骨髄増殖性腫瘍(MPN)の主要な遺伝子変異であるJAK2V617F変異は,診断上必須であるにも関わらず日常診療で検査することができない。そこで,真性多血症,本態性血小板血症,原発性骨髄線維症と診断された患者および健常者を対象に,Allele-specific定量PCRを測定原理としたシスメックス社JAK2遺伝子変異定量キットの臨床性能試験を実施した。その結果,患者群(n=156)において,試験法と比較対照法(次世代シーケンス法)の測定結果に良好な相関関係が示された(r=0.998,y=1.071x−0.069)。また,健常者群(n=54)のJAK2V617F変異量は,全例が試験法の測定範囲下限0.042%を下回った。以上より,試験法はMPN患者のJAK2V617F変異量を定量的に測定できることが確認された。日常診療におけるMPNの診断に有用な検査となることが期待される。
貧血を主訴に受診した81歳女性。血液検査にて大球性貧血を認めたが,血清ビタミンB12および葉酸値は正常範囲であった。骨髄検査では3系統に異形成を認め,当初骨髄異形成症候群(多血球系異形成を伴う不応性血球減少症 MDS-RCMD)と診断した。しかしながら末梢血の大球性貧血所見および過分葉好中球が目立ち,骨髄の巨赤芽球様変化も顕著であったことから,試験的にmecobalamin 1,500 µg/dayの経口投与を行った。投薬開始3週間後の血液検査は大球性貧血の改善をみとめ,以降ヘモグロビンは正常化し,末梢血の形態異常も消失した。後日の検索で抗内因子抗体陽性が判明し,最終的に悪性貧血の診断となった。抗内因子抗体陽性の悪性貧血では,自動測定系による血清ビタミンB12の偽正常もしくは偽高値例が報告されている。大球性貧血に対するmecobalamin試験投与は,診断的治療として有効な選択肢と考えられた。
Human parvovirus B19(HPV B19)は血球貪食症候群(HLH)の原因として知られている。成人の遺伝性球状赤血球症(HS)患者のHPV B19によるHLHを経験した。患者は35歳女性。発熱,下痢を発症し,検査で重度の汎血球減少,中性脂肪・フェリチン高値,末梢血の目視像に球状赤血球を認めた。末梢血のHPV B19の増加,骨髄検査での血球貪食像により,HS患者のHPV B19によるHLHと診断した。これらの症状は保存的加療,輸血により1週間程で改善を認めたが,新たに心不全症状,心エコーでびまん性の壁運動低下を認め,HPV B19のウイルス性心筋炎の合併と診断した。利尿薬による保存的加療で心不全症状は2週間程で改善した。成人のHS患者のHPV B19は稀にHLHを合併し重症化するが保存的加療で改善しうる。しかし,心筋炎の合併を生じる可能性があり,HLH改善後も注意深い経過観察が求められる。
症例は76歳女性。発熱と掻痒感を伴う出血性皮疹に加え,高度の血小板減少を指摘され入院となった。貧血や著明な好酸球増多,ALP・CRP・可溶性IL-2受容体の上昇,抗核抗体とCoombs試験陽性を認め,CT上胸腹水・腹腔内リンパ節腫脹・肝脾腫を指摘された。PDGF・FGF受容体遺伝子の再構成を伴う造血器腫瘍,感染症,好酸球性多発血管炎性肉芽腫症,血管免疫芽球性T細胞リンパ腫,何らかの全身性炎症性疾患を当初鑑別に挙げた。受容体遺伝子再構成や感染巣を認めず,血管炎にも該当せず,リンパ腫または炎症性疾患と考えた。ステロイド単剤投与のみで寛解を維持したことからリンパ腫としては非典型的で,炎症性疾患,中でも特徴的な病像からTAFRO症候群を疑った。この診断にはSLEの除外が必須であり,保存血清中の抗ds-DNA抗体を検査したところ陽性であったことなどからSLEの診断に至った。典型的症状を欠き,好酸球増多など多彩な血球異常を呈した稀な例である。
A 76-year-old woman presented to our hospital with leukocytosis and abnormal lymphocytes. M protein of the immunoglobulin G (IgG) type was detected using immunoelectrophoresis. A bone marrow biopsy revealed infiltration of small mature lymphocytes, lymphoplasmacytoid cells with Dutcher bodies, grape cells, and Russell bodies. The MYD88 L265P mutation was detected in the abnormal peripheral lymphocytes, and a diagnosis of lymphoplasmacytoid lymphoma was established. MYD88 L265P mutation analysis is useful for making a diagnosis of non-IgM lymphoplasmacytoid lymphoma because it enables the differentiation from other low-grade B-cell malignancies.
