後を規定するため,これらの有害事象の少ない新規治療薬の開発が期待される。

31 (EL2-6B)
  • 丸山 大
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2109-2116
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    High-grade B-cell lymphoma(HGBL)は,WHO分類改訂第4版(2017)に新たに記載された疾患群である。HGBLはMYCおよびBCL2および/またはBCL6再構成を伴う“double-hit(DH)lymphoma”や“triple-hit(TH)lymphoma”と,WHO分類第4版(2008)でDLBCLとBLとの中間型として提唱された“B-cell lymphoma, unclassifiable, with features intermediate between DLBCL and BL(BCLU)”に相当するが,MYC/BCL2 and/or BCL6を認めないB細胞リンパ腫が含まれる。本疾患群に特化した臨床研究結果はないが,最近,後方視的検討結果や,前方視的研究のサブ解析結果が報告されている。本稿では現時点でのエビデンスを概説する。

32 (EL2-6D)
  • —最新エビデンス—
    楠本 茂
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2117-2126
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    古典的ホジキンリンパ腫(cHL)の初回治療開発について,ABVD2コース後のinterim positron emission tomography(PET)による層別化治療(interim PET-guided therapy)およびCD30を標的とした抗体薬物複合体であるブレンツキシマブベドチン(BV)併用化学療法に関するエビデンスが最近報告されてきた。Interim PET陽性例においては,早期に治療を変更することにより,初回治療での増悪や早期再発を減らす治療戦略が検討されてきたのに対し,interim PET陰性例では治療レジメンの簡素化(薬剤あるいは放射線治療の省略など)による治療毒性の軽減を目指してきた。本稿では,初発・未治療cHLを対象としたランダム化比較試験を中心として,その試験デザインや試験結果および臨床現場へのインパクトなどを概説する。

33 (EL2-4D)
  • 木暮 泰寛, 片岡 圭亮
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2127-2135
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    Adult T-cell leukemia/lymphoma(ATL)は今日でも予後の悪い末梢性T細胞腫瘍である。ATLはhuman T-cell leukemia virus type-1(HTLV-1)の感染により発症するが,その過程ではTaxやHBZといったウイルスタンパク以外に,T-cell receptor/NF-κB経路の活性化や腫瘍免疫の回避に関連する遺伝子異常やエピゲノム異常が獲得される。これらの異常はATLの臨床サブタイプと関連し,aggressive ATLではTP53IRF4の変異とPD-L1CDKN2A等のコピー数異常が,indolent ATLではSTAT3の変異が頻繁に観察される。いくつかの遺伝子異常の情報はこれまで提案されてきた臨床因子と独立な予後因子であり,ATLの臨床サブタイプが遺伝子異常によってより詳細に分類されることが示されている。

34 (EL2-6C)
35 (EL1-6E)
多発性骨髄腫
36 (EL2-3H)
  • 高松 博幸
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2153-2161
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    近年,新規薬剤(プロテアソームインヒビター,免疫調節薬,ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤,モノクローナル抗体薬が臨床応用された結果,多発性骨髄腫(multiple myeloma, MM)での完全奏効(complete response, CR)達成率が急速に上昇し,新規薬剤を自家造血幹細胞移植と組み合わせることで70%以上のCR率も報告されている。そのため,CR症例を層別化できる微小残存病変(minimal residual disease, MRD)検査が,予後を予測するサロゲートマーカーとして期待されている。本稿では,MMのMRD測定法(マルチパラメーターフローサイトメトリー,アリル特異的定量PCR,アリル特異的ディジタルPCRと次世代シークエンサー)とその臨床的意義について概説した。

37 (EL2-1B)
  • 李 政樹
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2162-2168
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    骨髄腫細胞はプロテアソームの機能が亢進されているため,プロテアソーム阻害は有効な治療手段である。わが国で最初に開発されたプロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブは,初発および再発難治の多発性骨髄腫の治療において幅広く使用されているものの,末梢神経障害や胃腸障害などの副作用により,投与量の減量,治療継続困難がしばしばみられる。新規のプロテアソーム阻害剤である,カルフィルゾミブおよびイキサゾミブは,ボルテゾミブで問題となっていた末梢神経障害の発症頻度が少ないため,ボルテゾミブによる治療が十分に行えなかった症例に対して効果が期待でき,今後,抗体薬と並んで,再発・難治性骨髄腫における有効な治療薬として期待される。新規プロテアソーム阻害薬を導入さる際には,各薬剤の特性と,施設や患者側の都合を含めて様々な要因を加味し,個々の患者にあわせて選択されることが望まれる。

