1993 年に米国6 都市調査で,微小粒子状物質(PM2.5)が,呼吸器疾患のみでなく,心肺疾患死亡に影響があることが公表されて以来,世界各国で同様の報告がなされた.これを受けてわが国でも研究班が組織され,2009 年9 月に微小粒子状物質の環境基準(年平均値15 µg/m3 以下,日平均値35 µg/m3 以下)が制定された.その後もいくつかの報告がなされているが,カナダの全国規模の調査では,従来の報告よりさらに低いPM2.5 濃度で循環器疾患の死亡率でハザード比が有意に高くなることが示されている. 現在の,わが国のPM2.5 の濃度はゆっくり下降しているが,環境基準の達成率は約30 %前後で,低い状態が続いている.そのような状況下で,本年1 月より越境汚染による大気汚染の悪化が心配され,環境省は急きょ健康影響が出現する可能性が高くなると予測される濃度水準を注意喚起のための暫定指針(70 µg/m3)として示した.注意喚起発令のための判断方法については,改善の余地があり,運用当初から各自治体により運用方法も統一されていないが,3 月~5 月の運用実績をみても,注意喚起が発令された13 事例のうち,実際に日平均値が70 µg/m3 を超えたのは5 事例にとどまっており,逆に見逃しの例も存在していることから,環境省は11 月にも判断基準の改善策を示すべく,検討を行っている.
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