Twenty-nine patients with multiple myeloma were treated with carfilzomib, lenalidomide, and dexamethasone (KLd) therapy. A response better than partial response (PR) was observed in 72.4% patients with relapsed and/or refractory myeloma. Although 13.8% patients developed hypertension, none of them discontinued therapy as they could be managed by appropriate medication. A patient who had an elevated level of BNP prior to initiating KLd therapy developed heart failure. Results from this study demonstrate that KLd therapy is efficacious for treating patients with multiple myeloma; however, they should be carefully monitored for cardiotoxicity.
エクリズマブが発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の治療薬として本邦で上市されて7年が経過した。その劇的な溶血阻止効果から,「補体制御療法」という新しい治療分野の先駆けとなり,適応拡大や新薬開発に拍車がかかっている。エクリズマブの長期安全性や有効性に関しては,国内外の臨床試験や製造販売後調査結果の解析から相変わらず良好に維持されていることが確認された。しかしながら,エクリズマブ導入で浮上したエクリズマブ不応,ブレイクスルー溶血,血管外溶血,侵襲性髄膜炎菌感染症などの問題に対して,我々はどのように対処すべきかがPNH診療上の新たな課題となっている。特に侵襲性髄膜炎菌感染症に関しては本邦でも死亡例が報告されており,その予防策の再検討が必要であると同時に,今回新たに改定されたPNH診療参照ガイドの重症度分類に応じて,エクリズマブの適応をより厳格に行うことも重要であると考える。
再生不良性貧血は免疫学的機序が原因で発症すると考えられており,6番染色体短腕の片親性二倍体(6pUPD)による特定のHLA欠失血球が検出されることも,それを強く支持する所見である。従来は免疫抑制を強化することによって治療成績の向上が図られてきたが,いずれも不成功に終わった。再生不良性貧血に対する新たな治療選択肢として,トロンボポエチン受容体作動薬エルトロンボパグが登場した。エルトロンボパグは,造血幹細胞に直接作用し,その分化・増殖を促す。しかし,治療経過中に新たに染色体異常が出現する例がみられる。典型的な再生不良性貧血例にも遺伝子変異が見られることから,エルトロンボパグ投与がクローン進化にどのように影響するかについて今後検証する必要がある。
先天性骨髄不全症候群は,患者の有する遺伝子変異が原因となり造血不全を合併する症候群の総称であり,ファンコニ貧血,ダイアモンド・ブラックファン貧血,先天性角化不全症など,25以上の疾患を含んでいる。血液学的検査・身体所見をもとに診断を進めることが基本であるが,ファンコニ貧血における染色体脆弱性試験などの疾患特異的な検査が有用である。近年の臨床遺伝学的手法を用いた研究の進展により,多数の先天性骨髄不全症の原因遺伝子が同定されており,遺伝学的検査が先天性骨髄不全症の診断に果たす役割はさらに大きくなっている。効率よく遺伝子診断を行うことを目的として,先天性造血不全症候群を対象とした次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子診断システムが国内外で構築されている。100以上の疾患原因遺伝子を同時に解析・評価することが技術的に可能となっており,臨床での広範な利用が期待される。
急性前骨髄球性白血病(APL)はt(15;17)由来のPML-RARα融合タンパクによるRARαとPMLの作用の阻害によって発症する。APLの治療は,PML-RARα融合タンパクに対する分子標的治療薬トレチノイン(ATRA)と亜ヒ酸(ATO)により飛躍的に改善した。ATRAとATOはそれぞれRARαとPMLへ結合してPML-RARαを変性し,細胞分化を誘導する。ATRAと化学療法により未治療APLの90%以上に寛解が得られ,20~30%再発するが,全生存率は80%前後が期待される。しかし,病初期の出血による早期死亡,地固め療法時の感染症死,再発および二次がんなどの課題がある。これらの多くは併用する抗がん薬に起因している。欧米ではATRAとATOの併用療法が初発APLの標準治療となりつつある。ATRAとATOの併用療法においてもAPL分化症候群や治療前白血球10×109/l以上の高リスク群の治療などの課題が残されている。
