臨床血液
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60 巻, 9 号
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第81回日本血液学会学術集会 教育講演特集号
基礎医学分野における進歩
1 (EL2-2B)
  • 伊藤 拓水, 半田 宏
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1013-1019
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
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    近年,半世紀以上前に開発されたサリドマイドを元に様々な薬剤が開発されている。その中で,レナリドミド,ポマリドミドは免疫調節薬(IMiDs)と呼ばれ,強力な抗がん作用を有することが判明している。現在ではIMiDsの直接の標的因子はセレブロン(CRBN)であることが判明している。CRBNはDDB1とともにE3複合体(CRL4CRBN)を形成する。このCRL4CRBNは結合する化合物によって認識する基質が変換される特殊な性質を持つ。現在,レナリドミド,ポマリドミド以外のIMiDsも開発されてきており,もはや免疫調節作用に留まらない活性を持つものも見つかっているので新たにセレブロンモジュレーターという総称も提案されている。またPROTACsと呼ばれる新たな壊したいタンパク質(POI)をCRL4CRBNに分解させる化合物の開発も行われている。本稿ではCRBNの最新までの知見について解説したい。

2 (EL2-4A)
  • —どこまでわかったか—
    稲葉 俊哉, 長町 安希子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1020-1026
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    魑魅魍魎たるモノソミー7も,最初の報告から半世紀が経ち,ようやく本態が見えてきた。理解の鍵は,ハプロ不全(haploinsufficiency)による,複数の発がん抑制遺伝子の機能喪失である。マイクロアレイCGH法と次世代シーケンサにより,Samd9Samd9-likeSamd9L),Ezh2MLL3CUX1の5責任遺伝子候補が同定され,遺伝子改変マウスなどにより立証された。Samd9Samd9Lは,片アレルの喪失でマウスに老年期MDSを起こす一方,その機能更新型の変異は小児の骨髄機能不全をもたらし,高率に小児MDSが発症する。モノソミー7にとどまらず,難解なMDSを理解する上でも鍵となる遺伝子として注目される。一方,エピゲノム調節因子であるEzh2MLL3は,p53やRas経路の異常を伴い,腫瘍化が運命付けられた造血細胞の中で,病状の進展に寄与すると考えられる。

3 (EL2-6C)
  • 中西 真
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1027-1032
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    ヒトの正常細胞を試験管の中で培養するとある一定回数の分裂の後に増殖を停止し,恒久的な増殖停止状態に入る。この現象を細胞老化という。老化した細胞は,試験管内で長期に生存することが可能であるが,如何なる刺激に対しても増殖を再開することはない。増殖停止するまでの分裂回数は,細胞種により規定されるのではなく,細胞が得られた動物種により規定され,またその回数は動物の寿命と強い正の相関を示す。従って,細胞老化が個体の加齢性変化や寿命を規定する因子として重要な役割を果たしていることが示唆されていた。最近になり,個体内における老化細胞の蓄積が,動脈硬化や2型糖尿病などの老年病や,寿命そのものを制御する実験結果が示された。本稿では,ごく最近の細胞老化誘導・維持機構についての知見から,個体における細胞老化の役割について紹介する。

4 (EL3-2C)
  • 阿久津 英憲
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1033-1045
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    ゲノム編集技術が発展する中,体細胞への応用では臨床利用にも進んでいる。一方,受精卵への適応に関しては,一細胞レベルの解析技術の進展などにより,ヒトの着床前期胚発生でも分子レベルの知見が深まり分子の機能性解析のためゲノム編集技術の応用が期待されている。しかし,受精卵を含めた生殖細胞系列への遺伝子改変技術の適応は,個体全ての細胞へ波及しさらに,生殖細胞への遺伝子改変を通して世代を超えていく。ここでは,ヒト生殖細胞系列の科学的側面の理解を深め,ゲノム編集技術を適応することの可能性と課題を検討する。

造血システム/造血幹細胞
5 (EL2-2F)
  • 杉本 直志, 江藤 浩之
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1046-1055
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    iPS細胞を用いることによりヒト生体システムのin vitroでの再構成が可能であり,ヒト造血系においてもそのメカニズムを解明する有用なツールとなる。またiPS細胞が体細胞から作製可能である利点を生かし作製される患者由来iPS細胞は,単一遺伝子性先天性疾患から多因子性の造血器悪性疾患にまで渡り,疾患モデルの構築によって病態解明と新規治療法開発が可能となる。再生医療に向けてはTリンパ球やNK細胞,マクロファージによる免疫療法,血小板と赤血球による輸血療法などの臨床応用が進められている。血小板に関しては,増殖可能な巨核球株や乱流型のバイオリアクター,新規薬剤の開発によって,臨床試験に必要な質と量を満たした血小板の製造に成功している。本稿ではこの発展目覚ましい分野の現状を概観するとともに,iPS細胞由来血小板の開発について詳しく述べていきたい。

6 (EL2-6B)
  • 酒巻 太郎, 宮西 正憲
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1056-1062
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    造血幹細胞は自己複製能と多分化能を有する血液幹細胞と定義され,造血幹細胞移植成否の鍵を握る。過去60年にわたる造血幹細胞移植医療および幹細胞生物学における解析手法,技術の進歩とともに造血システムの理解は格段に深まってきた。しかし,造血幹細胞の本質である自己複製能や多分化能の分子メカニズムに関しては,ほとんど解明されていない。その理由の一つとして,骨髄内にわずかに含まれる造血幹細胞,中でも生涯にわたり自己複製能を有する長期造血幹細胞の同定,純化がこれまで成し遂げられなかったことが挙げられる。特に移植医療の現場においては,移植後長期にわたり造血能が維持されることは極めて重要であり,この細胞分画が臨床的にも科学的にも重要であることが理解できる。本稿では,造血幹細胞の同定,純化の歴史を紹介しつつ,特に長期造血幹細胞に関する臨床的,科学的意義,および最新の研究成果について述べたい。

