昨年2015 年は,首相官邸屋上の件やイベント会場等での落下など,ドローンに関する主に安全上の話題をよく耳にする年であったが,それを受けて航空法の一部改正が緊急的な措置として行われた.その結果,改正航空法が2015 年12 月10 日から施行され,ドローン等の無人航空機に対する社会が許容するリスクレベルが示された.本稿では,ドローンの安全上の話題を,その歴史や技術から解説し,安全上の懸念だけでなく,ドローン使用のメリットやベネフィットもバランスよく説明し,将来のビジョンや産業発展の方向性を解説する.
オリンピックのようなマスギャザリングは,公衆衛生危機管理の重要課題である.注目度が高く,テロのリスクにも備える必要がある.生物剤によるテロは,可能性は低いが,社会的影響は非常に大きい.マスギャザリングはその対策を見直しつつ,中長期的な対応能力を底上げする良い機会である.サーベイランスは,中核的対応能力の一つである.社会的関心が高い故,より低い閾値で,より素早い対応が求められる.特に「何も起きていないことの確認」が最大の課題となる.なお,サーベイランス能力の開発は,感染症のみならず,全ての健康危機管理を念頭に置くべきである.テロ対策の文脈では,公衆衛生機関に様々な機関との連携が求められる.特に,治安部局とのリスク・脅威評価の共有や,初動対応部局との統合的運用能力が重要であり,演習による強化が不可欠である.
ボイルオーバーの事故と研究について総説した.主に原油と重油が起こすこと,地震や戦争で消防力が損なわれた時に起こっているが,日本でも1964 年の新潟地震後に起きている.ボイルオーバーの研究は,燃料層内に形成される高温層の生成機構に注目していたが,バイオデイーゼルのように高温層を形成しない場合でもボイルオーバーのように激しい燃焼がみられる薄層ボイルオーバーの研究も行われている.ボイルオーバーがいつ起こるのか,燃料層厚さとの関係が調べられた.最近では,ボイルオーバーの抑制に関する研究が進んでいる.例えば,ビーズの投入でボイルオーバーの発生が抑えられる可能性がある.
近年,石油化学産業のようなプロセス産業の保安の確保には,安全文化が重要な役割を果たしていることが認識されてきており,いくつもの診断手法が提案されてきているが,診断結果で明確となった弱点を改善する対策を立案する際には,安全文化の構成要素間の関係を認識しておく必要がある.著者らは,多くの診断データを有していると共に,その結果が安全実績と相関があることが示された安全文化の8 軸に基づく診断手法で蓄積された診断結果に基づき,共分散構造分析を行うことにより8 軸を観測変数とし企業の経営,管理,運転の3 つの階層を構成概念とした因果モデルを構築した.このモデルを活用することにより構成概念スコアを算出して診断結果を比較評価するとともに,明確となった弱点に関わる構成要素間の関係を認識して安全文化醸成対策を立案することが容易となる.
石油コンビナートにおける最近の事故発生は現場保安力低下によるものであり,この要因を改善・強化することで,安全で安定した事業所の操業を実現することが,石油精製・石油化学等事業者にとっての重要な課題となっている. そこで安全工学会では経済産業省より平成25 ~27 年度の3 年間で現場保安力維持向上基盤強化事業を受託し,現場保安力の概念の整理,評価要素の検討と試行的評価を重ね,現場保安力評価マトリクスに基づく定量的な評価手法を提案し現場保安力評価マニュアルとしてまとめた.あわせて,各事業所ヒアリング等に基づく現場保安力強化マニュアルもまとめた.