日本放射線看護学会誌
Online ISSN : 2433-5649
Print ISSN : 2187-6460
5 巻, 1 号
選択された号の論文の20件中1~20を表示しています
巻頭言
原著論文
  • 五十嵐 世津子, 西沢 義子, 野戸 結花, 北島 麻衣子, 小倉 能理子, 笹竹 ひかる, 扇野 綾子, 細川 洋一郎
    2017 年 5 巻 1 号 p. 3-11
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、福島第一原子力発電所事故後、避難生活中の母親の育児ストレスや孤立感、QOL、放射線の健康影響に対する不安について明らかにすることである。避難生活をしながら子育て中の母親(A群)と、A群以外の子育て中の母親(B群)を対象とし、質問紙調査を実施した。子育て中の悩みの有無や子育ての相談に対する夫の対応、育児ストレスは2群間に有意差はなかった。しかし、A群は夫以外の育児相談相手はB群に比して少なく、孤立感を感じている割合が多かった。さらに、QOLの全体的健康感は低値であった。事故後4年が経過しても、A群の母親は、妊娠・水・離乳食・人間関係の放射線による影響の不安が変わらないことが明らかになった。以上のことから、今後も母親同士の子育てネットワーク、継続的な放射線の知識の提供や健康影響を含む相談会などの継続が必要と考えられる。

  • 野戸 結花, 小倉 能理子, 西沢 義子, 細川 洋一郎, 五十嵐 世津子, 笹竹 ひかる, 扇野 綾子
    2017 年 5 巻 1 号 p. 12-22
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所事故により避難先で学校教育を再開している中学校における放射線教育の現状と課題を明らかにする目的で中学校教諭など5名にインタビュー調査を行い、テキストマイニング法で分析した。結果、生徒の現状としては放射線の負のイメージは薄れてきているが、正しく恐れるのに必要な知識は十分でないと捉えていた。そして、有効な教育のためには、具体的なデータを提示して数値を意識させる、学年進行に合わせ計画的に教育内容を組み立てるなどの考えをもっていた。一方、教諭自身が教育に必要な知識、特に放射線の人体影響に関する知識が不足していると感じていること、個々の保護者の反応に配慮して安全・危険の判断を伴う教育を行うことへの躊躇があることが明らかになった。課題への対策の一つとして、教諭の放射線に関する知識の獲得を支援する目的で小人数制の学習会を開催した結果、学習項目の理解度は上昇し学習効果が得られた。教諭自身が不確かであった知識を確認できたことで、自信をもって子どもへの教育に活用することができると考える。

短報
  • 笹竹 ひかる, 北島 麻衣子, 漆坂 真弓, 野戸 結花
    2017 年 5 巻 1 号 p. 23-30
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は、看護基礎教育に携わる教員の放射線看護教育の現状と課題を明らかにし、放射線看護教育を展開するうえでの支援の方向性への示唆を得ることである。A県の看護系大学の教員を対象に、放射線看護の教育内容について教育の必要性および教育を行う自信、教員への支援の必要性などを調査した。結果、対象者は多くの教育内容項目について必要性を認識していたが、自分がこれらの教育を行う自信はないと感じていることがわかった。また、放射線の基礎知識と被ばく影響・防護といった物理学的、生物学的、医学的内容などの専門性が高い項目は、医師や診療放射線技師が教育者として適切であり、看護学の専門性が必要な項目は看護教員が適切であると考えていた。以上より、教育支援の方向性としては、看護教員に放射線看護教育に必要な知識の提供を行うシステムの構築と研修会の実施、教材開発、教育カリキュラムモデルの提案などが有効と考える。

  • 吉田 浩二, 新川 哲子, 浦田 秀子, 高村 昇
    2017 年 5 巻 1 号 p. 31-38
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    福島第一原子力発電所事故後における福島県内保健師へのメンタルヘルスに関する支援をストレス対処能力の側面から検討するために、ストレス対処能力の実態とその関連要因を明らかにすることを目的とした。福島県内保健師に対し、ストレス対処能力の評価のため首尾一貫感覚の尺度13項目(以下SOC)と精神的健康調査票12項目版(以下GHQ)を用いたアンケート調査を行った。SOCは得点が高いほどストレス対処能力が高いと評価され、GHQは得点が高いほど精神健康上に問題があるとされる。有効回答者430名の結果からSOCの中央値(44点)で二群に分類し、比較検討を行った。SOC 44点以上群は、SOC 44点未満群に比べて、現在の放射線の不安度が低く、GHQ得点も低い状況であった。また、SOC 44点以上群は、“現在の放射線の不安度が低い”および“GHQ得点4点未満”と有意な関連がみられた。本研究において、ストレス対処能力と放射線不安および精神的健康度との関係性からストレス対処能力を高め、メンタルヘルスを良好に保つためには、放射線に関する不安軽減に向けたサポートの必要性が示唆された。

