【要旨】
目的:
2023年5月に5類感染症に移行した後のコロナ後において済生会病院の急性期入院患者数は2019年までのコロナ前の状態に回復していないが、この状況に済生会全体として取るべき対策を検討する一助とするために、DPC データを基に、コロナ前、コロナ期、コロナ後の3期間の間で、急性期入院患者にどのような変化が起きてきたかを分析することを目的にした。
方法:
対象としたのは済生会病院の中で2023年度までのDPCデータを本部経営情報システムに提出し、対象期間中に移転等がなかった64病院。分析の対象とした期間は、2016年9月~2019年12月までのコロナ前、2020年1月から2023年4月までのコロナ期、2023 年5 月から2024 年3 月までのコロナ後の3 期に分類し、各期間中に急性期病棟に入院した患者を対象として、月間新規入院患者数、平均在院日数、1日平均入院患者数を算出した。平均在院日数に影響する因子として、入院時の主要傷病の中で平均在院日数が特に減少した疾患群がないか特定を試みた。さらに、コロナ前に比した場合のコロナ後の新規入院患者数の増減に影響する要因として、同時期に各病院の入院患者が居住する地域の人口増減との関連を分析した。
結果:
64病院の中で、コロナ前に比べてコロナ後の1日平均入院患者数が10%以上減少したのは49病院(77%)であり、49病院の中で平均在院日数が10%以上減少したのは34病院(69%)、月間新規入院患者数が10%以上減少したのは16病院(33%)であった。コロナ前と比較してコロナ期の平均在院日数の減少は僅かであったが、コロナ後の減少はより大きかった。入院時の主要疾患別にコロナ前とコロナ後の平均在院日数の変化を比較すると、ほとんどの疾患群でコロナ後に平均在院日数が減少しており、在院日数短縮に向けた診療報酬上の誘導を受けて病院全体が在院日数短縮に努力したことによると考えられた。各病院におけるコロナ前とコロナ後の新規入院患者数の比(入院比)と、病院の急性期入院患者の居住地域のコロナ前とコロナ後と人口比を比較すると、人口減少よりも新規入院患者数の減少がより大きかった病院も多く、1日平均入院患者数が減少した病院では平均在院日数の減少に対抗して入院患者数を維持するまでには新規入院患者数が増加していなかっ
た。一方、1日平均入院患者数が減少していない病院では、人口減少に対抗して新規入院患者数が確保できており、1日入院患者数の減少が抑えられていることが明らかとなった。
考察:
今回の分析では新規入院患者数が10%以上減少した病院が16病院あったが、これらの中には急性期病床を減らした病院、看護師不足等で一時的に休床している病院も含まれており、人口減少の影響や、患者の受療行動の変化による低下を必ずしも意味しない。一方、2024年度の診療報酬改定では、急性期一般入院料1の平均在院日数の基準が18日から16日に短縮されたが、診療報酬改定による在院日数短縮に向けた政策的な誘導が今後とも継続されると考えられ、病院が新規入院患者数を確保して入院患者数を維持するには、人口減少に対抗して新規入院患者を増やす必要がある。2045 年までの急性期入院患者数の予測では、2018/19年と比較して2045年では15~64歳群で80%まで大きく減少するのに対して、65~7歳で98%と横ばい、75歳以上では133%と増加することが予想されており、高齢者の急性期入院に重点をシフトすることも人口減少による急性期入院患者数の減少への対応策として選択肢となるであろう。
結論:
済生会病院における急性期入院患者数の減少は、平均在院日数の短縮が背景にあり、それに対抗して新規入院患者数の増やすことは、今後の人口減少から容易ではない。人口が増えることが予想される高齢者への重点シフトなどの対応策が選択肢となる。
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