計算機が開発された当初は,まさに四則演算のような計算を行うことが主目的であったが,つぎに記憶機能を積極的に利用するデータ処理技術が発達し,続いて人工知能と呼ばれるような人間の思考過程に近い論理演算のアルゴリズムが研究されるようになり,最近では情報技術といわれている計算機と通信機能とが結合したシステムが急激に発達してきた.安全の問題に対してこうした情報処理機能を利用する考え方の典型的な例を紹介し,これからの安全管理システムの開発の方向にっいて概観した.
設備の能力をそのライフサイクルを通じて最大限に引き出すためのライフサイクルメンテナンス活動を合理的に行うためには,設備要素ごとに適切なメンテナンス方式を選択することが必要である,このためには,劣化・故障特性や保全技術などの技術的要因と,故障の重要度,設備管理特性などの管理的要因を考慮する必要がある.このようなメンテナンス方式の決定手法としては,RCM(Reliability Centered Maintenance)やRBI(Risk Based Inspection)が代表的である.また,ライフサイクルメンテナンスの効率的な実施には,情報システムの支援が不可欠である.特に,劣化・故障に関する予測情報のフィードフォワードとメンテナンス実績情報のフィードバックを効果的に支援するシステムが重.要であり,設備モデルと劣化・故障知識に基づく定性的劣化・故障予測システム,定量的な劣化進展予測を行うライフサイクルシミュレーションシステム,MP(Maintenance Prevention)情報管理システ ムなどが提案されている.
森林伐採や地形改変を伴う開発が,周辺地域の強風の発生に影響を及ぽす因子として,地形および樹木因子を定義した.なお,生活環境への影響を考慮して,風速4m/s以上を強風として扱うこととし た, 強風発生頻度,強風風向頻度と影響因子との関係について,東北地方のアメダス気象観測点を対象として,重回帰分析を行った.その結果,東北地方日本海側の平地と山の混在する地形形態において季節別に,地形因子を用いた強風発生頻度の関係式と,地形および樹木因子を用いた強風風向頻度の関係式 を導くことができた. 導かれた関係式を用いて,地形改変を伴う開発地域周辺を事例として,強風の発生状況がどのように変化するか予測した.その結果,強風発生頻度は,山の切り取りが行われる計画地内では減少するが,計画地周辺では相対的に増加する傾向があると予測された.
国連危険物輸送専門家委員会は,1956年に危険物のすべての輸送モード(陸・海・空)における国際輸送の安全を確保するための輸送基準を内容とする「危険物輸送に関する勧告」を出版し,危険物輸送基準の国際的調和を図ってきた.一方,/992年の国連環境開発会議は,有害化学物質の製造,輸送,貯蔵,消費,廃棄など,そのライフサイクルすべてにおける安全管理を適切に行うために,対象とする有害化学物質の範囲(定義)やそれを地球規模で調和を図るべきであることを決議した.国連経済社会理事会はこの決議に基づく具体的内容の実施機関として,国連危険物輸送ならびに化学物質の分類および表示の世界調和システム専門家委員会を設置した.この委員会は国連危険物輸送専門家委員会を改組 したものである. 本稿は,危険物や有害化学物質の輸送をはじめ製造,貯蔵,消費,廃棄などにおける取扱いについて国連がどのように活動しているかを紹介している.
日本における石油貯蔵タンクの火災等事故件数は,欧米,特に米国に比較すると一般的に少ないとされている、そのため,皮肉にも米国ではタンク火災の防消火に関するノウハウが多く蓄積され1)・21,また各種の新しい資機材が常時開発されており,その面では日本は立ち遅れていると思われる. 2001年6月,米国ルイジアナ州オリオン製油所において直径81mの浮き屋根式ガソリンタンクの全面火災が発生した。この火災は過去世界で起こった最大のタンク火災であるとともに,フットプリント消火法を採用して事前の計画どおりに消火に成功した,貴重な事例でもある. この事例を考察することにより,日本においてはまだ普及していない,フットプリント概念に基づく大型タンクの消火方法について解説する.
近年の環境保全,資源の有効利用などへの関心から,多量の廃棄物がリサイクルされているが,このリサイクル過程では,粉じん爆発やガス爆発などの災害が頻発している.平成13年度からの特定家庭用機器再商品化法(家電リサイクル法)の施行に伴い,対象機器(エアコン,テレビ,冷蔵庫,洗濯機)のほか,パソコン,プリンターなどのオフィス機器も多量にリサイクルされるようになった。この過程で,リサイクル品は破砕・粉砕処理され,粉じんや含まれている可燃性ガスの発生・放出に伴い,爆発事故が頻発するようになった.本稿では,リサイクル品(おもに家電製品)の破砕・粉砕により発生する粉じんの爆発性の評価や爆発対策について述べる.
安全工学,信頼性工学それぞれ工学的専門分野を形成しているが,学術体系として近接した関係にあり,オーバーラップしている部分もあるのではないかと推測できる.筆者は,システム安全や確率論的安全評価・管理の専門分野で教育・研究を実施してきた.この過程で,両分野の相違点,また異なるがゆえの接点について,多少の具体的な知見を得たと考えている・そこで,本講座では・当該技術・学術分野の総合あるいは境界領域の理解と発展に資することを目的として,連載の形式で,両工学の接点に っいて概説する.
1997年の動力炉核燃料開発事業団アスファルト固化処理施設火災爆発事故の発災原因を究明した.硝酸塩,亜硝酸塩などからなる塩とアスファルトの混合物は約180℃でドラム缶へ充填され,自然冷却 中約20時問後に発災した.原因は,混合物を製造したバッチ29(B29)およびB30の廃液にリン酸塩を約7.7g/L含有させ,廃液供給速度を約160mL/hに低減させた製造条件の変更にあった。廃液は約250℃のアスファルトと混練され,条件変更によるリン酸塩の存在下で水分がより高速蒸発するため,混合物の充填時に塩粒子に多量のNaHCO3を含有した.これがただちに分解して塩粒子を多孔質化し,200。C以下約160。C以上の温度域に現れる界面反応による微弱な酸化還元反応が生起した.この反応のため充填ドラム缶は蓄熱発火した。