38 (EL2-1A)
  • 田村 秀人
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2169-2177
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫はB細胞だけでなく,NK,T,樹状細胞の異常,および制御性T細胞や骨髄由来抑制細胞などの免疫抑制細胞の増加など多くの免疫異常を伴い,これらが病勢進行に関与する。Lenalidomideやpomalidomideは抗腫瘍効果とともに免疫機能を賦活する免疫調節薬であり,抗体依存性細胞傷害活性の増強により抗体治療薬と相乗的に作用する。現在,抗体治療薬として抗SLAMF7抗体elotuzumabと抗CD38抗体daratumumabが臨床の場で使用されているが,その効果は標的抗原の機能により異なる。また,daratumumabには種々の抗腫瘍効果ともに,免疫抑制細胞傷害による免疫賦活作用も有する。さらに,新規抗体治療薬として,抗CD38抗体isatuximab,抗BCMA抗体など多く開発されており,その効果と実用化が期待される。免疫調節薬強化抗体治療などの免疫療法は骨髄腫の長期予後を改善するために不可欠な治療法だと考えられる。

39 (EL1-6F)
  • 尾崎 修治
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2178-2188
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫に対する新規薬剤の登場は,治療成績の著明な改善をもたらすとともに,治療戦略に大きなパラダイムシフトを引き起こしている。わが国では初回治療薬としてはbortezomibとlenalidomideの2剤が,再発・難治例に対しては次世代のプロテアソーム阻害薬や免疫調節薬,ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬,モノクローナル抗体など他に7剤が承認されている。これらの新規薬剤の中で,とくにdaratumumabを含むレジメンでは再発例にも関わらず微小残存病変の陰性化に至るまでの深い奏効が得られている。このように,再発時の治療は初回治療以上に選択肢が豊富で高い有効性が期待されることから,現在の多発性骨髄腫の治療戦略の中で最も重要な位置づけにある。実際の臨床においては,患者要因や疾患要因,治療要因を考慮し,患者毎に最適な治療を選択することが重要である。

40 (EL2-3G)
  • 保仙 直毅
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2189-2194
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    骨髄腫特異的標的抗原を同定するために,骨髄腫細胞に結合する抗体を10,000クローン以上作製し,その中から正常血液細胞には結合せず,骨髄腫細胞に特異的に結合する抗体MMG49を同定した。このMMG49が認識しているタンパクを同定したところ,不思議なことにリンパ球に広く発現しているはずのインテグリンβ7であった。さらに解析を進めたところ,MMG49は活性型立体構造のインテグリンβ7のみを認識すること,そして,インテグリンβ7は骨髄腫細胞では恒常的に活性化型立体構造をとっているために,MMG49は骨髄腫細胞に非常に多く結合することが明らかになった。MMG49由来のキメラ抗原受容体(CAR)T細胞は,正常な造血細胞を損傷することなく抗骨髄腫効果を発揮した。これらの結果は,MMG49 CAR T細胞療法がMMに対して有望であることを示しているだけでなく,細胞膜タンパクの発現自体ががん特異性を有さなくても,その活性化型構造ががん免疫療法の標的となり得ることを示している。

免疫不全
41 (EL3-4E)
  • 星野 顕宏
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2195-2203
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    原発性免疫不全症は,免疫系に関与している細胞や分子の先天的な異常によって生じる疾患である。免疫機構には,病原体に対する生体防御や調節など様々な機構が存在するため,これらの異常によって易感染性,自己免疫疾患,悪性腫瘍など様々な表現型を呈することが特徴である。この多彩な疾患を適切に診断するためには,クリニカルシークエンスを含んだ組織的なアプローチが必要となる。次世代シークエンサーを用いた解析をはじめ多くの免疫学的解析手法が進歩し,広く利用されるようになっている。既知疾患の診断だけではなく,新規の原因遺伝子の同定もさかんになされている。また,異常のある免疫機構に応じた疾患特異的な治療や遺伝子治療が臨床利用されている。原発性免疫不全症の研究の発展は,臨床において多くの恩恵をもたらすだけではなく,ヒトにおける免疫機構のより深い理解をもたらしている。

42 (EL3-4F)
  • 高田 英俊
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2204-2211
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    原発性免疫不全症は免疫を担う細胞や分子の内因的な機能異常を原因とする疾患群である。原発性免疫不全症の多くは単一遺伝子病であり,免疫能に関連する分子をコードする遺伝子の生殖細胞系列遺伝子変異によっておこる。原発性免疫不全症や遺伝性骨髄不全症候群の多くは小児期に発症するが,近年の治療法や感染予防法の進歩に伴い,成人期以降まで生存する患者が次第に増加している。これに伴って成人期に発がんや自己免疫疾患の治療・管理が必要になる機会が多くなった。いずれにしても長期的な観点から治療方針を決定する必要があり,学童期や成人期に初めて診断する場合,非典型的な臨床像を呈している可能性も考慮しながら,早期に正確に診断する必要がある。合併症を早期に診断し適切な治療がなされるよう,病態や臨床像を正しく理解しておくことが重要である。

