当院でニロチニブを投与された19例(年齢中央値65歳,観察期間中央値55ヶ月)の,血管性有害事象(vascular adverse events, VAEs)の発生状況を検討した。VAEsは,8例(末梢動脈疾患6例,脳梗塞3例,冠動脈疾患4例)でニロチニブ開始から中央値46.5ヶ月で合併し,4年累積合併率23.5%であった。末梢動脈疾患は6例全例が無症候期に足関節上腕血圧比で診断され,4例が他のVAEs(脳梗塞1例,冠動脈疾患2例,脳梗塞と冠動脈疾患1例)も合併した。冠動脈疾患合併4例中2例で無症候性末梢動脈疾患が先行していた。一般の動脈硬化性疾患診療では,末梢動脈疾患は症候の有無にかかわらず,心血管イベントの重要なリスク因子と認識されている。ニロチニブ関連VAEsでも,末梢動脈疾患は他の重篤なVAEs合併のリスク因子であり,足関節上腕血圧比を検査し無症候期に診断することが重要と考えられる。
国内使用のバイオ後続品filgrastim 3剤において,輸入2剤に比べ国産後続品(BF1)では造血幹細胞移植時の報告はほとんどない。このBF1(n=23)について,自家末梢血幹細胞採取・移植での有用性を先発品(OF, n=21)と後方視的に比較した。幹細胞採取時,両群とも総filgrastim量3.3 mgを皮下注し,採取CD34陽性細胞は,BF1群4.32×106/kg, OF群4.75×106/kgでほぼ同等であった。移植後の総filgrastim量はBF1群2.7 mg,OF群3.3 mgで,血球回復までの日数,移植後輸血量,入院期間,生存率のいずれにおいても有意差はなかった。有害事象は既知のものが多く,薬剤費は,1例当たり一連の採取・移植でのBF1使用で229,529円の抑制が見込まれた。BF1はOFに比べ有効性・安全性に問題なく,医療経済面からも有効な選択肢となるものと思われる。
骨髄バンクコーディネートにおける実情把握を目的として,2004年1月~2013年12月に日本骨髄バンクへ登録された患者18,487人,ドナー延べ223,842件の解析を行った。末梢血幹細胞移植例は除外した。移植到達患者あたりのコーディネート件数の中央値は11件,登録から移植までの日数中央値は146日,登録患者の40%が移植未到達であった。HLA6/6抗原フルマッチドナー推定人数が多い場合に,移植到達率が上昇し,移植到達日数が短縮した。ドナー側のコーディネート終了理由は年齢・性別で異なり,20代男性ドナーは健康理由による終了率が低く,ドナー都合による終了率が高かった。複数回コーディネートを受けたドナーのうち,前回の終了理由が患者理由の場合,ドナー理由で終了した場合と比較して採取到達率が高かった。本結果を基盤情報として,より効率的で迅速なコーディネートを目指した施策の検討が必要であると考えられた。
40歳,女性。1年前より全身性の皮疹,肝脾腫,甲状腺機能低下およびIgG-λ型M蛋白を認めるも,明らかな末梢神経障害の所見を指摘できず,POEMS症候群の確定診断に至らなかった。また,後頸部中心の筋力低下を伴っていた。経過観察中に呼吸筋障害によるII型呼吸不全が進行,NPPV導入となった。POEMS症候群による末梢神経障害が原因と判断し,全身化学療法を開始するも,奏効せず,人工呼吸器管理となった。その後,M蛋白を伴う,孤発性成人発症型ネマリンミオパチー(SLONM with MGUS)を疑い,大腿部の筋生検にてネマリン小体を認め,SLONM with MGUSの確定診断に至った。本症例は呼吸不全の進行により,大量メルファラン併用自家末梢血幹細胞移植療法は施行できなかった。SLONM with MGUSは極めてまれな疾患であるが,致死的なM蛋白関連疾患として認識すべきである。
骨痛や関節痛を初発症状とした小児急性リンパ性白血病の3例を経験した。初診時は末梢血の異常所見が乏しく,関節炎・骨髄炎として鎮痛剤・抗菌薬で治療が開始され,非典型的な経過のため診断確定までに2~4ヶ月を要した。骨髄検査により確定診断を得て,化学療法により全例寛解を得た。画像検査の特徴的所見として,MRIではT1強調画像におけるびまん性の骨髄信号の変化,FDP-PETでは広範な骨髄の異常集積を認めた。症例2, 3においては腸骨からの骨髄穿刺では診断困難であったが,FDG-PETで異常集積を認めた脛骨からの骨髄穿刺により確定診断を得ることができ,骨髄穿刺部位の選定にもFDG-PETは有用と考えられた。反復・移動する骨・関節痛を有する症例においては,積極的な骨髄検査,MRI・FDG-PETなどの画像検査を考慮する必要があり,白血病の早期診断・治療に寄与すると考えられた。
