産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
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ISSN-L : 1341-0725
61 巻, 2 号
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Issue Information
原著
  • 小林 由佳, 渡辺 和広, 大塚 泰正, 江口 尚, 川上 憲人
    原稿種別: 原著
    2019 年 61 巻 2 号 p. 43-58
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/03/25
    [早期公開] 公開日: 2018/12/15
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    目的:従業員参加型職場環境改善(以下,参加型職場環境改善)はメンタルヘルス不調の一次予防として有効性が示された手法であり,ストレスチェック制度の施行に伴い関心が高まっている.しかし,従業員の関与,上司の姿勢,職場の風土などにより活動の効果が一貫しないことが指摘されており,運用上の課題解決が求められる.本研究では,職場環境改善の実施手法の検討に際して職場の準備状態を見立てる観点,および組織を発達させるという組織開発の観点が有効と考え,参加型職場環境改善が有効に機能するまでに発達した職場の定義およびその獲得に必要な要因の検討と,機能する状態に向けた準備状態を段階別に把握するためのチェックリストを開発することを目的とした.対象と方法:専門家間の議論,および実務者からの意見にもとづき,参加型職場環境改善の機能する職場の状態(理想的な状態)の定義を行った.そしてその状態の獲得に必要な要因に関するアイテムプールを作成し,日本人労働者300名(男女比1:1)を対象にインターネット調査を行い,探索的因子分析にて因子構造を確認した.さらに,職場の状態のチェックリストを作成するため,理想的な状態を外生変数,その獲得に必要な要因に関する項目を内生変数としたロバスト最尤法推定によるカテゴリカルパス解析を実施し,項目ごとに閾値(threshold, θ),およびパス係数(γ)を推定した.項目ごとの閾値にもとづいて項目のレベル(その項目を達成することの難易度)を設定し,そのレベルごとに最もパス係数が高く,かつパス係数が0.60以上の項目をチェックリストに採用した.最後に各レベルと理想的な状態,および関連項目(職場の心理社会的要因,ワーク・エンゲイジメント,心理的ストレス反応)との関連を分散分析にて確認した.結果:収集された77項目のアイテムプールにおける探索的因子分析の結果,71項目3因子構造が妥当であった(第1因子「職場の受容度」,第2因子「上司のリーダーシップ」,第3因子「職場での議論の熟達」).チェックリスト作成のためのカテゴリカルパス解析の結果,第1因子から3項目,第2因子から2項目が抽出された.第3因子では理想的な状態との関連が十分でなかったため該当項目はなしと判断した.最終的に,肯定的回答率をもとに設定された4段階のレベルを5項目から判断するBODYチェックリストが作成され,各レベルと理想的な状態,および関連項目とで分散分析を行った結果,すべての指標において有意な差が認められた.考察と結論:参加型職場環境改善が有効に機能する状態の獲得に必要な要因は,職場の受容度,上司のリーダーシップ,職場での議論の熟達に整理され,これらを日常的に高めることでより有意義な改善活動につながることが示唆された.また,BODYチェックリストを用いて職場の準備状態を測定することにより,職場環境改善活動を企画する際に各職場にあった目標を設定することが可能になった.今後は,BODYチェックリストの職場単位の分布の確認および参加型職場環境改善の実施効果との関連を確認していく必要がある.

  • 須賀 万智, 山内 貴史, 和田 耕治, 柳澤 裕之
    原稿種別: 原著
    2019 年 61 巻 2 号 p. 59-68
    発行日: 2019/03/20
    公開日: 2019/03/25
    [早期公開] 公開日: 2018/12/15
    ジャーナル フリー HTML

    目的:治療と仕事の両立支援について一般企業における現状と課題を明らかにする.方法:全国の一般企業の労働者2,000名と経営者1,000名を対象としたアンケート調査を2018年6月にインターネット上で実施した.調査項目は厚生労働省の両立支援の取り組みの認知と,労働者調査では,就業制限を要する状況に対する意識,病気を職場に申し出ることに対する意識,職場の相談窓口の認知,経営者調査では,就業制限を要する従業員に対する意識,両立支援に係る職場環境の整備状況である.結果:厚生労働省の両立支援の取り組みを知っている者は,労働者調査で6%,経営者調査で15%にとどまった.労働者調査から,就業制限を要する状況について,休職した方が良い81%,肩代わりさせられるのは負担だ51%,特別扱いするのは不公平だ32%であった一方,お互い様だからフォローしたい78%であった.病気を職場に申し出ることについて,メリットの方が多い18%に対し,デメリットの方が多い33%で,大規模企業ほどメリットの方が多いと答えた割合が有意に高かった.経営者調査から,就業制限を要する従業員について,休職した方が良い76%,十分に働けない従業員を抱えるのは負担だ65%,特別扱いするのは問題だ34%であった一方,勤務継続をサポートしたい90%であった.就業配慮に関する相談窓口を設置していたのは31%,欠勤者発生時のバックアップ体制を明文化していたのは28%,就業制限を要する従業員が利用できる勤務制度は,導入割合が高い順に,半日単位の有給休暇61%,短時間勤務52%,フレックスタイム制33%,裁量労働制27%,時間単位の有給休暇26%,在宅勤務・テレワーク15%であった.いずれも大規模企業ほど割合が有意に高く,企業業績とも関係した.結論:労働者,経営者ともに厚生労働省の両立支援の取り組みが十分認知されておらず,治療しながら働き続けるという考えが浸透していなかった.両立支援を推進するために,ガイドラインの周知徹底を図り,治療と就労の両立を当たり前とする風土づくりと従業員が健康上の問題を安心して相談・申し出できる仕組づくりを各事業場で進めることが望まれる.

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