高齢者急性骨髄性白血病の治療は緩和的支持療法,治療強度の弱い治療,完全寛解を目指した強力化学療法に3大別される。患者自身の身体機能,白血病の予後因子,患者・家人の希望,介護など社会的なサポートの有無の4面を考慮し治療を選択する。高齢者身体機能の評価,併存症の把握,初回治療時の寛解率と早期死亡の予測から強力な導入療法施行を決定する。寛解導入療法として,シタラビン(またはエノシタビン)+アントラサイクリンが強力化学療法として選択される。完全寛解到達後は複数回の地固め療法が行われることが多い。非強力化学療法として少量シタラビンがあり,完全寛解率は約2割である。現在臨床試験中のCPX351はシタラビンとダウノルビシンをモル比5:1で導入されたリポソーム化製剤である。新規高齢者AMLにおいてシタラビン+ダウノルビシンより高い奏効率を示し,今後が期待される。
骨髄増殖性腫瘍のうち,polycythemia vera(PV),essential thrombocythemia(ET)の生命予後は比較的良好である。現在の治療の主眼は血栓症の予防であり,PVでは瀉血とhydroxyurea(HU),aspirinが,ETではHUまたはanagrelideが第一選択薬として使用されている。次世代のinterferonであるropeginterferonとHUを比較した前向き第3相試験の長期観察結果では,ropeginteferonはHUと比べ血液学的効果にすぐれており,有害事象はより少ないという結果であった。骨髄線維症の生命予後は不良であり,中間リスク-2,あるいは高リスクで適切なドナーが得られる場合は,造血幹細胞移植が考慮される。移植非適応の場合,JAK1/2阻害剤であるruxolitinibは,骨髄線維症に伴う脾腫,全身症状の改善に優れた効果を示すのみならず,生命予後延長効果も示されている。過去に行われた複数のJAK阻害剤の開発は,主に有害事象のために断念されてきたが,最近になり期待がもてるJAK阻害剤の成績が報告されている。また,ruxolitinibでは改善が望みにくい貧血,骨髄の線維化を標的とした薬剤の開発も行われている。
慢性期慢性骨髄性白血病の新たな治療目標である無治療寛解(treatment-free remission, TFR)とはチロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor, TKI)により深い分子遺伝学的寛解(deep molecular response, DMR)に到達したのち,TKI治療を中止しても分子遺伝学的効果が維持される状態のことである。2017年のNCCNガイドラインでは「3年以上のTKI治療歴,2年以上のDMRの維持,TKI中止後半年間の月一回の分子遺伝学的モニタリングの実施とその後の定期的なモニタリングなど」の一定の条件を課して臨床試験以外でのTKI中止を世界で初めて許容した。本邦のガイドラインにおいても今後,臨床試験外のTFRが言及されると推測される。将来のTFRを成功させるため,少なくともDMRを達成し継続することが,TKI感受性を示す症例の課題である。
後天性血友病Aの早期診断と適正治療への啓発のために,2011年11月に日本血栓止血学会から後天性血友病A診療ガイドラインが発刊され,疾患の認知度は上がり,2017年12月にその改訂版が発刊された。本症の出血症状は,先天性血友病Aのそれよりもしばしば重篤となる。包括的凝固能検査を用いた解析により,同じ第VIII因子活性であったとしても,本症患者血漿の凝固能は極めて低下していることが示されており,その推測メカニズムを紹介する。インヒビターを消失させるための免疫抑制療法に関して,ヨーロッパにおける大規模な患者登録データの解析からは,prednisolone(PSL)の単独療法もしくはPSLとcyclophosphamideを併用する治療法がファーストラインであり,本邦のガイドラインの推奨法を支持するものであった。本稿ではガイドライン改訂のポイントと病態・診断・治療に関する最新知見を紹介する。
先天性血小板減少症はきわめてまれと考えられていたが,従来考えられていたほどまれではなく,日常診療において十分遭遇する頻度で存在する。しかし,本疾患群の遺伝的背景は多様であるため,現在でも確定診断に至る症例は半数に満たず,そのために特発性血小板減少性紫斑病と診断され不必要な治療を受けることも少なくない。次世代遺伝子解析技術の利用により,現在では35以上の先天性血小板減少症が知られている。先天性血小板減少症の臨床は多様である。MYH9異常症ではAlport症状を合併することが知られていたが,トロンボポエチン信号伝達異常における骨髄不全症や転写因子異常における血液悪性疾患の合併が明らかにされている。血小板減少症は先天性であるが,合併症は進行性であり,発症と重症度には遺伝子型-表現型関連があるため早期の遺伝子診断が望まれる。
ワルファリンに代わる新しい経口抗凝固薬として直接経口抗凝固薬(DOAC)が登場したが,大出血の合併症は依然として認められ,より出血リスクの少ない抗凝固薬の候補として近年第XI因子阻害薬が注目されている。静脈血栓塞栓症(VTE)を発症した患者の約2~3割でがんの合併を認める。最近,担がん患者のVTE再発または大出血の複合アウトカムを検討した国際大規模臨床試験にて直接活性化第X因子阻害薬エドキサバンが低分子へパリンに対して非劣性であることが明らかにされた。また,抗凝固薬の重大な副作用として出血があり,緊急中和治療は重要な問題である。最近,ワルファリンの中和剤として4因子プロトロンビン複合体製剤が利用できるようになり,DOAC内服患者の中和剤としても期待できる。さらに,ダビガトランの特異的中和剤としてイダルシズマブが登場し,ダビガトランの抗凝固作用を迅速かつ完全に中和することが明らかとなった。
