原子力発電所の安全性と経済性をバランス良く向上するため米国では原子力発電所の設計,建設および維持管理に確率論を利用したリスクベース技術の研究が開始された.この背景には約40年の運転実績により,損傷モードおよび割れ進展速度等の評価が精度良く行えるようになってきたことが挙げられる.米国機械学会では規格・基準の見直しを開始するため1991年にリスクベース研究会を発足し,1998年よりサンプルプラントヘサンプル適用を行い,現状の安全性を確保した状態で溶接線の検査量を現在の1/15,動的機器の試験を1/3に低減できることがわかった.この結果を受け,1998年より規 格・基準の改訂を開始した.今回のDesignbyAnalysisからDesignbyRiskBaseへの改革は,約30 年前のDesign by RuleからDesign by Analysisに相当する大きな改革となっている.
事故の再発防止,類似事故の未然防止には,ヒューマンファクター的観点からの事故調査・分析が重要である.事故の直接原因のみならず潜在する背景要因を明らかにすることにより,共通の背景要因に起因する事故を未然に防ぐことが可能となる.事故やヒヤリハット事例の調査分析には,第三者機関の専門家によるものと現場スタッフによるものがあり,それぞれに目的・特徴が異なる.専門家による調査・分析は独立した機関により行われ,結果が公開されることが望ましい.現場スタッフによる分析は,そのプロセスを通じて安全への意識が向上するという点でも効果的であるが,客観的な分析を支援するための手順等を整備することが望ましい.このようにして得られた情報や分析結果は関連する領域内で共有し協調・補完しあうことにより,より有機的な活用が可能となる.
近年,EC閣僚理事会は全加盟国に対して機械の設計,製造,販売,使用において守るべき安全仕様を要請する「機械指令」を発行した.この要請を実現するため機械安全規格,機能安全規格などを核とした多数の国際規格が制定され,発効した.これらはリスク低減による安全確保の考え方で工作機械など従来型の機械のみならず,化学プラント,原子力,交通などおよそすべての分野の機械・装置類に適用される.国際規格であるため,欧米のみならず,東欧,アジア・中南米まで世界中の機械類の貿易に 影響を与える.
プロセスプラントに備えられている安全計装システムは,プラントのリスクを社会的許容水準にまで低減するための一っの手段として重要な役割を担っている.昨年成立した国際規格IEC61508では,その役割と機能を明確に規定しており,安全性が定量的に証明できることを求めている。欧米を中心に普及している安全計装システムは,この国際規格を念頭において設計されてきたので,この新しい規格に対しても事実上適合している.これらの安全計装システムはきわめてまれな作動要求時にも確実に働くために,通常の制御機器とは異なった観点で万全の自己診断をつねに実行しており,故障が潜在する確率をきわめて小さくしている.日本においてもプラントの安全をさらに向上させる手段として期待される.
近年,IEC61508に代表されるような,安全機能に対する国際規格やその規格に対応した国内規格が制定されてきている.またそれらの規格に適合した安全計装システムも現れてきた.これらのシステムの特徴を理解するためには,安全計装システムのうちロジックソルバーと呼ばれるロジック処理を行う中央処理部分に適用されてきた,リレー,ソリッドステート回路と各種PLC(プログラマブルロジッ クコントローラ)の信頼性と安全1生向上技術の変遷を理解することが必要である.
安全や環境に対する社会的な関心の高まりの中,設備の設計から廃棄に至るまで系統的でより透明性が高いアプローチで安全を管理していくことが求められている.このような動向における機能安全の国際規格であるIEC61508について,その要求事項のうちプラントオーナーなどの事業主やエンジニアリング会社の観点から特に重要と思われる以下の2点について概説する. ・潜在危険の同定,許容リスクレ/ベルの決定,および安全度水準(SIL)の割付 ・全安全ライフサイクルの適用 また,オランダ・シェル社のIPFと呼ばれる手法にっいても適用結果を含め紹介する.
国際安全規格IEC61508の主要部が1998年11月と12月に発行された.規格は・プラントなどシス テムのリスク解析を前提としており,リスク軽減のための電子技術を用いた安全装置の機能安全評価を要求している.規格の方法論は最近の原子力発電所におけるデジタル系の信頼性評価等の確率論的安全評価と同様の技術が基盤となっている.ここではIEC61508と原子力発電所の確率論的安全評価の共通 性について紹介する.
プロセスプラントの事故は単一の原因によって発生することはまれで設計,施工,操作,設備管理などの複数の不備が複雑に絡み合って発生することが多い。このため,一つの側面のみからの対策では片手落ちになり総合的な対策,管理が必要となる. 本シリーズもそろそろ終章にきており,今回と次回に2回に分けて,プラントの安全確保にあたり重要な安全性解析手法にっき概説する.