血栓/止血
43 (EL1-3D)
  • 関 義信
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2212-2221
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    造血器悪性腫瘍とくに急性白血病に合併する播種性血管内凝固症候群(DIC)診療では診断時や治療導入直後の出血に注意する必要がある。脳出血,肺胞出血,消化管出血は即致死的出血となり得るので造血器腫瘍患者の予後を向上させるために細心の注意が必要である。常にDICの存在を疑い,この時期には入念に出血症状の観察と凝血学的検査を行う必要がある。診断基準は旧厚生省DIC診断基準または日本血栓止血学会DIC診断基準2017年版で行い,診断後は直ちに治療を開始する。出血のリスクを十分に勘案して抗凝固薬を選択する。新鮮凍結血漿や濃厚血小板血漿の補充療法に関しては,必要時は躊躇なく十分に補充する。遺伝子組み換えヒト可溶性トロンボモジュリン(rhsTM)は造血器悪性腫瘍に合併するDICの抗凝固作用,抗炎症作用,過剰線溶抑制作用,内皮保護による出血予防など各病態,成因に対応できる薬剤として期待が持てる。

44 (EL3-4G)
  • 日笠 聡, 徳川 多津子, 澤田 暁宏
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2222-2232
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    von Willebrand病(VWD)は,von Willebrand因子(VWF)の量的低下,あるいは質的異常による遺伝性出血性疾患である。出血症状があり,VWFが30 IU/dl未満の場合,VWDと診断するが,30~50 IU/dlの場合も,VWDを除外できない。治療には,酢酸デスモプレシン(DDAVP)または,VWF含有第VIII因子濃縮製剤(pdVWF/FVIII製剤)が用いられる。DDAVPの効果は個人によって異なるため,適応は非出血時に投与試験を行った上で判断する。DDAVP無効例や長期間の止血管理が必要な場合は,pdVWF/FVIII製剤を使用する。過多月経の治療は,将来の妊娠の希望により選択肢を選別し,患者ごとに判断する。妊娠時には,定期的にVWF,FVIIIを測定し,出産時にこれらが50%以下の場合,pdVWF/FVIII製剤による止血管理を行う。

45 (EL3-4H)
  • —後天性フォンウィルブランド症候群—
    堀内 久徳
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2233-2237
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    止血必須因子フォンウィルブランド因子(VWF)は血管内皮細胞等で巨大多量体として産生され,血中で特異的蛋白質分解酵素ADAMTS13によってずり応力依存的に切断され,血中では2-80分子から構成されるマルチマーとして存在する。高分子量領域の多量体が血栓形成には重要であり,高分子多量体の減少・欠損は出血性疾患後天性フォンウィルブランド症候群(AVWS)となる。大動脈弁狭窄症は時に消化管出血を合併し,ハイド症候群と呼ばれるが,その実態はAVWS存在下の消化管血管異形成からの出血である。ほかにも,閉塞性肥大型心筋症(HOCM),肺高血圧症,僧帽弁閉鎖不全症,先天性心疾患,機械的補助循環(PCPSやLVAD)でAVWS発症の報告がある。このAVWSの治療は,基本的には非生理的な高ずり応力の解除である。本疾患の症例数は,かなり多く,また,多くの症例が循環器内科や消化器内科でフォローされている。

46 (EL3-6D)
  • 大森 司
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2238-2246
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    血友病は血液凝固第VIII因子,または第IX因子の遺伝子異常による先天性出血性疾患である。血友病は単一の遺伝子異常による疾患であり,血中凝固因子の治療域に幅があるため,遺伝子治療のよい対象である。遺伝子治療は,治療に用いられる凝固因子製剤投与の必要性がなくなるため,次世代の治療として患者・家族から大きな期待が寄せられている。既に,欧米ではアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた複数の臨床試験が開始され,大きな成果が挙げられている。最近では,搭載遺伝子配列やAAVの血清型の工夫で,さらに治療効果が改善しており,まさに疾患の治癒“Cure”が可能なレベルに到達している。一方,AAVベクターの弱点として,1)抗AAVカプシド中和抗体の存在,2)CD8 T細胞による細胞免疫による肝障害,等が挙げられる。今後は,幅広い血友病患者に適応となる技術の開発,ならびに長期安全性を観察する体制が必須である。

