臨床血液
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第86回日本血液学会学術集会 教育講演特集号
造血システム(正常/異常造血の基礎研究)/造血幹細胞
1 (EL1-11-1)
  • 林 嘉宏
    2024 年 65 巻 9 号 p. 865-871
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    加齢と共に発症率の増加がみられるクローン性造血および骨髄系腫瘍は,造血幹細胞・前駆細胞に生じる遺伝子異常に起因して発症する。次世代シークエンス技術の進歩に伴い,疾患発症に関わる多種多様な遺伝子異常が同定され,その全容が明らかになりつつある。しかし,疾患特異性に乏しい多種多様な遺伝子変異が,どのようにして骨髄系腫瘍の発症やクローン性造血の進展につながるのかについての解明は十分にはなされていない。近年,老化や炎症,神経疾患,心疾患,がんなどの様々な病態におけるミトコンドリア異常とその役割が明らかになり,新たな治療標的として注目されている。最近,私たちは,ミトコンドリアの過剰な断片化がMDS病態発症の引き金になることを見出した。本稿では,ミトコンドリアダイナミクス制御に焦点を当て,骨髄系腫瘍およびクローン性造血におけるミトコンドリアの役割について概説する。

2 (EL1-11-2)
  • 石津 綾子
    2024 年 65 巻 9 号 p. 872-877
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    一生涯にわたる恒常的な血球産生には造血幹細胞(hematopoietic stem cell)の維持・増殖・分化が不可欠である。トロンボポエチンは成人期骨髄における造血幹細胞の維持・増殖・分化ととも血小板産生に必要な巨核球の分化・成熟に必須のサイトカインである。近年,再生不良性貧血など造血幹細胞障害をきたす疾患の治療にトロンボポエチン作動薬が用いられている。筆者らはサイトカイン,トロンボポエチンによる造血幹細胞維持・分化機構についてトロンボポエチン遺伝子欠損マウスの解析とトロンボポエチン受容体作動薬の作用機構を研究してきた。本稿ではトロンボポエチンシグナルによる造血幹細胞と造血システムの恒常性の維持に関して解説する。

3 (EL1-11-3)
  • 若橋 宣, 井上 明威, 皆川 健太郎
    2024 年 65 巻 9 号 p. 878-883
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    Transformed follicular lymphoma(TFL)geneは濾胞型リンパ腫からびまん性大細胞型リンパ腫に形質変化を認めた患者さんの染色体異常がもとになり同定された遺伝子であり,さまざまなサイトカイン,ケモカインの制御を独自のRNaseを用いてRNAレベルで発現調節を行う分子である。TFLは四つの分子を持つファミリー(ZC3H12A-DもしくはRegnase1-4)の一つである。TFLは炎症に伴ってその発現が上昇することが分かっており,TFLの欠損は自己免疫疾患マウスの炎症増悪や,リンパ腫モデルマウスのがんに伴う炎症の増悪に大きく関与している。TFLの欠損は炎症やがんのバイオマーカーとなる可能性があり今後の研究の発展が望まれる。TFLをうまくコントロールすることで将来的に自己免疫疾患やがん環境への治療への可能性も示唆される。

赤血球系疾患
4 (EL2-7-4)
  • 鈴木 隆浩
    2024 年 65 巻 9 号 p. 884-891
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    クローン性疾患である骨髄異形成症候群(MDS)と免疫病態が関わる再生不良性貧血(AA)は本来異なる疾患であるが,低リスクMDSの中にはAAと同様に免疫抑制療法(IST)が有効な症例が存在する。このようなMDS症例ではAAと同様の免疫病態が造血不全に関わっていると想定されるが,その特徴として低形成骨髄であって芽球や環状鉄芽球の増加を認めない,微少PNH型血球陽性,骨髄巨核球減少などが知られている。また,このようなMDS症例ではAAとの鑑別がしばしば問題となるが,MDSとAAの診断(形態学的診断)は診断基準に則って骨髄細胞密度と異形成判定をしっかり行うことができれば可能である。低リスクMDSとAAの診断では,基準に従ってしっかり判断し,さらにMDSと診断された症例では,その次に造血不全を引き起こした病態について必ず評価を行い,ISTの適応有無を検討することが大切である。

5 (EL2-7-5)
  • 川本 晋一郎
    2024 年 65 巻 9 号 p. 892-901
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    自己免疫性溶血性貧血(autoimmune hemolytic anemia, AIHA)は自己抗体が赤血球に結合してその寿命を短縮させるが,病態は抗体の種類により全く異なり,同じ病態の中でも病因が異なることがあるためメカニズムを十分に理解して正確に診断をつけないと不適切な治療は貧血が改善しないばかりか致死的合併症や生活の質の低下の原因となる。温式AIHAに対しては副皮質ステロイド薬が第一選択であるが,寒冷凝集素症ではその効果は限定的で,高容量の長期投与は感染症や骨折,血栓塞栓症のリスクを高める。寒冷凝集素症の補体を標的とした新規抗体薬は溶血に対しては有効であるが末梢循環不全の症状に対しては無効である。いずれの病態も高齢者は悪性疾患を合併している可能性を念頭に置く必要がある。本稿ではAIHAの病因,病態について整理し,診断および治療について令和4年に改訂された診療の参照ガイドに沿って概説する。

6 (EL2-7-6)
  • 清水 律子
    2024 年 65 巻 9 号 p. 902-910
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    GATA1,GATA2,GATA3は造血GATA因子と総称される転写因子で,造血細胞の増殖と分化のバランスを司る転写因子ネットワークの中心的な役割を担っている。そのため,造血GATA因子の機能破綻は様々な造血器疾患を引き起こす。赤血球・巨核球分化に重要なGATA1因子の機能異常は,貧血や血小板減少症の原因となるのみならず,赤芽球性白血病や巨核芽急性白血病を引き起こす。造血ヒエラルキーの中でダイナミックに発現変動しているGATA2因子の機能異常は,骨髄球系・リンパ球系の機能障害の原因となるのみならず,骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病,骨髄増殖症候群等の多彩な造血器腫瘍発症に関与する。Tリンパ球分化に重要なGATA3はリンパ球性白血病に関連している。本稿では,GATA転写因子機能異常による造血系疾患を,特に造血器腫瘍に焦点を当てて紹介する。

