合成樹脂製の自動車用バンパーの塗装工程のうち,導電性プライマー塗装済みバンパーの上塗り工程で用いられる静電塗装において,バンパーが接地不良という異常状態にある場合を想定し,5 種類のバンパーサンプルに対して,強制的に静電気帯電させ,そこから生じる放電現象を観測するとともに可燃性混合ガスへの着火性について実験を行った.その結果,ある程度まで電位が上昇するとバンパーのエッジ部からコロナ放電が発生し,電位はほぼ一定に保たれること,また,火花放電が発生した場合の放電電荷量及び放電電荷率はプライマー面の表面抵抗率と負の相関があることなどが明らかとなった.エチレン・空気混合ガスを用いて着火試験を行ったところ,最小着火エネルギー0.09 mJ のガスに対して,バンパーの帯電電位が3 kV 以下では放電によって着火することはなかった.また,表面抵抗率が大きいほど着火に必要な電位も大きくなる傾向を得た.この結果から,接地状態の確認のためバンパーを帯電させる必要があるときは,安全マージンを考慮して,最高電位を2 kV 以下とすることが望ましいと考えられる.
労働災害による酸素欠乏症による死亡率は高い.死亡率を下げるには,酸欠災害リスクの認識と評価を行い,評価に応じた対策を講じることが重要である.対策の課題として,作業の進行とともに酸素濃度が低下することが上げられる.作業者がリアルタイムで酸素濃度を把握し,作業者自身にて酸欠のリスクをより早く知ることは有効と言える.装着形酸素濃度計を用い,酸欠災害に結びつく主な原因である2 つのパターンについてシミュレ-ションを行った.窒素ガスを用いた酸欠空気の噴出・流入試験では,足首部や胸部に装着した場合,定点位置に設置した酸素濃度計よりも早く酸素濃度の低下を検出した.作業前の酸素濃度作業環境測定のみならず,作業者の適切な胸元や足首位置に酸素濃度計を装着することは,酸欠災害に対するリスクの低減化に有効と言える.
化学プラントでは常に変化が起こる.原料,運転条件,運転方法も変わることがある.顧客の要望に応じて生産能力や生産品目も変わるはずである.物質や設備の変化だけではなく,人や組織も変わっていく. この変更や変化が時として危険源になることがある.事故を防ぐにはこの「変更」や「変化」という潜在する危険源を管理することも必要だ. このシリーズでは,化学プラントは設計に始まり,安全性評価,運転管理,設備保全・工事管理ならびに教育訓練という管理の切り口で管理面の教訓を紹介してきた.今回は,石油や化学産業分野について変更管理という切り口で過去の事故事例から学んできた教訓を取り上げながら紹介していきたい.