米国に化学品や製品を輸出する時に真っ先に法令遵守が頭をよぎると思う.米国の法規制は日本と異なる規制が多く存在し,ここでは,日本企業にも影響が及ぶ有害物質規制法(改正TSCA)化学品データ報告(CDR)およびカリフォルニア州プロポジション65 の製品暴露警告の対応方法を示す.はじめにCDR の受付が2020 年6 月1 日から開始された.最終提出日は11 月30 日である.この期間中に,2016 年から 2019 年にTSCA インベントリーに収載されている化学物質を報告量以上輸入した企業は,CDR 報告の対象となり,電子報告の義務が生じる.次に,カリフォルニア州法のプロポジション65 の対応である.リストに収載されている発がん性物質や生殖毒性物質が製品に含有する時の暴露警告(明確であり妥当な警告)の対応方法を示す.今後のコンプライアンス活動のお役に立てていただければ幸いである.
航空機の整備作業においては,人的過誤を発生させない戦略が求められる.個人ばかりでなく,人を含むシステムをシステムの一要素とみるシステム的視点から,人的過誤発生に係わる様々な要因を改善する使命を持った組織の役割も大切となる. 本研究では,ASRS に収録された航空機整備における人的過誤データを,自己回帰を始めとした時系列分析とテキストマイニング手法の組み合わせにより,安全運航優先を現業部門で実践させる会社方針の役割と人的過誤発生の動的関係の検証を行った.結果,会社方針の劣化や改善は,15 ヶ月の期間にわたり,人的過誤発生に影響を及ぼしていることが示された.また,影響による人的過誤の特徴や作業者の安全意識も見出した
危険物施設の火災原因にもなり得る液体の噴霧帯電について,筆者らの先行研究において,酢酸エチルの噴霧帯電量は他の液体よりも大きくなること,噴霧帯電量が液体の導電率に大きく依存し酢酸エチルの導電率(10-8 S/m 前後)でピークとなることを確認している.本研究では,酢酸エチルを中心に全5 種類の液体を1 流体噴霧ノズルから噴霧し,噴霧帯電量と各種条件との関係を調査した.その結果,酢酸エチルの噴霧帯電量が大きくなる噴霧条件が明らかになるとともに,各種液体の噴霧帯電量と導電率の関係が先行研究の結果と概ね一致することを確認した.ただし,酢酸エチルの帯電量は,先行研究で使用した液体試料(ミネラルスピリットと導電性添加剤の混合液体)よりも顕著に大きく,導電率以外の要素も噴霧帯電量を大きく左右している可能性が示された.
65 歳以上の高齢者の住宅火災による死者の割合は,2017 年に全年齢の73%に達した.火災の主因である高齢者の「誤使用・不注意な使い方」による事故防止は,重要な課題である.本論文では,独立行政法人製品評価技術基盤機構の事故情報データベースより,石油ストーブ灯油漏れ火災事故の個票の「事故原因」の項目を基に,事故に至る3 つのシナリオを明らかにした.この結果より,事故への進展を止める点を見いだし,該当する規格要求事項と事故対策機能の有効性を分析・評価し,これらが必ずしも事故防止にはフールプルーフでないことを示した.その上で,石油ストーブの温度が灯油の発火温度未満になるまで気密油タンクは取り外しができず,かつ給油口のふたが確実に閉められ緩みが発生しないフ-ルプル-フ構造が対策効果があり,灯油漏れ火災事故の66%を防げることを示した.
化学プロセスの適切な運転条件や異常時の緊急措置を検討するためには,取扱物質の熱分解反応に関する正確な反応速度パラメータを得ることが重要である.ARC は化学プロセスの熱安定性を評価する上で最適な装置であるが,一部の試料では正確な反応速度パラメータを得ることが困難な場合がある.この場合の評価にはARC 測定データを用いず,密閉セルDSC 測定データを基にモデルフリー反応速度解析することが有効であることを明らかにした.また,モデルフリー反応速度解析を適用した熱安定性評価フローを提案した.
福島原発事故は最大級の事故である.事故報告書には技術的原因と共に,多くの安全管理上の問題点が記載されている. (1 )全電源喪失という緊急事態における危機管理体制として,現場の判断が優先される.このことを平 常時からルール化しておく必要がある. (2 )リスクマネジメントの課題として,深刻な危害が予想される場合は,たとえ発生確率が小さくとも 対策を講じることが必要である. 致命的事故を防ぐという観点に立てば,完璧な対策でなくともより少ないコストでの対策がありえた.(3 )安全対策設備として,非常用復水器(IC),ベントが有効に機能しなかった.ここには各事業者に も共通する安全対策設備に対する課題がある. これらの課題は原子力分野に特有のものではなく,多くの産業分野でも起き得る共通の課題である.安全担当者は,福島原発事故を他山の石として,類似なことが自社では起きないかという観点で検証する必要がある.
我々は過去,多くの自然災害を経験してきた.先人達はその都度「祈る」しか方法が無かったが,その経験を昔話・古文書や地名に残し,我々に教訓として残してくれている.自然災害事象(地震,津波,降雨,高潮,風,洪水等々)からプラントの安全性を向上させるには,これらの過去教訓を活かし,且つ,内閣府の防災情報HP や都道府県及び市町村等のハザードマップも参照して,事業所所在地のピンポイントで,どの事象に対して脆弱性を有しているのかを定量的に把握しておくことが重要だ.また,地球温暖化の影響で最近自然災害事象は巨大化してきている.それに対し現行の耐震や建築の基準は過去の損傷事例から定められているので,基準を守っていればプラントの損傷を防げるとは断定できない.ではどうしたら良いのか?等々を過去事例から解説した.