7 (EL2-6E)
  • —巨核球・血小板造血を中心に—
    加藤 尚志
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1063-1069
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    現代血液学において,鳥類,爬虫類,両生類,魚類といった脊椎動物全般を俯瞰する造血や血球の研究の取り組みは遅れている。ヒトやマウス以外を研究対象に選ぶと,多くの実験的制約が立ちはだかる現実があった。しかし,フローサイトメトリーによる有核血球の血算の自動化や,全ゲノム情報の利用などが実現した。そして例えば両生類造血の解析から新たな知見が獲得されつつある。末梢に有核栓球が循環し,血小板をもたないアフリカツメガエルにも巨核球が存在する。ヒト分子にみられる長大なC末端領域は,鳥類,両生類,魚類のTPO分子にはない。それはなぜか? 変異型CALRとMPLの結合や,EPOとEphB4の結合は動物種に依存せず普遍的なものなのか? 未解明の課題は尽きないが,比較血液学的視点はいろいろな謎解きへのアプローチを提供する。

8 (EL2-6F)
  • 幸谷 愛, 樋口 廣士, 柿崎 正敏
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1070-1074
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
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    細胞は,細胞外小胞(extracellular vesicles, EVs)と呼ばれる小胞を分泌することが古くから観察されていたが,近年,それらが,microRNA(miRNA)などの機能分子を内包し,細胞に取り込まれて,それらを細胞で輸送することから,“細胞間コミュニケーター”として働くことが明らかになり,注目を集めるようになった。エクソソームはEVsの一種で比較的サイズの小さい小胞に分類されるが,EVsの中では比較的研究が進んでいる。エクソソームの分泌量はがん細胞において,非がん細胞に比べ著増していることから,診断指標として有用なこともあり,がん分野で研究が進んでいるが,造血システムにおいては,研究が始まったばかりである。著者らはEBV関連リンパ腫においてエクソソームの重要な機能を報告した。本稿においては,それらを含む造血系でのエクソソームの機能と,それらのHBVウイルスを含む疾患に一般化の可能性について述べる。

9 (EL3-6A)
  • 田村 智彦, 黒滝 大翼
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1075-1083
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    造血幹前駆細胞から多様な血液細胞が分化産生される仕組みは,長年にわたり血液学の中心的なテーマである。これまで細胞の種類や分化段階は細胞表面マーカーによって集団として分類され,その分化能は移植実験などによって解析されてきた。しかし近年次世代シーケンサーによって,単一細胞のトランスクリプトーム・エピゲノムの解読や,細胞バーコーディングによる撹乱を受けない状態での単一クローンの生体内系譜追跡など,革新的なシングルセル解析が可能になってきた。その結果,各細胞集団の不均一性や,幹細胞とされてきた集団は必ずしも多能性を持たないこと,逆に前駆細胞が自己複製能を持ち定常造血に大きく貢献しうること,細胞の分化系譜決定はかなり早期で生じることなど,これまでの階層的造血モデルに修正を迫る新知見が示されている。シングルセル解析は,正常ならびに異常造血機構の理解,ひいては疾患治療の開発に貢献することが期待される。

赤血球系疾患
10 (EL1-6A)
  • 東 寛, 酒井 宏水
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1084-1091
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    我が国の血液供給システムは,十分に機能しているが,突然の大量出血による出血性ショックに直面した場合に,必要な赤血球製剤を迅速に調達できない場合がある。特に,離島・へき地の医療や産科医療は常にこのような状況に陥る危険がある。補液による循環ボリュームの確保だけでは,重要臓器の機能を温存することはできない。もし,人工赤血球が手元にあれば,赤血球製剤が届くまで,それを一時的に血液代替物として使用することにより,QOLの高い救命効果を得ることができるに違いない。当研究班では,1990年代から人工赤血球(Hb-V)の研究開発を行っている。Hb-Vはヒトヘモグロビン(Hb)分子をリポソームで包埋した微粒子である。赤血球と異なり,血液型はなく,室温でも安定で,長期間の保存が可能である。現在までに,その優れた生体適合性と酸素運搬能が,膨大な動物実験により立証されている。その製造法も確立され,臨床応用に向けて治験の準備が進められている。

11 (EL1-3D)
  • 濱野 高行
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1092-1099
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    無作為介入研究(RCT)により,貧血改善以外の鉄の恩恵は,むずむず脚症候群の改善や貧血を有さない鉄欠乏患者における倦怠感の改善などもわかってきた。心不全患者におけるRCTから,静注鉄剤であっても自覚症状のみならず,心不全増悪による入院を有意に減らすと報告され,欧州心不全ガイドラインでも鉄欠乏があれば,ferric carboxymaltoseを静注投与することが推奨された。また血液透析患者におけるRCTでも積極的静注鉄剤投与が,鉄欠乏時にだけ投与する消極的投与に比し,赤血球造血刺激製剤の投与量や輸血頻度を減らすだけでなく,非致死性心筋梗塞,脳卒中,心不全入院,総死亡の主要複合アウトカムを抑制することが報告された。これらの理論的根拠は,致死的心筋症を呈する心筋特異的transferrin receptorノックアウトマウスの基礎実験に求めることができる。このマウスでは,心筋内鉄欠乏が電子伝達系の機能不全を惹起する結果,アデノシン三リン酸の産生障害が起こり,鉄欠乏によるオートファジー不全が異常ミトコンドリアの心筋内蓄積を招来する。

12 (EL2-2A)
  • —最近の動向—
    亀崎 豊実
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1100-1107
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    自己免疫性溶血性貧血(AIHA)の診療ガイドラインが,英国血液学会から2017年に発表された。診断の流れは,溶血診断と直接抗グロブリン試験(DAT)による免疫性溶血診断の2段階を経て従来通り行われるが,DAT陰性時の複数の対応や寒冷凝集素症(CAD)のスクリーニング検査の明確な位置付けが新たに提唱されている。治療においては,リツキシマブの有用性についてエビデンスレベルの高い報告がみられるようになり,本邦では保険適用外であるが,将来的には標準治療として位置付けられる可能性がある。また,CADに対する新規治療薬として,抗C1s抗体製剤の臨床試験が進められている。