症例は37歳,女性。慢性期慢性骨髄性白血病に対してnilotinibを開始したが,アレルギー症状のため1ヶ月でdasatinib(100 mg/日)に変更した。良好な治療効果が得られていたが,dasatinib開始7ヶ月後に呼吸苦の訴えがあり,来院した。胸部X線と心臓超音波検査にて肺うっ血および肺高血圧症を示す所見を認めた。Raynaud現象,手指の腫脹と皮膚硬化,抗U1-RNP抗体陽性に加え,汎血球減少を認め,混合性結合組織病と診断された。Dasatinibを中止し,prednisolone(1 mg/kg)を開始した。治療は奏効し,cyclophosphamideを併用しながらPSLは漸減した。これまでにdasatinib投与下で混合性結合組織病を発症した報告はない。若年女性でもあり潜在的な素因から顕在化した,あるいは偶発症である可能性も十分にあるが,dasatinib治療中の自己免疫疾患発症の可能性について検討が必要と考えられた。
症例は23歳男性。血尿の既往歴および家族歴がある。某年2月発熱を自覚し近医でインフルエンザA型と診断された。その翌日,赤褐色尿が出現し某病院に入院となった。血栓性微小血管症の所見が認められ,非典型溶血性尿毒症症候群(atypical hemolytic uremic syndrome, aHUS)が疑われ当院に転院となった。Eculizumab投与にて溶血と血小板数は速やかな改善がみられた。我々が以前報告した,三重県内にてaHUSの6家系8患者で検出された補体C3の遺伝子変異C3 p.I1157T missense mutationが本症例でも検出された。日本国内におけるaHUSの原因となる補体系遺伝子の変異や各遺伝子変異に対するeculizumabの効果は不明な点が多いものの,C3 p.I1157T missense mutationを有した本症例においてもeculizumabが奏効し溶血所見,血小板減少,腎機能障害の改善がみられた。
非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)は,血栓性微小血管症(TMA)の一つであり,高度な腎機能障害を伴う。その発症には補体第2経路の異常な活性化が関与しているとされ,実際に約70%の症例では補体活性化機構の遺伝子異常を認める。血漿交換治療のみでは,その腎および生命予後は不良であるが,診断後早期にeculizumabを開始することにより腎機能の改善が期待できる。aHUSの多くは60歳未満の比較的若年成人に発症し,70歳以上で発症した症例は極めて稀である。今回,80歳で発症したTMAを経験した。ADMTS13活性が保たれていたことおよび,病原性大腸菌感染など他の要因を否定することにより,aHUSと診断した。透析療法を必要とするもeculizumabにより透析から離脱し得た。高齢者のTMAにおいても,aHUSは鑑別疾患の一つであり,適切な診断と治療を行うことが重要であると考えられた。
We report a case of long-term administration of brentuximab vedotin (BV) for primary cutaneous anaplastic large cell lymphoma (pc-ALCL) with leukemic change. A 67-year-old man with lymphadenopathy was admitted to our hospital. Six years ago, he was diagnosed with pc-ALCL at another hospital, and complete remission was achieved with radiation therapy. We performed a biopsy of his lymph node and diagnosed the recurrence of pc-ALCL with leukemic change. Initially, CHOP and GCD regimens were ineffective; however, partial remission was achieved following BV therapy. Thus far, he has received 42 courses of BV; he has responded well to the treatment and no serious side effects have been observed.
