産業衛生学雑誌
Online ISSN : 1349-533X
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64 巻, 5 号
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Issue Information
原著
  • 高橋 由香, 津野 陽子, 大森 純子
    原稿種別: 原著
    2022 年 64 巻 5 号 p. 225-237
    発行日: 2022/09/20
    公開日: 2022/09/25
    [早期公開] 公開日: 2021/12/05
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    目的:健康リスクを改善し生産性維持・向上に寄与することを促進するのは,単に介入プログラムの内容によるのではなく,「職場における健康文化(Workplace culture of health)」の醸成が重要であるというエビデンスが蓄積され始めている.先行研究において,従業員の主観的評価による組織の健康へのサポートに関する認識が高いほど,健康リスクやプレゼンティーイズム損失が小さいといったエビデンスが蓄積され始めており,健康経営においても従業員視点による評価が重要と考えられる.本研究では,従業員視点による職場における健康文化の指標を作成し,健康経営における従業員による主観的評価指標としての有用性を検討することを目的とした.方法:従業員の健康や生産性に関する職場における健康文化の文献レビューにより作成した指標20項目を用いてアンケート調査を実施した.対象はA県内の健康経営優良法人2019に認定された50組織の従業員を対象とした.協力の得られた25組織の従業員886名に調査票を配布し,分析対象者は435名となった.結果:大規模法人部門(ホワイト500)の43件,中小規模法人部門の263件,自社の認定部門が分からない群の123件の3群で分析を行った.大規模法人部門と中小規模法人部門の2群比較では,「健康保持・増進に関する全社方針の内容」,「健康問題が起きた時の対処手順」,「復職に向けた制度や支援」,「心をサポートする体制や支援」,「安全と健康に関する協議の場」は大規模法人部門で有意に良い結果であり,「上司による体調に関する声がけ」,「健康づくりに役立つ情報の提供」は中小規模法人部門で有意に良い結果であり,組織規模による特徴がみられた.一方,自社の健康経営優良法人の認定部門が分かる群と分からない群との比較では,全ての項目で認定部門が分からない群が有意に悪い結果であった.また,本指標は20項目全てで,職場における健康文化が良い結果である者の方が健康リスク数やプレゼンティーイズム損失が小さいことが確認された.考察と結論:従業員視点による職場における健康文化の程度を捉えられること,職場における健康文化は従業員の健康リスクや生産性に関連することが検証され,健康経営における従業員視点での評価指標として有用であることが示唆された.

事例
調査報告
  • 茂木 伸之, 松元 俊, 久保 智英, 井澤 修平, 池田 大樹, 高橋 正也, 甲田 茂樹
    原稿種別: 調査報告
    2022 年 64 巻 5 号 p. 244-252
    発行日: 2022/09/20
    公開日: 2022/09/25
    [早期公開] 公開日: 2021/12/05
    ジャーナル フリー HTML

    目的:「道路貨物運送業」の精神障害の労災請求件数,支給決定件数は過去10年で上位3位以内に入っており,過労死等防止対策においてメンタルヘルス対策が重要と考えられる.そこで本研究は,「道路貨物運送業」の労災認定された精神障害等の事案の特徴を明らかにすることを目的とする.対象と方法:本研究では,平成22(2010)~29(2017)年度の8年間に支給決定された3,517件の精神障害等事案(業務上)のうち,237件を分析対象とした.対象者は,運転業務従事者と非運転業務従事者の2群に分けて検証を行った.分析内容は,運転業務従事者と非運転業務従事者の内訳,性別の件数,精神障害発症後の生存あるいは自殺件数,発症時と死亡時の平均年齢と年齢階層別の件数,疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)による決定時疾患名の件数,及び労災認定事案の出来事による長時間労働単独による認定,長時間労働と長時間労働以外の出来事による認定,そして長時間労働以外の出来事による認定の件数の分析をした.結果:性別は男性214件(90.3%),女性23件(9.7%)であり,男性がほとんどであった.全体の生存・自殺は,生存が202件(85.2%),自殺は35件(14.8%)であった.発症時の平均年齢(SD)は,全体が41.1(±9.2)歳,男性は41.7(±9.0)歳,女性は35.7(±9.5)歳,死亡時は全体(男性)が40.3(±9.9)歳であった.最も多い3つの疾患について示すと,全体では,F32うつ病エピソードが113件(47.7%)で最も多く,F43.2適応障害が58件(24.5%),F43.1心的外傷後ストレス障害が27件(11.4%)であった.職種別では,F32うつ病エピソードが運転業務従事者65件(43.6%),非運転業務従事者が48件(54.5%)で最も多かった.労災認定事案の出来事を3つに分類した結果,運転業務従事者は長時間労働単独が18.8%,長時間労働と出来事が33.6%,長時間以外の他の出来事は47.7%であった.非運転業務従事者は長時間労働単独が23.9%,長時間労働と出来事が50.0%,長時間以外の他の出来事は26.1%であった.長時間労働の要因は,運転業務従事者が「入社当初から長時間労働」が30.8%であり,非運転業務従事者は,「配置転換・転勤」は23.1%,「業務拡大・増加」が18.5%であった.考察と結論:運転業務従事者の長時間労働の削減には時間外労働を前提とした勤務体系を改善する必要が考えられる.運転業務従事者の長時間労働は運転労働以外に手待ち,荷役,付帯作業が要因となっており,発・着荷主の現場での作業時間の実態及び内訳を明らかにする必要があると考えられる.非運転業務従事者の長時間労働要因は,仕事の中身が変わったことによる不慣れや職務の増加,通常業務に加えて新規事業担当や荷扱い時間の変更などによるものであった.「道路貨物運送業」において,精神障害等の過労死等防止対策は,運転業務従事者と非運転業務従事者それぞれの検証及び教育等の対策が必要と考えられる.

資料
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