骨髄系腫瘍:AML
13 (EL1-3C)
  • 細野 奈穂子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1108-1119
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病の治療は40年近く,シタラビンとアントラサイクリンの併用療法が標準療法として用いられてきた。支持療法・移植医療の格段の進歩と比べ,化学療法の進歩はほとんど認められなかった。ここ数年,多くの新規薬剤が開発され,臨床試験での検討が行われてきた。2018年には,米国でIDH1阻害薬ivosidenib,Bcl-2阻害薬venetoclax,ヘッジホッグ阻害薬glasdegibが相次いで承認された。さらには,CDK9阻害薬alvocidib(flavopiridol),NEDD8阻害薬pevonedistat,TP53変異に対する活性剤APR-246など,新しい機序の薬剤の臨床試験も進行中である。今後,新規治療法の確立にむけて,従来の7+3との併用,脱メチル化薬との併用,さらには症例毎の分子病態に基づくprecision medicineへ進むことが期待される。

14 (EL1-3F)
  • 小林 寿美子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1120-1130
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    国内外のAML発症は67歳前後であり予後不良染色体や発症背景の因子のために高齢者AMLは予後不良である。骨髄非破壊的移植(RIC)の開発により高齢者の同種造血幹細胞移植は可能となったが,成績向上のためには非再発死亡率(NRM)を減らすことが重要である。そのためには高齢者機能評価や併存症あるいは疾患リスク,CRの有無など事前に評価ツールを使い移植症例を選択してゆくことが必要である。本邦のAML移植は確実に高齢化しており,年齢制限は現在70歳前半までを許容する欧米の報告もあり本邦も同様の傾向にある。これまで高齢者は年齢制限のために治験や臨床データなどに乏しかったが,今後は高齢者AMLに対する取り組みが必要である。また移植までの橋渡しとして多数の分子標的薬などの新薬が登場しており,これらを移植前後に使用できるようになれば高齢者に最多のAML治療は安全性を担保しながら移植成績の向上が期待できる。

骨髄系腫瘍:CML/MPN/MDS
15 (EL1-3A)
  • 臼杵 憲祐
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1131-1139
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    高リスクMDS(myelodysplastic syndromes)の主な治療選択肢は同種造血幹細胞移植とアザシチジン治療である。治癒が得られる治療法は同種造血幹細胞移植のみであるが,移植がなされない例ではアザシチジンが選択される。支持療法単独や低用量シタラビンなどの通常治療に比べてアザシチジン治療によって生存期間が改善され,75歳以上の高齢者,WHO分類ではAMLに分類されるFAB分類のRAEB-Tや,低形成MDSでも同様に生存期間の改善がみられる。効果発現までに4~6サイクルを要するため,効果の予測スコアが作成されている。アザシチジンと様々な薬剤の併用療法や新規治療薬の臨床試験が進行中である。

16 (EL1-3B)
  • 三浦 昌朋, 高橋 直人
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1140-1147
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    慢性骨髄性白血病治療薬として現在5つのチロシンキナーゼ阻害剤が使用可能である。各々の薬剤において,特定の血中濃度を指標に投与量を調節する治療法の有用性が確認されている。イマチニブは特定薬剤治療管理料が算定でき,ターゲット血中トラフ濃度(C0)を1,000 ng/mlにすることで,1年でのMMR達成率が37%から63%に上昇している。ニロチニブは490 ng/ml以上にすることでMMR達成が6ヶ月早まっており,C0値900 ng/mlでより深い寛解が得られる。ダサチニブはC0値を4.33 ng/ml以下の可能な限り検出させないことで胸水発現を抑えることができ,ボスチニブはC0値62 ng/mlを推移させることで,治療開始1年におけるMMR達成が有意に高まる。ポナチニブは21.3 ng/mlをターゲットに投与量を調節することで,血管閉塞性有害事象を回避した継続的治療の可能性が考えられている。本稿では血中濃度を用いた治療戦略の導入による治療成績の変化について概説する。

17 (EL1-3E)
  • 竹中 克斗
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1148-1156
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    骨髄線維症の平均生存期間は5年程度とされ,現時点では,薬物療法による治癒は困難であり,同種造血幹細胞移植が唯一の根治的治療法である。骨髄線維症の臨床経過や予後は均一ではないことから,個々の症例において移植関連死亡,長期予後などを考慮し,種々の予後予測システムによる評価や,遺伝子変異情報を含めて,移植適応や移植時期についての検討が必要である。これまでの報告から,骨髄の線維化が著明であるにもかかわらず,移植した造血幹細胞は生着可能で,同種造血幹細胞移植は骨髄線維症の治癒的治療となり得ることが示されている。しかし,移植関連死亡率が30~50%と高く,総生存率は50%程度にとどまっている。高い移植関連死亡をどう改善していくか,幹細胞ソースの選択,至適な移植前治療の開発,JAK2阻害薬を移植前にどう組み込んでいくかなどが今後の解決すべき課題である。

18 (EL3-4A)
  • 桐戸 敬太
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1157-1165
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    8p11症候群とは,8p11領域を含む転座により,この領域に存在するFGFR-1遺伝子がパートナー遺伝子と融合遺伝子を形成することにより発症する造血器腫瘍である。臨床的には,骨髄増殖性腫瘍や急性骨髄性白血病などの骨髄系腫瘍と,Tリンパ芽球性リンパ種を中心としたリンパ系腫瘍が同時・異時性に発症するという特徴を示す。しばしば,好酸球増加を伴うことも知られている。稀な疾患であり,これまでに100例程度の報告があるにすぎない。予後は不良なことが多く,同種造血幹細胞移植が唯一治癒を期待できる治療である。PKC412,ponatinibあるいはdovitinibなどの分子標的薬の開発も進められており,in vitroの解析では腫瘍細胞の増殖抑制を示すことが報告されている。しかしながら,現在までのところ臨床的な有効性は確立されていない。これに対して2018年に,新たな分子標的薬としてpemigatinibの有効性を示す第2相臨床試験の結果が報告されており,今後の展開が期待されている。