7 (EL3-7-1)
  • 藤原 亨
    2024 年 65 巻 9 号 p. 911-919
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    鉄芽球性貧血は,ミトコンドリアでの鉄の異常蓄積を反映した環状鉄芽球の出現を特徴とする貧血の一種であり,先天性と後天性の様々な病態を含んでいる。先天性鉄芽球性貧血は,ミトコンドリアにおけるヘム生合成,鉄硫黄クラスター代謝およびミトコンドリアでの蛋白質合成に関わる遺伝子群の変異により発症する。この中で最も高頻度なのは,赤血球型δ-アミノレブリン酸合成酵素(erythroid-specific δ-aminolevulinate synthase, ALAS2)遺伝子の変異に伴うX連鎖性鉄芽球性貧血(X-linked sideroblastic anemia, XLSA)である。後天性鉄芽球性貧血は,骨髄異形成症候群に伴う特発性と,特定の薬剤,アルコール常用,銅欠乏などに伴う二次性に細分される。鉄芽球性貧血全体としては,特発性が先天性や二次性よりも圧倒的に多い。本稿では,鉄芽球性貧血の各病態について解説する。

8 (EL3-11-3)
  • 玉井 佳子
    2024 年 65 巻 9 号 p. 920-927
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    血液製剤はヒトの血液を原料として製造される特定生物由来製品である。献血ドナーの善意で供与される血液から製造される輸血用血液製剤は,現在のところ国内自給が達成されているが,将来的にも万全の体制であるとは言い難い。輸血療法は,あくまでも患者の症状を緩和させる補充療法であり,患者の転帰を悪化させることがあってはならない。輸血療法もエビデンスに基づいて行われるべきであり,日本輸血・細胞治療学会が「科学的根拠に基づいた輸血ガイドライン」を作成し,適正使用を呼び掛けている。本ガイドラインで用いられているトリガー値輸血は輸血の適応を考えるうえで有効であるが,各患者の病態,症状の強さ,併存疾患等を勘案して,総合的に輸血の必要性を判断する。血液製剤を頻繁に使用する臨床医は,血液製剤が有するリスクを十分に認識し,より安全で適正な使用を推進する必要がある。

骨髄系腫瘍:AML
9 (EL1-6-4)
  • 盛武 浩
    2024 年 65 巻 9 号 p. 928-936
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    急性骨髄性白血病(AML)は小児白血病の25%を占め,年間150例程度が発症する。ダウン症関連骨髄性白血病(ML-DS),急性前骨髄球性白血病(APL),その他をde novo AMLとして3群に分けて治療を行う。ML-DSは低用量化学療法にもかかわらず,80%以上の無病生存という良好な治療成績が担保される一方,再発すると造血細胞移植を施行しても救命が難しい点が課題である。APLは全トランスレチノイン酸と三酸化ヒ素併用により完治が望める疾患となった。De novo AMLは10%が寛解導入不能,また一旦寛解が得られても約30%が再発する。今回の総説では小児AMLを3群に分けて,日本の治療歴史を振り返りながら解説する。最後にde novo AMLの再発・難治例に期待できる新規薬剤を紹介したい。

10 (EL1-6-5)
  • 押川 学
    2024 年 65 巻 9 号 p. 937-944
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    AML治療は伝統的に強力化学療法により寛解導入を図り,地固め療法で出来る限り腫瘍量を減らし,予後不良群ではさらに同種移植を行うことで治癒を目指すことが目標であった。しかし,高齢者や合併症を有するAML患者では強力化学療法による治療効果よりも毒性が上回る結果になることも少なくない。メチル化阻害薬やvenetoclaxなどの低強度化学療法が高齢者に対する有力な治療選択肢に踊り出た現在,患者の年齢や合併症などを考慮して治療法を選択することが今まで以上に重要になっている。最近提唱されたcomorbidityを加味したAMLのリスク分類では,強力化学療法だけでなく,低強度化学療法受けた患者群においても予後の層別化が可能になっている。このようなリスク分類に基づく治療強度の最適化により,治療効果と安全性を両立させ,最終的にAMLの生命予後が改善されることが期待される。

11 (EL1-6-1)
  • 石川 裕一
    2024 年 65 巻 9 号 p. 945-953
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    FLT3遺伝子変異は成人急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia, AML)の約30%程度と最も高頻度に認められる遺伝子異常である。FLT3-ITD変異はAMLにおける予後不良因子とされ,若年者では第一寛解期での同種造血幹細胞移植の実施が推奨されてきた。近年,FLT3阻害薬の臨床応用により,FLT3変異陽性AMLの予後の改善が報告されている。日本でも再発・難治例に対するgilteritinib,quizartinibの単剤で使用に加えて,2023年には未治療FLT3-ITD変異陽性AMLを対象にquizartinib併用強力化学療法が承認された。また,FLT3変異を標的とする微小残存病変評価の有用性,同種移植後の維持療法の有効性も報告されているが,一方で治療耐性に関わる新たな遺伝子変異の獲得も報告されている。このようにFLT3遺伝子変異はAMLにおける予後因子としてのみではなく,治療標的,治療反応性評価においても活用され,FLT3阻害薬による新たな治療戦略の構築によるFLT3変異陽性AMLの更なる治療成績の改善が期待される。

12 (EL1-6-2)
  • 正本 庸介
    2024 年 65 巻 9 号 p. 954-960
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    EVI1はMECOM遺伝子座にコードされる亜鉛フィンガー型転写因子で,造血幹細胞の発生・維持に必須だが,骨髄系腫瘍における高発現は化学療法抵抗性,不良な転帰と関連する。MECOM遺伝子座は,異なる作用を有し独立して制御される複数のアイソフォームをコードし,その産物のうちEVI1は様々なドメインを介して多彩な転写因子・エピジェネティック因子と相互作用し,転写活性化・抑制,他の転写因子の活性制御,クロマチンリモデリングを含む多様な機序によって,細胞の生存・分化・増殖といった挙動を調節する。3q26転座によって骨髄系の発生に関与する遺伝子のエンハンサーがハイジャックされることでEVI1高発現につながる機序は解明されつつあるが,染色体転座のない例や正常造血におけるEVI1の発現制御には不明な点が多い。EVI1の発現制御機構,作用機構の理解に基づく,EVI1標的治療の開発が期待されている。

