62歳男性。末梢血に25.5%の形質細胞様細胞を認めた。M蛋白は検出されずfree light chainでもκ/λ比の偏位は認めず,骨髄スメア標本では多発性骨髄腫(MM)に特異的なマーカーとしてはCD138のみ陽性であり,κ鎖およびλ鎖共に陰性であった。リンパ形質細胞性リンパ腫との鑑別に難渋したが,形態学的所見のみを根拠に非分泌型MMと診断した。寛解導入療法後に自家末梢血幹細胞移植を施行し寛解に至り,無治療経過観察していたが約1年で再発し,様々な化学療法に抵抗性であり,原病悪化で死亡した。再発時の骨髄検体を用いた次世代シーケンス解析ではMMに特徴的なドライバー遺伝子の変異(IRF4,TRAF2,TRAF3)や1q gainを認めた。これら変異を有するMMは予後不良と報告されており,臨床経過に矛盾しなかった。次世代シーケンス解析はMMの診断や治療選択において有効である可能性が示唆された。
57歳男性。好中球減少,芽球様細胞出現,貧血,発熱を主訴に受診。骨髄検査で小型リンパ芽球様細胞を62.8%認め,表面抗原と免疫染色はマントル細胞リンパ腫(mantle cell lymphoma, MCL)に一致した。初診時に節性病変を有さず,白血病性非節性MCL(leukaemic non-nodal MCL, nnMCL)をまず考慮した。18F-FDG-PETではびまん性に骨への集積を認め,短期間で節性病変が新規に生じていた。SOX11陽性,Ki-67高値,複雑核型,急速に進行した臨床像はnnMCLとして典型的ではなく,古典的なMCL(conventional MCL, cMCL)に類似していた。分類は困難であったが,治療はaggressiveなcMCLに準じて実施した。BR療法後にCHASE-R療法,自家移植併用大量化学療法を施行した。本症例はcMCLとnnMCLの境界域に属し,分類は困難であったが,病理学的特徴や染色体異常,臨床像をふまえて治療内容の検討を行った。
2002年(26歳時)に点状出血を契機に溶血性貧血,血小板減少を認め血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)が疑われ,血漿交換・新鮮凍結血漿(FFP)輸血・ステロイド投与により改善した。血栓性微小血管症と判断され,その後も再発を繰り返したがFFP輸血・ステロイド投与で改善した。2018年12月6回目の再発時にADAMTS13活性低下を確認しTTPと確定診断した。2022年6月9回目の再発時にADAMTS13インヒビターは陰性であり先天性TTPの可能性も考慮したが,他施設での検査にてADAMTS13インヒビター陽性が確認され免疫性TTPと診断し得た。その後rituximab治療を施行後ADAMTS13インヒビターは消失し,3年間再発なく経過している。本例は再発を繰り返しながらもFFP輸血や短期ステロイド療法のみで改善した点で,免疫性TTPとして非典型的な臨床経過を示しており,診断および治療上示唆に富む症例と考えられる。
59歳,女性。腎機能低下を認めた初発症候性多発性骨髄腫(BJP-λ型)に対し,bortezomib + dexamethasone療法を1コース施行した後,腎機能が改善したためbortezomib + lenalidomide + dexamethasone(BLD)療法を1コース施行し,sCRを達成した。BLD療法2コース目開始直前に,倦怠感,黄疸を自覚し,溶血性貧血,血小板減少,および腎機能障害を認めた。ADAMTS13活性感度未満,ADAMTS13インヒビターが検出され,後天性血栓性血小板減少性紫斑病(aTTP)と診断した。血小板数が自然経過で改善傾向であったため血漿交換は施行せず,prednisoloneとrituximabによる加療を開始した。Rituximab初回投与後に血小板は正常化し,ADAMTS13インヒビターは陰性化した。治療経過より薬剤誘発性のaTTPと考えられた。
30歳男性。急性Bリンパ芽球性白血病の再発に対し,3回目の同種移植を施行した。移植後day17に水様便が出現し,day21の下部消化管内視鏡で急性消化管graft-versus-host disease(GVHD)と診断した。ステロイド治療で改善せず,day26より肝障害が進行し,day29に多臓器不全で死亡した。剖検で肝臓と大腸にadenovirus(ADV)感染を認め,死亡直前の血漿中ADV-DNA量は3.16×109 copies/ml検出され,播種性ADV感染症と判明した。Day21の大腸組織を再評価したところ,GVHDの病理所見に加え,腸上皮の免疫組織化学染色(免疫染色)でADV抗原陽性であった。ADV感染の病変に関して,day21の大腸組織では腸上皮に限局していたが,剖検では腸上皮から血管内皮に及んでいた。免疫染色を追加することでADV感染を早期に検出できる可能性が示唆された。