19 (EL3-4B)
  • Hans Michael KVASNICKA
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1166-1175
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    The classical myeloproliferative neoplasms (MPN), polycythemia vera (PV), essential thrombocythemia (ET), and primary myelofibrosis (PMF), are characterized by clonal myeloproliferation without features of myelodysplasia. The diagnostic approach proposed by the World Health Organization (WHO) uses clinical features, peripheral blood counts and smear analysis, bone marrow (BM) morphology, karyotype and molecular genetic tests to classify MPN subtypes. The detection of characteristic driver mutations like JAK2V617F, JAK2 exon 12, MPL, and calrecticulin (CALR) is a major diagnostic feature. JAK2 mutations are detected in more than 90% of patients with PV and are therefore used as highly sensitive clonal marker in this subtype. However, JAK2 mutations may also occur in ET and PMF, while CALR is virtually not seen in PV. Therefore, BM remains the central diagnostic platform and is essential for distinguishing ET from pre-fibrotic PMF and diagnosing cases which do not express JAK2, MPL or CALR (‘wild-type’ or ‘triple-negative’ MPN). The standardization of relevant BM features is mandatory to recognize characteristic and easy to assess patterns that enable an accurate discrimination between the MPN subtypes. Key parameters include cellularity, erythropoiesis and neutrophil granulopoiesis in context with specific features of megakaryocytes as well as the BM fiber content, especially in early stage MPN that present with thrombocytosis and clinically mimic essential thrombocythemia.

20 (EL3-4C)
  • Prithviraj BOSE, Lucia MASAROVA, Srdan VERSTOVSEK
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1176-1185
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    Although the Janus kinase (JAK) inhibitor ruxolitinib has long been the only drug licensed for treatment of the classic Philadelphia chromosome negative (Ph) myeloproliferative neoplasms, years of drug development efforts have begun to bear fruit with the recent approval of a novel monopegylated interferon alfa-2b, ropeginterferon alfa, for patients with polycythemia vera without symptomatic splenomegaly in Europe. Several newer JAK inhibitors (fedratinib, pacritinib, momelotinib) have shown activity in phase 3 trials in patients with myelofibrosis but have, for various reasons, not yet received regulatory approval; all these agents, however, remain in active clinical development. Many other agents with diverse mechanisms of action are being explored in clinical trials in patients with myelofibrosis, both as single agents and in combination with ruxolitinib. Besides splenomegaly and symptoms, improvement of anemia has become a new focus of drug development in myelofibrosis. Ruxolitinib appears promising also in chronic neutrophilic leukemia, where mutations in CSF3R are common. Pemigatinib, a potent and selective inhibitor of fibroblast growth factor receptor (FGFR), has shown impressive efficacy in a small registration-directed trial in patients with FGFR1-rearranged myeloid/lymphoid neoplasms. Finally, avapritinib, a highly potent and selective inhibitor of KITD816V, has demonstrated unprecedented response rates in patients with advanced systemic mastocytosis.

リンパ系腫瘍:ALL/悪性リンパ腫
21 (EL1-2D)
  • 遠西 大輔
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1186-1192
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    びまん性大細胞型リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)は臨床的,生物学的に非常に不均一な疾患単位であり,様々な分子遺伝学的異常が腫瘍形成に関わっていると考えられる。最近の遺伝子解析技術の進歩により,新規遺伝子異常が次々と発見され,またそれらに基づく分子病態の解明と細分類化が進んでいる。さらに遺伝子異常や分子学的特徴と臨床予後の関連性が明らかにされつつあり,これらは今後の新規治療薬や臨床試験の適応を考える上で重要な因子として,DLBCLの今後の個別化医療(プレシジョンメディシン)を考える上で非常に重要な因子である。本稿ではDLBCLの分子病態の最新の知見を紹介しながら,遺伝子異常による層別化治療の可能性について解説し,それらの臨床的意義についても述べる。

22 (EL1-2E)
  • 大間知 謙
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1193-1198
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    2018年に日本血液学会編造血器腫瘍診療ガイドラインが改訂された。ガイドラインとしては5年ぶりの改訂であったが,びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)の標準治療は,2013年版と同様にR-CHOP療法である。R-CHOP療法がDLBCLに対する標準治療とされるようになったのは,60歳以上の未治療進行期のDLBCL患者を対象とした比較試験において,CHOP療法にrituximabを併用することで生存が20%程改善したことが2000年代の初めに報告されたことから始まる。その後,R-CHOP療法を超えるべく様々な検討がされてきたが,2019年4月現在でも,DLBCLに対する標準治療はやはりR-CHOP療法である。本稿では,これまで行われてきた検討と,そこから生じたresearch questionについて考察する。

23 (EL1-2F)
  • John P. LEONARD
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1199-1204
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    The treatment of follicular lymphoma (FL) continues to evolve. Those patients who present with minimal symptoms often are observed without therapy until significant progression occurs. When treatment is needed, initial options include single agent rituximab (R, anti-CD20), or various forms of chemoimmunotherapy including either R or the newer anti-CD20 monoclonal antibody obinutuzumab (O), with or without maintenance administration. Recent data suggest that the immunomodulatory agent lenalidomide can also be effective in combination with rituximab in both the upfront and relapsed setting. Patients with recurrent disease are frequently treated with chemoimmunotherapy or phosphoinositol-3-kinase (PI3K) inhibitors. Current information suggests that the most important prognostic feature of FL is the presence or absence of early progression (within 2 years of initial treatment/diagnosis). Ongoing efforts are focused on biomarkers to optimally match treatment to patient populations and further improve clinical outcomes.