13 (EL1-6-6)
  • 田部 陽子
    2024 年 65 巻 9 号 p. 961-966
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    近年,急性骨髄性白血病(AML)に特徴的なミトコンドリア代謝依存性が特定され,代謝酵素がAMLの遺伝子発現を調節し,細胞分化と幹細胞性を制御することが実証された。これらのミトコンドリア代謝適応は,根本的なゲノム異常とは無関係に発生し,化学療法抵抗性や再発に寄与する。一方で,ミトコンドリアの変化はAML細胞の代謝脆弱性にもつながる。AML細胞に特徴的な代謝特性には,酸化的リン酸化(oxidative phosphorylation, OXPHOS)への依存性,脂肪酸代謝の役割,活性酸素種(reactive oxygenspecies, ROS)の生成,ミトコンドリア動態変化,等が含まれる。現在,AML細胞や白血病幹細胞(leukemic stem cell, LSC)のミトコンドリア特性について,代謝,シグナル伝達,ミトコンドリア呼吸,ROS,マイトファジーなどに着目した研究が行われている。また,臨床試験においてもミトコンドリアを標的とする薬剤の有望な結果が示されている。本稿では,最近のミトコンドリア関連分子や代謝経路を標的とする薬剤の有用性に関して臨床前研究,臨床試験の知見や既存の化学療法との組み合わせ効果を含めて概説する。

骨髄系腫瘍:CML,MPN,MDSなど
14 (EL1-6-3)
  • 糸永 英弘
    2024 年 65 巻 9 号 p. 967-975
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    BCR::ABL1陰性の非定型慢性骨髄性白血病(aCML)は,骨髄異形成/骨髄増殖性腫瘍(MDS/MPN)の分類される希少疾患である。遺伝子異常のプロファイリングが進むことでほかのMDS/MPNの異同が明らかになるとともに,診断基準に変遷が認められる。DNAメチル化阻害薬やチロシンキナーゼ阻害薬の治療効果が期待されるものの,治療効果を裏付ける臨床的根拠は絶対的に不足している。ほかのMDS/MPNと同じように,aCMLに対して長期寛解をもたらしうる治療法は同種造血幹細胞移植(以下,同種移植)のみと考えられている。比較的少数例での報告ではあるが本邦および欧州からの後方視的解析により,aCMLに対する同種移植成績が明らかになりつつある。本稿はaCMLに対する病態と治療法の開発の現況とともに,同種移植についての知見を概説する。

15 (EL3-11-1)
  • —Up to Date 2024—
    南 陽介, 吉丸 崚
    2024 年 65 巻 9 号 p. 976-981
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    慢性骨髄性白血病(CML)はチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)やSTAMP阻害薬の登場により多くの症例で長期間にわたって奏効が維持できるようになったが,TKI治療の長期化に伴う有害事象が課題となっている。一部は患者の生命予後に大きな影響を及ぼしうることから,適切な有害事象マネジメントが治療成功の鍵を握っている。またかつてのCMLの治療目標は急性転化への移行の阻止であったが,多くの症例で深い寛解と長期生存が得られるようになった現在では,治療の目標は長期間のtreatment free remission(TFR)を達成することに変化している。疾患リスクや,患者背景,各薬剤の有害事象を十分に考慮したうえで適切な治療薬を選択することが肝要である。本稿では造血器腫瘍ガイドライン2023年版に記載されている慢性期CML(CML-CP)治療に関して,初発CML-CPに対する治療選択,ponatinibの用量適正化,新規CML治療薬であるasciminibの治療成績,TFRを中心に概説する。

16 (EL3-11-2)
  • 前田 智也
    2024 年 65 巻 9 号 p. 982-994
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes, MDS)は,リスク分類によって治療や管理方法は大きく異なる。高リスクMDSの同種移植と移植非適応例における低メチル化剤が標準治療となって約20年が経過したが,現在も重要な治療法であることに変わりはない。2022年にMDSは従来の形態学での診断分類から遺伝子異常に基づく分類へと大きく変わり,海外では遺伝子変異に基づく治療方針決定が既に実用化されている。2023年には精度を高める目的で治療効果判定基準も改訂された。一方,低リスクMDSにおいてはその発症や病態進展と慢性炎症との関係が注目されている。TGFβ経路を標的とした抗貧血薬のluspaterceptが本邦でも実臨床で使用可能となった。現在,IL-1βやCD33,TLR,IRAK4,p38MAPKなど自然免疫/炎症の経路に関わる分子を標的とした多くの新規薬剤の開発が進められている。

リンパ系腫瘍:ALL,悪性リンパ腫
17 (EL3-6-1)
  • 宮崎 香奈
    2024 年 65 巻 9 号 p. 995-1003
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma, DLBCL)は全悪性リンパ腫の約40%を占める最大病型である。分子遺伝学的研究により,その疾患発症機構や予後不良性の原因が明らかにされるとともに,この基礎的研究を基盤として,関連シグナル伝達経路の分子・細胞抗原,もしくはエピゲノムに関わる酵素を標的とした新しい分子標的療法が開発されてきた。初発DLBCL,国際予後指標因子2点以上の患者に対しては,R-CHOP療法のvincristineを除きpolatuzumab vedotinを加えた併用療法の有効性が報告され,標準治療の一つに加わった。またCD19-CAR-T療法やepcoritamab, mosunetuzumab, glofitamabなど二重特異性抗体療法を用いた細胞療法が再発難治に対する治療法に加わり,まさにDLBCL治療のパラダイムシフトが起こっている。本稿ではDLBCLの治療開発の変遷と現時点の標準治療について述べ,今後臨床導入が期待される新規治療薬を加えた治療法の臨床試験結果を含め概説する。

