産業衛生学雑誌
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57 巻, 6 号
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原著
  • 高野 匠巳, 鈴木 茂, 築山 郁人, 斎藤 寛子
    原稿種別: 原著
    2015 年 57 巻 6 号 p. 275-285
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/18
    [早期公開] 公開日: 2015/08/12
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    目的:がん治療に使用される抗がん剤の多くのものは健常者にとって有害な物質である.近年抗がん剤による医療従事者への職業性曝露,健康障害が危惧および報告されている.著者等は使用頻度や有害性が比較的に高い抗がん剤10種について,医療従事者の曝露に繋がる可能性の高い病院内汚染を把握するため,床や机に残留する抗がん剤を拭き取りLC/MSにより一斉分析する方法を開発した.対象と方法: 使用頻度や有害性が比較的に高い抗がん剤パクリタキセル,ビンクリスチン,ドセタキセル,ビノレルビン,イリノテカン,メトトレキサート,オキサリプラチン,ゲムシタビン,シクロホスファミド,フルオロウラシルを対象とした.多くの病院の床と同じ素材であるP-タイル上の抗がん剤を少量のメタノールに浸したセルロースろ紙またはポリプロピレン不織布で拭き取り,ヒドラジン一水和物含有メタノール5 mlで抽出およびろ過した.抽出とろ過を2回繰り返し,ろ液を1 mlまで濃縮しLC/MSにて測定した.また,安全キャビネット等と同じ素材であるステンレスプレートについても検討した.結果: P-タイル上に散布した対象の抗がん剤10物質のうちフルオロウラシルを除く9物質の回収率は37~101%,相対標準偏差1.8~19%であった.ステンレスプレート上からは対象10物質の回収率は35~111%,相対標準偏差は1.3~11%であった.考察と結論:対象とした抗がん剤10種は,分子量,オクタノール/水分配係数(logPow)等の物理化学的性状が多様であるため,1つの拭き取り素材では良好な回収率を得られなかった.しかし,拭き取りにセルロースろ紙とポリプロピレン不織布を対象物質によって使い分けることで,P-タイルではフルオロウラシルを除く対象抗がん剤9物質,ステンレスプレートでは対象10物質すべてについて汚染を定量的に把握,またはそれには劣るが床およびステンレス表面に残留する抗がん剤量を十分推定できる分析法の開発に至ったと考えられる.
  • 福村 智恵, 由田 克士, 田畑 正司
    原稿種別: 原著
    2015 年 57 巻 6 号 p. 286-296
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/18
    [早期公開] 公開日: 2015/09/04
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    目的:本研究は,男性交代制勤務者の生活時間(勤務時刻,睡眠時刻,食事摂取時刻)と食事状況を把握し,勤務形態と食事状況が身体状況や健康課題へ及ぼす影響を明確にすることを目的に実施した.対象と方法:対象は富山県現業系事業所の男性従業員187名(18–64歳)であった.2013年4月の定期健康診断時に食生活と生活習慣,生活時間に関する自記式アンケートを実施した.対象者の勤務状況(日勤,遅出,夜勤勤務)より,日勤勤務のみの者を日勤群(107名),日勤勤務の他に遅出勤務,夜勤勤務を行っているものを交代群(80名)とした.対象者の勤務状況毎の睡眠と食事行為者率を30分単位で集計し,さらに朝,昼,夕食の欠食率と夜食の摂取率を算出した.また,勤務状況毎の摂食回数と身体状況の関連を検討した.結果:交代群の日勤時の生活時間は日勤群と似た状況であった.しかし,遅出時,夜勤時の生活時間(睡眠時刻,食事時刻)と欠食率および摂食率は大きく変動している現状が明確となった.また,交代群では勤務形態に関わらず1日3回以上食事を摂取している方が摂取していない群よりもBMIと体脂肪率は有意に低くなっていた.考察:交代制勤務者において食事の時間と機会の確保が恒常的に困難な状況にあることが示唆され,欠食を防ぎ,夜間の適切な食事摂取を支援する必要があると考えられた.