赤血球疾患における遺伝性骨髄不全症としてDiamond-Blackfan貧血(DBA)が代表的疾患としてあげられる。DBAは主にリボゾームの機能不全により発症する。末梢血では網状赤血球が減少し,骨髄では赤血球系細胞のみが著減する。主に乳児に発症し,リボソームタンパク質(RP)遺伝子のヘテロ接合型アレル変異によって引き起こされることが多い。p53の活性化,翻訳機能不全,炎症シグナル,およびヘモグロビン/ヘム合成の不均衡が赤血球生成の障害や赤血球産生低下に寄与することが示されている。DBA患者に対する主な治療法はステロイド療法である。しかし,これらの患者の半数は長期的な治療でステロイドに反応しなくなり,輸血依存となる。造血細胞移植は現在唯一の根治的治療法である。レンチウイルスベクターを用いた遺伝子治療の最近の進歩は,RPS19欠損型DBAの治療において,正常な造血を促進する可能性を示している。
我々の体には鉄を能動的に体外に排泄する機構は存在せず生理的鉄排泄は僅かであり,通常は吸収も僅かしかなく,鉄代謝は半閉鎖的回路を形成している。しかし,消化管出血や婦人科的出血が続くと赤血球は鉄を多く含んでいるため,貯蔵鉄が減少していき,さらに進行すると赤血球造血に必要な鉄が不足し鉄欠乏性貧血(iron deficiency anemia, IDA)が生じる。IDAは貧血全体の約7割を占めるため全診療科で大きな問題であるが,貧血のない鉄欠乏でも多彩な症状を呈することが近年注目されている。また,診断時や治療時に鉄関連検査が十分に行われていないことも最近明らかにされた。治療で使用する鉄剤においては,経口鉄剤ではferric citrate hydrateが,静注鉄剤ではferric carboxymaltoseおよびferric derisomaltoseが近年加わった。本邦での臨床試験も複数行われエビデンスも積み上げられてきており,従来からの薬剤とともに幅広い臨床領域でIDAの治療に貢献している。
後天性赤芽球癆(PRCA)は,赤血球減少,網赤血球減少,骨髄中の赤血球系前駆細胞減少によって特徴づけられる骨髄不全症であり,高齢者に多い希少疾患である。胸腺腫や大型顆粒リンパ球性白血病等に合併する続発性PRCAや特発性PRCAが知られ,これら三大病型で全体の8割を占める。慢性PRCAでは赤血球前駆細胞を障害する細胞性免疫の存在が示されている。中でもT細胞のクローン性増殖とSTAT3遺伝子変異を有するCD8陽性T細胞の存在が注目されている。臨床面ではcyclosporin(CsA)に代表される免疫抑制療法によって自己免疫学的機序を抑制し赤血球造血を促すことが慢性PRCAに対する主な治療戦略である。再発の回避には維持療法が望ましいが,いったん難治・再発PRCAとなり輸血依存となると予後不良となる。CsAに不応不耐となった場合の至適治療はまだ確立しておらず,sirolimusの前向き臨床試験の結果が待たれる。
本邦では2019年より固形腫瘍に対するがん遺伝子パネル検査(comprehensive genomic profiling test,CGP検査)が保険収載され,がんゲノム中核拠点病院,拠点病院,連携病院によって運用されてきた。2025年3月に造血器疾患を対象としたCGP検査であるヘムサイト®が保険収載され,包括的ゲノム検査が造血器疾患の日常診療に導入可能となった。造血器疾患に対するゲノム検査では治療法選択に加えて,低形成骨髄を含む血球減少の診断や鑑別,予後層別化にも寄与する。また,対象疾患には「原因不明の著しい血球減少」も含まれるが,その結果の解釈は複雑であり,対象疾患の遺伝子レベルでの病態を理解した上でのエキスパートパネルでの総合的な判断が不可欠である。本稿では,再生不良性貧血と骨髄異形成症候群を中心に,造血不全症に対する包括的ゲノム検査の臨床的意義と,CGP検査の実装上の要点を概説する。
血小板機能は多くの分子により制御されており,それらの分子の先天的異常により多様な血小板機能異常症を生じる。GPIIb-IIIa(αIIbβ3)の先天的欠損/分子異常症である(グランツマン)血小板無力症(GT)とGPIb-IX-V複合体の先天的欠損/分子異常症であるベルナール・スーリエ症候群(BSS)は幼小児期より強い出血傾向をきたし,臨床上最も問題となる。GT,BSSともに診断は従来の光透過血小板凝集能検査に加え,フローサイトメトリーによる膜糖蛋白の解析が中心となっている。治療としては一般的止血処置で対応の難しい出血に対しては血小板輸血が適応となるが,GTにおいては組換え活性型第VII因子製剤(rFVIIa)の有効性が示されている。rFVIIaは従来の同種抗体産生により血小板輸血不応となった症例に加え,本邦では同種抗体や血小板輸血不応状態にないGT患者においても使用可能となっており,特に血小板輸血による同種抗体産生を避けたい患者に対して使用を考慮すべきである。