チロシンキナーゼ阻害剤(tyrosine kinase inhibitor, TKI)の登場によって,慢性骨髄性白血病(chronic myeloid leukemia, CML)の長期予後は大きく改善した。しかしながら,再発や薬剤耐性の原因となるCML幹細胞を根絶できる治療戦略の開発は,現在も重要な課題である。Interferon-α(IFNα)はTKIの開発以前から慢性期CMLにおける治療選択肢の1つであったが,TKIとの併用試験における良好な成績などからその臨床的意義が再注目されている。本稿では,ストレス時における特徴的造血を担う転写因子CCAAT/enhancer binding protein β(C/EBPβ)の造血およびCMLの病態における機能について概説し,C/EBPβを介したCML幹細胞に対するIFNαの作用についての我々の最近の研究内容を紹介する。
無効造血は異形成を伴う造血細胞の異常な増殖と病的なアポトーシスにより特徴付けられる骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome, MDS)の表現系の一つであり,特に赤血球造血障害による貧血は患者のQOLの低下の要因となる。近年,赤血球造血異常のメカニズムに関して新しい知見が報告され,徐々にその実態が明らかになりつつある。5q−症候群では,リボソーム合成障害を起点としたp53-S100a8/S100a9-TLR4経路の活性化の関与が明らかにされた。また,鉄芽球の増加を伴うMDSにおいては,スプライシングに関わるSF3B1遺伝子の変異が高率に認められ,スプライシング異常による遺伝子の発現低下や異常蛋白の出現が病態形成に関与するものと考えられる。さらに,ヒストン修飾に関わるポリコーム群遺伝子の遺伝子異常,特にH3K27メチル化に関わるEZH2の変異や欠損,スプライシング異常も赤血球造血障害に関与することが示唆されている。本稿においては,MDSにおける赤血球造血異常の最新の知見を紹介し,その意義について考察する。
感染,炎症のみならず化学療法や骨髄移植後の造血回復において,造血システムは,骨髄球系細胞を中心とした需要に応えようとする。このようなストレス負荷時には,定常状態とは異なる造血制御機構が働いており,その理解は臨床的にも重要な課題である。C/EBPβは,緊急時好中球造血において重要な役割を担う転写因子であり,最近になってその作用点が造血幹・前駆細胞レベルであることが判明した。さらに,ストレス負荷によって造血幹細胞内でC/EBPβのタンパク質レベルでの発現が亢進すること,C/EBPβノックアウトマウスの解析から,C/EBPβはストレス負荷後の造血幹細胞の増殖・分化を促進する一方で,枯渇を誘導する方向に作用することが明らかとなった。今後,C/EBPβの発現制御や造血幹細胞の増殖・分化制御における機能を解析することによって,ストレス造血やそれをもたらす病態の分子機構が明らかになることが期待される。
1世紀以上前に発見されたマクロファージは,発見以来最近まで体内には1種類しかないと考えられてきた。しかし近年の様々な研究から,マクロファージは疾患の発症に関わる様々なサブタイプが存在する可能性が考えられはじめている。今回,我々は免疫学の解析手法に加え,bioinformaticsの技術,およびimagingの技術を用いて,線維症の発症に関わるマクロファージの新しいサブタイプを同定し,その分化メカニズムと線維症との関係性の研究を行ったので,今回報告する。
単球はマクロファージや樹状細胞(単球由来樹状細胞)に分化して,生体防御や組織の病態形成に関わることが知られている。特に炎症環境は,単球の組織浸潤とマクロファージや樹状細胞への分化を促し,宿主防御反応や炎症性疾患を誘導する。マウスでは,単球はLy6chiとLy6clo サブセットに分類され,後者が血液中のみに存在するのに対し,前者は血液中に加え組織中にも検出され,組織内でマクロファージや樹状細胞に分化する。さらにLy6clo単球はLy6chi単球から分化誘導されることも報告されている。一方,ヒト単球には,主たるCD14+CD16—サブセット以外にCD14+CD16+およびCD14loCD16+サブセットが存在する。2014年,マウスにおいて,単球のみへの分化能を示す共通単球前駆細胞(common monocyte progenitor, cMoP)が同定された。本稿では,我々が同定したヒトcMoPについて紹介する。ヒトcMoPは臍帯血や骨髄中に存在する顆粒球・単球前駆細胞(granulocyte monocyte progenitor, GMP)の中に,CLEC12AhiCD64hi細胞として同定された。同時に,樹状細胞やリンパ球への分化能が欠落した“修正型GMP(revised GMP)”も見出され,ヒト単球分化経路の概要が明らかになってきた。