調査報告
  • 金森 悟, 甲斐 裕子, 川又 華代, 楠本 真理, 高宮 朋子, 大谷 由美子, 小田切 優子, 福島 教照, 井上 茂
    原稿種別: 調査報告
    2015 年 57 巻 6 号 p. 297-305
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/18
    [早期公開] 公開日: 2015/08/12
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    目的:全国の企業を対象に,事業場の産業看護職の有無と健康づくり活動の実施との関連について,企業の規模や健康づくりの方針も考慮した上で明らかにすることを目的とした.方法:東京証券取引所の上場企業のうち,従業員数50名以上の3,266社を対象とした.郵送法による質問紙調査を行い,回答者には担当する事業場についての回答を求めた.目的変数を種類別健康づくり活動(栄養,運動,睡眠,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科)の実施,説明変数を産業看護職の有無,調整変数を業種,企業の従業員数,健康づくりの推進に関する会社方針の存在,産業医の有無としたロジスティック回帰分析を行った.結果:対象のうち415社から回収した(回収率12.7%).産業看護職がいる事業場は172社(41.4%)であった.健康づくり活動の実施は,メンタルヘルス295社(71.1%),禁煙133社(32.0%),運動99社(23.9%),栄養75社(18.1%),歯科49社(11.8%),睡眠39社(9.4%),飲酒26社(6.3%)の順で多かった.産業看護職がいない事業場を基準とした場合,産業看護職がいる事業場における健康づくり活動実施のオッズ比は,メンタルヘルス2.43(95%信頼区間: 1.32–4.48),禁煙3.70(2.14–6.38),運動4.98(2.65–9.35),栄養8.34(3.86–18.03),歯科4.25(1.87–9.62),飲酒8.96(2.24–35.92)で,睡眠を除きいずれも有意であった.従業員数が499名以下と500名以上の事業場で層化し,同様の解析を行った結果,いずれの事業場においても,禁煙,運動,栄養に関する健康づくり活動実施のオッズ比は有意に高かった.しかし,メンタルヘルスと歯科については,499名以下の事業場のみ実施のオッズ比が有意に高かった.結論:全国の上場企業の事業場において,企業の規模や健康づくりの方針を考慮した上でも,産業看護職がいる事業場はいない事業場と比較して栄養,運動,メンタルヘルス,禁煙,飲酒,歯科の健康づくり活動を実施していた.健康づくり活動の実施には,事業場の産業看護職の存在が関連していることが示唆された.
  • 加部 勇, 古賀 安夫, 幸地 勇, 宮内 博幸, 蓑添 葵, 桑田 大介, 堤 いづみ, 中川 雅文, 田中 茂
    原稿種別: 調査報告
    2015 年 57 巻 6 号 p. 306-313
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/12/18
    [早期公開] 公開日: 2015/09/04
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    目的:国内では一般の産業現場において耳音響放射検査 (OAEs) は普及しておらず,実際の騒音職場での使用報告がほとんどない.本調査は,国内製造業の事業場で,騒音に曝露する作業者を対象にOAEsと最小可聴閾値(HTs)との関連を検討した.対象と方法:金属製品製造業の2事業場において騒音職場の作業者(曝露群)34名(平均年齢40.6±9.4歳)と,非騒音曝露作業者(コントロール群)9名(49.0±14.3歳)を調査対象とした.対象者毎に作業環境測定(ENM)と,騒音個人曝露測定(PNM)を同時期に実施した.騒音曝露による聴覚影響の評価指標として,作業開始前後の0.5 kHz,1 kHz,2 kHz,4 kHzと8 kHzのHTsおよび2 kHz,3 kHzと4 kHzの歪成分耳音響放射検査 (DPOAEs) を行った.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の曝露群と非曝露群の比較,作業前後の比較,NIHL有無の比較は,Student’s t検定を用いた.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の関連についてPearson相関係数を求めた.結果:ENMおよびPNMは,騒音曝露群がA測定(LAeq)84.5±4.1 dB (A),B測定(LAMAX)89.5±6.3 dB (A),時間加重平均(LTWA)83.4±4.7 dB (A),一秒率(LAE)153.1±15.7 dB (A),コントロール群がLAeq53.2±2.6 dB(A),LAMAX56.4±2.4 dB (A),LTWA67.8±5.6 dB (A),LAE119.5±5.6 dB (A)となり,騒音曝露レベルは曝露群が有意に高かった.作業前後のHTs,OAEsは,両群とも差は無かった.両群とも騒音曝露レベルのLAeq,LAMAX,LTWA,LAEとその影響指標であるHTs,OAEsに相関がみられなかったが,HTsとOAEsとの間には相関をみとめた.NIHLをみとめた群は,NIHLのない群に比べて,HTsおよびOAEsが有意に低下していた.結論:作業前後のHTsと OAEsの相関をみとめた.今後,日本の産業現場でも騒音性難聴のスクリーニング検査や騒音曝露作業者の聴力管理としてOAEが用いられることが期待される.
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