ナノ材料は,幅広い分野での技術革新をもたらす期待がある反面,新たなリスクへの懸念もある.OECD やISO といった国際機関を始め,リスク評価のための取り組みが進んできている.ここで,まず関心を集めているのはヒト健康リスクである.リスク評価における困難さは,適切な有害性試験のための試料調製とキャラクタリゼーションにある.ナノ材料の有害性は,経験的には,比表面積と関連しているが,一方で,長い繊維状のカーボンナノチューブには,アスベスト様の有害性の懸念もある.作業環境での暴露ついては,許容暴露濃度の導出およびリスクの評価の事例が出てきた.材料や工程によってはリスクの懸念が否定できないものの,通常の粉じん暴露管理対策が有効であろうと考えられる.欧米の企業に既に見られるように,リスク評価を自社製品の開発・販売戦略の一環と位置付け,積極的にアピールすることが重要になってきた.
自然災害に備えるための基本的な思想として,“防災”という従来の思想から,“減災”というあたらしい思想への転換が,国内外の随所で確認されるようになっている.この思想の変化の本質を理解し,巧みに利用することは,社会的認知の研究において人が“何かを得るために行動しようとする”ことと,“何かを失うことを避けるために行動しようとする”こととでは,出現する行動や,行動の出現傾向そのものに違いが生じることを説明する“制御焦点理論(regulatory focus theory)”の視点から考えても,今後の自然災害対策施策に極めて大きな意味を持つことが推察される.本論では,より安全な社会や自然災害に強い社会基盤を構築するために,これから求められる自然災害リスク・コミュニケーションや情報提示のひとつの方法として,制御焦点理論の理論的な説明および応用に向けた展望をまとめた.
化学プラントはライフサイクルを通じて多様に変化するので,変更管理は化学プラントの機能及び安全を維持するために必要不可欠であり,プロセス安全管理(Process Safety Management;PSM)の中でも重要な要素の一つとされている.一方, PDCA サイクルのマネジメントの仕組みと業務実施に必要な資源提供の関係を明示したPSM 業務プロセスモデルが提案されている.本論文では,事例として取り上げた変更に関する業務の流れをPSM 業務プロセスモデル上でトレースした.その結果,PSM 業務プロセスモデルを参照モデルとして用いれば,変更実施,再評価,変更履歴の保存,及びプロセス安全情報の更新など論理的な変更の業務フローのあるべき姿を明示できることを確認した.
近年LNG プラントの大規模化が進んでいる.プラントの生産容量増加に伴い個々の安全弁容量も増加 する.停電時にプラントを安全にシャットダウンするため,停電で同時に吹く複数の安全弁容量を処理できるフレアシステムが必要となる.特に大容量安全弁の吹出しが重なるLNG プラントでは停電時に同時に吹く可能性のある安全弁抽出が重要となる.その際,安全弁吹出しの同時性抑制の根拠として安全計装系を用いる場合があるが,シナリオに作動要求時失敗確率を考慮する必要がある. 本稿ではLNG プラントデータを用い全停電時の安全弁同時吹出しシナリオに安全計装系の作動要求時失敗確率を考慮する手法を検討する.さらに安全計装系で同時性を削減する安全弁個数との関係について考察し,全停電時に考慮すべき安全弁同時吹出し量およびフレア設計容量を決定する設計手順を提案する.
REACH( Registration, Evaluation, Authorization of Chemicals)は化学物質の登録,評価,許可,制限に関するEU の規則であり,2007 年に6 月1 日から施行された.同規則は,EU 域内の生産者,輸入業者を対象としているが,域内の化学物質及び化学物質を使用した製品を対象とする為,EU に多くの製品を輸出するアジア諸国においても強い関心が示された.国際連合工業開発機関では,タイ政府からの要請を受けて,REACH 情報センターを設立し,タイ産業界・政府関係者にREACH に関する情報を提供した.またタイの研究・試験機関のREACH 関連化学物質の試験実施能力の向上を支援した.ベトナムにおいても同様に,政府からの要請を受けてREACH 及びRoHS 情報センターの設立,そしてベトナムの試験機関のREACH 関連化学物質の試験能力の向上を支援している.カンボジアでは,2010 年にREACH セミナーを実施し,現在REACH 情報センターの設立の準備段階である.
2010 年11 月,北海道苫小牧市にある醤油かすが貯蔵されている倉庫内において,作業員が酸欠症状を引き起こし,搬送後死亡するという事故が発生した.酸欠事故の原因は,貯蔵されていた醤油かすが発酵し,大量の二酸化炭素が発生し周囲の酸素を消費して,倉庫内が酸素欠乏状態となっていたためと推定された.本稿では,事故を紹介するとともに酸欠事故に至る危険性を含めた醤油かすの貯蔵特性を把握し,再発防止の為の基礎的データと安全対策を得ることを目的とした.