安全人間工学とは何かについて日本人間工学会・専門部会の考え方を述べ,その主対象とする自動化システムがオペレータに与えるプラス面とマイナス面を挙げて,人間因子にかかわる安全問題の大部分はこのマイナス要因に基づくと指摘した.また人的エラーや操作ミスは人間特性の弱点や限界から生起するが,それを事故につなげるには内的な主体的条件(生理的には大脳の活動フェーズ)と外的な背後要因(四つのM)との偶発的な結合が必要であり,両者の連繋を断つ方向で安全工学と人間工学は提携したい と提言した.
最近の事故を分析した結果,人的要因の中で誤判断によるものが多くなりつつある,この誤判断をなくす方法について考察する.また人的要因の中でシステムエラーとヒューマン・エラーと比べたとき前者の割合が増える傾向にある.これ等を改善することがシステム安全につながるものであるとし,人間の特性に合ったシステム設計をすることが大切であるとし,FTを活用して安全システムを設計する手順とその費用との関係についてのべている.
人間工学と安全工学の関連づけを目的とする本文はつぎのように構成される.動作分析の説明を介して人間工学の目的を具体的に示した後,
人間の心理学的特性の表現法と人間特性の生理学的測定法を紹介する.つぎに,人間特性を多面的に抽出すると共に人間特性に適合した安全システムを探索する.また,人間の行なう制御作業に対する人間特性の諸影響と人間の欠点を補償する制御系の構造について論ずる.最後に,人間特性の成因探索に直結する人体内における神経信号の伝送機構に触れる.
制御しやすい機械を設計することは,人間-機械系の安全性という観点からも重要である.従来の航空機や白動車を中心にして実験的に行なわれてきた,設計パラメータや応答パラメータと制御しやすさの関係に関する研究は,結果の合理的説明や一般性に貧しい.そこで,自動車を例にとり,このような機械の特性と構械の制御しやすさの関係を合理的に説明することのできる理論的な取扱いについて説明し,一般に,制御者が制御しやすいとする機械の設計のための参考に供しようとする.
THERP(Technique fof Human Error Rate Prediction)は人間-機械系の信頼性評価のための一技法であり,そのグラフ的手法をEvent Treeの詳細化と見なおし,FTAやFMECAとの技法的関係を含めて解説ずる.次に人間のエラー・レイトの推定がハードウェアの部品信頼性推定とは本質的な違いがあることを指摘し,レイティングの問題を考える.最後に評価事例としてWASH-1400におけるエラー・レイトの扱い方を簡単ながら説明する.
人間の情報処理過程の基本ステップ,およびその過程で行われる10種の作用をあげ,情報処理の過程で介入してくる誤判断・誤操作のきっかけとなる要因を,それ立場から分類し,管理・監督上の対策を示す一覧表にまとめた.
産業用ロボットの安全対策は,機械の信頼性が十分でないこと及び汎用機としていろいろな使われ方がなされることなどもあり,重要ではあるが一般化が難しい.しかし,最も基本的な考え方としては,(a)産業用ロボットの安全上の機能をできるだけ標準化すること,(b)産業用ロボットが自動運転されている間は,ロボット動作領域に人間を侵入させないこと,(c)非常停止機能を確保すること,(d)ハードウェアだけでなく,ソフトウェアや作業者の適確な管理体制をとることである.
新幹線の無事故の運営は,蓄積された技術を主体にそれらの整合を重視し,人間との適合にも当初から留意した,竪実なシステム構成に負う所が大きい.勿論,未踏の分野を拓く苦心も多かったが,事前評価とシステムヘの影響の周到な配慮が,成功への道となったと見られる.マン・マシン・システムとしての安全の追及も,運転台構造・乗務員管理コントロールセンターの計画などに及んで,その効果をあげている. 現在,さらに安定性の高いシステムとすべく,実態の分析や工学・人間科学からの研究が進んでいる.
最近における航空機の大型化,高性能化及びその運航を支援する航空システムの発達はめざましいものである.航空事故は,ライト兄弟の初飛行以来いつも人間~機械の共存しあう場としての航空機につきまとっている.種々の航空事故報告書を読んでみると,航空医学,航空心理学の方で論じられたことに加えて,メディア(支援媒体)・マネージメントと密接に関連し,既知の教訓としての諸問題点に克明に忍耐強く対処するしかないと感じる.人的要因として既に論ぜられたこと,事故事例,問題点と対策等につきご紹介する.
現行の大型輸送機の操縦席には,視覚,聴覚はもとより触覚までを利用した種々の警報装置が装備されている. おのおのの警報システムの必要性及び性能は充分に検討され,装備されたものである.しかし,マシンシステムとパイロットのトータル・システムとしての観点からの検討については種々問題がある.飛行という特殊な環境の中で,パイロットのワーク・ロードと情報処理能力との関連で,現行の警報システムの弱点の問題,それらの諸問題を前提として,新たにエレクトロニックスとコソピュータを用いた警報システムの概要について述べた.