24 (EL2-2E)
  • 岡本 真一郎
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1205-1211
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    多中心性キャッスルマン病(MCD)は全身炎症を伴うまれな非クローン性リンパ増殖性疾患である。欧米ではHHV-8関連,特にHIV感染者のMCDが多く,本邦のMCDのほとんどはHHV-8陰性であり,特発性MCD(idiopathic MCD, iMCD)と呼ばれている。iMCDはIL-6の過剰産生を介して多彩な全身症状と特徴的な検査異常を伴い,時に臓器不全を引き起こす。本疾患は,長い間病理学的研究以外の研究が進んでいなかったが,TAFRO症候群との関連において近年日本だけでなく,国際的にも注目を集めている。我が国では2015年に組織された難病研究班により,診療参照ガイドが示され,拠点病院が組織されたことで,特発性MCDは331番目の指定難病に登録された。iMCDは適切な診断と治療を行えば,良好な予後が期待できる疾患である。今後の本疾患に対する診療,研究の発展が期待されている。

25 (EL3-6C)
  • 八尾 尚幸
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1212-1220
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia, ALL)は髄膜に浸潤しやすいことはよく知られているが,そのメカニズムは長らく不明であった。今回我々はALLモデルマウスにおいて,骨髄とクモ膜下腔を繋ぐALL細胞のバイパス経路が存在することを見出した。そのバイパス経路は導出血管が通過する骨内連絡孔で,導出血管は頭蓋骨または脊椎骨の骨髄とクモ膜下腔を直接繋いでいる。ALL細胞は骨内連絡孔に侵入し,導出血管を圧排して骨内連絡孔内を通過し,クモ膜下腔に浸潤する。ALL細胞が発現するインテグリンα6が血管のラミニンを認識し,ALL細胞が骨内連絡孔を移動することを明らかにした。またインテグリンα6の発現はPI3Kδに依存しており,PI3Kδ阻害剤によりALL細胞の中枢神経浸潤が抑制された。このことから,PI3Kδ阻害剤がALLの中枢神経浸潤の予防薬となる可能性が示された。

26 (EL3-6D)
  • 坂田(柳元) 麻実子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1221-1228
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)の腫瘍細胞は遺伝子および蛋白発現プロファイル解析によって,T follicular helper(TFH)細胞の特徴をもつことが明らかとなった。またAITLではG17V RHOA変異,エピゲノム経路に関わる遺伝子変異,T細胞受容体シグナルに関わる遺伝子変異が組み合わさった特徴的なゲノム異常がみられる。なお,AITL以外にもTFH細胞の特徴をもつリンパ腫があることが明らかとなり,これらを包括する新たな疾患分類が提唱された。興味深いことに,TFH細胞の特徴をもつリンパ腫では,ゲノム異常についても大部分が共通している。さらには,AITLのゲノム異常は疾患特異性が高いことから,診断にも利用しうる。AITLは難治性疾患であるが,再発難治例に対して複数の新薬が承認された。今後は,AITLに特徴的なゲノム異常を標的とするプレシジョンメディスンの開発が望まれる。

27 (EL3-6E)
  • 錦織 桃子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1229-1235
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    近年,免疫を標的とした抗腫瘍薬の進歩により,各種がん領域において腫瘍微小環境に注目が集まっている。悪性リンパ腫はリンパ球由来の腫瘍であり,リンパ組織に腫瘍が形成されることも多く,リンパ腫における免疫微小環境は単に抗腫瘍免疫としての意義だけでなく,しばしば腫瘍細胞を支持する重要な構成要素としての役割を担っている。リンパ腫細胞は病型ごとに特徴的な表面分子を発現し,その発現パターンによって腫瘍の浸潤部位も左右され,腫瘍細胞はその微小環境において間葉系細胞やマクロファージなどの非腫瘍細胞との直接接触あるいは液性因子を介したサポートを受けている。その一方,リンパ腫細胞が抗腫瘍免疫からの逃避をもたらす様々なメカニズムも知られるようになっている。こうしたリンパ腫細胞と腫瘍微小環境の関係性について詳細が解明されることにより,リンパ腫の病態理解が深まるとともに,新たな治療法の開発が進む可能性も期待される。

リンパ系腫瘍:多発性骨髄腫
28 (EL1-2A)
  • 花村 一朗
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1236-1242
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    ゲノム解析技術の進歩により,多発性骨髄腫(multiple myeloma, MM)の複雑なゲノム異常とその進展様式が解明されつつある。MMは高2倍体またはIgH転座により発症し,続発するゲノムコピー数変化や遺伝子変異などにより,ダーウィン進化論的に進展する。発症に関わるIgH転座はt(4;14),t(11;14),t(6;14),t(14;16),t(14;20)で,それぞれMMSET/FGFR3CCND1CCND3MAFMAFBが活性化される。染色体コピー数変化のうち1q21高コピーや17p欠失は強力な予後不良因子である。遺伝子変異は,多くの遺伝子に低頻度で認められ,N/KRASに最も多く認められる。新規ゲノム異常の病的・臨床的意義が検討されており,分子基盤に基づいた個別化治療に向けた取り組みも始まっている。本稿ではMM分子病態のプロファイルとその臨床応用について概説する。

29 (EL1-2B)
  • Matthew LEI, E. Bridget KIM, Andrew BRANAGAN, Uvette LOU, Melanie ZEME ...
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1243-1256
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    Multiple myeloma is a malignant plasma cell neoplasm that is incurable despite significant progress in treatment over the past several decades. The incorporation of novel agents and combinations into the MM treatment paradigm has resulted in improved survival and tolerability, as well as deeper responses including achieving a minimal residual disease negative state. The addition of new treatment options and combinations has added complexity in treatment selection for myeloma patients. The current strategy for newly diagnosed myeloma involves induction, consolidation, and maintenance therapy. However, nearly all myeloma patients will develop refractory disease. This highlights the need for more effective therapies targeting the myeloma cells and their microenvironment. In this article, we summarize current management of transplant eligible and ineligible newly diagnosed patients in both the upfront and relapsed refractory setting, highlighting risk adapted strategies. We also summarize emerging therapies, such as immune and targeted approaches, as well as drugs with novel mechanisms of action. Emerging strategies offer individualized treatment options and may ultimately offer the possibility of a cure for myeloma patients.

