Safety-Ⅱと,その方法論であるレジリエンス・エンジニアリングは,ヒューマンファクターズの国際的権威であるErik Hollnagel 博士らが提案してきたものである.細部については議論が続いているが,ごく簡潔にいえば,状況に応じた柔軟な対応による安全確保と向上といえ,いわば現場力を指すものである.Safety-Ⅱと対をなすものが,Hollnagel がSafety-Ⅰと位置付けるヒューマンエラー防止である.Safety-Ⅰ,Safety-Ⅱの議論では,そのテクニックにいきなり走るのは危険であり,背景に存在するヒューマンファクターズの理論構造を正しく理解することが強く求められる.本稿では,それらSafety-Ⅰ,Safety-Ⅱの概念,またそれに対応する方法論としてのヒューマンエラーの防止,レジリエンス・エンジニアリングについて,概要を述べる.
大学等において研究推進の活性化・学際化,人材の流動化やキャンパスの国際化が進む中,環境安全の分野においても,広い視野を持ち,思考力・実践力を身につけた課題解決型人材の育成が期待されている.また,「空間」において「モノ」「ユーティリティー」「ヒト」が相互に緊密に関連した複雑系システムである研究現場における環境安全教育は,あらゆる分野にも適用できるマニュアルを求めるのでは実効性が薄く,各分野に対応可能なフレキシビリティーが要求される.このような状況において,合理的かつ実効的な教育の実現には,座学で得た知識を自分自身の問題として実践的な知識にする教材の開発,座学・実習・体験学習・演習を組み合わせた教育手法の開発,環境安全基礎・研究安全基礎・専門分野の安全の各論・アドバンストな各論といった教育の体系化が必要である.
近年,水素の本格的な利用に向けて燃料電池自動車及び水素ステーションの導入が進められている.有機ハイドライド(例えばメチルシクロヘキサン(MCH))は水素エネルギーキャリアとして用いられ,MCH を用いる水素ステーション(MCH 水素ステーション)の導入が検討されている. 本論文では,MCH 水素ステーションの定量的リスク評価に適用するため,階層ベイズモデルを用いてMCH 水素ステーションの漏洩頻度を推定する方法を検討した.階層ベイズモデルは,Sandia 国立研究所が報告しているモデルをベースとした.ベイズ更新においては,Sandia 国立研究所の推定結果を事前分布として用い,国内の漏洩頻度を取り込むことにより更新した. その結果,定量的リスク評価に適用可能な漏洩頻度の推定値及び信用区間が得られた.
(公財)鉄道総合技術研究所 鉄道技術推進センターでは技術の継承,技術風化防止のための取組みの一つとして鉄道技術教材を作成・発行しており,入門編の「わかりやすい鉄道技術」シリーズと,中堅技術者向けの,より実務的な内容の「事故に学ぶ鉄道技術」シリーズがある.ここでは,「事故に学ぶ鉄道技術」について紹介する.
廃棄物処理の世界では,自社構内での事故もあるが,処理委託先での事故が圧倒的に多い.このような委託先での事故であっても,委託する側にも責任があることが少なくない. 特に気を付けなければならないのは,化学反応によるものだ.処理業者では委託する側の想像が及ばない処理を行っていることがある.事前にそれを把握したうえで廃棄物の品質を管理し,処理業者に取扱い上の注意点を伝えておかなければならない. また,廃棄物処理法の規制がこれまで及んでいなかった有価買取り業者に,使用済み電気機器などを売却している場合は注意しなければならない.環境汚染を生じる処理をしていることがあるため,来年度からは法改正により規制がかかる予定だ.
事故は起きてから対策を取っても遅い.起きる前に潜在するリスクをきちんと評価して手を打っていくことが望まれている.そのためには,きちんと安全性を評価できる体制を構築していくことが必要だ.そうは言っても安全性が評価できるためには,安全性の評価で失敗した過去の事例や教訓を身につけておく必要がある. 今回は,安全性評価という切り口で失敗した化学プラントなどでの事故事例や教訓を紹介していく.
福島第一原子力発電所の事故は東日本大震災を契機に大災害に発展した.この事故が拡大した要因に関して安全文化の基本および本質安全技術に鑑みて検証した.その結果,安全優先,耐震補強,電源系の異種冗長化,非対称故障モードの活用と簡素化,原子炉施設の簡素化および影響の局限化,縮減化およびノックオン効果の回避,炉心損傷および水素ガス発生への包容性,ガス爆発への局限化,緊急対策の簡素化,異種冗長化された監視系に関して,不作為あるいは見過ごしがあった.従って,福島第一原子力発電所の大災害は安全設計の基本概念を欠いた人災であったと結論した.