18 (EL3-6-2)
  • 丸山 大
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1004-1011
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma, FL)の予後は,rituximabなどの抗CD20モノクローナル抗体の導入によって改善され,全生存期間の中央値は15~20年に達している。しかし,FLは現時点でも治癒困難な疾患である。限局期患者に関しては放射線療法が一般的に選択され,生存期間中央値は約20年におよぶ。進行期低腫瘍量患者では,現時点でも無治療経過観察が標準的な治療選択として妥当である。進行期高腫瘍量患者の場合,rituximabまたはobinutuzumabを含む導入化学療法と維持療法が標準治療である。再発または難治性患者の場合,免疫化学療法,lenalidomide+rituximab,tazemetostat,キメラ抗原受容体T細胞療法,CD3/CD20二重特異性抗体などの治療選択肢が既に施行可能か,現在開発中である。本レビューではFLにおける標準治療,最近の進歩,および将来の展望を概説する。

19 (EL3-6-3)
  • 福原 傑
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1012-1018
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    マントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma, MCL)は本邦ではまれなリンパ系悪性腫瘍である。難治性で予後不良な疾患であるが,自家移植やBTK阻害薬の登場により徐々にその予後は改善している。近年ではBTK阻害薬を一次治療に組み込む治療戦略が検討されており,さらなる予後の改善が期待される。一方で,p53異常(TP53遺伝子変異あるいは欠失),blastoid variant,MIPI-c高リスク,POD24など予後不良な集団が存在することが明らかとなり,BTK阻害薬を含む従来の治療に抵抗性であることがわかってきた。それらを克服するためにCAR-T療法やBTK阻害薬とBCL2阻害薬の併用療法などの新規治療法の開発が進められており,我が国においても近い将来の臨床導入が予想される。現在MCLの治療は劇的に変わりつつあり,本邦における今後のMCLの治療について考える。

20 (EL3-7-3)
  • 古屋 淳史, 木暮 泰寛, 片岡 圭亮
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1019-1024
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    成人T細胞白血病リンパ腫(adult T-cell leukemia/lymphoma, ATLL)はhuman T-cell leukemia virus type-1(HTLV-1)感染を原因とする難治性の末梢性T細胞腫瘍である。ATLLの発症にはHTLV-1由来のウイルスタンパク質であるTaxやHBZとともに,体細胞遺伝子異常の蓄積が重要な役割を果たしており,特にT細胞受容体/NF-κB経路や免疫関連分子の変異が特徴的であり,予後にも関連している。近年では,単一細胞解析によってHTLV-1感染前腫瘍細胞の表現型やATLL細胞や免疫微小環境における不均一性も明らかになっている。本総説では,こうしたゲノム,エピゲノム,遺伝子発現研究における最近の進歩に焦点を当ててATLL分子病態を概説する。これらの知見は,病態理解を深めるだけでなく,診断や治療戦略にも重要な示唆を与えるものである。

21 (EL2-11-6)
  • 多田 雄真
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1025-1032
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    この数十年間で造血器疾患の予後は改善傾向にあり,サバイバーシップ向上の一助として患者の挙児希望を叶えるための対策が必要とされている。本邦においても日本・がん生殖医療学会を中心にガイドラインや全国レジストリ,全国一律の助成金制度の整備が進んできた。造血器疾患患者の妊孕性温存を考える際には,罹患から治療開始までの時間的猶予の短さや妊孕性温存治療に伴う出血や卵巣過剰刺激症候群などの合併症,採取した組織への造血器腫瘍の混入など造血器疾患特有の問題に対して,がん治療側とがん・生殖医療側の学際的連携が必要となる。本稿では造血器疾患患者における妊孕性温存の基本的な考え方,近年エビデンスが蓄積されてきた慢性骨髄性白血病の女性における挙児戦略について概説する。また妊孕性温存の実施にさまざまな困難さを抱える患者において,実臨床で検討しうる姑息的な治療選択肢についても広く紹介したい。

リンパ系腫瘍:多発性骨髄腫など
22 (EL1-7-1)
  • 大和田 千桂子
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1033-1041
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    POEMS症候群は多発神経炎による末梢神経障害,臓器腫大,体液貯留,皮膚症状,骨硬化性病変,λ型Mタンパク血症などを呈する多発性骨髄腫類縁疾患である。モノクローナルな形質細胞を発端とした血管内皮増殖因子(VEGF)の異常高値が病態に関わるが,POEMS症候群における形質細胞の遺伝子プロファイルは骨髄腫と異なっており,詳細な病態は未解明である。POEMS症候群は慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)との鑑別に難渋するため,Mタンパク・VEGF上昇・胸腹水・骨硬化病変などの特徴的症候を見逃さないことが大切である。治療はthalidomide・lenalidomide・bortezomibなどの骨髄腫に対する新規薬剤が有用であり,若年者にはこれらの薬剤による寛解導入の後にmelphalan大量による自家移植が標準治療とされる。近年は長期観察により再発例も増えており,これらへの治療戦略が今後の課題である。

23 (EL1-7-2)
  • 吉原 哲
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1042-1048
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫に対する治療についてはこれまで免疫調節薬(IMiDs),プロテアソーム阻害薬(PI),抗CD38モノクローナル抗体が三本柱であったが,骨髄腫細胞に発現するB細胞成熟抗原(BCMA)を標的としたキメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T)および二重特異性抗体が臨床導入され,四本目の柱となった。本邦ではBCMA標的CAR-Tとしてidecabtagene vicleucel(ide-cel)とciltacabtagene autoleucelが承認されているが,現時点において実臨床で使用可能なのはide-celのみである。Ide-celは,IMiDs,PI,抗CD38抗体を含む2ライン以上の前治療歴を有する再発・難治性多発性骨髄腫に対して3次治療としての適応を有している。CAR-T細胞療法を最適化するためには患者紹介のタイミング,ブリッジング治療,CAR-T後の長期フォローアップなど,紹介元と治療施設の連携が極めて重要である。