Although the life expectancy if patients with essential thrombocythemia (ET) is considered to be almost similar to that of the general population, advanced age, leukocytosis, and a previous history of thrombosis are poor prognostic factors, and it is important to prevent thrombohemorrhagic events, leukemic transformation, and secondary malignancies. We report an 85-year-old ET patient with a history of asymptomatic lacunar infarction, who developed symptomatic cerebral infarction and even chronic subdural hematoma. It is necessary to follow patients who have asymptomatic cerebral infarction or chronic ischemic change and to examine the necessity of brain imaging and treatment intervention at the time of diagnosis.
同種造血幹細胞移植において,免疫調整作用と造血支持作用を併せ持つ間葉系幹細胞(MSC)を用いた治療が数多く試みられており,新たな細胞療法として注目されている。MSCの有する免疫調整作用は移植片対宿主病(GVHD)に対する治療に応用され,多くの臨床試験が行われてきた。わが国では,国内初の他家由来再生医療等製品としてヒトMSC製剤が承認され,急性GVHDに対する治療薬として実臨床において使用が始まった。また,MSCの有する造血支持作用にも着目して,移植する造血幹細胞とともにMSCを輸注することで,GVHD予防,さらには生着促進の効果を得ようとする試みが,臍帯血移植やHLA不適合移植において行われており,一部ではその有効性が報告されている。本稿では,これまでに実施されてきた造血幹細胞移植におけるMSC治療の臨床試験等について概説するとともに,MSC治療の今後の可能性と課題について考察する。
様々な抗ウイルス薬が開発される中,より安全,効果的,かつ持続性のある根治的治療法としてウイルス特異的T細胞に注目が集まっている。特異的T細胞は直接分離することも可能であり,また抗原刺激とT細胞の増幅のみの手順でも純度が高く,十分な数を得られることができる。刺激には抗原(ウイルス,タンパク,ペプチド)と抗原提示細胞が必要であるが,抗原提示においては抗原提示細胞へのプラスミド導入,オーバーラッピングペプチドの使用など様々な工夫が行われている。対象となる疾患の主体は造血細胞移植後の難治性ウイルス感染症であるが,多くの研究で,GVHDなどの副作用は極めて少なく,有効性も高いことが示されている。HLA部分合致第三者からの細胞調製も模索されている。ヘルペス属ウイルス,ポリオーマウイルスなどを中心に研究が進んでいるが,今後その他のウイルスに,さらに細胞内寄生菌,真菌などにも適応が広がり,また様々な免疫抑制状態における感染症にも応用されていく可能性がある。
遺伝子改変T細胞療法には,T細胞受容体(T-cell receptor, TCR)遺伝子導入T細胞とキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor, CAR)遺伝子導入T細胞とがあり,ともに臨床開発の進捗が目覚しい。特にCD19を標的にするCAR-T細胞輸注はBリンパ系腫瘍への高い有効性が明確となっている。しかし,同時にサイトカイン放出症候群,神経毒性などの有害事象の発症も課題となっている。TCR-T細胞輸注では,主にメラノーマを対象にした臨床試験が実施され30~55%の奏効率が得られている。滑膜肉腫を対象にNY-ESO-1抗原を標的とする際の奏効率は50~60%である。上皮系腫瘍での有効性についてはまだ明らかではない。TCR分子のアミノ産置換あるいはマウス由来TCRの高親和性としたTCRを用いて正常組織へのon-target効果あるいは標的外の抗原への免疫反応による重篤有害事象の事例があり,TCRの標的とする抗原とTCR親和性の程度によっては重度の毒性のリスクがある。
患者から採取した腫瘍浸潤T細胞(TIL)やT細胞受容体(TCR)遺伝子またはキメラ抗原受容体(CAR)遺伝子導入T細胞による養子免疫療法が一部の患者で高い効果を示し,免疫細胞療法への期待が高まっている。ただし,患者から採取された初代細胞傷害性T細胞(CTL)には細胞疲弊や拡大培養が難しいといった問題点がある。iPS細胞は体細胞の初期化によって得られる多能性幹細胞であるが,著者らはT細胞由来のiPS細胞をCTLに再分化誘導することで,細胞疲弊が解除され高い増殖能を有するT-iPS-T細胞を得ることに成功した。また,潤沢に得られるiPS細胞由来のT細胞は,TCR/CAR遺伝子導入やPD-1ノックアウトなど治療上有用な遺伝子改変細胞の材料としても適している。これら細胞を用いた腫瘍免疫療法の開発が急がれる。