本研究の目的は,退院後の生活の場を決定する場面に参加できず,結果的に施設への転院となった入院中の高齢者の体験を記述によって明らかにすることである.
研究参加者は,A病院に入院中の女性高齢者3人である.平均年齢は80歳であった.研究参加者の退院までの期間,不定期に非構成面接を行った.面接内容は許可を得て録音し,逐語録とした.逐語録およびフィールドノートをデータとし,分析を行った.
その結果,退院後の方向性を決定する場に高齢者自身が参加できていない実態,および決定のプロセスの蚊帳の外にいる高齢者が,<自分らしさを失っていくことへの危機感><現在の自分の役割が見いだせない苦しみ><自分の居場所の不安定さ,居場所のないつらさ>を抱えていることが明らかとなった.そして,家族から転院の話を聞かされた高齢者は,最終的には,「家族のため」という理由で,その転院の現実を受け止めている現状が明らかとなった.
抄録全体を表示