24 (EL1-7-3)
  • 湯田 淳一朗
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1049-1057
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    3クラスの治療薬に治療抵抗性を示す難治性多発性骨髄腫(triple-class refractory)患者の予後不良であった。近年,B-cell maturation antigen(BCMA),G protein-coupled receptor 5D(GPRC5D),Fc receptor-homolog 5(FcRH5)を標的とする二特異的T細胞抗体(bispecific antibody, BsAb)が,triple-class refractory患者において顕著な臨床活性を示すことが示された。しかし,BsAbに対する反応は普遍的ではなく,しばしば治療中に耐性が出現する。耐性を媒介するメカニズムは,腫瘍内因性または免疫依存性である。腫瘍内因性因子には,標的遺伝子の欠失または変異による抗原消失(両アレル性または機能性),(BCMA標的bsAbの場合)可溶性BCMAの増加,高腫瘍量,および髄外病変がある。免疫介在性耐性は,T細胞適応度および耐性免疫環境に大きく依存する。本稿では現在開発中の多発性骨髄腫に対する二重特異性抗体を解説する。

25 (EL2-7-1)
  • 石橋 真理子
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1058-1065
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫の現在の治療は,骨髄腫細胞だけでなく,それを取り巻く免疫微小環境を標的とした免疫治療の併用が行われている。新規免疫治療薬の登場により,生命予後は大きく改善し長期奏効が可能となった症例がいる一方で,再発を繰り返し死に至たる症例も存在するのが現状である。この要因としては,骨髄腫細胞の細胞遺伝学的な異常だけでなく,それを取り巻く免疫微小環境の影響が強いとされている。様々な研究から,骨髄腫の免疫微小環境の抑制に関する知見は集積されつつある。また,scRNA-seqやCyTOFの解析から,骨髄内の骨髄腫細胞と免疫細胞の空間的時間的な関係が明らかになってきている。これら研究から骨髄腫では病態形成の早い段階から免疫抑制環境が形成され,病勢進行とともに抑制状態の度合いが色濃くなり,最終的に治療抵抗性となる。長期完全奏効・治癒を目指した治療戦略には,病勢進行に伴う免疫微小環境の状態を理解することが重要である。

26 (EL2-7-2)
  • 伊藤 勇太, 木暮 泰寛, 片岡 圭亮
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1066-1074
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    多発性骨髄腫(MM)は形質細胞に由来する難治性の造血器腫瘍である。近年,次世代シーケンス技術の進歩に伴ってMMの大規模な遺伝子解析研究が複数行われ,それまで知られていたIGH関連転座や高2倍体に加えてMAPK,NF-κB,細胞周期制御,エピゲノム調節経路に変異が繰り返し認められることが明らかになった。また,遺伝子異常の個数やTP53の両アレル異常の予後への影響が報告され,一方,再発・治療抵抗性メカニズムに関連した遺伝子異常も報告されている。このような中で,我々は循環腫瘍DNA(ctDNA)を用いた再発・難治MMの解析を施行し,遺伝子変異の全体像を明らかにした。ドライバーとしてはTP53変異を最も高頻度(21.6%)に認め,KRASTP53を含む6つの遺伝子変異が無増悪生存率の不良因子であることが判明した。また,ctDNA変異数はIGH関連転座や臨床因子と独立な予後因子であり,これに基づいた新たな予後予測モデル(ctRRMM-PI)を作成した。今後,これらを基盤とした治療戦略の最適化を通じてMMの予後改善が期待される。

27 (EL2-7-3)
  • —がんおよびウイルス感染症への応用—
    河本 宏, 川瀬 孝和, 永野 誠治
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1075-1086
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    がん免疫療法の領域では,患者由来のT細胞を体外で遺伝子改変して患者に投与する方法の有効性が示されている。しかし,この方法ではコストや時間がかかる,品質が不安定などの問題も残されている。これらの障壁を乗り越えるために,iPS細胞技術を用いてT細胞を再生する戦略が,複数のグループによって進められている。筆者らは,特定のTCR遺伝子をiPS細胞に導入し,そのiPS細胞からT細胞を作製する方法(TCR-iPS細胞法)の開発を進めてきた。iPS細胞としては,汎用性が高いHLA型を有する株を用いる。固形がんへの応用を目指した研究では,WT1抗原陽性腎細胞がんの患者組織異種移植モデルで,再生T細胞による治療効果を確認した。他のグループによる様々な種類のT細胞をiPS細胞から再生する戦略も紹介する。

血栓/止血/血管
28 (EL1-7-4)
  • 野上 恵嗣
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1087-1093
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    血友病医療において,血液凝固第VIII(IX)因子製剤の補充療法の進歩は,血友病性関節症発症を抑制させ,血友病患者のQOL向上に大きく貢献させた。しかし,製剤の頻回の静脈投与とblood access,同種抗体(インヒビター)出現は重要な課題であった。これらの克服を目指し,本邦もインヒビター発生要因に関する多施設共同研究などの臨床研究も実施されてきた。製剤開発では,半減期延長型製剤や非凝固因子治療薬が相次いで登場してきた。特に,抗第IX因子/第X因子バイスペシフィック抗体は皮下投与で長い半減期を有し,血友病A患者に出血抑制効果を示す。‘Rebalance coagulation’機序の抗アンチトロンビン製剤と抗TFPI抗体製剤も開発された。また,ベクター改良やコドン最適化により止血治療域までの蛋白発現が可能となった遺伝子治療は欧米では成人に対して承認されている。血友病医療の最近の著しい発展は,長年の課題を克服させ,さらなるQOL向上が期待される。

29 (EL1-7-5)
  • 関 義信
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1094-1100
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation, DIC)はさまざまな基礎疾患の存在下に獲得された,局所制御あるいは代償制御を外れた全身性の血管内凝固活性をきたしたものと定義される致死的な病態の1つである。わが国では広くその病態と診断,治療法は認知されているが,臨床医によりそのとらえ方は十人十色であり標準化が困難である。グローバルに目を向けてみてもさらにとらえ方の違いは大きい。これらが研修医や初学者にとってDICに関する標準的な日常臨床を困難にしていると考えられる。今回われわれは時代の要請に応え,基礎疾患ごとのDIC診療ガイドライン(仮称)を作成中である。これは世界にも類を見ない作業プロジェクトであると思われる。過去の国内外のガイドラインの状況を含めて概説する。

