地球温暖化は既に深刻な現実リスクとなり , カーボンニュートラル ( 排出と吸収・除去の均衡 ) は国際 社会と日本の共通目標となっている . 一方で , カーボンニュートラル実現に向けた新技術や新エネルギー の導入は , 新たな社会的・技術的リスクを伴う . したがって , 脱炭素化の推進は「安全性の確保」と不可 分な関係にあり , 安全工学やリスクマネジメントの知見をいかにエネルギー政策・技術設計に組み込むか が今後の鍵となる . 本稿では , 政策・技術・数理分析の三つの視点からカーボンニュートラルを多面的に捉え , 特にエネル ギーモデルを用いたエネルギーシナリオ分析を通じて , どのようにして現実的かつ持続可能なカーボン ニュートラル実現の道筋を設計できるのかを論じる .
地球環境問題は , 人類又は生物の生態系に大きな影響をもたらす社会リスクであり , カーボンニュート ラル施策 ( 以下 CN 施策と記す ) はその有効な対策として実行され始めた地球環境リスク対応である . ま た , 社会には , 地球環境リスクの他にも多様なリスクが存在する . 本論は ,CN 施策の成立要件に影響を及ぼす社会リスクと CN 施策が社会リスクに及ぼす影響について 論じた . CN 施策の成立要件としては ,CN 施策の必要性の認識 , 国際間協調 , 国の行政施策 , 地域との連携 , 産業施策 , 企業経営 , 技術開発 , 市民生活の視点から整理を行い , 社会リスクとしては , 環境リスク , 国 の経済・産業リスク , 企業経営リスク , 技術開発リスク , 生活リスク等を取り上げた . 最後に CN 施策の実現と社会リスク対応を総合的に検討する際の要点を整理し , 社会リスクを総合的に 検討する必要性を論じた .
三井化学は 2020 年 11 月にいち早く「カーボンニュートラル宣言」を実施し ,2050 年にカーボンニュー トラル企業となることを社会にコミットした . 以降 , 「サーキュラーエコノミーへの対応強化」を全社基 本戦略 (VISION2030) における柱の一つとし , 全事業を対象とした CE 型ビジネスモデルの構築 , 原燃 料転換に基づく CE 対応製品の展開 , カーボンニュートラルに資する環境基盤技術の開発・獲得を積極的 に進めている . 本稿では三井化学の取組み内容について , さらに , 九州大学カーボンニュートラル・エネ ルギー国際研究所 (I 2 CNER) 内に設置された「三井化学カーボンニュートラル研究センター (MCI- CNRC) 」における研究活動について紹介する .
カーボンニュートラルの実現に向けて , 温室効果ガス削減の野心的な目標を設定し , 削減の取組みを実 行していくことは , 企業の重要な責任となりつつある . さらに最近は , 組織の排出量だけでなく , 製品ご とのカーボンフットプリント (CFP) にも関心が高まってきている . 例えば欧州電池規則では CFP 算定 が必須であり , 欧州に輸出する企業は対応を迫られている . 経済産業省も CFP を産業競争力の視点から 議論しており , 今年 6 月に中間整理を行った . 住友化学では , 複雑な化学プラントの CFP を簡単に算定できるツール「 CFP-TOMO ® 」を開発し , 自 社製品 2 万品目の CFP 算定を行っている . 加えてこの CFP 算定ツールを他社にも無償提供し , 化学産業 における CFP 算定を後押ししている . こうしたカーボンニュートラルに向けた取り組みは , 安全や品質と同じく大事な企業活動の一つと考え ている .
地産地消型水素エネルギーシステムは , 地域資源を活用した再生可能エネルギーによる水素製造から利 用までを一体化し , カーボンニュートラルの実現に貢献する . 室蘭市の実証事業では , 既存インフラを活 用した低圧水素供給モデルが構築され , 地域産業との連携や副産物の有効活用が進められている . 一方 で , 製造コスト , 安全性 , 制度整備などの課題も存在する . 今後の普及には , 安全工学的視点からの包括 的なリスク評価と , 地域社会との信頼構築が不可欠である .