30 (EL1-2C)
  • 多林 孝之
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1257-1264
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫(multiple myeloma, MM)に対して初発時にボルテゾミブ,レナリドミド,サリドマイドを含む治療戦略が導入されたことによってその予後は著明に改善した。しかし,これらの治療でもMMの根治は困難であり再発を繰り返してやがて難治性となる。再発・難治性多発性骨髄腫に対して第二世代のプロテアソーム阻害薬であるカルフィルゾミブとイキサゾミブ,免疫調節薬であるポマリドミド,HDAC阻害薬であるパノビノスタット,抗体治療薬であるエロツヅマブとダラツムマブが使用できるようになったが至適な順序や組み合わせについて不明な点も多い。最近,免疫調節薬と抗体治療薬のリトリートメントによって腫瘍免疫を介した新たな効果が認められることが分かってきた。今後は臨床試験によってこれらの新規治療薬の効果が最大限に発揮できるような使用方法が明らかになることが望まれる。

31 (EL2-4B)
  • 原田 武志
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1265-1274
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫(MM)は,腫瘍細胞の特性を基に,プロテアソーム阻害薬や免疫調節薬,抗体療法などが臨床応用され,治療成績が改善している。しかしながら,未だ治癒困難であり,現有の治療法の改良と共に新たな治療薬の開発が求められている。ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)は,ヒストンあるいは非ヒストン蛋白を脱アセチル化し,遺伝子発現やタンパクの機能,安定性を調節する酵素群である。HDACはMMの治療標的として有用であり,汎HDAC阻害薬は既に臨床応用されているが,その広範なHDAC阻害による副作用が問題視されている。そこで,次世代の治療として,MMにおけるHDACアイソフォームの特異的な機能,役割を明らかにし,アイソフォーム特異的なHDAC阻害薬を開発し,副作用を軽減しながら治療効果を増強させる研究が進められている。

血栓/止血
32 (EL1-6B)
  • 鈴木 隆史
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1275-1282
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    血友病はFVIIIあるいはFIXの先天的な量的,機能的な異常により出血傾向を示す。その歴史は古く,バビロニア時代にさかのぼる。英王室に端を発し,ロマノフ王朝の最後の皇子が血友病Bであったことが同定されている。治療は古くは輸血,1970年代から血漿由来,1990年代には遺伝子組換え製剤が導入された。2000年代にはさまざまな修飾により従来の製剤に比べて半減期の長い(EHL)製剤が登場するとともにシフトしてきている。EHL製剤においてもさらに半減期を延長させ利便性を求めた製剤が開発中である。2018年には因子補充療法とは異なる機序の抗体医薬も登場した。出血抑制に対してノンファクター製剤といわれる治療薬が開発中である。期待されてきた遺伝子治療もベクターの改良によりようやく国内においても臨床試験が視野に入ってきた。1回の注射で数年間,出血と無縁に過ごせること,“cure”を目指せる治療として期待される。本稿では血友病治療の近い将来について概説する。

33 (EL3-2A)
  • 井上 克枝, 築地 長治
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1283-1291
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    血小板は止血を担うが,個体発生にも必須であることがわかった。血小板活性化受容体C-type lectin-like receptor2(CLEC-2)は,胎生期にリンパ管内皮の膜蛋白,ポドプラニンと結合して血小板を活性化してTGF-βファミリーを放出し,リンパ管と血管の分離を促進する。TGF-βは肺表面の中皮細胞にも作用し,筋線維芽細胞に分化,肺内に遊走させ,そこでエラスチンを産生させて肺に伸縮性を持たせる。このためCLEC-2やポドプラニン欠損マウスはリンパ管と血管の分離不全を示し,肺の伸縮不全により出生直後に死亡する。これまで細胞が産生する生理活性物質が隣接する細胞に影響して発生が進むという考えが主流で,血球の役割は不明であった。しかし,血小板は発生に必要な生理活性物質を顆粒内に持ち,特異的な受容体—リガンドの結合により要所で放出し,能動的に発生を促進する「生物学的運び屋」といえる。

34 (EL3-2B)
  • —先天性トロンボフィリアを中心に—
    安達 知子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1292-1298
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    以前は日本での発症頻度は少ないと考えられていた静脈血栓塞栓症は,現在は欧米とあまり変わらない頻度と認識されつつある。本症は妊産婦死亡につながる重要な合併症である。本邦での頻度は総分娩数の0.05~0.08%である。妊産婦は生理的にも血栓形成をきたしやすい背景を有するが,さらに種々のリスク因子が重なることで,VTEを発症する。産科的なリスク因子としては,帝王切開,高齢妊娠(≥35歳),長期安静(切迫早産,前置胎盤,多胎妊娠など),重症妊娠高血圧腎症,高度肥満,妊娠悪阻による脱水などが挙げられるが,いわゆるトロンボフィリアと呼ばれる先天性凝固抑制蛋白欠乏症や抗リン脂質抗体陽性者,血栓症既往などのある妊産婦には,積極的な血栓症予防管理が必要となる。静脈血栓塞栓症発症時の診断,急性期の抗凝固療法を中心とした治療,特に先天性トロンボフィリアを有する妊産婦の安全な分娩を目指した妊産婦管理について解説した。

小児血液疾患
35 (EL1-6E)
  • 長谷川 大輔
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1299-1307
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    Down症候群(Down syndrome, DS)は21番染色体のトリソミーによって生じる染色体異常であり多彩な症状を呈する。血液学的には新生児期における一過性の血球数異常から急性白血病まで幅広い病態を合併しうる。その中で一過性骨髄異常増殖症と急性骨髄性白血病はともに造血に関連する転写因子であるGATA1の異常に起因し,時間的に連続したスペクトルを形成しており,両者をあわせた「DS関連骨髄増殖症」がWHO造血器腫瘍分類に記載されている。最近の研究からトリソミー21自体に造血を亢進させる働きがあり,そこに短縮型GATA1が相乗的に働くと一過性骨髄異常増殖症を発症し,残存した微小クローンに付加的遺伝子異常が蓄積することで急性骨髄性白血病に進展することが示された。本稿ではDS関連骨髄増殖症を中心にDSに関連した血液学的異常について概説する。

36 (EL1-6F)
  • —小児から成人まで—
    工藤 寿子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1308-1316
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    ランゲルハンス細胞組織球症(LCH)は反応性の病態か腫瘍であるか,長年議論されてきたが,2010年にBRAF V600E変異が報告され,現在では「炎症性骨髄腫瘍」であるとの概念が確立し,「がん」と位置づけられるようになった。BRAF変異は50~60%,MAP2K1変異が12~25%にみられ,相互排他的にERK活性化を起こしている。Erdheim-Chester病(ECD)においてもLCHと同様にBRAF V600E変異が50~100%に認められ,米国FDAはBRAF阻害剤vemurafenib投与を承認している。リスク臓器浸潤のある多臓器型LCHの5年粗生存率は92%であったが5年無イベント生存率は46%と低い。再発を減らして,治癒後の長期的な生活の質を妨げる晩期合併症を減らすこと,また,成人LCHの治療の確立も重要な課題であり,BRAF阻害剤など分子標的薬の日本での導入なども今後期待される。

