2011年の東日本大震災で,岩手県陸前高田市の名勝「高田松原」の海岸林の,アカマツ・クロマツ林が全て倒壊した.凡そ7万本という.高さ15.8m(高田市・市民体育館)の津波によって,幹折れで地上部が流亡したものもあるが,多くは根系から倒伏して流亡した.これは津波の高さが高く,樹冠が津波の圧力を受けたことによるところが大きい.枝下高23mの一本松は枝下1mまで水没した.樹幹にかかった津波の強度を計算すると100tになる.多くの測定値から計算した根系強度の推定値は183tであるので,根系強度は津波の圧力よりも著しく大きい.根系は水没すると,土壌と根系の摩擦力が低下し,根系強度は減少する.また,津波の流れの,下側の根系は流水によって洗掘されるので,流速が大きいと根系強度は著しく低下する.根系強度は引き潮に弱い.しかし,樹木の倒伏は津波の性状によって異なり,今回のような巨大津波では海方向からの衝撃によって,一瞬で倒壊する.一本松では,津波の洗掘による根系の露出は認められない.反対に根株付近に60~100cmの砂土の堆積が認められた.付近は疎林で,流亡した樹木の接触も見られなかった.流速や砂土の堆積は周囲の地形や構造物に関係する.ここでは,近くにユ-スホステルや気仙川の堤防がある.一本松が倒伏しなかった原因には,地形や付近の構造物による海水の複雑な流れも関係している.
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