蒸気ボイラは産業分野の物作りにおいて欠かすことができない重要なユーティリティであるが , その蒸 気製造において , 多くは化石燃料を燃やしており , 国内総排出量の 4 % に相当する多くの CO2 を排出し ていると考えられている . 今後 , カーボンニュートラル社会の実現において , 蒸気ボイラの燃料の脱炭素 化も必要な技術になる . 水素は燃焼時の生成物が水のみであることから CO2 排出量ゼロのクリーンエネ ルギーとして注目されているが , これまでボイラの汎用燃料として使用されてこなかったため , 水素を蒸 気ボイラの燃料として扱う上での特徴を紹介する .
グリーン水素を活用したより軽量で一層の長距離走行が期待できる燃料電池アシスト自転車の開発に取 り組んできた . しかしながら高圧容器を搭載した自転車を高圧ガス保安法に照合させると自由に公道走行 することが不可となることが判明した . そこで , 高圧容器を搭載した場合の衝撃実験 , 自主的な安全基準 の作成と大臣特認申請及びそれらに基づく実証試験を実施した . その結果 , 安全性を検証することができ た . 本検討を参考に , 自由に公道走行するための , 安全担保を前提にした適切な規制見直しや法令整備を 期待したい .
当社では , 水素エネルギーに注目し ,2011 年より水素ステーションのプレクール設備の開発に着手し た . プレクール設備はプレクールチラーと熱交換器から構成され ,2012 年にはプレクールチラーを , 2020 年には熱交換器を発売し , 国内外の水素ステーションを支えてきた . 熱交換器は低温高圧水素環境下に晒されることから , 高圧ガス保安法の特定設備検査規則の適用を受け る .2020 年の発売以降 , 国内では同法規に遵守し , 生産 , 販売をしてきた . この実績が認められ , 国外か らの引き合いも入ってくるようになり ,2025 年 1 月には米国機械学会 (ASME) の認証を取得し , 北米 への輸出が可能となった . さらに , 将来に向けて水素事業を拡大するため , 研究用途として小型水素発生装置を発売し ,2027 年 には大型の水素供給システムの発売をすべく開発中である .
カーボンニュートラル社会実現に向け , 従来にはない大規模容量のアンモニアを取り扱う設備の検討 が , 今まさに行われているところである . アンモニアは難燃性であるが , 毒性や腐食性がある . 大規模容 量のアンモニア設備でひとたび事故が起きると , アンモニア漏洩による毒性および腐食性ガス拡散の影響 が広範囲に広がり , 人的被害や環境への悪影響を引き起こす可能性がある . 一方で , 大規模容量のアンモニア設備向けに特化した設計基準や安全対策に関わる法規制は , 国内およ び海外ともにまだ十分に確立されていない . こうした操業実績が乏しい新技術を扱うプラントを検討する 際 , 事業者は何をよりどころに安全を担保することができるのであろうか ? また , 行政機関は何を基準に その設備が安全である , と評価できるのであろうか ? こうした問いの答えとして , 本稿では , 海外の石 油・化学プラントで長年適用されてきたリスクベースの安全管理手法を紹介し , アンモニア特有の法規 制 , 海外でのリスク許容基準 ,ALARP 原則 ,ALARP 実証のしくみについて整理している . 具体例として , オランダ PGS-12 と国内 CFAA 指 -001-23 の紹介 , および , 大規模容量のアンモニア設備向けに実施し た HAZID, ボウタイ分析 , 定量的リスク評価 (QRA) の概要を紹介している .
国際海事機関 (IMO) は 2050 年までに船舶からの温室効果ガス排出を実質ゼロとする目標を掲げ , ア ンモニア燃料が有力な脱炭素燃料として注目されている . アンモニアは CO2 を排出しない一方で , 高い 毒性と腐食性を有するため , 従来の火災・爆発中心の安全要件とは異なる , 毒性防護を重視した体系が求 められる . 本稿では ,IMO 暫定ガイドラインおよび ClassNK ガイドラインに基づくアンモニア燃料船の 安全要件の枠組みを概説し , ガス拡散 , リスク評価 , 材料評価手法等の標準化に向けた ClassNK の研究 開発の取組みと , 今後の展望を紹介する .