37 (EL3-6B)
  • 宮村 能子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1317-1323
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    生後1歳未満に発症する乳児急性リンパ性白血病(ALL)は,その病態や臨床症状,予後が1歳以上の小児ALLと大きく異なる希少で難治な疾患である。近年,1歳以上の小児ALLは80%以上の長期生存が得られるが,乳児ALL,とくにその多くを占めるKMT2A(MLL)再構成陽性ALLは,集学的治療を行っても5年EFS 40%前後と予後不良である。国内外の多施設共同臨床試験や基礎研究の積み重ねにより,乳児ALLの治療成績は徐々に向上してきているが,さらなる向上のためには,今後は新規薬剤などを用いた治療戦略の確立が求められる。そのためには,国際共同研究などによる広い枠組みでの検証が重要であり,現在,日本,米国,欧州で国際共同臨床試験を行う計画が進行している。また,乳児期に侵襲的な治療を行うことによる晩期合併症も問題となっており,質の高い長期生存を目指す努力を行うことが重要である。

造血幹細胞移植
38 (EL2-4D)
  • 森島 聡子
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1324-1330
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    同種造血幹細胞移植においてHLAの一致したドナーが得られず,代替ドナーからの移植を行うためには,HLAのバリアを乗り越えなければならない。日本骨髄バンクを介した移植では,HLA class Iアリルの不適合およびHLA-DRB1とDQB1が同時に不適合の場合に重症急性GVHDと死亡のリスクになる。HLA-DPB1不適合は,生存には影響しないが白血病再発が減少する。HLA-DPB1遺伝子全領域のゲノム解析をすることで,進化学的に高度に保存されたエキソン3から3’UTRの領域が,エキソン2がコードするペプチド結合部位とは異なる機序でGVHDの発症に関連していることが判明した。近年次世代シーケンサーによるHLA遺伝子全領域の多型解析が可能となり,従来のHLAタイピングでは判明しなかった患者とドナーの不適合が移植成績に影響する可能性も示されており,今後新たなHLAの意義が解明されると期待される。

39 (EL2-4E)
  • 井上 雅美
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1331-1336
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    慢性活動性EBV感染症(chronic active EBV infection, CAEBV)はEBV関連T/NKリンパ増殖症の1病型である。CAEBVは積極的治療を行わなければ発症後5年で約半数の症例が死亡する予後不良な疾患である。ステップ1(免疫化学療法),ステップ2(多剤併用化学療法),ステップ3(造血細胞移植)で構成された治療の成績は良好で,造血細胞移植が治癒を期待できる唯一の治療法である。骨髄破壊的前処置(myeloablative conditioning, MAC)と比較すると強度減弱前処置(reduced-intensity conditioning, RIC)による移植成績が良好である。骨髄移植後とさい帯血移植後の生存率は同等でいずれも90%以上である。

40 (EL2-4F)
  • 森 毅彦
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1337-1340
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    同種造血幹細胞移植後には高度な免疫不全から種々の感染症を発症する。細胞性免疫も低下するため,通常の化学療法に比べてウイルス感染症の頻度が高くなる。Cytomegalovirus(CMV)は既感染患者からの再活性化が問題となり,肺炎,胃腸炎,網膜炎などの感染症を発症する。発症後の治療ではなく,発症前に介入することで予後が改善することから,再活性化をとらえて介入する先制治療が行われてきた。最近,骨髄毒性の少ないletermovirが登場したことで,安全かつ効果的な予防が可能となり,さらに移植関連死を減少させる効果も期待されている。しかしletermovirを用いてもbreakthrough感染症が起こり得るため,先制治療体制を併用する必要がある。投薬中止後の再活性化増加にも注意が必要である。本稿では同種造血幹細胞移植後のCMV感染症管理に関する知見を概説する。

免疫・細胞・遺伝子治療
41 (EL2-2D)
  • 赤塚 美樹
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1341-1350
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    世界初の免疫チェックポイント阻害抗体であるiplimumabが転移性悪性黒色腫に対してアメリカ食品医薬品局(FDA)により2011年に承認されてからすでに8年が経過した。この間に複数の免疫チェックポイント阻害剤が開発され,悪性黒色腫を含む数種のがんに対して承認を受けてきたが,問題点も浮かび上がってきた。すなわち単独投与での奏効率が多くのがんで30%を超えないこと,免疫チェックポイント阻害剤2剤併用療法では奏効率は上がるものの免疫関連有害事象も重篤化することである。このため,投与後の臨床検体を用いたリバーストランスレーション研究が精力的になされ,耐性機序や治療効果が期待できる患者を選択できるバイオマーカーが徐々に解明されるとともに,新たな併用療法への開発が進んできた。本稿ではがん免疫の基礎を踏まえつつ,免疫チェックポイント阻害剤耐性機序の解明とその克服に向けた最近の知見を概説する。

42 (EL3-2F)
  • 中沢 洋三
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1351-1357
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    CD19を標的とする自家キメラ抗原受容体(CAR)-T細胞療法は,再発・治療抵抗性のB細胞性腫瘍に対してきわめて効果的で,2019年3月にtisagenlecleucelの日本における製造販売が承認された。同じくCD19を標的とするaxicabtagene ciloleucel,lisocabtagene maraleucel,TBI-1501の治験も開始されており,今後複数のCD19 CAR-T細胞が再生医療等製品として国内で承認される見込みである。B細胞性腫瘍に対しては,第三者ドナーを含む他家CD19 CAR-T細胞の臨床開発も進んでいる。一方,急性骨髄性白血病(AML),T細胞性白血病,多発性骨髄腫などの他の血液腫瘍に対するCAR-T細胞療法はいまだ開発段階にある。筆者らのグループは,GM-CSF受容体(GMR)を標的とするCAR-T細胞を開発し,小児・成人AMLを対象とする治験の準備を進めている。

