最近,設備の「安全」が注目されている.ヒューマンファクターは,設備安全を構成する一つの大きな要素である.従来,各種設備産業においては,労働安全という観点から個人の安全教育が行われてきた.最近は,これをヒューマンファクターレベルにまで拡大し,know-why の観点で,より実際的な教育が行われるようになってきた. 本稿では,化学,航空,鉄道など各種設備産業におけるヒューマンファクター教育の現状を紹介するとともに,電力中央研究所が進めてきた電力産業におけるヒューマンファクター教育について述べる.
労働災害の中でも建設労働災害が占める割合は依然として高く,とりわけ建設機械が関連する災害は重大な結果につながりやすい.掘削機による災害の中には,オペレータから明らかに視認できる位置にいたはずの周辺作業者が被災するケースも少なくない.こうした災害が発生する背景を探るため掘削機シミュレータを利用した実験を行い,オペレータは掘削機の操作中にどの様な対象を注視しているか,どの様な要因が周辺視パフォーマンスに影響するのかについて検討した.また,実験・研究といった用途以外にもさまざまな分野での応用が期待されるシミュレータであるが,その活用にあたっての方法論に関しては解決すべき課題も数多い.ここでは,労働災害防止を目的とした教育・訓練ツールとしてシミュレーションを活用する際の今後の課題について考察する.
ラジカル重合による樹脂製造は触媒として無機系過酸化物,アゾ系化合物および有機過酸化物が用いられている.汎用樹脂製造は生産性,樹脂物性からおもに有機過酸化物が用いられる.しかし有機過酸化物は熱的に不安定で外的要因により容易に分解し,火災事故の原因になる場合がある.反応制御の不備,除熱などの設備の問題,監視装置の技術・設置の問題,取扱いの不手際,管理不十分などの状況で火災事故に至っている. 本報は樹脂製造において有機過酸化物が関与した火災事故事例をとりあげ要因を分析し対応策を提案 した.
宇宙開発事業団は,ロケット等の安全設計手法として,システムの全ライフサイクルについて,潜在的,顕在的な危険要素であるハザードを識別して,これを除去,最小化,制御して事故等によるリスクを抑え,最適な安全を設計に織り込んでいくシステム安全の手法をとってきた.また,万一,打上げ時に事故が発生した場合においても人命および周囲に影響を及ぼさないよう保安距離をとって安全の確保を図ってきた.この保安距離の設定に必要な事故時の爆発威力(TNT 換算率)をロケットの大型化に伴って見直すため,固体推進薬および液体酸素/液体水素の衝突実験を実施した.これらについて概説するとともに,飛行安全について触れる.
消費生活用製品事故の情報については,製品事故の未然・再発防止に資すること等を目的に経済産業省等により全国的な規模での収集等がなされている.また,被害者の適正な権利行使・救済を図る観点から製造物責任(PL)法施行に際して,各製品分野ごとに設立された「裁判外紛争解決(ADR)」機関等による紛争解決が行われている. 現在,司法制度改革の一環として,ADR による紛争解決の有用性を踏まえてADR にかかる基本法制制定のための検討がなされており,ADR による紛争解決のさらなる充実が期待されている. 本稿では,各種制度による消費生活用製品事故の現状を概観し,紛争の特性を踏まえた民事上の紛争解決の実態等について,消費生活用製品PL センターの活動状況を中心に述べるものである.
独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)は,経済産業省所管の消費生活用製品等を対象に,地方自治体(消費生活センター等),財団法人製品安全協会,製造業界および流通業界,消費者団体等の協力を得て,製品事故に関する情報を収集,調査・評価し,公表または情報提供を行う事故情報収集制度を昭和49 年から運用している. 事故情報収集の対象としている事故は,例えば,福祉用具,家庭用電気製品,燃焼器具,乗物,レジャー用品,乳幼児用品等の不具合等により人的被害が生じた事故,人的被害が発生する可能性の高い物的事故および製品の不具合により生じた可能性のある事故を対象としている.平成14 年度(平成14 年4 月~平成15 年3 月)に収集された事故情報の収集状況,収集された事故情報に関する調査内容等の公表を行った. さらに新たな動向解析を行ったので紹介する.