30 (EL2-11-4)
  • 柏木 浩和
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1101-1105
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    副腎皮質ステロイド無効ITP症例に対するセカンドライン治療として,本邦では2種類のトロンボポエチン受容体作動薬(eltrombopag,romiplostim),rituximabあるいは脾臓摘出術が推奨されてきたが,2023年にSyk阻害薬であるfostamatinib,2024年にはFcRn阻害薬であるefgartigimodが保険適用となった。さらに新たなトロンボポエチン受容体作動薬であるavatrombopag,BTK阻害薬であるrilzabrutinib,C1s阻害薬であるsutimlimabも臨床治験において有望な結果が報告されてきており,ITP治療は新たな時代に入りつつある。

31 (EL2-11-5)
  • 井上 克枝
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1106-1115
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    抗血小板薬は,抗凝固薬と異なり,良いモニタリング法がなく,モニタリングは不要とされている。標準的な血小板機能検査である血小板凝集能検査は,キュベット内の血小板に血小板活性化剤を加えて凝集を測定する,いわば血小板のポテンシャルを見る検査であり,実際の生体内での血小板活性化程度を知ることはできない。生体内血小板活性化マーカーは,保険収載の検査もあるが,特別な採血法が必要であり,普及していない。私達は血小板活性化受容体C-type lectin-like receptor 2(CLEC-2)を同定し,血小板活性化に伴って,CLEC-2が切断される等して遊離することを見出した。血中soluble CLEC-2(sCLEC-2)測定系を構築し,生体内血小板活性化マーカーとすることを試みた。sCLEC-2は様々な血栓性疾患で上昇することが報告され,脳梗塞の診断や病型分類,予後予測マーカーとしての有効性を検討する臨床性能試験CLECSTRO研究が行われている。

32 (EL3-7-4)
  • 安本 篤史
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1116-1124
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    Heparin起因性血小板減少症(HIT)はheparin曝露後に血小板減少とともに血栓症を発症する疾患として広く知られていた。また,コロナ禍にアデノウイルスベクターワクチン接種後にワクチン起因性免疫性血栓性血小板減少症(VITT)という出血と血栓が併発する致死性の病態が報告された。それぞれHIT抗体,抗PF4抗体が原因であるがともにPF4を認識する自己抗体であり,重症度が異なる同じ病態であることが判明した。近年,抗PF4抗体が原因となる病態が多く報告され,抗PF4抗体疾患という新しい概念が生まれた。抗PF4抗体疾患の原因は多岐にわたることから特定困難の場合も多く,原因不明の血小板減少や奇異な部位の血栓症を認めた際は抗PF4抗体を測定し,早期治療介入ができるかで予後が大きく分かれる。抗PF4抗体疾患の分類について習熟し,必要な検査を的確に選ぶことで見逃さないようにしていかないといけない。

33 (EL1-7-6)
  • —サブクラス分類の課題と可能性—
    工藤 大介, 久志本 成樹
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1125-1130
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    敗血症は,感染症に対する生体反応が調節不能な状態となり,重篤な臓器障害が引き起こされる状態であり,いまだに死亡率が高く,世界的な課題である。敗血症に対して,多くの無作為化比較試験が行われてきたが,有効性が確立された治療はない。その原因は,様々な病態の集合が敗血症と診断される,つまり敗血症の異質性の高さだと考えられている。これに対して近年,機械学習法を用いたサブクラス分類の研究が進められている。これまで,異なる種類の変数を用いた各々の研究から,重症度や死亡率などの似た特徴を持ったサブクラスが示された。我々は,播種性血管内凝固を伴う敗血症には凝固異常の特徴を持ったサブクラスがあり,特異的治療は4つのうち1つのサブクラスでのみ転帰改善と関係することを示し,さらにサブクラス分類を前向きに推定するためのモデルを開発した。一方,いずれの分類にも共通性がないことが示され臨床での使用に至っておらず,病態との関連が強く再現性があるサブクラスの同定が求められている。

造血幹細胞移植
34 (EL2-6-1)
  • —克服すべき合併症—
    藥師神 公和
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1131-1139
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    肝類洞閉塞症候群(sinusoidal obstruction syndrome, SOS)/肝中心静脈閉塞症(veno-occlusive disease, VOD)は致命的となりうる肝合併症の一つとして有名である。今までいくつかの臨床診断基準が提唱されてきた。治療薬として唯一承認されているdefibrotideはSOS/VODの診断がついてから2日以内に投与すべき薬剤であり,いかに早くSOS/VOD診断をするかが重要である。最近になり,早期診断を目指したEBMT 2023基準が提案され,超音波診断法としてHokUS-10が注目されている。近年,SOS/VODの発症頻度は減ってきているとはいえ,致命的となり得ることから,克服すべき合併症の一つであるのは事実であり,早期診断,早期治療を目指すことが重要である。そしてその実践のためには,多職種の連携,チーム医療が不可欠である。

35 (EL2-6-2)
  • 早瀬 英子
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1140-1147
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    腸内細菌叢は同種造血幹細胞移植の重要な予後規定因子の一つであり,腸内細菌叢の多様性低下は全生存率の低下や移植関連死亡の増加,急性移植片対宿主病(GVHD)の発症に繋がる。同種造血幹細胞移植において腸内細菌叢を変化させる主要な因子は広域スペクトラム抗菌薬と腸管GVHDである。広域スペクトラム抗菌薬は共生腸内細菌を減少させ免疫調節障害や腸管上皮の再生障害を誘導し,ムチン分解能を有するムチン分解菌を活性化させ大腸のバリア機能を破綻させる。腸管GVHDは腸管内に分泌される抗菌ペプチドの減少と腸管上皮のミトコンドリア機能障害を引き起こし,さらなる腸内細菌叢の異常をもたらす。様々な腸内細菌叢治療の有効性が臨床試験等で検討されている。腸内細菌叢の保護は腸管免疫反応の制御や腸上皮再生の促進および腸内細菌由来の有益な代謝産物の産生を介して同種造血幹細胞移植の安全性と有効性をさらに向上させる可能性がある。

