実臨床におけるB細胞性急性リンパ芽球性白血病に対するキメラ抗原受容体T(CAR-T)細胞製造成否の状況を明らかにするため,tisagenlecleucel(tisa-cel)製造を実施された81症例を解析した。アフェレーシス時年齢中央値は13歳(1~25),男性47例(58.0%),前治療数の中央値4(1~9),同種移植歴とinotuzumab ozogamicin,blinatumomabの使用歴は,それぞれ51例(63.0%),26例(32.1%),37例(45.7%)に認めた。アフェレーシス時末梢血芽球比率,CD3陽性細胞数は中央値0%(0~91.5),611/µl(35~4,210)で,出荷されたCD3陽性細胞数は中央値2.2×109個(0.5~8.3)であった。濃厚な前治療歴のある症例が含まれたが,製造失敗は見られなかった。引き続き製造失敗の状況を注視する必要がある。
後天性血友病Aは第VIII因子に対する自己抗体の産生とそれによる出血症状を呈する重篤な疾患である。近年,後天性血友病における総合的な凝固能評価としてthromboelastography(TEG)の有用性が報告されつつあるが実臨床での報告は少ない。症例は35歳男性。腹部手術後の遷延する腹腔内出血を契機に後天性血友病Aと診断されバイパス止血療法および免疫抑制療法による治療が行われた。経過中に止血コントロールが得られず,バイパス止血製剤の変更を複数回必要とした。出血症状の増悪時にはTEGによるRの延長を認めており,バイパス製剤の変更により改善していた。後天性血友病Aにおける止血能に評価として診療所見による評価だけではなく,TEGによる止血能コントロールが評価できる可能性を示唆する興味深い症例として報告する。
急性骨髄性白血病(AML)は様々な染色体異常,遺伝子異常の蓄積がその病態形成と治療経過に深く関わっている非常に多様性に富んだ疾患である。近年,AMLの分子異常に基づく疾患細分化,それらを標的とする治療法の開発が進められてきた。米国では2017年以降,数多くの新規薬剤が承認され,FLT3阻害薬midostaurinと強力化学療法の併用療法は,予後不良とされてきたFLT3-ITD変異陽性AMLの予後改善をもたらした。現在も,小分子化合物のみならず,AMLに対するCD47,TIM-3を標的とするような抗体療法,二重特異性抗体やCAR-T細胞療法などの新規治療法の開発も進められており,多様な治療方法による新たな治療戦略の構築のためには,AML細胞のみならず腫瘍周囲環境との関わりも含めた難治性AMLの病態解明が必要である。今後,新規薬剤と既存治療との融合によるAMLの治療成績の向上が期待される。
これまで骨髄異形成症候群の予後分類は,染色体異常,芽球数,血球減少を用いた国際予後判定システムもしくはその改訂版(IPSS-R)が用いられていた。TP53,DDX41やSF3B1を含むいくつかの遺伝子異常が予後に関わることが報告されていたが,多くの遺伝子変異が共存する特徴のため体系的なリスク層別化は困難であった。近年,国際的なワーキンググループから3,000症例のMDS患者を対象とした大規模な研究が報告された。遺伝子変異を用いた新たな国際予後分類(IPSS-M)が提唱され,検証をされている。彼らは欠損値を考慮したオープンアクセス型のWebページ(https://mds-risk-model.com/)を公開しており,世界中で使用が開始されている。ゲノムプロファイリングと血液学的および細胞遺伝学的パラメータを組み合わせたIPSS-Mは,MDS患者のリスク層別化を改善し,治療選択を含む臨床意思決定のための貴重なツールになることが期待されている。
慢性骨髄性白血病(CML)は,t(9;22)(q34;q11)により形成されるPhiladelphia(Ph)染色体を特徴とする造血器腫瘍である。Ph染色体上のBCR::ABL1融合遺伝子によってABL1チロシンキナーゼが恒常的に活性化し,白血病細胞の著しい増殖に至る。典型的には臨床症状の乏しい慢性期に診断され,数年以内に急性転化期へと進展して致死的となる。CMLではしばしばBCR::ABL1以外の付加的な遺伝子異常が認められ,クローン進化に重要な役割を果たす。慢性期には約20%の症例がASXL1変異を有する。さらに,急性転化期にはほとんどの症例が付加的遺伝子異常を有し,ASXL1やRUNX1変異などの多数のドライバー異常が認められる。一部の遺伝子変異は,チロシンキナーゼ阻害薬への感受性や患者予後にも影響することが明らかになりつつあり,今後は患者層別化や個別治療への応用が期待される。
血友病は,X染色体連鎖型の先天性出血性疾患である。血友病の治療は,致死的な出血の制御に加え,生活の質に影響を及ぼす合併症である血友病性関節症の発症抑制を目的とした,凝固因子製剤の定期補充療法が基本となっている。しかし,凝固因子製剤の半減期は極めて短いため,小児期からの頻回にわたる静脈内注射は患者にとって負担が大きい。半減期延長型凝固因子製剤は,タンパク質の薬物動態を改善することで治療の負担を軽減させた。一方,凝固因子の補充療法は,治療効果を著しく阻害するインヒビター発生のリスクを抱えたままである。近年開発された非凝固因子製剤は,さらに半減期が長く,皮下投与が可能であり,インヒビターの有無に関わらず出血予防に有効である。また,最近欧米において承認された遺伝子治療は,年単位での血中凝固因子の維持が可能であり,長期にわたり予防的な凝固因子製剤の投与が不要になる根本的な治療となりうる。
