DNAメチル化阻害薬(hypomethylating agents, HMAs)は主に骨髄系血液悪性腫瘍に対して頻用される薬剤であるが,その治療効果は限定的であり耐性機序は十分に解明されていない。我々はCRISPR-Cas9スクリーニングにより,ユビキチンE3リガーゼTOPORSがHMAsへの耐性に関与することを見出した。HMAsはDNAに取り込まれた後,DNMT1を補足し架橋構造を形成し,この持続的な残存が細胞毒性を引き起こす。また,DNAと架橋構造を形成したDNMT1はSUMO(small ubiquitin-like modifier)化されることが知られている。TOPORSはSUMOとの相互作用領域を有し,DNAと架橋構造を形成したSUMO化DNMT1をユビキチン化し分解に導くことで,HMAsへの耐性に寄与していると考えられた。TOPORSの機能阻害は,HMAsの効果を増強する新たな治療戦略となる可能性がある。
54歳女性。3週間前より持続する右背部痛を主訴に来院。汎血球減少,肝障害,凝固異常,肝腫大,巨脾を認めたが,リンパ節腫脹はなく,骨髄および肝生検で異常細胞を認めなかった。末梢血EBウイルスDNAが6.44 log IU/mlと高値で,サザンブロット法にてクロナリティを認めた。磁気ビーズ法でNK細胞への感染を確認し,EBウイルス関連リンパ増殖性疾患(EBV-LPD)と診断した。血球貪食症候群併発による血球減少および凝固異常の進行を認め,化学療法後,速やかに非血縁臍帯血移植を施行した。移植後完全ドナーキメラを達成し,末梢血EBウイルスも検出感度以下となった。本症例は診断時より末梢血EBウイルスDNAが異常高値を示しており,短期間で病状が急速に進行したことから予後不良と考えられた。急速に進行するEBV-LPDに対しては早期の化学療法に続く速やかな同種造血細胞移植が予後改善に寄与する可能性がある。
症例1:65歳女性,2016年発症の慢性骨髄性白血病(CML)の症例。Dasatinib 100 mgで分子遺伝学的に深い奏効(DMR)を達成し2018年から50 mgに減量していた。2021年4月に高熱,皮膚の発赤腫脹,下肢の腫脹,疼痛が出現,血液培養からG群溶連菌を検出し,劇症型溶血連鎖球菌感染症(STSS)と診断した。播種性血管内凝固症候群(DIC)や多臓器不全も合併したが,抗菌薬,新鮮凍結血漿投与,血漿交換療法を併用した。2ヶ月の治療期間を要したが全ての症状が消退した。症例2:53歳男性,2011年発症のCMLの症例。Nilotinibで治療開始したが服薬コンプライアンスの問題で深い奏効が得られず,1年でdasatinibに変更した。その後はDMRを達成し投薬を継続していた。2021年7月,症例1と同様の症状が出現し,血液培養でもG群溶連菌を検出しSTSSと診断した。抗生剤にて保存的加療を行ったが,症状が消失するのに2ヶ月近くを要した。同じ条件下で発症した2例のSTSSを経験した。原疾患やdasatinibとの関連が示唆され,CMLの治療法が適切であったかを検討した。
症例は61歳女性。BRAFV600E変異陽性のErdheim-Chester disease(ECD)に対してBRAF阻害薬(dabrafenib)とMEK阻害薬(trametinib)による分子標的治療を行った。治療開始早期にgrade 1の発熱,肝障害のため一時休薬したが,再開後はprednisoloneを併用することで治療継続できた。治療開始8週目に血漿中cell-free DNAにおけるBRAFV600Eは陰性化し,24週目のPET/CTは代謝的部分奏効(PMR)であった。近年,ECDに対する分子標的治療の有用性が報告されているが,治療効果の指標や最適な治療期間,治療中止が可能な症例の選択などの明確な指針は定まっていない。本症例も今後の臨床経過を慎重に観察しながら治療期間を検討する必要があると考えられる。
31歳男性。1ヶ月前からの突発的な腹痛や腰痛,労作時息切れ,嘔気症状にて受診。画像や内視鏡的精査で有意な異常所見がなく,正球性貧血があり当科へ紹介となった。鉄利用障害パターンで網状赤血球の増加を認めた。骨髄検査では赤芽球系は過形成,II~III型優位の鉄芽球増加はあるものの,異形成は軽度にとどまり染色体異常は認めなかった。職業歴(自動車整備業)と特徴的な腹部疝痛から検査を追加したところ,血中遊離プロトポルフィリンや尿中δ-アミノレブリン酸の著明な上昇,血中鉛濃度の上昇(71.8 µg/dl)があり,鉛中毒と診断した。キレート療法を実施し症状は改善した。鉛中毒は塗料や陶磁器,電池などに含まれる鉛を経気道的・経口的に摂取することで発症する。貧血・腹痛・神経症状を三主徴とするが,重症化すると不可逆的な脳症,腎機能障害を呈する。原因不明の腹痛と貧血には鉛中毒も鑑別に入れ,職業歴や生活歴を詳細に問診することが重要である。
A 71-year-old man was diagnosed with extranodal NK/T-cell lymphoma (ENKTL) in 2008. He underwent chemoradiotherapy and achieved complete remission, with no relapse during follow-up (discontinued in 2013). In 2022, he presented with nasal obstruction and epistaxis, and ENKTL relapse was suspected because the lesion was localized to the original nasal site. However, histopathological examination of a biopsy specimen confirmed a diagnosis of Epstein-Barr virus (EBV)-positive diffuse large B-cell lymphoma. Although both diseases are EBV-associated neoplasms, they derive from different lymphoid lineages and may arise metachronously at the same site. Careful differential diagnosis is essential because treatment strategies differ.