36 (EL2-6-3)
  • 松岡 賢市
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1148-1154
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    慢性移植片対宿主病は,同種造血細胞移植の最も重要な長期合併症であるが,この分野では過去10年間に著しい変化が見られた。慢性GVHDの診断と評価に関する客観的基準の策定と,発症への生物学的経路の理解における進歩を背景に,新規薬剤の開発が着実に進捗している。このパラダイムシフトにより,慢性GVHD診療は,ステロイドへの曝露を最小化しつつ必要十分な患者個別的な標的治療を目指す方向性へ大きく転換しつつある。個々の患者の病態に応じて様々な新規薬剤を導入することで,発症予防,病態進行抑制,運動・作業機能の維持の各段階の診療を向上させ,生活の質と全生存期間の改善を達成することが期待される。本稿では,まず慢性GVHDの病態について概説し,最近承認された薬剤や開発中の有望な薬剤とともに,慢性GVHD診療の展望を議論したい。

免疫/細胞/遺伝子治療
37 (EL2-6-5)
  • 北脇 年雄
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1155-1163
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    キメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor, CAR)T細胞療法は,B細胞腫瘍および多発性骨髄腫に対する革新的な治療法であり,再発・難治性患者における重要な治療法の1つとして欠かせないものとなっている。CAR-T細胞療法は患者自身のT細胞をもとにCAR-T細胞を製造する治療であることから,さまざまな特徴が存在する。一度しかできないCAR-T細胞療法から最大限の治療効果を得るためには,CAR-T細胞療法の流れおよび特徴を十分に理解し,CAR-T細胞療法の前後の治療を含め,治療シークエンスを全体的に最適化することが重要である。また,治療を提供できる施設が限られていることから,施設間の連携も重要である。本教育講演では,成人におけるCAR-T細胞療法の実際として,特にB細胞リンパ腫,多発性骨髄腫に対するCAR-T細胞療法を行う際に理解しておくべき事項について解説する。

38 (EL2-6-6)
  • 今井 千速
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1164-1173
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    市販のCD19標的CAR-T細胞製剤であるtisagenlecleucelは再発・難治性のB細胞性急性リンパ性白血病(B-ALL)の治療を劇的に変化させた。Tisagenlecleucel輸注においては,殺細胞性抗がん剤にはない特徴的な急性有害事象としてサイトカイン放出症候群,神経毒性,血球貪食性リンパ組織球症,遷延性血球減少などが知られている。また,近年の後方視的解析により予後に影響するCAR-T細胞輸注前の因子として高腫瘍量(骨髄白血病細胞比率≥5%)や,同じくCD19を標的とするblinatumomabへの不応などが知られている。治療担当施設だけでなく依頼施設側においても,本療法の適応と限界,特徴的な急性期合併症,予後に影響する治療前因子,晩期合併症等について十分な理解が必要である。本稿では小児・思春期B-ALL患者に対するtisagenlecleucelの使用に関する現時点での理解について概説する。

39 (EL3-6-4)
  • 内田 直也
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1174-1178
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    造血幹細胞を標的とした遺伝子治療はさまざまな遺伝性血液疾患の有望な治療法であり,その有効性は近年の臨床試験で証明されつつある。造血幹細胞は自己複製能と造血系多分化能を持ち生涯を通じて血液を構成するため,造血幹細胞の病的変異・欠損を修復することにより一度の治療で生涯にわたって治癒させることが可能となる。患者造血幹細胞に対する遺伝子治療はレンチウイルスベクターによる遺伝子付加や遺伝子編集によって開発されており,適合ドナーが必要ないためほとんどの患者に適用可能である。現在の遺伝子治療は,患者自身の造血幹細胞を採取して体外で遺伝子改変を行った後に患者へ自家移植する体外法であるが,その過程が複雑で治療費も高額となるため,遺伝子治療が広まる妨げとなっている。そのため,体外培養を行うことなく遺伝子治療ツールを患者に直接投与するin vivo造血幹細胞遺伝子治療の開発が進められている。

40 (EL3-6-5)
  • 髙木 正稔, 西村 聡
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1179-1189
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    骨髄/ナチュラルキラー(NK)前駆細胞急性白血病(MNKPL)は,臨床的表現型と免疫表現型から独立した一つの白血病として提唱された。しかし希少性,地域性,明確な分子的特徴が欠如しているため,国際的なコンセンサスが得られていなかった。そこで疫学的な情報取集,分子生物学的な解析を行った。MNKPLは急性骨髄性白血病,T細胞性急性リンパ性白血病,混合表現型急性白血病とは区別され,NOTCH1RUNX3の活性化およびBCL11Bの発現低下が特徴であった。NK細胞は古典的にリンパ系由来であるとされてきたが,単一細胞解析からNK細胞と骨髄系細胞に共通する前駆細胞由来であることが明らかとなった。後方視的観察からMNKPLの予後は不良であったが,分子生物学的にアスパラギン合成酵素の発現の低下によるL-asparaginaseに対する高感受性があり,臨床的なL-asparaginaseの有効性が支持された。

41 (EL3-7-5)
  • 山本 千裕
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1190-1198
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    近年の治療の進歩により,従来難治であった造血器腫瘍の予後は向上したが,治療薬の高額化による医療費の増大は喫緊の課題である。費用対効果分析においては,その医薬品の使用により生じた増分費用を質調整生存年(QALY)の増分で除した増分費用対効果比(ICER)をwillingness-to-pay(WTP)閾値と比較することが必要である。また,評価は十分に長い時間軸で行うべきであるため,現時点で未知である臨床試験の長期成績をモデル化して外挿し,長期間の積算費用とQALYを算出する必要がある。本稿では慢性骨髄性白血病,多発性骨髄腫,そして近年急速に使用が増加している超高額医療であるCAR-T療法に関する費用対効果分析の結果を解説する。医療経済上は十分に長い無治療生存期間を確保できるような治療薬やプロトコールの有用性が高く,見た目の薬価に惑わされず正しい手法で適切に評価することが重要である。

