レギュラトリーサイエンス学会誌
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6 巻, 3 号
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原著
  • 中本 朱香, 三宅 真二
    2016 年 6 巻 3 号 p. 245-253
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    目的 : 「ブルーレター」は日本における医薬品のワーニングレターの一種である. 「ブルーレター」は厚生労働省が市販後に安全対策を取るべきと判断した際に製薬会社から発出される. この研究の目的は, 市販後に「ブルーレター」という強い注意喚起手段の対象となった副作用が, 治験段階において, 発見されていたか否かを調査することである. そして, 市販前に副作用に関して議論されていた場合, その情報が医療従事者に対してどのような形で提供されていたかを調査する. 方法 : 対象は2006~2015年の間に「ブルーレター」が発出された医薬品である. 副作用に関して審査報告書を調査し, 市場に出る前に製薬会社と厚生労働省がその副作用に関して知っていたかを評価した. そして副作用に関してそれぞれの添付文書を調査し, 医療従事者が「ブルーレター」が発出される以前からその副作用情報を得ることができたか評価した. 結果と考察 : 2006~2015年の間に11通の「ブルーレター」が発出された. 製薬会社と厚生労働省は, 11通中8通の「ブルーレター」発出の対象となった副作用を治験の段階で示唆していた. そしてそれぞれ該当する医薬品の添付文書中に副作用情報を提供していた. しかしほとんどの情報は「ブルーレター」が発出される以前はリスクを適切に表現できていない曖昧なものと判断された. 今後は添付文書を医療従事者が使用しやすいコミュニケーションツールとしてより一層改善することが求められる. 結論 : 多くの場合, 製薬企業は「ブルーレター」が発出される前から副作用情報を提供していた. しかしほとんどの情報は具体性を欠く曖昧な表現であり, 当該安全性問題に対する事前の想定などを強く促すには不十分であったと考えられる.

  • Fusako OURA, Satoshi TOYOSHIMA
    2016 年 6 巻 3 号 p. 255-268
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    本研究では, 日本での希少疾病用医薬品開発の現状把握とさらなる促進のための要素を考察することを目的とし, 2010~2014年の5年間に日本で新医薬品として承認された希少疾病用医薬品について, ドラッグラグ (承認ラグ) および指定ラグの調査・分析を行った. 調査の結果, 日本の希少疾病用医薬品開発はUS・EUの後追いタイプが多く, また日本ローカルのものが最大で1/4程度存在した. 日本に先行しUSまたはEUで最初に承認された案件でのドラッグラグ (カッコ内は製薬企業が自発的に開発を行ったとみなすことのできる案件でのラグ) 中央値はそれぞれUSから50.0 (25.1) 月, EUから34.8 (20.4) 月であった. 一般的に日本での新医薬品のドラッグラグ問題は解消されてきたという傾向の中にあっても, 希少疾病用医薬品の世界においては依然として海外からのドラッグラグが大きいことが明らかとなった. 指定ラグ中央値はそれぞれUSから63.8 (30.6) 月, EUから46.7 (30.0) 月であった. さらなる検討の結果, ドラッグラグおよび指定ラグの原因として開発着手でのラグ (開発着手ラグ) および指定申請でのラグ (指定申請ラグ) の影響が大きいことが考えられた. 今後日本での希少疾病用医薬品の開発着手ラグおよび指定申請ラグの解消, さらなる開発促進に向けて, 既存の指定基準や助成制度の運用方法およびインセンティブの見直しを検討する必要があると考える.

  • Nobuyuki SEKINE, Yasuo OHASHI, Atsushi ARUGA
    2016 年 6 巻 3 号 p. 269-280
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    背景 : 2016年にFDAは, ガイダンスとして「開発後期および市販後の臨床研究において必要とされる安全性データ収集の程度の決定」を発行した. このガイダンスが提唱している手法は, 臨床試験におけるコストや労働時間の削減や, さらには試験データベースの質の改善につながると考えられる. 本研究では抗癌剤の臨床試験に対して選択的データ収集法が適用可能であるか調査を行った. 方法 : 本研究では日本での審査報告書を調査に用いた. 初回承認および効能追加承認時の評価資料となった臨床試験において認められた有害事象の発現率を比較した. 比較した試験は, 以下の4グループに分類した. 初回承認および効能追加承認との間で, A) 同一癌腫・同一用法・用量, B) 同一癌腫・異用法・用量, C) 他癌腫・同一用法・用量, D) 他癌腫・異用法・用量. 結果 : 2009~2014年の間で効能追加承認が取得された31事例について調査を行った. グループAでは5事例すべてにおいて相関係数が0.8199, 0.7844, 0.7399, 0.7345, 0.6370と高い結果が得られた. 結論 : 抗癌剤の効能追加承認を計画し, 癌腫および用法・用量が同一である場合, 選択的安全性データ収集の採用を検討すべきであると考えられた.

