トラブルに対し,ヒューマンファクターの側面からの根本原因分析を実施することは,実効性の高い再発防止,さらには重大事故の未然防止に効果的である.根本原因分析結果を充実させる鍵となるのは,トラブル発生後の情報収集である.収集した情報をもとにした背後要因追究の支援方法は,世の中で提案されている根本原因手法で提示されているので,分析者のレベルや分析対象トラブルの重大性などに合わせて選択するのが望ましい.分析結果については,単独で再発防止に活用するほかに,事業所内で共有化されたトラブルの分析結果に対して傾向分析をして特徴を抽出すると活用の幅が広がる.傾向分析結果を事業所の共通的な問題点としてとらえ,安全活動を重点化することにより,活動のマンネリ化を防止できるとともに,その時々の事業所の弱点に的確に対応できるだろう.
現代の産業社会で作業をする人間は,高度に複雑化した作業システムの中に置かれている.そこではだれもが全体像を俯瞰できないまま作業に従事することとなる.本稿では,巻き込まれ事故を題材として,事故発生にはヒューマンファクターの各側面がいかに関与しているのかを明らかにした.そして,事故原因は,その時点での被災者自身の特別な行為ではなく,作業の日常性にあることを示した.このような現場でのリスクを含んだ連綿として継続されるインフォーマルな工夫や知恵が安全マネジメントに反映されないまま,システム管理が行われることがある.これが組織事故へ発展する.これについてJCO 事故を例にして説明した.そして,そこで示された日常化された逸脱行為を許す組織体質であるか否かを自己診断するツールとして安全文化評価ツールを提案した.
粉体技術の進展とともに物質を微粒化して用いる産業が増えている.国内では,エネルギー資源の有効活用,環境問題に対応し,循環型社会の形成を推進するため,廃棄物リサイクル産業が増加している.リサイクル時代に入った2001 年以降に発生した粉じん爆発災害について,現地調査,災害調査を実施したものを中心に,設備ごとに調査結果を交えて概説した.
ナノテクノロジーはさまざまな技術革新をもたらすと期待され,多くの国で重点分野として位置づけられている.その反面,社会的影響に対する懸念もあり,特に至近の最重要課題として工業用ナノ粒子リスク評価管理が挙げられる.リスクを被る対象は労働者,消費者,環境であり,この中で労働者がナノ粒子に接触する確率が最も高く,現行のリスク評価プロジェクトのほとんどが彼らの安全・健康を目的としている.ハザード評価項目では吸入毒性と経皮毒性の評価が優先されるが,標準参照材料および気中,液中へのナノ粒子分散技術の確立などが代表的な課題である.現在,日米欧を中心にして国家主導のリスク評価管理プロジェクトが遂行されている.日本では産業技術総合研究所などの国立研究所が中心となり,調査,リスク評価を実施している.またOECD,ISO も国際合意形成の場として活動している.
海運業の事業者と関係者に安全管理の現状についてヒアリング調査を行った.聞き取り内容を,安全文化を構成する要因ごとに分類し,安全文化の醸成にとって重要な要素を抽出した.これを安全文化のマネジメントを担う層ごとに整理した結果,規制者層の要素は制度運用の充実と実務者への支援であった.経営者層では人材開発やコミュニケーションなどであった.管理者層では現場との交流,人材確保と育成,クライシスマネジメントであった.職員層ではプロ意識,相互理解,報告などであった.海事関係機関の層では零細企業への支援,グループ会社のコミットメントやコミュニケーションの強化などであった.これらの内容から,方針と計画,共通認識,柔軟性,シーマンシップ,公共性,リスク認識,クライシスマネジメントを当面の目標として提起した.
1984 年,インド・ボパール(Bhopal)で起きた大規模な毒性ガス(イソシアン酸メチル)の漏洩事故について,現地訪問,最近出版された書籍の翻訳等を通して検証した.また,事故20 年後にインドで開催された国際会議について紹介した.本事故は,同物質と水との複雑な反応,人体へのさまざまな影響等,技術的な面での問題も多いが,それ以上に安全に対する企業の取組みや企業の体質が問われた.発展途上国での安全防災の基準は先進国と異なる場合があるが,軽んじることは許されない.発展途上国へ進出する企業にとって本国同様の十分な防災対策を取る必要がある.
可燃性液体の定義,法規制,評価試験方法,事故例について紹介する.多くの可燃性液体は消防法による規制が係る.国際的な流通では,危険物輸送に関する国連勧告(国際連合危険物輸送勧告書)がベースになっている.その危険性評価は,引火点の測定(タグ,クリーブランド,セタ式等)による.引火,爆発の危険性を有し,事故例は多いが,特に石油タンクの火災は消火まで長時間を要する場合がある.その危険性に応じて貯蔵取扱いをする必要がある.