安全工学
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特集号: 安全工学
60 巻, 6 号
安全工学_2021_6
選択された号の論文の15件中1~15を表示しています
会告
巻頭言
安全文化 特集
  • 東瀬 朗
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 407-414
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    安全文化は現代の産業において重大事故を予防する上での重要な要素として受け入れられている.本稿では日・米・欧の安全文化モデル(安全文化の8 軸モデル・アメリカCCPS のRBPS・フランスICSI の安全文化モデル)について解説を行うとともに,次世代の安全文化がどのように変化しているかについての概説を行った.特に,安全文化の3 つの変化(予防したい事故のスコープの変化,「危険源摘出」から「安全の保証」への転換,安全文化を必要とする産業の拡大)について解説するとともに,「正義の文化」の役割の拡大についての説明し,3 つの変化に伴い今後発生すると思われる課題とその対処策について整理を行った.

  • 天野 玲子
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 415-423
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    気候変動が進み巨大災害が頻発しようが,カーボンニュートラルが求められエネルギー消費が制限されようが,「安全で安心して生活する」ためには,まずインフラ(社会基盤)がしっかりしていなければならない.そのためには,インフラのライフサイクルを通して一貫した維持管理体制が必要である.また,変化が激しい状況に適切に対応するためには,国全体で情報を正確に把握し一元管理して対策を立てることが重要である.インフラ維持管理体制や,防災,気候変動等の情報管理体制についての現状を紹介する.

  • 前田 典幸
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 424-431
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    国際原子力機関(IAEA)は,「安全文化」の概念を提唱して以降,国際的に安全文化への取り組みをリードしてきており,近年では安全のためのリーダーシップとマネジメント,統合されたマネジメントシステム,およびシステミックアプローチが安全文化醸成に不可欠であるとした.これらは日本の規制制度や民間規格および事業者の活動に取り込まれている.また,米国や日本における事故を契機としたこれら見直しも行われている.現在では,組織の経営管理や業務活動のすべてが安全文化醸成に影響を与えると理解し,組織の安全文化醸成の取り組みが行われている.本稿では,国内外の取り組みの経緯と現状を確認するとともに,改めて安全文化の意味内容を確認し,次いで,安全文化醸成とマネジメント,更に安全文化評価についても整理した.

  • 福田 久, 酒井 宏彰
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 432-439
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    1903 年にライト兄弟が人類初の飛行機による有人動力飛行を成し遂げてから,航空は飛躍的な発展を遂げてきたが,その陰には航空事故による多くの犠牲がある.航空の安全の多くは事故からの学びに立脚するが,航空安全の進化の過程の中で,特に1990 年代からは組織的な要因についても注目されるようになり,安全文化醸成が大きな課題になっている.そのため,国際民間航空機関加盟国や航空に関わる組織は,安全管理の仕組みを洗練された手段に徐々に進化させる一方で,より成熟した組織の安全文化の醸成に取り組むことで安全の確保を目指している.本稿では航空安全の歴史と現状を概観し,さらに当社の歩みを辿りながら,安全文化醸成に関する当社の取り組みの一端を紹介する.

  • 片方 喜信
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 440-446
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    1987 年4 月,日本国有鉄道(以下,国鉄)が分割民営化して発足したJR 東日本は,安全を経営の最重要課題と改めて位置づけ,事故の後追いではなく,安全を先取りする,“守る安全”から“チャレンジする安全”へ,を安全推進の基本的な考え方に据え取り組んでいる. 現在,その基本的な考え方を具体的に整理した,第七次の安全計画である「グループ安全計画2023」を策定・実践している. 「安全文化」という概念は,1986 年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故を契機に,国際原子力機関が提唱したとされている.この言葉にこだわることなく,安全行動を促すベースになっている,JR 東日本における安全の先取りの取り組みを紹介することとしたい.

  • 加藤 修一
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 447-453
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    安全を最優先する集団が持つ考え方や価値基準の体系,その様式の総合体が安全文化と考える.安全を確保するためには,事故を起こさないよう,管理の仕組みやマニュアルを整えると共に,組織の各員が安全に対して強く意識すること,その思いを持つこと,安全について考えを巡らせ,行動することが重要である.当社では2011 年1 月に,アミューズメント部門において,遊戯施設「スピニングコースター舞姫」(以下「舞姫」という)からお客様を落下させ,死亡させる事故を起こし,当社グループ全体が社会的な信頼を完全に失った.筆者は当時,事故を起こした施設の管理者であり,当事者としてその事故に直面した.こうした経験も踏まえ,この10 年間に当社グループが取り組んできた安全への取組みについて報告する.