急性骨髄性白血病はその発症・進展に様々な遺伝子異常が関与し,治療反応性や予後にも影響を与える。造血器腫瘍遺伝子パネル検査の導入により,実臨床においてこれらの遺伝子変異の関与が明らかになり,治療選択や予後予測に有用な情報となりうると期待される。Actionable mutationとしては初発時AMLに対してはFLT3-ITD変異に対するquizartinibが使用可能であり,IDH1変異に対するivosidenibが承認見込みである。またICC2022およびWHO分類第5版での診断が可能となり,予後予測としてもELN2022(強力化学療法施行時)およびELN2024(低強度治療施行時)での判断が可能となる。さらには,同種移植の選択肢や治験薬へのスムーズなアクセスも期待される。遺伝子異常のプロファイルに基づく詳細な診断と予後予測により,より精緻な個別化医療への実現が期待される。
急性骨髄性白血病(AML)の治療において,同種造血幹細胞移植は治癒を目指す重要な手段の一つであるが,その適応は患者の予後因子や治療反応性に応じて慎重に判断されるべきである。近年,遺伝子異常や微小残存病変(MRD)の解析精度が向上し,移植のタイミングや必要性の評価に大きな影響を与えている。本稿では,ELN分類に基づくリスク別の移植適応,非寛解症例への対応,RT-qPCRやフローサイトメトリーに基づくMRDの役割,移植後の維持療法や再発時の治療戦略について,最新のエビデンスと日本における現状を踏まえて解説する。AML診療においては,単一の基準に従うのではなく,白血病の遺伝子情報・MRD・年齢・併存症など複数の因子を総合的に評価し,個々の症例に対して最適な移植戦略を選択することが重要である。
急性骨髄性白血病(AML)は高齢者に好発し,遺伝学的に不均一な疾患である。予後不良な染色体・遺伝子異常,血液疾患の先行や放射線・抗がん剤による治療歴などで規定される二次性白血病など,高リスクとなる多くの要因が存在する。本邦における初発AMLの治療は長らくcytarabineとanthracycline薬剤を併用する7+3療法とその減量療法しか選択できなかったが,近年azacitidineとvenetoclaxの併用療法,CPX-351,quizartinib併用化学療法が使用可能となり治療の幅が広がった。しかしこれらの新規薬剤に加えて同種移植を行ってもなお,治癒の得られる可能性が低い高リスク病態は多数存在し,まだまだ残された課題は多い。本稿では,高リスク病型に対する現時点で最良と思われる治療選択肢と今後の展開について概説する。
Unfit AML症例に対する治療は長い停滞期間を経て大きな変革の時期を迎えている。近年の分子標的治療薬の発展によって,安全かつ効果的な治療レジメンが開発され新たな治療選択肢が提供できるようになった。Unfit AMLの治療パラダイムに劇的な変化がもたらされる中で,重要な知見が日々生まれている。新たに標準治療となったvenetoclax+azacitidine併用療法や,新規のレジメンにおける治療反応性を既定する因子が明らかになる中で,unfit症例の臨床データを基盤にした新たなリスク分類の再構築も進められてきている。本稿では,unfit AMLに対する検証的な臨床試験データの解説を行い,現時点で最良と思われる治療選択肢と今後の課題について概説する。
再発・難治急性骨髄性白血病(AML)の予後は未だ不良であり,新規治療法の開発が切望されている。免疫細胞療法は,抗がん剤や分子標的療法とは作用機序が異なるため,難治例に対する有望な治療選択肢と考えられる。AMLに対するCAR-T療法としては,CD33,CD123,CLL1など様々な細胞表面標的抗原に対する細胞製剤が開発され,多くの臨床試験が実施されてきた。また,WT1など細胞内抗原を標的とするT細胞受容体(TCR)-Tの開発も進み,一部の臨床試験において有望な結果も出てきている。一方,AMLに対する細胞療法の開発には,適切な細胞表面標的抗原の選択,免疫抑制的な腫瘍微小環境など,特有の障壁・課題があり,現在に至るまで承認に近い細胞製剤は出現していない。本稿では,AMLに対する細胞療法の開発における課題と現況について概説する。
急性骨髄性白血病(AML)治療は近年大きく進歩しているが,日本未承認の有望な新薬も多い。本稿ではmenin阻害薬を中心に,IDH阻害薬,経口azacitidine,抗体製剤,抗体薬物複合体,二重特異性抗体,放射線同位体療法,CAR-T療法など,AMLに対する新規治療薬の開発状況を概説する。特にKMT2A再構成やNPM1変異を有するAMLに有効なmenin阻害薬は,臨床試験で有望な結果を示している。これらの新規薬剤は,AML治療の選択肢を広げ,予後改善につながる可能性がある。