コスモ石油 ( 株 ) は脱炭素社会への貢献として , 日揮ホールディングス ( 株 ),( 株 ) レボインターナ ショナルとともに合同会社 SAFFAIRE SKY ENERGY を設立し , 当社堺製油所に SAF 製造装置等を導入 . 設備新設に伴い ,HAZOP 等を用いたリスクアセスメントを実施し , リスクの洗い出し・評価・対策を段 階的に行った . 本稿では , 当該設備導入に向けて当社が実施したリスクアセスメントについて紹介する .
近年 , 種々の再生資源燃料が開発され , バイオマス発電の燃料として利用されているが , それらは貯蔵 中に発熱し蓄熱した後に自然発火を引き起こす . 特に再生資源燃料の一種である木質ペレットによる火災 が頻発している . そのため , 再生資源燃料等の火災危険性を適正に把握しておくことが火災予防上重要で ある . しかし , 再生資源燃料の自然発火による火災の初期段階の発熱は非常に微少であることから自然発 火の危険性を従来の手法のみでは適正に評価することは困難である . そのため , 少量の試料で安全に火災 危険性を評価できる高感度の熱分析機器は , 化学物質の火災危険性評価方法にとって有効な手段であり , これまで研究が実施されてきた . 本報告では再生資源燃料の火災危険性とその評価方法の現状について紹 介する .
カーボンニュートラルの実現に向けて再生可能エネルギーの大量導入は必要不可欠であり , その実現の ためには進めるべき技術開発はまだ多く存在する . 産業技術総合研究所 福島再生可能エネルギー研究所 では , 再生可能エネルギーを効率的に利用するために必要なエネルギー貯蔵技術としての水素に関する技 術開発を進めており , 本稿では , 研究開発の状況について報告する .
太陽光発電システムが多く作られるようになっている . 特に発電所は大規模になり , 火災時に敷地内を 延焼したり , 併設する大規模蓄電池設備が火災になったりする事案が発生している . 太陽光発電システム の火災や感電の事例 , 消防側から見た危険性に関する実験 , 消火時の放水方法 ,PVS 設置時に考慮して ほしい点 ,PVS が水没しているときの消防活動上の注意点などをまとめた . 消防活動中は感電リスクがあるため電気絶縁性の高い手袋や長靴を着用すること , 棒状放水時は活線部 や PVS 構成機器から 10 m 以上離れること , 建物屋上などへの設置時には消防隊員が安全に活動できる空 域を設けること ,PVS が水没した水域には入らないことが望ましいが救助等に向かうときは電気絶縁性 の高いボートを使用することなどを示した .
太陽光発電は ,2012 年の FIT 制度開始以来 , 急激に導入拡大に成功した . 他方 , それと同時に事故も 増加し , 安全性に関する課題が発生した . これらに対応するためのさまざまな法制度や制度設計の改正や 改良 , ガイドラインの策定などの取組が行われてきた . 本稿では , 太陽光発電設備の安全性向上に関する 制度変遷などについて概括する .
日本各地に風力発電施設が建設され , その発電電力量が増加している . 風力による発電電力量が増加す る一方で , 風力発電施設では件数が少ないが火災が発生している . 風力発電施設が管内にある公設消防機 関の活動の参考にするため , 国内の火災事例をまとめた .
社会実装が進むリチウムイオン電池を使用した大型蓄電池システム (BESS) のリスクを「社会総合リ スク」の視点から眺め , 特に安全性に関するリスクに焦点を絞り , そのリスクアセスメント (RA) に関 する技術開発動向を安全工学的視点に基づいて整理し , その課題と解決に向けた RA の高度化に関する研 究について概説した . さらに ,BESS の社会実装における各リスク項目として経済性・将来社会像と電力 需要・安全性 / セキュリティ・資源循環 / 廃棄物の 4 つの観点におけるリスクを特定した上で , 安全性 に関する RA の課題として包括的リスクシナリオ特定とシステムレベルでのリスク分析の高度化が求めら れることを挙げ , 関連する具体的な検討事例について紹介した .