VWDは,VWFの量的・質的異常により出血傾向を呈する遺伝性疾患である。重症例や,軽症でも重篤な出血や中大手術施行の際には,VWFを補充せねばならない。日本では長らく血漿由来第VIII因子/VWF複合製剤のみが,実際的な治療選択肢であった。しかし,潜在的な病原体伝播,アレルギー,第VIII因子を含むことによる血栓等のリスクが存在した。それを解決すべく,遺伝子組換えVWF製剤であるvonicog alfaが,日本でも2020年に承認となった。血漿由来製剤と違い,VWF単剤であること,超巨大分子が存在することが特徴である。3つの第3相臨床試験(出血時オンデマンド投与,周術期止血管理,定期投与)により有効性と安全性が確認されている。主な副反応は,嘔気や頭痛等の軽微なものが主であるが,血栓症の可能性があり注意が必要である。自施設でも20歳代の患者2名に使用した経験を持つが,止血機能は良好で重篤な副反応は認めなかった。
ITPの病態は免疫的機序による血小板破壊の亢進と血小板産生の抑制である。血小板破壊はマクロファージにおけるFc受容体を介した血小板貪食の亢進が中心であるが,補体の関与,血小板膜蛋白の脱シアル化などの関与も明らかにされてきている。また血小板貪食および自己抗体産生の分子メカニズムが明らかにされてきたことから,それらの分子を標的とした新規治療薬が続々と開発され,その有効性が示されてきている。特にSyk阻害薬であるfostamatinibはマクロファージとB細胞の活性を抑制し,欧米では既に他剤無効のITP症例に対して承認されている。またCOVID-19ワクチン接種が広く行われるようになり,ITPの新規発症あるいは増悪が注目されている。COVID-19ワクチンがITPの新規発症を誘導するかどうかは不明な点が多いが,一定の割合でITPの増悪をきたす可能性はあり,ワクチン接種に対する注意が必要である。
代謝産物が細胞の分化をどのように制御するのか,最近,その分子学的機序に注目が集まっている。赤血球分化ではヘム合成が大きく亢進し,ヘムはヘモグロビン合成に使われることで成熟赤血球が完成する。この機能分子(ヘモグロビン)形成への寄与に留まらず,ヘムが遺伝子発現制御因子として機能する可能性が明らかになってきた。例えば,ヘムは転写因子BACH1に結合して,これを不活性化することで,BACH1が抑制するグロビン遺伝子群の発現を誘導する。またヘムは,転写因子GATA1の標的の一つであるオートファジー関連遺伝子群の発現を誘導し,ミトコンドリアの除去を促進することで赤血球成熟を促す可能性が明らかとなった。さらに,ヘムはゲノム上のグアニン四量体領域に直接結合し,周辺遺伝子の発現を調節する可能性がある。本稿では,赤血球を中心に鉄ヘム代謝による遺伝子発現制御機構を概説し,今後の鉄ヘム代謝研究を展望する。
多発性骨髄の病態形成や治療抵抗性の獲得には,染色体・ゲノム不安定性を背景とした多数の染色体・ゲノム異常が関与する。なかでも染色体異常に関する情報は,患者毎の予後因子として重要であるのみならず,治療戦略の選択の指標ともなる点で重要であり,日常診療のみならず新規治療開発における評価項目としても不可欠である。近年,われわれは新たな染色体異常の診断技術を開発した。一つはイメージングフローサイトメーターと複数の蛍光プローブを用いて同時に3個のIGH関連染色体転座を検出可能なFISH法(ISM-FISH)である。また,del 1p32(CDKN2C)のような100 kb以下の微小欠失は古典的なFISH法では診断困難だが,微細な蛍光プローブに対する二次抗体を用いた増幅FISH法を開発した。これらの簡便な新規診断法は,ポスト・ゲノム時代においても日常診療において重要な役割を果たすことが期待される。
遺伝子改変型キメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T療法)は,B細胞性腫瘍から骨髄性腫瘍や固形腫瘍への応用が進んでいるものの,その有効性は限定的であり,その基礎的メカニズムの解明と克服に向けて様々な研究が行われている。最近の研究成果から,CAR-T細胞の形質,特に,メモリー機能を有し,投与後も体内で疲弊せずに持続的に増幅するCAR-T細胞形質が,臨床効果と密接に関わっていることが明らかとなった。また,CAR-T細胞の形質は,原料となる末梢血単核球の品質や,製造工程で加わるT細胞刺激によって大きく影響を受けることから,質の高いCAR-T細胞製造法の開発や,CAR-T細胞のメモリー機能を保持し,免疫疲弊を抑制する併用療法の開発研究が注目を浴びている。本稿では,CAR-T細胞の開発とがんに対する臨床応用の現状について概観するとともに,特に,製造プロセスの開発や分子標的薬との併用療法によるCAR-T細胞の有効性向上に対するわれわれの取り組みについて解説する。
CAR-T細胞療法は,今世紀に起こった免疫療法のブレイクスルーの一つであり,大きな注目を集めている。もう一つの免疫療法のブレイクスルーであるチェックポイント抗体療法が,一種類の抗体で様々ながんを治療できるのに対して,CAR-T細胞療法の場合は,がん種ごとに適切ながん特異的標的抗原が必要であり,B細胞性悪性腫瘍以外のがんに対しては今のところ良い標的抗原が見いだせていないのが現状である。我々は最近,がんと正常細胞の間のタンパクの発現量の違いではなく,立体構造や糖鎖修飾など翻訳後変化の違いを標的としたCAR-T細胞の開発に取り組んでいる。その成果の一つは骨髄腫において恒常的に高発現する活性型インテグリンに特異的なCAR-T細胞である。また,最近,CD98hcという広汎に発現する蛋白質に結合するにもかかわらず,骨髄腫特異性を示す抗体を同定し,その特異性がCD98hcのN型糖鎖修飾の変化に起因する可能性を示唆した。