  • 横山 玲, 長谷川 友紀
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 454-461
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    医療安全を確保,促進するためには,医療安全文化の醸成が必要である.医療安全文化は「医療に従事する全ての職員が,患者の安全を最優先に考え,その実現を目指す態度や考え方およびそれを可能にする組織のあり方」と定義される.本稿では,医療安全文化の測定,評価,改善の取り組みについて,特に米国(AHRQ)が開発した「医療安全文化調査票(病院版)」“Hospital Survey on Patient Safety Culture (HSOPS)”を用いた国内外の報告を紹介する.併せて公益財団法人日本医療機能評価機構が提供する「医療安全文化調査活用支援プログラム」について概説する.

  • 中村 昌允
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 462-468
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    化学プラントは,爆発火災事故のように“Process Safety”が安全文化における重要課題で,経営トップは,基本理念や安全哲学を企業内に浸透させ,経営資源を重点的に安全に投入する役割と責任がある. 安全は基本的にはシステムによって確保するが,システムは人間がつくるので,システム設計段階で判らなかったことや稼働させて初めて判るリスクもある.これらのリスクは人間の判断と行動に委ねざるを得ない.システムは一定以上のレベルを有している人間が動かすことを前提にしているので,運転員の教育訓練と高いモラルは絶対に必要である.それでも判断に迷う事態が出てくる. その時に判断・行動の指針となるものが,その企業の基本理念や安全哲学,すなわち安全文化である.これからの安全マネジメントは,ボトムアップ型とトップ主導型との融合,経営者層,管理者層,運転者層の役割と責任の明確化,研究開発と生産との融合が求められる.

  • 宇野 研一
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 469-475
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    化学プロセス産業にとって,事故防止,即ちプロセス安全は,産業存立の前提であるが,近年,プロセス安全管理システムを確実に実行するための安全文化の重要性が認識されてきている.本稿では,プロセス産業ではじめて安全文化の重要性を指摘した原子力産業の取り組みの進展を紹介した上で,化学プロセス産業の取り組みの進展を詳述し,安全文化の要は,動機づけにあり,いつでも事故は起きうるという認識を維持することが重要だという最近の考え方を紹介する.動機づけを把握するために,安全文化を包含する文化そのものに対する社会心理学的な知見が有用であり,学術的な研究を概観した上で,文化の階層構造に関するモデルを紹介し,その中に含まれる価値観をインタビューにて把握しようとする最近の取り組みについても言及する.

  • 宮田 栄三郎
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 476-480
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    弊社では2009 年から「安全文化の深化プロジェクト(PJ)」を立ち上げ,弊社グループの持続可能な成長とサステナブルな社会実現への貢献のために,安全文化の深化を重視した活動を継続実施している.そのために,保安力向上センターの提唱する安全文化要素に基づき既存の取り組みを整理し,網羅的な評価および改善を行いことで,より効果的な安全文化の深化活動となるように努めている. 本報では,弊社が実施している安全文化の深化の各種取り組みの一例を紹介する.

  • 黒川 浩幸
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 481-486
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    安全は,企業が事業を継続していく上での土台であり,良い安全成績は品質や生産性にも良い影響を与 える.安全についての取り組みは組織改革にもつながる重要な経営課題の一つである.安全文化を醸成するためには,安全が価値だということを特にリーダー層が中心となって示し,その価値観を組織の末端にまで浸透させる必要がある.継続的に繰り返し活動していくことが鍵である.創業当初から安全を重視してきたデュポンでは,自社の提唱した安全文化の発展段階のモデル(ブラッドリーカーブ™)における一番上のレベル「相互啓発型」の組織作りとその維持を目指し,社内で様々な活動を行ってきた.現在では,デュポンから分離独立した会社であるDSS サステナブル・ソリューションズが,デュポンの経験やノウハウをお客様に対して提供し,お客様の安全を向上するためのサポートを行っている.

  • 尾崎 智
    原稿種別: 総説
    2021 年 60 巻 6 号 p. 487-495
    発行日: 2021/12/15
    公開日: 2021/12/15
    ジャーナル 認証あり

    事業所のトップは製造現場の安全文化までは詳しくわかっていません.しかし,トラブルや労災等があり積極関与することで初めて見えてくることがあります.課題解決の際に自分の経験を押し付けるのではなく,現場に自分事として意識させ考えさせながら,結果的に成功体験をさせることで,人材はゆっくりであるが大きく確実に育ちます. コミュニケーションは一方向からのアプローチではだめで,お互いがその「場」を一緒に作り上げることが大切です.トップは言いやすい環境を積極的に作ること,そして行動の前に感謝,寛容,敬意,傾聴,配慮を意識することで,起こした行動が人間関係を想像以上に良化させる潤滑油の働きをすることになります.

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