産業衛生学雑誌
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58 巻, 2 号
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原著
  • 梶木 繁之, 小林 祐一, 上原 正道, 中西 成元, 森 晃爾
    2016 年 58 巻 2 号 p. 43-53
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/06/07
    [早期公開] 公開日: 2016/03/16
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    目的:本研究では日本企業が海外事業場においてグローバルな労働安全衛生マネジメントシステムの構築を行うために必要な情報を効率的に収集するための情報収集チェックシートの開発を行った.方法:外資系企業での産業医経験を有する研究者2名と海外事業場の労働安全衛生活動に携わった経験を持つ3名の統括産業医で研究班を作った.労働安全衛生活動と体制構築に必要な情報と情報の入手先を検討の後,5か国10地域において現地を訪問し情報収集チェックシートを用いた情報収集を行った(第1フェーズ).その後,研究班会議で入手情報の正確性と入手先との妥当性を検証し情報収集チェックシートを改善した.その後,新たな国(1か国3地域)において情報収集チェックシートを使用し有用性を確認の上(第2フェーズ),情報収集チェックシートを完成させた.結果:情報収集チェックシートは,現地事業場の基本情報,安全衛生概要,安全衛生体制,安全衛生スタッフ,計画・実施・評価・改善,安全衛生活動,法令及び行政機関,現地医療制度と公衆衛生,駐在員への医療サポートの9の大項目と61の中項目で構成された.また入手先は文献・インターネット,企業(現地事業場,日本本社),現地の日本大使館・領事館,ISO認証機関,大学等の教育機関,医療機関(日本人向け,現地労働者向け)の8つで構成された.考察:複数回にわたる研究班会議と2つのフェーズ(6か国13地域)での現地調査により情報収集チェックシートが完成した.このチェックシートを用いることにより,初めて進出する国や地域での安全衛生活動を展開する際,必要となる情報が入手できる可能性がある.今後は,いずれかの国の現地事業場の協力のもと,チェックシートを用いた情報収集を行い,安全衛生体制ならびに活動を評価の上,具体的な取組を試行するモデル事業を実施しチェックシートの有効性を検証する必要がある.
  • 古屋 佑子, 高橋 都, 立石 清一郎, 富田 眞紀子, 平岡 晃, 柴田 喜幸, 森 晃爾
    2016 年 58 巻 2 号 p. 54-62
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/06/07
    [早期公開] 公開日: 2016/03/16
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    目的:疾患を持つ労働者への就業支援において,労働者本人,治療医,企業(産業保健スタッフ)間の連携は欠かせないが,どのような要因が関係者の連携を促進または阻害するのか,その詳細は明らかではない.本研究の目的は,産業医と治療医の連携場面に着目し,治療医のどのような行動が産業医による就業配慮を促進・阻害するのか明らかにすることである.方法:産業医科大学の卒業生である産業医のうち,4年間の卒後修練コース修了者および産業医実務研修センターの教員・元教員計43名に対して自記式質問紙調査を実施した.質問紙では,個人属性(年齢・産業医経験年数・臨床経験年数など)と,職場での就業配慮に役立った治療医の行動(良好事例),結果的に妨げとなった行動(困難事例)を質問し,事例は自由記述で回答を得た.事例の内容は,KJ法を参考にして質的に分析した.結果:2013年12月17日~2014年1月18日までの調査期間中に,33名から回答(有効回答率76.7%)があった.回答者の平均年齢は37.4±6.1歳,60.6%は専属産業医であった.良好事例は32例,困難事例は16例提供された.連携のタイミングは全48例中35例(72.9%)が復職時であった.就業配慮に影響した治療医の行動の内容は,「治療経過および今後の治療計画の提供」,「健康情報の提供」,「復職・就業配慮の妥当性」,「提供情報の一貫性」,「文書の発行」,「産業医の存在を意識したコミュニケーション」「本人が知らない情報の提供」の7種に大別された.考察:本研究により,治療医のどのような行動が産業医の実施する就業支援に関連しているか,明らかとなった.また,産業医と治療医との情報共有の必要性も,明確にすることができた.調査対象者から寄せられた良好事例と困難事例は互いに表裏の関係にあり,良好事例に準じた行動を治療医がとることで,円滑な情報共有および就業配慮に結びつく可能性が高いと考えられた.
調査報告
  • 辻 洋志, 臼田 寛, 高橋 由香, 河野 公一, 玉置 淳子
    2016 年 58 巻 2 号 p. 63-71
    発行日: 2016/03/20
    公開日: 2016/06/07
    [早期公開] 公開日: 2016/03/16
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    目的:現在,日本では少子化に伴う労働力不足を補うために外国人を採用する企業が増加している.米国では移民労働者の労働衛生に関する研究が進んでいるが,日本においてはほとんど報告がない.本調査は,米国における移民労働者の労働衛生の現状と課題,および取り組みを明らかにすることを目的とする.方法:米国誌に掲載された移民労働者の労働衛生に関する先行研究論文をレビューし,米国での移民労働者に対する労働衛生の現状と課題,および取り組み事例の調査を行った.結果:米国では移民労働者の労働衛生は主に健康格差という側面で研究されていた.先行研究レビューにより,健康格差に影響を及ぼすもしくは可能性のある因子は7つに分類された.カッコ内は各因子に対するキーワードを示す.1.職業選択(有害業務,業務上負傷,休業,ブルーカラー,低出生体重児)2.教育(学歴,ヘルスリテラシー,衛生教育),3.文化(配慮,コミュニティー人材),4.環境(劣悪環境,地域差,環境変化)5.アクセス(言語,統計,労災補償,医療保険,受診自粛),6.感染症(結核,エイズ,フォローアップ),7.差別(人種,暴行,ハラスメント).また,共通した課題として移民労働者のデータ不足が指摘された.取り組みの事例調査では企業や地域団体が複数の因子に対して組み合わせて対応することが行われていることがわかった.考察:米国では移民労働者の労働衛生研究が多く行われている.しかし,調査対象である移民労働者のデータが不足していることが課題となっている.先行研究レビューの結果,多くの論文が健康格差を取り上げていた.健康格差に影響を及ぼすもしくは可能性のある因子は7つに分類する事ができ,各因子のキーワードに関連した取り組みが求められていると推察された.取り組みの事例調査では企業や地域団体が複数の因子に対して組み合わせて対応することが行われており,社内外の労働衛生従事者は,7つの因子すべてに着目した柔軟な対応が求められている.日本でも健康格差の原因となりうる因子に関するデータの蓄積および研究の推進と共に,企業や地域の取り組みが喫緊の課題である.
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