47 (EL1-3C)
  • —遺伝性出血性素因を見落とさないために—
    金子 誠
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2247-2254
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    軽度の皮膚や粘膜性出血症状は健常者にも認める一般的なものであるが,遺伝性出血障害例も含まれる。その多くはvon Willebrand disease(VWD)および血小板機能障害などの一次止血障害であり,軽度の凝固因子異常症や稀な線溶異常も含まれる。月経過多の原因,侵襲的処置および外科手術へのリスクとなることから適切に診断されるべきであるが,検査診断が難しくいまだに半数程度は確定的な診断は不可能で原因不明とされることが多い。出血症状,病歴および家族歴の詳細な聴取はもちろんのこと,出血評価ツールの使用,スクリーニング検査だけでなくVWD診断,血小板凝集および放出能測定法のための特殊検査や遺伝子検査の実施による専門化された検査診断が必要となる。症状がある患者に対しては,何らかの出血リスクがあるものとして対応すべきである。

48 (EL3-4D)
  • 西條 政幸
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2255-2259
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome, SFTS)は新規ブニヤウイルス(SFTSウイルス,SFTSV)による感染症として,2011年に中国の研究者らにより報告された。その報告によるとSFTSは中国の河南省,湖北省,山東省,黒竜江省等の山岳地帯の住民の間で認められ,マダニ(フタトゲチマダニ)が媒介し,発熱,消化器症状が出現し,さらに末梢血液検査で白血球減少と血小板減少が認められる,などの特徴を有する。2012年秋に,日本で海外渡航歴のない女性(50歳代)が多臓器不全,消化管出血,血球貪食症候群で死亡し,その患者がSFTSに罹患していたことが,後方視的明らかにされた。それにより日本でもSFTSが流行していることが明らかにされ,さらに韓国でもSFTSが流行していることも報告された。日本,韓国,中国以外の国でSFTS発生(流行)は報告されていない。現時点ではSFTSは東アジアで流行している感染症である。日本でSFTS流行が確認されてから約6年が経過した。日本では毎年40~100人の患者が国立感染症研究所に報告され,多くは西日本で発生している。SFTSの致命率は約20%と極めて高く,その高い致命率の背景には,SFTS患者では多臓器不全,血液凝固障害,血球貪食症候群等の病態がSFTSV感染によって惹起されていることが挙げられる。動物感染モデルを用いた研究で抗ウイルス薬ファビピラビルがSFTSに対する特異的治療薬として有効である可能性が示唆される成績が発表された。また,ワクチン開発も期待される。SFTS流行がこれからも続くことから,特異的な治療法,ワクチン等による予防法の開発が期待される。

小児血液
49 (EL1-3E)
  • 柴 徳生
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2260-2267
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    小児急性骨髄性白血病(AML)は,様々な遺伝子異常を背景に有するヘテロな疾患である。近年の分子生物学の進歩に伴い,AMLの診断技術は飛躍的に向上しており,成人AMLでは網羅的な遺伝子解析の結果,DNMT3ATET2などの遺伝子変異が多数同定されているが,小児ではこれらの変異はまれである。一方,小児AMLでは高頻度に融合遺伝子が検出され,その遺伝学的な背景が異なることが明らかとなった。今後,更なるゲノム医療を発展させるには,現在行われている臨床試験でのリスク層別化因子に加え,NPM1変異,CEBPAの両アレル変異,KMT2A-PTD,CBFA2T3-GLIS2NUP98-JARID1Aなどの予後に影響を及ぼす遺伝子異常を導入し,より高精度なリスク層別化の再構築をしていく必要がある。また,明らかになったゲノム異常から新たな標的に対する分子標的薬剤が開発・臨床応用されることが期待される。

50 (EL1-3F)
  • 加藤 元博
    2018 年 59 巻 10 号 p. 2268-2272
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/10/10
    ジャーナル 認証あり

    小児急性リンパ性白血病(ALL)のこれまでの分子遺伝学的な病態研究は,ALL細胞にみられる体細胞変異の探索が中心であり,生殖細胞系列は体細胞変異を検出するための対照としての利用が中心であった。しかし,近年の研究の成果により,生殖細胞系列の遺伝情報がALL細胞の発症やその病態にも関与していることが報告され,生殖細胞系列の遺伝的背景は従来の認識よりも深くかかわっていることが明らかになってきた。遺伝子多型と薬剤の有害事象との関連は以前から知られていたが,ALL家系例の解析から家族性ALLが新たに同定されたことに加え,特殊な一部の症例に限らない一般的な小児ALLの中でもcancer predispositionとなりうる病的バリアントがみられることが報告された。このようなcancer predispositionとなるバリアントは,治療反応に加えて二次がんの発症率とも相関があることが示されている。ALL細胞と生殖細胞系列細胞の両者を統合して理解することが重要である。

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