  • Ryota KITAWAKI, Mitsuo UMEZU, Kiyotaka IWASAKI, Hiroshi KASANUKI
    2016 年 6 巻 3 号 p. 281-293
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    ソフトウェア医療機器 (Software as a Medical device, SaMD) は患者との接触がないため, 従来の医療機器ソフトウェア (Non-SaMD) のような直接的な危害ではなく, 間接的な危害を引き起こし得る. 本研究の目的は, 上記2種類に分類される, ソフトウェアを含む医療機器の間接的危害の実態をアメリカのリコールデータから分析することである. アメリカにおける医療機器のリコールのうち, 米国食品医薬品局がソフトウェア起因としたものを対象に, 各リコール製品がSaMDか否かに分類した. また, フィジカルなもの (Group 1), 情報に関係するもの (Group 2), データに関係するもの (Group 3), その他 (Group 4) の4つの故障モードに分類した. 2009~2014年の全リコール (6,393件) からソフトウェア起因のリコールとして抽出した712件に対して分類を行った結果, 間接的危害に繋がり得るGroup 2が408件 (57%) で第1位を占めており, 直接的危害に繋がり得るGroup 1が122件 (17%) で続いた. Group 2の408件中387件 (95%) がリコールクラスⅡとなっており, 6件 (1%) はリコールクラスⅠとなっていた. 6件のうち4件はNon-SaMDにて, 2件がSaMDにて起きていた. 本研究によって明らかになったこの事実は, 情報提示機能の安全性について今後さらに理解を深めていくことの重要性および安全対策が課題であることを示唆している.

  • 髙山 茜, 成川 衛
    2016 年 6 巻 3 号 p. 295-305
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    薬価収載されて以来, 初めての薬価が改定された時点での医薬品の薬価と市場での取引価格との差異に影響を与える因子について研究した. 2004年10月~2014年12月の期間に薬価収載された303品目の新有効成分含有医薬品のうち, 新薬創出・適応外薬解消等加算が適用された品目, 再算定を受けた品目を除く104品目を研究対象とした. 研究対象品目について, 薬価収載されて以来, 初めて薬価が改定された時点での薬価と市場での取引価格の差異 (推定乖離率) を算出した. 競合品目数の多い領域に属する品目では, 競合品目数の少ない領域に属する品目に比べ, 推定乖離率は大きかった (p=0.0001). 市場環境の変化により, 常に変動している市場で取り引きされる医薬品価格に基づき, 既収載医薬品の薬価を定期的に改定する我が国の薬価制度は, 医薬品の市場価値を定期的に見直す機会を与え, 市場価格の変動を公定薬価に反映するための有用な制度であると考えられる. 医薬品市場を, 製品の価値に見合う利益を獲得できる市場とするためにも, 個々の医薬品の価格が医薬品の臨床上の価値を表す指標となるよう, より良い薬価基準制度を検討するとともに, 医薬品の価値に見合った市場実勢価格が維持されるよう, 流通改善に継続して取り組むことが重要である.

