妊娠中に血小板減少が合併する頻度は約7~11%とされる。そのうち約70~80%は妊娠性血小板減少症(GT)であり,血小板数は50×109/l以上で推移し,妊娠終了後は自然に正常化する。特発性血小板減少性紫斑病(ITP)の合併は約4%と報告され,血小板数が30×109/l以下にまで減少し,妊娠中や分娩時に特別な加療を要することも多い。GTとITPの鑑別に有用な指標を探索するため,2006~2015年に当院で分娩した血小板減少合併妊娠例について臨床像の検討を行った。妊娠前から100×109/l以下の血小板減少が明らかな例が38例あり,そのうちITPが21例であった。妊娠前に診断が得られなかった53例のうち,分娩後にGTと診断された例は38例,ITPと診断された例は14例であった。最終的にGTと診断された群においても,血小板が50×109/l以下まで減少した例が8例,何らかの治療が行われた例が22例存在した。GTとITPを臨床像から明確に鑑別することは困難であり,出産後の慎重な経過観察が重要である。
89歳女性。肝機能障害と腹水のため入院となった。CTで肝腫大を認め,内部全体は不均一な濃度であり,腹水を認めた。PET/CTにおいて肝にびまん性のFDG集積を認めた。肝生検を実施し粘膜関連リンパ組織型節外性辺縁帯リンパ腫(MALTリンパ腫)と診断された。R-THP-COP療法2コースにより完全寛解となった後のCTでは肝硬変の所見を呈しており,肝生検で原発性胆汁性胆管炎(PBC)と診断された。18ヶ月後の再発に対してrituximab単剤治療で再び完全寛解が得られ,以降は無治療で7年以上の長期生存が得られている。PBC症例に合併したびまん性肝原発MALTリンパ腫であるが,PBCの肝症状の増悪因子としてMALTリンパ腫が関与した興味深い症例である。
61歳男性。発熱と白血球数著明増多で入院。骨髄は過形成で各成熟段階の顆粒球系細胞の増加を認め,一部好中球に異形成を伴っていた。芽球・好酸球・好塩基球の増加は認めず,BCR-ABL1を含むMPN関連遺伝子異常は検出されず,非定型慢性骨髄性白血病(atypical CML, aCML)と診断。染色体検査では46,XY,1~17 dmin[20/20] と全細胞で二重微小染色体(double minute, dmin)を認めた。間核期FISH法で多数のMYCシグナルが検出され,dmin上でMYC遺伝子増幅が生じていると考えられた。Hydroxiurea内服抵抗性であり寛解導入療法に引き続き臍帯血移植を施行したが,生着直後の骨髄でもMYCシグナル検出が続き腫瘍細胞が残存していた。Dminを有するaCMLの報告はなく,dmin上でのMYC増幅が強い治療抵抗性をもたらした可能性がある。
症例は51歳,男性。9ヶ月前から視野狭窄とうっ血乳頭を認め,症状が進行し脳神経外科に入院した。第1病日よりglycerolとヘパリンロックを開始し,第2病日の頭部MRIで右横・S状静脈洞血栓症を認め,治療量の未分画heparin(UFH)を開始した。第9病日に意識障害と痙攣が出現,第10病日の血小板数は入院前から50%以上の低下があり,ヘパリン起因性血小板減少症(HIT)による脳静脈洞血栓症増悪を疑いUFHをargatrobanへ変更した。第10病日のIgG抗体特異的抗血小板第4因子/heparin抗体検査(化学発光免疫測定法)は陰性であったが,機能的抗体検査は陽性でありHITと確診した。血小板数回復後にwarfarinへ変更したがPT-INRの調整が困難でrivaroxabanへ切替え,血栓塞栓症の再発や出血はなく経過した。亜急性期HITでのrivaroxabanは,有用な選択肢となりうると考えられた。
58歳女性。形質細胞性白血病に対しタンデム自家移植約9ヶ月後に,臀部と大腿部の疼痛,排尿困難を生じた。全脳・全脊髄のMRIで異常所見を認めなかったが髄液中に異常形質細胞を認め,中枢神経再発と診断した。大量methotrexate療法,抗がん剤髄腔内投与,放射線照射を実施したが,症状の改善を認めなかった。Lenalidomideとdexamethasone併用療法を実施したところ,症状の改善と髄液中の形質細胞の消失を認めた。治療開始約1年後に血液学的再発を来すも,神経症状の再燃はなく,髄液中に異常形質細胞を認めなかった。約5ヶ月後に原病死したが,中枢神経病変はlenalidomide開始後から約16ヶ月間寛解を維持していた。近年,形質細胞性腫瘍の中枢神経病変に対する免疫調節薬の有効性を示唆する症例が報告されており,本症例も長期間の寛解を維持した貴重な症例と考えられた。