43 (EL3-4D)
  • 小野寺 雅史
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1358-1365
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    これまでの遺伝子治療は「疾患の治療や予防を目的として遺伝子又は遺伝子を挿入した細胞を人の体内に投与すること」が定義であり,これは変異遺伝子はそのままに機能的な遺伝子を新たに追加する治療法(gene addition)を意味していた。しかし,この方法でも原発性免疫不全症(PID)の多くが単一遺伝病であることから正常遺伝子を患者細胞に付加することで十分な治療効果が期待できる。ただ,現行の遺伝子治療でのベクター挿入による腫瘍化の問題やgain-of-functionが原因となる疾患の対応不足から,今後はゲノム編集技術を応用したgene correctionによる遺伝子治療がその主流となっていく。本稿では,現行の「gene additionによる遺伝子治療」の概要と今後の展開が予想される「gene correctionによる遺伝子治療」に焦点を当てPIDの遺伝子治療について概説する。

研究倫理
44 (EL3-4E)
  • 千葉 滋
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1366-1371
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    利益相反(conflicts of interest, COI)は,当事者の「利益」と第三者に対する「責任」との対立と説明される。COIは避けられないからこそ,管理する必要がある。1980年代から米国で医学研究分野におけるCOIの管理法が議論されはじめた。ゲルシンガー事件後の2000年にヘルシンキ宣言にCOI条項が加えられ,我が国での議論開始はそれ以降である。2013年のディオバン事件を経てCOI管理ガイドラインの改訂が進み,2017年に日本医学会が示したガイドラインが定着しつつある。研究発表や診療ガイドライン作成等の場面でCOIが管理される必要がある。後者ではより厳しくCOI管理規定が設けられている。日本医学会ガイドラインに沿う日本内科学会の共通指針を一部改定する形で,日本血液学会も2018年に共通指針を発表した。特定臨床研究では臨床研究法により,研究責任医師についての基準が定められている。

臨床血液学における共通の課題
45 (EL1-6C)
  • 赤澤 宏
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1372-1377
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    がんの治療成績の向上に伴って,化学療法や放射線治療による心血管合併症が生命予後やQOLを左右する大きな要因となってきている。造血器領域においても,アントラサイクリン系抗がん剤のように心毒性が古くから知られた薬剤に加えて,BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害剤,プロテアソーム阻害剤など分子標的薬による心血管系の副作用が問題となっている。がん化学療法による心血管系への影響は多岐にわたっており,その分子病態は不明な点が多く残されている。今後,腫瘍循環器学(onco-cardiology)の取り組みによって,がん診療科と循環器科との間の連携や協働が,診療や研究,教育へと拡がることが期待されている。

46 (EL2-2C)
  • 藤井 伸治
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1378-1385
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    小児,思春期,若年のがんにおいて,造血器腫瘍の占める割合は多い。治療成績の向上により長期サバイバーのquality of lifeへの関心が高まっている中,治療後の妊孕性低下は重要な問題である。近年,国内外より妊孕性ガイドラインが発表されており,以前に比べて各治療レジメンの妊孕性低下リスクや妊孕性温存療法に関する情報が入手しやすくなった。一方,妊孕性温存に充てる時間が極めて限られる造血器腫瘍において,妊孕性温存療法は実施可能なのか,温存ができた場合に将来挙児が得られる可能性はどれくらいか,などの情報は不足している。さらに,妊孕性低下リスクの不明な新規薬剤を使用する場合には妊孕性温存療法を実施すべきかなど,未解決の問題が多く残されている。

47 (EL3-2D)
  • 安田 貴彦, 堀部 敬三
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1386-1395
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    プレシジョン・メディシン(精密医療)とは主にゲノム情報に基づき患者個人のレベルで,最適な医療を選択・提供することを意味する。死亡原因のトップであるがん領域において,とりわけこのプレシジョン・メディシンの実践が期待されており,2019年本邦でもまもなくがんゲノム医療が幕開けとなる。本稿では造血器腫瘍におけるプレシジョン・メディシンに焦点をあて,その臨床的有用性を概説する。そして,我々が実施した造血器腫瘍のクリニカルシーケンス実行可能性研究を通じて得られた成果・課題を踏まえ,今後の造血器腫瘍プレシジョン・メディシンのあり方を考察する。

48 (EL3-4F)
  • 加藤 元博
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1396-1400
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    近年,学術論文の成果をより広く共有するために,購読料を論文の著者が支払うことで誰もが購読料を必要とせず閲覧可能にする「オープンアクセス」の選択肢を準備する雑誌が増えている。この仕組みを悪用し,論文の掲載にかかる費用を得ることだけを目的とした,低品質の悪質的な学術雑誌が増加している。このような悪徳雑誌は様々な手段をもって科学者に投稿を促し,適切な査読を行わずに投稿された論文を受理する。その結果,高額な費用が請求されるだけでなく,科学者の評価をむしろ低下させることにつながってしまう。悪徳雑誌が疑われるリストや,悪徳雑誌でないことを示すリストも作成されているが,どちらも完全なものではなく,最も有用なのは該当する領域のコミュニティの中での評判と思われる。意図せずに悪徳雑誌に投稿してしまうことをできる限り減らすためには,悪徳雑誌の手口を知ることが必要である。

49 (EL3-6F)
  • 溝上 雅史, 楠本 茂
    2019 年 60 巻 9 号 p. 1401-1407
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/08
    ジャーナル 認証あり

    血液疾患治療中や治療後のウイルス性肝炎は致死的な合併症で殆どがHBV carrierとその既往感染者でのHBVの再活性化により起こる。そこで,HBV再活性化の現在の状況とその病態およびそれに関連するリスク因子としての血液疾患における分子標的薬の関与を示し,それらのリスク因子に基づく現時点でのHBV再活性化予防対策を詳述する。さらに,近年明らかにされたHBV再活性化予防因子としてのHBs抗体価の意義とその高HBs抗体値を誘導する新規宿主因子としてのBTNL2の発見とその意義について述べ,その応用として現在すでに保険収載されているHBワクチンを使用する臨床試験について紹介する。最後に,今後早急に検討すべきresearch questionも明らかにすることで,血液疾患におけるHBV再活性化予防策の確立を目指したい。

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