抗リン脂質抗体症候群は,抗リン脂質抗体(aPL)の持続陽性を背景に動静脈血栓症や妊娠合併症を反復する全身性自己免疫疾患である。2023年ACR/EULAR分類基準では,スコアリングシステムの導入や微小血管病変・心臓弁膜症・血小板減少症の追加など抜本的な改訂がなされたが,日常診療における「診断」や本邦の指定難病認定基準との関係には慎重な解釈が求められる。検査面では自動分析装置の普及に伴い試薬間標準化が課題となっており,ISTH-SSCガイダンスに基づく適切な検査運用が重要である。リスク層別化では,トリプル陽性や抗リン脂質スコア(antiphospholipid score, aPL-S)・GAPSS(Global APS Score)などの定量的評価に加え,心血管リスク因子の統合的管理が予後改善に不可欠であることが示されている。治療面では高リスク患者への直接経口抗凝固薬使用は避けるべきであり,warfarinなどのビタミンK拮抗薬による標準的抗凝固療法が基本となる。疾患活動性評価ではEAPSDAS(EULAR Antiphospholipid Syndrome Disease Activity Score)の開発や単球/HDLコレステロール比(MHR)の動的バイオマーカーとしての有用性が報告されている。今後,個別化医療へのパラダイムシフトが期待される。
aHUSは,補体第二経路の異常な活性化による血管内皮細胞傷害に起因する血栓性微小血管症(TMA)である。2013年に抗C5抗体薬であるeculizumabが使用可能となってから,治療成績が格段に改善しているが,補体の活性化を直接評価する方法での確定診断法がなく,背景因子としての補体関連遺伝子の病的バリアントの評価や,他のTMAを来す疾患の除外診断に頼っているのが実情である。時に二次性TMAとの鑑別が臨床上困難であり,特に高血圧緊急症,妊娠・出産に合併した二次性TMAはaHUSとオーバーラップすることもあり,診断に留意が必要である。昨今,新たな抗補体薬が次々と開発されており,C5以降の終末補体経路のみならず,C3を中心とした近位補体系に働きかける抗補体薬に関する薬剤も開発され,知見の集積が待たれる。
外傷超急性期や線溶優位型播種性血管内凝固,急性前骨髄性白血病などでは,続発性に線溶が過剰となり出血を来すことが知られている。一方で,基礎病態を伴わず一次性に線溶活性の過剰発現が出血の原因となり得るかについては,疾患概念の未確立や活性評価法の未整備により,十分な検討がなされてこなかった。先天的に線溶抑制因子機能が欠失したplasminogen activator inhibitor-1(PAI-1)欠乏症やα2-plasmin inhibitor(α2-PI)欠乏症,thrombin-activatable fibrinolysis inhibitor(TAFI)活性化不全を来すthrombomodulin(TM)異常症は,大出血を呈する超希少疾患として報告されている。筆者らはその機能的評価法を基盤として新たに「出血性線溶異常症」の診断基準を策定し,令和7年度より指定難病347として運用が開始された。本稿では,本疾患概念の意義と診断体系を概説し,原因不明出血症例における線溶機能評価の重要性を提起する。
再発難治性多発性骨髄腫に対する治療は,B細胞成熟抗原(B-cell maturation antigen, BCMA)を標的とするキメラ抗原受容体T細胞(chimeric antigen receptor T cell, CAR-T)療法および二重特異性抗体療法の登場により大きく進展した。CAR-T細胞療法は単回投与で高い完全奏効率と微小残存病変(minimal residual disease, MRD)陰性化を達成し,無治療期間の確保という新たな治療目標を現実のものとしている。一方,二重特異性抗体療法は迅速に導入可能で高い奏効率を示し,外来管理や投与間隔延長により治療負担軽減に寄与する。しかし,低ガンマグロブリン血症や感染症,抗原発現低下やT細胞疲弊による再発は依然として課題である。長期寛解維持と生活の質(quality of life, QOL)向上を両立させる治療設計が重要であり,適切なシークエンス戦略と耐性克服が求められる。
多発性骨髄腫(MM)の治療成績は,プロテアソーム阻害薬,免疫調節薬,抗CD38抗体に加え,CAR-T細胞療法や二重特異性抗体など免疫療法の導入により,20年間で飛躍的に向上した。近年は初発から4剤併用療法が用いられ,深い奏効と長期生存が期待されている。一方,MMは再発を繰り返す疾患であり,三系統治療抵抗例では依然として予後不良である。免疫療法は再発難治例の治療成績を改善する一方で高額であり,医療費増大と医療制度の持続可能性が課題となっている。費用対効果分析(CEA)は,質調整生存年(QALY)を用いて医療介入の価値を定量的に評価する手法である。本稿では,免疫療法の有効性と費用対効果を概説し,初発4剤併用療法および再発難治例に対するCAR-T療法の経済性を自験研究を含めて検討するとともに,臨床現場の治療選択と意思決定に資する視点を整理し,将来の持続可能な治療戦略を考察する。