安全確保は,社会の強い要請である.しかし,多くの人々は,安全は所与という認識で,“安全・安心”と叫ぶだけで,自分の役割を果たそうとしない.また,医療の安全に関する社会および国民と医療者の認識の相違が顕著である.医療界においても,認識が一致しない. 医療の安全を確保するために,安全,安心,信頼,信頼性,リスク等の定義を明確にし,定義とその解釈に関して共通の認識を持つことが必要である. 医療の安全確保に関する関係者の認識の違いを検討し,安全に関する基本的考え方を提示し,主に,病院における医療提供・受診(利用)に関する安全を検討する. 安全確保は,学問(理論)ではなく,学問に基づいた実践である.筆者が,医療界内外と協力して実践している医療の安全確保に関する活動を報告する.
我々は2002 年より事故発生後の分析手法であるRoot Cause Analysis(RCA)と事故を未然に防止する手法であるFailure Mode and Effects Analysis(FMEA)を実践している.両者に共通する点はどの職種がどのような作業(業務)を実行しているかを明確にすることと,すべての業務を網羅的に分析することである.RCA のなぜなぜ分析では単位業務の目的から逸脱した行為であったか否かの観点により根本原因に至ることが可能である.FMEA ではFailure Mode(FM)(不具合様式)をいかに挙げるかに成否がかかっている.FM の影響を検討,評価し特に患者への影響が大きいFM から優先して対策を検討する.対策実行に関しては管理者の判断となる.両手法とも実践して改善させていく必要がある.
リスクマネジメントに関して,機会と脅威,ポジティブ(P)リスクとネガティブ(N)リスクとの関係について論述し,安全関連N リスクとリスクマネジメントとの関係について議論している.先ず,広義のリスクを想定内リスク及び想定外メタリスクに分類し,前者を制御可能リスク及び制御不能リスク,後者を制御可能メタリスク及び制御不能メタリスクにそれぞれ分類している.そして,想定内リスクは,機会及び脅威に対してそれぞれP 及びN リスクを持ち得ることを示している.また,安全関連リスクは広義のリスクの特別な場合であり,定義上の矛盾はないことを示している.さらに,自動運転車の衝突等に係るN リスクを簡易的方法により導出し,これに基づき当該製品のリコールに対するP/N リスクの評価法を例示している.社会が複雑化するにつれて,本総説で述べた機会,脅威及びP/N リスクとの関係の重要性は増大するであろう.
医療現場の医師,看護師等の関係者が共に医療の高度化,安全性の向上に対して使命感を持って努力を続けている.しかし,医療事故は後を絶たない.このことは,医療安全の難しさを表していると共に,現在その高度化に向けての努力がなされるリスクマネジメントの課題も示している.本稿は,医療安全確保の観点から現状プロセスの業務フローをフィールドと見立て,遂行業務のリスクを低減するために“改良VTA”手法を用いて潜在リスクを収集し,顕在化した「リスクの見える化」により医療従事者への情報共有化を図る. “改良VTA”は,モノづくりの現場でその適用性を確認し,モノづくりの目標業務達成の妨げや不確かさをリスクとして最適化を図ることを捉えるための有効な支援ツールとしてすでに実証されている.これを医療現場の潜在リスク抽出に適用する.
最近の環境マネジメントでは従来からの環境汚染防止のみならず,リスクアセスメント概念に基づく取り組みが重要なテーマとなっている.このリスクの管理では,そのリスクの大きさ,すなわち発生確率とその結果の重大さについて正しく認識することが大切である.1970 年以降,液化ガス燃料や有害化学物質が大量に使用されるようになり,必然的にそれらの漏出事故の発生も増加している.こうした事態に対処するため,液化ガス燃料や有害化学物質等の輸送,貯蔵,取り扱い時の安全性を評価することの重要性が認識されるようになった.さらに,このような化学物質の放出時には特異な拡散性状を示すことが理解されるようになり,アメリカ及びヨーロッパ諸国においては,従来の大気汚染物質とは異なる性状のガスに対する拡散予測モデルが開発され,多くの化学プラント等のリスク管理計画(Risk Management Plan )に利用されていることから,その利用上の課題について検討する.そして,わが国で化学物質を扱う施設のリスクアセスメントに広く利用されているMETI-LIS プログラムについて解説する.
食品添加物の着色料として使用量の多いカラメル色素について,その種類,特徴,有用性,機能性,食品への利用,毒性および安全性について考察した.特に,カラメル色素の製造過程で発がん性を有する4- メチルイミダゾールが副生成されるなどの安全性について諸外国についての事例を挙げて詳述するとともに,カラメル色素についての問題点および課題についても言及した.
化学プラント等においては,ホースを使って有機溶剤を小分けする際に,静電気放電で着火したと推定される火災・爆発事故事例が多い.本研究では,過去の災害事例を参考に,ホースとボールバルブからなる液体流動・噴出実験装置を構築し,酢酸エチルを含む数種類の有機溶剤について静電気帯電量の測定を行うとともに,根本的な静電気対策を検討した.その結果,バルブでの液滴生成時の噴出帯電が支配的であり,溶剤の導電率10-8 S/m 付近で電荷発生がピークを示す傾向が得られた.例えば,酢酸エチル(1.8 × 10-8 S/m)の電荷は他の溶剤よりも顕著に大きな値を示し,ごくわずかな放出量(100 g 程度)でも着火を引き起こす静電エネルギーレベルに達することが判明した.また,ノズルの先端を小口径にしてバルブを液中に完全に浸すことによって放出時の液滴発生を抑制することにより,電荷をほぼ安全なレベルにまで低減できることを明らかとした.
近年,プロセス産業の重大事故防止の観点から安全文化の状態を評価し,その結果判明した弱点に対して対策を講ずる取り組みが行われてきているが,その際評価項目に対する表面的な対策のみでは十分な効果を期待できないことがある.これは,安全文化が3 層からなる組織文化の一側面と考えられ,第1 層である人工の産物への対応だけでなく,第2 層の信奉する価値観への対応が必要となるためである.なお,各層の詳細な説明は本文を参照されたい.そこで,筆者は,保安力第三者評価階層別インタビューで記録された意見を安全文化上重要な項目に分類し,安全文化の状態が優良と評価された事業所が保有する価値観を表す意見を抽出することを試みた.抽出された価値観を表す意見は,該当項目の対策を検討する際に主体となる階層の醸成すべき価値観の一例として活用できると考える.
55 の様々な分野の学会が防災,減災,災害復興のために,その枠を超えて連携すべく設立された「防災学術連携体」に安全工学会も参加した.今後発生が危惧されている都会地域での巨大地震や,気象変動により深刻化している自然災害などに対して,安全工学が社会的要求やこうした学術連携の流れの中で,どのような役割を果たすべきかを議論をしていただく材料として「防災学術連携体」の状況について紹介した.
化学プラントには様々な危険源が存在する.事故を防ぐには潜在する危険源を管理することが必要だ.しかし,どのような切り口で管理するかがポイントだ.化学プラントは設計に始まり,安全性評価をして本格的な運転へ移行する. 運転管理というのも重要な管理の側面だ.今回は,運転管理という切り口で過去の事故事例から学んできた教訓を取り上げながら紹介していきたい.