世界に3600万ha拡がる天水田での平均収量は2.3t/haと低く, その主要な原因の1つは旱魃である. 国際稲作研究所では, 旱魃による収量低下を, イネの耐乾性の遺伝的な改善によって減少させようとしてきた. 飛躍的に生産性を改善した耐乾性品種はいまだに育成されていないが, 旱魃環境の特性化, 耐乾性形質の確定, 選抜方法の確立のため研究が蓄積されてきて, 生産性の漸進的向上・安定化が期待されている. 最近の根系に関わる研究では, 旱魃時の水吸収が土壌深層での根の伸長に関係することがポット試験で示され, 天水田のように根の下方への成長が抑制される環境でも, 深根性が耐乾性の改善に関与し得ることが示唆された. 一方, 深根性と根の太さを, 耐乾性を改善する形質の候補として, 量的遺伝子座 (QTL) の解析が, 複数の遺伝集団で異なる栽培環境下で行われてきた. そこでは, 乾燥ストレスのない状態でも, 気温や日射の違いによって, 根の形態に関する多くのQTLの位置が異なり, QTL解析で表現型を調べる環境条件の設定が重要であることが示された. しかし, 少数ではあるが, 異なる環境でも繰り返し検出されたQTLもあった. また, 3つ以上の遺伝集団に共通して, 染色体上の近似位置に検出されたQTLもかなりの数あり, 遺伝的背景にはよらない深根性や根の太さのQTLがあることが分かった. 現在, DNAマーカーによる根系の遺伝的改良が進められている.
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