本稿では、唱衣法の意味と働きについて経済面と送葬儀礼という二つの観点から考察した。第一に、テキストの記述によれば、唱衣法の実施によって関わる三者に利益がもたらされる。一般僧侶には分配金が、叢林には唱衣の純利益から収入を得る事が記載されるとともに、遺品を叢林に委託することによって死者も利益を得るといえる。
第二には、送葬儀礼という観点からは、唱衣法とは、共同体の直面する死という危機からの回復に関わる儀礼だといえる。唱衣法は一次葬(遺体の骨化)以後、すなわち共同体の直面する死の最も危険なモメントが過ぎた後に行われる。この段階で問題となるのは、共同体内に「死の表象」として遺された行き場のない遺品である。一時的に出現する競売のための市場が唱衣であると考えれば、そこでは、行き場のない「死の表象」の性格が貨幣との交換によって転換されることとなる。すなわち、唱衣法は、死の危機に直面した共同体の再生や秩序の回復の一助となっていると考えられる。
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