宗教研究
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93 巻, 3 号
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論文
  • 第一〇条分断の是非を手がかりに
    木村 元太郎
    2019 年 93 巻 3 号 p. 1-24
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    『歎異抄』は親鸞の滅後、教団内の異義を歎いた唯円が、信心を一にすべくその不審をなくすことを目的として綴ったものである。『歎異抄』は親鸞法語と、唯円による異義批判という二つの段落で構成されるが、この二つを結ぶかのように第一〇条がある。一〇条は「親鸞法語と異義批判の序という二つの課題が混在する」という問題を古くから指摘されており、佐藤正英『歎異抄論釈』(二〇〇五年)では、この一〇条を分断して二冊に分けたものが『歎異抄』の原形であるという。しかし、一〇条法語は一~九条の結語であり、続く異義批判との連関も強いことから、佐藤が提示する分断は妥当でないことを、唯円の継承する親鸞思想を基軸として論考し、底本の構成に則した『歎異抄』の統一的解釈を提示する。

  • 『マッカ開扉』にみるイブン・アラビーによる他説との知的対話
    相樂 悠太
    2019 年 93 巻 3 号 p. 25-47
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    従来のイブン・アラビー(一二四〇年没)思想研究では、彼が後代に与えた影響の大きさが強調されるのに対し、前代の思想伝統と彼の思想の関係性についての考察は遅れており、とくに彼が他説を積極的に批判した事例は注目されることが少ない。イブン・アラビーはしばしば人間の理性(‘aql)の能力を神秘主義的文脈の中で否定的に論じることで、これに立脚した哲学者や神学者の方法論を批判し、彼らの知的営為から自説を差異化した。彼のこの議論はこれまで、その焦点や根拠、意図が十分に考察されることなく聖法や神秘体験と理性の単純な対立関係の中で理解され、彼の思想の中で消極的に位置づけられてきた。本稿ではイブン・アラビーの「理性」論の論理展開の構造分析に基づき、彼の神秘主義的霊魂論におけるその不可欠の役割を明らかにすることで、異なる思想潮流に対する彼の批判的応答が彼自身の思想形成の動因にもなっていることを示す。

  • 李 美奈
    2019 年 93 巻 3 号 p. 49-73
    発行日: 2019年
    公開日: 2020/03/30
    ジャーナル フリー

    近世イタリアでは市民の道徳の発達と共に、キリスト教徒とユダヤ教徒の差別化の論理から非道徳的なユダヤ人ステレオタイプが作られた。本論は『ヘブライ人の状況についての議論』において、一七世紀ヴェネツィアのラビ、シモーネ・ルッツァットがこの偏見にどのように反論し、かつユダヤ教を守ることを試みたかを明らかにした。ルッツァットはユダヤ教を特殊な儀礼と普遍的な道徳性に分け、前者はユダヤ人のみが自由意志で守るが、後者は全人類が積極的に共有すべきとした。これは近代に似た宗教観念と言えるが、他方で個人はまず儀礼を通して繋がり、その外で道徳性によって異教徒と関係を持つと主張し、近代と異なる社会観念も持つ。この見解を当時の社会背景から考察し、ルッツァットがユダヤ教も兄弟団と同様に道徳的教えを持ちヴェネツィアの秩序に貢献するとしつつ、儀礼に関しては外国人組合nationeに認められた慣習法に落とし込み、ヴェネツィア当局の統治方針に合わせて議論していると結論づけた。

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