  • 木村 美咲, 網岡 克雄, 小野寺 隆芳, 丸 宗孝, 澤田 康裕, 工藤 賢三, 小林 江梨子, 佐藤 信範
    2016 年 6 巻 3 号 p. 307-318
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    消費者による安全で効果的なOTC医薬品使用のためには薬剤師による情報提供や服薬指導が重要であるが, OTC医薬品についての主な情報源は患者向けの添付文書であり, 医療関係者である薬剤師にとって, OTC医薬品の情報は十分でない可能性が考えられる. そこで本研究では, OTC医薬品の添付文書に関する薬剤師の意識調査を行い, 現在のOTC医薬品の情報提供における課題点を検討することとした. 病院に勤務する薬剤師 (以下病院薬剤師) および薬局に勤務する薬剤師 (以下薬局薬剤師) それぞれ30名を対象として, OTC医薬品の情報に関するアンケート調査を実施した. 調査内容は, 回答者基本情報およびOTC医薬品に関する経験, 医療関係者の視点におけるOTC医薬品の情報量を問うものとした. 病院薬剤師29名, 薬局薬剤師30名から回答が得られた. 医療関係者の視点から, OTC医薬品の添付文書に記載されている情報量が適当であると思うか, という質問に対し, 「適当」と回答した者は, 病院薬剤師で69.0%, 薬局薬剤師では50.0%であった. また, 「不足」, 「やや不足」と回答した者の合計は, 病院薬剤師と薬局薬剤師のそれぞれ約3割であり, 相互作用や体内動態, 副作用の詳細, 各項目の記載根拠等の情報が必要であるとの意見が得られた. さらに, 病院薬剤師および薬局薬剤師共に半数以上の回答者がOTC医薬品について調べた際に困った経験があると回答した. 病院薬剤師, 薬局薬剤師共にOTC医薬品の添付文書の情報量は適当であると感じている者が多かった一方で, 相互作用や体内動態, 各項目の記載根拠等についての情報が必要とされていることが明らかとなったことから, 薬剤師が消費者に情報提供や服薬指導を行ううえで, これらの情報を充実させた情報媒体が求められていると考えられる.

特集(市販後適正使用に関する最近の話題)
  • 山田 香織, 石黒 智恵子, 宇山 佳明
    2016 年 6 巻 3 号 p. 319-325
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    独立行政法人医薬品医療機器総合機構 (PMDA) は, 従来, 主として副作用報告や製造販売後調査結果等の情報に基づき医薬品の安全性を評価してきた. PMDAは市販後の医薬品の安全対策を強化し, 従来のプロセスの限界を補うためのさまざまな取り組みを行ってきた. 本稿では, PMDAにおけるいくつかの取り組みについて述べる. PMDAは平成21年にMIHARI Project-Medical Information for Risk Assessment Initiativeを開始した. 本事業は, 電子診療情報を用いた薬剤疫学調査を安全対策に活用した新しい体制を構築することを目的としている. 本事業では, 多くの試行調査を実施し, 薬剤疫学研究におけるレセプトデータ, 病院情報システムデータ, DPCデータの特性を評価してきた. 試行調査の成果や経験に基づき, 平成26年度からは本格運用を開始した. また, 平成23年度には, 市販後安全対策のために国内の複数の医療機関のさまざまな電子診療情報を解析するための新たなシステムを開発するプロジェクトを開始した. このシステムをMID-NET®と称している. 現在は, 平成30年度からのMID-NET®の本格運用に向けて, パイロット試験を含めデータの信頼性や解析バリデーションに関する試験を実施している. PMDAはこのような活動を通して公衆衛生の向上に貢献するため, 今後も継続的に対応を進めていく予定である.

  • 村上 裕之, 込山 則行, 堀 明子
    2016 年 6 巻 3 号 p. 327-334
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    医薬品リスク管理計画 (Risk Management Plan : RMP) は, 医薬品の開発から市販後までの一貫したリスク管理をひとつの文書としてわかりやすくまとめたものである. RMPは主に安全性検討事項, 医薬品安全性監視活動, リスク最小化活動の要素から構成されており, 本邦におけるRMPの制度は2013年4月に施行された. 現時点でRMPが施行されてから3年が経過し, これまでの医薬品医療機器総合機構 (PMDA) におけるRMPの評価に関する事例経験も蓄積されつつある. 本稿では, RMPの概説とともに, これまでのPMDAにおけるRMPの審査経験を踏まえたRMP評価の最新の状況について紹介する. また, 医療現場におけるRMPの安全対策への利活用の推進も含め, RMPに関する今後の課題についても検討する.

  • 成川 衛
    2016 年 6 巻 3 号 p. 335-343
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    国内外において医薬品の市販後リスク管理に対する関心が高まっている. 本稿では, 我が国におけるこれまでの市販後安全性監視の状況を振り返りつつ, 安全対策の視点から, 近年, その利用のための環境整備が進んでいる医療情報データベースおよび自発報告データベースの特徴と利用についての概況を述べる. また, リスク最小化活動の効果を評価していくための取り組みの重要性を紹介する. 今後, 各種のデータベースの利用も含め, 医薬品の市販後安全性情報の収集のための手法を多様化させていくことが必要であり, その際には, 薬剤疫学に関する基礎的な知識と経験の蓄積がその重要な基礎となる.