67歳男性。腹部膨隆にて近医を受診。貧血,血小板減少,大量腹水貯留を指摘され当科紹介。骨髄検査でCD117,トリプターゼ陽性細胞増加,血清トリプターゼ高値,c-kit遺伝子にAsp816Val変異を認め,全身性肥満細胞症と診断した。Dasatinib,cladribineは無効で,大量腹水にて頻回の腹水排液を要した。途中,気管支喘息を合併,ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)のpranlukastを開始したところ,3~4日毎の腹水排液が開始10日目以降不要となった。開始15日目からインターフェロンα(IFN-α)を併用し,貧血,血小板減少は徐々に改善,腹水は消失,骨髄ではAsp816Val変異は陰性化,肥満細胞は著減。ほか,単球増加を認め,慢性骨髄単球性白血病合併を疑うも,診断には至らず経過観察中である。IFN-αが有効で,難治性腹水にLTRAも有用であった可能性のある稀な症例と考えた。
症例は22歳女性。2009年3月(17歳時)acute myelogenous leukemia with myelodysplasia-related changesを発症,同種造血幹細胞移植で寛解に至るも,移植後再発を繰り返し,その都度再移植で寛解となっていた。3度目の移植後再発で,通算5回目の同種移植となるが,2014年9月にHLA半合致移植を行った。生着後より血小板輸血不応,破砕赤血球を伴う溶血性貧血,腎機能低下を認め,移植関連血栓性微小血管症(transplant-associated thrombotic microangiopathy, TA-TMA)と診断した。遺伝子組み換えトロンボモジュリン製剤(recombinant human soluble thrombomodulin, rTM)および新鮮凍結血漿(fresh-frozen plasma, FFP)を投与したところ,徐々に改善し,移植後70日目にrTM, FFPともに離脱できた。5回目の移植かつHLA半合致移植で,TA-TMA重症化リスクが高かったが,rTM,FFPを併用することで病態の改善が得られた。今後,TA-TMAに対するrTMの有用性につき,症例の積み重ねが重要である。
72歳男性。血小板減少(0.5万/µl)と貧血で入院。骨髄検査では血小板付着像を欠く巨核球を認めた。さらにplatelet-associated IgG(PA-IgG)高値,H. pylori抗体陽性であった。以上から免疫性血小板減少症(ITP)と診断し,除菌療法,prednisolone(PSL)20 mg/日(0.5 mg/kg)およびthrombopoietin(TPO)受容体作動薬12.5 mg/日を開始した。治療途中で貧血の進行があり精査をしたところ,著明なAPTT延長が認められた。凝固第VIII因子活性(FVIII:C)低下とインヒビターが検出され,後天性血友病A(AHA)合併と診断した。広汎な筋肉内出血を来たしたが,免疫抑制療法の強化とrecombinant activated factor FVII(rFVIIa)による止血療法が奏効し止血が得られた。経過中,一時的にインヒビターが再出現したが,免疫抑制療法を継続し,発症後約1年間ITPとAHAの再燃は見られていない。
Epstein-Barr virus (EBV)-positive diffuse large B-cell lymphoma (DLBCL) in the elderly was revised from the category EBV-positive DLBCL not otherwise specified in WHO 2017. The prognosis of this lymphoma is very poor. We report a case of an 82-year-old woman diagnosed with gastric EBV-positive DLBCL (WHO 2008). Gastroduodenoscopy revealed multiple ulcers and fold thickening. She was followed-up without any treatment because of her old age. Repeat endoscopy one year and eight months later revealed a single ulcer with no lymphoma cells found in a biopsy specimen. Two years later, the lesion had spontaneously disappeared.