  • 永井 智子, 小西 恵美子, 小林 真朝, 梅田 麻希, 小野 若菜子, 三森 寧子, 麻原 きよみ
    2017 年 5 巻 1 号 p. 39-46
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    2011年の福島第一原子力発電所事故で、保健師基礎教育において放射線教育を行うことの重要性を痛感し、2014年度より、学部4年次の公衆衛生看護専門科目の中に「放射線防護」の授業を組み込んでいる。本稿では、2015年度の「放射線防護」の授業概要と、授業終了時に学生が提出したアンケートの回答結果を記述する。また、学生が得た学びを明らかにしするとともに、保健師基礎教育において放射線教育を実施するうえでの示唆を得る。63名の学生全員がこの授業を受け、そのうちの58名が、アンケート回答内容の分析を承諾した。自由記載の回答から、学生は、放射線に関する自身の無知に気づき、放射線の性質を理解し、福島第一原子力発電所事故で生じた課題とそれに対する支援のあり方を考察し、放射線への学習意欲を高めていることがわかった。選択式質問では、授業の楽しさ、内容への興味・関心、授業内容の理解、および放射線への学習意欲に関する全項目で、97%以上の学生が「そう思う」または「ややそう思う」と回答した。保健師基礎教育で放射線教育を行うことは、学生の放射線への向き合い方に影響を与え、既存の科目に組み込む方法でも大きな教育効果が得られることが示唆された。

  • 北島 麻衣子, 大津 美香, 冨澤 登志子, 笹竹 ひかる, 井瀧 千恵子, 米内山 千賀子, 漆坂 真弓, 西沢 義子
    2017 年 5 巻 1 号 p. 47-55
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    本研究は、2011年の福島第一原子力発電所事故により避難中の高齢者が自身の健康状態と放射線についてどのように認識しているかを明らかにし、今後の生活に必要な援助について示唆を得ることを目的とした。対象は福島県内のA町から避難中の高齢者86名で、健康不安、活動状況、放射線に対する不安などを聞き取り調査した。結果、健康不安がある者は57%で、体力の低下に関連して不安を抱き、体力低下により外出頻度が低下した者もいた。また、気分の落ち込みがある者は仮設住宅での生活のストレスを理由に挙げていた。放射線について不安がある者は24%であり、子供や孫への影響、摂取する食べ物などを危惧していた。本研究結果より、避難生活を送る高齢者の健康不安は活動量の減少や体力低下に起因し、さらに避難生活の長期化、慣れない環境での暮らしによる不安もうかがえた。そのため、心理的な変化も考慮しつつ活動・運動を行う場を提供する必要性が示唆された。

  • 松川 京子, 松成 裕子
    2017 年 5 巻 1 号 p. 56-62
    発行日: 2017/03/31
    公開日: 2019/03/20
    ジャーナル フリー

    原子力発電所(以下、原発)立地県である3県(A県、B県、C県)すべての保健師(1,521名)の放射線に関する知識や研修への参加などの違いを明らかにするために、郵送法による質問紙調査を対象に実施した。保健師が勤務する場所(保健所・市町村・保健センター)、あるいは緊急時防護措置を準備する区域(以下、UPZ: Urgent Protective action planning Zone内・外)による違いに着目して検討した。その結果、保健師の放射線に関する知識、認識は各県内の勤務場所間や3つの県において差が見られた。これは、原発立地場所と関係しており、UPZ内ではUPZ外より教育や訓練が多く開催され、原子力防災などの被ばくのリスクを考える機会が増えた地域的背景が影響していると考えられる。今後、地域特性などを考慮した原子力防災に関し、保健師に対する実際の教育・展開についての検討が必要である。

レター
日本放射線看護学会 第5回学術集会
feedback
Top