産業衛生学雑誌
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48 巻, 6 号
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総説
  • 山下 未来, 荒木田 美香子
    2006 年 48 巻 6 号 p. 201-213
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/15
    ジャーナル フリー
    Presenteeismの概念分析及び本邦における活用可能性:山下未来ほか.大阪大学大学院医学系研究科保健学専攻―本研究の目的は,presenteeismという概念を明らかにし,定義を示すことによって,本邦の産業保健における活用可能性を検討することである.Rodgersの概念分析法を参考にシステマティックレビューを行った.“presenteeism”をキーワードにMEDLINE,PsycINFO,医学中央雑誌で検索を行い,文献を抽出した.概念の分析は,文献の中でpresenteeismがどのように使われているかについて,定義,先行要因,帰結を抽出し,検討を行った.1955年から2005年に報告された計44文献を分析対象とした.抽出された各定義からpresenteeismの4属性を明らかにし,「presenteeismとは,出勤している労働者の健康問題による労働遂行能力の低下であり,主観的に測定が可能なものである」と定義した.presenteeismの先行要因は職場要因と個人要因に分類され,健康問題を抱えた労働者の出勤するか否かの判断に影響を与えていた.presenteeismの帰結は,quality of life(QOL)及び健康状態の悪化,健康関連コストの増加,他の労働者への悪影響,労働災害の増加,製品やサービスの質の低下が挙げられ,presenteeismを生じている状態の改善は産業保健が取り組むべき課題であることが明らかとなった.したがって,presenteeismの本邦の産業保健における活用可能性は,1)presenteeismの測定とその要因を検討すること,2)適切な休業取得を阻害する要因を検討すること,3)産業保健計画および評価に活用することが挙げられた.本邦でpresenteeismを測定するためには,測定目的に適した欧米の質問紙の導入や新たな尺度の開発が必要である.presenteeismのアセスメントを保健活動へ反映させるためには,個人のpresenteeismの程度だけでなく,組織全体としても捉えること,また,労働者の健康問題と,職場要因や個人要因との相互作用を考慮に入れることが必要である.更に,presenteeismはその労働損失の程度を金銭単位へと換算することが可能であり,保健活動の必要性や根拠を示すエビデンスとなることが示唆された.
    (産衛誌2006; 48: 201-213)
原著
  • 榎本 光紀
    2006 年 48 巻 6 号 p. 214-220
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/12/15
    ジャーナル フリー
    有機溶剤使用職場におけるポータブルVOCモニタによる有機溶剤個人曝露測定:榎本光紀.獨協医科大学衛生学教室―一般に,有機溶剤取扱い作業者の個人曝露濃度測定には,固体捕集後ガスクロマトグラフによる分析法が利用されている.しかしながら,この方法では,作業時間中の平均的曝露濃度を算出することは可能であるが,瞬間的な高濃度曝露や,時間的な濃度変動を把握することは不可能である.最近,住宅室内や学校の教室等で揮発性有機化合物(VOCs)のスクリーニングのためにポータブルVOCモニタが使用されるようになった.このVOCモニタは光イオン化検出器を内蔵し,気中VOC濃度をリアルタイムに測定することが可能である.著者はVOCモニタが有機溶剤個人曝露濃度をリアルタイムに測定可能であるかを検討した.まず,実験的に各濃度段階の各種有機溶剤標準ガスを作製し,パッシブサンプラーとVOCモニタで同時に測定し,各種有機溶剤とそのVOC濃度との相関を検討して換算係数(CF値)を算出した.その結果は,メチルエチルケトンのCF値は0.5952,トルエンは0.4418,N,Nジメチルホルムアミドは0.9017であった.更に,各濃度段階の混合有機溶剤標準ガスを作製し,パッシブサンプラーで得られた各種有機溶剤濃度に前述のCF値を乗じたVOC推定濃度とVOCモニタで測定したVOC濃度との相関を検討した.パッシブサンプラー捕集による混合有機溶剤標準ガス濃度のVOC推定濃度と,VOCモニタで測定したVOC濃度は有意な相関を認めた(p<0.001).次に,有機溶剤を使用している合成皮革工場の男性作業者37名を調査対象とし,パッシブサンプラーとVOCモニタを用いて有機溶剤個人曝露測定を行い,その際,作業者に追随し全作業内容を記録した.パッシブサンプラーで得られた各種有機溶剤濃度に前述のCF値を乗じたVOC推定濃度とVOCモニタで測定したVOC濃度は有意な相関を認めた(p<0.001).VOCモニタはリアルタイムに結果が得られ,作業内容と照らし合わせることにより高濃度曝露を受ける作業を特定することができることから,作業環境改善,作業改善に有用な情報となる.VOCモニタは,有機溶剤個人曝露濃度測定において有用であると考える.
    (産衛誌2006; 48: 214-220)
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