小児
42 (EL1-11-4)
  • 矢野 未央
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1199-1208
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    L-アスパラギナーゼは急性リンパ性白血病/リンパ芽球性リンパ腫の治療におけるkey drugであり,現在は小児のみならず思春期・若年成人,高年齢層までの幅広い世代の治療レジメンに用いられている。L-アスパラギナーゼ製剤の投与の中断は生存率の低下につながるため,過敏反応をはじめとした特徴的な有害事象を適切に予防・管理し,また治療薬物モニタリングを導入した投与方法の最適化を図るなど,計画されたL-アスパラギナーゼ投与を完遂するための戦略が重要である。本邦でも新たに2種類のL-アスパラギナーゼ製剤の使用が可能となり,各製剤の特性を踏まえた,より有効かつ安全な投与計画の試みが今後注目される。本稿ではこれまでのL-アスパラギナーゼを用いた治療戦略を振り返り,L-アスパラギナーゼ製剤の治療効果の最大化のための課題について概説する。

43 (EL1-11-5)
  • 森 麻希子
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1209-1215
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    新ガイドラインでは病名や病期の変更に加え,出血症状の評価に修正Buchanan出血重症度分類が導入された。血小板数だけでなく,出血症状,活動度や生活様式,医療機関へのアクセスなど多面的な評価に基づき,患者の健康に関連した生活の質(HRQoL)の向上を目指した治療介入が求められる。ファーストライン治療としてはimmunoglobulin静注療法,短期副腎皮質ステロイド治療がある。セカンドライン治療としてはTPO受容体作動薬(eltrombopag,romiplostim),rituximab,脾臓摘出があり,脾臓摘出にTPO受容体作動薬,rituximabが優先されるが,それぞれの特徴を鑑みて選択する。新規薬剤の開発も活発で,脾臓由来チロシンキナーゼ(Syk),ブルトン型チロシンキナーゼ(BTK),胎児性Fc受容体(FcRn)などが標的分子として注目されている。小児ITP診療においても今後の展開に期待したい。

44 (EL1-11-6)
  • 塩田 曜子, 坂本 謙一, 小野 林太郎, 藤野 寿典, 川原 勇太, 工藤 耕, 末延 聡一, 土居 岳彦, 佐藤 亜紀, 工藤 寿子, ...
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1216-1226
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    ランゲルハンス細胞組織球症(Langerhans cell histiocytosis, LCH)は,年間100例ほどが日本で発症し,複数の臓器に病変をきたす多臓器型または多発骨型の幼少児が大半を占めるが,20~40歳代の成人にも発症する。皮膚のみの単一臓器型はまれで,多くは骨病変を含む多臓器型であり,化学療法が奏効する。成人では禁煙により軽快する肺病変が知られるが,実際には多臓器型が多く,積極的な治療介入が必要である。一部の乳児例は,肝,脾,骨髄病変をきたし重症化するが,近年,分子標的薬の導入により救命が可能となった。多臓器型LCHの30%以上において1回または複数回の再発をきたし,高率に晩期合併症を生ずる。特に,中枢性尿崩症,下垂体前葉機能低下,中枢神経変性症がLCHの診断から数年経過後に新たに認められるという点が,ほかの疾患にはない特徴である。これらを阻止する新規治療開発が望まれる。

45 (EL2-11-1)
  • 出口 隆生
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1227-1233
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    フローサイトメトリー(flow cytometry, FCM)による白血病診断はゲノム検査が発展した現在でも必須の検査の一つであるが,既にリスク因子としての役割は極めて限定的である。既に国際的な白血病診断基準では遺伝子異常に基づく診断が優先されており,FCM診断は遺伝子異常を有さない病型における形態診断の補助としての役割にしか過ぎない。しかし遺伝子異常が判明するには一定の期間が必要であることから,初期治療選択のためFCMによる迅速な分化系統診断が果たす役割は引き続き重要である。また反復測定と迅速な結果が必要な分子標的療法の治療反応性評価にも重要な手段となっている。さらにFCMでの抗原発現パターンを解析することで特定の遺伝子異常をある程度予測可能であり,遺伝子パネル検査の実用化後には検出された遺伝子異常の臨床的インパクトの検証に役立つ可能性が示唆される。

倫理
46 (EL2-11-2)
  • —shared decision making(SDM)に向けて—
    中山 健夫
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1234-1238
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    Evidence-based medicine(EBM)とは,「臨床研究によるエビデンス,医療者の熟練・専門性,患者の価値観・希望,そして患者の臨床的状況・環境を統合し,よりよい患者ケアのための意思決定を行うもの」である。研究成果としてのエビデンスと,一般論であるエビデンスを尊重しつつ,臨床場面の多様性・個別性を考慮した総合判断であるEBMの区別を意識することは重要である。診療ガイドラインは「健康に関する重要な課題について,医療利用者と提供者の意思決定を支援するために,システマティックレビューによりエビデンス総体を評価し,益と害のバランスを勘案して,最適と考えられる推奨を提示する文書」であり,EBMの実践に役立つ。近年,注目されているshared decision making(SDM)は,「患者と医療者が,対話を通して,ご本人の考え方や価値観,医学研究によるエビデンス,医療者の専門的経験を合わせて,患者自身が納得できる治療方針を決めていく」とされ,上記のEBMの定義と関連づけた理解と臨床倫理の視点が必要とされている。

統計
47 (EL2-11-3)
  • —基礎固めから応用まで—
    森田 智視
    2024 年 65 巻 9 号 p. 1239-1243
    発行日: 2024年
    公開日: 2024/10/02
    ジャーナル 認証あり

    臨床研究は,臨床医のもつ臨床的疑問を調べ,研究仮説を明らかにするため実施される。臨床研究を行う際には研究デザインをしっかり事前検討しておくことは大切である。研究の目的に適切に対応しまた実施上の現実的な課題にも対処できる最適なデザイン設定が望まれる。最終的な検証段階で実施されるランダム化比較は治療法比較の上では最上級の研究デザインであろう。しかしながら,ランダム化比較試験を用いることですべての臨床的疑問が解決されるわけではない。本稿では臨床研究デザインの基本事項をまとめ,ランダム化の役割りについて説明する。さらに,ランダム化を行うことが難しいような状況での治療法群間比較方法として注目を集め,最近その適用事例が急速に増えているプロペンシティ(傾向性)スコアを用いた解析手法を解説する。

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