  • 青木 事成
    2016 年 6 巻 3 号 p. 345-353
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    医薬品の承認申請に際し, 日本でもそのリスク管理計画 (Risk Management Plan : RMP) の策定と提出, そして公開の仕組みが整備されて2年ほどが経過した. RMPが適切に機能するならば, 仮に「極めて有効で, 極めて副作用リスクが心配」な物質であっても, 机上の論理ではその「極めて有効」な物質が, 病気に苦しむ患者さんに医薬品として届けられるチャンスが広がることになる. すなわち, RMPに含まれるリスク最小化計画が奏効し, 重篤な副作用発現は最小限にセーブされ, 一方でリスク監視計画の実行により承認時には気づけなかった新たな知見を適時に的確に炙り出すことができる. リスク最小化計画はこの知見を盛り込みさらに向上する, という訳だ. しかしながらRMPはまだ2年生, 3年生といったところであり, こうした机上の理想論とははなはだ大きな開きがある. 薬剤疫学的視点の導入はこの開きを改善する最重要ファクターであろう. 産業界としても真摯にこれを学び修得することで, より多くの医療貢献, 患者さんの命への貢献を実現することができる.

  • 大石 純子, 大島 裕之, 高木 尚志, 豊田 浩子, 渡部 ゆき子, 白ケ沢 智生, 丹羽 新平, 宮川 功, 慶徳 一浩
    2016 年 6 巻 3 号 p. 355-365
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    実装から3年が経過したJ-RMPについて, 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会の活動で得られた経験を踏まえ, ①安全性検討事項の特定, ②審査過程, ③追加の安全性監視活動の3点について, 現状と課題に基づく提言および今後のあるべき姿について述べた. 医薬品の安全性プロファイルを踏まえて設定された安全性検討事項, RMPの審査過程, 追加の安全性監視活動のいずれにもPMDAと企業の間に考え方の乖離や課題があることが明らかとなった. 今後は, 医薬品のライフサイクルを通じて良好なベネフィット・リスクバランスを維持するために, 安全性を適切に評価・検討することに主眼を置いてJ-RMPを策定する必要があると考えられた.

シリーズ(医薬品・医療機器評価をめぐる最近の話題)
  • 諫田 泰成, 山崎 大樹, 関野 祐子
    2016 年 6 巻 3 号 p. 367-374
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/09/30
    ジャーナル フリー

    ヒトiPS細胞の技術開発により, 今まで入手が困難だったヒト細胞をin vitro試験系に利用できることから, これまで実験動物等を用いていた医薬品候補物質の探索, 有効性, 安全性の評価等への応用に急速に関心が高まっている. さらに, 政府の「健康・医療戦略」 (2013年6月14日閣議決定) にも, 「新薬開発の効率性の向上を図るため, iPS細胞を用いた医薬品の安全性評価システムを開発する」と掲げられ, iPS細胞技術の出口戦略が期待されている. われわれはヒトiPS細胞由来心筋細胞の応用可能性を明らかにするため, 多点電極アレイ (MEA) システムを用いて催不整脈作用を検出するプロトコルを整備してきた. MEAプロトコルと予備検討結果をもとにして, 国立衛研が主体となり公的研究費に基づいて産官学の専門家によりJiCSA (Japan iPS Cardiac Safety Assessment) コンソーシアムを結成した. われわれは, 日本安全性薬理研究会, 日本製薬工業協会等と協力してプロトコルを開発し標準化した. 多施設間で再現性を検証することにより, 頑健な実験プロトコルを整備してきた. さらに, 催不整脈性リスクを評価するため, 多施設間で催不整脈性リスクの異なる60化合物を用いて大規模検証実験を実施し, 予測性を検証している. 一方, 米国ではFDAを中心とする国際的なコンソーシアムCiPA (Comprehensive in vitro Proarrhythmia Assay) が結成され, マルチイオンチャネルにフォーカスした統合的な催不整脈性リスク評価法を検証している. われわれは, CiPAのMyocyte Work Streamと実験プロトコルや評価指標, 選択的なイオンチャネル阻害剤等の予備検討結果を共有した. 日米EU医薬品規制調和国際会議 (ICH) S7Bガイドライン改訂を視野に入れた国際バリデーション試験が2016年から実施されることとなった. 本稿では, ヒトiPS細胞由来心筋細胞を用いた安全性薬理試験法の開発, および国際標準化に向けた取り組みを概説する. これにより今後, ヒトiPS細胞を用いた心臓安全性評価の早期実現が期待される.

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